では、SAO:Ⅱの世界に、ようこそ。
1話 お偉いさんの日雇いバイト
唯斗「はぁ......なんだよここ。めっちゃ都会じゃん......」
和人「そら都会だろ。銀座だぞ?」
何でかっていうのは、俺も知らない。
俺の横で歩いている黒い服のやつ以外は。
俺はこいつに付いて来いって言われてきてるから、まったく事情を知らないんだ。
唯斗「......で?そろそろ教えてくれてもいいんじゃないの?俺を拉致った目的」
和人「拉致ったって......人聞きが悪いなぁ。ただ高いスイーツが話聞くだけでタダで食えるからって言っただけじゃないか」
唯斗「やめろ。語弊しかない。なんかの詐欺じゃねえかよ。今時の動画サイトでもなかなか聞かねえぞそんな文句」
軽口を叩きながら、和人が足の向きを変えたのはいかにも『高い店』ということを前面にアピールしたかのような店だった。
あまりにも和人が慣れた感じで入っていくので、置いてかれそうになりながらも二人そろっての入店に成功した。
「いらっしゃいませ。お二人様でしょうか?」
と頭を下げるウェイターさんに、「待ち合わせです」と答えた和人。
その瞬間に、左奥の方から「おーいキリト君!こっちこっち!」と大声で聞こえた。
店内の世間話が一瞬止み、声の方に目線半分、こちら側に目線半分となり、その場にいたたまれたくなって急いで声の主の方へ向かう。
視線が集まるのを感じながら、気にしないようにその席に座る。
「ここが僕が持つから、何でも好きに頼んでよ」
和人「言われなくてもそのつもりだ。ユイトも好きに頼んでいいぞ。減るのは俺らの税金だからな」
唯斗「え、え?えっと、どういう......?」
状況が読み込めない。
目の前に座ってるのは、スーツを着た男性。
いかにもかっちりしてて、お偉いさんって感じの、年上の人。
そんな人相手に、和人がタメ語でしゃべって、しかも支払いが俺らの税金とか言っていた。
実は和人、そのナリ、その歳で国家の偉い人......?
和人「えっと......パルフェ・オ・ショコラ......と、フランソワズのミルフィーユ......に、ヘーゼルナッツ・カフェ。ユイトも、それでいいか?」
唯斗「あぁうん、それで......」
「かしこまりました」
いつの間にか呼ばれていたウェイターさんが下がった後でも、俺はどういう訳なのか全くわからずにいた。
和人「あんたが呼べって言ったんだろ、自己紹介くらいしろよ」
「おっと失礼、これはすまない。いや、でも君とは一回会ってる」
唯斗「会って......?あ、あの時の!」
俺と和人にアスナとりんが、もっと言うと300人のプレイヤーがいまだに帰ってきてないことと、りんの居場所を教えてくれた人。
名前は、確か......
「あの時はバタバタしていたからね、改めて自己紹介しようか。僕は菊岡誠二郎。所属は長いから言わないけど、呼称としては《仮想課》だね。フルダイブゲームの問題解決を基に発足したグループだと思ってくれていい」
唯斗「菊岡、さん。で......仮想課。あ、えっと、お久しぶり、です」
和人「こんなキョドってるユイト初めて見た」
だってお偉いさんじゃん本当に!!とは言えず。
和人「ま、いいや。それで?俺たちを呼び出したのは?どうせバーチャルがらみなんだろうけどさ」
菊岡「おぉ、キリト君は話が早くて助かるなぁ」
そう言って、菊岡さんはアタッシュケースからタブレット端末を取り出して、数回突きながら言った。
菊岡「ここに来てバーチャルスペース関連犯罪の件数が上がっててねぇ......」
和人「具体的には?」
菊岡「仮想世界内での被害による届け出が百件以上、そのうち現実にまで被害が及んでるっていうのが十三件で、うち一件は知ってると思うけど、新宿駅で西洋剣振り回して二人殺したってやつね。うひゃー、刃渡り百二十センチで重さ三.五キロ......こんなの良く振れたね」
唯斗「それって確か、ドラッグ使って錯乱してたってやつだったような。いやでも、十三件あってそれだけなら......」
そう言うと、菊岡さんは「その通り」と言って、俺を指さした。
菊岡「言っちゃなんだけど、この程度でVRMMOゲームが社会不安を醸成しているなんて結論は出やしない。でも、前にキリト君に聞いたけど......」
和人「VRMMOゲームは、現実世界で他人を物理的に傷つけることへのためらいを低くするんだ」
そう言い終わった時、ウェイターさんが滑らかに登場し、テーブルの上に新たに皿が四つと、カップが二つ並べられた。
「以上でお揃いでしょうか」
という問いに俺と和人はほぼ同時に頷くと、伝票を裏向きにしてテーブルの端に置き、また滑らかに去っていった。
伝票が少し浮いて、裏から数字が透けている。
唯斗「(4、いや5桁......!?)」
少々動揺したが、目の前に官僚がいるという事実を思い出すと、話のスケールが追いつかなくて逆に冷静になった。
とりあえずナッツの香りがする液体を一口すすって、話の続きを促す。
和人「一部のゲームじゃPKとか日常茶飯事だしな。先鋭化したゲームじゃ腕を斬られれば血は出るし、腹を切り裂けばはらわたは出てくるし......」
唯斗「和人、めっちゃ見られてるから......」
忘れちゃいけないのは、ここはお高い店であること。
ということはちょっと小綺麗にしたマダムが集まる店ということ。
まぁ、そんな人じゃなくてもスイーツ食ってる時に18Gな話は聞きたくない。
和人は一度軽く咳払いしてから、小さめの声で続けた。
和人「ともかく、あんな事毎日やってりゃいっちょ現実でもやってみようなんてやつが出てくるのも不思議じゃない。何らかの対策は必要だろうけど、法規制は無理だろうな」
菊岡「無理かな?」
和人「無理だね」
和人はそう言ってミルフィーユを食べた。
俺もそれに倣って一口食べる。
フランソワズというのは全くわからないから、おいしい......?っていう感想しか出てこない俺は、たぶん今後一生高い店に行かない方が良いだろう。
和人「......ネット的に鎖国でもしないとな。VRMMO回線にかかる負荷だけ見ればかなり軽い部類にはいるし、国内で取り締まっても無駄だろうけど」
唯斗「まぁ、だろうなぁ。金さえあれば海外に逃げてやり続けるだろうし」
菊岡「そのミルフィーユおいしそうだね、一口くれないか」
和人はこの店に入ってから2か3回目のため息をつくと、ミルフィーユの皿をそっちに押しやった。
嬉々とした顔でそれを受け取ってから、和人の一口の約2倍ほどを口に含んだ高級官僚は、それを飲み込んでから、「しかしねぇ」と切り出した。
菊岡「僕は思うんだよ。どうしてPKなんかするんだろうねって。みんな仲良くした方が楽しいだろう?」
和人「あんたもALOやってるんだからわかるだろ。フルダイブとか関係なく、MMORPGっていうのはリソースの奪い合いなんだよ。さらに言えば、エンディングがないゲームにユーザーを向かわせるモチベーションは、優越感を求める本能的な衝動なんだと、俺は思う」
そう言うと、菊岡さんはケーキを口に含んだまま眉を持ち上げた。
和人が4回目高のため息を漏らすので、俺が代わりに出る。
唯斗「ゲームに限るから分かりづらくなってるんですよ。周りにいませんか?自分よりいい大学出て、その学歴だけで自分よりいい役職取ってる人とか。反対に、自分を謙ってくれる人とか。劣等感と優越感のバランスというか。要は、人より上に立ちたい、っていう考えだけなんですよ」
菊岡「キリト君とは違ってずっと敬語なのは気持ちがいいねぇ。ま、それは置いといて。君たちはそのバランス取れてるのかい?」
和人「......まぁ、一応彼女もいることだし」
菊岡「君は?」
唯斗「右に同じ」
菊岡「その点においては、君たちが非常に羨ましい。今度ALOで女の子を紹介してくれないか?あのシルフの領主さんなんて、好みだね」
優越感の話をしていたはずなのに、どうしてこの人の恋愛相談を受けてるんだろう。
和人「で、優越感の話だけど。現実で手に入れるのは難しいよな。いい成績とか、スポーツがうまくなるとか、かっこよく・可愛くなる努力とか。どれも時間を掛けるくせに、実を結ぶかどうかはわからない。だからこそのMMORPGだ。まぁ、時間を掛けるのは一緒だけど、絶対に目に見える結果が返ってくる。レアアイテムを引っ提げて、ハイレベルなプレイヤーが町中を歩けば、そこそこのプレイヤーはみんなそいつのことを見る。注目を集めている、と錯覚できるわけだ」
唯斗「確かに美男美女カップルは見とれるよな、わかる。でも、もっと根本だよな、MMORPGが売れる理由て言うのは」
菊岡「と言うと?」
和人・唯斗「《強さ》、もっと言うと《力》」
意図せず同時に言い、また意図せず同時にコーヒーを啜る。
それを見た菊岡さんが、少し怪訝な顔をして、口を開いた。
菊岡「その《力》ってやつは、本当にゲーム内だけで済む物なのかな?」
和人「......現実に作用するかってことか?」
菊岡「そう。フルダイブが及ぼす環境について、大脳生理学のセンセイにも聞いてみたんだけどね、チンプンカンプンさ。......随分遠回りしたけど、今回の本題はこれさ」
菊岡さんはさっきのタブレットをもう一度取り出し、こちらに渡してきた。
受け取り、和人とともにのぞき込む。
唯斗「誰ですか、この人」
菊岡さんにタブレットを返しながら、それに表示されていた顔写真の人物を聞く。
菊岡「えっと、先月の......11月14日に、東京都中野区のアパートで異臭がするって大家さんが言ってね。インターホンおしても返事がないからロック解錠して部屋に入ってみたら、
和人「アミュスフィア、か」
菊岡「その通り。すぐに家族に連絡が行って、変死ということで司法解剖が行われた。結果は急性心不全だそうだよ」
唯斗「心不全ってことは、心臓停止......どうしてです?」
菊岡「解らない」
分からない、と言っているが、VRMMOをやっていて死亡、というのは珍しくない事案だ。
最近のVRゲームは何かを食べれば満腹感が発生し、それが数時間持続する。
けれど、当然現実の体の中には何も入っていないわけで、1日とか2日置いとけば栄養失調、酷ければ発作や餓死と言った危険もある。
あるのだが。
今更こんなことでニュースになるほど、VRゲームも最新鋭じゃない。
和人「で、なんで呼んだんだ。そんな一般論を聞かせるために来たわけじゃないんだろ」
菊岡「茂村のアミュスフィアのインストールされていたソフトは一つだけだった。《ガンゲイル・オンライン》......知ってるかい?」
唯斗「あぁ......銃ゲーか......ちょっとやってたけど酔って辞めたな」
ガンゲイル・オンライン、通称GGOと呼ばれるそのゲームは、端的に言えばFPSゲームだ。
けど、普通のゲームとは明確に違うのが、《プロ》が存在すること。
まぁ、いろいろあって、GGOでお金が稼げるというものだ。
詳しい説明は省くけど。
和人「その茂村氏......ゼクシードってやつは、死亡当日もGGOにログインしてたのか?」
菊岡「いや、どうやらそうでもなかった。《MMOストリーム》というネット放送局の番組に《ゼクシード》の再現アバターで出演していた」
唯斗「あぁ、Mストの《今秋の勝ち組さん》って番組ですね。ゲストが接続不良で番組中断って話を聞いたような」
菊岡「多分それだ。出演中に心臓発作を起こしたんだな。で、未確認情報なんだけど、ちょうど彼が発作を起こしたタイミングでGGO内で妙なことが有ったって書きこんでるユーザーがいるんだ」
和人「妙?」
菊岡「MMOストリームはゲーム内でも見られるんだろう?GGO世界の首都《SBCグロッケン》という町の酒場で、おかしな行動をしたプレイヤーがいたらしい。なんでも、テレビに映ってるゼクシード氏の映像に向かって、『裁きを受けろ』『死ね』等々叫んで銃を発砲したらしい。で、その後に発作を起こしたと」
裁きを受けろ......死ね......
どうも嫌な響きだ。
そして、こんな話を俺たちにする真意が少し読めた。
唯斗「......」
菊岡「おや、どうしたんだい?」
唯斗「いや、わざわざVR事件の専門科が俺たちに接触してきて、こんな話をする真意が読めて、今すぐ帰りたいなって思っただけですよ」
菊岡「......ほう?その心は?」
唯斗「俺とキリトどっちか、もしくは両方に、その銃を発砲したプレイヤーに打たれて来いってことですよね。自分の身が可愛いから、俺たちを盾に」
菊岡「あ~......半分正解だけど、半分間違ってるな。この発砲事件、もう一個あって、共通してるのはどっちも名が知れてるプレイヤーなんだ。つまり、強くないと撃ってくれないんだよ」
和人「だったら尚更だろ。ユイトはともかく俺はペーペーだぞ?」
俺も強いわけじゃないんだけどなぁ、と訂正したい気持ちをぐっと抑える。
唯斗「プロがいるゲームで、強くならなきゃいけないって相当ですけど......」
俺は、一歩間違えたら恐喝......いや間違えなくても恐喝になるようなことを口走った。
唯斗「仕事としてなら、受けますよ」
菊岡「......いやぁ、ユイト君が振ってくれてよかった。僕もね、ただで行かせようとは思ってなかったさ」
唯斗「......え?」
どうやら、俺はとんでもないことを言ってしまったような気がする。
あぁ、長くなってしまった。
しかもRoselia出てこない。
でも、安心してください、次はデート回ですので()
正直、ライブレポート。読んでてどう感じた?
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良かった
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伝わらない、だめだった