東方劣化伝   作:籠の中の鳥

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第九生 その男 別れを経験する 【後編】

 

 

 後方から爆音が聞こえてくる。

 それと同時に怒号や悲鳴、叫び声などが入り混じったものが聞こえてくる。

 

 何か大きなものが落下したのか、爆音が響きわたり、耳元が痛くなる。

 その余波で、ものすごい突風が巻き起こり、自分はそれに巻き込まれる形で吹き飛ばされてしまう。

 一瞬の浮遊感――

 その時に見えた光景は上空から多くの物体が落ちてくる様子だった。

 

 そしてすぐに地面に叩きつけられる。

 受身などとれるはずもなかった。

 同時に肺の中に溜まっていた空気が一度にすべて出ていき、苦しさから目に涙がたまる。

 息を求めるために数度の咳をし、体全体に力を入れる。

 体が悲鳴を上げているのが分かるが、ここで倒れていても自分という存在が消えてしまうだけだろう。

 

 

 

 誰かの悲鳴が聞こえる――

 誰かの怒声が聞こえる――

 誰かの笑い声が聞こえる――

 誰かの叫び声が聞こえる――

 

 

 

 いくつもの命が潰えていく。

 名前も分からない誰かという存在が消えていく。

 

 入っていた力が徐々に抜けていくのを感じていく。

 これは――夢なのだろうか?

 

 

 

 

 

「無事?」

 

 

 そんな自分を心配して駆け寄ってくる見慣れた女性――

 若干無理をしつつ笑顔を見せると、女性は苦い表情をしつつ手を差し伸べてくれる。

 

 その手を受け取り、何とか立ち上がる。そして手をつないだ状態のまま女性と共に目的の場所へと向かっていた。

 女性の顔を再度見ると、その表情は苛立ちと困惑が混じった……そんな表情をしていた。

 

 

「早すぎる……一体何がどうなっているのよ!」

 

 

 その女性らしからぬ怒声、それが自分を殴られるような錯覚を感じてしまった。

 先ほどの衝撃で頭が完璧に作動していないのかもしれない。

 それとも、それほどまでにこの女性らしからぬ行動に驚いてしまったのだろうか。

 

 それでも自分は足に目一杯の力を込めて、その女性とともに走り続ける。

 未だに鳴りやまない爆音と悲鳴、それから逃れるように自分は走っている。

 

 そしてその悲鳴は間近に聞こえた。

 数メートルも離れてない位置から聞こえた悲鳴だ。

 自分は足を止めずにその聞こえた悲鳴の元へと目を向ける。

 

 

 

 ウガァァァァァァァァァァァァ!!!!!!

 

 

 

 そこにいたのは人ではなかった。

 いや、正確には人はいた――人だったものがいた。

 

 人だった物は頭の一部と片腕を無くしていた。

 その片腕をまるで極上の料理を急いで食するようにしている『人ならぬもの』

 

 それが『妖怪』なのだと理解する。

 そして突然気持ちが悪くなってくる。

 

 それが初めて妖怪を見たからなのか。

 それが初めて死体を見たからなのか。

 

 

 

 足がもつれて転びそうになるが、永琳が巧みに手を使い立て直してくれる。

 それに感謝しつつ一生懸命に足を動かす。ここまで無我夢中に走るのは久しぶりかもしれない。

 

 

 燃える商店街――

 崩れさる家屋――

 殺される人々――

 暴れる妖怪達――

 

 途中で、降ってきた隕石に押しつぶされてしまった人がいた。

 体半分を石に押しつぶされ、血がまだドクドクと流れている。

 助けを求めてか、必死に抜けだそうとしてか、片腕が伸びきっている。

 

 

 そこから逃れたい一心でーー

 そこから一秒でも抜け出すために――

 

 

「この状況で車は駄目そうね、だからといってこのまま走って行ったとしても――」

 

 

 永琳が必死にこの状況から逃れるすべを考えている。

 それに対して自分は怖がるばかりで、永琳についていくことしかできない。

 

 怖いのだ。

 もしかしたらこのまま死んでしまうのではないか。

 

 死が怖い――

 まだ生きたい――

 これからも永遠に――

 

 

「永琳様! ここでしたか!」

 

 

 すると目の前から大型の車が小さな車を押しのけながら進んでいた。

 窓から顔を出している人が止まるように指示すると、自分と永琳の手前で停止した。

 

 

「さあ早く! ここはもう持ちません!」

 

 

 後方のドアが開き、兵士らしき人が手を突き出していた。

 永琳はそれに頷きながら近づいていく。そして自分の手を優しく引いて――

 

 

 

 

 

 後方からの悲鳴が聞こえた。

 その悲鳴は自分の中で反響する。

 

 

 今の声は――子供?

 

 

 悲鳴が聞こえたほうに視線を向ける。

 小さな子供がいた。

 

 

 男の子が一人――

 女の子が一人――

 

 

 そして自分よりも大きな妖怪――

 今にも殺そうとする血まみれの手――

 ポタポタと落ちる赤い赤い血液――

 

 

 何人もの人をその手にかけたそれは、今にも子供たちに振り落とされようとしている。

 永琳に報告しようと考えるが、それでは遅すぎるかもしれない。それでは子供たちが――

 

 じゃあ自分はどうするべきなのか。

 答えは分からない――

 分からないが答え――

 

 

 

 そして、答えは行動で表された――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 永琳の手が離れる。

 温かい感覚がなくなり、代わりに冷たい空気が手に触れる。

 

 もしかしたら自分は死んでしまうかもしれない。

 あんな妖怪に太刀打ちできるはずがない。

 

 

 だからなんだ?

 死ぬのが怖い?

 

 怖くて仕方ない。

 死にたくもない。

 

 でもそんなこと――

 そんなことなんて――

 

 

 

 どうでもよくなった――

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

 突然離れた無一の手に驚きつつも、反対の手で無一を掴もうとする。

 しかし、それよりも早く無一は私の元から離れていってしまう。

 

 その無一が向かっているのは子供の元だと分かり――

 同時にこの状況の一端を担っている妖怪がいるのも分かった。

 

 

「待ちなさい! 行ってはいけないわ!!」

 

 

 私の制止もむなしく、無一は走り続ける。

 それを追いかけようと車から降りようとするが――

 

 

「いけません! 今降りては危険です!!」

 

 

 名も知らぬ兵士にそれを止められ、無一のもとへと行くことができない。

 歯がむき出しになるのも忘れ、無理やりにでも引きはがそうとする。

 だが、体格や力の差が歴然だったのもあり、引き剥がすことなど出来そうになかった。

 

 

「離しなさい! これは命令よ! 私を誰だと思っているの!!」

 

「貴方様だからです! その命令には絶対聞くことはできません!」

 

 

 その兵士がある命令をだすと、三人の兵士が無一の元へと走って行くのが見える。

 しかしそれでも私は抵抗をやめない、やめる気もない。

 

 

「離しなさい! 邪魔よ!」

 

 

 微々たる反抗もむなしく、閉まってしまうドア――

 そのドアを開こうとするが、ロックされてしまい開くことはできない。

 

 

「無一!!」

 

 

 無一の姿はどんどん小さくなり、車が動き出すにつれ、さらに無一の姿は見えなくなっていく。

 悲鳴のような声は届くことなく、車内だけで響くだけだった。

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

 響く叫び声――

 それは自分で出しているもの。

 その状態のまま走り続けている。

 

 ギョロリと、妖怪が自分に視線を向けられる。

 恐怖を感じ、一瞬足に制止のための力が加わり、怖気付いてしまいそうになる。

 その感情を無理やり押しのけ、叫んだまま走り続ける。

 

 

 爆音がいまだに聞こえ続ける。

 どうやらまた近くに石が落ちたのだろう。

 爆風と共に煙が自分と妖怪の間に巻き起こる。

 

 すぐに子供たちがいたと思われるところに足を向ける。

 煙の動きが少しおかしくなるのも分かる。

 それが妖怪の攻撃だとすぐ理解し、その煙の近くからすぐに離れる。

 

 真横の地面に叩きつけられ、その風圧が自分の頬に伝わる。

 それを無視して直進すると、その横には妖怪がいるのも分かる。

 

 

 『全力疾走』

 

 

 無我夢中で走り続け、やっと子供たちの元へと到着する。

 そしてこれからどう動くべきかをすぐに考える。

 丁度よく砂煙が舞っているおかげで、妖怪は自分たちの位置を把握できないはずだった。

 自分はすぐに子供たちの手を掴み、回り道をして元来た道を戻ろうとする。

 

 

 

 が、すぐ目の前に何かと衝突する。

 バランスを崩し、尻もちをついてしまう。

 すぐにそれが何なのか理解し、恐怖におびえながら顔を上げる。

 

 鬼の形相をしている妖怪が予想通りそこにいた。

 その妖怪はすでに大きな手を振り降ろそうとしている。

 

 自分は痛みを覚悟し、体に力を込める――

 

 

 

 

 

 ダダンッ!

 

 と、何かの音が聞こえる。

 来るはずの衝撃がなく、妖怪を見る。

 

 その妖怪はいつの間にか自分の目の前で倒れていた。

 胸元には穴があき、そこから大量の血液が吹き出ていた。

 

 

「無事ですか!?」

 

 

 一人の兵士が自分に駆け寄ってくる。

 心配そうな兵士のその目を見て、自分は脱力してしまう。

 

 

「は、はひ」

 

 

 抜け切った状態で声を出したせいで、声に力が入らずふぬけた声になってしまう。

 兵士は安心しながら、自分を立たせてくれる。

 

 

 

 本当に怖かった。

 あのままだったら自分は死んでいただろう。

 自分の無力さを肌に感じる。

 そもそも無謀だった。

 自分が飛び出して意味など――

 

 

「ありがとう」

 

 

 怯えた声が聞こえた。

 それが男の子の声だと理解する。

 

 

「ありがとう」

 

 

 先ほどよりも小さく、か細い声が聞こえた。

 それが女の子の声だと理解する。

 

 二人の子供がいる方向に向きかえる。

 そこにはこの状況におびえながらも感謝を述べた二人の子供が並んでいた。

 

 

 嬉しいと思った。

 単純にそう思った。

 この子たちを助けられて良かったと思った。

 ただただその気持ちで満たされていくのを感じる。

 

 

 

「急いでください! ここはもう危険です!!」

 

 

 兵士の声を聞いて我に返る。

 それと同時にまた近くに隕石が落ちる音が聞こえる。

 心なしか少しずつ感覚と落下音が大きくなってきているように思える。

 

 

「パパとママはどこにいるか分かる?」

 

「えっと……これに乗ってると思います」

 

 

 兵士の問いかけに男の子が紙切れを取り出す。

 それがロケットのチケットだとなんとなく理解し、自分もそれと同じものを取り出す。

 

 

「これか……よし! それじゃおじちゃん達がおんぶしてあげよう」

 

 

 二人の兵士がそれぞれ一人ずつ背負う。

 残った一人に軽く言葉を交わした後、すぐに二人の兵士は走りだしていく。

 

 

「我々も行きましょう! ここから少し遠いですが、走ればまだ間に合うはずです!」

 

 

 もう一人の兵士がそう言って走り出していき、自分はそれに遅れないように必死につい行く――

 

 ――はずだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃないんだよなぁ!」

 

 

 その兵士がいきなり自分に向きなおり――

 思い切り顔面を殴られる。

 訳も分からず殴られた自分は為すすべなく後ろに転ぶ。

 頭の中がグラグラと揺れたのもあるが、自分が今どんな状態なのか理解することが出来なかった。

 

 

「ハハハハハハハ!! ここまで運が回ると笑いが止まらんねぇ!!」

 

 

 兵士が狂ったように笑いだす。

 殴られた場所が徐々に痛みを増してきたが、兵士になぜ殴られたのか、そんな疑問が脳を占める。

 

 

「あーあ、なんで殴られたとか考えてんだろ?」

 

 

 兵士がケタケタと笑いながら自分の目の前までやってきた。

 その兵士から逃げるために必死に手に力を入れるが、兵士の男が胸元を足で踏みつける。

 

 

「ッ!!」

 

「おいおいおい! 人様が折角訳を話そうとしているのにその態度はないんじゃないかなぁ!?」

 

 

 目が少しかすんできて、兵士の顔をよく見ることが出来ない。

 考えようにもどうすればいいのか分からない、何をすればいいか分からない。

 

 

「永琳様はお前に対して一目置いてるって聞いて、上司がお前を捕まえろってさ! 簡単な話だ! 誘拐だ誘拐! いやーここまで楽だとは考えてなかったがなぁ!!」

 

 

 また笑い声が聞こえてくるが、少しずつその声が遠くなってきたように思える。

 それが、少しずつ意識が飛びかけているのだと分かり、必死で意識を保とうとする。

 

 

 このままでいいのだろうか?

 このままだと永琳に何かあるのではないのか?

 

 

 なんとか――

 なんとかしないと!

 

 

「お? 抵抗する感じ? いいよ好きにして、こっちは腕一本くらいなくなっても構わないしね!」

 

 

 兵士が何かを取り出したのがなんとなく見える。

 それがナイフだと分かったが、今の自分に避けるすべはない。

 

 

 

 

 ――ごめん永琳

 

 

 

 

 

「グホォッ!!」

 

 

 ふいに胸にかかっていた重力が軽くなる。

 思い切り咳を何度もして、肺に空気を送りだす。

 

 でも、なんで足をどかしたのか――

 

 

「キ、貴様まだ生きてっ…!」

 

 

 かすむ目をこする。

 そして視線を回すと、そこには先ほど死んだはずの妖怪が兵士を追い詰めていた。

 

 

「このっ! 死にぞこないがぁ!!」

 

 

 兵士がとっさに何かを取り出そうとするがそれを上回る速度で妖怪の腕が振り落とされる。

 グチャと人間では到底出せない音と兵士の悲鳴が一瞬響き渡る。

 妖怪は咆哮を上げるが、それが勝ち誇ったように聞こえるのは何故だろう。

 その妖怪はその先ほどまで生きていた兵士の死骸を美味しそうにほおばり始めた。

 兵士の血液が自分のいるところまで来た時には――

 

 

 

 ――その場から逃げだしていた

 怖いのだ……

 怖かくて仕方無かった……

 自分もああなってしまうのではないか……?

 

 嫌だ――

 嫌だ嫌だ!

 嫌だ嫌だ嫌だ!!

 

 もっと生きたい――

 もっともっと生きたい!!

 

 永琳と一緒に生きたい――

 永琳の隣で笑っていたい!!

 

 

 

 背中に衝撃を感じ前方に投げ飛ばされる。

 突然のことに為すすべなく吹き飛ばされる。

 受け身も取れるはずもなくゴロゴロと地面を転がる。

 

 全身に痛みを感じる。

 意識がもうろうとする。

 一体今日だけで何度目なのだろうか。

 

 視線だけ動かし、衝撃を与えた元凶を目視する。

 そこには涎と血でまみれた口を持つ妖怪だった。

 それは先ほどの兵士を殺した奴と同じような外見をしていた。

 

 

 

 ウゴァァァァァァァァァァァァ!!!!!!

 

 

 

 妖怪の咆哮が聞こえる。

 今の自分にはここから逃げる力もない。

 

 

 『絶望』

 

 

 嫌だ――

 死にたくない!

 

 頬に何かが流れる。

 それは自分の涙である。

 後から後から止めどなく流れていく。

 

 

「うぅ……あぁぁぁ……」

 

 

 助けて――

 誰でもいいから助けて!

 

 

 声を出そうにも喉から声を出すことが出来ない。

 必死に体を動かそうとしてもピクリとも動かない。

 

 

 嫌だ!

 死にたくない!!

 

 

 心の中でそう必死に叫ぶ。

 だが誰も自分に気づくものはいない。

 

 

 また爆音が聞こえる。

 近くにまた隕石が落下したのだろうか?

 無理やり顔を動かし上空を見る。

 そこにはもう目と鼻の先の位置に巨大な隕石が迫っていた。

 

 

 妖怪に殺されるか。

 隕石に押しつぶされるか。

 

 

 自分はその二つのどちらかの運命をたどるのだろう。

 それは自分ではどうしようもないことで

 自分にどうこうして解決することではない。

 

 

「い――やぁだ!」

 

 

 目がどんどん霞んでいく。

 それにつれて恐怖が生まれていく。

 

 

 

 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――

 

 死にたくない――

 死にたくない――

 死にたくない――

 

 

 

 無理やり体を動かす。

 なぜか痛みが少なくなっているように思える。

 

 

 ここから逃げないと――

 急いでロケットに行かないと――

 

 よろよろと立ち上がり。

 そして気づく、気づいてしまう。

 

 もう一つの音に――

 

 

 

 

 

 ドオォン!

 

 そんな音が断続的に聞こえてきた。

 それが何の音なのか分からなかった。

 

 その答えはすぐに出た。

 離れた位置から何かが飛び出ていくのが見える。

 

 

 それが何なのか

 

 

 嫌だ――

 考えたくない――

 答えなんか知りたくない――

 

 

 頭の端でそう呟く自分がいた。

 しかし、それよりも早く答えが出てきてしまう。

 

 

 

 

 

「ロ……ケッ――ト?」

 

 隕石には当たらない正確な位置に――

 穢れてしまった地球から逃れるために――

 

 今この瞬間――

 ロケットが出発した。

 

 

「え……いりん?」

 

 

 自分を置いて行ったの?

 足手まといだったからかな?

 邪魔だったからかな?

 

 一人にしないで――

 置いていかないで――

 もっといい子になるから――

 もっともっと役に立てるようにがんばるから――

 

 

「まっ――て」

 

 

 必死に手を伸ばす。

 

 どんどん小さくなるロケット

 

 それがもう届くことがないと――理解した。

 

 

「あ、ああああ…・・アアアアアアアア!!!!」

 

 

 ゆっくりとひざから崩れ落ちる。

 何かが自分の中でゆっくりと崩れていく。

 

 

 

 

 ウゴォォォォォォォォォォ!!!!!

 

 

 

 

 後ろから妖怪がやってくる。

 そう分かっていても動くことが出来ない。

 

 

「うあぁ……あああ……」

 

 

 息が苦しくなっていく。

 心臓がドクドクと脈をうっている。

 その感覚がまるで肌に感じるくらいに大きくなっていく。

 

 

 死にたくない……

 生きていたい……

 

 

 逃げないと――

 ここからにげないと――

 

 足に力が入る。

 崩れていた膝に新たな血液が送られる。

 

 目の前に妖怪が見える。

 だけどそんなことは関係ない。

 

 

 逃げないと――

 生きるために逃げないと――

 死なないために逃げないと――

 

 

 

 ウガァァァァァ!!

 

 

 

 大きな手がふりおろされる。

 避けないと――

 頭で分かっていても体が思った通りに動かない。

 

 

 

 ウガッ!?

 

 

 

 突然妖怪が苦しみだしたように見える。

 そしてそのままその場に倒れ、ピクリとも動かなくなってしまう。

 

 

 逃げないと――

 

 

 妖怪のことを一瞬で忘れてしまった自分は足を進めていた。

 それがどこに向かっているか、それは分からないが足を進める。

 

 

 

 

 

「助けてくれぇ!!」

 

 

 ふいに声が聞こえた。

 その方向に歩を進める。

 そこには家屋に押しつぶされて動けなくなっている人だった。

 目が霞んで顔は分からない。

 

 

「ああ! 助かったよ……手を貸してくれ」

 

 

 男のような人が手を差し出したのが分かる。

 反射的に自分も手を差し出し、その手を受け取る。

 

 

「ああ……助かっ――」

 

 

 そしてその手はブランと力なく垂れる。

 絶命したのだ、理由なんて分からない。

 

 

「あ……ああ?」

 

 

 もう言葉を発する力もない。

 今誰かと話していたような気もする。

 

 誰と話していたっけ?

 あれ?

 あれれ?

 

 

「――?」

 

 

 周りの草木が燃えている。

 そこに自分が近づくと、なぜか鎮火している。

 それだけでなく、先ほどまで生き生きとしていた草木が腐っているようにもみえる。

 

 

「あ――え―――」

 

 

 あれ――今何をしていただろう?

 もう何も分からない。

 先ほどまで聞こえていた爆音も聞こえなくなってきた。

 

 

「――――――」

 

 

 もう声も出せない。

 音が聞こえない。

 

 空を見上げる。

 大きな隕石はもうすぐ落ちてきそうだ。

 町と同じくらいの大きさに見える。

 

 

 あれ?

 

 

 隕石ってなんだっけ?

 

 

 逃げていた気がするけどなんでだろう?

 

 

 

 

 

 一瞬目の前が夕焼けで包まれた。

 もう一度空を見上げる。

 

 

 

 

 ぶつか――

 

 

 





 めをさます
 たちあがる
 まわりにはなにもない

 からだをみる
 なんともない
 いたみもない


 あるく
 ここからあるく

 どこに
 どこでもいい

 なんで
 なんでだろう


 うえをみる
 くもがない
 つきがある


 なみだがでた
 なんでだろう

 なにかわすれている
 なにをわすれたのだろう


 でも
 これだけはおぼえている

 いみもない
 いみもわからない
 でもおぼえている

 くちがうごかない
 うごかしかたをわすれた

 がんばる
 がんばってうごかす

 そしていう









「××」


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