東方劣化伝   作:籠の中の鳥

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第十生 その女 嵌められる

 

 

 シンと静まり返っている。

 それが今私の心情を物語っているようだ。

 

 窓から見える青かった球体は、幾度となく爆発を続けている。

 そこにいたはずの一人の、たった一人のことをただただ思い続ける。

 

 

 

 

 こんなはずではない!

 何かの間違いのはずだ!!

 

 

 そう叫びたかった。

 私の声を誰かに聞いてほしかった。

 だが、その『誰か』は今もあの青き地球に居続けている。

 

 

 助けたかった。

 今すぐにも助けにいきたかった。

 

 

 その思いは叶うことはない。

 ロケットはルートに従い、今なお『月』という終着点に向けて進路を向けている。

 

 なぜ……こうなってしまったのだろうか。

 計算を間違えることなどない、天才なのだ……天才が間違えるはずがないのだ。

 幾度となく調査を重ね、幾度とない失敗を重ね、幾度とない情報を得た。

 

 

 それがこのざまだ。

 何が天才だ――

 何が秀才だ――

 

 

 これでは……ただの間抜けな人間ではないか。

 あの子に合わせる顔がない……いや、会うことすらかなわない。

 

 

 最大の失敗

 最大の汚点

 

 

 ああ、なんて無様なのだろう。

 ああ、なんて惨めなのだろう。

 

 

 嘆くことしかできない。

 後悔することしかできない。

 

 

 自然と笑みが生まれた。

 この状況で笑みが浮かべる。

 その笑みは自分でも分かるほど疲れきっている。

 

 

 

 パチパチパチ

 

 

 

 後方から何かが弾ける音が聞こえた。

 それが拍手なのだと数瞬で理解した。

 

 

「いやはや……迅速な行動お見事でした」

 

 

 その声は、数時間前に聞いた覚えがあるものだった。

 今でも鮮明に覚えているし、彼の行動も覚えている。

 

 覚えているがゆえに……理解できなかった。

 今この場に彼がいる理由、そしてその言動に……

 

 

「流石は天才ですね……あの地獄から生還できるなんて」

 

 

 その男の声はとても明るく、同時に背筋がゾクリと反応する何かを孕んでいた。

 

 

「なぜ――」

 

「ここにいるかですか?」

 

 

 まるで全てを見透かしているような感覚に陥る。

 なぜ私がここまで追い詰められているのだろう。

 

 

 将棋の原動力である『飛車』を取られたかのように

 チェスで最強である『女王』を取られたかのように

 

 

 徐々に余裕が消えていく。

 残されていた余裕が消えていく。

 

 

 

『永琳様に代わり私がここの指揮を執る!みんな……死ぬ気で働けよ!!』

 

 

 

 目の前にいる男

 それは研究所で私をいち早く避難するように仰いだ人物

 

 

「ご機嫌……いかがですかな?」

 

「最高に最悪ね」

 

 

 

 引いてはいけない。

 ここで弱みを見せてはいけない。

 

 

 咄嗟に脳がフルに回転を始める。

 嘆いていた私を圧縮し、そのフォルダを奥そこへと隠す。

 

 何かを感じたのだ、この男は危険だ。

 研究所で見せていた勇ましい表情が、全てを奪い去るかのような笑みに染まっていた。

 

 

「研究所では大変だったんですよ?逃げだせたのはこの私だけですしね」

 

「あら?他の人は見捨ててしまったのかしら……とんだ畜生ね」

 

「いえいえ、貴方様にはかないませんよ」

 

 

 お互いの舌の火花が散る。

 何故このタイミングで行うのか、そんなことよりやらなければならないことはあるだろう。

 頭では分かっていても今それを行う余裕はなかった。

 

 この男は危険だ。

 まるで私の全てを奪い去ってしまう、そんな錯覚に陥ってしまうのだ。

 

 

「なぜですか……?」

 

 

 突如として男の表情が変わる。

 先ほどまで自信で満ちあふれ、私を覆いつくしてしまうかのような男はもうそこにはいなかった。

 

 

「なぜですか! 貴方の言うとおりに事を行ったのに!! なぜこれほどまでの悲しみをおわなければいけないのですか!!?」

 

「ッ!!」

 

 

 正論だ。

 返す言葉が見つからなかった。

 

 男の問いかけの答えは、逆に私も知りたいことだった。

 その答えを解読したかった、解明したかった。

 

 

「何千との犠牲が生まれ!何千との悲しみが生まれた!これが貴方追い求めたものですか!!?」

 

「……」

 

 

 違う!

 そんなことあるはずがない!

 

 そう叫びたかった。

 叫び、声を張り上げたかった。

 

 

「これが……ククッ……貴方の……」

 

 

 変化が訪れた。

 徐々に男の表情が黒く染まっていくような、そんな気すら覚えてきた。

 

 

「貴方の……負けですよ、八意永琳」

 

 

 口元を緩め、必死に笑みを抑えようとするその姿は、先ほどまで熱弁していた面影を綺麗に消失した。

 

 

「どういう……意味かしら?」

 

「あらら?もしかして頭まで劣化してしまったのでしょうか?しっかりしてくださいよ」

 

 

 心底呆れた表情をする。

 それが私の心を奮い立たせると同時に、話の根元を理解し始めて恐怖を感じる私がいた。

 

 

「あなたがこれからどういった立場になるか……見物ですな」

 

 

 言われなくても分かっていた。

 これからどうなるかなんて考えるまでもない。

 

 

「地位の失墜、人民の信用、自身の罪状、消えることのない後悔」

 

 

 わざとらしく右手の一つ一つを、左手を使い内側に折りだす。

 最後に残った小指を私の顔面にまで持っていく。

 

 

「あらら、かわいそうに一本だけ残りましたね、何かないものですかね?」

 

 

 それは財布を無くしてしまって困り、相談してきたかのように軽い言動だった。

 その言動は私の中のものをフツフツと煮えたぎらせていく。

 

 

「ああ、ありましたね……かわいそうに残った最後の答えが」

 

 

 ニタリと笑みを浮かべ、目を細める。

 それが私を挑発しているように感じられてしまう。

 事実、次の言葉を聞いた時にはそう考えることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「かわいそうにも見捨てられてしまった一人の男――名前はなんて言えばよろしいですか?」

 

 

 胸倉をつかみ、壁へと押しつける。

 ガンと衝撃で音が部屋中に響き渡る。

 

 

「痛いですね……私が何をしたって言うのですか!!」

 

 

 その言葉一つ一つ聞いているうちに、煮えたぎりだした私の心を強く刺激し続ける。

右手を振り上げ、男の顔面へと――

 

 

 

 

 

 ――放たれることはなかった。

 

 

「……賢明ですね、腐っても天才と言ったところでしょうか」

 

 

 荒々しく男を解放する。

 ここで男を殴ったとしても自分自身の身を危険にするだけ、積み上げてきたものをさらに壊しかねなかった。

 

 

「私の予定ではここで一発殴られるはずだったのですがね……残念です」

 

「あら? もしかしてそっちの気があるのかしら?」

 

「御冗談を……思ったほど興奮していないご様子で」

 

 

 男の言ったことを返すならば、答えはノーだ。

 今すぐにでもこの男を殴り殺したい、目の前から消してしまいたい、ただその衝動を隠しているだけだ。

 

 

「さてと……これからどういたしましょうか?」

 

「貴方は何者なのかしら」

 

「そうですね……例え話をいたしましょう」

 

 

 キリッとした表情からまた一変し、また笑顔であふれた。

 ペテン師とはよく言ったものだとこの状況で思うことしかできない。

 

 

「例えば一人の天才と、それに従う部下がいたとします。ある不手際が起こり、その天才は逃げ出してしまいました。すると、勇敢で博学な部下がその不手際を対処しだしました」

 

 

 その話は何か聞きおぼえがあるもので、身近で起こった何かに類似していた。

 まるで、自分が実体験したと思うほどのリアルな感じさえする。

 

 

「その部下の御蔭で救われるものがいました。しかし、完璧ではないその部下は全てを救うことなどできませんでした」

 

 

 とても残念そうな素振りをする。

 一挙一動全てに全身全霊の力を込めているようにも見える。

 

 

「『残念ながら』その部下を支えていた者たちが『全て死んで』しまいました。それでも諦めずに部下は行動を続けました。もうやめて! あなたはよくやったわ!!」

 

 

 部下のことを親身に応援する。

 その行動に反吐が出そうになるが、それよりも感じてしまう畏怖がそこにはあった。

 

 

「伝えなければならない……ここであったことすべてを! 起こしてしまった人物を!!」

 

 

 ゆらりと、男の右手が私を指さす。

 左手では涙を拭う動作をしている。

 

 

「全ての元凶……八意永琳に裁きを」

 

「……」

 

 

 なるほどと、事の全てを理解することが出来た。

 だがそれは同時に、自身の危うさをも理解したことになる。

 これからどうなるかなど目に見えている。

 

 

「そして、私の功労が認められ、晴れて表舞台へと上がりつめる……どうです? 素敵でしょう?」

 

「ええそうね、とても最悪な話だったわ」

 

「それは光栄ですね、あなたからそのような言葉を聞けて」

 

 

 だが、それでも分からないことがあった。

 あの長ったるしい説明を聞いてもぬぐえない疑問がまだ残っていた。

 

 

「一ついいかしら?」

 

「なんでしょうか?」

 

 

 それは今回の騒動の原因で、最も知りたかったことだった。

 

 

「なぜ隕石はあそこまで早く降り注いだのかしら」

 

「ああそれですか、簡単ですよ」

 

 

 懐から一枚の資料を取り出し、それを私に向かって投げる。

 ヒラヒラと舞い、私の足元にそれは舞い落ちた。

 拾い上げ、気づく。

 

 

「あなたは素晴らしい人ですよ、それこそ嘘すら信じてしまう」

 

「……私自身でも調べたはずよ」

 

「そこが甘いんですよ、いつも誰か近くにいませんでしたか?」

 

 

 頭に閃光が走る。それが自身の危うさを知ってしまった。

 部下を信じることと、信じ切ってしまうことは違うのだ。

 

 

 その部下が裏切者ならば?

 もし寝首を狩るものならば?

 

 

「ハッキングは容易でしたよ? まさかあそこまで綺麗にいくとは思いませんでしたが」

 

「……不可解なことは感じていたわ」

 

「信じていたのですね?」

 

「ッ!!」

 

 

 やられた――

 平和ボケしていた――

 

 部下を信用しきることなどありえなかった。

 昔の私ならば自分自身の手だけで事を運んでいたはずだった。

 

 

「あなたは何時ごろか優しくなりましたね……こちらとしては好都合でした」

 

 

 もうどうにもならないことだった。

 私にはどうすることも――

 

 

 

 

 

 コンコン

 

 ノックの音が聞こえた。

 突然のことに私はビクリと反応してしまう。

 それほどまでに私は追い込まれてしまったのだから。

 

 

「おやおや誰でしょうか……? 丁度いい!私の素晴らしい武勇伝でも聞かせてあげましょう!」

 

 

 意気揚々と扉を開く。

 しかし、そこにいたのは男が予想していない人物でした。

 

 

 

 

 

「なんだよ……ガキじゃねえか」

 

 

 そこには年幾ばくも過ぎていないような少年と少女が佇んでいた。

 私にもその二人の子供がいることに驚きを隠せない。

 

 

「両親とはぐれたのかい? おかえりはあっただよ」

 

「ううん、ここであってるはずです」

 

「ああん?」

 

 

 男は心底嫌そうな表情をする。

 もしかしたら子供は苦手なのかもしれない。

 

 

「これだからガキは……何の用でこんなとこに来んだよ!」

 

「八意永琳に会いに来ました」

 

 

 その言葉を聞いた男は吹き出し、腹を抱える。

 一方子供は真剣な表情を崩すことはなかった。

 

 

「ククク……あんまり冗談が酷いと、おじさん怒っちゃうよ?」

 

「あ、永琳さんだ」

 

 

 その言葉を完全に無視する少年に、男は徐々に青筋を立てていく。

 少年と少女は私の目の前までやってくる。

 

 

「あー、ここは関係者以外立ち入り禁止だぞー」

 

 

 もう諦めたのか男は諦め半分で部屋を歩いていた。

 流石にここまでは仕組んでいないようにみえて、内心ホッとする。

 

 

「永琳さん」

 

 

 少年は私の顔をじっと見つめながら呟く。

 少女もただひたすら私を見つめている。

 

 

「ありがとうございました」

 

 

 そう言うと私に向かって二人の子供はお辞儀をした。

 その理由は分からないし、男の方も驚いているようだった。

 

 

「私たちはあなたの連れに助けられたものです」

 

 

 そこで私は記憶の中に埋もれていた一つの事柄を思い出す。

 無一が最後に行った行動はなんだ、なんだったか。

 

 

 

 確か――子供二人を救いだして……

 

 

 

「僕たちは彼のおかげで助かりましたが、どうやら彼は……」

 

 

 ちょっと待て。

 この少年は何を言っているのだ?

 なぜごく少数、それこそ私とこの男くらいしか知らないことをこの少年が『知って』いるのだ

 

 この事態は男も理解しがたいことのようで、動きを止めて少年を食いつくように見る。

 そして、次の言葉を聞いた時……私の口は開いて塞がらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『綿月家』を代表してお礼を述べさせていただきます」

「……ます」

 

 

 理解するのにどれほどかかっただろう。

 それほどにまで困惑に支配されてしまった。

 

 無一が助けた少年少女

 それが『綿月家』のご子息だなんて誰が思っただろうか。

 

 

「は、ハハハ」

 

 

 男も面喰ってしまったのか、顔をひきつらせているのが見える。

 それはそうだろう、私だって顔をひきつらせているのだから。

 

 

「わ、綿月さま! 八意永琳は今回の首謀者です! 私の話を聞いてください!!」

 

 

 それが一変し、役になりきったかのようになる男、それはまるで上司にゴマをする部下のように見えた。

 しかし、綿月の少年は手のひらをその男に突き出す。

 

 

「無駄です、僕は何でも『知って』いますから」

 

 

 その言葉にピクリと反応する。

 『知っている』とはどういうことだ。

 多分男もそう思っているのだろう、動きが若干鈍っている。

 

 

「僕の能力は『知る能力』です、あなたが行ったことなど簡単に理解可能です」

 

 

 能力と聞いて私は再度驚愕した。

 このような小さな少年が……例え『綿月家』の子息だとしても驚きが隠せなかった。

 

 

「残念ながら全てを知るほど使いこなせませんが、あなたが行ったことくらいは知りえることが出来ます」

 

 

 男の手が止まり、だらりと下がった。

 それが、男の終わりなのだなと思った。まさかこのような事態が起こるなんて私ですら分からなかった。

 不幸中の幸いと行ったところだろう、胸にかかっていた重圧が軽くなったと感じがした。

 

 

「あー、なんでこうなるかな……完璧だったはずなのによー」

 

「観念してください、もうすでに警備班は手配済みです」

 

 

 少年はまるで諭すかのように男に言い放つ。

 それに反応した男の眼は……笑っていた。

 

 

「いやだなー、こうなるなんて、心底世界は俺を消し去りたいらしい!」

 

 

 その右手に持っていたものは――拳銃だった。

 コンパクトに収納できるその拳銃を取り出すのに私は気づくことが出来なかった。

 

 反射的に体が動き、男を止めようとする。

 だが、それよりも早く男が引き金を引くのが速かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一つの銃声

 何かが倒れる音

 

 男が持っていた拳銃から微かに煙が出ている。

 それがすでに撃ち放ってしまったのを物語っていた。

 

 

 

 

 

 そう、自分のこめかみに向けて……

 すでに絶命してしまった男の眼は全てに絶望しきった表情をしていた。

 

 その銃声を聞きつけたかのように数名の警備班が突入してきたが、その場の状況を確認し、とりあえずの安堵の声が漏れていた。

 それが、『綿月家』のご子息が無事だったからなのか、『誰も』怪我をしていなかったからかは分からない。

 

 素早く男の遺体の処理を行う警備班たち、そして何名かが少年と少女の身の安全を確認し出して……途中で『綿月家』の少年が私の目の前に歩み寄ってきた。

 

 

「今回はその……本当にありがとうございました。この御礼は後ほど連絡のものを送ります」

 

 

 それだけ言って、警備班と共に部屋を後にした。

 私自身も半ば警備兵に追い出される形でその部屋を後にすることとなる。

 

 先ほど言っていた御礼が、まさか専属の家庭教師になるということをこの時の私は知る由もなかった――

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

「ふう」

 

 

 終わった。

 終わったのだ。

 

 

 椅子に腰かけ、大きな溜息をはく。

 先ほどの騒動のせいで、一段と疲れてしまった。

 

 

「無一、肩揉んでくれないかしら?」

 

『うん!いいよ!』

 

「うるさいわね……耳元で叫ばな――」

 

 

 振り返るとそこには誰もいなかった。

 当然のはずなのだが、一瞬思考が停止してしまった。

 

 

 そうだった。

 ああ、そうだった。

 

 

 私はそこで新たな感情が生まれたのを感じた。

 それが何なのか最初は分からなかったが、徐々に解明していった。

 

 

 寂しい。

 寂しいのだろう。

 

 

 そんなはずがないと思う自分がいる。

 あの子は私にとってなんでもない存在のはずだ。

 何でもない……存在……なのだ。

 

 

 

 

 

 そこでなにかが頬を伝った

 それが何なのか理解できなかった

 いや、そんなはずがないと考えていた

 

 

 

 

 

 

 『涙』

 

 紛れもない。

 泣いているのだ。

 悲しんでいるのだ。

 

 

 理解できない。

 なぜこんな感情が生まれたのか。

 

 

 

 

 

 いや――

 もうやめよう――

 

 認めよう。

 今この部屋には誰もいない。

 どんなことがあったとしても誰も気づくことはないだろう。

 

 

 

 

 

 後悔している。

 助けることが出来なかったことを――

 

 嘆いている。

 なぜ私が一緒にいなかったのかと――

 

 感情が高ぶる。

 何もできなかった自分に対して――

 

 泣いて……いる。

 彼を――無一を失って――――

 

 

 

 大声で泣くことはなかった。

 自然に――

 ひっそりと――

 ただ静かに――

 

 

 涙が止まる。

 悲しくないわけではない。

 後悔がないわけではない。

 怒りが収まったわけではない。

 

 

 

 

 

 私にはやらなければならないことがある。

 それが使命であり、存在意義である。

 

 月で行われるはずの作業は簡単なものではない。

 しかし、私にとってそれはただの通過点だと考える。

 

 

 

 私が行わなければならないこと

 それはまた『地球』へと降り立つこと

 

 そして無一を見つける。

 たとえそれが亡き骸だとしても

 たとえそれが骨の一部だけしかなかったとしても

 たとえそれが土に還り原形を留めていなかったとしても

 

 

 私は誰だ。

 私は天才だ。

 八意永琳だ。

 八意××だ。

 

 

 

 

 

 私は謝らなければならない。

 この命を賭けても構わない。

 

 

 

 

 

 無一が生きていなければ?

 答えは生き返らせるまでだ。

 

 それがそれほどの禁忌なのかは理解している。

 それにそれが『無一』ではないことなど分かっている。

 

 

 これは罪滅ぼしだ。

 唯の自己満足である。

 

 だが、例え自己満足だったとしても伝えなければならないことがある。

 そこに行きつくまでにはどれほどの時間がかかるか予測できない。

 予測する暇があるならば今からでも動かなければならない。

 

 

 

 もう涙は必要ない。

 これから必要なのは汗である。

 

 

 

 もう――休む暇はない。

 それが私の決意

 それが私の存在意義

 それが私の……罪滅ぼし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後数分で月に到着する。

 そこから始まるのだ。

 私という新しい何かが

 

 

 

 伝えなければならない。

 たった一言を無一に言わなければならない。

 

 その言葉を伝えるために――私は動き始めた。

 

 

 







『ごめんなさい』


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