東方劣化伝   作:籠の中の鳥

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宵闇の女と馬鹿な男
第十一生 その男 少女と出会う


 

その日は雨が降り注ぐ最悪な天候だった。

 大量の雨粒が地面にたたきつけられ、次第に量も増えていく。

 途中から雷が鳴り響いてしまう始末である……本当に最悪である。

 

 雨宿りすることも考えたが、周りに丁度よさそうな場所はなかった。

 そう考えている間にも服はグッショリと濡れ、肌に密着して動かしにくくなる。

 

 

 

 溜息をはく。

 本当についていない。

 

 

 

 さっさと見つけて暖を取りたいところだ。

 今日も頭のいかれた妖怪に襲われて疲れてしまった。

 

 グッショリと濡れた髪を整えようとするが、断続的に降り続ける雨のせいでそれもままならない。

 視線だけ忙しなく動かし、さっさと良さそうな場所を見つけなければ……

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

 雨が降りしきる中

 そんな森の深き場所

 

 その男は佇んでいた。

 ただひたすらに空を眺めていた。

 

 

 

 見つけた時は一瞬警戒したが、様子がおかしかった。

 私に対してなにも反応がないのだ、明らかに気付く位置にいるはずなのだが……

 

 

「――?」

 

 

 やっと気付いたのか私に振り向く男

 だが、その表情を確認できた時、私はまた不思議な気持ちになった。

 

 

 

 

 

 泣いているのだ。

 雨にぬれていても分かるほどに

 

 

 

 

 

「何をしているんだ?」

 

 

 私は言葉を告げていた。

 それは単純な好奇心からと、探究心からだった。

 

 

「――?」

 

 

 しかし、男の反応は首をかしげるだけだった。

 言葉を発することなく、ただよく分からないということを伝えてきた。

 

 

「あなたは何者?」

 

 

 質問を変えてみた。

 これならば思考する時間があれど答えることはできるものだった。

 

 

「――?」

 

 

 その考えは全否定される。

 男はまた首をかしげるだけだった。

 

 

「聞いているの? それとも言葉が分からないという落ち?」

 

 

 少しずつ呆れてきてしまった。

 なんだか喋っているのが馬鹿らしく感じられてきたからである。

 まるで石にでも話しかけている馬鹿らしい女のように思えて仕方がなかった。

 

 

「――」

 

 

 男は何も答えずただひたすら私の目を見ているだけだった。

 その目は充血し、とても疲れと絶望から生まれる深い『闇』で包まれていた。

 

 

「……もういいわ」

 

 

 手のひらに黒い靄を生み出し、それが晴れると同時にひと振りの剣を出現させる。

 こんなのを相手にするのが時間の無駄だった……おかげで体が冷え切ってしまった。

 

 

「――!」

 

 

 男が見せた驚きの反応……なのだが、その方向は私が考えたそれではなかった。

 何を思ったのか、男は私が生み出した剣に自ら手を突き出したのだ。

 

 反射的に、そう反射的に手を引っ込めてしまった。

 当然空を男の手は剣に当たることはなかったが、代わりに私の肩に触れる。

 

 

「なっ!?」

 

 

 さらに男の勢いは思ったより強かったらしく私は反動で倒れてしまい、男もバランスを崩して私に覆いかぶさる形となった。

 

 

 はたから見ればその光景は一種異様に見えただろう

 まるでおもちゃを見つけたような子供に押し倒される凶器を持った女性

 殺そうと思ったはずがなぜこうなった

 

 

「――!」

 

 

 最初に見た時とは比べられぬほどに輝きに満ちた表情

 ペタペタと必死になりながら剣を触り、観察していた……私を押し倒した状態でだ。

 

 

「……」

 

 

 ヒクヒクと顔を引きつらせる。

 それが屈辱的で、理解不能な状況だからなのだろう。

 

 

「は、離れて!!」

 

 

 らしくなく女々しい声で叫んでしまう。

 体中の血液が一気に流れるのが無意識に理解する。

 

 

「――?」

 

 

 それが理解できていないのか男は私の目と鼻の先で首を傾げるだけだった。

 一回殴ってしまったほうが早いのではないだろうか、そう考えた時である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――!!!!!!!」

 

 

 声にならない悲鳴――

 そんな声で男は叫んだ。

 何を言っているのか分からない。

 それよりも私は男の行動のほうに目を見開く。

 

 

 

 一気に私との距離を取り、木を背にしてうずくまる。

 呼吸する回数が明らかに増え、息をする音が離れているはずなのに大きく聞こえる。

 両手で顔面を覆い、私には聞き取れない声で叫び続ける。

 

 そのあまりにも不可解な行動に面を食らってしまう。

 先ほどの子供らしさがどこに消えてしまい、また最初に会った時と同じ『闇』に包まれてしまっている。

 

 

「……大丈夫?」

 

 

 恐る恐る、何が怖いのか分からないが男に近づく。

 私がこんな感情に陥るなど初めての経験だった。

 

 

「――!!!」

 

 

 近づいてくる音に気付いたのか、私に向かって叫んできた。

 だが、その声は警戒か出る覇気のあるものではなく、恐怖から出てきた怯えた声だった。

 

 

「……怖いの?」

 

 

 単純に考えられることだ。

 私が本当は危険な存在だと分かったからだろう、そう考えるのが自然だった。

 

 

 

 

 

 ――なのだが、違和感があった。

 

 

 私に対する恐怖?

 それはないだろう

 

 そう言いきれる理由があるわけではない。

 第一この男とは数分前に会ったばかりである。

 

 そのはずだが、なんとなくこの男が思うことを理解できた。

 確かにこの男は恐怖を感じて入る、だがそれは私に対する恐怖ではない。

 

 

「とりあえずついて来なさい……風邪ひくわよ?」

 

 

 なぜこの男を誘ったのか。

 その理由は分からない、けれどそうしなければいけないと感じてしまう。

 

 そう思えてしまうのが不思議でしょうがなかった。

 疑問は絶えないが、誘ってしまったものはしょうがないだろう。

 

 

「――!!」

 

 

 試しに手を差し出すが、その手に気づくとその分だけ離れようとした。

 まあ後方に木があるので後退などできないはずなのだが……

 

 

「ああ!もう……!」

 

 

 しびれを切らした私は、強引に男の手をひき歩きはじめる。

 驚きながら必死に引きはがそうとするが、その力はまるで蚊のようにしか感じられなかった。

 

 

「丁度いいわね、あそこで話しましょう」

 

 

 まるで用意されたあったかのように存在したほら穴を見つける。

 そこに吸い込まれるように私たちはその中へと歩を進める……

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

 パチパチと先ほど焚いたばかりの炎が燃えている。

 徐々に勢いが増していき、それにつれて周囲の温度が高くなっていく。

 

 暖かくなってきているはずが、男はガタガタと体と震わせる。

 それが寒さからではなく、恐怖からくる震えであった。

 

 

「もう少しこっちに来なさい、そこじゃ寒いわよ」

 

 

 それに気付かないふりをしつつ、男を気遣う。

 聞こえてはいるようだが、一向に近づこうとはしない――が、

 

 

「――ックチュ」

 

 

 小さなくしゃみをはく。

 ズルズルと鼻水をすってもいるようだ。

 

 

「―――」

 

 

 警戒しながら焚火の近くに移動する。その様があまりにもおかしくて笑みがこぼれそうになる。

 ムスッと男が私に反応しているのが分かった。

 

 

「なんだ、言葉は分かるようね」

 

「―――」

 

 

 当然と言わんばかりに大きく頷く。

 心なしか表情も明るくなってきているように見える。

 

 火の勢いが弱まらないように木の枝を投げ入れるが、湿っているせいもあって今一火の勢いが強まらない。

 何を思ったか男も近くに落ちていた石ころを火の中に投げ入れる。

 

 

「いや……石を入れても意味ないわよ?」

 

「――!」

 

 

 まるで初めて知ったかのような反応する……もしかしてこの男――

 

 

「あなた馬鹿?」

 

「――」

 

 

 何をいまさらといった感じの表情をする男を見て、私は溜息をはくしかなかった。

 その溜息を見た男は謝罪しているのかペコリと頭を下げていた。

 

 雨の勢いは弱まるどころかさらに強くなってきているようだ、雷の音も遠くになり響いているのが聞こえる。

 外から来る風が焚火の火を消さんとばかりに吹いて来る。

 

 

「暫く出られそうにないか……まあここで寝るしかなさそうね」

 

「――?」

 

 

 不思議そうに私を見つめる男……何が不思議なのかは分からないが、先ほどと違いその目は澄みきっていた。

 それを尻目に、私は大きな欠伸をする。

 

 

「そろそろ寝るわ」

 

「――」

 

 

 最後に残った小さな木の枝を火に投げ入れ、腕を枕代わりに横になる。

 それを真似るように、男も腕をまくら代わりに横になった。

 

 

「そういえば……あなた名前は?」

 

 

 そういえば聞いていなかったことだった。

 別に分からなくてもいいかもしれないが、ここまで来たのもある意味何かの縁だろう。

 

 

「――」

 

 

 男は必死に何かを伝えようと口を動かしているが、声が聞こえることはなかった。

 

 

「喋れないのかしら?」

 

「――」

 

 

 落ち込んだ表情で頷く。

 言葉の意味は分かるが、言葉を発することが出来ない……変な男だ。

 

 

「私はルーミア」

 

 

 ここで初めて自分の名を男に教える。

 その名を必死に復唱しようとしているが、やはり聞こえることはない。

 

 

「ルーミアよ、ほら頑張りなさい」

 

「ぅ……ィぁ」

 

 

 ほんの少しだけ男の声が聞こえることが出来た。

 微笑みながら男をほめると、男は嬉しそうな笑みを私に返してきた。

 

 

「少しずつ覚えてくれればいいわ」

 

「――」

 

 

 大きく頷き、機嫌が良さそうに寝がえりをうち……顔面に大きな石を打ち付ける。

 痛そうに転がりだすと、今度は焚火に近づきすぎて熱そうにその場から離れる……

 

 

 火傷しなかっただけ良かったなと思うべきか。

 この男の反応をただ面白半分に見守るべきか。

 

 

 それ自体は私の自由なのでどうすることもできるだろう。

 そう思うとともに、この状況に疑問を持っていたりもした。

 

 

 

 

 

 私は妖怪――

 畏怖の対象だ。

 

 この男に興味を持つ段階まではまだいい。

 それが何も危害を加えず、一緒に寝るのは流石におかしい。

 

 何がどうなったらこうなるのだろうか?

 この男があまりにも不可思議だったからだろうか?

 

 

 

 

 

 まあいい。

 それが私の答えだ。

 

 どうせ何百年と暇な時間を過ごしたのだから、少しばかり面白い『玩具』を拾ったとでも思えばいいだろう。

 この男をどうこうするのも私の自由だ、生かすも殺すも私の決断一つで決まる。

 

 

「もう寝てくれない?うるさくて寝むれないわよ」

 

 

 大きな溜息をはき、天井に視線を移す。

 先ほどの言葉のおかげか、今聞こえるのは雨と焚火の音だけだった。

 

 

「おやすみ」

 

 

 そういえば誰かに向かって『おやすみ』なんていうのも初めてだ。

 まず誰かと一緒に寝るなんてことも初めての経験だ。

 

 

「…ぅぃ」

 

 

 なにやら男が言葉を返してきたようだが、何を言っているのかは分からなかった。

 だが私は理由もなくいい気分で目をつぶる。

 

 次に目を開けた時は新しい日が昇っているだろう。

 そして、明日からはまた違う経験をするのだろうか?

 

 そんなことは分からないし、知りたくもない。

 明日になれば全てが分かるだろう。

 

 

 

 それでも、まあ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――退屈はしなさそうだ。

 

 

 

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