東方劣化伝   作:籠の中の鳥

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第十三生 その男 悪夢に悩む

 

 

 ゴロゴロと黒に染まった雲が叫んでいる。

 先ほどの天気がどこへ行ったのか、今にも雨が降りそうになってきていた。

 

 一陣の風が部屋の中に入ってくる。

 先ほど見つけたボロ家の中で休憩するまではよかったが、隙間だらけで雨風を完全には防げそうにはない。

 最悪また移動することも考えなければならないだろう。

 

 そう考えるならば今の内に移動するのもいいかもしれないが、そうもいかない事態になっている。

 まあそこまで深刻ではないのだが、暫く移動することはできないだろう。

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

「あ、あああ……う、あ」

 

 

 頭を押さえ、体を丸めている。

 これを初めて見たのはいつだったろうか。

 

 こうなってしまう原因は今のところ分からない。

 けれど、何かに蝕まれているというのはなんとなく分かる。

 

 そう言うのも私の能力のおかげである。

 私はこれを『闇を操る能力』とよんでいる。

 

 単純に周りを暗くすることはもちろん、応用がかなり豊富に使うことが出来る。

 まあまだ全て使いこなせているわけではないが……

 

 

 

「ご……んめ……め」

 

 

 

 『ごめん』と言っているのだろうか。

 その声はとても痛々しくて、聞いているこっちが疲れてきてしまう。

 

 

 

 悲痛に――

 痛切に――

 切実に――

 

 

 

 何に対して謝っているのだろうか

 なぜそこまで背負いこんでしまっているのだろうか

 

 

「やぁ……い……ぁぁぁ……」

 

 

 一体誰に対してそこまで謝る必要があるのか。

 聞いたとしても、きっと内容を語ることはないだろう。

 

 

「……ゆ……して……」

 

 

 誰に許しを請いているのか。

 あのクロがこの状態になるその理由とは?

 

 

「気になる」

 

 

 好奇心から――

 探究心から――

 追及心から――

 

 

 そんな単純な理由だ。

 だが、単純ゆえに行動も速かった。

 

 

 

 私は闇を操る妖怪――

 闇とは様々なものがある。

 

 

 例えば夜――

 常闇が支配する闇夜の時間。

 

 

 例えば知識――

 理解不能で自分を失う絶望。

 

 

 例えば――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの闇……私に見せて」

 

 

 ――例えば心

 自己を押しつぶす悲しき絶望。

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

 黒――

 ただひたすらに黒――

 

 まるで黒い霧のように靄がかかっている。

 その霧は異様に体に視界を遮り、なかなか進むことができない。

 

 時間の感覚が狂っていく。

 もうすでに何時間もいたようにも感じ、ついさっきここにやってきたかのような感覚がする。

 

 

 

 

 

 不意に視界が開ける。

 眩しさを感じ片手で遮る。

 

 

 

 その後に感じた感覚は異様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 熱い――

 暑い――

 篤い――

 

 

 驚愕して咳こんでしまう。

 さらに額にしずくが垂れる。

 

 ここは一種の精神世界のようなところのはずだ。

 そのはずなのに感覚を感じることなどあり得るのだろうか?

 

 

 そこまで影響を及ぼすほどの『何か』があるということなのだろうか?

 

 

 歩を進める。

 その先に何があるのか知りたかった。

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

 徐々に風景も分かってくる。

 その様は一種の地獄絵図ともいえるものだった。

 

 

 家が燃え――

 人が燃え――

 木々が燃え――

 妖怪が燃え――

 

 

 ありとあらゆるものが燃えている。

 そして空から次々に何かが落下してくる。

 

 大きな落下音と様々なものが燃える音が混ざり合い、混沌としたものと化している。

 これがあのクロの『心の闇』だ。

 

 

 

 

 

 さらに奇妙なのが人と妖怪だ。

 燃えているにもかかわらず、何かを追いかけているように歩み続けている。

 その光景はあまりにも不快なものだった。

 

 

 肉が燃える音――

 ただれた顔面――

 四肢を失う物――

 炭化する肉体――

 

 

 吐き気すら催すそれは見ているだけでも気持ちが悪くなる。

 それと同時に何かが走ってくる音が聞こえてくる。

 

 そして聞こえるその声は悲鳴、あるいは奇声だ。

 その声が近づいて来るにつれて、その正体が明確になってくる。

 

 

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 クロだ。

 死に物狂いで走り続けている。

 

 途中で石に躓き、転倒する。

 急いで起き上がろうとするが、その前に『人だったもの達』が取り囲んでいた。

 

 

 

「あ……ああ!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!」

 

 

 

 あたふたと地面にこすりつける勢いで謝り続ける。

 一体何に対して謝っているのか分からないし、第一彼らが何なのかも分からない。

 

 

 

「やだ……やだやだやだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 歯をガチガチとならし――

 体をわなわなと震わせ――

 手で顔面を必死に隠す――

 

 

 

 異様な光景――

 それは不快とは違う感情が芽生える。

 

 それは疑問――

 奇怪な光景ゆえに疑問しか生まれない。

 

 答えは目の前にあるはずなのに、それは決して知ることはない。

 そんなぼんやりとしか感じることが出来ない不思議な出来事である。

 

 

「なんなのよ……これ」

 

 

 そこで初めて私は声を出す。

 その声は響くことなく隕石の落下音にかき消される。

 

 そう感じた次の瞬間には周りの空間が歪んでいく。

 何かが割れる音が断続的になり、周りにあった物たちが砕け散っていく。

 

 最終的には周りは黒一色に埋め尽くされていた。

 それは私が最初に入った時に見た光景と類似している。

 

 

「な、んで……なんで……なんで!!」

 

 

 クロの声が反響して聞こえる。

 しかし姿が見当たらず、ただ黒い空間が続いている。

 

 

「わかん……ない……わか、んないよ……分かんないよ!!」

 

 

 今にも泣き出しそうな声――

 視線を回すがやはり声しか聞こえない。

 

 

「じぶ、ん……ばか……だ、から……だから!!」

 

 

 走りだす。

 何もない空間を――

 

 ただただ走る。

 目的の人物を探すために――

 

 

「「どこにいるの!!」」

 

 

 私とクロの声が重なる。

 

 私はクロを探すため。

 クロは一体誰を探しているのだろうか。

 

 

「い、やだ……こない、で……来ないで!!」

 

 

 声がだんだん近づいて来る。

 逆に遠ざかっているかのようにも感じる。

 

 

『な……んで、だ』

 

 

 足が止まる。

 今の声は明らかにクロのものではない。

 

 ではいったい誰だ。

 一体なぜクロ以外の声が聞こえる。

 

 

『なんで……お前だけ!!』

 

 

 耳元に大音量で叫ばれる。

 瞬間に耳元を押さえるが、一瞬眩暈を感じてしまう。

 

 

『なぜ…なぜ!!』

 

 

 心拍数が上がる。

 呼吸が乱れてきた。

 

 

『お前だけ――』

 

 

 おそらくこれがクロの――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――生きているのだ!!!』

 

 

 

 ――闇だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見つけた。

 うずくまっているが確かにいた。

 

 クロの周りには黒い霧が舞っている。

 ウネウネと形を変えていくそれは気分を害するものだった。

 

 

「ご……めん、な、さい」

 

 

 震えた声でささやいている。

 生気がどんどん抜けていき、声には力がこもっていない。

 

 

『助けてよ……助けてよ!!』

 

 

 気持ちが悪い。

 その声はまとわりつくような粘り気を持っている。

 

 黒い霧はクロの周りをくるくる回りだす。

 それが人の形となしていき、数人の影の人間を作り出す。

 

 

『『『『お前だけだよ』』』』

 

 

 クロは顔を俯かせて必死に影達を見ないようにしている。

 手を耳元でふさいでいるようだが、それも無意味でしかない。

 

 

『『『『お前も……死ね』』』』

 

 

 言葉だけの攻め――

 クロにはそれだけでも十分だった。

 

 

 

 十分すぎるほどの傷を負う。

 十分すぎるほどに傷を抉る。

 

 

 

 私はただその光景を見つめる。

 私はただ事の結末を見届ける。

 

 

 

 これはクロの闇――

 私が干渉していいものではない。

 

 心の闇は自分で癒さなければならない。

 それは他人が干渉していいものではない。

 

 それが私の自論――

 今思い至ったこと――

 

 

『――』

 

 

 一つの影が黒に近づいていく。

 何か言葉を発しているようだが、雑音が混じり聞き取れない。

 

 

「――」

 

 

 クロもその影に気づく。

 立ち上がり、自分からふらふらと近づいていく。

 

 

 

 

 

 そしてまた風景が変わる。

 それはどこかの庭のようだ。

 

 手入れがいき届いているそれはとても綺麗だ。

 しかし、靄のようなものが入って全貌を見ることはできない。

 

 

「――り、ん!!」

 

 

 満面の笑顔で影に抱きつく。

 涙を振るい、思いのまま顔を埋めている。

 

 

「ご、め――じ、ぶ……ぜっ――い……」

 

 

 雑音が大きくなるにつれて自分の体が薄くなってきた。

 そろそろ能力の限界で精神世界から消えてしまうのだろう。

 

 

『そ――ね……で、も――』

 

 

 世界が震える。

 目が霞んで行く。

 音が消えていく。

 

 もう限界のようだ。

 これ以上いたら私の体にまで影響が出る。

 

 

 

 

 

 影の最後の声が聞こえた。

 その声には雑音が一切なく、全容を聞くことが出来た。

 

 しかしそれは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『邪魔よ……消えなさい』

 

 

 

 

 

 ――クロの絶望の顔を最後に私の意識はこの世界から消滅した。

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

「うっ」

 

 

 意識が覚醒する。

 吐き気を感じたが押さえることが出来た。

 

 

「あ……ああ」

 

 

 クロに視線を向けると未だに苦しそうに眠っているようだ。

 先ほどの事もあってか、私は右手で額を押さえてしまう。

 

 溜息を吐いてしまう。

 疲れ切った体を横にして、仰向けになる。

 

 

「知って……どうなるのよ」

 

 

 単純な好奇心で知った今回の出来事だったが、踏みいってはいけない領域だったと後悔してしまう。

 これはクロの問題であって、私がとやかく言うのも……ましてや、励ましの言葉をかけることなどできないだろう。

 

 

「どうでもいいわね」

 

 

 クロは他人で人間だ。

 私は妖怪……人間など食料でしかない。

 

 

「……」

 

 

 雨の音が未だに聞こえてくる。

 それが沈黙であることをさらけ出している。

 

 目を閉じる。

 この程度の雨ならこのボロ家なんとかなるだろう。

 

 そんな楽観的なことを考える。

 しかし、すぐに思考はクロに標的を変えている。

 

 

 

 

 

 私は不用意にクロの闇を知ってしまった。

 知らなければどうということはなかったが、知ってしまっては後悔のしようもない。

 

 計り知れない闇だった。

 計り知れない絶望を感じた。

 

 踏み行ってはいけなかったのかもしれない。

 しかし、それで分かったこと……分かってしまったことがある。

 

 それがどんなに自分らしくなく感じ、溜息を吐いてしまう。

 クロが来てから何度目の溜息だろう……クロと会う前はほとんどしたことがなかったはずなのに――

 

 

 

 馬鹿らしい。

 とっととあの男から離れてしまったほうが身のためだ。

 

 

 

 もっともな考えだ。

 クロといても私にとって百害あっても一理もないだろう。

 

 

 

 じゃあとっとと行こう。

 こんなところに居ても仕方ない。

 

 

 

 それもそうだ。

 疲れることも少なくなるだろう。

 

 

 

 じゃあ行こう

 さっさと行――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――行けるわけないじゃない」

 

 

 さらに溜息

 本当に何度目なのか真剣に考えてみたくなってしまう。

 

 馬鹿らしい。

 そんなことは分かっている。

 

 自分らしくない。

 そんなことも分かっている。

 

 じゃあなぜ、

 そんなこと――

 

 

「――私が知りたいわ」

 

 

 自問自答の繰り返し

 解ける兆しのない疑問

 

 

 

 それほどまでの興味を持った……持ってしまった。

 クロにそこまで魅力を感じる理由、それは私にも分からないことだ。

 

 

 

 ただ何となく

 それが『今』の私の答え

 

 

 

 今は……これでいい気がする。

 これから考えていけばいいことだ。

 

 

 

 それが何年経つことなのか。

 それが何時になったら解けるのか。

 

 

 分からないけれど、退屈はしないだろう。

 なぜならこれからクロの『子守り』をしなければならないのだから……

 

 

 考えている途中で苦笑漏れてしまう。

 私らしくなく考えることに夢中になってしまった。

 

 

 一向にやむ気配のない雨音

 それが今のクロの心情を語っているようだ

 

 

 そっと手をクロの額にあてる。

 仄かな暖かさと数滴の汗が手に触れる。

 

 未だに苦しそうな呻き声を発し続ける。

 それを和らげるように優しく頭をなでる。

 

 

 

 本当に私らしくない。

 ならば私とは何だというのか。

 

 

 

 人を殺し――

 妖を殺し――

 

 

 

 それが私なのか。

 その答えは分からない。

 

 

 

 なら――

 ならばこれから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――自分探し……悪くないわ」

 

 

 私がクロといる理由――

 クロといることでの利害――

 

 

 聞こえ方によってはクロを利用しているようにも聞こえなくもない。

 まるで私が悪者にでもなってしまうではないか。

 

 

 

 だからどうした――

 どうせ私は妖怪だ。

 

 

 

 何がわるかろうが関係ない。

 何があっても大丈夫だろう。

 

 

 

 そんな淡い期待――

 どこまで続くかも分からない欲望――

 

 

 

 そんな中途半端な考え――

 それでも私自身はそうは思わない。

 

 

 

 根がしっかりした一つの花――

 その種を一つ私の心に植え付ける。

 

 

 

 これからどうなるか分からない期待と――

 これからどうなるか分からない不安と――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――まあ悪い気はしない

 

 

 






 裏切られた。
 捨てられた。


 最初からそうだったのかな?
 もう今では知ることもできない。


 自分はどうすればいいんだろう。
 誰か教えてよ……自分には分からない。





 暖かいものが額に触れる。
 次には優しく頭を撫でてくれる。


 それが暖かくて――
 それが心地よくて――


 胸が張り裂けそうだったのが和らぐ
 なぜだか安心できて眠くなってきた


「ルー」


 気づかれることのない小さな声で呟く。
 なんだかルーミアは笑っているように見えた。


 それが何だか嬉しくて――
 それが何だか安心して――










 雨が晴れ――
 太陽が輝き――





 ――また新たな一日が始まる


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