そして本当に遅れて申し訳ないです!
謝罪しても足りないと思いますが、思いのほか時間がありませんでした……
今年はこんなことが少ないように頑張らせて頂きます……というよりします。
誤字やおかしい表現などがあったら教えてくれると嬉しいです。
感想・アドバイス・批評などなど随時受付中です。
黒い霧が自分の周りを守るように立ちこめている。
何かが擦り切れるような音が幾度となく聞こえてくる。
そして同時に聞こえてくる悲鳴はこの状況をさらに悪化させている。
その悲鳴は自分にとってはありがたいはずなのに、感謝の言葉を出すことなど到底できな い。
自分がとても無力なのを感じる。
そんなことはよく分かっていることのはずなのに、今ほどそう思わざるえないこととなってしまった。
ビチャッと何かがはねてきた。
ヌルッとした感触をもち、鼻をつんのめる異臭をはなっている。
それが血液だとすぐに理解した。
それが血液だとすぐに理解してしまった。
「ルー!」
自分の声は届いているのだろうか。
それとも聞こえるはずがないものなのだろうか。
それででも叫ばすにはいられなかった。
自分の命の恩人であり、友であり、家族である妖怪に向かって――
>――――――――――<
「おはよー!」
威勢のいい声が聞こえてくる。
この声が毎回新たな一日の始まりを告げている。
面倒くさいのが半分、やる気がないのが半分……
相対的に起きたくもないし、何もしたくないというところだ。
「ルー! あーさーだーぞー!!」
ああ――なんていい朝なのだろうか。
こんな日はもう少し寝るのに限るだろう。
耳をふさぐことによって雑音を和らげる。
少しずつだが夢心地になってきたような気が――
「おーきーてー!!!」
とてつもない爆音と、耳にかかる痛みに上半身を起こしてしまう。
手で塞いでいてもこの音量なのだから、塞いでいなかったらどうなっていたことか。
「今日は飛ぶ練習するんだから! 早く早く!!」
「あーそうだったかしら?」
眠い目をこすりつつ、欠伸をする。
ここまで元気なのはいいことなのだろうが、今の私にとっては害悪でしかない。
私が起きたのに気付いた害悪なやつは、今か今かと私の一挙一動を眺めている。
はっきり言って目障りで邪魔でしかないが、今に始まったことでもないし、なにより慣れてしまった。
「今日こそ絶対に飛ぶからね! ずっと見ててよね!!」
「そんなに興奮しないで頂戴……頭が痛くなるわ」
溜息を吐きつつ立ち上がる。
そういえば昨日は天候も良かったから野宿をしていた。
そんなことを思い出しつつ再度欠伸をする。
とことん今日は眠いようで、体がだるく感じる。
こうして今日という最悪(最高)な日が始まるのだろう。
バカバカしく思いながら、クロという馬鹿な人間を眺めていた――
>――――――――――<
「飛べ――ない!!」
「明るい顔して何言ってるのよ」
ルーミアが溜息を吐く理由は何となく理解できる。
けれど、何十年も特訓して『コツ』も分からないというのは流石に落ち込んでしまう。
まあ自分は馬鹿だし非力だからこれが当たり前かもしれない。
それでも努力しているということを支えにここまで頑張ってこれている。
そう考えていくと、努力が無駄じゃないような気がして、これからもがんばれそうな気がしてくる。
ルーミアもここまで一緒になって教えてくれているから、さらに気合が入っていくのが考えなくても分かることが出来る。
「ほらさっさと次行くわよ」
「はーい」
ルーミアの指示を聞いた自分は、ぴょんぴょんと小刻みに跳ね始める。
これで何が出来るようになるかは分からないけれど、ルーミアが教えてくれたことなのできっと何かがあるのだろう。
そんな確信を持ちつつ跳ね続ける。
少しずつ疲れていくのが分かるけど、ここで休むと何かを忘れそうになるのが怖くてやめることが出来ない。
「そっらの! てっぺん!! ま、でっ!!!」
「……」
自分の掛け声を聞いたルーミアが若干笑みを見せているような気がした。
ちらりと振り返ってみたが、ルーミアはいつもの表情をしている――気のせいだろうか。
いけないいけない……今は飛ぶことに集中しないと……
完全に集中しなければ飛ぶことなんて絶対にできないだろう……
気合を入れ直してさらに跳ね続ける。
それで少しずつ飛べるようになっているような気がして、とても気分がよくなってきた――気がする。
「うべっ!!」
ドシンという効果音と共に自分は大きな大木に顔面を押しつけてしまった。
考えることに集中しすぎた結果こうなってしまった……顔面が火にあぶられたような痛みを感じる。
「痛いぃ!!」
思わず声まで出てしまった。
今ルーミアはどんな表情をしているのだろうか。
呆れてものが言えないのだろうか
いつものように溜息を吐いているのだろうか
次に一体どんな言葉をかけてくれるのだろうかと期待してしまっている。
多分それで自分は落ち込んでしまうかもしれないけど、それよりも次からもっと頑張れるように努力できそうな気がする。
それが一体どこからくる自信なのかは分からないけれど、とにかく頑張れる気がする。
自分は馬鹿だから頑張ることしかできないし、周りに迷惑ばかりかけるから謝ることしかできない。
「クロ……もう少し集中しなさい」
そして呆れたような声が聞こえてくる。
ああ――これで自分はこれからも頑張れるような気がした。
>――――――――――<
ガサガサと茂みをかき分ける音を立てつつ、移動する影が二つ存在する。
それは私――ルーミアと、人間――クロの二人で、今日の寝床を探すために目を凝らしている最中だった。
今日もやはりクロは飛ぶことはできなかった。
もう何十年も努力をしているはずなのに、一向に飛べる気配すら生まれないのは、ある意味拍手を送りたい気持ちになる。
そしてそれとは別に……この場にいてはいけない存在の気配を感じていた。
その気配のするものは、私たちに気づかれまいと気配を隠しつつ尾行してきている。
はっきり言って目ざわりとしか言えない。
さっさと諦めてくれることを祈りながら寝床を探している。
「んーいいところないねー」
呑気に寝床を探しているクロ――誰かに追われていることを伝えようかと考えてみたが、ドジをして事を重大にさせるのもまずいので言わないことにしていた。
それほどまでにクロは間抜けであり、馬鹿なのだ……こんなことをクロに言ったらきっと笑いながら落ち込んでしまうだろう。
とりあえずこの気配の正体は何なのだろうか。
普通に考えれば妖怪の可能性も考えられるだろう……大方クロという人間の匂いにつられてきたと考えるのが自然だろう。
考えても仕方ないか……とりあえずこっちから合図でも送ってやろう。
地面に落ちていた小石を拾い上げ、気配の感じる方向へと軽くほうり投げる。
「ッ!」
明らかな驚愕の声が聞こえ、確かにそこに何かがいることが分かる。
そこからどんな反応が起きるかは相手次第だろうが、妖怪ならば一応警戒すれば――
ヒュッと何かが空気を切る音が聞こえる。
そして『何か』が私ではなくクロへと向かっているのが分かった。
そこからの私の行動は普段から考えれば遅いものだった。
まずはクロを押し飛ばし、その放たれた物からの危険をなくす事を優先させた。
そこまではよかったのだが、反応が明らかに遅れた私はその放たれた物を受けることとなった。
それは私の腕へと吸い込まれるように放たれ、鈍い痛みと紅い鮮血を生み出される。
「チッ」
久方ぶりの痛みに舌打ちをうちつつ、放たれた物――弓矢を乱暴に引き抜く。
その反動でさらに鋭い痛みが腕に広がり、鮮血を草原にまき散らす形となった。
キッと弓矢が放たれた方向に睨みつける。
そこには確かに誰かがいた形跡があるが、すでに姿まではなくなっていた。
「ルー!?」
押し倒されていたクロが急いで起き上がり、私の元へと駆け寄ってきていた。
目に涙を溜めながら、あたふたと弓矢が刺さっていた血まみれの腕をどうにかしようとしている。
「大丈夫よ、心配しなくても」
徐々に腕の痛みが引いて来るのを感じる。
それと共に貫通していた穴が塞がっていく……数分もすれば元に戻るだろう。
しかし――先ほどのはいったいどういうことなのだろうか。
いきなり弓矢を撃ってくる理由など分からないし、狙いがクロだったのも意味が分からない。
「――面倒なことにならないといいけど」
相手がどんな理由で襲ってきたのか、考えても答えが出てくることはない。
とりあえず今日は寝床を探すとしよう……多分眠ることはできないだろうが――
>――――――――――<
面倒なこととはどうして立て続けに起きるのだろうか。
明らかに昨日と同じような存在を感じる……今度は一人ではなく複数いる。
今のところは何もないが、先日の事もあって警戒を劣らせるわけにはいかなかった。
私ならともかくクロにまで危害が加わるようならば、こちらから何かしらの事はしないといけないだろう。
だが――気に食わない。
私ならともかくなぜクロを襲うのだ。
相手は確実に『人間』であるのは分かっている。
その人間が最悪の存在である『妖怪』を畏怖の対象とするのは自然の原理である。
だからこそ気に食わない。
人間は群れるものだと私は思っていたが、その仲間であるクロを何故襲ったのだろうか。
「私が――いるから?」
妖怪と人間が一緒に行動するなんて普通に考えれば常軌を逸脱している。
私がクロと共にいるからクロも妖怪だと思われたのだろうか……そう考えてしまう。
「どうしたの?腕痛む?」
心配そうに私の顔を覗き込むクロの姿が目に映る。
私は愛想笑いをしつつ大丈夫だと伝えたが、内面ではどうだったのだろうかと自問自答してしまう。
クロが危険な状態になったのは私のせいかもしれない。
それが正解かどうかは分からないが、不正解かどうかも分からない。
相手が人間である以上聞くことはできないだろう。
元々妖怪と対話しようなんて思うやつはいないだろうし――
「対話……ね」
自分自身に苦笑いしてしまった。
妖怪である私が人間と対話しようなどと考えてしまうことに――
ずいぶん丸くなったというか、人間に対する考えが甘くなったのかもしれない。
クロとの出会いが人間に関する考えを変えたし、何より私はクロ以外の人間と対話していないのも理由の一つだろう。
「とりあえず――急ぐわよ」
「え?う、うん」
考えるよりあの気配から逃げたほうがいいだろう。
あちらが好戦的なのは丸分かりだし、今は好戦的になる気分ではない。
心のどこかで交戦をしたくない気持ちがあったのかもしれない。
面倒だったし、何よりクロがいるこの状況では多数いる人間に対応できそうになかったからである。
「……まいた?」
数分ほど足早に移動すると、感じていた複数の気配がなくなっていた。
そして機を逃さないかのように、丁度いい家屋を少し先の場所に見つけることが出来た。
「ルー! いいとこあるよ!」
「そう――ね」
息を吐き出し、緊張を少しだけ解く。
これで少しばかり安心できるだろうと踏んで、家屋の中へと入る。
中はよく整理され、食料もあれば薪も大量に用意されていた。
どうやらここは『当たり』のようだ……今日はよく眠れそうだ。
「悪いけど燃やしといてくれる?」
「いいよー」
ゴロンと横になる。
クロが薪を燃やすのに苦労する様が聞こえてくる。
「料理できたら起こして」
「ゲホッ!ゴホ……う、うん」
瞼を閉じる。
少しずつ睡魔に酔いしれていき、数分もしないうちに私の意識は消えていった――
>――――――――――<
「ごちそうさまでした―!」
「ごちそうさま」
久々に料理を作った気がする。
最近はあまり食料も手に入らなかったし、何よりいい寝床がなかった。
料理自体も久しぶりに作った。
味は自分で言うのもあれかもしれないが、少しおいしいと思った。
「その――味どうだった?」
「薄い」
いつもの返答に内心落ち込んでしまう。
味は出す前に確認したが、やはり今回も駄目だったようだ。
今度からはルーミアに確認してもらうべきだという答えにいたる。
そのほうが効率はいいだろうし、なにより失敗することはなくなるだろう。
問題があるとすれば――調味料がないことかな。
ルーミアと旅をしてからは一度も見たことはない――
あれ……じゃあなんで『調味料』なんて知っているのだろうか?
何時そんな物を見たんだっけ?
何か大事なものを忘れているような――
「なんか――頭痛い」
頭痛を感じ、頭を押さえる。
ガンガンと響くほどではないが、違和感を感じてしまう。
「疲れたの?」
ルーミアが心配してくれたのか顔を覗き込んでくれた。
自分はそれに対して頭を横にブンブンと振るい、大丈夫だと表現する。
「寝れば治るよ!」
明るく言い放ち横になる。
が、勢いが強すぎて床に頭を打ち付けてしまった。
火傷したかのような痛みが後頭部に広がり、変な声が出てしまう。
そして何時も聞く呆れた溜息が耳に聞こえてきたが、それに反応するほど余裕はなかった。
「い、たぁいぃぃ――」
悲痛なうめき声を出してしまう。
さらに頭痛が悪化しているような気がしてならない。
そんなこんなで少しずつ睡魔が大きくなっていく。
そしていつの間にか自分の意識は闇に沈み、頭の痛みを忘れていった――
「まったく……相変わらずね」
クロはいつもこんな感じだ。
今に始まったことではないし、少し慣れてしまった。
幾度とない失敗を重ね続けても諦めないその執念には称賛を贈りたい。
だが、その割には自分に身につくことがないのがかわいそうだと思ったりもしている。
いつも明るく前向きな姿勢――
馬鹿なりに頑張り続ける信念――
努力を無駄だと思わない執念――
どこからそれが沸き起こっているのかを知りたいくらいだ。
それほどまでにクロは馬鹿なりに頑張り続けている……無駄のようにしか見えなくてもだ。
「本当に……馬鹿よね」
本人が聞いていたら多分そうだねと答えていただろう。
クロ自身自分が馬鹿であることを認めてしまっている。
だからこそ自分は頑張らないといけないと言っていた気がする。
馬鹿だから誰よりも頑張って皆に追いつきたいと言う一心からだろう。
薪がパチパチと音を立てつつ燃え続けている。
そこから仄かな温かさが伝わり、じんわりと体を温めてくれる。
新しい薪をくべると、中にあった薪のバランスが崩れる。
そして入れたばかりの薪に燃え移り、新たな造形物となる。
その情景を何も考えずに眺めている。
何もすることがなくなってしまったのを隠したかったのかもしれない。
「……」
薪が燃える音だけが家屋に響く。
あるとすれば、クロが立てる寝息くらいだろう。
数分前に眠りについたはずなのに、もうすでに爆睡の域に入っている。
眠る速さだけならばクロに勝てないかもしれないと、苦笑しながら考えてしまった。
「さて……私も寝ようかな」
ごろんと横になる。
クロのように床に頭を打ち付けるような馬鹿はしない。
瞼を閉じると、外界から伝わるものは薪が燃える音のみになる。
他にあるとするならば、目に見える深淵の黒だけだろう……最近一人語りが激しい気がするのは気のせいだろうか。
「おやすみ」
もうすでに夢の世界に行っているクロに向けて声をかける。
確実に伝わっていないだろうが、とりあえず建前だけ声をかけた。
とりあえず今日は眠ろう。
少し神経を張り詰めすぎて疲れてしまった。
そういえばあの人間たちは今頃何をしているのだろうか。
明日に備えての準備をしているかもしれない……明日もなかなかつかれそうだ。
早いうちにこの地域から抜けだした方がいいかもしれない。
そう結論付けて、私も眠りの世界へと旅立つ準備を行い始めた――
パチパチと音が大きくなる。
薪を最後にくべたのは数時間前のはずだ。
そのはずなのに依然と火の勢いが大きくなる。
そして体に感じる温かさが、明らかに熱く感じてきた。
重い瞼を開ける。
そしてそこから伝わる色は――赤色だった。