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弓矢が放たれ、そしてそれが私の横を通り過ぎる。
飛ぼうとしたが、なぜか飛ぶことが出来ない……舌打ちをしてしまう。
何かの文字がついた紙が私の行く手を阻み、淡く輝いている。
それを素手で握りつぶし、走り続ける――若干走ることにも違和感が出てくる。
「ルー!」
クロが心配そうに声をかけてくる。
だがそれにこたえるほどの余裕が私には残されていない。
こう言う面倒なことは本当に大嫌いだ。
今にも後方にいる奴らを何とかしたかったが、クロがいるのでそれはできない。
「チッ」
さらに弓矢がこれでもかと降り注ぐ。
それをクロの手をひきつつ、何とかよけ続ける。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
クロではない何かの叫び声が目の前から聞こえた。
そしてほどなくその声の正体――人間が何かを振り降ろす。
それを軽くいなし、腹に向かって本気で蹴りを入れる。
人間はそれだけで吹き飛び、茂みの中に消えていった。
「何が――どうなってるのよ!」
体の態勢を整え、すぐに走りだす。
もう面倒くさいだなんて言っている場合ではない。
私はともかくクロの命が危うい。
うたれ強いとはいえ、人間がくらってはいい攻撃ではない。
「このっ!」
さらに何かが書かれた紙が飛んでくる。
それは私を追尾しているようで、避けても私を追いかけてくる。
面倒になってそれを握りつぶす。
ジュッという音と共に、掌が火傷するような痛みが走る。
そしてさっきと同じ紙が今度は何枚も飛んでくる。
流石にこれもクロにあてさせるわけにはいかないが、避けるのにも一苦労しそうだ。
「クッ!」
苦し紛れに周りを暗くする。
もう深夜なこともあって、私の能力はさらに上乗せされている。
しかし、先ほどより感じている違和感のせいで、いつもの勢いを出すことが出来ない。
それでも深夜が私の味方をしたおかげで、人間たちの目をくらませることはできそうだった。
「こっちに――」
が、紙は追尾してきているようで、背中に熱い衝撃が加わった。
声にならない悲鳴が出てしまうが、歯を食いしばることによって痛みを無視して走り続ける。
少しずつではあるが、人間たちの気配が少なくなってきた。
だが、相手が人間なだけあって油断をするわけにはいかない……ここからどうするべきか。
「回りこめぇ! 奴らは近くにいるはずだぁ!!」
人間たちの声は依然と近くに聞こえてくる。
私自身の苛立ちはすでに頂点を振り切りそうな勢いだ。
足音も徐々に近づいてきている。
もう追い払ったほうがいい気もするが、なにより数が多すぎる。
人間が群れることは前から知っているが、何故私たちをつけ狙う必要があるのか。
何で私たちが狙われなければならないのか……理由なんて分からないし、聞ける雰囲気でもない。
「はぁはぁ……ルー」
流石に走りすぎて疲れる様子がクロに見えた。
元々体力がないクロにとって、このまま走り続けていたらいつか限界が来るだろう。
「ここで隠れるわよ」
闇夜が味方してくれる今しかない、そう思った私は近場に隠れられそうな草むらに伏せる。
さらに人間たちの罵声と足音が近くなるにつれて、心臓の音が徐々に大きく聞こえてくる。
「ルー」
小声で私を呼ぶ声が聞こえる。
その顔はひどく疲れているようだが、それでも私を心配そうにのぞきこんでいた。
こんな状態になってでも、自分ではなく私の方を心配するクロははっきり言って馬鹿だ。
どう考えても危ない状況なのはクロのはず……なのに妖怪である私が心配されるのは、馬鹿にされているようで――
「ありがとう……でも大丈夫よ」
優しくそう呟きながら、クロの髪を撫でる。
恐怖に染まっていたクロの顔は、少しだけ明るくなった気がする。
「とりあえず――」
これからの事を考えなければならない。
ここからどうやって『安全』に逃げればよいのか――
>――――――――――<
「とりあえず――」
ヒュッと何かが飛んできた。
それが自分の横を通り過ぎる――正確には顔の横を通って行った。
それは自分の顔を掠っていたようで、頬から紅い何かが伝う。
その伝うものが一体何なのか一瞬で理解できたし、何よりそれに伴って伝わる何かでそれを証明している。
「ッ!」
痛い……紅い何かがそれを強めている。
紅い……痛み何かがそれを深めている。
ルーミアが驚いているのだろうか……目を大きくして自分を見つめている。
自分は――クロはどんな表情をすればいいんだろう、泣けばいいのか驚けばいいのだろうか、それとも……
「……」
ルーミアは自分の頬を撫でてくれた。
そしてそれを――なぜかルーミアは自分の口に持っていく。
そしてその場で立ちあがる。
今は隠れなくてはいけないのに……そう思って手を引っ張ろうとしたが、力が強くて振り払われてしまった。
自分はどうすればいいのだろうか……一緒に行った方がいいのだろうか?
すると、自分の周りがとても暗くなっていき、どんどんルーミアが見えなくなっていく。
「ルー?」
ルーミアが見えなくなっていく。
ルーミアが見えなくなっていく。
自分はどうすればいいのだろう?
自分はどうすればいいのだろう?
一緒に行かないと!
一緒に行かないと?
怖くなる。
恐くなる。
コワイ。
こわい。
「ルー!?」
自分は叫んでいた。
どうして叫んだのだろうか?
とっても怖くなる。
なんで怖くなるんだろうか?
すごく寂しくなる。
なんで寂しくなるんだろう?
「……」
最後にルーミアの表情が見えた。
その時の表情は――酷く楽しそうに見えた。
>――――――――――<
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
少し先から叫び声が聞こえる。
それが自分の同士であることはすぐに分かる。
後方にいる指揮官が何かを叫んでいる。
が、自分は溜息をしながらそれを聞くふりをする。
「あぁー疲れた」
なんか知らないが妖怪を見かけたらしく、それを討伐するとか何とか……
俺はそんなことのために駆り出されたが、正直今すぐにでも帰って寝てしまいたい。
なんでもその妖怪は二人のようで、近くに通りかかった寺なんかの人が危険だからと退治したほうがいいとか言っていたな。
俺にとってはとんだ迷惑でしかないし、面倒くさくて仕方ないし、何より――
「死にたくないねぇ」
まあこれだけ後方にいれば逃げ遅れることはないだろう。
そして目の前から同士が吹き飛ばされて、自分の足元に転がってきた。
「あ?」
それに反応しようと同士に手をかざそうとした。
そうしようとした時には目の前は真っ暗になって――
>――――――――――<
「―――――――ッ!!」
目の前の人間が何かを叫んでいる。
そして私はその人間に向かって手を横に動かす。
そんな些細な動作だけで人間は上と下に分かれる。
そこの境目から赤い紅い水が滝のように流れていく。
「……」
手についたその水を舐める。
感じる事が出来た味はとてもとても――
「まずい」
思わず反吐が出そうになる。
生臭く、なにより口の中にまとわりつくおかしな感触――
「にっ―――」
目の前の人間が何かを叫んでいる。
手を突き出しただけで簡単に貫いてしまう。
ぬるぬるとしたものが腕にまとわりつく。
それはとても気持ち悪く感じ、気持ちよく感じる。
「化け物めぇ!!」
人間が棍棒を振り降ろす。
それは私の肩に直撃したが、痛みは全く感じない。
それどころか棍棒は砕け散ってしまう。
人間が驚く前に私はその人間の首を跳ね飛ばす。
顔に数滴、紅い赤いものがつく。
それを拭うことなく人間たちに笑顔を見せつつ呟く。
「ねえ……今――」
どんな気持ち?
>――――――――――<
「ルー!」
自分声は暗闇に響くが、ルーミアに聞こえているか分からない。
そして代わりに聞こえてくるのは、今まで自分たちを追いかけていた人たちの悲鳴である。
はやく何とかしないと……自分もルーミアもあの人たちも――
自分が何とかしないと……自分がやらなければならないことを――
「ルー! ルー!!」
ひたすら声をあげても返ってくのは悲鳴だけ……
移動しようにも周りは真っ暗で何も見えることはない。
まずは周りが見えなければ何もできない。
どうしにかしてこの黒いものを何とかしないと――
『―――て―――の――り――』
え?
今何か聞こえた。
雑音が酷くて何を行っているのかよく分からなかった。
そして同時に頭痛がひどくなっていく……なんで頭が痛くなるんだろう?
『お――て――の――り―く』
「ッ!ああ……」
また雑音が聞こえたが、先ほどより内容を理解することが出来た。
そしてさらに頭痛がひどくなっていく……何がどうなっているのだろう。
あまりの痛さに両膝を落としてしまう。
頭を両手で押さえるが、痛みは減るどころか酷くなっていく。
『やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!』
今度は周りが燃え広がっている光景が見えた。
自分はそこで誰かを――二人の子供を助けようとしている。
これはいったい何なんだ?
何かを忘れている気がする……そう何か大事な――
『―と――い―――う――く』
一人の女性が自分の前に座っている。
この人は……この人が……誰なのか……自分は――
『おと―い――のう―――』
『無一』
知っている。
ああ知っている……覚えている。
忘れていた。
なんで忘れていたんだろう――
自分はバカだ。
なんでこんな大事なことを――
『お―るて―どのーう――く』
雑音も段々なくなり、何の言葉だか分かってきた。
そして、周りがだんだんハッキリと見えるようになってくる。
自分は立ち上がる。
自分は行かないといけない……そして――
『劣る程度の能力』
「行ってきます」
今は聞こえるはずのない人物に向けての決別の言葉――
今は聞こえるはずのない人物に向けての再開の誓い――
それを胸にしまいこむ。
それを胸に自分はやるべきことを――
>――――――――――<
「あなたで――最後かしら?」
目の前に腰を抜かし怯えている名も知らぬ人間がいる。
その人間は何か命乞いの言葉をかけているが、私にはそれがただの雑音にしか聞こえない。
私は今どんな表情をしているのだろう。
多分満面の笑みに染まっているに違いないだろう。
ああなんて楽しいのだろうか。
人間をここまで追い込み、引き裂き、あざ笑うことが――
「命だけは……命だけはぁ――」
「ふうん、だったら腕一本いいかしら?」
「ひいぃぃぃ!!」
とても醜い声を上げながら後ずさりをしている。
それがおかしくて思わず声を出して笑ってしまう。
けれど……それも飽きてしまった。
そろそろこいつも殺して、次の獲物を――
「へぇ……まだいるのね」
後ろから誰かの気配を感じたが、私の能力のせいで顔を見ることはできない。
この状況で逃げずにまだ立ち向かおうとするのは……ハッキリ言ってただの馬鹿であろう。
しかもその瞬間を狙ってか、先ほどまで怯えていた人間はすでに逃げてしまっていた。
逃げ足が速いと言うか……やはり人間は抜け目のない奴だなと思いながら、その気配の元へと歩み寄る。
近くに水が流れている音が聞こえる。
こんなときでも自然は私たちと関係なく動き続けていることが何だかおかしく感じる。
「よく逃げなかったわねぇ? まあ、私は楽しめるからいいけど」
「……」
「何か言わないの?最後の言葉くらいなら――」
そう言いきる前に私は動いた。
完全に不意を突いた行動で、すぐに決着がつくと思っていた。
が、相手はそれにすぐに反応していた。
横に避けたのが、足音ですぐに分かった。
「聞くけれど!」
間髪をいれずに勢いを利用して回し蹴りをする。
それは相手の顔面をとらえ、吹き飛ばされる音が聞こえる。
けれど、思ったより大きな決定打にはならなかった。
それを物語るように相手が立ち上がる様子が見える……能力が徐々に弱まっているようだ。
「根性はあるようね……少し遊んであげるわ」
相手を挑発したつもりだったが、どうやら相手からは仕掛けてくる様子はなかった。
それが馬鹿にされたような気がして、フツフツと怒りがこみ上げたくるのが嫌でも分かる。
「あっそ……じゃあこっちから――」
行こうとした時、相手がこちらに走り込んでくるのが分かった。
にやりと笑いながら、私は相手の心臓に狙いを定めて手を突き出す。
私の攻撃はまるで『分かっていた』かのように避ける。
そして相手は私に向かって攻撃をしてくるのだろう……けれど私には分かる。
たかが人間の攻撃が私に致命傷を与えることはない。
さらに言えば丸腰の人間の攻撃なんてたかが知れている。
ああ一体どんな無様な攻撃をするのだろうか?
そして私はその後どういった絶望を与えてやればいいのだろうか?
そんなことを考えていた――
そんな愉快なことを考えて――
「ルーミア!!」
それは聞きなれた声
それは嫌というほど毎日聞かされた声
馬鹿でどうしようもない間抜けな人間
単細胞で一回に二つ以上の事も出来ない不器用な人間
頭が真っ白になる。
そして私が何をしていたのかを少しずつ理解していく。
「アァァァァァァァァ!!」
その声の主は私の胸元に飛び込んでくる。
そして今の私にとって一番の攻撃を仕掛けてきた。
>――――――――――<
「バカァァァァァァァ!!!」
思いっきり――
自分が出来る精一杯……全力で抱きつく。
頭の中がぐちゃぐちゃに揺れ、今何を考えているのか分からない。
それにルーミアの服には何かヌルヌルとしたものと、自分の涙でもう何が何だか分からない。
「……」
「うあぁぁぁぁ!!!!!!」
ルーミアは依然として立っているだけだった。
それにひきかえ自分はただひたすら泣き続けることしかできなかった。
「そう……ね」
ルーミアがやっと言葉をかけたくれた。
それが本当に嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
顔をルーミアに向ける。
自分が出来る精一杯の笑顔でルーミアを見つめる。
「でも――あなたには言われたくなかったわね」
「う……うるしゃぁい!!」
声が裏返ってしまい、甲高い声が出てしまう。
それがおかしかったようで、ルーミアが笑ってくれた。
「さあ行きま――」
>――――――――――<
面倒なことは何故こうも連続して起こり続けるのだろうか……
背中から焼けるような痛みが走る……この痛みは少し前にくらった物と同じだった。
幸いなことにそのことをクロには分からなかったようだ。
これから私にできること……私にこれからできる最善は――
「クロ……こっちよ」
「ルー?」
痛みはなくなるどころか、増す勢いだった。
傷の治りも遅く、やはりなんらかの力が働いているようだ。
そう言えば近くに水の音が聞こえたはずだ。
まずはそこに移動して水辺に沿って行けば――
「大丈夫よ、それよりも走るわよ」
「う、うん」
背中に感じる痛みを我慢しつつ走りだす。
案外近くに川があり、その先には小さな滝を見つけることが出来た。
滝を覗き込むとそこまで高さはなく、飛び込むくらいならできそうだ。
だが、後方からは人間たちの足音が少しずつ近づいてきているのが分かる。
「……」
「ルー? これからどうするの?」
どうするか……
それはもうすでに決めていた。
「クロ……最後の特訓よ」
「え?」
「ここから飛び降りなさい……飛び方がなんとなく分かるわ」
今の私の声は少し震えていたかもしれない。
それが痛みからだったかもしれないし、それとも――
「分かった!」
クロは疑いもせずに飛び込もうとする。
それがなんともクロらしいと思えて、なんとなく安心できた。
「ルーは?」
「私? 私は……その後行くわ」
「絶対来てね! 自分溺れるかもしれないから」
ああ、そのことを考えていなかった。
まあ何とかなるだろう……クロの事だから悪運は強いだろう。
どんどん後ろから聞こえてくる足音が大きくなっていく。
それでも私は慌てることはなく、クロをゆっくり諭していく。
「溺れていたら……何とかしなさい」
「う、うん……頑張る」
「それでいいわ、もう迷惑なんて――」
掛けないでほしい。
そう言いかけて呑みこむ。
代わりに微笑みかける。
それが少しでもクロの恐怖心を和らげるために――
「頑張りなさい……これから」
「うん! ずっと……ずっと頑張る!!」
「そう」
少し……いや、凄く安心した。
普段はそんなこと感じることなどあり得ない。
なんでこんな時に限って安心できてしまったのだろう。
まるで私が死んでしまうかのように思えてしまう……自分で考えて苦笑してしまう。
「楽しみね……クロが立派になるところ」
「すごく時間はかかるけど……絶対ルーを驚かすくらいになるよ!」
「楽しみが一つ増えたわ」
そろそろ時間もなくなってきたようだ。
人間の罵声が少しずつ聞こえてくるようになってきた。
『最後』の言葉をかける。
けれど心に決める……それが――
「行ってらっしゃい――クロ」
「行ってきます!ルーミア!」
私は人間にあこがれていたのかもしれない。
その原因は間違いなく――人間のクロだった。
彼は私にいろいろ教えてくれた。
まあクロには悪いが、頭が悪いし間抜けだから参考になることは少なかった。
でも……それが良かったのかもしれない。
クロだったから良かったし、なによりクロじゃないといけなかったんだと思う。
ただの寄り道が長くなってしまったようだ。
好奇心で手に入れた玩具は、つい先ほど羽を作り飛んで行ってしまった。
もう二度と手に入らないかもしれない。
もう二度と見つけることが出来ないかもしれない。
それでも――
そうだとしても――
「溺れてないといいけど」
そんな皮肉めいたことを口にしてしまうあたり、私は人間くさくなってしまったかもしれない。
憧れだけだったが、いつの間にかそれは『人間になりたい』という願望になっていたのかもしれない。
けれどそれは絶対に越えられない壁。
私は妖怪なのだ……妖怪でしかいられない。
だったら――
なおさら――
「妖怪らしく――行きましょうか」
人間たちの聞こえる方へと足を運ぶ。
今この状態で行っても無謀でしかない。
それでも私は行かなければならない。
なぜなら相手は『人間』で、私は『妖怪』なのだから――
「あなた達は――取って食える人類?」