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あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか?
私は前と変わらない放浪とした毎日を送っている。
何か目的がある旅ではない。
それも前と変わらないのがなんとも不思議だった。
あの馬鹿と過ごした日々がまるで走馬灯のように蘇る。
特に刺激的な生活ではなかったが、ゆったりとした時間だったと思う。
楽しかったかと言われれば……多分楽しかったんだと思う。
当たり障りのない会話とか、頭が痛くなるような会話……これは完璧にあの馬鹿が悪い。
まあそんなこんなで私はあいつと時間を共にしていた。
それが周りの連中にとって、どんな奇怪な目で見られていたのか……今思えば私自身でも信じられない。
だが、今の私が昔の私にそのことを話したならば……逆に疑問に思われるかもしれない。
それほどまでにあの馬鹿に肩入れしていたのだと思うと、ある意味尊敬に値するかもしれない。
その尊敬の対象が自分だと思うと、この考え自体が馬鹿らしく感じてきてしまう。
そんなことを考えているあたり、一人旅が少しさびしくなってきてしまったのかもしれない。
「これは……食べれる山菜よね」
手に取ったのは新鮮そうに見える山菜だ。
だが、それが食べれるのかはあまり覚えていない。
前まではあの馬鹿が進んで毒味をしていたのを思い出した。
その結果寝込んでしまって嫌々私が看病する図が完成したのは……今となってもあまりいい思い出ではない。
「触らぬ神に祟りなし……ね」
山菜を放り投げ歩き出す。
実際山菜など食べる必要もなければ、腹が減っているわけでもない。
食事は本当に腹が減っている時にだけ食べればいい。
昔はあの馬鹿に合わせて食べていただけなので、今となっては問題にすらならない。
「ふう」
日差しが強くなってきたようで、若干眩しくなってきた。
周りに能力を軽く展開し、日光の影響を少なくするように調節する。
代わりに周りからの声がよく聞こえてきたような気がする。
蝉がこれでもかと鳴き続け、私の耳を刺激し続けている……それを恨めしく思いながら歩き続ける。
「暑い」
誰に向けての言葉でもなく、虚空に寂しく響く。
最近独り言が本当に増えてきたと再確認してしまった。
うるさい奴が一人消えるだけでここまで問題になるとは思いもしなかった。
まあそのおかげで苦労しなくなった点もあるので一概には言えないのだが……
パタパタと手で顔を扇ぎながらそう考えた。
手で扇ぎながら考えるようなことでもないかと笑ってしまう……そんな私が気持ち悪くなる。
「さて……今日はどこまで行けるかしら」
私の旅は終わらない。
限りない日々をただダラダラと生きる――なんて幸せなのだろうか。
そこにいつものあの馬鹿がいれば……などと考えてしまった。
それが今となっては絶対に拾い直すことのできない一時だったと思うと、もったいなかったのかもしれない。
けれど後悔はしないと決めていた。
それがあの時の決断であり、そしてあの馬鹿のためになると思うからだ。
私は妖怪で――
黒は人間で――
一人の妖怪は妖怪の道を進み――
一人の人間は人間の道を進み――
ただそれだけの事で――
ただそれだけの事なのだから――
>――――――――――<
「やっぱり……まずいわね」
積み木のように重なっている屍の上に私は座り込んでいる。
そして死んだばかりの人間の四肢の一部を口の中へと持っていく。
だがその全てが『おいしい』を思えなかった。
代わりになぜか自分の中の何かが満たされていく……そんな感じがする。
その何かを満たすだけのために人間を殺す。
そして残さずに食いきるのが今現在の私の常識となっている。
「もう少し味は何とかならないかしら」
そう思って一時期料理してみたことがあった。
結果は言わずもがな失敗で、悲惨な結果になってしまった。
まさかまずいを通り越して、食べ物ではなくなってしまった。
その時は何とか食べきることが出来たが、もう二度としないと心に決めた。
「よし」
口元を拭い、骨だけとなった人間を集める。
そしてあらかじめ掘っておいた地面の中に放り投げ、土を投げ入れていく。
そして近くに落ちていた木の枝を数本立てる。
これで簡易的な墓を建てることが出来た……ある意味馬鹿らしい行動ではある。
「ごちそうさまでした」
墓に向かって手を合わせる。
それによって報われるわけではないが、せめてもの償いの気持ちである。
このような行動をするようになったのは簡単である。
幽霊にでもなって纏わりつかれるのが嫌だし、何より後味が悪いからだ。
昔、何もせずに放置した時があったが、その時は数分もせずに元の場所に戻り同じ行動をしていた。
もう癖となっているのかもしれない――いや、癖なのだろう。
「さて」
簡単な弔いも終わり、さっさとこの場を後にする。
この場で眠ってもいいのだが、流石に墓の近くで眠るのは嫌だ。
近場に川があったはずなので、そこまで行くことにした。
服も体も少し汚れてしまったので、ついでに洗うのもいいかもしれない。
軽く体を見るが、やはり人間の血がベットリと付いていた。
次からはもっと綺麗に食べようと思ったが、よくよく考えたらこの血の大半が返り血なのを思い出し、苦笑してしまった。
>――――――――――<
服と体についた血を軽く洗い流し、焚火をつける。
慣れた手つきで火をつける姿は、結構悲しくなったりする。
何に対する悲しみなのかが今一見当がつかないのがさらに悲しくなった。
まあ所詮どうでもいいことと一蹴し、徐々につき始めた焚火に手を近づける。
じんわりと体の芯から温まり始める。
パチパチと音を立て、少しずつ勢いを増していく。
「……」
風に揺れて幻想のように舞う火の姿が目に映る。
ウトウトとその火に揺らされているような錯覚に陥り、眠くなってきてしまった。
こんな何も対策もせず川辺で眠るのはハッキリ言って危ないはずだった。
そのはずなのに、今日の私はいつも以上に眠かったらしく、数分もせずに意識を手放してしまった。
「ルー! あーさ!!」
ゆさゆさと揺らされているのを感じ、嫌々目を開ける。
そこにはいつもの馬鹿が、太陽のように眩しい笑顔を私に見せていた。
耳に大音量の声が響き、逆に頭が働かない。
いい加減うるさすぎるので、一発頭を叩いてみた。
「ったい! な、なんで!? え……え!?」
なんで叩かれたのかよく分からないようで、そこ等辺を走り始める。
何故走る必要があるか分からない――途中で木にぶつかっているのが目に映った。
木が揺れだし、葉っぱ数枚ひらひらと舞い落ちた。
その葉っぱが風に揺られ、愉快な踊りを私に見せてくれる。
それが私にとっては恨めしくしか思えず、それを切り裂く。
しかし、それをあざ笑うかのようにひらりと避け、その風圧でまた踊りだしている。
「ご飯」
「え?」
「朝ご飯」
私の催促の言葉を聞き、慌てて準備をしだす。
私は溜息をしながらそれを見つめ、終わるのをじっと待つ。
「えっと……こんなのしかなかった」
そう言って私が見た今日の献立――山菜の水煮とキノコの水煮だった。
殴りたくなる衝動を抑え、とりあえず一口食べてみることにしてみた。
山菜のシャキシャキとした歯ごたえと、泥臭い味がした。
キノコが異常に異臭を放ち、口の中で爆発を起こしている。
「まずい」
「いたっ!!」
お礼に結構本気で頭に鉄拳を与えてあげた。
それが嬉しいのか、ゴロゴロと地面を転がっている。
口直しに普通の水を口に含む。
普通に味はしないが、先ほど感じていた違和感は少し和らいだ。
「ごめんなさい……」
「ほらさっさと行くわよ」
「え……? ま、待ってよ!」
馬鹿に背を向けてさっさと歩き出す。
後ろからガチャガチャと後始末する音が聞こえるが無視する。
だが、何時まで経ってもあの馬鹿が来る気配がしなかった。
仕方なく手伝おうと後ろを振り向く――けれど、そこには誰もいなかった。
「……」
溜息をついて歩き出す。
すると前方から何やらざわついている声が聞こえる。
嫌な予感がして、その場から走って移動する。
飛んでいけば一瞬だったのだろうが、この時はそこまで思考が回らなかった。
「ルー」
断崖絶壁の前にあの馬鹿は立っていた。
後方からは人間たちの罵声が聞こえてくる。
あの馬鹿は私に背を向けて、今にも崖から飛び降りそうだった。
けれど、私はそれを止める気にはならなかった――止める必要がなかった。
あの馬鹿の背に小さくも大きいなんとも矛盾した大きさの翼がついていたからだ。
それが今すぐにでも飛ぼうとする準備を私にこれでもかと見せつけているのが分かる。
「ルーミア」
あの馬鹿が私の名前を呼んでいる。
そして崖から飛び降り……ゆっくりと落ちていった。
翼が少しずつ機能していき、一瞬で私の目の前に移動してきた。
流石に私は驚いてしまい、目を見開いてしまった――が、すぐにいつもの自分を取り戻す。
「ルーミア――行ってきます」
「行ってらっしゃい、『――』」
あの馬鹿の名前を呼ぶ。
適当につけた名前を呼ぶ。
安心しきったあの馬鹿は、満足げに空の彼方へと飛んで行ってしまった。
もうどこに行ったのか分からなくなった頃、後ろに大勢の気配を感じて振り返ってみる。
大勢の人間が私を殺す勢いで睨みつけ、粗末な武器を構えている。
そして今にでも襲いかかってきそうな雰囲気だったが……そんな物は脅威でも何でもなかった。
「いただきます」
その言っただけで人間たちは肉塊になった。
そして私は微笑みながらどれから食べようか選別して――
>――――――――――<
川の流れる音がする。
蝉がこれでもかと鳴き続け、起きかけの脳を刺激する。
「あー」
目覚めが良くなく、頭がガンガンと痛みを発している。
川の水で顔を洗い、少しでも肉体と精神を目覚めさせようとする。
顔についた水を服で拭い、大きく伸びをする。
最高の目覚めとはならなかったが、最高の始まりだと思う。
「……」
そう思いたかったが、先ほどまで見ていた夢の一部を思い出す。
夢自体久しぶり見たし、内容も今の自分には釈然としない部分もあり若干不機嫌になる。
それを発散するものは生憎なく、仕方なく焚火の後始末をする。
その工程ある意味一瞬で終わってしまい、本格的に何もやることがなくなってしまう。
「……」
蝉の鳴き声だけは周りに響き続ける。
それがなんだか空しくなってしまい、大きな溜息を吐いてしまう。
とりあえず立ち上がり、周りを見渡す。
ただ近くに川があり、周りは木々でおい茂るっているだけだった。
能力を手の中に展開する。
黒い靄のようなものが手の中に渦巻きはじめる。
それを握りつぶし、決心したかのように歩き出す。
何に対する決心なのかは私自身分からないが、それがある種の引き金となった。
「今日は――何があるかしら」
何の目的もない旅が再開される。
どこに行きつくかも分からないが、どこかに行きつくと信じ、歩き続ける。
ただの妖怪と成り果てた私がこれから何を見るか分からない。
けれど、その『分からないもの』を探すためだけに私は歩き続ける。
そして、少しの期待を持ちつつ歩き続ける。
何を期待しているか……それを考えるのは無粋だろう――
「まあ――悪い気はしないわ」
そんな決め台詞を虚空に向けて言い放つ。
そして私は何も考えることなく、ただひたすら歩き続ける――