誤字やおかしい表現などがあったら教えてくれると嬉しいです。
感想・アドバイス・批評などなど随時受付中です。
第二十生 その男 神と出会う
小鳥がさえずりを鳴らしている。
川が近くで流れている音が静かに聞こえてくる。
そんな中自分は目を覚ました。
体の節々が悲鳴をあげ、小さな悲鳴が漏れてしまった。
「ッ!!」
そして気づく。
自分の周りには誰もいないことに……
「ル、ルー?」
恐る恐る声を出すが、返答は返ってくることはなかった。
それが今どんな状態になっているのかを徐々に分かってきた。
キョロキョロと周りを見渡してみる。
近くに川があり、そして木々が整然と立ち並んでいる……だけだった。
「え、えっと……どうしよう」
考えてみると一人きりになることなんてほとんどになかった。
自分ひとりだけでどうすればいいのか分からなくて不安な気持ちになってきてしまう。
とりあえず……どうすればいいのか考えなければならない。
どうしよう……どうしようか考えないといけないのにその『どうしよう』が分からない。
背中から冷たい汗が流れていく。
恐怖心が大きくなり、どんどん心細くなっていく。
「ルーミア……永琳……」
今はいない二人の名前を呼ぶ。
けれど返事が返ってくることはない。
返ってくるのは川と小鳥の鳴き声だけだった。
それが悲しくて空しくて心細くて……叫びたくなってきた。
「ルーミアァァァ!! えーいーりーんー!!」
自分の声が森の中に響いている。
それに反応して小鳥が数匹飛んで行くのが見える。
叫び疲れてその場に尻もちする形で座り込む。
一人になるのがここまで寂しくて怖いなんて知らなかった。
分からない分からない分からない分からない分からない
これからどうすればいいかなんて自分には分からない。
ましてや考えることすら自分にはできないし、一人では何もできない。
「うーん……そうだ!」
けれど思いついてしまった。
それが最善かどうか分からない。
でもそれで何かが起こるかもしれない。
やってみなければ分からないし、それで駄目だったらまた何かを考えればいい。
そう考えていくとなぜか気分が良くなってきた。
馬鹿なら馬鹿なりに頑張って、馬鹿なりに成果を残そう――
>――――――――――<
まったく意味が分からない。
こんな堂々と潜入し、さらに大声で自分の位置までさらけ出すとは……
ここまで来ると相手はよほど自分の実力を過信している馬鹿だろう。
あるいは、ただ単に馬鹿な奴の可能性もなくはないが……まあそんな奴が私の領地潜入するはずがない。
とりあえず私の実力と言うものを見せて追い返してしまおう。
面倒くさければ吹き飛ばしてしまえばいい……加減の練習にもなるだろう。
目当ての人物を見つけた。
だが何故か私は木に隠れている。
何故面と向かって話をしないのかと言われると……返答に困ってしまう。
まあその……あんな光景を見れば好き好んで接触をしたいとは思えなくなってしまう。
「あーめーよーふーりーたーまーえー」
日中のいい時間に焚火を勢いよく燃えている。
そしてその周りを意味不明な言葉を叫びつつ回り続けている一人の男がいる。
そんな中に威厳たっぷりの私が仮に出てみろ――
とても威厳なんて保てないし、逆に飲み込まれてしまう……いい意味でも悪い意味でもだ。
「さーむーさーをーもーとーめーたーまーえー」
それならばまず焚火を消すべきだろう。
なぜか心の中でそんな言葉を呟いてしまった。
それにしてもこの状況どうしようか。
神にも手が余る事態ってこういうことなのだろうか……今回が特殊なだけなきもするが――
「じーぶーんーはーだーれーだー」
どうやら名前を忘れたとんでもない馬鹿のようだ。
いやいやいや、そんなことより早くどうにかしなければ……
そう言えば何故木の裏で私は悩んでいるのだろうか。
そうだそうだ、相手は人間で私は神なのだ……もう普通に出ればいいだろう。
小さな決心をして恐る恐る木の裏から出ていく。
そしてなるべく気づかれないように人間に近づいて――
「おーなーかーすーいーたー」
「……食う?」
「いただきます」
丁度よく持っていた林檎を手渡す。
そしてそれを素早く受け取った人間をおいしそうに頬張り始める。
シャクシャクと音を立てて林檎がどんどん小さくなくなっていく様子が見える。
それを見て私はなんだか安心してしまい、安堵の表情を人間に……じゃないじゃない、何をやっているのだ私は――
「おい人間……ここは私の縄張り――」
「ごちそうさま! おいしかったよ!」
「あ、はい」
林檎の芯の処分の方法を聞かれ、その辺に捨てていいと言う事を伝える。
満足げに人間は焚火の処分を始めたので、私は善意でそれを手伝うことにした。
数分も立たずに炎は鎮火し、笑顔で人間は私にお礼を伝える。
そして人間は手を振りながら私の前から消えていき、私はそれに小さく手を振り――
「って、違う!」
完全に相手に乗せられていることに気づき、急いで人間を追いかける。
すぐに人間は見つかったが、その人間はさっき消したばかりのはずなのにまた焚火の準備をしていた。
「あ、こんにちは!」
人間は呑気に挨拶してきた。
その行動自体が私の逆鱗に触れているのに気付く様子もない。
「あれ? どこかで会ったような気が――」
「そりゃそうでしょうね! さっき会ったばかりなのだから!」
「あれれ……そうだっけ?」
呆れてものを言えなくなってしまった。
もうこいつを放って置いていい気もするが、それでは私の威厳が保てない。
たかが人間に飲み込まれてしまい、仕方なく帰ったなんて聞かれたらどうなることやら……
事の顛末が分かるし、なにより私自身のふつふつと高まる怒りを抑えることはできそうになかった。
「いい加減にしないと――祟り殺すわよ」
加減をせずに神力と殺気をぶつける。
ここまでくるとかなり大人げないかもしれないが、今の私にそんなことを考える余裕はなかった。
ここまでコケにされるのは初めてだった。
なにより『普通』の人間が『絶対』である神に対する振る舞いがなっていないのだから。
おかしい
何かがおかしい
いや、おかしい原因なんてすぐに分かってしまった
それは何かの間違いだと、何かが間違っていたのだと思いたくなってしまった
けれど――
「どうしたの……そんな怖い顔して?」
――なぜ……そんな反応が出来る!?
>――――――――――<
うーん……なんでだろう。
なぜ目の前の女の子は怖い顔で睨みつけてくるのだろう?
自分が何かやったのだろうと思うのだが、その『何か』が分からない。
その理由を聞こうとも思ったけれど、そういうのは失礼だって永琳が言っていた。
「どうしたの……そんな怖い顔して?」
でも考えても分からなかったから、最終的に聞いてみることにした。
それがどれだけ失礼なのかも分からないけれど、このままにしておくのも失礼だと思うからだ。
すると、女の子は驚きの表情に変わった。
何に驚いているのか分からなかったから、とりあえず周りを見渡したけれど……そこには普通の木と草と土と……あ、空があるのを忘れてた。
「……どうして?」
女の子に何かを聞かれたけれど、何を聞かれているのか分からなかった。
それにしても、質問を質問で返されてしまった……確か、質問を質問で返すのは悪いことだったはずだ。
「だめだよ、質問を質問で返しちゃ!」
「え? あ、はい」
どうやら分かってくれたようで安心した。
自分はいつも言葉が意味不明だったり、不透明だったりするのですごく不安だった。
でもなんとか伝わったようでよかった。
これで言葉と言葉の掛け合い――『会話』が出来る。
「初めまして! 自分は――」
そこで言葉が止まってしまった。
自分はいつも使っている自分の『名前』を教えようとした。
まずは自己紹介して、相手の自己紹介を聞く。
これが初対面の人との話し合いで必ずすることなのだ。
けれど――
そうなんだけれど――
「――名前なんだっけ?」
>――――――――――<
私はどう反応すればいいのだろうか。
なぜか叱られてしまったかと思えば、男は私にその男自身の名前を聞かれてしまっている。
「いや……知らない」
「そっか……知らないのか」
いや、落ち込まれてもどう反応すればいいのか分からないから。
それから大きな溜息吐かれても私はどうしようもないから……もとより感じていた怒りにさらに拍車がかかってくる。
「私は神――諏訪大神の洩矢諏訪子、たかが人間が私と話そうなんて恥を知れ」
「え……神様?」
男は目を見開いて驚いている。
それを見てフフンと罵ってやった。
よくよく考えればかなり馬鹿らしかったかもしれない。
けれど、今まで馬鹿にされていた分を取り返せた気がして、少し調子に乗っていたのかもしれない。
が、そんな行動もすぐにかき消されてしまう。
なぜならあの男が……思っていた以上に馬鹿だったからだ。
「すごい! 神様って本当にいるんだ!! あ、握手!握手してください!!」
「うぇ!? えっと、その――」
「あ! 握手なんて失礼かな……そうだ! 今まで無礼なことしてすいませんでした! あとは……なんか本当にごめんなさい!!」
清々しいほどに謝り続けていた。
それが何だか拍子抜けしてしまい、体中の力が抜けてしまった。
「えっとその……お名前なんでしたっけ?」
たどたどしい敬語を使い、私の名前を聞いてきた。
先ほど言ったはずだが、多分興奮しすぎて忘れてしまったのだろう。
「私は――諏訪子でいいわよ」
威厳を込めようと思ったが、そんな気力も残っていない。
もう半分あきらめに似た感情まで生まれてきてしまっていて……なんかどうでもよくなってきた。
なんだか無性に帰りたくなってきた。
一刻も早くこのおかしな人間から離れたくて仕方なかった。
「えっと、諏訪子さん?」
「……それでいいわ」
本当ならば『様付け』が普通のだが、それを言うのも面倒になってしまった。
もうこんな奴放っておいてしまいたくなったが、もしかしたら隣国の偵察でもあるかもしれないのでそうもいかなかった。
だが、こんな馬鹿が偵察なんて高等な技術を扱える気はしなかった。
演技なんてことも考えられるが、そんなこともできるはずないとなんとなく分かってしまった。
「あーもー! もう怒らないからさっさと帰りなさい!」
「え……諏訪子さん怒ってたの?」
「それはいいから! もう帰りなさい!!」
自暴自棄になりそうだ。
もう威厳なんてものをかなぐり捨てでもこの男から離れたかった。
男は反射的に返事をした後、私に背を向けて走り出した。
と、思ったらすぐに止まり、再度私がいる方向に向きなおった。
「自分の家――どこにもないです!」
なんかもう……
神を呪いたくなった……まあ私が神だけど……
>――――――――――<
「うわぁーー!! すごいすごい!!」
今自分は神様――諏訪子さんの神社にいる。
家がないことを話したら、なぜか諏訪子さんの神社に案内してもらった。
理由を聞いても話してはくれなかった。
けれど、やっぱり神様は優しいのだなと……すごいと思った。
「境内で走らない」
諏訪子さんに注意されてしまった。
そういえば、こう言うところは……なんというか……新鮮な場所だった気がする。
新鮮?
何が新鮮なんだろうか……水かな? 空気かな?
「諏訪子さん! ここは何が新鮮なんですか!?」
「……」
なぜだろう?
大きな溜息を吐かれてしまった。
多分自分が悪いのだろう。
だったら謝ったほうがいいかもしれない。
「諏訪子さん――」
>――――――――――<
もうすでに日が沈もうとしている時間だ。
家に帰るのは当然で、当たり前の行動であろう。
しかし……これだけは言える。
これが今日最大の汚点であり、自分らしからぬ行動だと思う。
「――ごめんなさい!」
なんか……拾ってきてしまった。
もう最終的にどうにでもなれみたいになってしまったが……ハッキリ言ってやってしまった。
ここからどうすればいい?
面倒だが一晩泊めてしまおうか?
ああ……もう考えるのも疲れた。
色々疑問やらなんやら残っているはずなのだが、今はもう考えるのはやめよう。
「あ……諏訪子様、おかえりなさい」
ここで家の巫女の一人が声をかけてきた。
それを聞けて何故だかホッとしてしまうのは仕方ないだろう。
「あの男、何とかしなさい」
「え? それってどういう――」
私は巫女の言葉を最後まで聞かないうちに神社の中へと入る。
後はあの巫女が――巫女たちがなんとかしてくれるだろうし、私はゆっくりさせてもらおう。
そして私は自分の部屋の畳に倒れる。
すでに布団まで敷いてあったのが救いか、脱力しきった体には丁度よかった。
もうこのまま寝てしまおう。
誰かが夕飯のころには起こしに来てくれるだろう。
それがあの馬鹿との初めて会った日の出来事だ。
そして……面倒な日々が起こり続ける序章の幕開けだった――
「いただきます!」
目の前にある料理に手をつける。
その一つ一つの料理が全部美味しくて、お腹の中にしみこんでいく。
「おいしいです!」
「あら、それはよかった」
女の人が小さく笑って返事をしてくれた。
そして自分はなるべく綺麗に、かつ出来る限り早く口に食べ物を入れていく。
久しぶりにおいしいものを食べた。
これをルーミアに作って上げれれば良かったのに――
「……」
ルーミアはいない。
あの時ルーミアはついて行くと言った。
けれどルーミアはいない。
ルーミアは嘘をついたのだろうか?
「あの――」
――そんなの分かんない。
でも、これだけは決めた……絶対に決めた。
「――これの作り方教えてください!」
絶対絶対絶対に……
おいしい料理をルーミアに作ってあげることを――