東方劣化伝   作:籠の中の鳥

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野暮用で少し遅れました。
それに、今回は内容が飛躍しているような気がして心配です……

誤字やおかしい表現などがあったら教えてくれると嬉しいです。
感想・アドバイス・批評などなど随時受付中です。


第二十四生 その男 風雨の神と出会う

 

 

 作物が実をつけ、農民たちが冬を越すための準備に追われている。

 その作業を手伝う一人の男がいたが、要領が悪いのか、はたまた効率が悪かったのか分からないが、持っていた籠を落としてしまい、慌てて拾い集める。

 見かねた老人が、善意でそれを手伝う。男は笑顔でお礼を言った後、急いで籠を目的の場所へと持っていく。

 

 見慣れた光景、恒例と化した男の姿は見るものを和ませ、そして季節の変わり目を意識し始める。

 男としてはそんなつもりはなかったが、その光景を見続けている者たちにとってはそう感じるらしい。そんなことをよそに、男は働き、男は頑張り続ける。

 

 平和な日常が何年も過ぎた。

 様々な四季が過ぎ、今年もまた過ぎていくのだろう。

 

 そんな折、一通の便りが届く。

 その便りを読む神は、少しばかり苦い表情となる。

 

 

「面倒ね」

 

 

 そんな言葉から始まる。

 そんな言葉から新たな非日常が生まれる。

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

 私は悩んでいた。

 いや、悩む必要もなく悩んでいた。

 

 とりあえず何をすればいいのかは分かっていた。

 けれど、行動を起こすということは、何かの始まりを意味する。

 

 

「あー」

 

 

 声を出さずにはいられなかった。

 その声を苦い顔で聞いている巫女が横にいる。

 

 その巫女もまた、今回の事柄に悩んでいた。

 一人よりも二人で考えれば効率は上がると言うが、今回は二択を解く簡単な問題であり、難解な問題なのだ。

 

 

「どうしますか?」

 

 

 神として、一国の神として、その質問に答える言葉は一つしかない。

 今さら起こってしまったことに悪態をつくわけにもいかず、溜息を挟みながら答えた。

 

 

「こんなのに了承出来るわけないわよ」

 

 

 来るべき時が来たと言うか、とうとう来てしまったかという事か、どちらにせよ面倒なことが始まるのに変わりはない。

 何よりも、今回起こりうる一つの可能性を視野に入れると、さらに面倒なことが考えられ、これからの行動も気をつけなければならない。

 

 今までが平和すぎたのかもしれない。これほどまで平和をかみしめていた時期はなかったかもしれない。

 まあ、もう泣きごとを言っていられないし、そこまで慌てていない自分もいるので、今回の事柄も受け入れられる。

 

 

「戦争――ね」

 

 

 軽い口調で言ったが、内容はとても重いものだ。

 巫女もその言葉を聞き、顔を強張らせているが、少しだけ震えているのが見て取れた。

 

 威厳を保ちつつ立ち上がり、巫女の肩を軽く叩く。

 自信たっぷりな表情になりつつ、巫女に声をかける。

 

 

「大丈夫、それとも私が負けるとでも?」

 

 

 巫女がどんな表情をしているのかは分からないが、私の心情はすでに決まっていた。次の行動も決まっているし、何をどうすればいいのかも決まっている。

 だからこその余裕、例え苦難であったとしても、私から見ればそんなものは苦難でも何でもない。

 

 だからこそ口を開く。

 だからこそこの言葉が生まれる。

 

 

「とりあえず……ご飯」

 

 

 寝起き一発目の言葉があれは流石に堪えた。

 それに働かない頭を必死に動かしたせいで、腹が空いて仕方なかった。

 

 いや……起きてそうそう、あんなこと言われて威厳たっぷりになるのは辛かった。

 眠い目をこすりつつ、新たな一日を噛みしめつつ、後ろで溜息が聞こえた理由を考えつつ、私は今日のご飯を楽しみにしていた。

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

 今回届いた頼りの内容を簡潔に説明するならば、私の国を渡せと言うことだ。

 脅迫めいた中身であるが、実際脅迫でしかないし、その内容を頷くわけにもいかなかった。

 

 そうすると、相手はどうなるだろうか。

 今度は武力をもって支配しにくるだろう。

 だからこその戦争であり、私はそれを迎え撃つ形となる。

 

 

「うーん」

 

 

 そこまではいい。

 戦うことだって別にかまわない。

 

 問題は手紙の最後にあった

 相手側は、この返答を便りではなく、巫女による申請を要求してきた。

 

 つまり人質だ。

 聡明なのか、悪知恵なのかは置いておくとして、痛手を負うことは必須である。巫女は私にとって必要な存在であり、信仰において特別な存在なのだ。

 民にとって信仰すべきなのは神であるが、その媒介として必要なのが巫女である。その巫女を人質にとられたとなれば、信仰に影響があるかもしれないし、民の信仰が揺らぐ可能性に繋がるだろう。

 

 だからと言って、便りで渡すことも不可能だろう。

 多分だが、相手の方は便りのみの場合は読まない可能性もあるのだ。今回私が『行おうとする』事すら果たせないで終わるだろう。

 そうなれば民に被害は必ず生まれ、私の存在自体危うくなってしまう。なので、相手方の要求をのむしかなかった。

 

 

「私は……覚悟できています」

 

 

 巫女は死を覚悟しているだろう。

 最悪新しい巫女を立てる事も出来なくはないが、それにも時間がかかる。そして何より、個人的にそれを了承したくなかった。

 

 溜息をはく。

 天井を見上げ、これからどうするのかを模索する。

 

 

「た、ただいま」

 

 

 そして聞こえた男の声、聞きなれたその声を聞き、少しだけ安堵する。

 あの馬鹿とは、すでに百年近く共に過ごした。それだけあって、あの男の存在も私の信仰の媒介となりつつ……なりつつ……

 

 

「あ」

 

 

 思いついた。

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

「では、行って参ります」

 

「ええ、気をつけてね」

 

「えっと……行ってきます?」

 

 

 どういうわけなのか分からないけれど、自分は巫女さんと一緒に『あるところ』まで行くことになった。

 しかも、服も用意された物に着替えさせられた。巫女さんとそこまで変わらない巫女服だが、これは男が着ていいのだろうか?

 それに、なぜか髪型とか化粧もしてくれた。初めての経験なので、不思議だったし楽しかったことには変わりはないけれど……

 

 

「お、思ったより似合ってるわよ」

 

 

 諏訪子さんはなぜか動揺していたけれど、理由まで分からなかった。

 巫女さんも不思議そうに自分を見ていたけれど、そこまで酷い格好なのだろうか?

 

 そう言えば、どこに行くのかと言うと、隣国の神様のところのようだ。

 自分は諏訪子さんしか神様に会ったことがなかったから、少し楽しみなのだが、行く理由までは教えてくれなかった。

 それに結構危ないとも言っていたので、その時は巫女と一緒に逃げるようにと伝えられた。

 

 その後も色々言っていたが、自分には少し難しくてあまり覚えていない。

 強いて言えば、神様の前では絶対に話すなと言っていたくらいだ。自分が話すと、神様を怒らせてしまうからだ。

 

 とりあえず、どうすればいいかは諏訪子さんから聞いたので大丈夫だろう。

 それに、巫女さんもいるし大抵の事は大丈夫だと思う。巫女さんは強いし、状況判断も良いと諏訪子さんも言っていた。

 

 そんなこんなで自分と巫女さんは歩きはじめる。

 自分は神様に会える楽しみを胸にしまいこみつつ、旅が始まった――

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

 結論から言えば、歩き疲れたこと以外は何事もなく着いた。

 珍しく妖怪に襲われることもなく、数週間程度で目当ての国についた。

 

 巫女さんが言うには、常に神様に見られている気がするとも言っていた。

 千里眼とかそういった類だとも言っていたが、ハッキリ言って分からなかった。分かることと言えば、やっぱり神様はすごいんだなと思うことくらいである。

 

 村についた自分達は、周りの人から情報を聞いて、どこに神様がいるのかを聞いた。

 変な表情をされた理由は分からないけれど、神様がいる神社の場所を教えてくれた。途中で、巫女さん二人だけで大変だねと言われた。

 自分は巫女じゃないと言いたかったけれど、諏訪子さんに変なことを言うなと言われているので、ここにいる間は喋らないと決めていたので我慢した。

 

 村人とも別れ、神社の鳥居の前についた。

 巫女さんが言うには、凄い神力を感じるみたいだけれど、自分には感じることが出来なかった。

 

 鳥居をくぐると、諏訪子さんの神社とはなんとなく雰囲気が違う感じがした。

 そして、その神社の巫女さんがやってきて、神様たちが待っている場所まで案内してくれた。

 

 襖の向こうに自分が知らない神様がいると思うと、すごく楽しみだった。

 一方の巫女さんは大きな深呼吸をしていた。多分とっても緊張しているんだと思って、自分も大きな深呼吸をしてみる。

 

 意を決したように、巫女さんが襖をゆっくりと開ける。

 そこにはジッとこちらを眺めている神様たちが何人も座っていた。

 

 

「諏訪の巫女様です」

 

 

 そう言うと、案内してくれた巫女様はお辞儀をして去っていった。

 お辞儀をして座る巫女さんに習って、自分もお辞儀をして座ることにした。

 

 

「ほう、巫女二人か」

 

「はい、道中の安全面を考えた結果、二人で行くようにと言われたので」

 

「どうやらそちらの神は聡明なようだ」

 

「恐れ入ります」

 

 

 巫女さんがもう一度お辞儀をしたので、同時に自分もお辞儀をする。

 でも、巫女さんが二人いると言うのはどういうことだろう、巫女さんは一人しかいないのに……

 

 

「ところで……早々に答えを聞かせてもらおう」

 

 

 自分から見て目の前にいた女の神様が言った。

 巫女さんはチラッと自分の様子を見た後、表情を鋭くして答えた。

 

 

「申し訳ありませんが、そちらの考えには了承できません」

 

「ほう……聡明だと思っていたが、そうでもなかったようだ」

 

 

 最初に話しかけた男の神様が笑いはじめると、伝染するように周りの神様も笑いはじめた。

 なんで笑っているのかも分からないけれど、巫女さんはとてもつらそうな表情になったように思える。

 

 その笑い声も途中で終わった。

 女の神様が片手で静めたからだ。

 

 

「それがそちらの答えか、どうなるかは分かっての判断だろう」

 

「はい」

 

「ならば……貴様らもどう言った立場にいるか分かっているのだろうな?」

 

 

 女の神様が自分たちを睨みつけてくる。

 巫女さんがビクッと肩を震わせ、手を強く握りしめる。

 

 自分は状況を飲み込めず、ただ見ていることしかできない。

 けれど、巫女さんがとても焦っていることと、神様が怒っていることくらいは分かった。

 

 

「ふむ……これに耐えるとは中々鍛えているようだな、特に後ろにいる巫女は」

 

 

 後ろにいる巫女?

 巫女さんの後ろにいるのは自分だけど……もしかして自分の事なのだろうか。

 

 神様は自分を見ているようなので、多分自分なのだろう。

 もしかしたら、自分が巫女さんの格好をしているから間違えているのだろうか。

 

 

「お主、名を名乗れ」

 

 

 自分は喋ってはいけない。

 けれど話さないと失礼なのかもしれない。

 

 どうすればいいのだろう?

 そう悩んでいると、自分は巫女さんに肩を叩かれ、話してもいいと言われた。

 

 じゃあ自分は話してもいいのだろう。

 巫女さんが言ってくれたのだから間違いはない。

 けれど、神様たちに失礼のないように考えながら話そう。

 

 

「自分はスイと言います」

 

「スイ……お前男か?」

 

「はい」

 

「な、なぜそんな服を着ている」

 

 

 その理由は自分には分からない。

 知っているのは巫女さんと諏訪子さんくらいだろう。巫女さんに聞こうとしても、何故か苦笑いしかしてくれなかった。

 

 少し悩む。

 話す内容を考えながら、失礼のないように……

 

 

「分かりません」

 

「舐めているのか?」

 

 

 巫女さんが小さな悲鳴を上げる。

 神様がすごく睨んでいるのは分かるけれど、悲鳴を上げるほど怖かったのだろうか?

 

 それに、それ以外の事でも分からないことがあった。

 巫女さんが喋ってもいいと言っていたので、多分何をやってもいいんだと思う。

 

 

「舐めるって……自分何も舐めてませんよ?」

 

 

 驚きの表情に染まる神様だけど、なんで驚くのだろうか?

 ここにきてから、いやここに来る前からだけど、一体何がどうなっているのだろう。

 

 疑問しか生まれない。

 なんでここにいるのかも分からないし、何の話をしているのかも分からない。

 

 

「貴様ら! 我ら神を愚弄しているのか!?」

 

「え?」

 

 

 近くにいた神様が立ち上がりながらそう言った。

 怒っているのは分かるけれど、なんで怒っているのか分からない。

 

 巫女さんが小声で逃げる用意をしろと言ったが、何故なのだろう。

 自分の中には疑問しかないし、次にどういう行動をとればいいのかも決まっていた。

 

 

「貴様らなんぞ、我らからすれば――」

 

「あの!!」

 

 

 腹の底から声を出す。

 巫女さんと神様が驚いた表情で自分を見ている。

 

 多分自分は怒っている。

 取り残されているこの状況に、そして置いて行った周りに対して――

 

 

「これ……何の集まりなんですか?」

 

 

 ムスッとした表情になりながらそう告げた。

 皆してずるいよ、自分が馬鹿だからかもしれないけれど、自分だけ置いてけぼりにするなんて酷い!

 

 単に馬鹿でついていけないかもしれないけれど……

 それを引いても酷いと思う。分かりやすくとは言わないけど、説明がないよりはして欲しかった。

 

 そして何故か目の前の女の神様が少しずつ笑いはじめた。

 それがなんだか腹ただしくて、自分は出来る範囲で睨みつけ……ていればいいけど――

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

 珍しい。

 いや、初めてだった。

 

 ここまで面白い人間を見たことがあっただろうか。

 男が巫女服を着ており、さらにここにいる理由すら分かっていない。

 

 馬鹿にされるとはまた違った感覚が私を支配している。

 その感覚自体がおもしろく、新鮮な感情を生み出している。

 

 

「スイだったか……お主は馬鹿か?」

 

「馬鹿……です、だから質問してるんです」

 

 

 笑うのを必死に抑える。

 目の前で多分怒っているのであろうスイに失礼がないように……

 

 

「それはすまんな、この会合はだな、簡潔に言えば戦争の話だ」

 

「せん……そう……?」

 

「神奈子殿、たかが人間に対して何を――」

 

 

 呆れた神がそう私に呟く。

 無理もないだろう、聞き様によっては、いま私がしていることは人間の下手に出ているように見える。

 

 それを無視し、私はスイの返答を待つ。

 今この男が何を思い、次に発する言葉を楽しみに待つ。

 

 

「戦争って……何?」

 

 

 その言葉を聞いて私は数秒の沈黙の後、声を張り上げるように笑ってしまう。

 他の神がどんな表情で私を見ているのかは分からないが、そんなことを忘れ、ただ笑う。

 

 数瞬の笑いを何とか抑え、スイに向き直る。

 ニヤリと笑みを浮かべつつ、巫女へと視線を移す。

 

 

「巫女よ、おそらくは戦いの仕方は決めてあるだろう?」

 

「え……はい、こちらは一対一での戦いを要求させて頂きます」

 

「ほう、被害は最小限に……だな」

 

「神奈子殿!」

 

 

 先ほどから立ち続けている神が口うるさく声を上げる。

 それが私の気分を阻害し、邪魔でしか感じなくなってくる。

 

 

「先ほどから聞いていれば、戯れが酷過ぎで――」

 

「黙れ」

 

「ッ!」

 

 

 睨みつける。

 そんな単調な動作だけでその神は口を閉じてしまう。

 

 

「そっちの条件は飲む、お前も帰してやろう」

 

 

 ただしと付け加える。

 ここからは完全に私情であり、先ほど言われた戯れでしかない。

 

 けれど、そうであっても気になったものは仕方ない。

 これほどまで面白い存在が今まであっただろうか。少なくとも私は見たことがなかった。

 

 

「この男は置いて行ってもらう、殺しはしないから安心しろ」

 

「えっ?」

 

 

 巫女は驚きつつも、反論しようと口を開く。

 その行動を予知したかのように、睨みつけると開いた口を閉ざした。

 

 巫女は一言、二言とスイに声をかけると、部屋から出ていった。

 スイはどうすればいいのか分からずに、キョロキョロと周りを見始める。

 

 

「さあ巫女は帰った、解散でいいだろう」

 

「しかし……いいのですか、簡単に帰してしまって」

 

「代わりはこいつを置いて行かせただろう?」

 

「神奈子殿がそう仰るならいいですが……」

 

 

 その神の言葉を最後に、徐々に神たちが部屋から出ていく。

 おそらく本来の持ち場へと移動し始めたのだろう。それを確認し終えた私は、スイの目の前まで歩き、見下ろす形で言い放つ。

 

 

「さて、私は八坂神奈子だ、よろしくでいいかな?」

 

「え、えっと……よろしくです?」

 

 

 こうして私はスイと出会った。

 面白いことが始まるのか、はたまた騒動の発端となりえた存在なのか。

 

 それはこれから見るとしよう。

 どうせ先は長く、未来など分からぬものなのだから……

 

 

 






「いいですか、絶対に助けに来ます……諏訪子様が来るまで待っていてくださいね」


 そう言って巫女さんは行ってしまった。
 また何が起こっているのか分からなくなってしまった。

 戦争が何なのか分からない。
 自分がどうなるかわからない。
 一体何が起こり始めているのか分からない。

 いつも以上に分からないことが続きすぎて頭が痛くなりそうだった。
 そんなことを気にせずに女の神様が話しかけてきた。自己紹介をしてくれたけれど、自分は言葉を返すことくらいしかできなかった。

 ただ、自分には心配なことがある。
 これから何が起こるか分からない。けれど、なんだか嫌なことが起こり始めているような気がした。


「諏訪子さん……」


 少し怖くなって小声でささやく。
 諏訪子さんに聞こえるわけないけれど、心配そうに囁くことしか自分にはできなかった。


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