東方劣化伝   作:籠の中の鳥

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今回は珍しく場転を少なくしてみました。
なので、少しおかしい表現や無理やりなものもあると思います。その時は一言下さると嬉しいです。

誤字やおかしい表現などがあったら教えてくれると嬉しいです。
感想・アドバイス・批評などなど随時受付中です。


第二十五生 その男 空を夢見る

 

 

 空を見上げると、丸くて黄色い球体が自分を見下ろしている。

 手を伸ばしても、背伸びをしたって届かないのは分かっている。それでも、いつかは届くと信じて頑張り続けている。

 

 何年でも――

 何十年でも――

 年百年でも――

 何千年でも――

 何億年でも――

 

 飛ぶことに執着し始めたのは何時頃だったろうか?

 そうだ、ルーミアがはじめて飛んだ姿を見た時だった。

 あれから随分時間が過ぎてしまったけれど、あの時の感動を忘れたことはなかった。

 

 とぶんだ――

 飛ぶんだ――

 跳ぶんだ――

 

 心の底から思い続けている。

 そう思い続けていた時、自分はまた大切な繋がりを無くしてしまった。

 自分の欲望を、我がままを押し通した結果、目の前にあったはずの絆をどこかに落としてしまった。

 

 自分は馬鹿だから仕方ない。

 そんな一言で終わる話ではない。

 

 ならどうすればいいのだろう。

 見つけるために努力をしなければならない。たとえ、自分が傷ついたとしても、それは償いだ。償っても償いきれない、二人に対しての償い。

 

 哀れだろう――

 憐れだろう――

 

 自分がみんなにどう思われているのかは分からない。

 必死に頑張ったって、どんなに努力を積み重ねたって、何かを成し遂げたって、それは普通の事なのだから。

 

 頑張るのは普通だ――

 努力はみんなする――

 そして成し遂げる――

 

 全部普通の事なのだ。

 でも、自分にはそれが出来ない、やれない、掴めない。

 だからこそ、何倍も頑張らないといけない。何倍も努力をしないといけない。何倍も成し遂げないといけない。

 

 馬鹿だって言われてもいい。

 情けないと言われてもいい。

 

 哀れみの言葉なんていらない。

 憐れみの言葉なんて必要ない。

 

 どこまで頑張れるのだろうか。

 自分はどこまで頑張ればいいのだろうか。

 分からないからこそ楽しいし、行きつく先が分からないからこそ頑張れる。

 

 永琳は言った。

 分からないのは恥ずかしいことじゃない。

 

 分からないのは当たり前なこと、それを聞くのも当たり前なこと。

 けれど、その分からない事を聞くのが、普通の人は恥ずかしいそうだ。

 分からないことを分からないままにする方が恥ずかしい。けれど、聞くにしたって恥ずかしい。色々複雑なんだって思ったけど、自分は聞いた方がいいと思う。

 

 分からないのが分かる。

 分からないのが分からない。

 

 はたしてどっちがいいのだろうか。

 自分はもちろん……あれ、どっちだろう?

 

 そういえば、なんでこんなこと考えているのだろうか?

 思いだそうとすると、頭がぐちゃぐちゃになるような感覚になって、気持ち悪くて仕方ない。

 

 ここはどこだ?

 自分はどこだ?

 

 自分は――

 自分は――

 自分はスイ

 

 これはなんだ?

 なんで自分はこんなところにいるんだろうか?

 

 疑問しか湧かない。

 疑問しか分からない。

 

 空が――

 木が――

 土が――

 

 割れる――

 われる――

 ワレル――

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

 日がまだ昇らない時間に、自分は目が覚めてしまった。

 おかしな夢を見ていた気がして、頭がガンガンと叩かれるような痛みを感じる。おまけに喉が渇いてしまっている。水を飲もうと思って布団から出ようとして気づいた。

 

 ここは諏訪子さんの神社ではない。

 自分にもよく分からない所の神社だ。

 

 ここに来た理由も分からなければ、なぜか巫女さんにも置いていかれてしまった。

 捨てられたのかな、そんな『ありえない』と思いたくなることが頭をよぎってしまう。鳥肌が一気にたち、悪寒がこれでもかと言うくらいに背中に何度も走る。

 

 でも、巫女さんは絶対に助けるとも言っていた。

 となると、置いていかれたわけじゃない。その考えに至った時に、安心して肩の力が落ちる。鳥肌も落ち着き、悪寒もきれいになくなった。

 

 次に新しい問題が出た。

 この神社のどこに井戸があるのか分からない。

 

 我慢できないことはないが、出来れば渇きを潤したい。

 まあ、歩いていればいつかは着くかな。そんな楽観的な考えがよぎり、とりあえず襖を開き、歩きはじめる。

 

 こんな大変な時でも、月は等しく、平等に照らしている。

 それがなぜか嬉しくて、鼻歌交じりに歩くこととなった。こんな自分でも、月は自分を見ていてくれる。

 

 永琳だって頑張って――

 ルーミアはどこにい――

 

 

「あれ?」

 

 

 そう考えていると、縁側で座っている人がいた。

 確かあの人、あの神様の名前は――なんだったっけ?

 

 

「ん? 起きたのか」

 

「えっと……おはようございます?」

 

「まだ夜だから『おはよう』はおかしいな、せめて『こんばんは』だ」

 

 

 その女の神様は、お猪口に酒を酌み、一気に飲み干した。

 その一連の動作が、あまりにも綺麗だったのか分からないけれど、その場で立ちつくしてしまった。

 

 それに気づいた女の神様は、自分の隣に座るように指示した。自分はぎこちなくなりつつも、女の神様の隣に座った。

 女の神様は満足げに微笑みつつ、余っていたお猪口に酒を注ぎ、それを自分に渡した。

 

 いきなりの事で驚いたが、こぼさないように受け取り、女の神様を見つめる。

 そういえば、前まで付けていた後ろの『丸いやつ』がなくなっていた。もしかしたら普段はつけていないのかもしれない。

 

 おぼろげにだけど、女の神様の名前を『思い出して』きた。

 確か名前は、八坂神奈子さんだった気がする。おぼろげだったので自信はないけど、多分これであっているはずだ。

 

 

「乾杯」

 

「か、乾杯」

 

 

 何に対する乾杯なのか分からないけれど、一応それに合わせて返した。

 喉が乾いていて丁度よかったので、一気に飲み干した。度もほどよく低かったので、喉の渇きは少し治まった。

 

 

「ほう、よく飲めたな。神でも飲めぬ愚か者もいる強さなのだがな」

 

 

 神奈子さんのお猪口の中身がなくなっているのに気付き、酒を注ぐ動作をする。

 ほうと感嘆の声を上げつつ、お猪口を差し出され、そこにこぼさないように注いでいく。実は諏訪子さんに何回もやらされたので、少し自信があった。

 

 こぼさないギリギリのところで注ぐのを止め、酒びんを自分と神奈子さんの間に置く。

 そして、自分のお猪口にも酒が入っていないのを思い出し、注ごうとしたら、神奈子さんがすでに酒びんを持っていた。

 

 どういう訳なのかをすぐに理解した自分は、感謝の念を送りつつお猪口を差し出す。

 そして、慣れた動作のように酒がお猪口に注がれ、零れる一歩手前で止まった。今度は一気に飲むようなことをせず、ほんの少しだけ飲み込んだ。

 

 

「面白いやつだな」

 

「えっと……自分ですか?」

 

「ああ、神が勢ぞろいしたあの場で、よくあそこまで大口を開けるものだ」

 

 

 そうは言われても、あの時は自分でもよく分からない行動していたなと思う。

 久しぶりに怒った気もするし、何より神様の前だってこともすっかり忘れていた。よくよく考えれば凄く失礼なことだったと思うし、少しだけ後悔していた。

 今さら取り消せることでもないので、どうしようもないのだけれど、神奈子さんくらいには謝ってほうがいいだろう。

 

 

「えっと、あの時はしつ、失礼しました」

 

「フッ、そんな言葉遣いはしなくていい。無理をしているのが見え見えだぞ」

 

「ア、アハハハ……はぁ」

 

 

 思わずため息、やっぱり敬語は慣れないし、諏訪子さんに何回も駄目出しをもらっただけの能力はあった。

 本当に失礼だなと思いつつも、どうやって謝ればいいかを考える。出来るだけ失礼のないように、出来るだけ自分らしさを出して。

 

 

「自分バカだから……あの時のこともよく覚えてなくて」

 

「よく自分が馬鹿だと言えるな、男がなよなよするんじゃないよ」

 

「そうかなぁ?」

 

「そういうものだ」

 

 

 謝ろうとしたら、何故か弱音が出てしまった。

 それに神奈子さんは助け船を出してくれた。神様の言葉だけあって、説得力もあったし、少しだけ自信が出た。

 

 自分は謝ることも忘れて、高揚とした気分でお猪口を傾ける。

 久しぶりのお酒だったはずなのに、全く酔いが回ってこない。むしろ、意識が覚醒して気がする。

 

 来た時はどうなるか心配で、怖かった気がするが、今は微塵も感じない。

 神奈子さんも、思っていたよりも優しくて、自分を励ましてもくれたし、何より話していて楽しかった。

 

 

「そういえば、なんで自分ここにいるんだろう?」

 

「……本当に知らないようだな、今回の経緯を」

 

「うん、なぜか巫女さんの服も着せられたし……」

 

 

 着心地は良かったけれど、と付け加えると神奈子はクスッと笑った。

 なぜ笑ったかは分からないけど、馬鹿にされた気がする。それに対抗するかのようにお猪口を一気に傾ける。

 

 

「まあいいさ、ついでだし教えてやる」

 

 

 そこから始まったのは、自分でも分かる至極簡単な話だった。

 諏訪子さんの領地が欲しくなったので、便りを渡して、その答えを巫女さんに頼めと、そう言う話だった。

 

 でも、なんで諏訪子さんの領地が欲しくなったのだろう。

 自分は分からなかったので質問すると、それにも簡単な答えが返ってきた。

 

 

「欲しいのに理由が必要か?」

 

 

 ただ欲しい。

 それだけ答えると、神奈子さんはお猪口を煽る。

 

 どちらのお猪口に酒がなくなり、交互に酒を注ぐ。

 納得はできないけれど、明確な意図はないけれど、説得力がある言葉を聞いた。それに返す言葉が見つからず、自分は月を見上げることしかできなかった。

 

 

「スイ……だったか、お主は諏訪のなんだ?」

 

「諏訪子さんの?」

 

「諏訪子……諏訪神の名か」

 

 

 模索するけれど、その答えは諏訪子さんにしか分からないと思う。

 逆に、自分は諏訪子さんの何なのだろうか。諏訪子さんにとっての自分は分からないけれど、自分にとっての諏訪子さんが何なのかくらいは分かると思う。

 

 考えたことがなかったので、思いきり悩んでしまう。

 自分にとっての諏訪子さんは一体何なのか。簡単そうで難しい問題で、難しそうで簡単な問題だった。

 

 まあ結局は難しい問題だと思う。

 明確な答えがない問題を、自分は解く自信がない。

 

 

「自分は……邪魔なのかな?」

 

 

 寝起きで思ってしまったあの事を、なんとなく言葉にしてしまった。

 その瞬間、あの時に感じた背中をザワザワと走る感触が気持ち悪いくらいに感じた。

 

 でも、その考えを覆すようなものを、自分は持ち合わせていない。

 自分が馬鹿だからかもしれない、『かも』という可能性でしかないけれど――

 

 もしかしたら――

 可能性だけど――

 ひょっとして――

 

 お猪口に写る自分の姿を見つめる。

 そこには自分の顔と、いつも照らしてくれる月が輝いている。

 

 

「お前らしくない、と言えるほど長い付き合いではないがな」

 

 

 一呼吸、そしてお猪口を一気に傾けた神奈子さんは、ジッと自分の目を貫くように凝視する。

 でも、それには恐怖を感じるようなものはなく、逆に安心するような温かさに満ち溢れているような気がした。

 

 

「そう悲観的になるな。邪魔であればあの時『助ける』なんていわれないだろう。諏訪の事は知らぬが、噂によれば国は豊かと聞く。それほどの器をもつ者が、お前ほどの男を見捨てるとは思えない。それに」

 

「それに?」

 

 

 神奈子さんは自分の肩を強く叩き、深みをもつ笑顔をする。

 それの意味するものを自分は知らないけれど、次の言葉を期待し、そして緊張して待つ。

 

 

「お前ほどの魅力を持った男をそうそう手放しはしないさ」

 

「み、魅力?」

 

「まあ自分の魅力なんて、自分には分かりやしないさ。人それぞれ、いや神それぞれだが……そういうものさ」

 

 

 自分に魅力なんてものがあるのだろうか。

 そんなわけないと言いたいけれど、神様が言うことに間違いなんてないだろうし……

 

 

「そうだな……何か成し遂げたいことでもないのか?」

 

「え?」

 

「単純なことだろうが、そういうものは応援したくなるものだろう?」

 

 

 そこに惹かれる者もいる、そう言って神奈子さんは自分でお猪口に酒を注いだ。

 自分の成し遂げたい事、やりたい事、何としても手に入れたいもの、その答えは一つだけ、今の答えは一つだけだ。

 

 

「空を……」

 

「ん?」

 

「空を飛ぶ……こと」

 

「ほう、人間が空を飛ぶか、なんとも面白い……いや、素晴らしい夢だ」

 

 

 空が飛ぶのが自分の夢、聞こえはいいかもしれないけれど、普通は能力か、力があるものでもない限り不可能なことだ。

 自分にも能力はあるけれど、この能力は逆に自分の夢を遠ざかせるような代物である。でも、自分はこの能力を恨みはしない。

 

 なぜなら感謝もしているから。

 この能力には何度も助けてもらった。無意識でも、制御できなくても、助けてもらった。

 

 だからこそ、この能力を持ちつつ空を飛びたい。

 いつも憧れていた空を飛び、そして月まで飛んでいきたい。

 

 その時は一人じゃない。

 永琳だって、ルーミアだって、諏訪子さんだって……

 

 

「神奈子さんも」

 

 

 自分は反射的に、そして意図的にその言葉が出てしまった。

 けれど、自分の意思は変わらない。この考えだって絶対に自分の意思なのだから。

 

 

「神奈子さんとも一緒に飛びたいな」

 

 

 過ごした時間は少ないけれど、そう思える確信があった。

 みんなと、今まであったすべての人と仲良く空を飛びたい、それが自分の夢であり願望、そして実現したい未来だ。

 

 

「私も……一緒にか?」

 

「うん! 世界中の人たちと! 世界中の妖怪さんと! 世界中の神様と!」

 

 

 興奮して縁側から立ち上がり、庭の真ん中まで走ってしまう。

 ピョンピョンと飛ぶ練習をして、今からでも練習を始めたい気分になる。

 

 でも、今は神奈子さんがいる事を思い出して、急いで神奈子さんのいる場所に振り向く。

 そこには顔を伏せて、肩を震わせている神奈子さんがいた。流石に怒ってしまったのかもしれないと思い、少し怖がりながら近づく。

 

 

「ハッハハハ!!」

 

 

 思っていた反応と違くて、驚きつつ数歩下がってしまう。

 神奈子さんは自分の前まで歩み寄り、自分の髪をぐしゃぐしゃとかき回す。

 

 久しぶりのその感覚がくすぐったく、そして気持ちよく感じつつも、その手を引きはがそうとする。

 当然、力の差がありすぎて引きはがすことはできず、手は神奈子さんの手首を掴むので精一杯だった。

 

 

「それでいい! その思いを絶対に忘れるな!」

 

「う、うん!」

 

「よし、じゃあ少し教えてやろう」

 

 

 そう言って数歩下がる神奈子さん、どういうことなのか分からず、声をかけようとする。

 その瞬間に感じる浮遊感、どういうわけだか分からず、周囲を見渡してみる。すると、今まで見た光景とは少しだけ違っていた。

 

 低い。

 今まで見ていて光景が低く感じる。

 そして下を見てはじめて分かった。

 

 

「と、飛んでる!?」

 

「私の力だ、感覚を覚えておきなさい。飛ぶための足がかりになる」

 

 

 感動よりも驚愕が心を占める。

 体の感覚がなくなり、手や足が空を切る。

 

 そんなおかしな感覚に囚われ、自分がどこにいるのかも分からなくなってしまう。

 徐々に自分の体が地面に近づき、足が地面についた瞬間、体の感覚が一気に戻る。

 

 一瞬にしか感じなかった浮遊感、けれど自分の中では今でも飛んでるようなフワフワしたものが残っていた。

 手が未だに震えている。怖くもあり、そして高揚とした気持ちが体を、そして頭を支配している。そんな中に、自分が為し得たい夢の一歩が刻まれたような音が聞こえた。

 

 

「もう一度やるか?」

 

「ううん、もう大丈夫」

 

 

 縁側に座りながらそう呟く。

 もう一度飛びたい気もするけれど、それでは駄目な気がする。

 

 あの時の感覚は忘れない。いや、忘れることが出来ない。

 いまでもあの浮遊感を身に感じ、そしてすぐにでも行えそうな気もする。

 

 多分、今は飛ぶことはできない。

 けれど、いつかは飛ぶことが出来る。

 

 それほどの感動を得た。

 それほどの感覚を得た。

 

 

「男が泣くもんじゃないよ」

 

「え? 自分泣いてなんか……」

 

 

 そう言われて初めて気づいた。

 両目から溢れんばかりの涙が伝い、そして掌に落ちた。

 

 ああ、泣いているんだ。

 ああ、また泣いてしまった。

 

 強がりたい気持ちもあるけれど、決壊したものを直すことはできなかった。

 眼をこすり、鼻水をすすりつつも、しっかりとした目つきで神奈子さんを見つめる。

 

 

「あ、ありがと……ありがとうございました!」

 

「フフ」

 

 

 神奈子さんは含み笑いをしながら、置いてあったお猪口を掴み、そして傾ける。

 自分もそれにならうように、お猪口を傾けるが、中身が入っていないのを思い出し、結局傾けて終わってしまった。

 

 神奈子さんは笑いつつ酒びんを出した。

 自分は恥ずかしがりながらお猪口を差し出した。

 

 

 

 

 

 その二つの影を月は照らし続ける。

 

 

 






 酒盛りも終わり、神奈子さんの案内で温泉に入れてもらった。
 旅の疲れが一気に向け、足がじんわりと疲れを放出するような錯覚に陥る。


「どうだ? 悪くないだろう」

「うん、凄く気持ちいです!」


 となりに浸かっている神奈子さんに言う。
 一緒に入っても、有り余る広さがある温泉に、自分はあまり入ったことがなかったので、とても楽しかった。しかも、神奈子さんはここにもお酒を持って来たようで、自分は月を見上げながら飲んでいる。


「普段は一人酒だからねぇ……話し相手がいるのはやはり格別だよ」

「え? いつもは一人なの?」

「そうよ、私くらいの実力になると、誰も寄りつかなくなるの」


 そんなもんよと付け加えて、酒を煽る。
 自分にはそう言うのは分からないけれど、神奈子さんがそこまで怖い人には見えなかった。

 不思議そうに神奈子さんを見つめていると、気付いたのか自分の髪をまたグシャグシャとかき回してきた。それをまた必死に止めようとするけれど、当然力の差があり無駄に終わってしまった。
 いつか絶対止めれるくらいに強くなって見せると心に決めて、口を曲げながらお猪口を傾ける。


「むー」

「ハハハ!」


 夜景が自分たちを見つめ、月が自分たちを見下ろしている。
 そんな光景を噛みしめつつ、自分と神奈子さんの晩酌は続いていった。





 その後、二人とものぼせてしまい、二人して巫女に怒られるのは、また別の話である……


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