慣れない描写も含んでいるのでぎこちない部分も……申し訳ないです。
誤字やおかしい表現などがあったら教えてくれると嬉しいです。
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スイが来てから数週間ほど経った。
おそらく諏訪の巫女は帰郷できただろう。
その間の期間、私は何をすること、ただひたすら座禅を組み、瞑想を続けている。
来るべき日に向け集中を高め、自身の神力を溜めこみ、そして己の邪念を払い続ける。
このような行動は今に始まった事ではない。
たとえ小国だろうと、本気の力を見せつけるために毎回行っている。この行動自体、周りの神は理解に苦しんでいるようだ。
何をそこまで全力になる必要があるのか、口うるさく言われた時期もあった。
私にはその相手の心理が分からない。
全力の力を相手の民に見せつけ、自国の神が負けたことを見せつけるためには、この方法が一番なのを分かっていない。
自分の実力に自信がないのか、はたまた自分に非がないようにしたいのか、どちらにせよ臆病者でしかない。
「……興が逸れた」
溜息をはきつつ、立ち上がる。
外の空気を吸って気分を晴らそう、その後にまた再開すればいい。
そういえば今日はまだスイを見かけていなかった。
ついでに探してみようか、どうせ何をしているのかも、何をしているのかも大体見当がつく。
「いたいた」
襖を開けて、庭を見渡せる縁側まで移動すると、目当ての人物がいた。
腕立て伏せを数回やって倒れ、腹筋を数回やって倒れ、走り込みをして倒れ、とにかく倒れまくるスイの姿がそこにあった。
その姿を笑うことを私はしなかった。
必死に努力し、懸命に頑張り続けるその姿を、私は称賛に値するものだと答えるだろう。
なぜあそこまで体がついていけないのか疑問だが、這いつくばってでも強くなろうとするその姿勢を、私は人間にしては素晴らしいものだと思っている。
倒れては立ち上がり、倒れては立ち上がり、その繰り返しだ。
その繰り返しのはずなのに、スイは心が折れることなく、貪欲に努力を続けている。ひたむきに頑張り続けるその姿を見ていると、諏訪の神がなぜこの男を使っているのかが分かる。
声をかけようかと迷ったが、スイの邪魔になってはいけないと判断し、数瞬だけ見た後に戻ることにした。
後ろから聞こえる掛け声を微笑みながら聞き、私は元いた部屋へと戻って行った。
>――――――――――<
自分はこっちに来てもさほど変わらない生活をしていた。
朝起きたら朝食をとり、自分を鍛えるために庭に出る。そして、昼食をとった後に、また庭に出る。
夕食をとった後は頭を良くするために勉強をする。幸いなことに、勉強をするための物を用意してくれた。
その事がすごくうれしかったし、お礼を何回もしたけれど、なんで用意してくれたのかは分からなかった。理由も何回か聞いたけれど、返ってきたのは笑顔だけだった。
それでも、用意してくれた事には変わらないので、喜んで勉学に励んでいる。まあ、それが身についてきているのか分からないけれど……
「ふぅ」
縁側に座り、休憩をとる。
未だに出来ないことは多いけれど、少しずつ出来ることが多くなってきた。
数回しかできなかったのが数十回に――
数回も出来なかったのが数回できた――
小さな進歩――
大きな一歩――
着実に身について来る実感がある。
それが自分を励まし、そして進んで行くための原動力になる。
そうは言っても、やはりまだまだ時間がかかるし、何より周りの人たちに迷惑をかけてしまう。
だからこそ、自分がもっとしっかりできるようになって、その後に恩返しをしないといけない。それがいつになるかは分からないけれど、必ずしないといけない。
「よし!」
自分を鼓舞するように声を出す。
それをきっかけにし、立ち上がる。
そしてまた鍛錬を続けよう。
そう思った時、後ろから男の声が聞こえてきた。
「よくもまあ毎日続けることだ……辛くはないのか?」
「え、えっと……辛くはないです。それよりもあなたは?」
「私か? 神様だよ」
「あ、えっとその……すいません」
「いやいや、話しかけたのはこちらだし、気にしなくて結構」
男の神様はニヤニヤと自分を見つめている。
あまり諏訪子さんや神奈子さん以外の神様と会話をしたことがなかったので、少し緊張しているし、どう話せばいいのか分からなかった。
「ふむ……そうだな、少し私も手伝ってやろう」
「え?」
「君の鍛錬をだよ、神直々の行いだぞ……嬉しいだろう?」
とっても嬉しかった。
自分はいつも一人でしか鍛錬をしないし、手伝ってもらうことなんてあまりなかった。
「は、はい! よろしくお願いします!!」
なるべく失礼がないようにしようとしたけれど、嬉しさのあまり声が大きくなってしまった。
けれど、嬉しいのは変わりないし、喜びと期待に満ち溢れた今の自分を抑えることが出来なかった。
「ククッ」
>――――――――――<
瞑想を続けて数刻ほど時間が過ぎた。
心を無にし、来るべき日に向けての集中、それだけを考え続けていた。
ふと、外の方から神力を感じた。
微量ではあったが、それが逆に不可解に感じた。
確かめに行こう。
折角集中していたのが台無しになったが、またやり直せばいいと心に言い聞かせつつ、襖を開く。
まだ神力は放ち続けている。
この場所は……庭の方から感じた。
「……」
若干の焦りを収め、足早に庭へと歩を進める。
目当ての庭に着いた時には、眼を見開いている私がそこにいた。
「……何を」
「ん? おお神奈子殿、諏訪に向けての調節はいかがですかな?」
「話をそらすな! おまえは何をやっている!」
「私ですか? 手伝いですよ、それも善意の」
そうケラケラ笑いながら話を進める男神、その後ろにはボロボロになりながら立ち上がろうとするスイがいた。
その姿を見た男神は溜息をつき、手をひらひら動かしながら、スイの元へと歩を進めていく。
「よくここまでされて立てるねぇ、それもう一発!」
「グッ!」
男神の手から光弾が発せられ、動くこともままならないスイの腹に直撃した。
なすすべもなく後方に飛ばされ、ゴロゴロと転がる。あまりに痛々しい光景に、間に入ろうとしたが、肩に手を置かれた。
振り返ると、そこには数人の神が立っており、にやにやとスイを見下ろしていた。
「まあまあ神奈子殿、こういう余興もいいではないですか。そうそう、諏訪の大使がどうなるか賭けてはみませんか?」
「……」
話しにならない、そう考えてスイの元へと歩み寄ろうとした。
そうしようとする私の手を引き、座らせようとする神たち、酒まで持ち出し、まるで宴会に近いものへとなろうとしていた。
スイは見世物となっていたのだ。
人間の足掻きを見て楽しんでいるだけだった。
私は手を払いのけ、スイを引き戻そうとした。
その時、私は一種異様な光景を目撃した。いや、目撃と言うよりも『感じた』と言ったほうが正確だろう。
「おっ! あの人間まだ立つぞ!?」
「ハッハッハ! だがこれでは賭けにはなりませんなぁ」
「おーい! 少しは手加減してやれって!」
後ろから聞こえる野次、それよりも気になるものがあった。
スイが再起ほどの光弾を受けてなお、諦めようとはしていなかった。近くにあった木に寄りかかりつつ、立ち上がろうとしていた。
なぜそこまで立ち上がれるのか。
見世物になっているのに気付かないのか。
唖然としてしまい、その場で動けなくなってしまった。
いや、動かないといけないはずなのに、動くことが出来なかった。
懸命に頑張ろうとするスイの目が私を射抜いてくる。
何をそこまで頑張れるのか、どうして立ち上がれるのだ。そしてなにより、あそこまで攻撃をくらって『常人』が立っていられるはずがなかった。
スイだからこそ、なおさら倒れてもおかしいはずなのにだ――
>――――――――――<
体中の感覚がない。
痛いはずなのに何も感じない。
目の前が振り子のように揺れていて、立つのが難しい。
何とか立つことが出来たけれど、男の神様がどこにいるのか分からない。
息がどんどん上がり、呼吸が苦しくて仕方ない。
足がふらつき、腕にも力が入らなくなってきたけど、頑張って立ち上がる。
折角稽古をつけてくれているのに、ここで倒れてしまっては申し訳ない。
自分に何が出来るわけないけれど、だからこそ立ち続けて頑張り続けなければならない。
「ほう、よ――耐え――――、で――ど――だ」
目の前から真っ白の物が飛んでくる。
それを避ける事が出来ず、自分の体は宙を舞い、そして地面をゴロゴロと転がるのが分かる。
痛いはずなのに――
痛いはずなのに――
感覚がない。
最初あったはずの痛みも、今では感じる事が出来ない。
理由は分からない。
けれど、痛みを感じないおかげで、まだ立つことが出来る。鍛錬を続けることが出来る。
そう言えばこれはどんな鍛錬なのだろうか。
聞いていなかったので分からない。最初に聞くべきだったな、今から聞くのは失礼かな、でも聞かないと分からないし……
「あっ」
神奈子さんがいた。
声をかけたかったけれど、喉がおかしくて声を出すことが出来なかった。あとで、この後に話せばいいかな、そう思いつつ、自分は木に寄りかかりつつ立ち上がる。
その時、おかしな思考が横切った。
笑おうと、こんな時だから笑おうと、そういうおかしな考えが横切った。
いつも自分はおかしなことを考えついてしまう。今回もそう言うものだろう、けれど、なぜか笑ってしまった。
その考えが面白かったのかもしれないし、もしかしたら疲れておかしくなったのかもしれない。とにかく笑ってしまった、何もおかしいことなんてないはずなのに、ただ笑う、ただ笑う。
不敵に笑って見せよう。
辛いからこそ、笑ってごまかしてしまえ。
笑う――
笑う――
笑う――
バカだから仕方ない。
そう言われたっていい、いつか見返してやる。
そう言っていたやつらをバカにしてやるのが自分の――
あれ?
それが自分の?
「は、ハはッハ……」
違うような?
違くないような?
まあいいや、後で考えよう。
今は、鍛錬に集中しないと……
そういえばこれはどうすれば終わるのかな?
自分が倒れたら終わっちゃうのかもしれない、それだと鍛錬の意味がないから違うかな。
じゃあどうすればいいかな?
もしかして、男の神様を倒せばいいのかな?
「あっ?」
また目の前に白くて丸いものが飛んできた。
右に避ければいいかな、左に避ければいいかな、それとも――
考えているうちに当たってしまった。
そのはずなのに、今回は当たった感触がなかった。飛ばされることもなければ、痛みも感じなかった。
もしかしたら白い弾なんて撃っていなかったのかもしれない。
自分はバカだから見間違えたのかもしれない。たぶんそうだ、見間違いだろう。
少し前の方に男の神様が立っているのが見えた。
とりあえずどうすればいいのだろうか。倒すにしたってどうやって倒せばいいのだろう?
まずは近づこう。
それから考えても遅くはないだろう。
一歩――
二歩――
三歩――
着実に近づく。
何かが横を通って行ったような気がしたけれど、よく分からなかった。
「ハハ……フハ」
笑いながら近づいていき、その差は結構縮まった気がするし、逆に遠ざかった気がする。
そんなおかしな頭を叱りつつ、次に自分はどうすればいいのかを考える。どうすればこの鍛錬が終わって『次の』鍛錬になるのか考える。
「ヒッ! く――、バケ――!!」
なぜか男の神様が驚いているけどなんでだろう?
怯えているなら助けたほうがいいかもしれない、そう思って早歩きで男の神様のところへ進んで行く。
「スイ!」
あれ、神奈子さんだ。
そういえばさっきいた気が――
「あ……れ?」
何も感じないはずなのに、自分はいつの間にか膝をついてしまっていた。
そしてその勢いのまま、自分の体は倒れてしまった。おまけに体は動かせそうになかった。
それに瞼が勝手に閉じてしまう。
そのまま自分は為すすべもなく意識を手放してしまった。
>――――――――――<
スイが倒れた後、私は野次馬のようにしていた神たちを退けつつ、倒れたスイを抱えてその場を離れた。
何か言葉を掛けられていたが、その全てを無視し、とりあえず巫女に渡して介抱を頼んだ。幸い傷は深くなかったようで、そのうち眼を覚ますようだ。
それにしても、あの時のスイは何だったのだろうか。
私はスイについてはよく知らないが、何かの能力を持っているのではないかと思っている。
しかし、それは推測の域を出ないし、確証できるものを私は持ち合わせていない。まあ知ったところで何も意味がないし、何が何でも知りたいわけではない。
「……はぁ」
それよりも……私は許せない事がある。
一連の騒動で再確認させられたが、我々神の治安をなんとかしたほうがいい。最悪の場合は私より上の神に任せるのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら酒を煽る。
諏訪との戦いも近いのも変わらない。考える事が多すぎるのは困ったことものだ。まあ、戦いに支障がないようにしなければなるまい。
諏訪からの便りが届いたようで、戦うべき日はすでに決まった。
その時にスイが目覚めるかは分からないが、その時はその時だろう。
「……」
一人酒も飽き、早々にやめることにした。
暫くは酒を止める事を視野に入れつつ、器と酒びんを片づける。
途中でスイが眠る部屋の前を通ったが、中に入ることはなかった。
どう声をかければいいのか分からなかったし、今は自分の事で集中したかったからだ。そんな自分のいい訳に心の中で溜息をつき、歩き続けた。
「申し訳ありません……私がいながら」
「いや、こればかりは仕方ないさ」
スイが捕まった。
それを聞いたのは巫女が返ってきた直後に聞かされた。しかし、まずは巫女が無事だった事に安心をし、気遣ってやった。
巫女は自分の仕事をやり遂げたことには変わりない、ただ今回は予想外な出来事だったのであろう。
そう慰めつつ、今どうなっているのか分からないスイの事を考えるが、それと同時に戦いの事も考えなければならなかった。
それに、相手方もスイを殺すことはないらしい。
でも、もしもスイに何かがあったとするならば――
「……どうしてやろうかねぇ」
その晩、私はぶつぶつと呟き続けた。
それを目撃していた巫女は結構怖がっていたようだった。