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永琳はとある馬鹿をひきつれ、自分の家へと向かっていた。
ある程度の時間も過ぎているので、『お偉い様』もすでに帰っていたようで、周辺に車がなかった。
それにひとまず安心し、無一の手を引きつつ家の門の前へと歩いていく。
一方の無一は、広大な家を前にして声を上げながら喜んでいた。
それはそれは子供のように走り回り、息切れし、そして門に顔面をぶつけた。
痛そうに顔面を押さえる無一
溜息を吐きながら頭を押さえる永琳
この短時間の間で、永琳は無一がどれほどの馬鹿なのか理解してしまう。
それは永琳が天才だからなのか、無一が呆れるほど馬鹿なのかは言うまでもないだろう。
痛そうに顔を抑えていた無一は、門に体重を乗せてバランスを整える。
その時に永琳が開発していた防犯プログラムが作動したようで、けたたましいサイレンとランプが点滅している。
永琳がその異変に気付き、無一を捕まえようとしたが、それよりも前に防犯プログラムが作動する。
門が開いたかと思うと、目の前から防犯用のネットが飛び出し、無一を拘束したのだ。
その時に無一はバランスを崩し倒れたが、もがきながらネットから脱出を試みようとしている。ただ、永琳が設計したのもあってか簡単に抜け出せることはなく、無一にはほぼ不可能な代物だった。
「はぁ……」
溜息をしつつ、器用にネットを回収する。
助けられた無一は、おもしろそうにネットをいじり始め、永琳に質問攻めを開始する。
その後、永琳は家の中を案内する。
一つ一つの部屋を紹介するごとに無一は笑顔で質問をしていくが、その質問は永琳の頭を痛くするようなものばかりだった。
最後に無一を泊める部屋へと案内した。
無一は子供もびっくりするくらい喜び、部屋を駆け回る。
永琳はもう何も言うまいと再三溜息を吐き、食事の時にまた呼ぶことを伝え、部屋から出ていった。
永琳が戻ってくるときには、はしゃぎすぎたのか疲れて眠っている無一を発見した、
この馬鹿を連れてきたことを半分後悔しつつも、風邪をひかないように毛布をかけてあげた。
心底いい寝顔で眠る無一
心底……後悔している永琳
こうしている間にも時間は過ぎていき、いつの間にか朝になる。
ムクリと無一は起きる。
近くにはいつの間にか着替えが置かれていたが、それに気づくかない無一はおぼつかない足取りで部屋を後にした。
途中、いいにおいがした無一はその方向へと足を進める。
そこは畳が敷き詰められ、真ん中にテーブルがある質素のな部屋だった。
そこにはどこまでも白いご飯が――
そこには湯気をたたせる味噌汁が――
そこには香ばしい匂いの秋刀魚が――
そこにはご飯にぴったりの沢庵が――
「……ようやく起きたわね」
永琳がコップを二つ持って無一の後ろに現れた。
無一はそれに漫画のように驚き、永琳はその行動に呆れる。
まるで何年もこの家に住んでいたかのような親しみを感じるのは何故だろう……
永琳はそんなことをふと考えてしまう。
無一を連れてきたのは一昨日のはずで
無一がここに来たのは一昨日のはずで
こんな考えをするのが初めてな永琳にとって困惑するが、そんなことは一瞬で整理がついてしまう。
無一にテーブルにつくように言い、自分もテーブルにつく。
「いただきます」
「いただきます?」
永琳が食材たちに感謝の意を感じつつ手を合わせながら言う。
永琳が言った言葉をとりあえず復唱する。
そんな無一に『いただきます』の意味を教える永琳は、それを生まれたばかりの赤ん坊だなと例えた。
それが思うほかぴったりだなと思えるのは無一の無知さが大きいと考える。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした?」
永琳が食材たちに感謝の意を感じつつ手を合わせながら言う。
永琳が言ったことをとりあえず復唱する。
そんな無一に『ごちそうさまでした』の意味を教える。
無一はそれを子供のように目を輝かせながら一つ一つに頷いたいる。
説明が終わった永琳は食器を運んで行くと、無一もそれを真似たかのように食器を運ぶ。
その足取りはとても危なげで、今にも転びそうであったが、奇跡的に転ばずに運び終えて、もう一度部屋に戻ろうとする。
その途中で転んだ。
無一は痛そうに顔面を押さえるが、それを無視しながら食器を洗う。
まるで今まで一緒に住んでいたかのような日常を感じる。
「一旦さっきの部屋で待ってて頂戴」
たったそれだけ呟き、食器洗いを続ける。
無一は頷いた後、歩きはじめる――
――また転んだ
>――――――――――<
無一は畳の部屋で寝転んでいた。
天井をただ見つめながら、何かを考えていた。
「考えるって何だろう?」
考えるとは何か?
考えることが考えることで
考えていることが考えていて
考えたことで考えることができて
「うーん」
考えていたら頭が痛くなってきた。
あれ?考えるとなんで頭が痛くなるんだろう?
頭が痛くなるから考えていたんだろうか?
「あれー?」
何考えていたんだっけ?
何か考えていたのは覚えているんだけど……
「何をしてるのかしら?」
「あ、永琳! あのねあのね……えーと」
無一は考える。
何を考えていたのかを考える。
当然、そんなことをしても思い出すことはなく――
「朝ご飯まだ?」
「……」
無一は馬鹿である……どうしようもないくらい。
呆れ切ってしまい、とうとう頭を押さえてしまう。
「あれ? 頭痛いの?」
「……」
ここまでくるとどう対処すればいいのか小一時間ほど考えたい。
そう考えているのにも無一は気づかないのだろうと思う。
そんな無一は呑気に大きな欠伸をした。
「着替えなさい」
「ふぇ?」
「着替えよ……部屋に置いてあるわ」
「そんなのあったっけ?」
無一は考える。
そんなものあった覚えがないと言うのが無一の結論であった―――
―――が、一瞬で忘れてしまい、
「うん!」
笑顔でうなずくと部屋から飛び出していく。
その方向が永琳の研究室方面なだけあって後ろからため息が聞こえるのも仕方ない。
「できたよー!」
無一が部屋から出てくる。
その服装はとてもラフな感じであった。
黄色いTシャツ
黒いハーフパンツ
一切他の色が入っていない純粋な黄色と黒は、永琳がこれといって意味なく選別した服である。
その永琳自身が微妙と思えるほど素晴らしい(?)感じになった。
「永琳!」
「何?」
無一は真剣な表情になって永琳を見すめる。
永琳は若干引きつった頬を必死に戻そうと努力しながら聞く。
「考えるって……何?」
永琳は部屋から退出した。
それこそ無一が気づかないほどに―――
自然に――
ひそかに――
人知れず――
それとなく――
悟られないように――
「あれ、永琳? どこ?」
突如いなくなった永琳を心配そうに探す。
そして、開いたままの襖を見つけて外に出てみる。
そこには永琳の姿はあるはずもなく、何度か見たことあるような庭が広がっていた。
無一は永琳のことなど忘れて庭に出る。
その目は……とても楽しそうにしているようだった。