ご指摘を受けたのも有りますが、安易に変化を求める自分が馬鹿だったな思い返しました。読者の皆様には度々迷惑をかけてきましたが、今回も本当に申し訳ないです。
今後からもっと注意して発言し、自分なりに成長していきたいと思います。
誤字やおかしい表現などがあったら教えてくれると嬉しいです。
感想・アドバイス・批評などなど随時受付中です。
八坂の神との戦いは徐々に膠着し始めてきた。
実力は今のところはほぼ五分だが、このまま膠着が続くとなると、どうなるか分からない。
雨もどんどん酷くなり、雷まで鳴り始めてきた。
その雷の音に合わせるようにして御柱が私の横を通り過ぎていく。
「クッ!」
いったん後退し、息を整える。
相手の御柱が思っていたよりも厄介だ。ミシャグジ様の力でなんとか対抗はできているものの、対策を講じなければ時間の問題だろう。
対策を考えている間にも、相手の御柱が飛んでくる。
その一つ一つを避け、役目を終えた御柱は湖の中へと沈んでいった。後の掃除を考えると面倒なことになりそうだなと、心の中で苦笑を浮かべる。
「どうした諏訪よ! 拍子抜けだな!!」
相手の挑発がとんでくるが無視する。
ここで言葉を返すものなら、それこそ挑発に乗ってしまうことと同義だろう。
だが、今のところ対策がないのも事実、なるべく時間を稼ぐか、それとも突撃して相手の意表をかくか。
多分時間稼ぎをしたとしても無意味だろう。無意味に力を放出し続ければ、いつかは力ついてしまうだろう。ならば、自爆覚悟の特攻で意表をついた方が分があるだろう。
「ミシャグジ様!!」
その言葉に呼応するかのように、湖から水の柱が八坂の神に向かっていった。
私はその影を縫うようにして、八坂の神に向かって行く。相手はこちらの位置を把握していないだろうが、こちらはミシャグジ様の支援もあり、手に取るように分かっていた。
水中に向かって、鉄の輪を投げつける。その水中の先には八坂の神がいるのを分かって投げた。
しかしその攻撃は、どうやら御柱によって防がれたようだ。攻撃にも防御にも使える御柱の有用性を呪いながら、未だに吹き出ている水柱の影を縫い、今度は八坂の神の背中に向かって鉄の輪を投げる。オマケとばかりに、その鉄の輪に坤の力を加えた。そして、その鉄の輪を投げた直後に、その鉄の輪を追うような形で八坂の神に一気に近づく。
「こんなもの!!」
案の定また御柱に阻まれたが、それは計算の内だった。
弾かれた鉄の輪を掴みなおし、勢いのままに御柱に叩きつける。流石に耐えきれなかった御柱が砕け、八坂の顔を見る事が出来た。
「そこっ!!」
八坂の懐に飛び込み、鉄の輪を叩きこむ。
神力を加えた一撃を八坂の神に与える事が出来た。八坂の神は苦い顔をしつつ後退していく。しかし、思っていたよりも手ごたえを感じず、自分の得物を確認する。
「なっ!?」
私の武器である鉄の輪が少し錆びてしまっていた。
驚愕を隠せない私は、その場でたじろいでしまった。その原因が誰なのか、その見当がついた私はそいつの顔を睨みつける。
その視線の先にいる八坂の神は顔を伏せていたが、その表情が笑っているのが分かってしまった。
そして、その顔を上げると、案の定ニヤリと笑みを浮かべていた。理由は分からないが、私の武器が錆びてしまった理由は、奴のせいで間違いはないようだ。
「どうやら……この勝負は私の勝ちのようだ」
「なに!?」
「分からないのか? ならば見せてやろう……私と貴様の違いをな!」
八坂の神が懐から出したのは、一見普通に見える『細い植物の蔓』だった。
それをかざすと、その蔓は黄金の光を放ち始めた。それと共に私の鉄の輪がどんどん錆びていった。
「……これは」
「これが私と貴様の差だ、我が神力の方が上回っている証拠でもある」
「なるほど、ね」
冷や汗を拭い、相手の様子をうかがう。
黄金色の光は徐々に輝きを失い、最終的に何の変哲もない蔓に戻っていた。おそらく輝かせる必要はなかったのだろうが、私との差を見せつけるためにわざと行ったのだろう。
確かに相手と私の神力の差は嫌と言うほど分かった。多分このまま戦ったとしても、勝てる見込みはないだろう。
神力の差はそのまま戦闘力にも比例し、私と八坂との差を歴然とさせた。私の能力は通じる可能性はないに等しいだろう。相手の神力にはじかれ、なかったことと同義になる。
巫女にあそこまで大口をたたいた私はどこに行ったのだろうか。心を折られ、今にも負けを宣告しそうになってしまっている。
国は惜しいが、八坂なら国も悪い方向へは進むことはないだろう。これほどの実力を持ち、自分自身に絶対の自信を持つ者に、そうそう悪い輩はいない。
「どうだ? 負けを認めるか?」
「ああ、そうだねぇ」
溜息をつく。
まあ仕方ない、私はよくやった。
これからはこいつに任せればすべて丸く収まる。
私は隠居でもして、のうのうと生き地獄でも味わっていればいい。
「……生憎だけど」
そう考えることもできる。
それが楽な答えなのは分かっている。
だからこそ!
だからこそ!!
「ミシャグジ様譲りの執念深さを持っていてね……負けると分かっていても勝ちを譲る気にはなれないよ」
誇りも威厳のへったくれもない言葉だったが、妙にしっくりくる言葉だった。
八坂に向かって不敵に笑みを浮かべながらそう言い、錆びて使いものにならない鉄の輪を強く握りしめる。
もはや子供のわがまま程度の言葉だ。神の言葉とも言えないものを言ってやった。
八坂は一瞬面をくらったような顔をしていたが、私の笑みにつられたかのようにニヤリと笑みを浮かべた。
「ククク……貴様となら酒が旨くなりそうだ」
「それだったらそっちの国の酒が飲みたいねぇ、最近酒の味が似たり寄ったりで飽きていたところだよ」
「けれど、その言葉がどんな意味を持っているのか分かってての事だろう?」
八坂の眼光がギラリと輝く。一瞬寒気を感じたが、臆せず武器を構える。
私がこの先に待っているものは、おそらく『死』だろう。大人しく負けを認めていれば命までは助かっていたかもしれないが、私はそんなことを望んではいない。
負ける事が嫌なのではない。嫌でなければ潔く負けなど認めている。私は国を守る存在なのだ、その存在は勝つことが出来なければ意味などない。私に必要とされているものは絶対的な勝利だ。
負けるのが嫌なのではなく、負けてはいけないのだ。絶対的な差で勝たなければ、私という存在意義などないにも等しい。
自棄になって死ぬわけではない。私は私という存在をかけて、勝ちにこだわり続けなければならないのだ。
死にたいわけではないが、『生』にこだわる理由もない。ならば存在をかけてこの勝負を戦い抜いた方が、私という存在を保持できるだろう。
いや、死ぬなんて言葉もおかしいか。『消滅』といったほうが正しい。信仰を失うか、他の神に自分の信仰を奪われることにより、自分の存在を保てなくなり、最終的には消えるのだ。
「二つほど……頼みがある」
そんな中で私は小さく呟く。
私の中で引っかかっている小さな問題、そんなどうでもいい事を八坂に呟く。
「聞こう」
八坂は私の目を見つめながらそう言った。
それに心の中で感謝しつつ、その心に引っかかっていたものを八坂に投げかける。
「民と巫女を頼む――まずそれが一つだ」
心配だった一つだ。
巫女は私が死んだら悲しむだろうか。民は私が他国の神に負けたと聞いたらそんな顔をするだろうか。
だからこそ、だからこそ心配なのだ。私という存在がなくなった後、国が滅んでしまえば私という存在自体なかったことになってしまう。
それが無性に怖いのだ。
自分がなかったことにされるのが――
もちろんそれだけではない、単純に心配なのもある。
先ほど言った国が滅ぶと言う話、それを現実にしたくなかった。できるならば民には幸せに暮らしてほしいし、これからも繁栄していってほしい。そういった願いも含まれている。
「もう一つは――」
これこそ余計な御世話かもしれない。
どうでもいい、完全に私情しかない願いだ。
「――あの馬鹿を頼む」
多分これで伝わるだろう。
八坂にとってはそれほど長い付き合いではないだろうが、嫌というほどあいつの事を知ったに違いない。
あいつは一人だとのたれ死んでしまうに違いない。
別にどうでもよくも感じるが、流石に長い付き合いだし……私のせいで死んだなんて言われたらいい迷惑だ。
それに……
まあ、あんな奴でも楽しませてくれたしね。
「……ああ」
八坂が一瞬暗い表情をしたように見えたが、見間違いだろうか?
まあ、どうせもうすぐ楽になるのだし、考えるのはもうやめよう。出来れば痛みもなく消滅したい。
だが、ただで消えるのも面白くない。ならばせめて一撃でも与えて見せようではないか、一つでも傷をつけて見せようではないか。
不敵に笑ってみせよう、不気味に笑ってみせよう、どうせ最後なら笑いながら死んだ方がましだ。そして、一撃でも相手に加えてその面を拝ませてもらおう。
「さて……いかせてもらうぞ! 八坂の神よ!!」
「ふん、ならばお前の最後……見届けてやろう!!」
残っている神力を全て放出する。
もう出し惜しみをする必要もない。八坂の神も私に合わせるように神力を放出している。私に対して敬意を表しているのかもしれない。そう思うと、最後に戦う相手が八坂で良かったと心の中で礼を述べた。
八坂から見れば小さな力かもしれないが、私の全力を見せてやろう。
錆びて使いものにならない鉄の輪を握りしめ、八坂に向かって無謀ともいえる突撃を行った。
>――――――――――<
自分はどこまで走るのだろう。
そう問いかけ始めたのは何時ごろなのか分からない。
ただ目の前の道を走り抜ける事だけに集中している。
単純なだけに、よく分からなくなってくる。なんで走っているのかも忘れてきそうな雰囲気にもなった。
何故か疲労はないけれど、精神的に疲れてしまったようだ。
時間の感覚がなくなり、どれほど走っていたのかも分からない。いつ着くのかも分からないし、この方向であっているのかも心配になってきた。
それでも走らなければならない。
それでも走り抜かなければならない。
雨が目の前で止まって見える。
時がゆっくりと流れ、ゆっくりと動いている。
体から雨に当たりに行くという、慣れない感触を味わいつつ、ひたすら前へ進んで行く。
今のところ体に影響はない。この能力は自分でも把握しきれていない部分が多くて、自分にどういった影響を及ぼすのか分かっていない。
「……?」
そう思っていた矢先、体がぐらついた。
木に寄りかかり、体を安定させようとするが、脳がぐちゃぐちゃにされるような感覚に陥り、眼に尋常じゃない痛みが生まれた。
「あ……がぁぁぁぁ!!!!!」
頭を抑えつつ、膝をついてしまう。目から涙がこぼれ、何かがこみ上げてくるのが分かる。
手で口を塞ぎ、咳こむのを我慢しようとするが、我慢できずに数回咳こんでしまった。そして、その時に口から液体のようなものを吐きだしているのを、手を見て理解してしまった。
「あ……れ?」
そしてもう一つの違和感、風景が死んでしまっているかのように、色がどんどん消えてしまっている。
手についた液体のようなものも、確認しようにも、すでに色を失い白黒にしか見えなかった。これが、能力の副作用なのだろうか。自分では確認できることではない、それに今はこんなところで立ち止まるわけにはいかない。
頭の痛みを必死にこらえ。
眼の痛みを必死にこらえ。
木に手をかけ、体中の力を使い立ちあがる。
立ちあがった瞬間に、猛烈な眩暈を感じたが、それも我慢するしかない。
「すわ――こ、さん! か――なこ――さ、ん!」
走るべき方向を確認し、ふらつきながらも走りだした。まっすぐに走れているのか定かではないが、まだ走れる事を確認し、全速で走りだす。
途中何度も咳こんで止まりそうになったけれど、執念でそれを押しのけ、根性で走り続ける。もうすでに考えることもままならなくなってきたが、それを無視してただ走る。
「もっ――と、は――や、く!!」
能力を強め、時間の流れをさらに遅くする。
その行為だけで、頭の痛みは加速し、それと同じ分だけ足を加速させる。
足の感覚がなくなり、腕の感覚がなくなり、体の感覚ながなくなる。
走っているのかも分からなくなり、今自分がどこにいるのかも分からなくなる。
「もっと……もっと!!!」
能力を発動し、体の痛みを『劣らせる』。これで暫くは痛みを耐える必要がなくなり、幾分かは楽になるだろう。
しかし、その代わりのように視界がさらに悪くなり、周りがぼやけて見えるようになった。まるで、暗闇の中を走っているような恐怖に陥るが、その怖さを投げ捨てつつ、自分は走り続ける。
「まだ……まだだぁぁぁ!!!!!」
さらに能力を加速させる。
もう何を劣らせているのかも分からない。
それでも走り続ける。
何があっても、自分は走るのを――
>――――――――――<
最後の鉄の輪が弾かれ、湖へと落ちていった。
その最後の武器を無くした私は、肩で息をしながら八坂を睨むようにして佇む。
逃げ場もなく、逃げる気もない。
やれることはやったし、やることはもうない。
「よく……そこまで動けるものだ」
「私も驚いているよ、まさかここまで粘れるとは思わなかったさ」
「そのお前を消すのが少し惜しく感じるよ」
「生憎、私は誰の下につくつもりはない……これまでも、これからも」
「その意気込みは称賛しよう……だが、そろそろ終わりにしよう」
「そうね、終わりにさせてもらうわ」
我ながらよくやったな、傷こそ付けられなかったけれど、かなりの時間粘ることが出来た。
生きるために戦うのではなく、希望の少ない勝つために戦いつくした。もう心残りは何もない。
八坂の御柱が私の上空に出現する。
これが落ちてきた瞬間、私という存在はこの世から消滅するだろう。
「何か言い残すことはあるか?」
「いんや、それはもうすでに言ってあるさ」
「そうか……では――」
――さらばだ、諏訪の神よ。
その言葉をきっかけに御柱が私に降り注いだ。
私は目をつぶり、一瞬の痛みと落下していく感覚が――
――なかった。
いや、落下はしているが痛みが全く感じなかった。
痛みが分からないほど一瞬だったのかもしれないが、ならばなぜ私は考えることが出来るのだろうか。
落下していく感覚を覚えながら、私は瞑っていた瞳を開く。
そこに広がっていた光景、いるはずのない一人の男、驚愕せずには居られなかった。
男は私を抱きしめるような形で、御柱から私を守っていた。
そして、その御柱の勢いに任せるまま落下しているのが分かる。
「な、なんで」
もう話す事もないと思っていた口を開き、男にそう聞いた。
男は笑いながら、いつものように笑いながら私にこう囁いた。
――ただいま
>――――――――――<
『違和感』
それが私の中に残っていた。
確かに私の御柱は諏訪に命中した。
私は地面に突き刺さっている御柱を凝視する。
「……確かめるか」
周りの神が私の勝利を確信し、歓声をあげているのを無視し地面へと降り立った。
その場所は木がおい茂っており、周りの神はこの状況を理解することはできないだろう。
そして、降り立った瞬間に私はその違和感の原因を突き止めた。
その人物は諏訪の神に必死に呼びかけられていた。突き刺さっている御柱に寄りかかり、諏訪に声をかけているようだが、それよりも何故この場にいるのかが私は気がかりだった。
「――スイ?」
>――――――――――<
「よ、かった」
間に合った。
なんとか寸でのところで間に合ったようだ。
能力の効果が徐々に切れていく。
雨の降る速さが元に戻っていき、自分の体に雨が降り注いでいく。
「馬鹿! あんた一体何をやったと思ってるの!?」
諏訪子さんが怒鳴っているのが分かる。
でも、能力のせいで視界が悪く、表情までは見ることはできなかった。
「何って……助けた?」
「助けたって……意味ないのよ! 私は負けたの! 負けたら消えるしかないんだよ!?」
自分には諏訪子さんの言っていることが、難しくて理解しきれなかったけれど、その言葉に一つだけ間違いがあるのが分かった。
負けたら消える、そんなバカげた話があってたまるもんか。消えていいなんて、言っていい事ではない。
「駄目だよ……消えてもいいなんて言ったら」
言葉に力が入らない。
喉から何かがこみ上げ、我慢できずに咳こんでしまった。
視界が悪くて何を出したのか分からないけれど、諏訪子さんが驚いているのが声の様子で分かった。
「あ、あんた……何をやったの?」
「能力を――使った」
その結果がこれだ、と言わんばかりに自分は両手を上げる。
今自分がどんな状態なのか分からないけれど、相当ひどい状態なんだと思う。
「――スイ?」
少し前の方から神奈子さん声が聞こえた。
それに反応するために声を出そうとしたけれど、代わりに咳こんでしまった。
「なぜここにいる、そして何故邪魔をした」
神奈子さんも怒っているのかな。多分すごい剣幕もしているんだろうな、でも今は目が霞んで分からない。
邪魔したのは分かっている。巫女さんが言っていた『真剣勝負』だったのも分かっている。それを分かってなお自分はそれを邪魔したのだから、怒られても当然だろう。
でも、そう分かってても納得できなかった。これが自分のわがままなのも分かっているし、子供の戯言なのも承知の上だった。
そして、結果的に自分は二人の邪魔をしてしまった。それでも、自分は二人に言いたい事があった。二人に伝えたいことがあった。
「だって――」
多分、これを言ったら呆れられるんだろうな。
なんとなくそう思った。自分が何を言ったらどう反応されるのかが、分かってきたような気がする。
でも、これが自分の本心、ゆるぎない自分の意思、そして伝えたい自分の心だ。
「――これからも一緒にいたかったから」
もう、誰も失いたくなかった。
もう、目の前からいなくなるなんて嫌だ。
自分本位な言葉なのも分かる。
これはただのわがまま、自分の勝手な行動だ。
もしまた二人が戦いを続けるのであれば、自分は死んでもそれを止めて見せる。
二人が手を取り合って、そして楽しく暮らせるようになるまで、自分は足掻き続けて見せる。
「それが、邪魔した理由か」
神奈子さんが近づいて来る。
そして、表情が分かるところまで近づいてきた。そこではじめて、神奈子さんが微笑んでいるのが分かった。
「お前は馬鹿だな、神との戦いに横槍を入れる人間なんていないぞ」
「バカ……かな?」
乾いた笑いしか出なかった。
無理に笑おうとすると、また何か吐きだしそうだった。
「……ミシャグジ様」
諏訪子さんがそう言うと、大きな白い蛇が自分の隣に這ってきた。
それに反応したかったけれど、意識がはっきりしなくなってきて、今にも意識を失いそうで声が出せなかった。
「この馬鹿を、神社までお願い」
諏訪子さんがその蛇に自分を乗せると、蛇は自分を気遣うようにゆっくりと移動し始めた。
二人の姿はすぐに見えなくなり、それと合わせるように、意識を徐々に失っていった。手を伸ばして何とか二人を掴もうとしたけれど、もうその時には自分は意識を失った。
>――――――――――<
「さて……諏訪よ、これからどうする?」
八坂がそう投げかけた。
普通なら私は死んでもおかしくない身だろう、先ほどは運よく生き残っただけだし、介錯を頼んでもおかしくはない。
「ああ、思い出したよ」
あの馬鹿が消えていった方向を眺めながらそう呟く。
今から言うことは、この先ずっと恥じるべきものとなるものだろう。
「ミシャグジ様は私しか操ることが出来ない。その私が消えれば……どうなるかことやら」
ため息混じりに呟く。
聞き様によって解釈は変わるだろうが、八坂が何を思っているのかはなんとなく見当がつく。
「ほう、脅しているのか?」
「そんなことはないさ……ただ心配なだけさ」
そんな見え透いた嘘を真剣な顔で呟いた。
八坂は失望しているだろうか。先ほどまで死を覚悟していた奴が、取引をしてまで何とか生き延びようとしているのだ。失望しないはずがない。
そんな考えを覆すかのように八坂は小さく笑っていた。
何だか馬鹿にされた気がして、力なく睨みつけてやった。
「な、なによ?」
「いや……元々お主を消すつもりなどなかったさ」
「はぁ!?」
衝撃の告白に、八坂のほうに勢いよく振り向いてしまった。
多分この時の私は驚きの表情に包まれていたのだと思う。事実、八坂の言っていることが理解できないし、何を思ってそんなことを言っているのか分からなかった。
「言っただろう? 諏訪とは酒の席が合いそうだ、と」
「……それだけか?」
「無論、それだけだ」
こ、こいつ……スイほどではないが馬鹿かもしれない。
あれですか、酒を一緒に飲みたいがために私は生かされることになっていたのですか?
ああ、肩にかかっていた重荷が落ちる音がした。
あの馬鹿が来ただけでも頭が痛いのに、余計に痛くなった気がする。
「だけど、流石にこのまま終わるわけにもいかないわよね?」
「そうだな……少し考えがある」
八坂から説明を要約すると、とりあえず私には気絶してもらい、その後勝利宣言を神の前行うそうだ。
そして、私を生け捕りにすることで、それほどまでの余裕を持ちつつ勝てた、という風に仕立て上げるらしい。
まあ私の仕事はこれから気絶して終了らしい、楽といえば楽だが……
「つまり、もう一度あれを喰らえと」
「そうなるな」
「はぁ」
上空に新たな御柱が出現する。
私が丁度よく気絶する程度に調節するらしいが、痛いものは痛いし、なるべくなら避けて通りたい。
「……出来れば一瞬でお願いするよ」
「分かってる……が、少し強めでやるから覚悟はしておくことだ」
「あー」
だが、流石にここは腹をくくるしかないようだ。
苦虫をつぶしたような顔になるが、そんなことをしても痛みは和らがないだろう。
「まあ、後の事は頼むよ……八坂の神よ」
「任せておけ、なるべく穏便に済ませてやるさ……諏訪の神よ」
こうして私と八坂の戦いは幕を閉じた。
最後に……あの時の痛みを私は何時までも恨み続けてやる、とだけ言わせてもらおう。
これで終わったはずだったんだ。
何事もなく、平和的に終わったはずだったんだ。
でも、何かを見落としていた。
自分という存在を、その『存在』自体をなくしてしまった。
これから始まるはずだったのに――
これから楽しく暮らせたはずなのに――
『劣る程度の能力』
自分は把握しきれていなかった。
使いこなせるはずがなかったのに、使ってしまったんだ。
それが最大の汚点――
それが最低の行動――
進んだ時を戻せない。
ならばせめて明日がほしい。
その明日すら、自分は無くしてしまった。
そして、自分は新しい明日を手に入れた。
最後に――
最後に呟く。
「……ここどこ?」
問いかけに誰も答えない。
なぜなら周りは木しかないのだから――