次の最新で次章という形になるのですが、それ以外の話の粗さが際立ってきたので、大規模修正&追加しようと思います。
なので、暫く最新がストップすると思いますのでご了承お願いします……
誤字やおかしい表現などがあったら教えてくれると嬉しいです。
感想・アドバイス・批評などなど随時受付中です。
暇である。
とても暇である。
いや、暇なのは多分いいことなのだろう。
忙しくて手が回らない状態が好きなわけないし、だらだらといるのも分からない妖怪退治に出かけたいわけでもない。
こうやって縁側に座って、太陽に照らされつつ、温かいお茶を飲める事を考えると暇で良かったと思いなおす。
とはいえ、何か面白い事でもおこらないかと思ってしまうのもまた、暇であるから仕方ない。近年面白い事も起きなければ、面倒なことも数えられることくらいしか起きていない。
「平和ねぇ」
平和平和平和、平和が一番、辛くもなければ苦しくもない。
しかも、今までやっていた仕事も、あの御柱がやってくれるので楽で仕方ない。
まあその御蔭で暇なのだ。いや、暇させていただいている。
それにしても、信仰の有無が大変だとか、信仰の流れをどうにかしないといけないと、翻弄していた八坂の姿が懐かしくて仕方ない。
今は表では御柱が仕切ることにして、裏では私という存在を残すという異例の行動に出た。まあ、結果的には成功したから別にいい。
「聞こえてるわよ、ケロ子」
後頭部の振動と共に、あの御柱がやってきた。
振動の正体は、御柱の拳骨だったのだが、相変わらず加減を知らないようで、もしかしたらタンコブが出来たかもしれない。
「いい加減その御柱御柱言うのやめなさい」
「はいはい八坂様」
「……」
「……神奈子」
「よろしい」
無言の圧力に負け、仕方なく名前を言ってやった。
その点、神奈子だって私の事を『ケロ子』なんて呼ぶのだから、人の事言えないじゃないと言ってやりたい。まあ人じゃないけれども。
右隣の縁側に座るときに『どっこらしょ』なんて言うもんだから、飲みかけていたお茶を噴きだしそうになった。
多分この時に、本当に噴き出していたらまた拳骨がとんでくるんだろうなとニヤニヤしながら考えていたら、何故か拳骨をもらった。理不尽である。
「最近、京の方ではこの世のものとは思えないほど美しい女性が話題になってるらしい」
「ふーん……なんでいきなりそんな話振ったの?」
「いや、お前が暇だ暇だとうるさかったから話題を出しただけよ。それにそんなに暇ならば少しは私の手伝いをして頂戴、一人よりも二人でやれば効率も上がるし、何より神が暇を持て余していること自体おか――」
「へーそんな女性いるんだー」
「……」
「ごめんなさい、今日はもうふざけないからその手を引っ込めてくださいお願いします」
「まったく」
神奈子が私に分かるくらい大きな溜息を吐いている。
まあ、今日『は』もう言わないから大丈夫だろう。まあ明日は知らないけどね。
巫女が神奈子の分のお茶を持ってきて、そのままどこかへ行ってしまった。今代の巫女は気がきくと言うか、余計なお節介が多くて神奈子と二人で悩んでいたりする。
まあ仕事はきっちりこなしていたり、炊事洗濯掃除まで完璧にこなしているので、頭が上がらないのも事実、その
ただ……あれはない。
食事を作り、持ってくる段階まではいい。食べることくらい一人でできるのに、その手伝いを進んでやってくるのだ。
まるで私たちが赤ん坊のように思っている。少し前に神奈子がそれを指摘した時があって、その時は何食わぬ顔で『巫女ですから』とだけ返し、また仕事をやりに戻ってしまった。
そして私たちが出した結論は、『今代は諦めよう』だった。
何を諦めるのか、それは何に対しての諦めかと言われたら、悪いがあの巫女の存在自体を諦めていると答えるだろう。
他の事は完璧にこなしている点についての不満もないわけなので、私たちは次の巫女に期待することにしたのだ。
「あー何か茶に合う物が食べ――」
「あ、でしたらこれを」
巫女がニコニコと『煎餅』を私と神奈子の間に置いた。
いや、お茶置いた後あなたどこかに行きませんでしたっけ。そう聞くのが馬鹿らしく感じ、素直に煎餅を食べる。うん、うまい。
「……はぁ」
「なんで溜息つくのさ?」
「いや、あの時の戦いを思い出すと……あの時のお前と今のお前が同一人物とは思えなくてな」
「……それ何回いえばすむの、はっきりいって失礼だよ」
「だったら行動で示せ。少しは私の仕事を手伝えば少しは――」
神奈子の説教がまた始まった。
右から聞こえる念仏を聞き流しつつ、左から聞こえてくる自然の音に癒される。
二枚目の煎餅に手をかけようとしたところで、聞き流している事に気がつかれ、お決まりのように拳骨を……くらう寸でのところで回避するように庭の方へと歩きだす。
「さーて、それじゃ私は見回り行って来るかねぇ」
「……仕事はちゃんとやるように」
「あーはいはい、それじゃ行ってきますよーっと」
ちゃっかり掴んでいた煎餅をかじりつつ、空を飛んで移動する。
途中で、私と神奈子が戦った湖の上を通りかかった。昔の爪跡はほとんどなくなり、整地された綺麗なものへと戻っていた。
何の気なしに見ていたが、案の定その周辺に妖怪の気配はなく、ただの杞憂と化した。
その後も、周辺の森林上空を飛びまわっていたが、妖怪はおろか人間の気配すら感じず、今回もただの徒労となった。
けれど、最近は神奈子に任せきりだったのもあり、私が神の仕事のしているのがおかしな話に思えてしまった。
私はあの時、『神奈子に加減してもらっていなければ死んでいた』はずなのだから。
あの時は死ぬ気であったが、今では死ななくてよかったと心から思っている。その分、神奈子には感謝しているところもある。
「ん?」
帰ろうとした時に、またあの湖を通りがかった。
そこまではよかったのだが、その近くの森の一部が不自然にひらけていた。
あの部分は確か、神奈子の最後の攻撃でできた場所だろう。
なぜか気になってその場所に降り立った。
そういえばあの時に、少し会話をした気がするが、思い出すことが出来ない。
すでに結構な年月もたっているし、そんな会話を私が覚えているはずがなかった。それに興味すら湧かなかない――はずだった。
「……」
忘れている?
私が忘れている?
何かが引っ掛かった。
そんな何年も昔の事が気になってしまった。
忘れるということ事態おかしい。
なぜならば、戦いの展開を未だに忘れていないのに、ここでの会話『だけ』覚えていないのだ。
忘れているのとは……違う?
これは……記憶が……意図的に……綻んで……?
「……」
思いだそうとすればするほど、その部分が霞んでいく。
人為的なものとは思えないが、何かが絡んでいるのは間違いなさそうだった。
「……神奈子にでも聞くか」
手っ取り早い話、それですべて解決するだろう。
それで神奈子が覚えていないのであれば、ただの思い違いなるだろう。
それに見回りで疲れたから、さっさと帰って休みたいのも本音である。
でも帰ったら帰ったらで、また神奈子に面倒なことを言われるかもしれない。まあその時は無視すればいいか。
「眠い……」
いつもよりも気温が暖かいからか分からないが、若干眠くなってきた。
欠伸をこらえようといしたが、どうせ誰もいないので隠そうとせずに大きく口を開けてしまう。
もう行こうか。
帰ったらとりあえず、夕食まで寝よう。
そう納得しつつ、空を飛んだ。目的地はもちろんあの御柱と巫女がいる神社である。
「……なんか忘れてるような?」
>――――――――――<
「会話?」
「そう、あの時の」
「うーん……いや、覚えがない」
夕食を食べている時にふと思い出し、神奈子に聞いては見たものの、結果はこれだった。
やはりただの思い違いだったのだろう。
そう解釈することにして、ほどよい焼き加減の魚を口に入れる。
食べる前に、巫女が綺麗に骨を取り除いていてくれたので、食べやすいと言えば食べやすいが、それくらいなら私でも出来る。
まあ善意しかないし、食べるのが楽になっているのでケチのつけようがないのだが、なんだかモヤモヤとした気分になる。
それこそ、魚の骨を飲み込んでしまった時の、喉につっかかってしまう微妙な感じだ。
「……ごちそうさま」
食事はおいしいのだが、食欲がわかなくなってしまった。
理由はなんとなくわかるけれど、それを言葉に表現することは難しいだろう。
それに今は一人になりたくなった。一人になって少し考えに耽りたくなり、箸を置き立ち上がった。
「あら? 諏訪子様、もうよろしいのですか?」
「なんか……食欲ない」
「そ、それはいけません! どこか具合が悪いのですか!? それとも夕食が口に合わなかったのですか!? そ、それとも――」
「あー」
何故か食欲が戻った……ことにして、もう一度食事を食べることにした。
巫女は未だにあれやこれや言っているが、相手にするだけ体力の無駄なので、無視するのが一番だろう。
うん、この漬物は中々旨い。
「諏訪子」
「なにさ」
突然の問いかけに、次に手をつけようとした魚をつかみ損ねてしまった。
その腹いせに睨んでやろうとしたが、その神奈子の表情が言葉を出し渋っているのか、とても苦々しいものだった。
「――いや、なんでもない」
「なんでもない……ねぇ」
気にはなるが、今は食事に集中しよう。
そして、最後に残していた味噌汁に手をかける。
「……なんか薄い?」
「ああ、諏訪子様! 死なないで!!」
「出汁とかえた?」
「いや、どうやら分量を間違えたらしいぞ」
巫女からではなく、神奈子から返答が返ってきた。
神奈子の話によると、単純に忙しすぎて手が回らず、分量を見誤ったらしい。
足せばいいのにと聞いてみたら、うす味も悪くないと神奈子自身が言ったようだ。
偶には悪くないか。
再び味噌汁に手をかけ、器に入っていた中身を全て飲み干した。
「うん、薄い」
それだけ言って立ち去ろうとした
だが、そういえば言い忘れていたことがあったのを思い出す。
「ごちそうさま」
無理やり食べた事もあって、少し気分が悪い。
少し神社の中でも歩いて、その後に風呂に浸かることにしよう。
風呂に入ったら、気分も悪いことだしさっさと寝て明日に備えることにしよう。まあ備えたところで何かあるわけでもないのだが――
「――ん?」
神社の中を歩いていると、その奥に見覚えがない部屋を見つけた。
その部屋は神社の奥にあり、普段はここまで行ったりすることはない。別段部屋があったことが不思議でもなんでもないのだが、なぜか『懐かしい』気がした。
その部屋に誘われるように入る。
部屋は巫女が毎日掃除しているのか、塵ひとつない綺麗な場所だった。
なぜこのような場所が懐かしく感じたのか、中に入ってもその理由を解くことが出来なかった。
何の気なしに、その部屋を物色し始める。
が、元々置いてあるものなんてなかったので、一瞬で終わってしまった。
そして、最初で最後の物色をするべく、押し入れに手をかけることにした。
「なんで……男物?」
そこに置いてあったのは、男物の服だった。
この神社に住んでいるのは、私と神奈子と巫女の三人だけだ。つまり男なんて住んでいない。
それに、男なんてこの神社泊めた覚えがないので、男物の服があること事態おかしな話なのだ。
「泊めたことなんて……ないわよね?」
何故か疑問形になってしまった。
もしかしたら、自分の記憶に自信がなくなったからなのかもしれない。
湖の時もそうだったので、自分の記憶をあまり過信できなくなってしまった。
「……?」
押し入れの奥に、何かの巻物が置いてあった。
少し古いのか、紙の部分が少し黄ばんでしまっている。しかし、保存状態はいいのか、巻物自体は傷んでいないようだ。
ただの興味からだったのか、それとも何かの運命にでも操られているのか分からないが、その巻物を開くことにした。
そして、その巻物を開いて最初に思ったことが――
「汚なっ!」
ミミズが歩いた後のような、蛇が歩いた後のような文字がびっしりと書き込まれていた。
白い部分よりも、明らかに黒い部分が多く、傍から見れば何か呪術の練習の後のようにも見えてしまった。それくらい不気味に思えた。
「なんでこんなのをとって置いてあるのやら……」
ため息混じりに読み進めていく。
その内、内容がよみとれていくようになる私が怖い。というかなぜこんな文字を読むことが出来るのだろうか。
途中で私の名前が載ってある事に気づき、クスリと微笑んでしまった。
「な、なんで微笑んだのかしら?」
自分がした行動に驚きつつ読み進める。
なぜか、だんだん懐かしい気分になり始めたのだが、何が懐かしいのか分からないし、懐かしいと思うこと事態おかしかった。
そして、その巻物の最後に大きな文字が一つ書き込まれていた。
何回か書き間違えたのか、何度も書き直した跡があった。それでも私はその文字を読むことが出来てしまった。
「何これ、『祟』? なんで『祟』なんて文字が――」
『祟』は祟り、それは私にとっても大事な文字なのは分かる。
それがなぜ、これを記した者が最後に書いたのか。その理由を考えようとすると、一つの言葉が脳裏をよぎった。
『スイ』
スイ、とは何だ?
『祟』のもう一つの読み方なのは分かる。
い、いや、なんで当たり前のように答えることが出来た?
自分の頭を理解できなくなってきた。
まるで私が私じゃないような気がして、まるでもう一人の私がいるみたいで――
「スイ……?」
妙にしっくりくる言葉、しっくりするはずがないのに当たり前のように呟いてしまう。
まるで初めて知った事ではなく、長年愛用していたかのような錯覚に陥り始める。
「何か――忘れてる?」
何かが何なのかは分からない。
けれど、きっと大事な何かを忘れている。
分からない、忘れている、今日はそんな事ばかりで無性に腹が立ってきた。
思い出せそうで思い出せなかったり――
忘れているようで忘れていないようで――
掴むことが出来そうで結局できなくて――
「ああ、もう!」
苛立ちを隠そうとせずに、声を吐きだす。
一体何を忘れていると言うんだ。何を忘れてしまったのか、私はその答えを知りたい。
もはや勘違いなどではなく、決定的に何かが欠落している。
押し入れに置いてあった巻物全てを取り出し、そのまま部屋にまき散らした。
かなりの量があって、その全てを投げだした頃には、肩で息をする状態になっていた。
ふと、その押し入れの奥にもう一つ巻物があったのに気付いた。
それも投げ捨ててしまおうと思ったが、その巻物の題目を見ると、手を止めざるおえなかった。
「『諏訪子さんへ』? なにこれ、手紙のつもりかしら」
どうやら、ここまで私を弄んだ張本人からの手紙のようだ。
今すぐにでも殴りかかりに行きそうな手を緩め、巻物を開くことにした。
「さて……何が書いてあるのやら」
巻物についてあった帯を解き、散らかってしまった部屋の中央に座る。
そこで読もうと思っていたが、少々暗くなってきたので、仕方なしに立ち上がり縁側へと移動する。
部屋よりは少し明るいのを確認し、ようやく巻物の中身を拝見することにした。
「……」
一字一句を見逃さない気持ちで読み進める。
ここまで集中するのは久しぶりかもしれない。
今回が特別だったのも関係しているかもしれない。こんな気持ちは初めてだったので、この手紙が何かの挑戦状にでも思っていたのかもしれない。
最初に見た文字よりはだいぶ成長しているのか、神経を研ぎ澄ませなくても読むことが出来た。
それを見て喜んでしまっている私もいるのだが、その理由を考えるのも後回しにすることにした。
>――――――――――<
まったく、諏訪子はどこに行ったのやら――
今日は酒を飲む約束をしていたはずなのに、その姿はどこにもなかった。
仕方なく探しているのだが、いつもいそうな場所には気配すら感じることが出来なかった。
また何かの気まぐれで出かけてしまったのかと諦めたその時に、奥の縁側に座っているのを目視した。
私は呆れ果ててしまい、腕組みをしながら諏訪子の元へと歩いていく。
「諏訪子、今日は酒を飲む約束を忘れて――」
「今集中してるから待ってて」
「集中?」
どうやら何かの巻物を呼んでいるようだが、私にはその内容を読み取ることが出来なかった。
単純に文字が汚すぎて読めないのだが、諏訪子は読めているのか、その巻物から目を話そうとしない。
仕方なしに諏訪子の隣の縁側に座り、諏訪子が読み終わるのを待つことにした。
しかしただ待つのも暇なので、何か探そうとした時、諏訪子は巻物を巻きはじめた。
「ん? 終わったのか」
「まあ、ね」
どうやら読み終わる直前で私は諏訪子を見つけたようだ。
諏訪子が巻物の帯を締めると、その巻物を強く握りしめた。
あまりに強く握りしめているせいで、若干巻物が歪んでいるようにも見える。
「……何が書いてあった?」
「いや、特別凄いものではないよ」
気のせいだろうか、諏訪子の声が震えているように聞こえた。
内容を聞こうと思ったが、なぜかその行為が無粋に思えてしまい、結局無言になってしまった。
諏訪子は庭に歩いていったかと思うと、庭の中央で止まり、その周りを見回し始めた。
あまりに奇怪な行動に驚きかけたが、諏訪子の表情が真剣に染まっていたので、表情だけに留めることにした。
「思い出した」
「思い出した? 会話のことか?」
「それを含めた全部、よ」
何か含みのある表現の仕方に疑問を残しつつ、諏訪子の行動を見守る。
その場でクルクル回り始めたかと思うと、円を描くように移動しはじめ、小刻みに跳ね始めた。
徐々に奇怪さが増していき、ついには両手を組んで、何かを祈っているような動作をした。
「……」
絶句してしまうのも仕方ないだろう。
多分巫女がこんなのを見たら絶叫した後、慌てふためき、最後には寝込んでしまうかもしれない。
私も諏訪子の行動には驚いているものの、馬鹿にすることはなく、諏訪子の気がすむまで待つことにした。
なんとなくだが、今の諏訪子を邪魔してはいけないような、そんな感じを受け取ることが出来た。
「あ、あーめ……」
「……?」
「あーめーよー」
若干諏訪子の顔が紅くなっている気がした。
いや、若干ではなく完全に紅、赤色に染まっていた。
「ふ、ふーりーたーまーえー」
「……」
これは、何の儀式の真似事だろうか?
こんな行動に出る理由が見当もつかない。
流石に私の表情にも限界が生じ始め、いつしか笑いを必死にこらえていた。
「も、もういい!」
「ん、もういいのか?」
「にやけながら言わないで!」
はいはいと笑いをこらえながら言うと、諏訪子は恥ずかしそうに私の隣に座った。
なぜあんなおかしな行動に出たのか分からないが、私としては面白いものを見れたのでそれで充分だった。
「あーあ、面倒なもの思い出しちゃったよ――まったく」
「そうか、それで踊りを踊ったわけか」
「ふんっ!」
拗ねたのか、そっぽを向いてしまうが、その行動に驚くことはできず、また笑いをこらえるのに必死になってしまった。
諏訪子は溜息をしながら月を見上げ、私を横目で確認した後、口を開いた。
「昔さ」
「うん?」
「馬鹿な男が住んでいたのを思い出してさ」
そんな話は初めて聞いた。
ここの歴史に詳しく調べたはずなのだが、そんな話は一度も聞いたことはなかった。
もしかしたら、私がここに来るよりもはるか昔の話なのだろうと推測して、諏訪子の話に集中した。
「そいつは何やっても駄目な奴でね、最初なんか鍬(くわ)を持ち上げる事も出来なかった非力な男だったんだ」
「ほう、そんな女々しい男がいたのか」
「そのくせ誰よりも努力しててさ、村人全員に愛されてたよ」
諏訪子は遠い何かを見つめている。
月を見ているのかと思っていたが、それよりも遠い場所を見つめているのに気がついた。
機嫌がいいのか、足をぶらぶらさせ始めた。そしてついには背を倒し、空を見上げ始めた。
「そういえば巫女が死んだ時はそれはそれはうるさかったわ。泣きやむまで待ってあげたらいつの間にか眠っていたし」
「可愛げあるじゃないか」
「可愛いなんて思ったことなんてないわよ……いつも対応に疲れていたわ」
諏訪子は腕枕を作り、空を眺め続ける。
言葉とは裏腹に、疲れている様子は全くなく、小さな笑みを漏らしていた。
私はそんな諏訪子に相槌を打ちつつ、諏訪子を習うように空を見上げる。
「まったく……本当どこ行っちゃったんだか」
「心配なのか?」
「心配? するわけないわ」
「ほう、なぜだい?」
私の問いかけを答える前に、庭に足をつけ大きな伸びをする。
そのまま前に歩き出し、庭の中央まで歩いていってしまう。そして、振り返ることなく、私に来るように手を動かしている。
心の中で観念したよと呟きながら、諏訪子の隣まで歩いていった。
「なぜかって? それは――」
そして私は、今日一番の、そして今まで見たことないような笑顔を見ることが出来た。
それから暫く経ったある日、その笑顔の理由と、その後に言った言葉の真相を理解することが出来た。
「あの馬鹿は死んでも死なないわ――だって馬鹿だから」
諏訪子さんへ
いつも自分の面倒を見てくれてありがとうございます。
自分がたくさん迷惑をかけたり、おいしくもない料理をいつも作ってしまったり、自分のためにありもしない話を作ってくれたり、とにかく沢山迷惑をかけました。
これから自分がどうやって諏訪子さんにお礼をすればいいのか分からないけれど、これから いっぱい努力を重ねて、いつか恩返しが出来るようになりたいです。
そう言えば、自分のために飛ぶ練習や能力の練習に付き合ってくれてありがとうございます。今の自分にはどちらも出来ないけれど、いつか一緒に空をとんで、楽しい散歩が出来るようにしたいです。
あ、でも自分高いところは少し怖いから、飛んでる時も絶対に近くにいてください。多分、いや絶対落ちると思うので。
そういえば、巫女さんから新しい料理を教わりました。今度試そうと思うのですが、出来れば試食してくれると嬉しいです。もし不味かったら、本当にごめんなさい。
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昔、巫女さんが死んだ時に、色々教えてくれてありがとうございます。
あの時のことは、今でも忘れることができません。やっぱり誰かが死んでしまうのは悲しいし、別れるのは嫌いです。
でも、諏訪子さんは死ぬのは悪くないって言ってました。未だにその答えは分からないけれど、いつか分かる時が来るのかな。
そして今でも、死ぬ理由は考えつかないけれど、いつか絶対に言えるようにしてみせます。その時は絶対に教えるので、聞いてくれると嬉しいです。
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どうやら最近忙しいみたいですけど、お体には気を付けてください。
人の事、じゃない神様の事は言えないけれど、諏訪子さんには健康でいてほしいです。
あ、そろそろ墨がなくなってきたので、ここで一旦区切ります。
これ見せないほうがいいかな、んじゃ今度書くからこれは絶対に読まないでくださいね。
あ、でもこれは書いた方がいいかな。
諏訪子さん、いつもありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
スイより