東方劣化伝   作:籠の中の鳥

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やはり投稿が遅れがちになっていますが、引っ越しが終わるまでこのようなペースになるかと思われます。
なるべく善処はしますが、どうかお待ちいただければ幸いです……

誤字やおかしい表現などがあったら教えてくれると嬉しいです。
感想・アドバイス・批評などなど随時受付中です。


第三十二生 その男 戯れる

 

 

 不比等さんに自分の実力を買われ、妹紅ちゃんの護衛兼お目付け役となったはいいが、苦労の連続だったとここに記そう。

 妹紅ちゃんが活発な子だと知っていたが、まさか度々屋敷を抜け出しては、外にいる人たちと遊んでいるとは思いもしなかった。

 最初の頃は、いつの間にかいなくなってしまった妹紅ちゃんに苦労した。探そうにも屋敷周辺の地理すら理解していなかった自分には、妹紅ちゃんを探し当てるのにバカにならない時間を費やした。

 それで学習した自分は、まずこの屋敷周辺の地理を知り、その後着々と範囲を広げていき、最終的には町全体の地理を把握してしまった。

 そのおかげかは分からないが、周辺の人たちとの交流する機会が増え、大概の人は自分を知っている。まあ、その覚え方が大体妹紅ちゃん絡みだと思うと少し悲しい。

 

 地理を理解し、周辺の人たちとも仲良くなり、ようやく妹紅ちゃんの足取りを掴めるようになってきた。

 この時間帯なら空き地にいるだろう、この天気だったらあのボロ寺にいるだろう、妹紅ちゃんの事だから団子屋にねだりに行っているだろう。

 どんなふうに動いているかが分かるようになったのは一年ほど時間を有したのだが、ここまで行動手順が分かるようになると、犯罪者みたいで気持ち悪く思えてしまう。

 まあその知識が役に立っているし、一応妹紅ちゃんのためになっていると割り切っている。

 

 そしてそれから一年経つと、妹紅ちゃんは勉学にも励むようになった。

 元から勉強に対する姿勢も強かったのだが、それと同じくらい好奇心旺盛だったので、屋敷を抜け出して遊びに行くのが多かった。

 しかし、なぜか勉学に励むことが多くなった。屋敷を抜け出す回数も少なくなり、抜け出さない日が何日も続くようになった。

 理由を聞くと、恥ずかしながら答えてくれた。

 父上の役に立ちたい。顔を紅くしながらそう呟いた。

 不比等さんは昔から多忙であり、屋敷に戻ってこない日も珍しくなかった。その少しでも役に立てるようになりたい、それが妹紅ちゃんの願いからの行動だったのだ。

 

 自分はそれを聞き、妹紅ちゃんの役に立ちたいと思いはじめた。

 その頃の自分は、政治とかそういうものはよく分からなかったけれど、使用人さんの力を借りたり、昔の書物を読ませてもらい、妹紅ちゃん以上に勉学に励ませてもらった。

 すぐに実力がつくことはなかったが、一緒に勉強することができたので、普通よりも早い速度で知識を吸収していった。

 論争もできたし、互いの考えを話しあえたし、一つの事柄を違った視点で考える事が出来た。

 今の段階では、まだまだ時間はかかるだろうが、いつか必ず役に立つ日が来る。そう考えると、さらに勉学に対する意識が向上していった。

 

 それから偶に、一緒に屋敷を抜け出すこともあった。

 名目上は町の様子を見て、考えの幅を広げることなのだが、それは屋敷を出るために使用人に言っているものだ。

 団子を一緒に食べたり、外の子供たちと一緒に遊んだり、旅人さんに世間話を聞いたり、思い切り羽を伸ばさせてもらった。

 

 その辺りからだろうか、自分の考えが変わったのは――

 最初、不比等さんに言われた時は、一定のお金が溜まったら、やめようかと思っていた。

 けれど今はそんなことするつもりはなかった。妹紅ちゃんのこれからを見ていきたちと考え始めてしまった。

 一人前になった妹紅ちゃんをみたくなったのだ。一人の女性として成長していく妹紅ちゃんを見守っていきたくなった。

 これは自分の勝手な我が儘、これは自分勝手な考え――

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

「お嬢、朝ですよ」

 

 

 布団にくるまっている妹紅ちゃんにそう呟いたのだが、返答はなく、代わりに布団で頭を隠してしまった。

 毎度同じような反応をするので慣れてしまったが、こう何回も同じことをされてしまうと溜息を吐きたくなってしまう。

 でも、その行動になんとなく親近感を覚えてしまうのはなぜだろうか。

 もしかしたら昔の自分もこう言う事をやっていたのだろうか、そう真剣に悩んでいた時期もあった気がする。

 

 

「ほらお嬢、朝食もできていますよ」

 

「ん……あと半刻――」

 

「それは昨日も聞きましたよ。いい加減起きてください、片すのは自分なんですから」

 

 

 自分がこの屋敷に住んでから数日たった時から、よく手伝いをするようになった。

 お世話になるのであれば、最低限の手伝いをした方がいいだろうという考えからだったのだが、今では妹紅ちゃんの世話をするようにまで幅が広がっていた。

 自分からやっているので、別に苦でもないし、なぜか使用人さんからも感謝されているので、逆に嬉しかったりもする。

 まあ料理に関しては、今でも研究中段階としか言えないのだが……

 

 

「いい加減にしないと……団子屋連れていきませんよ?」

 

「――起きる」

 

 

 布団が勢いよく跳ね起きると、そこから髪がグシャグシャになっている妹紅ちゃんが出てきた。

 そして大きな欠伸をしながら立ち上がり、そのままの格好で部屋から出ていこうとする。明らかに寝ぼけているのが丸分かりである。

 それを引きとめて髪を梳かしてあげたのだが、寝ぼけ眼でうつらうつらと頭を動かしていたので、少し梳かしづらく感じたが、今に始まった事でもないので、慣れた手つきで髪を梳かしていく。

 

 

「はい、おしまいです」

 

「ん、御苦労さま」

 

 

 言葉だけの感謝を聞き、一緒に朝食の置いてある部屋へと歩いて行く。

 朝食も一緒に食べるようにしているので、妹紅ちゃんが起きないと、自分も食べることが出来ない。

 だからこそ毎回起こしに行くのだが、妹紅ちゃんが進んで朝食の場にいた事など数えるほどしかない。

 進んで起きてくる時は、その日が丁度新しい甘味処が開店する時とか、不比等さんが久しぶりに帰ってくるときくらいだ。

 

 屋敷を歩いていると、朝食のいい匂いがしてきた。

 用意されている部屋に近づくにつれてその匂いはどんどん強くなっていく。

 朝食は毎朝の楽しみであり、一日の始まりに欠かせない代物なのだ。毎回その旨さに感激し、その都度反応してしまう。

 さて、今日のご飯はなんだろう――

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

「今日はいつものところでしょ?」

 

 

 朝食を終え、食器を洗っている自分に妹紅ちゃんがそう呟く。

 今日は久しぶりの町調査、もとい羽休めをする日だ。昨日からその計画を立てているので抜かりはない……はずである。

 計画と言っても、ただ甘味処に行くだけなのだが、使用人さんに見つかると大目玉をくらうことになってしまうので、過信はしてはいけない。

 怒られる要因としては、まず妹紅ちゃんは基本的に屋敷を抜け出してはいけないのだ。まあそれこそ『お嬢さま』なのだから仕方ないだろう。

 もう一つは、自分に対するものだ。お目付け役であるはずなのに、一緒になって団子を食べているのを見られれば、怒られるのは当然だろう。

 

 

「使用人さん行動は把握してるので、抜かりはないですよ」

 

「フフ、無一も悪い奴だね」

 

「いえいえ、お嬢ほどでは……」

 

 

 使用人さんに聞かれてはいけないので、囁くような小さな声で話しているが、どうしても笑いたくになってしまう。

 今日行く予定の甘味処は、行きつけの団子屋なのだが、実は新しい団子がでるとの噂を聞いた。

 妹紅ちゃんには内緒にしているので、着いた時には驚くだろう。なんでも他地方のものを真似て作ったらしいのだが、どういうものかは聞いていないので、とても楽しみにさせてもらっていた。

 

 それなりに値は張るのだが、自分はお金を溜め続けていたりするので、少しくらい奮発しても大丈夫だ。

 まあ一年ほど前にもそんなことを妹紅ちゃんに言ったら、容赦なくどんどん注文し、最終的には財布が寂しくなってしまった。それからはちゃんと注意している。

 

 最後の食器を洗い終え、布巾で綺麗に水気を落とす。

 時期が秋に近づいてきたせいか、食器を洗うのも一苦労である。手がかじかんで仕方がない。

 昨日はもう少し暖かかった気がしたが、どうやら少し見誤ったようだ。明日からはかじかむ事を前提に作業に取り組むようにしよう。

 

 

「では行きましょうか――お勉強をしに」

 

「ええ、これは民衆の動きを見て政治を学ぶ大切な行動――だからね」

 

 

 お互い顔を見合わせて満面の笑みを見せ会う。

 あくまで勉強をするという建前を忘れてはいけない。使用人さんの前でぼろを出してしまったら、全てが破綻してしまうからだ。

 一度だけ自分が口を滑らせてしまい、自分だけが怒られるという事態が起こってしまった経験がある。

 実はその隙に妹紅ちゃんだけ屋敷を抜け出していたのを後から聞かされ、本当に抜け目ないお嬢様だと苦笑してしまった。

 

 

「あら、お出かけですか?」

 

「はい、今日は町の治安情勢からみる政治に対する勉強をする予定です」

 

 

 もちろん嘘であるが、今日の名目上の理由を一瞬で作ってしまった。慣れというものはやはり面白いものだ。

 今回の使用人さんは少し抜け目ない人なので、信じてくれるか心配だったが、微笑みながら道を譲ってくれた。

 

 

「では、口止め料はお土産で我慢させていただくわ」

 

 

 うん、気付かれてました。

 そして耳元でささやかないでください。本気で背筋が凍ったかと錯覚してしまった。

 妹紅ちゃんには聞こえなかったようだが、余計な出費が増えてしまうのは確定してしまった。

 

 屋敷の門を出て、久しぶりの外を堪能する。

 自分が外に出ることは、妹紅ちゃんと一緒に出るときか、お使いの手伝いをするときくらいなので、意外と久しぶりだった。

 お使いに関しては、勉学が思った以上に進まなくて、最近行っていなかった。勉学も一段落したので、明日あたり聞くのもいいだろう。

 

 

「んー! やっぱり外は気持ちいいわね」

 

 

 大きな伸びをしながら外を歩く人々を笑顔で見つめる妹紅ちゃん、それに対して頷きつつ、その人ごみの中へと自分達は紛れ込んでいく。

 すでに朝を迎えてから時間が立っており、さらに天気がいいのも相まって、町の活気はよく、客引きをする店もそこまで珍しくはなかった。

 

 が、自分達の行き先はすでに決まっていたので、客引きを頑なに無視し続けた。

 偶に一言二言最近の事を話したりする以外は、周りの活気のいい声を聞き流し、人の温かみを感じるだけだ。

 確かに屋敷にいるだけでも楽しいのだが、やはりこういった賑やかで楽しい雰囲気も肌で感じたくなる時がある。

 

 

「さて、お目当てのお店は――丁度よかったですね」

 

 

 目の前のお店が丁度よく開店を知らせるように、客寄せの人がか細い声で宣伝し始めていた。

 店はいいのだが、宣伝の人選が悪いのか、あまり人気ではない。しかし、それをはるかに超えた甘味が、そこに待っているのだと自分達は知っているのだ。

 つまりこの店を知っているものは、皆一様に通だということだ。外を歩く人たちを心の中でバカにしながら食べている人も少なくないだろう。

 

 

「あ、いらっしゃい……久しぶりですね」

 

 

 宣伝をしている人が、自分達が近づいてきたのをいち早く察知し、笑顔で近寄ってきてくれた。

 もしかしたらわざと宣伝していないのではないかと思ってしまった。常連さんだけ毎回こう言う出迎えじみた事をしないので、あながち間違っていないかもしれない。

 それこそ店が勿体なく思えて仕方ないのだが、知っている人だけ知っていればいいという構えなのだろうか。まあこの推測が当たっていようが間違っていようが関係はない。なぜなら――

 

 

「新しいの三つずつで」

 

 

 うまい甘味に目が眩んだ、ただそれだけなのだ。

 

 

 

>――――――――――<

 

 

 

「新しいが出るなら言ってよね……」

 

「フフ、そのほうが驚くかと思いまして、おいしかったですか?」

 

「――醤油団子なんて度肝抜かされたわ」

 

 

 反応から見てご満悦のようだ。

 これは秘密にしておいて正解だったようだ。

 しかもお店の人の機嫌も良かったおかげで、もう一本ずつ追加してくれた。ありがたく完食させてもらった。

 そしてあの使用人さんのお土産と、夕食後のお楽しみ用の団子をそれぞれ購入した。見事にお金がとんでいったが、後悔は全くしていない。むしろ食後が楽しみである。

 

 

「で、どうでしたか?」

 

「うーん、やっぱり活気がいい方が循環はいい……かな?」

 

 

 一応ここから本題である。

 使用人さんに言ったことは一応嘘なのだが、全てが嘘ということではない。

 町の状態を確認して、どうすれば栄え、何を注視すればいいのかを確認するのも、今回の目的だった。

 一刻も早く父である不比等さんの力になりたい妹紅ちゃん、それを支援するような形で自分は存在している。

 ただし、すでに妹紅ちゃんの方が政治に対する知識を得ている。唯一自分が勝っていると思えるものは、他人に対する気持ちくらいだろう。

 それを補完するために、今回は屋敷を抜け出して、人が多い道を選別して甘味処まで移動した。

 ――甘味処の方が重要だったとは、両者ともに言わないようにしている。

 

 

「そして治安ですね。民同士争いがなければ、平和になり、それと同時に町自体栄えるでしょう」

 

「そうするためにも必要な事も多い、やっぱり難しいね」

 

 

 それには同感だ。

 平和を維持するというのはとても難しいことだ。

 今こそ何事もないが、争いや喧嘩、戦争などは些細なことで生まれてしまうものだ。

 それを抑えるにはそれなりの力も必要になってくるし、お金だって関係してくるだろうし、それ以外にもやたら面倒な事が必要になってくる。

 

 今日の夕食までこの談義が続きそうだ、この手の問題は一日くらいで解決するとは思えない。時間をかけてそれぞれの答えを見つける必要がありそうだ。

 もしかしたら答えが出ない可能性もあるが、その時はその時だろう。人が絡む問題というのはそういうものなのだ。そういう問題に出くわした時には、今まで培ってきたものから判断して、その時々によって答えを出すしかない。

 

 

「さて、帰りましょうか」

 

「……もしかしてもう時間?」

 

「ええ、そろそろ使用人さんも買い物に出かけるはずです」

 

 

 今持っているものを見られれば、自分達が甘味処に行った事などすぐにばれてしまうだろう。それは何としても回避しなければならない。

 見つかってしまえば、暫くは屋敷から出る事が出来なくなるだろう。少なくとも自分は出られない。妹紅ちゃんは勝手に抜けだすだろうが――

 

 

「――帰るわ」

 

 

 納得してくれたようで、屋敷に向けて足を動かし始めた。

 自分もそれに続くように歩き出す。妹紅ちゃんの隣から離れないように調節しながら歩くのにも結構慣れてしまった。

 

 度々顔見知りの人に話しかけられ、噂話を勝手に話されたりした。早く帰りたいところなのだが、話を聞かないのも失礼なので、一々聞かなければならない。

 噂話は基本的に同じだったのだが、面白いのが男性は楽しげに話し、女性は苦虫をつぶしたような表情で話していた。

 都のほうでも持ちきりの話のようで、知らない人も少ないようだ。その少ない人の部類に入っていると思うと、世間から遅れているようで少し恥ずかしかった。

 

 なんでも『絶世の美女』が、様々な男性を魅了しているだとか。

 一目見ようとその家の周りには常に人だかりが生まれ、今では見ることすらままならない状態らしい。

 その話を聞いているとき、何回も妹紅ちゃんに睨まれ、仕舞には横腹を思い切り抓られてしまった。毎回同じ位置を抓ってくるので、その部分だけ紅く腫れあがってしまっている。

 

 

「お嬢は見てみたい?」

 

「私は別にいいわ……それよりも無一はどうなの? やっぱり見てみたい?」

 

「自分も別にいいかな、それよりも勉学に力を入れたい――でしょ?」

 

 

 自分には風流だとか、雅な言葉だとか、そういう類はよく分からない。

 綺麗だったら綺麗だと思うし、おいしかったらおいしいと言う、その程度の感性しかもっていない自分がその女性を見ても、多分綺麗だなとしか思えないだろう。

 それにそんなことよりも勉学の方が大事だし、おいしいものを食べる方が楽しみで仕方ない。

 

 

「――そう」

 

 

 なぜか笑顔で言われた。

 まあ笑顔になってくれたのならば自分も嬉しい。なんで笑顔になったかは分からないが、とりあえず嬉しいと言う感情が生まれた。

 それよりそろそろ真面目に帰らないと見つかりそうで――

 

 

「あら? 妹紅様と無一殿、このようなところで何を――」

 

「あ」

 

 

 いい訳を考えようと思ったが、その前に土産袋に気づかれ、一発ずつ頭を叩かれた。

 妹紅ちゃんはいきなりの事で状況を把握しきれていないのか、うわごとを呟きながら周囲を見渡している。

 使用人さんに見つかってしまい、これから起こり来るだろう困難に対して、自分は頭を最大限に活動させた。そして、その答えが導かされ、こう呟いた。

 

 

「――時すでに遅し」

 

 

 そう呟いたらまた一発ほど頭を叩かれた。

 ――とても痛かった。

 

 

 






「『時すでに遅し』って……なんだ?」


 帰りながらそんなことを思い出してしまった。
 そもそもそんな言葉知らないはずなのに、あの場面でそう呟いてしまった。あの言葉に何の意味が込められているのかも分からないはずなのにだ。


「もしかして――」


 ――昔の記憶?


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