東方劣化伝   作:籠の中の鳥

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お久しぶりです。
お久しぶりで申し訳ありませんでした。
一年以上放置する形になり、さらに連絡すら不十分だったのは謝罪の言葉しか出てきません。
ようやく書けたものですが内容が少ないうえにブランクもあってか拙い文章になっています。
次かけるのが何時位になるか分かりませんが、現状月一か月二で一つを目標にさせていただきます。
なるべくペースを速められるように精進させていただきますので、これからもよろしくやっていただけると嬉しいです。

誤字やおかしい表現などがあったら教えてくれると嬉しいです。
感想・アドバイス・批評などなど随時受付中です。



第三十七生 その男 求婚する

 

 

 夢を見ていた。

 私がまだ月で生活をしていた時の夢だ。

 

 そこである女性から教育を受け、教養を得て、生活をしていた。

 その女性と会う前の生活が嘘であったかのように、とても楽しかったのはよく覚えていた。

 ある時は医学について、ある時は月の在り方について、そしてまたある時は――

 その膨大な量の知識を彼女は有し、それを用いて私に教養を身につけさせてくれる。違う講師ではこうはいくことはなかっただろう。

 

 だけど不満があった。

 偶にではあるが、その女性はひどく悲しそうな目つきで空を見つめることである。

 その先には一つの青い惑星が何も語りかけるわけでもなく、その女性を見下ろしているだけ――

 

 つい気になった私は問い詰めた。

 なぜあなたは悲しそうに空を見上げているのか。

 その言葉を驚いたように聞いた女性は、そんな顔していたかしらと聞き返してきた。

 珍しくその女性の分かりやすい嘘を聞いてしまった私は、さらに困惑せざるおえなかった。

 

 それから数年間、私は同じ質問をし続けた。

 あの惑星についての知識はある程度理解しているつもりだった。

 とある昔、私たちの先祖にあたる人はあそこに住んでいたのだが、この惑星が穢れきってしまい、生活を続けるのが困難だと理解した。

 さらにこの惑星自体に巨大な隕石が近づいていることが判明し、この惑星からの脱出が必要だということが判明したのだ。

 そしてこの惑星から脱出し、次の拠点は――

 

 その発案者がこの女性『――――』である。

 そして脱出は無事成功――とはいかなかった。

 

 隕石が脱出時に降り注いだのである。

 余裕を持った脱出のはずであったため、パニックは相当なものであったらしい。

 それでも『この女性』の指示の下で犠牲を最小限にし、なんとか脱出することができたらしい。

 

 当時初めてその話を聞いた私からしてみれば、この女性が一種の英雄としか見れていなかった。

 その女性が悲しそうにあの青い惑星を見上げる理由は一体なぜなのか、救えなかった人々に対して悲しんでいるのだろうか?

 

 同じ質問を続けて何年かたったある日――

 根負けしたのだろうか、それとも私にあきれたのだろうか、彼女はようやく話してくれた。

 

 

 

 そして私は一つの真実と、一人の男を知ったのだ。

 

 

 

 その時の私はどんな気持ちだったのかはっきりとは覚えていなかった。

 むしろその時の彼女の表情に目を奪われてしまっていたのだから――

 

 

 

 それから月日が経ち、私はある禁忌に手を染めたのである。

 『蓬莱の薬』と呼ばれる禁忌の薬、飲めば未来永劫年をとらず、どんな致命傷を受けても死ぬことはなくなる。

 禁忌である理由は言わずもがな、死ぬことができないということだろう。

 そして最大の理由が――

 

 

 ――穢れてしまうということだ。

 

 

 穢れていないこの惑星に、穢れてしまった私という存在がいるだけで、この惑星全体に穢れで満ちてしまう。

 そんな可能性を危惧し、私を処刑にしようとしたが、薬のせいで死ぬことはできず、監禁できても今の技術では穢れを防ぐことはできない。

 

 そこで私に下された審判はこの惑星からの追放であった。

 惑星自体から追放することができれば、とりあえずは私の穢れで満ちることはなくなるだろう。

 そして罪に対する刑期と、穢れを防ぐ設備が整えば晴れて私は月に戻ることができるそうだ。

 

 

 それよりも――だ。

 何故このような薬が存在するのか?

 穢れを作り出すような禁忌の薬を、一体誰が作り出してしまったのか?

 

 

 

 

 

 『――――』

 それがこの薬を作り出した者の名前――そう、それこそが彼女であったのだ。

 

 

 なぜ?

 彼女は答えてくれなかった。

 ただ口元を歪ませ、表情を曇らせるだけだ。

 

 そこで私は理解したのだ。

 彼女は一体なぜこのような薬を作り出したのか。

 

 

 

 不老不死?

 

 

 

 違う……

 そんなちんけな理由で彼女はこんな薬を作ったりなんかしない。

 もっと広大な、絶対にありえない、ありえてはいけないものの為の――

 

 

 

 

 

 ――その先の物

 

 

 彼女はこの薬を作ること自体が目的ではない。

 もっと先のことを見越して、もっともっと先の物を目指して――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『人体蘇生』(リザレクション)

 

 

 

 

 

 勘違いかもしれない。

 いいえ、勘違いでいてほしかった。

 

 彼女の研究室に興味本位で侵入し、この薬の資料を見つけた時、私は言葉を失ってしまった。

 蓬莱の薬は禁忌の薬、飲めば老いることも、死ぬこともなくなる禁忌の薬――

 

 『死』という概念と共に、『生』という概念も捨ててしまう。

 それがどれほどの苦痛なのか、私はこれから身をもってそれを知ることとなる。

 

 

 

 

 

 彼女は何も答えてくれなかった。

 もしかしたら彼女自身、どう答えたらいいのか分からなかったのかもしれない。

 

 

 

 そしてあの青き惑星に流刑される当日――

 私には到底理解できない機械が置かれた部屋に案内され、カプセル状のベットのようなものに横になるように言われた。

 おそらくこの装置が起動すれば、私はあの惑星の元にたどり着くのだろう、そんな軽い気持ちで考えていた。

 

 

 流刑される数分前――

 私は彼女と話をすることが許された。

 

 彼女はとても悲しそうに私を見つめている。

 それに対して私は若干の笑みすら浮かべていたような気がする。

 

 私が蓬莱の薬を飲んだことによって、彼女にも弊害が生まれた。

 今後一切の蓬莱の薬の製造、および彼女自身の薬師としての権利の一時剥奪である。

 これに関しては、彼女は一切異議を唱えることはなかったのだが、私が流刑の判決が下されるときは、何かと異議を唱えていた。

 それがなぜなのか、私には何となく――

 

 

「――ごめんなさい」

 

「あら、なぜ謝るのかしら?」

 

「何故って……」

 

 

 彼女は口ごもる。

 彼女が口ごもるのは珍しい。

 彼女は一体何を考えているのだろうか。

 彼女は――

 

 

「ねえ、実は私嬉しいのよ?」

 

 

 私は答える――

 彼女は困惑している――

 

 

「だって――」

 

 

 私の意識が消えていく――

 私という子がなくなっていくのを感じる――

 

 

「だっ……ぇ……」

 

 

 その言葉は彼女に届いたのだろうか?

 もし届いていたのならば彼女は――

 

 

 

 

 

「殺せるじゃない」

 

 

 

 

 

 もしもまだ『彼』が生きているのならば――

 『彼女』を苦しめ続ける『彼』が生きているのならば――

 

 

 

 

 

 わたしは……『彼』を……

 

 

 

>―――――――――<

 

 

 

 

「殺す……ねぇ」

 

 

 静かに目覚め、そう呟く。

 目覚めるにはまだ早い時間帯ではあるのだが、あんな夢を見せられては安心して眠れやしない。

 

 

「はぁ」

 

 

 私はなぜ死んでいたかもしれない彼を殺すためにここまできたのだろうか。

 まあ単純にこの惑星に来てみたかったというのが本心なのだが、ついでに彼を見つけられたら殺す気ではいただろう。それがこの有様なのだからまったく笑えないのだが……

 

 私が月に帰ると話した時の彼の表情は実に面白かった。

 今やどこぞの従者となっていたあの男はその話を聞き、驚愕の表情を見せてくれた。

 私は元々誰とも婚約を結ぶ気などなかった。ただ周りにもてはやされ、とんとん拍子に話が勝手に進んでいき、どこかのお偉い様に目を付けられたというだけなのだ。それで相手が困るから私にどうこうしろというのはお門違いだ。

 

 

「今頃何してるかしらねぇ」

 

 

 彼は一体何をしているのだろうか?

 彼女は一体何をしているのだろうか?

 

 

「……寝よ」

 

 

 どうでもいいことまで考え始めてしまい、思わずため息を吐いてしまう。

 脳がまだ完璧に働き始めていないのもあるのだろうが、元々まだ日も昇っていない時間帯に起きたのだから仕方もないだろう。いっそもう一度寝てしまうのも悪くはない。

 

 布団を首元まで寄せ、瞼を閉じる。

 すぐに意識はまどろみ始めたのだが――

 

 

「……?」

 

 

 ふと、この屋敷に近づく一つの気配を感じた。

 偶にだが私の存在をよく思わない輩から刺客を送られてくることがあったり、貢物を渡しにきたり、一目見ようと侵入してくるものさえも存在する。

 しかし今回はそういう輩の気配ではなく、ついさっきまで考えていた輩の気配のようであった。

 

 はて、このような時間に貢物を持ってきたことがあっただろうか?

 などと思考を張り巡らせるが、寝起きで思考が回らず、途中で面倒になり思考を中断することにした。

 

 今の時間は、じいやとばあやはまだ寝ているはずだ。

 まああいつだったら私が出迎えても何ら問題はないだろう。

 

 流石に誰も出迎えなしにするわけにはいかないので、私が行くとしよう。

 そう考えると、だるい体を無理やり動かし、最低限の身だしなみを整えた後、屋敷の裏口のほうへと歩を進める。

 あいつには常に裏口からくるように伝えているので、今回もそうなのだろうと確信しつつ、裏手のほうへと歩いていた。

 

 だがその考えは外れたようで、あいつの気配は正面の入り口のほうから感じた。

 あいつが正面の入り口を利用するときは、大概裏口には通りそうもないほどの大きさの貢物だったりだとか、重要そうな書物を読ませるために利用したりするのだが、この時間帯で正面の入り口を使うのは確か初めてなような気がする。

 

 

「まったく……面倒ね」

 

 

 この時間に訪れてくることだけでも面倒なのに、さらに面倒を押し付けに来たかもしれないと考えると、正直もうあいつを無視して眠っていたくもなってしまう。

 完全に無視してしまえば、気づかなかったということに盾にしていればそれでもう十分であろう。

 

 まあそういうわけにもいかないし、もう自室から出てしまっていたので、このまま戻るのも何となく負けたような気がする。

 仕方なしに進路を変更し、あいつにあったら何を言ってやろうかと考えながら移動することにした。何かしらの理由があったにしろ、機嫌を損ねさせたあいつには開口一番に何か言ってやろうそうしよう、そんなことを考えていた。

 

 何事もなく裏口である小さな門の前につく。

 はて、おかしなことに門の前からあいつの気配はあるはずなのに門を叩く音はおろか、声が聞こえることすらないのだ。

 あの馬鹿は馬鹿だけど何も言わずに屋敷には行ってくることは絶対ない。つまり何かしらの合図やら門を叩くなどの行動を起こすはずなのだが……

 

 仕方なく門に手をかける。

 大方みんな寝ているときに来たから起こすのは忍びないとでも思ったに違いない。

 

 

「ほら、なにし――」

 

 

 言葉が止まり、私の体は凍ったかのように固まる。

 少なくとも彼女の話を聞く分にはかなり馬鹿で、常識知らずで、世間知らずなことは分かっているつもりだ。

 

 しかし、この男は一体何をやっているのか、一瞬わからなくなってしまった。

 それほどにまで焦り、集中力を奪われ、平常心を失いってしまったわけだが、大丈夫だ私は正常だと自身に暗示をかけ続ける。

 

 さて、平常心を取り戻し始めたところで一考しよう。

 この男は一体何をしているのか、まずはそこから整理しよう。

 

 

 

 まずこの男は土下座して――

 

 

 

「かぐや姫様、夜分に申し訳ありませんが、不肖ながら私の話……願いを聞いてください」

 

「え……? ええ、いいわよ」

 

 

 

 私の思考に割り込むようにこいつは話し始めた。

 こいつは私に考える時間すら与えてくれないのか、はたまた私の思考が遅すぎたのか、ただ分かるのはこいつが目の前にいて土下座していることくらいだけだ。

 

 

 

 

 

「かぐや姫様、愚かで馬鹿で阿保で屑でどうしようもなくて何をしているのかわからなくて周りから奇怪な目で見られてそれすら気にせず呑気で鈍感で遅くて何をやっても駄目で諦めが悪くて無駄な努力をしている自分ですが――」

 

 

 

 

 

 一息にそう言われても何を言っているのか分からなければ意味がない。

 私は焦っているのか、こんな馬鹿な奴に翻弄されているとでもいうのだろうか、自分のペースを掴めず空中をぷかぷかと浮いてしまっているような気分は一体何なのだ。

 

 なんなだこいつは?

 ただの馬鹿で、阿保で、間抜けで――

 考えるのが面倒になってきてしまうが、ここで思考を止めるわけには――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――婚約を前提にお付き合いを……ブフォォォ!!?」

 

 

 ――そして私は考えるのを放棄し、こいつを蹴り飛ばしたのだった。

 

 

 






 朝起きたら無一がいなくなっていた。
 あの馬鹿は疲労で倒れたというのにどこをほっつき歩いているのやら……
 聞いた話によると掃除をしていたと思ったら馬に乗ってどこかへと行ってしまったようだが、行先などどうでもよかった。
 折角あいつが倒れたというのだから、屋敷を抜け出して美味しい甘味の一つでも買ってきてやろうと思ったいたというのに――


「あーあ」


 それにあいつがいないとあまり話し相手がいなくて暇なのだ。
 もちろん勉学に勤しんでいればいいのかもしれないのだが、今日はそういう気分には何となくなれなかった。


「……バーカ」


 私は小さく呟く。
 そう呟くことしか出来なかった。


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