遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
もう年も超えてしまい、更新が滞りすぎてしまい、見限った方も大勢いらっしゃるかもしれません。
何とか今回更新できました、今回の話はかなり難産であり、少し納得できてない部分があったりします。なので今後修正という形で書き直しするかもしれませんが、その時はまたご報告させていただきます。
今後もまた更新が滞ったり、遅れたりすると思われますが、こんな亀更新でも見て下さる方がいらっしゃれれば、今後ともご贔屓いただければと思います。
それでは長く長くなりましたが、本編へ、どうぞ……
「はぁ!? 覚えてないぃ!?」
意識が覚醒しきれていない自分には、この耳元で叫ぶような大きな声は少し辛い。
なぜ、自分は怒られているのだろうか、というかどうして自分は輝夜姫様のお家にいるのかはっきりと覚えていない。
確か今朝方いい気持ちで庭を掃いていたような、そうでないような、そんなふわふわとした記憶が、さらに自分自身を曖昧にしていく。
見たところ輝夜様は怒っているようだし、自分が何かしらの行動をとったのは明白なのだが、そこのところがまるで墨をこぼしたように抜け落ちてしまっている。
「申し訳ありません……よろしければ自分が何をしたのか教えていただけませんか?」
「いやよ、そんなこと教えて私にどんな得があるのよ!」
いやはや手厳しい。
でも教えてもらえないとすれば、どのように謝罪すればいいのかさえ見当がつかない。
適当に謝ったところで輝夜様のことだから、さらに怒ってしまう可能性もあるし、詮索しようとすると気分を害してしまうかもしれない。
はてはて困り果てた――
「まぁまぁ輝夜や、その辺にしときなさい」
「おばあちゃ……お婆様は黙っててください!」
「あらあらまぁまぁ」
よく周りを見ると、輝夜様の後ろに輝夜様のお爺様とお婆様がニコニコしながら座っていた。
それによく考えると、自分はまるで先ほどまで眠っていたかのように、布団の中に身体を入れている。
察するに先ほどまで自分は眠っていたのだろうか、いやいやなんで輝夜様のお家で眠っているのだろうか――
「これ輝夜や、元はといえばお主が無一殿を蹴り飛ばすから――」
「え!?」
輝夜様が?
自分を蹴り飛ばした?
そんな馬鹿な話があるのだろうか?
いやまあ、殺されかけたこともあるのだからなくはないのかもしれないが、人気がない場所ならともかく自分のお家の近くで?
それほどまでのことを自分はしてしまったのだろうか。
「いいえ! 元はといえばこいつが私に――」
輝夜様が何か言いかけ、住んでのところで思い出したのか、むすっとした表情で自分をにらみつけてくる。
そんな表情をされては、ますます困ってしまう。
「はっはっは! よいではないか輝夜、ここまで肝が据わった男もそうそういないぞ?」
「肝が据わってる? 違うわよ、ただの阿保よこいつは」
「阿保……」
阿保といわれて少し悲しい。
これでも結構『昔』よりは頭がよくなったと思うんだけどなぁ――
「なんてったって、帝をも魅了するお前さんを目の前にしつつ、なおかつ求婚したのだからなぁ」
――求婚?
「え、あの、その、自分が……ですか?」
「混乱しとるようじゃな……まさか輝夜に蹴り飛ばされるとは思いもしなかったのだろうからな」
えっと――
どうしよう、全く身に覚えがない。
記憶の断片すら見つかる気配がない。
それどころかお屋敷から抜け出す前の記憶すらないのだから覚えているはずが――
『クロ』
寒気が……した。
今のはなんだ、今の言葉はなんだ、今の声はなんだったんだ。
覚えていないし、思い出せるわけもないし、思い当たることもない。
ただ、漠然とした『懐かしい』という感情が自分の胸の中を占めている。一体何が懐かしいのかなんて分からないのに――
「えっと、その……お、お騒がせしました?」
「もういいからあんたはさっさと自分の屋敷に帰りなさいよ!」
輝夜様はそう言い放つとおもむろに立ち上がり、部屋から出ていった。
部屋のふすまを開かれた時に外から太陽に光が洩れ、今の時間がまだ昼にまで到達していないのが分かった。
一瞬、輝夜様を追いかけようと想い、立ち上がろうとしたのだが、なぜ追いかけようとしたのか理由がはっきりしなかったため、中途半端に片膝をついた状態になってしまった。
「えっと」
なんとかこの状態を取り繕うと、口を動かしたはいいが、これはこれで何を話せがいいのか分からなくなり、まるで挙動不審な人のように部屋に残る二人の顔を交互に見てしまう。
それがおかしいのか、その二人は小さく笑い、そして助け舟を渡してくれた。
「そうだそうだ! お主にまた手伝ってほしいことがあるんじゃよ」
「え――は、はい」
お爺様はゆっくりと立ち上がり部屋の外へと歩いてゆく。
自分もそれに続くように布団の中から立ち上がり、お爺様についていく。
途中でお婆様がにっこりとほほ笑みつつ、頑張りなさいと自分を応援してくれた。それがこれからお爺様に頼まれたことについての応援だと思い、ありがとうございますと返事をしてから部屋の外へとまた歩き出す。
>―――――――――<
結局、あの馬鹿は帰らなかった。
なんでも手伝ってくれるのは確かにありがたいが、今の私の心情的にはさっさと帰ってもらいたいたくて仕方ない。
爺様たちもそうだ。
確かになんでもかんでも手伝う輩だからとはいえ、こんな夜が更けるまで居座らせるのはどうかと思う。
もしかしたら何か思惑があるのかもしれないが、帰ってほしい私の身にもなってほしいものだ。
「無一よ、今日はありがたかったぞ」
「い、いえいえ」
爺様が嬉しそうに微笑みながら無一の頭を撫でている。その図はまるで、孫をほめているようにしか見えなくて、少し笑ってしまう。
まあ笑うといっても、苦笑に違いない。早く帰れ。
「おおそうだ、もうこんな時間じゃな……このまま返すのも忍びないしのぉ、どうじゃろ今日は泊まっていかぬか?」
「おじいちゃん!!?」
驚愕から、私は素の声で爺様、もといおじいちゃんに声を荒らがげてしまう。
昨日の今日いきなり求婚してきた輩に対する境遇ではないだろうし、そんな気持ちを分かっていないはずもない。
「これ輝夜よ、いきなりそんな大声を出さんでも……」
「いいえ言わせてもらいますわ! こんな馬鹿を家に泊めるなんて――」
気が動転していたのだろう。
私はまくしたてるようにああだこうだと、お爺様に自分の気持ちを吐き出し続ける。
流石に呆れたのだろうか、お婆様が私の背中を撫でながら優しい言葉をかけてくれた。
「まあまあ輝夜や、もうこんな時間なんだし、一日くらいいいじゃないか」
「おばあちゃん……でもこんな男を泊めるなんて」
「それに無一ちゃんは今日一日私たちの為に頑張ってくれたのよ、それなのにそのまま帰すのはどうなのかしら?」
「だって……それはお爺様が勝手に」
このまま私が意地を張り続けてもこの二人には敵わないのは一番近くにいた私自身よく知っている。とはいえ、このままというのも納得もできない。
私はこいつも信用できないし、許してもいない。こんなやつ、どこかその辺でくたばってしまってしまっても構わないではないか、そんな思考になっていく。
「もういいわ! 勝手にして!」
気持ちの整理がつかない私は、そんな捨て台詞を残して部屋を出ていく。
一刻も早くこいつのいない場所に行きたかった私は、足早に自室へと向かっていった。
道中、なぜあそこまでむきになっていたのか分からなくなった。
あいつは確かに嫌いだが、別に避けるほどの相手ではないし、むしろ最近では良い話し相手にもなっていた気がした。
外に出れない私にとって、彼の話はよい暇つぶしにもなってもいただろう。
「――何やってんだろ」
馬鹿らしくなった。
先ほどの行動にどれだけの意味があったのか、いや全く無駄しかなかった。
いつもの私ならば、逆に彼をからかいつつも少しくらい歓迎していたかもしれない。
今日の私は少しおかしい。
今日の私はアイツにあってからおかしい。
彼に求婚されたから?
「――いや、絶対ない」
どちらかというと不快感しかなかったわね、うん。
嬉しくなかったし、怒りや嫌悪感しかなかった。その結果があの蹴りだ。
もうやめだ。
これ以上考え続けても無駄に違いない。
私は思考をするのをやめ、自室にすでに敷かれていた布団に倒れこむ。
嫌な気配がした。
屋敷を囲うように、徐々に近づいてくる。
今更私を攫いに来る輩がいるのかと呆れてしまう。
私を攫いに来ること自体はこれが初めてのことではない。私の噂が広がってきた当初、そういうことは頻繁に起こっていたが、その全てが失敗に終わっている。
そのことから、私の館には最強の用心棒が潜んでいるとか、都一番の陰陽に通ずる輩が守っているという噂が同時に広まっていた。
当時のお爺様とお婆様は困惑したに違いないだろう。
当然である、なぜならそんな輩は雇ってもいなければ住んでもいない。
では一体だれが撃退してきたか、その正体はもちろん私である。
襲ってくるほうからしてみれば皮肉であるに違いない。
目的の人物が、実はとんでもない化け物染みた力を持つ人物なのだから。
では何故、撃退している人物が私だとばれなかったのかは……死人に口なしというわけだ。
結果的に私の噂が都中に広まるに従って、私の屋敷に忍び込む輩はほぼいなくなったはずだった。
しかも都の有力者達から目を付けられ始めてから、互いに牽制しているのか、ある日を境に完全にいなくなっていた。
だからこそ今まで悠々自適に暮らしてこれたわけだ。
それがどういうわけか、それに今日に限って来てしまうのだろうか。
――まあいいか、丁度気持ちがもやもやしていたことだ。これで気持ちを発散させてもらおう。
「さてと……」
布団から抜け出し、着物を正す。
これから現れる人物が誰であろうと、私は私でなければならない。
せめて最後の人物が私であることを光栄に思えるように――
準備が整った私は部屋を出て、庭に足を運ぼうとする。
するとそこには、先ほどまで感じていなかった気配の持ち主が佇んでいた。
「あら無一、今度は何の用かしら?」
今一番会いたくなかった人物がそこにいた。
これからという時にまさか邪魔をしに来る人物がこいつだとは思わなかった。
「輝夜さん……先ほどはその」
どうやらこいつはこれから来るであろう侵入者の気配をまだ感知できていないようだ。
まあ普通は感知などできないのだが、こいつは違うはずだ。無駄に長生きであるこいつは違うと思っていた。
こいつは弱い。
圧倒的に、絶望的に、弱い。
弱いからこそ、弱者であったからこそ、こいつは――
「ごめんな――」
言い切る寸前に奴らは現れた。
大体4、5人といったところだろうか、伏兵がいる可能性を考えれば、後2,3人ほどいるのかもしれない。
流石に気づいたのであろう、こいつは驚きつつも私を『守る』ように前へと出る。
『守られる?』、一体だれがだれを守るというのだ、もしかしたらこの男は私を守ろうとしているのだろうか?
笑える。
笑ってしまう。
こいつが? 私を? 守る?
「誰だ!?」
誰だといって答えるものはそうそういやしない。
予想通り、目の前の侵入者――黒い装束を身にまとった者たちは言葉すら発しない。
話し合いは不可能と察したのか、こいつは胸元から数枚の札を取り出して――
「は?」
『屋敷だけ』結界で包んだ。
目の前の侵入者は驚愕のあまりか、それぞれ身につけたであろう武器を下している。
事実私も驚いているが、それは――
「ふ、ふふふ」
――この男の行動のほうに驚いた。
「はっはっは!!! どうだ! これが私の力だ!!!!」
笑っていた。
腹の底から笑っているのだ。
目の前で大技を披露し、あまつさえ笑っている。
「貴様らは運がいい、今までこの屋敷きて生きて帰った者はいないのだからなぁ! さあ去るがいい! それとも今までこの屋敷に来た者共のようになりたい好き者がその中にいるのであれば別ではあるがなぁ!!」
いや、追い払っていたのは私だ、よくそんなほらが吹けるものだと逆に感心してしまった。
その言葉を真に受けてしまったのか、侵入者の一人が武器を手から落とし、尻餅をついている。
無駄に演技がかったそれは、相手の心理に深く食い込んでしまっているようだ。
はたから見ている私は呆れた。
物凄く呆れ、笑うのすら呆れ、この場に私自身がいるということ自体に呆れた。
「ほう……虚勢を張っているようだな、ならばこれでどうかな?」
そういうと、また一枚の札胸元から取り出し、結界の外に向かって放り投げる。
その札は結界を通り抜け、ひらひらと侵入者たちの元へと近づいていく。
「――ひっ!」
一人小さな悲鳴を放った直後、そこから先は一瞬の出来事だった。
目の前にいたであろう侵入者たちは、全員背を向け、塀を昇り、屋敷の外へと消えていった。
「はっはっは!! これに懲りたらもう二度とこの屋敷に来る出ないぞぉ!!!」
この男は逃げていったであろう人物に向かってそういい放つ。
そうして侵入してきたであろう輩たちの気配はすべて消えてなくなった。
「はっはっはっは……はは……はぁぁ」
完全にいなくなったのを確認したこいつは、胸元を抑え、後ろに倒れこむ。
何事かと思い、そんなに心配しないが一応顔をのぞき込む。
「よ――」
「よ?」
「良かったぁ……!」
一気に脱力したかのように、男はそうつぶやいた。
さっきまで行動が嘘だったように、男は倒れている。
「良かったぁ……バレなくて」
その瞬間、さっきまで屋敷を囲っていた結界は音もなく消えていく。
先ほどまであった『強固』に見えるだけの『貧弱な』結界は何事もなかったように消えていく。
そう、最初から嘘だったのだ。
この男はどこから仕入れたか分からないが、今までこの屋敷を守ってきた人物を演じ、その力の一部を見せたかのように装い、そして騙されたやつらは逃げていったのだ。
「――何やってるのかしら?」
「え?」
こいつからしてみれば精一杯頑張ったつもりだったに違いない。
だが私からすればそれは大きなおせっかい、面倒、邪魔でしかない行動だ。
「……いいえ何でもないわ、守ってくれてありがとう、無一」
皮肉を込めつつ、笑顔で礼を言う。
「ど、どういたしまして」
しかしこいつには通じなかった。
皮肉の『ひ』の字も分からないのだろう、笑顔でそういい返したこいつは、よろよろと立ち上がり、庭にほおり投げた札を拾い上げる。
「よかった……守れて」
どういう意味を込めてそう呟いていたのか、私に興味はなかった。
勝手に守った気になって、勝手に私を守って、勝手に私のやろうとしたこいつに、興味はなかった。
どういう経緯だろうと、こいつは邪魔をした。
イライラしているのだろう、私は早足でその場を後にしようとした。
「輝夜!」
廊下の奥からお婆様の声が聞こえた。
足早に私の元に駆け寄ってきたお婆様はそのまま私に抱きついてくる。そしてその後に続くようにお爺様が近づいてくる。
これは、あまり考えたくないのだが――
「どうやら、今回は無一殿に助けられたようじゃな?」
――ああ、やはりそうなるか。
――ああ、これは面倒なことになるだろう。
間が悪かった。
そう、間が悪かったのであろう。
私をなだめるようにお婆様が私の背中を優しくなでてくる。
私をなだめるようにお爺様が私に声をかけ続けてくれている。
違うと、この時言えていれば良かった。
これから後悔するであろう事態を考えれば何が何でも声を張り上げて言ったであろう。
でもこの時、この瞬間、この数瞬、私は――
「は、ははは」
先ほどのあいつのように乾いた笑い声しか出すことができなかった……
嫌だった。
また目の前で大事な人がいなくなるのが……
怖かった。
また何もできずに大切な人が消えていってしまうのが……
暗かった。
くらい暗いクライ、ただ闇雲に光をもとめて求めてモトメテ……
何もできずに、大切な人が、大切な記憶が、大切な――
だから笑う。
暗いから、怖いから、嫌だから、笑う。
もう何も失わないために、何も奪われないように、何も消えてしまわないように……
自分は――
「守るんだ……今度こそ」
――誓った。