お待たせしてすいません、半年ぶりですが何とか書けました。
半年ぶりに出来上がった物なので、結構書き方変わったかなぁと書いてる自分が思ってしまっております。
最近になってようやく暇らしい暇な時間ができてきたので、ペースに乗れればなぁなんて思っています。こんな感じの作品ですがのんびり待っていただければ光栄です。
「どこ行っていたのよ! この馬鹿! 阿保!」
「ご、ごめんなさい」
ようやく帰ってこれたと思ったら、お姫様からの暖かいお言葉をいただいてしまった。
まあ流石に包丁を投げつけられた時は命の危険をも感じたが、流石に周りにいた使用人の方々が仲裁に入って来ていただいた御蔭で事なきを得た。
だが、お嬢の言葉はごもっともだろう。
何せ何も言わずに屋敷を抜け出した挙句、一日二日ほど音沙汰なかったわけだし……
「この前の約束忘れたとは言わせないわよ!」
「いやあのその……あれ? 約束なんてしていましたか?」
「あんたねぇ……!」
収まっていただろう怒りが、またふつふつと高まっている様が見える。
失言だと思った時には遅かったのだが、お嬢は大きなため息を吐き、自分を睨み付けた後、屋敷の奥へと向かって行ってしまった。
「あ、あはは」
笑うことしか、苦笑いしかできなかった。
それにまだ彼女には伝えなければならないことがあると思うと、胃の奥のほうがキリキリと痛むような気がする。
だがこのまま放置することもできないし、いずれ話さなければならないのならば早めに話したほうがいいに決まっている。
「ううむ……」
とはいえ、気が進まない。
それにこれは、不比等さんを裏切る行為だからなおさらであろう。出来ればそんなことなどしたくはないのだが――
「流石にこれじゃあなぁ」
そう言いつつ懐から一通の封書を取り出す。
今回も面倒なこと……いや、自分から起こしておいて面倒というのは失礼なのかもしれないが、そういうことに巻き込まれてしまった。
先日、本人が言うには必要はなかったようだが、輝夜様の館に侵入してきた輩を退けた結果、お爺様が暫く警護してくれないかと頼まれたのだ。
けれど、自分の今の役目はこの館の留守とお嬢の警護すること、それを放り投げてまでその役目に勤める気はない、ないのだが――
「ほら、とりあえず着替えてらっしゃい」
「はい……」
何故か、『彼女のことを守らなければならない』気がする。
守るというよりは見守ると行ったほうがいいかもしれないな、明らかに彼女のほうが実力はあるだろう。
姫の警護か、お嬢の警護か、秤にかける。
どちらのほうが大切かなんて決めれるはずもなく、ない頭をひねり続けても結論なんか出るわけもなく、心の赴くままにといわれても振り子のように揺れていて決めれない。
そんなこんなで自分にあてがわれた部屋に到着し、替えの服を取り出す。
昨日のいざこざで汚れた服を近くに放り捨て、新しい服に肌を通し、頭の中も軽く整理させる。
こんな状態で考えていても仕方ないだろうし、そう言えばご飯も食べてもいない。お嬢はもう朝食を食べてしまったのだろうか?
新しい服を着終わり、渡り廊下に顔を出す。
中庭に数羽の雀が仲良く飛び跳ね、明けたばかりの太陽の日差しが朝を知らせる。
なんやかんや、なんとなしに、なんとなくそんな感じがして縁側に座り込む。
「何不貞腐れてるのよ」
何時の間にやって来たのか、お嬢が隣に座りこんで来た。
一瞬の驚きを見せつつも、乾いた笑みを返しつつ空を見上げる。
変わらない空が、雲が、太陽がそこにはある。
けれど今の自分は状況が変わってしまった。『長い時間』過ごしてきたけれど、『悩む』ということはあまり経験したことはなかった。
「いーえ、不貞腐れてなんかいませんよー」
「それが不貞腐れっていうのよ、こっちは心配してたってのに」
「心配ですか?」
はて、お嬢が心配するようなことなどあっただろうか。
そう考えているとお嬢は黙って首を振り、優しく自分の頭をはたいた。
「あなたよ、あーなーたー!」
「自分ですか?」
「そうよ、いきなり屋敷飛び出していったって聞かされたのよ、こっちは」
そういえばそうだったような?
若干記憶が危ういが、確かそんな気がした。
それはすいませんでした、と軽く頭を下げるたのだが、帰ってきたのは大きなため息だった。
「で、どこに行ってたの?」
「え、えっと、それは~」
どうしたものか、このまま本当のことを言ってしまえば核心に迫られてしまうだろう。
かといってお嬢に嘘を言うのも忍びない、これは困ったとおおよそ顔に出ていたのだろう、いきなりお嬢は力いっぱいに自分の両頬を引っ張った。
痛い。
とても痛い。
「ほ、ほじょー!?」
「いーいーわーけーしない! いいわね!?」
「ほ、ほわぁい」
なんとか納得してくれたのか手を放してくれたが、内心ではどう答えたものかまだ悩んでしまっている。
痛む両頬を抑えながら苦笑いを浮かべ、若干の時間を稼いでみようと思ったのだが、それは無駄な行動だったのだと悟る。
「で、この封書は?」
「……え?」
お嬢の手に握られているのは、昨日自分に渡されたはずの物だ。
ハッと気づいて自分の服を探してみるが案の定見つかるはずもなく、お嬢の持っているものがまさしくそれであることを再確認せざる負えなかった。
恐らく、先ほど着替えていた時にぼーっとしていたからであろう。脱ぎ捨てた服の近くに落としたに違いない。それをお嬢が見つけて――
「まだ私はこの内容を見てないけどね」
これ幸いと思うべきか、さっさと読まれて真相を知ってしまった方がこちらが楽になっただろうに、と思うべきか。
とにかく、今彼女に握られたものを読まれれば先ほどまで考えていたことは全て徒労に終わるわけだ。
「いやー、その、返しては――」
「勝手に読むわねー」
でっすよねーあの好奇心旺盛なお嬢が読まないわけないですよねー!
心の中で両手を挙げつつ、がっくりとうなだれてしまう。こうなってはもうお嬢にすべて丸投げしたほうが楽だ、そうだそういうことにしよう。
封書の中身はそう難しいことは書かれていない。
簡潔に姫様の屋敷の守護に数カ月勤めてほしいと書かれているだけだった。
正確な期間は書かれてはいないが、恐らく七つの秘宝を探しに行かれた方々が戻ってこられるまでの間だろうと思われる。
お嬢が読まれて少し時間がたつ。
おかしい、内容はそれほど時間を要するものではないはずなのだが、一体何を考えているのやら――
「ふーん、そういうことね」
ついに半刻も過ぎるのではと心配してきた時、お嬢は封書を綺麗に畳みつつそう呟いた。
安心しながらお嬢の顔を伺うと、予想とは裏腹にお嬢の表情は満面の笑みを浮かべていた。
「ええ、そういうことなら行けばいいじゃない」
「えっ?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまう。
あの我儘で傲慢なお嬢が、自分を許し、尚且つ暫くの外出を許してくれた?
「――あなたがいつもどう私を見ていたかよく分かったわ」
ああしまった、声に出ていたようだ。
弁明の余地をする間もなく、久方ぶりの鉄拳が自分の脳天に突き刺さる。
「ま、それはともかく、この封書にある通りなら別に構わないわよ」
あっさり、こうもあっさりと決まってしまったのだが、果たしていいのだろうか?
痛む頭をさすりつつ、疑いの目をお嬢に投げつける。するとどうだろうか、お嬢の表情は先ほどと変わりない満面の笑みだ。
何か裏がある。
そう思わざるおえない。
これでもお嬢と過ごして結構の年月が経っている。
お嬢と最初にあった幼少の頃から、自分と同じくらいの身長になるくらいは一緒にいるのだ――同じじゃない、少し自分のほうが大きいと思いたい。
「ほら、そうと決まったら身支度しなさい、朝餉はまだでしょ?」
「え、ああはい」
「後で知らせるからさっさとしときなさい」
そう言いつつお嬢は立ち上がり、屋敷の奥へと向かって行かれてしまった。
はて、他には何も言わずに行ってしまった。これはもしかすると本当に今回は勝手にしろということなのかもしれない。
けれど、それではお嬢の安全が――などと考えつつも身支度を始めた。
――――――――――
なるほど、今回はそういうことか。
なるほどなるほど、今回はそういう趣向凝らしましたか。
なるほどなるほどなるほど、そういうことなら誰からも何も言われないだろう。
「あっはっはっはっは……やって下さいましたね」
思わず丁寧な口調になりつつ、愛馬のたずなを引く。
「あら、ありがとう」
「はっはっはっはっは……はぁ」
自分の後ろには、自分の肩に手を置く一人の美しい女性が一人――
いやはや最初見た時は驚くほど麗しいは女性でしたね、顔を笠を被って半分見えないのもまた魅惑の箇所の一つとして挙げていいだろう。
「で、おじょ――」
「お嬢はなしって言わなかったかしら?」
「いやですからおじょ――」
「もーこーうー」
「……妹紅様」
「様もなしね」
あまり後ろに人を乗せたこと経験が少ないのであまり速さは出せないが、少なからず当たる風がやや涼しく感じる。
もはや現実から逃避しても構わないか、それでも思考を停止させたいのを必死に我慢しつつ、再度お嬢に問う。
「本当に一緒に来られるのですか?」
「当然」
つまりそういうことだ。
頭が悪いのでもう一度整理してあげよう。
お嬢がついてくることになりました。
はい、頭の悪い自分にもよく分かる簡潔な回答だ。
「お暇様も守れるし、私も守れる、一石二鳥ね」
「お嬢、お暇様じゃなくてお姫――」
「もーこーうー」
そうですねー、輝夜姫様も守れるしー、妹紅様も守れるしー、これなら不比等様も安心ですねー
いや、駄目でしょ。
どう考えても駄目でしょ。
そう考えていた出発当初が懐かしい。
引き留めてくれるだろうと信じていた館の仲間たちは、まるで厄介払いができたかのように満面の笑みで手を振って見送りをしていただきました。
いやいや、そこは引き留めてよといった結果、これもお嬢の経験に繋がりますとか言われ、思考停止した自分は二つ言葉で了承し、馬に跨ってしまった。
自分の馬鹿さ加減が恨めしい――
ああ、そんなところでなんで納得してしまったのだろう――
「ねー、あとどれくらいで着くのかしら?」
「……後一刻程かと」
「ふーん、あ、ねえあの花綺麗じゃない!?」
――そう言えば、お嬢とここまで遠出したのはいつ以来だったろうか。
館自体は抜け出して町に散策に行ったことはあっても、決して町の外に出たことはなかった気がした。
あの好奇心旺盛なお嬢が、なぜ町の外に抜け出そうとしなかったのだろうか。
その理由を、自分は知っている。
当事者だったから、といった方が言いだろう。
彼女と出会った時のことを思い出せば、さほど難しい理由ではないだろう。
妖怪がいる、からだろう。
もうそんなことをお嬢は覚えていないかもしれないが、昔一度だけ外出する機会があったのだが、お嬢は町の出口に立った時にぺたりと足を滑らしたかのように倒れてしまった。
急いで様子を伺った自分は、一緒に街の外に出ようといった過去の自分を呪いたくなるほど後悔した。そんな顔をお嬢がしていたのだ。
そのお嬢が年月が経ったとはいえ、こうして町の外に出られた。
時間が解決したとは言わないが、そう思うと感慨深いところがある。
何もない田んぼ道を進み、景色は変わり森の中、そこを過ぎるとまた田んぼ道――
自分には代り映えしない光景は、お嬢には新鮮だったに違いない。自分には聞き取れない小さな声で何かを呟いているのが、微笑ましくて仕方がない。
理由が理由ではあったが、それだけで自分は嬉しかった。
それと同時に、寂しく感じるのは何故だろう。お嬢が壁を克服して嬉しいはずなのに、素直に喜べてない自分もいる。
こんなに一緒にいたのに、かなりの年月が経っているはずなのに、一番付き合う時間が多いはずなのに――
何故、哀しいのだろう。
「ねぇー、何か楽しい話とかないかしら?」
「唐突ですね」
「だって暇」
お嬢が肩を揺らしたおかげで、正気に戻ることができた。
そうだ、小難しいことを考えても仕方ない。折角お嬢が外に出られたのだから、楽しいことを考えよう。
「んー、そういえば近くに仏様があるんですよ、休憩がてら寄ってみましょう」
「ふーん」
あまり好感触を得られなかったが、機嫌は直ったようだ。
そういえば屋敷を出た時に弁当を持たされたし、丁度いいので食べてしまおう。
「それじゃ、おじょ……妹紅ちゃんも慣れただろうし少し飛ばしますね」
「ちゃんって……」
呼び捨てにするのはなんだか腰が引けてしまった結果だ。
お嬢の肩に置く手が少し力強くなったのを感じ、それを合図に少し速度を上げた。
―――――――――
「ふむ、無一君の使用人ねぇ」
「ええ、もちろん皆様にも仕えるつもりで参りました」
参った。
ここまでお嬢の演技が上手いとは思わなかった。もちろん格好自体が、屋敷の本当の使用人の物を借りたとはいえ、本当に『自分の』使用人になり切るとは思わなかった。
とは言え事前に連絡していたことではなかったので、お爺様が簡単に了承してくれるとは考えてはいない。もちろん、駄目だった時はおとなしく帰ると事前にお嬢とは打ち合わせはしてある。
「いいんじゃない?」
意外や意外、ここで現れたのはあろう事か件のお姫様だ。
お嬢は初対面なので、姫様の存在自体に驚愕の表情を出していた。
それは仕方ないことだ。
自分にはよく分からないが、京で一番綺麗とうたわれているだけのことはある、らしい。
しかし、いきなり姫様が出てくるとは自分も予想していなかったので驚いているのはお嬢と同じだろう。
「そうだねぇ、家事も手伝ってくれるなら大助かりだし、妹紅ちゃんだったね、よろしく頼むよ」
姫様が会話に加わった瞬間、話も一瞬で決着がついてしまった。
結果的にお嬢の目論見通りに終わったのが少しどころかかなり心配なのだが、まあ出来る限りのことはしてあげよう。
ふと、お嬢の様子が気になりチラリと横目で様子を伺う。
「あ、ありがとうございます、誠心誠意頑張らさせていただきます」
「ええ、よろしくね」
姫様は言うことをだけ言って、奥の部屋へと姿を消した。
とんとん拍子に話が進んでいるのが少し不安なのだが、それ以上にお嬢が家事などが出来るかそれ以上に心配なわけで――
「すいません、早速ですが調理場をお借りしても?」
「ん、構わないよ、おお早速用意してくれるのかい?」
「はい、もうじき夕餉の時間になりますし」
んん?
お嬢、それは大丈夫なのか?
確かに積極的なのはいいけど自分はお嬢の料理なんて一度も――
「それでは無一様、また後ほど」
「さっ……う、うん、よろしくお願いします」
様付けに対する驚きを隠しつつ、お嬢も奥の部屋へと姿を消すのを、自分は黙って見守ることしかできなかった。
出来ることなら様子を見に行きたかったのだが、お爺様にこれからのことや屋敷の詳しい構造なんかの説明が始まってしまい、行くに行けなかった。
自分がここに来た本来の役目は輝夜姫の警護ということになっている以上、それを果たさなくては不比等様にまで飛び火しかねない。
これは思った以上に面倒な事態に巻き込まれたのかなと、お嬢に対する不安と、自分のこれからについて、自分は頭を抱えざるをえなかった。
「お、おいしい」
そう驚きの表情をしている馬鹿を尻目に、私は内心天狗になる。
こういうことを想定して家事炊事なんかをあいつに隠れてやっていたわけではなかったが、結果対応することができたので万々歳だ。
私が何故、そんな練習をしていたのか。
そういえば結構前からやっていたので理由を忘れてしまった。
確かそういうことを始めた切っ掛けは、あの馬鹿が屋敷に来てからだったような気がするが――
「そういえば姫様は?」
「ああ、輝夜なら今日は一人で食べたいらしくてな」
どうやら自室で食べているようだ。
流石お姫様、勝手気まま出来るというわけだ。お姫様、通称輝夜姫、その屋敷に私は今現在いるのだ。
何の因果化あの馬鹿が功を手に入れ、この館の守護を命じられたのは思ってもいない収穫だ。
これで私は彼女がどういう人物なのかを見極められる。
父上が見初めた彼女が、一体どういう人物なのかを――
「うん、おいしい」
この味噌汁は我ながらよくできたと思いつつ、小声でそう呟いた。