皆さまの言葉、感想、アドバイスなどなど私を奮い立たせて頂いています。
これからも頑張って書かせて頂きます。
誤字やおかしい表現などがあったら教えてくれると嬉しいです。
感想・アドバイス・批評などなど随時受付中です。
何回目か分からない冬が終わり――
新たな春を迎えようとしている頃――
早めの朝食を終え、久しぶりの休暇を満喫するかのように、机に置いてある資料を読み始める。
一見してみれば休んでいるように見えないが、これでも私は休んでいるつもりである。
資料の内容は無一の能力についてのものである。
ここ数十年にわたって調べているのだが、それにもかかわらず得られた情報は少ない。
無一の能力は無一自身自覚していないのもあってか、常時自動的に発現している。
発現というよりは暴走と言ったほうが適切であると私は思っている。
発現している能力は大きくわけて二つ――
一つは寿命に関して――
自身の寿命の進行を『劣らせる』、それにより『ほぼ』寿命が切れることはないと推測を立てている。
『ほぼ』と銘打ったには訳は、一体どこまで寿命が持つかは私にも分からないからだ。
二つめに自身の身体、および知識に及ぼす影響について――
身体に関しては人間として『劣る』運動能力――
知識に関しては人間として『劣る』記憶能力――
身体については無一自身が、一番困惑していることだと思われる。
周りについていけない運動能力は、常日頃から自身を苦しめてきたであろう。
現在は、長年かけてやっと一般男性ほどの能力を出せるようになってきた。
これを見る限り、筋力などは蓄積することにより、微々たるが成長することが分かった。
記憶能力も同様である。
出会った当初は、一般常識が分からないだけではなく、会話すらままならない状況であった。
加えて記憶力もなかったので、自分がやったことすらすぐに忘れてしまい、私の頭を何度悩ましたことか……
これも長年の成果があってか、若干良好に進みつつある。
こちらも微々たるが成長することが経過によって実証された。
大きく分けてこの二つだが、まだ解明しきっていないことがあると思われる。
正直ここまで調べても、まだ底が知れないほどの謎が残っていることに驚きを隠せない。
やりがいがあるとまではいかないが、暇はつぶせる程度はある。
無一自身の成長過程を毎日見ているが……最初のころはかなり頭を悩まされたものだ。
今はそこまでではないものの、聞かれることは聞くし頭を悩ませることもある。
それになんといっても、彼はまだ子供だと思う。
未だに目を輝かせて笑っているのを幾度となく見ている。
それが羨ましいと思ったこともあるが、現在ではただの馬鹿だと思っている。
そばに置いてあるコーヒーを口に含むが、少し苦く感じ角砂糖を一つ入れる。
いつもは入れないのだが、今日は少し甘い物を飲みたかったのかもしれない。
角砂糖を入れ再び口に含むが、今度は甘すぎる気がした。
外から威勢のいい声が聞こえてくる。それがで無一であることは言うまでもない。
無一は毎日欠かさず自己トレーニングを行っているが、途中で力ついてしまうのが風景とまで化してしまった。
そういえば、能力の副作用か分からないが無一は病気にはかからないようだ。
言葉遊びをするならば、周りのウィルスを『劣らせ』ていると言えるだろう。
実験などを行っていないので、確実とは言えないが……次の機会に試すのもいいのかもしれない。
実験自体幾度となく行っているので無一も喜んで承諾するだろう。
今度は盛大に何かが倒れる音が聞こえる。
それが物置にでも突っ込んだなと私は推測をする。
必死にそれを片そうとしている無一の姿が頭に浮かぶが、無一のことなので整理などできるはずがない。
仕方なしに椅子から立ち上がり上着を羽織る。
折角の休みなのに忙しいことには変わりはなくなってしまうようだ。
無一には今度整理の仕方でも教えた方がいいかもしれない。
一々私がやっているのでは、ただ苦労と疲労が溜まるだけだろう。
そう思いながら私は部屋の取っ手に手をかけた。
>――――――――――<
やってしまった。
最初に自分が思ったことである。
『意気揚々』と走っていたときである。
その時、後ろ走りをしていて『前方不注意』だったのか物置にぶつかり、その衝撃で中の物が崩れてしまった……人間に例えると『死屍累々』になっていた。
「よし! 難しい言葉3回も使えた!」
ガッツポーズをする。
意味はちゃんとあるのだ。
なんせ難しい言葉を3回も使うことが出来たのだから!
最近覚えた単語であるが、少しずつ覚えてくることが出来て嬉しかった。
昔は全然覚えることが出来なかったのだから――
「よーし! 勉強しに行こう!」
そして自分は物置を後にして自室に戻ろうとするが、目の前に何かがあたり尻もちをついてしまう。
何が当たったのか確認しようと顔を上げるとそこには……
「おはよう永琳!」
「ええ、おはよう無一……何か言うことは?」
「ええと……おはようございます?」
なぜか永琳が溜息をはく。
永琳が溜息をはくのは決まって自分が何かした時である。
多分自分では分からないが悪いことをしたのだろう。
「ご、ごめんなさい?」
「何に謝ってるのか分かってるのかしら」
「全然!」
「そうよね」
また溜息をはく永琳。
試しに自分も溜息をはいてみる。
なぜか頭を叩かれた。
とても痛い、泣きそうになる。
「物置を散らかしたのはあなたでしょう?」
「散らかしてないよ? ぶつかっただけだよー」
「原因は作ったのよね?」
「はい!」
「反省」
「はい……」
永琳に反省と言われると自分は反省をする。
一体何が悪かったのかを考えて、それを永琳に報告する。
それが当たっていれば永琳にほめてもらえる。
「えっと……物置にぶつかって、それで……ええと、散らかしてしまったから?」
「正解」
「やった!」
思わず両手をあげて喜んでしまう。
永淋から直接『正解』をもらうのが久しぶりだったからかもしれない。
永琳は自分に手を差し伸べる。
それを自分が受け取ると引っ張って自分を立たせてくれる。
そういえば永琳にぶつかって倒れていることを忘れていた。
「とりあえずここの整理をするわよ……丁度いいから掃除もしましょう」
「はい!」
「無一、掃除道具持ってきてくれるかしら? 場所は分かるわね」
「はい!」
自分は勢いよく掃除道具が置いてある所に走って行く。
永琳と一緒に何かをやるのは久しぶりだ、最近何だか忙しいみたいで、家にいる時間が少なくなっているように感じる。
そう考えながら掃除道具に手をかける。
なんでこんなに早く掃除道具が早く見つかったのかというと、遊びで使っていて、そのまま放置していたからだ。
永琳には秘密だったのだが戻ってきたらまた頭を叩かれたてしまった。
これから永琳に嘘を言わないようにしようと心の中に誓った。
>――――――――――<
無一が目の前で咳こんだ。
やはりこの物置の掃除自体久しぶりなので埃がたまっているようだ。
窓を全開にして換気をしているがそれでもまだ埃っぽかった。
「うぎゃぁぁ!!」
バサバサと何か大量の紙が崩れる音が聞こえ、その近くで無一の悲鳴があがった……また無一が崩したのだろう。
仕事を増やすのが好きなのではないだろうか、そんな皮肉を考えながら無一の近くに寄ってみる。
無一は大量の紙の下敷きになって伸びていた。
溜息を吐きながら無一を大量の紙から引きずり出す。
しかし、ここまで綺麗に下敷きになるのも珍しいように見えるが、無一のことだから別段不思議でもないかと考えなおす。
「ほら起きなさい無一」
「うぇ……神様が降って来たぁ」
「それじゃ天災が起こるかもしれないわね」
「永琳が怒るの!?」
「それは『天才が怒る』よ、神様がすごいことするということよ」
「何やるの?」
「雷でも起こすんじゃないかしら?」
「神様ってすごい!!」
さっきまで延びていたにもかかわらずはしゃぎだす無一――
しかし、そのせいでさらに埃が舞ってしまい咳こむ無一――
いつ見ても思うのだが生粋の馬鹿だと私は思う。
こればかりは能力ではなく性格なのだろう。
そんな私もその舞った埃のせいで咳こんでいる。
咳こみながらいったい何を考えているのだ私は……
「げほげほ……でもなんだか」
無一が胸を押さえながらじっとわたしを見つめてくる。
あまりに純粋なその目を私は……見つめ返すのが少し辛く感じたのは何故だろうか。
「永琳とこうやってるの自分大好き!」
「――は?」
あまりにも唐突な答えに私は少し困惑する。
無一のこんな所業は今に始まったわけではないが、こんな答えが返ってくるのは初めてである。
「なんかね! えっと、えっと……最近永琳忙しそうだったし」
急に無一が落ち込んだように見える。
いや、実際に落ち込んでいるのだろう、目が少し悲しく見えるのだから間違いはない。
「だから、その……邪魔しちゃいけないと思って、その……お仕事邪魔してごめんなさい!」
「そんなこと考えなくていいわよ」
私はそう言いつつ考えてみる。
最近確かに私は忙しい、それは事実である。
そのせいで無一との会話も少しずつ減っているのもまた事実だ。
まだまだ『子供』である無一にとってそれはきついことだったのかもしれない。
「あなたは馬鹿なのだから私を頼りなさい……少しくらいは教えてあげるわよ」
「でも、邪魔しちゃうし」
「だから考えなくていいわよそんなこと……私は『天才』でしょ?」
そう言うと無一は少しずつ笑顔になっていく。
それにつれて私も微笑んでいくのが分かる。
無一を最初に連れて来た時には考えられない心情の変化だなとつくづく感じる。
最初の内は無一のことを『実験体』としか考えていなかった。
こればかりは私も人なのだなと思う。
無一の面倒見なければいけない……さながら親になっているようである。
「じゃあ聞きたいことあるんだけど……いい?」
「そうねぇ……とりあえずこれが終わったらいいわよ」
そういって私が指さすと、その方向には先ほどの大量の紙が散らばっている。
さらにその奥では、今では不要と化している物が散らかっていたいた。
「さっさと終わらせて休みましょう」
「はい!」
無一の返事はとても透き通って聞こえた。
>――――――――――<
ズズズと、縁側でお茶を飲む。
そんな風に飲んでいると永琳に注意されてしまった。
今度は音がしないように注意しながらお茶を飲む。
そして傍に置いてある煎餅を食べる。
少し硬いがとてもおいしかった。
「で、何が聞きたいのかしら?」
「ふぇえと……ふぇいりぃんの!」
「まず食べてから言いなさい」
「ふぁい!」
急いで煎餅を飲み込もうとすると、喉に詰まって胸が締め付けられる感じがした。
今度はお茶を急いで飲み、熱くて舌が火傷したような痛みを感じた。
「そこまで急がなくても私は逃げないわよ?」
溜息をはく永琳見て恥ずかしくなった自分はポリポリと頬をかく。
「で、何が聞きたいのかしら?」
「えっと……なんでもいいんだよね?」
「答えられるものならね」
「え?永琳にも分からないものがあるの?」
「あるわよ、私は『天才』であっても『完璧』ではないわ」
永琳が言っている意味の半分は分からなかった。
でもなんとなく分かったような気がした。
「『天才』と『完璧』の違いでも知りたいかしら?」
「うーん……今はいいや」
永琳はそうといってお茶を飲んだ。
お茶の飲んでいる音が聞こえないから永琳はやっぱりすごいと思った。
「で、何が聞きたいのかしら?」
「えっとね……」
そこで自分は少し考える。
一体何が聞きたかったのか。
そのこと自体考えていなかった。
じゃあ一体何が聞きたいのか。
「うーん」
永琳はまだ待っていてくれる。
でも早く考えたほうがいいと思った。
そうやって考えていくうちに一つだけ思い浮かんだ。
「永琳」
「何かしら」
「永琳の夢って何?」
>――――――――――<
無一が言ったことは私の夢に関してだった。
子供らしい質問だなと思うと同時に気づいたこともある。
私の夢とは何なのだろうと
考えてみる。
まずは地位――
すべての人の頂点に立つ。
それが私の夢なのだろうか?
答えは否――
別に人の上に立つことが私の夢ではない。
次に富――
使えきれない金を手に入れる。
それが私の夢なのだろうか?
答えは否――
別に富を蓄えるのが夢ではない。
次に名誉――
誰もが私の名前を知っている。
それが私の夢なのだろうか?
答えは否――
別に名を残すことが夢ではない
ではいったい私の夢なのだろうか。
まさか無一のせいで考える羽目になるとは思わなかった。
だが、ある意味いい機会なのかもしれない。
私が私として――
八意永琳として――
八意××として――
一体何を望んでいるのか。
その答えは――
『誰かのために役立てることにも興味はなくもない』
そうだった。
思い出した。
あの頃の私の夢は――
「誰かのためになることかしら」
それが多分私の夢なのだろうと思う。
夢なんてそんなものなのだし、私の技術で誰かが喜ぶのなら私はそれで嬉しい。
昔――
子供のころ――
私も無一のように目が輝いていた頃――
そんなことを『馬鹿』みたいなことが夢だと言っていた。
まさか無一のおかげで思い出すとは思っていなかったが……
「へー! 自分とおんなじだ!」
「あら、そうなの?」
「うん! 自分はね――」
>――――――――――<
「自分はね――ヒーローになるのが夢なんだ!」
「ヒーロー?正義の味方かしら?」
「うん!困っている人を助けるのが自分の夢」
自分はそう言いながら胸を張る。
ヒーローになるのが自分の夢であるが、別にヒーロー自体になりたいわけではない。
どちらかというと困っている人がいればその人を助けることさえできればそれでいい。
「そうねぇ……今のままでは無理ね」
「うん、だからいっぱい、いーーーっぱい! 頑張るんだ!!」
「そう……いい夢ね」
「うん!」
自分は喜びながら頷く。
自分の夢をほめられてとても嬉しかった。
今のままではその夢は実現できないだろう。
だからとにかくいっぱい努力しないといけない。
そう考えていると体がうずうずしてきた。
「よし……永琳! また走ってくる!!」
「善は急げね……ええ、いってらっしゃい」
「行ってきます!!」
そう言って自分は走りだす。
いつか夢見た『ヒーロー』になるために――
「元気ね……よく飽きずに走れるものだわ」
そういって窓から外で走っている無一を見る。
その顔はとても疲れているが、どこか嬉しそうに見えた。
「私も……あんな頃あったかしら」
ふと過去を振り返ってみる。
いつも『苦労』なんてしたことがあっただろうか?
否、『天才』の私が『苦労』なんてするがない
「ふう……あと少しね」
目の前の書類に書き込む手を休める。
その書類には私の字がびっしりと書かれている。
こんな作業は日常茶飯事であるが、ここまで数時間も書類と面を合わせていては流石に疲れてくる。
「はぁ」
この書類はある意味かなり重要な書類である。
それと同時進行であることが行われているのも分かっている。
今でもその作業は行われているのだろう。
『月移住計画』
決行される日は――近づいている。