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スゥと襖が開かれる音が聞こえた。
それと同時に光が入ってきて、今まで真っ暗だったのが明るくなる。
それを遮るように布団を潜るように被る。
外の方から鳥の声が聞こえてくるが、今の自分にとってはそれは目ざましに聞こえてある意味不愉快だった。
そんなこと考えていると、被っていた布団が何者かに引っ張られ、布団をどこかに持っていかれてしまった。
ならばと顔面を枕に押し付ける……が、今度は敷布団がすごい勢いで引っ張られる。
一瞬の浮遊感を感じるのも束の間、重力に従い、体が畳にぶつかる。
それが眠っていた意識を勢いよく吹き飛ばし、同時に体中に痛みが広がっていく。
特に痛かったお腹を押さえながら、上半身を上げてそれを行った張本人を見つける。
目をこすり――
欠伸をして――
体を伸ばし――
「おはよう~永琳~」
「――ええ、おはよう」
にっこりと笑顔になった永琳に寒気を感じ、それを見ないように必死に苦笑いをしつつ顔をそむける。
そんなことを考えながら着替えをはじめる。
そんなこんなで今日も始まる。
>――――――――――<
「「いただきます」」
自分と永琳は同じように手を合わせながらそう呟く。
食材たちの感謝の意を込めて行う神聖な儀式のようにも感じる……のだが、永琳が言うには、最近の人たちは言わなくなってきたことを話してくれた。
それが単純に忙しくて忘れているのか――
それが単純に食材たちに対してなんにも思わなくなってしまったのか――
それは分からないけれど、最低でも自分は言うようにしないといけない。
もし自分が見える範囲で言わない人がいたら注意しないといけない。
食材への感謝の気持ちを伝えないのは、食材にされたものに対して失礼だから……
今日のご飯は久しぶりの卵かけご飯だ。
永琳は醤油をかけて、ネギをのせて食べている。
自分も醤油をかけて、ネギをのせて食べ始める。
昔は味噌とか胡椒をかけていたけど、最近は永琳に栄養の話を聞いてやめることにした。
――卵かけご飯も栄養的にどうかと思うが何も言わないことにしている。
「今日も少し帰るのが遅くなるわ」
唐突に永琳がそう話してきた。
けれど、こんなことは何度も経験していたので、余裕を持って口の中に入っていたものを飲み込み。
「どれくらい遅くなる?」
「そうねぇ、夕飯までには帰るわ」
「あ、じゃあ夕飯用意しとこうか?」
「いいわよ、私が作るから」
その言葉を聞いて箸の動きを止まる。
背中からまた冷たい何かを感じつつ、若干口ごもりながら声を発する。
「えっと……一応聞きますが、何を?」
「味噌汁」
「また何か入れないでよ……」
「あら? 昔はおいしいおいしいって言ってたじゃない」
たまったものじゃない……
昔は知らなかったからよかったものの、少し前に明らかに危険な薬品を入れているのを見つけてしまった。
それ以来永琳の味噌汁を危険視するようになっている。
まあ……実際はうまい、それに知らないというより、見ても理解できなかっただけだし……
もしかしたら味には気を使っていたのかもしれない。
「それより今日お使い頼めないかしら?」
「何買ってくればいいの?」
「人参白菜大根里芋玉葱茄子山葵菠薐草生姜」
「――メモでお願いします」
「ん」
永琳は相槌をうちつつ水を飲む。
その行動はこの前に行儀が悪いと言って怒られて気がしたが、永琳だからいいのだろう。
そして自分も同じように水を飲む。
昔のように何でもかんでも喉に突っかかることはない……ように毎回注意している。
「「ごちそうさまでした」」
食べ終えると同時に自分と永琳はいつものように掛け声を言う。
一体何回この言葉を言ったのやら……考えようとしても答えなんて出てくるわけがない。というか今まで数えたことがないのでほぼ不可能だろう。
食器を運びながらそんなことを考えていたわけだが、段差に躓きそうになってバランス崩れてしまう。
なんとかバランスを保つことが出来たが、注意力が散乱していたことを反省し、食器を運び始める。
そういえば昔は食器も洗えていなかったなと、食器を洗いながらそんなことを考える。
永琳が忙しくなってくる前に食器洗いを覚えることができてよかったと内心思う。
今では大体の家事くらいならこなせるようになってきたが……
まあその一つ一つが出来るようになるのにどれほど時間がかかったのかは、数えるのも無理なレベルだと言っておこう。
「メモとお金は玄関に置いとくから忘れないように」
「うん、分かった」
永琳が玄関で靴を履きながら、自分を心配するようにこちらを見つめてくる。
おつかい自体は初めてではないし、何回も行き来しているから大丈夫なのだが、それでも心配されるというのは、やはり自分だからなのだろう。
「後は……行き方は分かるかしら?」
「大体かな? 忘れたら近所の人に聞くよ」
「よろしい、少しお金多めにあるから好きに使っていいわよ」
「え! いいの!?」
つまり自分にお小遣いをくれるということなのだが、久しく貰っていなかったので、何を買おうか連想してしまう。
永琳が溜息をしながら見ているのに気がつき、慌てて見送りに集中する。
「構わないわ、じゃあ行ってくるわ」
「いってらっしゃーい!」
ガラガラと玄関が開き、永琳は自重気味の笑顔を自分に見せてくれた。
そして玄関が閉まると同時に、自分が今日やることを確認しつつ、台所へと移動する。
さっきも言ったが最近永琳はかなり忙しいみたいだ。
テレビにも少しばかり出るようになったし、研究の方も忙しいと言っていたが……体を壊さないか心配である。
昔だったらそんなこと分からないかもしれないけど、流石に何年も……年?
あれ? そういえばどれくらい永琳と一緒に暮らしているのだろうか。
思い出そうとしても、自分の頭では思い出すことなんて不可能である。
自分がつくづくバカだなぁと落胆しつつ苦笑をもらした。
「よし、食器洗いおしまい! お使いお使い~!」
水で濡れきった手を布巾でふき、鼻歌交じりに玄関に移動する。
途中廊下を歩いている時に、なんとなく外の光景に目が向く。
別段何があったわけではないが、ただ何となく外を窓越しに見る。
「いい天気だなぁ」
こういう天気だと、自分の気持ちも落ち着くし、楽しい気分になれる。
雨だったとしても、作物は実るし、恵みの雨という言葉もあってか、楽しい気分になれる。
外の光景に目を奪われていると、途中でおつかいに行くことを思い出し、駆け足で移動する。
――転んだ
>――――――――――<
今の季節は秋――
決まって寒い日もあるが、今日に限っては太陽がこれでもかと自分を主張している。まあそこまで暑いわけでもなく適温と行ったところである。
一応普段着から外出用の服に着替える。
この服を買ったのはもちろん永琳である。
本当に感謝の意が唱えきれないな……そんなこと考えながら、どう感謝を伝えようか考えてみる。
ただ普通に『ありがとう』という――
普通すぎるかもしれないけどこれこそが普通なのかもしれない。
なぜか今のが文章として成り立っていない感じだけどつまりはそう言うことなのだろう
これから頑張って『恩返し』をする――
昔から考えてきたことだが、多分今の自分ではまだ駄目だろう。
理由は簡単、自分はまだバカだから……言ってて悲しくなるが仕方なし。
もう少し頭がよくなってから行うことにしよう。
なんでもいいから『何か』をあげる――
俗に言う『ぷれぜんと』のことである。
まあ『ぷれぜんと』の意味は本でしか見てないからよく分からないし……
それにお金もないし……
――あ、
「ある!」
自分は全力疾走で玄関に走りだす。
――途中転んで顔面を打ち付けた。
>――――――――――<
「つまり時間の問題と?」
「そうですね、着実に時間は迫っていると考えてもらっても構いません」
「ですがねぇ……いきなり言われてもピンときませんが」
「しかし、刻一刻と時間が――」
ああ、だるい……
なぜ私がこんな意味の分からないところに来ているのだろうか。
正直に言うと理由は分かっているのだが、こんなことをしている暇あるのならばさっさと作業場に戻りたいところである。
これも一応仕事と割り切るほかないが、なぜこんなくだらない番組に出演しなければいけないのだろうか……愚痴が頭の中で埋め尽くされそうだ。
「永琳先生はどう思われますか?」
いきなり私に話題を振られてしまう。
いっせいに周りの人物、テレビカメラ、ディレクターなどなど様々のものが私に注目する。
面倒だ。
ああ面倒だ。
とても面倒だ。
かなり面倒だ。
「こっち見ないでくれないかしら……面倒事は嫌いなのよ」
そんな言葉を発することができればどれだけ楽だろう、だが今そんなことを言ってしまえばどうなるかは検討がつく。
「そうですね、今ここで手を拱いていても仕方ありません。我々は前に進まなければいけません」
思いついた言葉をそのまま言い放つ。
こう言う場面で、頭がいい自分をほめたくもなるが、それとは別に一刻も早くこの場から離れるための頭が働かないのが残念でしょうがない。
まあ、思いつたとしても収録が終わるまでは拘束されてるも当然なので、無意味に終わることは目に見えている。
「おぉ! 流石永琳先生ですなぁ……言うことが違います」
隣の男がすぐに相槌を入れてくる、正直言って耳元がうるさくて仕方ない。
それとは裏腹にその男性に笑顔を返すあたり、収録にも慣れてしまった自分が馬鹿らしく感じてしまう。
「いやしかし……可能なのですか?安全も確保できているわけでも――」
「何を言うか! 永琳先生が直々に指導なさっている計画なのだぞ! 失敗などあり得ませんなぁ」
しかしこの男本当にうるさい、私を持ち上げているのは分かるがここまで来ると溜息が出そうになってくる。
心底ここからは消えて、作業を再開したいものだ。
「ですよねぇ……永琳先生?」
その男が気持ち悪いくらい満面の笑みを浮かべながら私を舐めるように見る。
無一とは違った溜息がここでは本当に出てしまいそうになる。さっさと終わらせて、さっさと作業に戻れるようにしよう。
「『月移住計画』に欠陥などありません」
>――――――――――<
「人参白菜大根里芋玉葱茄子山葵菠薐草生姜ください!」
「そのメモをくれるかい、無一坊ちゃん」
「はい」
自分は永琳が書いてくれたメモを八百屋のおじさんに手渡す。
すると、おじさんが苦笑しているのが見えて、自分は不思議そうにする。
「いやー悪い悪い、ここに『もし見て下さったら郵送で』と書かれているもんでね」
自分はおじさんからそのメモを返してもらうと、確かに隅の方に書かれていた。
野菜の漢字に気を取られすぎて、その文字の存在には気が付いていなかった。
「ハハハ! 永淋殿はここまで計算なさっているようだ!」
「ううう……自分そんなことしなくても持てるです!」
「お! 言うねぇ……じゃあ量を見てみるかい?」
おじさんが笑顔で野菜をかき集め始める。
が、量が思っているより多いような気が――
「面喰ってるねぇ……そりゃあそれぞれ一個じゃないぞそれ」
「……」
どうやら永琳は最初から運んでもらうように仕組んでいたようだ。
それだったら自分が行かなくてもいいんじゃないかなと思うが……
「まあそう落ち込みなさんな、坊ちゃん」
おじさんが自分の目の前にやってくるのが分かる。
思わずため息が出てしまうが……
そんな時、おじさんがポケットから何かを取り出し、自分に渡す。
それは丸いものが包まれた紙だった。
それが何なのかは一瞬で理解でき、嬉しさのあまり声をもらしてしまった。
「飴!」
「ハハハ! やっぱり坊ちゃんは笑顔のほうが似合ってるよ! そらお食べ」
おじさんがその飴玉を自分に渡してくれた。
紙を早い手つきで取り除き、中に入っていた飴を口の中に含める……イチゴ味のようだ。
「しかし……永淋殿も忙しいようだなぁ」
おじさんはそう言いながら店の中にあるテレビに目を移した。
自分もそれに目を移すと、そこには永琳は何か難しいことを話しているのが見えた。
するとおじさんは自分の髪をいきなりワシャワシャとかきだした。
突然のことに驚いた自分はその手を必死に振りほどこうとするが、力の差があって振り切ることが出来ない。
「ハハハ! まあ俺は頭良くないからよく分からんがな!」
おじさんは動かしていた手をやめ、今度は頭を軽く二回叩いた。
その行動の意味が理解できない自分は、おじさんをただただ見ることしかできなかった。
「坊ちゃん、よく聞きな! 永淋殿はきっと疲れているからな! 坊ちゃんができることは何でもするんだぞ、少しでも彼女の助けになってやれ……男だからな!」
おじさんはニッコリと微笑みながら自分に教えてくれた。
永琳が疲れているから何でもできるようになって、永琳の助けになる……
「おじさん!」
「ん?」
「自分頑張る!」
「よく言った! ご褒美にもう一個飴玉をやろう!」
「わーい!」
自分は喜んでおじさんから飴玉をもらう。それを無くさないようにポケットの中に入れる。
そして、自分は思い出したかのようにおじさんに尋ねる。
「おじさん! 聞きたいことがあるんだけど……」
「おう! なんでも聞きな!」
自分は真剣な表情になりながらおじさんを見つめる。
そして――
>――――――――――<
「はぁ」
私は今日何度目になるか分からない溜息をはく。
本当に今日は心底疲れた。こんなときに限って変な記者もやってきたりして面倒ごとが重なってしまうし……
まあ今日やる分の仕事はやったことだし、帰ったらさっさと風呂に入って、早めに眠ることにしよう。
「おや? 永淋殿ですかい?」
すると、前方から威勢のいい声が聞こえてきた。
この声は確か――
「あら? 八百屋の」
「こんなところでお会いできるなんて光栄ですな! ハハハ!」
「フフ、貴方はいつでも元気ですね」
「おうよ! 元気が俺の専売特許ってね!」
よく見ると、彼は荷車をひいているようだった。
しかし、この時間帯に荷車なんて引いているのは……
「ああ、これですかい? 実は仕事が多くて永琳殿の郵送が遅れちまってねぇ、いやぁ申し訳ない!」
「いえいえ、そんなことないですよ」
彼が本当に申し訳なさそうに九十度背を曲げて謝るものだから少しばかり戸惑ってしまう。
これが彼のいいところでもあるのだが、逆に面倒なところでもある。
が、今日感じた面倒さとは違い、すがすがしさを感じるのは彼ならではだろう。
「あ、そういや坊ちゃんなんですが」
「無一が何か? まさか家にいなかったかしら?」
「いやいや、ちゃんといましたよ。元気にトレーニングしてましてねぇ」
「はぁ」
私はてっきりまた道に迷っているものだと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。
まあ流石にそう何度も道に迷うわけが……否定できないところがまたなんとも言えない。
「いい家族を持ったようで羨ましい限りですよ」
「家族?」
「あれ、家族じゃあ悪かったですかね?」
家族か、そう言えば考えたこともなかった。
実際無一とは何年……年?
そういえば無一と過ごしてどれくらいたったのだろうか。暇を見つけて計算してみようかしら。
閑話休題――
確かに家族だと思ったこともないし、好意を持っているわけでも……
彼に身内がいるわけでもないし、住むところがなかったのを拾ったわけで……
「フフ、そうね……家族みたいなものかしら」
私らしくもない。
無一がどうこうではなく、私がどうだろうと考えてしまった。
考えるまでもないではないか、彼は最初は実験体として家に招いたようなものであったが、今になってみれば相当世話をしたことを覚えている。
「そりゃあよかった……で、本題ですがねぇ」
彼が少し私に微笑んでいるのが分かる。
何に対して微笑んでいるのか私には皆目見当もつかなかった。
「いい家族を持ったねぇ! いやぁ俺は嬉しいよ!」
「えっと……それはどういう意味で――」
「おっといけねぇ! 早く帰んないと女房が怒っちまう! それでは!!」
彼はまるで風になったの如く、わたしの前から姿を消した。
というか、荷車を忘れて言ったが……まあ面倒だからこのままでいいか。
それよりも、今の言葉はどういう意味なのだろうか……とりあえず家に帰ってから考えましょう、先ほどから少し肌寒くなってきた。
>――――――――――<
「で、寝ていると」
家に帰ってみると玄関で大の字になって眠っている無一を発見した。
仕方なく無一を部屋まで抱えて行くことにした。眠っているのを起こすのもかわいそうだと思ったからでもある。
にしても、トレーニングをするならば限界までやらないでほしい。無一の服を見ると分かるがかなり砂まみれ立った。
もちろん、その砂自体は玄関で払ったが、流石に服を変えないといけなくなる。
面倒ではあるが一旦起こさなければいけないようだと答えを出し、無一の頬をつねる。
「痛い……」
まだ寝ぼけているようだが、何とか起こすことに成功。
そして寝ぼけている無一に着替えを指示する。何とか意識がある無一はそれを了承し、着替えを始めた。
「それが終わったらもう寝なさい、お腹が減ったら適当に何か食べていいわよ」
「ん……」
無一はそう言うとものすごく遅いスピードで着替えを始める。
見ていられない私は溜息を吐き、すぐに無一の部屋を後にする。
結局八百屋の彼が言ったことは分からなかったが、明日にでも無一から聞けば分かるだろう。
前髪を軽く上げながら移動していると、茶の間の電気がつけっぱなしなのに気付く。
多分無一がつけたものだろうと思いつつその部屋の中へと入る。
「なるほど」
そう呟く。
理由は簡単であり、かつシンプルなものだった。
だがと、私は考える。
無一にできるものだろうかと――
それの答えはすぐにでた。
なるほど八百屋の入れ知恵か。
そうとしか考えられなかった。
なるほど……彼がさっき言ったこともすべて理解できた。
それにしても無一もここまで成長したのか。
最初会ったときとは少しばかりはよくなった。
いや、かなりというべきだろうか。
それにしてもと思う。
提案は無一だろうが、八百屋もやってくれる。
多分だが無一自身この意味を理解してはいないだろう。
推測だが、最初に考えたのは無一でどうすればいいか困って八百屋に聞いたと言ったところか。
そしてその近くに一つのメモが置いてあった。
それは私が今日置いていったメモだったが、その裏に何か書かれていた。
書いた人物は一瞬で理解できたし、内容も簡潔だった。
まったく――
私は一つ伸びをする。
これでは私は頑張らないといけないなと
義務ではない。
誇りではない。
使命感でもない。
唯一つの――
そう唯一つの――
『いつもありがとう
これからも大変だけど頑張ってください
自分も永琳みたいに頑張ります』
『チューリップ』と『スターチス』の花束
花言葉は――
チューリップ 『永遠の愛』『愛の告白』
スターチス 『変わらぬ誓い』『永遠に変わらぬ心』