加速度的ボーイミーツヤンデレ   作:胡椒こしょこしょ

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白馬のお姫様は突然に

俺の名前は藤堂東二。

峰咲学園に在籍している普通の高校2年生だ。

強いて違う所を上げるとすれば......。

 

「せんぱぁ~い、今日のお昼はユイカと一緒に食べましょうね~。」

 

「あら、学年が違うのだからが....ユイカさんは自分の教室で食べれば良いじゃない。斎宮君は私と約束したのよ。ねっ?斎宮君。」

 

「えっ?俺約束なんかしてないぞ?俺は東二と食うんだ。なっ、東二!」

 

俺の幼馴染がモテモテで、嫉妬で狂いそうってことカナ?

二人の見目麗しい女の子に挟まれながらもバカ面で俺に笑いかける男。

斎宮幸太郎。

彼は幼稚園の頃からの腐れ縁である。

 

「....おかしいわね、藤堂君。私、以前ちゃんとお願いしたはずだわ。貴方、分かっているわよね?」

 

「先輩、昼休み急用が入ったって言ってませんでしたっけ?言ってましたよね?言いました。言ってましたよ。」

 

幸太郎に向けていた視線とは違う、光りのない目。

それを向けながらも俺に詰め寄り、邪魔をするなと暗に言ってくる彼女達。

俺の幼馴染は女の子にモテる。

そしてなによりも、惹きつける女がどいつこいつもヤバいのだ。

俗にいうヤンデレ、悪く言えば異常者どもによくモテるのだ。

 

正直、関わるだけ面倒だがそういうわけにはいかない。

俺は溜息を吐きながらも言葉を吐いた。

 

「あーっ、そういえば今日委員会の仕事とか委員長の手伝いがあったんだぁ~。忘れてたぁ~。」

 

俺がわざとらしくそう言うと、二人は嬉しそうに笑顔を見せる。

 

「そう、それならしょうがないわね。だったら私と食べましょう斎宮君。」

 

「せんぱ~い、雪先輩なんかより私と食べた方が楽しいと思いまぁ~す。だって雪先輩暗いですよねぇ?雪先輩と食べたら葬式みたいな雰囲気になってしまいますよぉ?」

 

「そうか....残念だよ東二。また今度な!」

 

「あぁ。」

 

俺はそう言うと、彼らに背を向けて教室を出る。

自然と溜息が漏れ出た。

それはあの状況に出くわしたこと、そして詰め寄られたことへの疲れやそこから抜け出したことへの安堵などではない。

一線を超えるであろう彼女達を正さなくてはならなくなることへの嫌気に起因している。

 

この後、幸太郎は多分そんなに言うなら二人で食おうぜとか馬鹿な事を言うに決まっている。

奴はそれほどに鈍いからだ。

そうなれば二人はフラストレーションがたまるはず。

そして、その後はきっと彼女達は一線を超えることになるだろう。

お互いがお互いの障害であると実感を以て理解するのだから。

では分かったならば彼らはどうするか?

邪魔者の排除に走る。

 

そうなれば、彼によって少なくとも一人再起不能になるということだ。

それは彼が望まないだろう。

それに、アイツ一人の為に女の子同士が争うなんてなんか主人公みたいで気に喰わない

如何にもモテる男はつらいよ的な展開だ。

だから、俺はこの後のことを考えて.....。

 

「いっち、に....さん、し.....。」

 

中庭で柔軟体操を始めた。

多分動かす必要もないだろうけど、それでも動かないといけなくなった時に動かないとまずいからだ。

 

「あれ、藤堂君。今日も中庭で柔軟?精が出るね。」

 

「あっ、委員長。」

 

すると、委員長に声を掛けられる。

眼鏡と三つ編み。

顔は良いのに、上記の要素で幸太郎に想いを寄せている少女達よりは地味目に見えることから話題にあまり上がらず、ファンクラブもない少女。

所謂俺だけがこの子の良さを知っている的なことを言われている系の子だろう。

ちなみにそう思っている人間が居るのであれば、自分だけではないことが大半だというのは結構あるあるだと俺は思う。

 

「そういう委員長もここで読書?よく会うけど。」

 

俺が言うと、彼女が微笑む。

 

「うん、そうだよ。ほら、ここって涼しくて一人で何かするときにはうってつけの場所じゃない?それで、藤堂君も居るのかなって思ったんだけど。」

 

「ここ以外に近くて、動いても迷惑の掛かる場所がここしか思い当たらなかっただけだよ俺は。」

 

流石は秀才は格が違う。

本を涼しい場所で読むとかなんだろう、すっごいカッコよくない?

滅茶苦茶頭良さそう。

それに文学少女的な見た目も相まって、凄く画になっていた。

ここだけ切り取って額縁に飾っても良いな。

 

正直言って関わりのある少女でまともな子とかこのくらいしか居ないからな...。

この子もアイツのこと好きだったりしてな。

それはそれで....キッツいなぁ....。

まぁでも、まともな子ならちゃんと祝福しないといけないよな。

....なんで、俺は彼女が孝太郎のこと好きと決まってないのに祝福するとか言ってるんだろ。

自分の負け犬体質を身に染みて痛感した瞬間だった。

 

「まぁ、なんにせよ運動は健康に繋がる大事な行為だもん。褒めてあげる!えらいね!」

 

「はぁ...ありがとう?」

 

どうやら俺が柔軟をしている理由をそう捉えたらしい。

実は女の子二人を止めるためにやっているとは言えないわね...。

そうでなければ今頃教室でグダグダしている。

褒められただけあって、凄く気まずくなった。

 

 

 

 

 

 

放課後。

人の少ない校舎内。

そこに二人の女子生徒が立っている。

 

「...やっぱり、そう出るでしょうね。」

 

黒いロングヘア―の少女、雪が目の前の後輩を見て、そう言葉を口にする。

すると目の前の後輩、ユイカはヘラヘラと挑発的な笑みを浮かべる。

 

「何分かり切ったような口を聞いてるんすか先輩。そう言う所、本当に気に障るんすけど~。」

 

「...奇遇ね、私も貴方のその軽薄な話し方が鼻につくわ。」

 

そんな彼女に対して、眉根を寄せながら明確に不快感をあらわにする彼女。

そして、ユイカに対してハッと鼻で笑いながら問いかける。

 

「それにしても良いのかしら?貴方、いつものように根回しはしないの?賢しくも幸太郎と一緒になる為に周りの連中にやってたんでしょ?」

 

「貴方相手にそれやる意味在ります?本当に気に喰わない邪魔者が居て、それを直接排除できる力が自分にある。それなら出る手段は決まっていますよねぇ?てか何センパイのこと呼び捨てにしてるんすか。」

 

今度はユイカが不快感に顔を歪める。

その顔を見て、雪は優越感を表情に顕わにした。

 

「あら、可哀想....私は幸太郎と付き合っている物。許されるのよ?」

 

「それ、妄想ですよ。この異常者が...昼休みの時もアンタが意味の分からないことを口走って戸惑わせてたってことが分からないんですか?」

 

雪を睨みつけながら鞄から歪んだ刀身の鋏を取り出す。

 

「....それが貴方のとっておき?」

 

「そうっすよ。魔剣ダモクーレス、前世で先輩と私が握った魔剣っす。これで滅茶苦茶に切り刻んでやるよ...魔女めが....。」

 

「異常者ってブーメラン刺さってるわよ。それに、ただの鋏で一体何が出来るっていうわけ?」

 

馬鹿にするような笑みを浮かべる雪。

そんな彼女に笑い返すユイカ。

その笑みは獰猛に歪み、殺意を露わにしていた。

 

「ただの鋏かどうか、その体で確かめさせてやるっすよォォ!!!」

 

そう言って振り下ろす鋏。

その瞬間、刀身は蠢動して空間に裂け目のような物が生まれる。

そして、その斬撃は目の前の机を両断しながらも雪に向かって直進する。

それを見据えながらも雪は手を翳す。

 

「....氷盾。」

 

そう言うと、目の前に氷の壁が地面から突き出るように生える。

氷は斬撃を物ともせず、また地面に戻っていく。

 

「それがアンタの力っすか。なんつーか...しょっぼぉ~。」

 

「教室の中で遭難させてあげるわ。貴方。」

 

雪の足元が凍結し始める。

そして、目の前にいるユイカの鋏はゆらゆらと黒いオーラを放っていた。

まさに一色触発。

二人の少女が愛ゆえに激突しようとしたその瞬間、一つの声が割って入った。

 

「ストップ、ストップ!...そのくらいにしておけ。」

 

二人はその声の方向を見る。

そして、そこに立っている人物を見て、口を開く。

 

「あら、藤堂君....こんなところでなにしてるのかしら?」

 

「さっさとどっか行ってくれませんかぁ?これから起きる殺し合いに巻き込まれたくないですよねぇ?」

 

雪は無表情、そしてユイカは心底馬鹿にしたような顔で彼に声を掛ける。

そこに立っているのは藤堂東二。

彼女にとっては自分の想い人にいつもくっついている腰巾着。

取るに足りないつまらぬ男だ。

 

しかし、目の前の少年は仏頂面で二人を見ていた。

 

「忠告のつもりなら余計なお世話だ。俺は、お前たちを止めに来た。今すぐに戦闘を止めて家に帰って寝ろ。お前たちがやろうとしていることは非生産的な行為だ。」

 

「先輩がぁ?私をぉ?本気で言ってるんですかぁ?ってか、止めるとか先輩になんの意味があるんすか?」

 

「不可能よ。消えなさい、それともこの世から消して欲しいのかしら?」

 

彼女達はあくまで退くつもりはないようだ。

それを見て、本当に勘弁してほしいと言った具合で東二は溜息を吐く。

 

「意味はある。少なくともここでどちらか潰れればお前たちにとっては嬉しい事でも、幸太郎にとっては悲しいことだ。親しい友人が一人消えるのだから。お前たちもそう思えば、争う気もなくなるんじゃないか?」

 

東二がそう言うと、二人は顔を見合わせて笑う。

 

「逆でしょぉ?先輩が悲しむってことは私が励ましてもっと仲良くなれるってことじゃないですかぁ?」

 

「同じことを考えていたのは腹立たしいけど、彼女の言う通りよ。」

 

(...やっぱり頭おかしいんじゃねぇのコイツら。毎回こんなヤバ女の相手やらされる方の気持ちにもなって欲しいわ....しかも俺でもない奴のヤンデレとか、俺だけ前世で何か悪い事したのか?)

 

東二は彼らの発言を聞いて、心底うんざりする。

しかし、こういうことをしているのは全て自分の意思だと考えて、気を取り直す。

自分で始めたことだからこそ、幸太郎に文句を言うことはしても今までやってきたことを誰かのせいにすることはしないと。

 

雪は掌から氷の刃を作り出す。

そして、ユイカも鋏を東二に向ける。

笑みを浮かべる二人。

 

「へぇ、業腹だけど考えてることは同じなのね。」

 

「えぇ。まずは邪魔な横槍から片付けます。大丈夫ですよ藤堂先輩!先輩がいなくなってセンパイは泣くかもしれませんけど....その分私がしっかり支えて、センパイの大切な人になりますからっ!!」

 

「なんでこういう時だけ意見が合うの?お前ら本当は仲良いだろ。それに.....。」

 

瞬間、唐突に二人の少女が吹っ飛び壁に激突する。

対して東二は何もせず、動いてすらいない。

しかし、そんな光景を見ても眉根一つ動かさずに淡々と口を開いた。

 

「それで?誰を片付けるって?」

 

「今....腹を、殴られた....?」

 

「何を...やったんですか.....?私が、分からなかったなんて...!」

 

腹に手を当てて、驚愕する二人。

その様子を見て、東二はゆっくりと口を開く。

 

「対象は自分を意識から外している事、....自分以外の男が好きな事。」

 

「はぁ?なんの話で.....。」

 

「俺の能力の発動条件さ。更に十全に手数を増やすには対象が二人以上でなければいけない。」

 

東二はゆっくりと言葉を紡ぐ。

そして、こちらを警戒している二人を見て笑う。

 

「いくら警戒しても無駄だ。人間は自分の見たい物を見て、信じたい物を信じる。貴様らのような人間は、好きな人以外は無意識に意識から外している。その人間を見ようとせずに始末しようとしてしまう。だから、俺の攻撃が見えない。」

 

「そんな能力...っ!?」

 

一歩踏み込もうとするユイカ。

しかしその瞬間、鼻面を殴られたようにのけぞる。

 

「...防ぐには、そうだな....今すぐ俺の事を異性として好きになるしかない。」

 

「そんなこと....不可能に決まっているでしょ。」

 

雪は彼を睨みつける。

しかし彼自身もそう言われるのが分かっているかのように不敵に笑みを浮かべる。

 

「だろうな、それは無理だ。だから俺の能力をお前らは防ぐことが出来ない。だから言っているんだ悪いことは言わないから今日は家に帰れ。...俺も女の鼻っ柱を何回も殴りたくはない。」

 

余裕を見せつけるように淡々と二人に帰るように促す東二。

その様子を見て、ユイカは獰猛な笑みを浮かべて立ち上がる。

鼻からは鼻血が出ている。

 

「上等じゃん....ぶちまけられてぇかぁ!!!」

 

「怖気づくと思ったのかしら....だったら、貴方が攻撃する前に押し切ってしまえば....!」

 

雪は手を翳す。

すると周囲の温度が下がる。

離れから氷で攻撃しようとしているのだろう。

ユイカも斬撃を飛ばした離れから決着を付けようとしているのだろう。

しかし、その瞬間彼らの集中を断ち切るかのように一撃二人に同時に当てられる。

 

「何回も言わせるなよ....お前たちでは、俺には勝てないってさ!!」

 

その一撃を契機に、二人を全方位から不可視の打撃が襲い掛かる。

傍から見ればまるで踊っているかのよう。

 

(予備動作が....取れない!)

 

(凍結させる為に集中することが....叶わないなんて、隙が...ないっ!!抜け出せない!!!)

 

二人は歯噛みしながらも良いように攻撃される。

意識が飛びそうになる中、東二を見やる。

東二は別段疲れている様子もなく、二人を見ていた。

底が知れない。

そう痛感する二人。

そして、目が合った時に彼はゆっくりと言葉を吐く。

 

「...お前たちはさ、なぜそんな風に恋敵を始末しようとするほどの行動力があるのに普通に告白しようとはしないの?おかしくない?普通に告白して普通に恋愛しろよ。いちいちバイオレンスなんだよお前ら。」

 

「好き勝手...っ、言ってぇ.....!!」

 

雪は彼を睨みつける。

しかし薄々二人も理解し始める。

少なくとも自分では彼に勝てない。

間合いが知れず、どのような攻撃を行っているか知らず、またどこから飛んでくるのかもわからない。

これでは防ぐどころか押し切ることすら叶わない。

相手が悪すぎる。

 

「...最後にもう一度問う。今日はもう大人しく帰ってくれないか?俺も普通に恋愛する点では何も言わないし、まともに恋愛...しよっか?」

 

攻撃を一度やめて彼らに問う東二。

すると雪はゆっくりと口を開く。

 

「...そうね、相手が悪いわ。見逃してくれるというのなら、ここは撤退するしかない。」

 

「...まぁ、そうですね。でも、覚えててください。これで終わりじゃありませんから。」

 

そう言うと、二人は窓から飛び降りた。

 

「...いや、これで終わりであれよ.....。」

 

東二は今まで目の前に居た少女達の行動力の向く方向のちぐはぐさに困惑しながらも教室を後にする。

 

 

 

 

 

 

下らない野暮用で帰りが遅くなってしまった。

もはや空が暗く、辺りは夜もかくやの様子である。

しかし、それでも俺は気を抜くことが出来なかった。

 

....視線を感じる。

最近、帰りはいつもこうである。

ずっと視線を感じる、

気のせいなどでは絶対にない。

それほどに粘着質な視線を感じるのだ。

 

なんとはなくだが、意図は分かる。

というより、こういう手合いは結構居た。

将を射んとする者はまず馬を射よ。

今回のように行き過ぎた女の子を力づくでも大人しくさせる為、それを知った子は自分が邪魔されないように俺が倒せそうなタイミングまで見ている場合がある。

そんなバカなことがあるのかと言いたくなるが、しかし幸太郎は異常な女の子しか寄せ付けないのだ。

だからそういうこともざらにある。

 

しかし、ここまでずっと長い期間見られているのは珍しい。

普通はそこそこで尻尾を出すのだが。

うっとおしいし、あまり気分のいい物ではない。

だから、今日で終わりにするか。

せっかく戦闘した帰りなんだし。

 

そうと決まれば俺は足を止める。

そして声を出した。

 

「...いつまでそうやって見てるつもりだ。はっきり言ってうざったい。出て来いよ。」

 

そう言うと、視界の隅の塀に誰かが降り立つ。

そちらを見やると、それは意外な人物だった。

 

「....委員長?なんで.....。」

 

「....あはは、バレちゃってたか。」

 

どこか気まずそうに笑う彼女。

しかし、俺自身は彼女が視線の主であると知った時になんとも言えない失望感に駆られた。

これは、あぁやっぱりという感情とお前もかという落胆。

よく話しかけられたりしていたが、やはり彼女は俺と繋がることで幸太郎に繋がろうとしていたのだなと。

そして、まともだと信じていた彼女がやはり異常者だと知った時の裏切られた感。

ていうかなんだその身のこなし。

どこからそこに降りた。

忍者か何かなのか?

 

困惑するも、目つきを鋭くする。

 

「...いちいち、付け回してどういうつもりだ?はっきり言って、不愉快だ。」

 

俺がそう言うと、彼女は手を合わせてこちらの顔を窺う。

 

「ごめんね...不快に思ったのなら謝るよ。」

 

あくまで笑顔を崩さない彼女。

理由は明かすつもりはないのか....。

そう思った瞬間、彼女がこちらを上目遣いで見る。

その視線は俺に突き刺さり、その瞬間背筋がゾワリと寒くなる。

これは....俺が、怖いって思ったのか?

目の前の少女を....?

 

「でも、これは君が知りたいって思ったが故の..そうだね、好奇心って奴なのかな?だから許してくれない...かな?」

 

「知らないのか?好奇心は猫をも殺すって言葉を。」

 

そう言いながらも能力を行使しようと構える。

相手は敵意を見せていない。

でも、俺には分かる。

コイツは...まずい奴だ。

構えておいて損はない。

 

俺の能力を捉える為には俺のことを意識に収め、尚且つ異性として好きでなくてはならない。

俺を異性として好きになる人物なんか居ない。

一番近くであれだけモテる奴がいれば、嫌でも分かる。

俺にはそんな魅力なんかない。

だから対象が一人の分、一度に放てる手数は減る物の、発動さえしてしまえばどんな奴が来ても負けることはないんだ。

理由は悲しいけど、そんな確信が俺にはあった。

 

すると、彼女は目を輝かせる。

 

「へぇ、凄いね。背後に無数の手が浮かんでいる。君の力って...いつ見ても綺麗だね。」

 

...俺の能力が見えている?

いや、そんなはずはない。

コイツはずっと俺を付けている奴だ。

つまりは、俺の戦闘を見たと言うことに他ならない。

この攻撃について俺は打撃と言っている。

だから、そう予測しているのだろう。

それにこの能力を綺麗と言っている。

こんな物が綺麗だなんて、見えていたら言えるわけがない。

つまりこれはブラフ。

取り合うつもりは...ない。

 

「何言ってるんだ。俺は、能力を発動していない。」

 

俺も嘘を吐く。

さぁ、どうでる?

すると、彼女はおかしそうに笑う。

 

「君は本当は嘘つきさんなんだ、可愛いね。...やっぱり直接ちゃんと話すのはいいね。見てるだけじゃ分からないことがわかるもん。」

 

「俺は....お前と話していても何も分からない!!」

 

彼女が一歩踏み出す。

不気味で気味が悪い。

だからこそ、思わず攻撃をしてしまう。

しかし、彼女はそれを目で追うと首を動かして体を踊るように翻しながら避けた。

避けたのだ。

俺の攻撃を。

不可視の一撃を。

 

「なっ.....」

 

「ねっ?ちゃんと見えてるでしょ?」

 

な....なんで?

分からない。

彼女はこちらを見てただ笑うだけ。

不気味、未知、理解不能。

そのような感情が心の中を渦巻く。

 

「おかしい....見えてるわけがない。この能力は、俺の能力は....俺の事を好きでないと避けれないはずだ。異性として好きじゃないと....。」

 

「自分でそう言っている以上は、もう答えは出ているような物だと思うけどな。私が君が好きだよ、愛してる。」

 

さらっとそう言ってくる委員長。

...なるほど、このタイプか。

こういう奴だって居た。

俺に想いを寄せてるふりをして、付け込もうとする人間。

さっき言った将を射んとする者はまず馬を射よタイプの更に酷い奴。

人の心を掻きまわすことすら自分の手段に落とし込めるタイプの人でなし。

 

俺の攻撃を避けられるのはそういう能力と考えた方が可能性が高い。

未来予知か感応かは知らないけど、でもそれ以上に。

俺は更に目の前の少女に、失望した。

君は...お前たちは....そう言われて、踏み台にされていたと気づいた人の悲しみが、分からないのか。

 

だから女は好きじゃない。

俺がアイツの近くに居るからこそ、近くに居る女もこんなのばっかりで.....。

本当に嫌になる。

それでも、アイツと縁が切れないのは...俺にとって確かに友達だからなんだろうな。

 

「俺は、お前のような人間を何度も見て来たよ。誰も誰もが一人の男の...幸太郎の歓心を買う為に、血で血を争い、排斥し合って、俺を利用しようとして....本当に醜い。だから、俺は見たくないから...こうやって....。」

 

全霊を掛けて奴に攻撃を浴びせかける。

もう奴がどうなっても知らない。

奴の目を真っ直ぐ見る。

 

「目の前から消えてくれって、祈るんだ。」

 

その言葉を契機に、攻撃を奴に殺到させる。

顔を殴り、鼻っ面を殴り、腹を殴り、足を殴り、腕を殴り....。

殴って殴って殴って殴って....そうすれば、そんな風にこちらを見ることもなければ、目の前からも消えてくれるだろ。

 

不可視の拳は彼女を襲う。

彼女はそれを避けようともしない。

やっぱりだ。

見えていない。

誰も俺を見ちゃいない。

期待なんか....もうしちゃいないんだ。

 

そう思った瞬間。

彼女は最後の一撃を確かに手で受け止めた。

しっかりと受け止めて、握っている。

そして、ゆっくり顔を上げる。

俺の顔をしっかりと見た彼女は、顔を歪めた。

それはあたかも俺を憐れむかのように。

 

「君....泣きそうな顔をしてる。それに、いつも君は自信満々に自分を好きにならなければ防げないとか他の人たちに言ってたよね?可哀想に....今までいろんな人を好きになって、色んな人に裏切られてきたんだ。でも、大丈夫だよ。私は....。」

 

彼女は眼鏡を外すと、片手で握りつぶす。

割れたグラスの破片が地面に飛び散るのを踏み潰すと、残された眼鏡のフレームを適当に放る。

そしてゆっくりと、髪の三つ編みを解く。

その瞬間、ゆらりと髪が揺れた気がした。

まるで自分から、風もないのに揺れた気がしたんだ。

 

そして、真っ直ぐに俺の目を見据えて彼女は口を開く。

 

「君しか見えていないし、君しか見ていないから。」

 

そう言って、こちらに一歩踏み出してくる。

怖い。

俺の心中をまるで言い当てたのかのように、土足で踏み入って来た。

身にならない会話しかしたことのない君が、俺の何を分かるっていうんだ。

 

「分かったような口を....っ!?」

 

声を挙げ、能力を使おうとした。

しかし、それは叶わない。

目の前に彼女が居た。

鼻と鼻が触れあいそうな距離。

そこまで瞬時に肉迫していた。

なんで、俺は....気づかなかったのか?

 

腹に彼女の拳が食い込んでいる。

不思議と全身に力が入らない。

そんな....馬鹿な....。

 

「君の丹田を突かせてもらったよ。これで暫くは動けないから。」

 

そのまま崩れ落ちる俺を抱き留める彼女。

そして、胸の中で俺の頭をまるで我が子を撫でるように撫でる。

 

「自分から能力の全容を話すくらい、誰かに自分を...自分だけを見てほしかったんだね....。大丈夫だよ、私が君を見続けてあげるから。私が君の白馬のお姫様....なんてね。」

 

少し照れたように笑う彼女。

しかし、見上げた彼女の目はまるで泥のように濁っていた。

この目は見たことがある。

それは今まで接敵した連中。

アイツらが自分の愛について自分語りする時の....。

まずい、このまま奴のしたいようにやらせるわけには....。

 

抵抗の意志を見せるも、身体は追いつかずに力はどんどん抜けていって次第に意識も暗く落ちて行く。

薄れゆく意識の中で、俺は彼女の名前を呼ぶ。

 

「みのうじ...あり....あ....。」

 

「はぁ~い、貴方のアリアですよぉ?嬉しいなぁ、もう眠くて眠くてしょうがないはずなのに、私の名前を、読んでくれて。」

 

そうやって嬉しそうに微笑む彼女の笑顔。

それを目に収めたまま、意識を手放した。




真面目そうな子がヤバいのが好き。
自分の本性を上手に隠してそうな所が。
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