今回は簪絡みで話を進めていきます。
楽しんでいただければ幸いです。
--某所 月兎製作所 研究棟
有事に備えて俺は早朝から束さんと色々準備を進めていた。
「ん?着信?この番号は...簪さんか、束さんちょっと失礼します」
「はーい」
一緒に作業していた束さんに一言断りを入れてから俺は研究棟から出て電話を取る。
「もしもし?簪さんどうしたの急に」
『あ...海?急にごめんね、今日って予定空いてるかな?』
「多分大丈夫だと思うけど、何かあったの?」
『弐式の事なんだけど、マルチロックオンシステムって途中から海がメインで作ってたよね』
「そうだね、それで?」
『あの...倉持技研のプログラム担当の人がシステムのソースコードが全く理解できないから今後のメンテナンスのためにも開発者の人に説明か技術協力して欲しいって言ってて...私が説明するって言ったんだけどどうしてもって...』
「ふーん...倉持技研がねぇ...」
簪さんを放置した癖に機体が出来たらすり寄って、しかも分からないから教えろってか...簪さんが説明出来るって言ってるのを聞かない時点で、蒼機兵である俺から色々抜き出してやろうって魂胆が筒抜けなんだよ...ちょっとお灸を据えてやろうかな。
『か、海?』
「あぁ、ごめんごめん、今日なら大丈夫だよ、何時ぐらいに行けばいいかな?場所は倉持技研でしょ?」
『昼ぐらいで大丈夫だと思う、ごめんね、夏休みなのに』
「このくらい大丈夫、じゃあまた後で」
『うん、待ってる』
時間と場所を簪さんに確認してから電話を切る。
「束さん、申し訳ないですけど今日は予定が出来たので昼頃は出かけますね」
「んや?どうしたの急に?」
「前に専用機開発を手伝った同級生絡みですけど倉持技研がちょっと調子乗ってるんで...」
「成る程ねぇ...まあ、束さんもあの対応には技術者として思うところがあるし、かーくんの好きなようにやっちゃってちょーだい!あいつと話すチャンスでもあるか...」
「(最後の方聞き取れなかったけどまあいいか...)ではお言葉に甘えて好きなようにやらせてもらいますね、何か問題があれば直ぐに連絡しますから」
「はーい、でもとりあえずこれ手伝ってもらってもいいかな?防衛システムの根幹部だから1人だとちょっと大変で...」
「もちろんです、まかせてください」
俺は束さんの開発作業を手伝いながら今日の昼に倉持技研をどう料理してやろうか考えて、いたずらをしかける子供のような笑みを思わず浮かべてしまった。
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--倉持技研 本部
「うちほどじゃないけどそれなりの規模だな」
俺は簪さんとの約束通りに昼頃に倉持技研のIS開発施設の本部に来ていた。
「海!」
「お疲れ様簪さん、待たせちゃった?」
「ううん、私も今来たところだから」
「(今のやりとりちょっとデートっぽい)」
別にデートのつもりで来たわけではないのだがあまりにもベタなやりとりにそんな感想が頭に浮かんだ。
「じゃあ簪さん道案内お願いしてもいいかな?」
「もちろん、着いてきて海」
「分かった」
簪さんに道案内をお願いして着いていくと、開発室であろう場所に着いた。
「ようこそいらっしゃいました!私、倉持技研IS開発研究部の伊藤と申します!蒼機兵である武藤 海さんにお会いできて光栄です。」
そこで倉持技研の人間に迎え入れられて応接室のような場所に簪さんと通された。
「本日はご足労いただきありがとうございます。既に簪さんから聞いてはいると思いますが、今回お越しいただいたのは簪さんの打鉄弐式のマルチロックオンシステムについてなのですが...」
「マルチロックオンシステムが何ですか?」
「システムが複雑過ぎてその...出来れば技術提供かご教授をいただきたいなと...」
「システムが複雑過ぎる?確かに完成させたのは自分ですが、元々は簪さんが作っていたものです、簪さんも理解していますから俺に聞かなくとも大丈夫ではないですか?」
「そ、それは...」
「簪さん、マルチロックオンシステムの俺が書いた部分のソースコードも理解出来てるよね?」
「うん、海が説明してくれたから直ぐに理解できたし、ちゃんと内容も把握してるよ」
「ほら、こうして簪さんは完全に理解している、なのに何故専門家である貴方達がシステムの解析も出来ないのですか?」
「うっ...」
「正直見え見えなんですよ、簪さんと俺に接点があるのをいいことに蒼機兵である俺に近づいてよしんば俺の専用機のデータでも抜こうとしていたんでしょう?」
「そ、そんなことは!」
「はぁ...見え透いてるんですよそちらの考えていることは、もう少しまともであってほしかった...俺が貴方達に技術を提供することも何か教えることも絶対にありませんのでこれで失礼させていただきます」
「なっ...お待ちください!」
「あぁ...1つ言い忘れてました」
「なっなにを...」
「俺は貴方達に失望しました。さっき言った通りもう少しまともならこれで終わりでしたが...勉強代を頂いていきますよ」
「勉強代?(プルルルル)し、失礼します」
俺の言葉に伊藤と名乗った倉持技研の人間は頭を傾げるが、電話がかかってきたのでそれを取った。
「もしもし?伊藤です...はい...はい...なっ!?」
「か、海?何をしたの?」
俺の隣に座っていた簪さんが恐る恐るといった感じで話しかけてくる。
「ん?ああ、そんな大それた事はしてないよ、ただ...」
「打鉄弐式に関する権利が全て買収された!?そんな馬鹿な...!」
「って事、日本の代表候補生周りに関する部分はそのままで整備とかは自由に出来るようにしただけだよ。簪さんもその方がいいかなって思って」
「海...」
「という訳で勉強代も頂きましたのでこれでお暇させていただきます。行こう簪さん」
「う、うん」
俺は慌てている伊藤さんを横目に簪さんと一緒に施設を出て行った。
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--とある公園
倉持技研の施設を出た後、俺と簪さんは少し歩いたところにあった公園で話をしていた。
「ごめんね簪さん、色々と巻き込んじゃって、急な事でびっくりしたでしょ?」
「びっくりしたけど、正直すっきりした、私も思うところはあったから...」
「そっか...それなら良かった」
簪さんの返事を聞いて俺は肩を撫でおろす。
「こんなことになっちゃったから整備の為の施設とかは俺が何とかするよ、ちょっと待ってて」
「そこまでしてもらう訳には...」
「いいからいいから」
俺はそう簪さんに言ってから束さんに電話をかけた。
「もしもし?」
『もすもすひねもす?頼れる大人の束さんだよー、電話をかけてきたってことは終わったみたいだね』
「はい、しっかりお灸を据えてきましたよ、後は帰るだけなんですけど1つお願いがありまして」
『ん?何かな?』
「倉持技研へのおしおきで俺の同級生の専用機のライセンスを全て買い取ったんですけどその同級生に整備施設を使えるようにしてあげたいのでこれからそっちに連れていきたいんですけど大丈夫ですか?」
『成程ね、OK分かったよ、かーくんの方で監視システムに登録はしておいてね』
「分かりました、じゃあこれから帰りますね」
『はーい、気を付けて帰ってきてね』
「ではまた後で」
俺は電話を切って簪さんの方に振り向く。
「という訳でこれから月兎製作所に行くんだけど一緒に来てくれる?」
「えっ!?」
「もしかして予定とかあった...?」
「そ、それは大丈夫だけど...い、いいの?企業秘密とかあるんじゃないの?」
「その辺はちゃんとしてるから大丈夫!」
「じゃあ...お言葉に甘えて...」
「OK、じゃあ早速行こうか!」
俺は簪さんを連れて月兎製作所の施設に向かって歩みを進めた。
「悪いけど...試させてもらうよ、更識 簪。お前がかーくんの隣に立つだけの資格があるのかどうか...」
今回は海が簪に代わって倉持技研にしっぺ返しを食らわせた回でした。
束が言っていた簪を試すとは...?
それでは次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。
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