ダンジョン探索者は今日も掲示板で駄弁っている 作:どるふべるぐ
めちゃんこ長いですが飛ばしても次のエピソードを読むには問題ありませんので、面倒なら遠慮なくスルーしてくだい。
なお地味にロリとバカの本名を公開します。
――
東京探索者アカデミー。次代を担う探索者の育成・教導とそして現代を生きる探索者のサポートをはじめとして、ダンジョンと探索者に関する様々な事柄を担当するアカデミーの中で、規模と設備において日本最大級を誇る施設。その本校舎のとある一角は、その時までは明るい賑わいに満ちていた。
「ねえねえ。試験どうだった?」
「もちクリアよ。そっちは?」
「私も。危ないとこだったけど何とかね。ボス戦の途中で剣が折れた時なんかもうだめかと思った」
「あはは。あたしも呪文詠唱の途中で噛んじゃってキャンセルになった時はそうだったわ。パーティーの仲間が上手くフォローしてくれたから何とかなったけど」
「うっわいいなー。私のとこなんかみんな対抗心バリバリでほんと大変だったよ。ボス戦でやっと一致団結できたくらいかな」
「ならよかったじゃん。そだ。シャワー浴びたらその後みんなでちょっとした祝勝会しようよ。どうせなら今日組んだパーティーの人たちも呼んでさ」
「おっ、いいね。じゃあ――」
校内にいくつか設置されているシャワー室の中でも最も人気のある一室の前の廊下には、多くの学生達がたむろしている。二年三年の姿もちらほらあるが、そのほとんどは一年生だ。入学してから初となるダンジョン攻略試験を終えたばかりの彼ら彼女らの若くまだ未熟な面構えには疲労の色があるものの、だが確かな達成感に自然と誰もが笑顔を浮かべていた。
ダンジョンで作ったのだろう、皆どこかしらに小さなかすり傷や汚れを付けながらも、今日の活躍を自慢し、反省点を話し合い、次の試験も頑張ろうねと笑い合う。
そんな和やかに弛緩した、爽やかな青春の一ページともいうべき空気は──だが一瞬で凍りつく。
かつんと、小さな足音に何気なく振り返った者は声を無くした。
ゆらりと、靡く髪にちらと目をやった者はすぐさま視線を逸らした。
それは、その主である少女が放つ物があまりにも重く、恐ろしかったからだ。
その場に現れたのは、息を飲むほどに可憐な少女だった。
きめ細やかで瑞々しい、絹のごとき柔肌。歩くたびに靡く艶やかな白の髪はいっそ幻想的で、未だ幼さを残す華奢な体つきもあってか、まるで冬の妖精を思わせる。
普段ならば誰もが見惚れるだろう。ほうと溜息をつくかもしれない。
が、今だけは皆は目を逸らし息を殺していた。まるで猛獣と出会ってしまったか弱い小動物のごとく。そうせざるをえないほど、今の彼女は恐ろしかったのだから。
重い。とにかく重い。無言で俯いているため前髪でその表情こそ分からないが、小さな体が発する空気が、纏う雰囲気が重く冷たく張りつめて、そのくせ内部は地獄の様に煮えたぎっている。憎悪か怒りか、内で荒れ狂う激情が膨れ上がり、破裂するギリギリになっている。
何があったのかは分からない。聞くことなどとてもできない。だがこれだけは分かる。
——あ、こいつ今ブチ切れる寸前だ。と。
そして何より恐るべきは、そうなった時自分達ではおそらくどうにもできないという事実。
まだ入学してからそう間もないこの時期で早くも頭角を現し、座学のみならず戦闘訓練においても圧倒的な才で学年一位に上り詰めた規格外。わずか13歳ながら既に東京アカデミー始まって以来の才媛と称えられる天才——櫛田ヒメナ。
組み手形式の対人戦で対戦相手全員に完勝しただけではなく「こうも雑魚ばかりでは訓練になりませんね。もういいですからまとめてかかってきてくださいよ。いくら弱くとも、数がいれば少しは手応えがあるでしょう?」と言ったあげくに激怒して一斉に襲い掛かってきた同級生達を纏めて叩きのめした逸話を知らぬ者はいないし、彼女に負けた者らは皆——いや、ただ一人だけ何度叩きのめされようとも挑むバカはいるが——心折られて二度と逆らおうとはしないという。
そんなモノがこんな所でブチ切れて暴れだしたらなど想像もしたくない。
触らぬ神に祟りなし。ゆえに皆は必死に息を潜め視線を逸らし、刺激しないように努めているのだ。
その無言の足取りがシャワー室に向かっていると分かると、並んでいた生徒たちは蜘蛛の子を散らすように道を開ける。
こんなモノと一緒にシャワーを浴びるなどといった度胸のある者はおらず、事実ヒメナの小さな背中がシャワー室の女子側の入口を潜ってまもなく、先に利用していた者たちが次々「ひえぇ~」「コワイ!」「こんなところにいられるか! 私は部屋に戻らせてもらうぞ!」と慌てて飛び出してきた。一様に真っ青な顔をして、中には髪すら乾ききっていない者もいる。
そして彼ら彼女らは未熟な卵ながらも未来の探索者である。
ダンジョンでは何があろうと自己責任。君子危うきに近寄らず。危険は立ち向かう前にまず回避する方法を考えろ。逃げるは恥だが役に立つ。
そう授業で教えられた通り、速やかかつ迷い無く、一斉にこの場から逃げ出したのだった。
でも、なんでこいつはこんなにイラついてるんだ?
そう心の中で首をかしげながら。
◇◇◇
そうして、誰もいなくなった女子シャワー室で、制服を脱ぎ裸身となったヒメナは独りシャワーを浴びていた。
しゃあああ……と、無言の空間にノズルから水滴が降り注ぐ音が響く。湯気はない。ヒメナの人形めいた華奢な肢体を濡らすそれは、湯ではなく冷水だった。
落ちた水滴は柔らかな肌に着き、その未だ幼さを残す未成熟なラインに沿ってつうと流れていく。水を吸って艶やかに垂れた白い髪を、細い肩を、なだらかな乳房から臍の更に下の爪先まで身震いするほどの冷たさに包まれながら、だが白い少女は呻き声一つ漏らすことなく、だだ無言でそれを浴びている。
まるで冷水など問題にならぬほどの熱がその身の内に煮えたぎっているかのように。
そうして、いつまでも続くのではないかと思えるほどの張りつめた沈黙は
「──ッッッ!!!!」
ダンッ!! と、ヒメナがその拳をハンマーのように壁に叩きつけた音で破られる。
ぎりりと続いて鳴るのは、激情に噛み締めた奥歯の唸りだ。その濡れた前髪から覗く碧い瞳は、憤怒と羞恥と屈辱に震えていた。
「なんて、ことですか……ッ」
可憐な唇から漏れる、荒ぶる声音。
ヒメナの脳裏に、忌まわしい試験の記憶が蘇る。
櫛田ヒメナにとって、今回の試験はクリアして当然のものにすぎなかった。
そもそも一年最初の試験というのは、ダンジョン攻略というものを知識上でしか知らないだろう子供たちに、実際の未攻略ダンジョンを体験させることで知識と実戦の違いを実感させるというだけのものだ。ゆえに本当の命の危険からは同行する監督役が守ってくれるし、ダンジョンも最低クラスの物なのでよほど運が悪くなければクリアできるという、もっぱら攻略とは名ばかりのダンジョン体験ツアーとでも言うべき物なのだ。
ゆえに、これはあくまで通過点。己が成さねばならぬ事を果たすための強さを得る上での最初の一歩でしかない。
本来3・4人パーティーであるはずがなぜかあのバカとのペアで、最低クラスのEではなくDクラスダンジョンだったなどの想定外こそあったものの、そんなものは自分の実力をもってすれば問題にもならない。
事実、ダンジョンの最深部まで実質自分だけの力で切り抜けたのだ。全ては順調で、このままボスを倒しコアを停止させることなど造作もない。その、はずだった。だったのに………っ!
レイス。あのボスモンスターに、自分は見事にしてやられた。あのダッチ……リビングドールを倒し油断していた、その慢心を突かれる形でまんまと憑依されてしまったのだ。
失態だ。言い訳の効かない、これ以上無いミス。
「なんて、不様……ッ」
これだけでも屈辱だというのに、ああ何よりも己の心をかき乱すのは
「他人に、あいつに助けられるなんて……ッ」
あいつ──
あいつと初めて会話をした時の事を、ヒメナは良く覚えている。
『おいおいガキんちょの癖にすげえ強えな! いよっしここは将来伝説になる予定の俺がテメエを華麗に倒してやんよ。さあ俺の探索者伝説の始まりを飾りやがれい!』
あ、バカなんだなこいつと思った。というか確信した。
案の定それは当たっていて、無駄に自信満々のこいつは一瞬一撃で自分に倒された。
訓練用の木刀を脳天へ浴びて大の字で気絶したスサオを、ヒメナは一瞥すらせず放置した。どうせこれきりの相手だ。きっと今まで打ち倒してきた同級生たちの様に、化け物を見るような目で遠巻きにして二度と関わっては来ないだろうから。と
だがバカは思った以上にバカだった。
『おうおうガキんちょ。昨日はよくもやってくれたな。いざ尋常にお礼参りだ受けて立ってもらおうじゃねえか!』
『ようようガキんちょ。二度はやられだが三度目の正直だ。さあ今日こそぶっ倒してやるぜ覚悟しろい!』
翌日の朝一番に木刀片手に決闘を申し込んできて、また一撃で倒されても次の日には凝りもせず挑戦してくる。そしてそれを倒してもまた明日と、懲りることがないのか何度やられようともしつこく向かってくるのだ。
『いい加減諦めたらどうですか? いくらやっても私には勝てないと分かったでしょう』
『なーに言ってやがる。俺は涙の数だけ強くなれるアスファルトに咲く花のような男だぜ? たしかに今日の俺はテメエに負けたが、明日の俺はもっと強くなってる。だったら勝てる可能性なんざ十分だろ』
『……一撃でやられたあげく床に転がりながらそう言える神経だけは大したものだと思いますよ』
『おうようやく俺の凄さが分かったか。尊敬していいぜ?』
『少なくともメンタルは無敵ですねこのバカは』
なんでここまでするのだろうかこのバカは。いくら考えても分からないし分かりたくもない。
元々他人となど馴れ合うつもりはない。入学当初から他の同級生とは距離を置き冷たい態度をとっていたのに加え同級生をまとめて倒したあの日を境に、誰も彼もが自分を怖れて関わろうとしないのに、こいつだけは何度叩きのめしてもつっかかってくる。
まあバカだから学習できないだけなのだろう。バカだから。
ゆえになんの因果かこのバカと組んで試験を受けることになった時、ヒメナはスサオに対して一切期待していなかった。
そもそも誰と組もうとも頼る気など無い。己の力のみでクリアする以上、せいぜい足を引っ張らなければそれでいいと、そう思っていた。
なのに、よりにもよって……私は、そんな奴に助けられてしまった。
レイスに憑依され操られようとしている自身の肉体を意思の力で必死に抑えながら、ヒメナは打開策を考えていた。だがゴースト系モンスターに対する備えをしていなかった彼女には、この窮地を脱する手段など無く。
不味いまずいッ。どうする? くっ……こんなことならゴースト系に憑依された時の対処を調べておけば……いや、今は後悔するよりもどうするかを考えろ。気をしっかり持て。私はこんなところで躓いてなんていられない。強く、誰よりも強くならなくちゃいけないんだ……あのダンジョンを攻略するために! だから、だから何とか──
『おうおう良い様だなチビガキ。調子こいて油断すっからそうなんだよ』
そうして歯を食い縛り必死に足掻いている時に、あいつは来た。
『……ちっ。あなただって……気づかなかったくせに……ッ』
思わずそう返してしまったのは、それが図星であると内心で認めていたから。けど、こいつだけには言われたくなかったから、憎まれ口を叩いたのだ。
助けが来たなんて思わなかった。
助けられたいなんて思ってなどいない。
本当に助けて欲しい時には、誰も助けてけてなどくれないのだと思い知っているから。
だから拒絶した。なのにこいつは、近づいてきて
『な!? なんで近づいてくるんですか…ッ…また斬られますよっ!』
『おいチビガキ。今からテメエの中の奴を叩き出してやるから――歯ァ食い縛れ』
『は……?――ひぐっ!?』
そんな自分に拳を打ち込んできたのだ。
そこから先は、思い出したくもない。
「んっ……やはり、しみますね……っ」
臀部に感じる、ヒリヒリとした火照るような痛み。
ヒメナの未だ幼く平坦な乳房に対して、こちらは年不相応にむっちりと丸く張ったそこは、本来ならその肌と同じように真っ白な表面を今は熟した桃のように赤く染めていた。
シャワーの水滴が当たる度にじんと熱を持つそこをそうしたのはあいつだ。あのバカ……須賀スサオにそうされた。
腹を殴られ咳き込む自分を、あいつはあろうことか無理矢理壁に手をつかせて下半身を掲げさせるという屈辱的な格好にして尻を叩いたのだ。
そこから何度も。何度も。スサオの手で叩かれてしまった。
その理由には一応納得したし、それしか無いならばと不承不承ながらも同意した(エr……それ以外の方法なんて絶対に駄目だったからだ)。
だが、それでも他人に無防備な尻を叩かれるなど生まれて初めてで、その上
『もしかしてあなた、楽しんでるんですか……ッ!?』
『おいおいそんなこと──あたりまえだろが』
相手はむしろ楽しんでやっているものだから容赦手加減など一切無い。
それに対して抵抗できないヒメナは、せめて不様な姿は晒すまいと、下半身で弾ける未経験の痛みと刺激に、思わず漏れそうになる声を唇をぎゅっと噛みしめ必死に堪えていた。
自然と息すらも圧し殺していたためか、徐々に視界が潤み、頭がぼうっとしてくる。熱に浮かされたようなおぼつかぬ思考の中で、与えられる刺激と熱だけがなぜだか妙にはっきりと感じられて、それに脳髄すらも侵されていくように思え始めたとき
『おいチビガキ。ちょいとこっち向いて口開けろ』
『はぁ…っ…はぁ……ふぁい?──んむっ!?』
不意に口内に広がった塩味に、意識が覚醒する。
舌が痺れるほどのしょっぱさにたまらず抗議しようとしたヒメナは、その細い顎をくいと掴まれ引寄せられて
『きゃっ……くっ、あなた、今度はいきなり何をっ──ん!?』
その唇を、奪われた。
何をされたのか、分からなかった。
顔をくすぐる鼻息も、唇から感じる肌の感触も、熱も、それがどういう意味なのか、フリーズした頭では何一つ理解できなくて
『……? ……!? ~~~っっ!!!!』
でも、口移しで流し込まれた塩味で再び我に帰り、ようやく自分が今どういう状況なのかを自覚した時、ヒメナはボッと全身に火が付いたように感じた。
は? え? なんですかこれ? 近い近い近いですよていうか唇当たってませんか当たってますよね嘘うそ何でこれってつまりききききキs……ひにゃあああああああああ!?
驚きと困惑で滅茶苦茶になった頭で、それでも反射的に逃れようとして無理な体勢で手足を動かす。しかし案の定スサオを巻き込んでバランスを崩し、そのまままるで床に押し倒されてしまったかのようになるヒメナ。
『ぷはっ…! っは…は…っ…ふぁっ、ああああああなたっ……なに…何でっ……キちゅぅっ!!』
その拍子にやっと唇が離れたものの、バクバクと暴れる胸の鼓動と顔の火照りを感じながら問いただそうとしてる途中で、再び食らい付くように唇を奪われる。
『ちゅくっ……みゅぅ…やめっ…んむっ…こくぅ…っ』
必死に顔を反らそうとしても顎を掴まれ、手足を動かし撥ね退けようともがいても、身体全体でのし掛かるように押さえ付けられてしまう。
そうして抵抗できなくされたあげく、口移しで無理やり聖水を飲まされるヒメナ。
『ちゅぷむ……んくぅっ……しょっぱ……やぁぁっ』
合わされた唇から、力無い悲鳴を漏らす。
なんで。どうして。体に上手く力が入らない。ここまでの疲労はあるにしても、それ以上に熱くて、奥が痺れたみたいになって、まともに動かせないのだ。
それでも抵抗しようとするけれど、できなかった。
歯を閉じようとしても舌を捩じ込まれてこじ開けられた。なら舌で押し出そうとするけど、自分なんかより一回りも二回りも太くて長い舌で逆に絡めとられ押さえ付けられて流し込まれてしまう。
その時の感覚を、ヒメナは今でも覚えている。淡く小さな唇に、感じさせられた刺激が深く刻まれている。
初めて味わう、男の唇の感触。体温。息づかい。
力強く、濃厚で……わけも分からず身も心も熱く激しく蹂躙されていくような……
男の人って……キスって、あんな感じなんですね。
「~~~っぅ!?」
そう思ったところで、ヒメナは衝動的にシャワーの水圧を更に強くした。
顔が熱い。もっと冷やさなければ。
そうして勢いを増した冷水で内から火照るような熱を強引に冷ますと、かわりに胸中に沸き上がるのは、成す術もなくそうされてしまった己への思いだった。
あの時、いつもなら一撃で倒せるはずのスサオのされるがままになっていた。その大きくて硬い身体に圧し掛かられていると、自分がまるでただの無力な小娘なのだと分からされているかのように思えて
……違うっ!! ちがう!! 私は強い。もう昔のような……泣く事しかできなかった弱い私じゃない!!
そういくら心で叫んでも現実ではどうにもできなくて、互いの唇の隙間から溢れた聖水だか唾だかで自分の口元を濡らしながら、その全てを小さな身体の内へと流し込まれたのだった。
その後はヒメナの身体からレイスが逃げ出し、それに今度はスサオが憑依され、復活したヒメナの手によって追い出されて倒された。
だがすぐに機動型ダンジョンの襲撃という特大のアクシデントによって自分たちが停止するはずだったコアは捕食され、結果として試験は不合格となってしまったのだ。
そう。不合格だ。合格して当然であるはずの、一人でクリアできるはずのそれを、自分は失敗してしまった。
「……の、せいです」
なぜそうなったのかは分かっている。
ああ分かっているのだ。
レイスに憑依されたのも、スサオによる折檻を受けたのも、そして初めての唇を奪われてしまったのも全部何もかもすべて――
「わたしの……せいです……ッ!!」
震える唇から絞り出された声は、己への怒りと羞恥に染まっていた。
悪いのは、自分だ。失敗したのは、全て自分のせいだ。
スサオは結局足を引っ張らなかった。
協力し合うことはついぞ無かったが、それでも自分の役割を果たしていた。
あいつのやり方は最低で滅茶苦茶で色々な意味で酷すぎるものだったが、それでも的確だった。憑依された仲間を救うという、ことその手段としてはこれ以上ないほど理にかなっていたのだ。
ゆえにどれほど恥ずかしくて屈辱的だろうとも、それに対して怒りはあれど恨みは無い。いっそ怒りに任せてスサオのせいだと理不尽に八つ当たりすれば気は楽になれるのかもしれないが、そんな真似をするにはヒメナはプライドが高すぎた。
とはいえ乙女としての怒りはしっかりあいつの尻に倍返ししたが。
対して私はどうだ? あいつを雑魚と呼んで足を引っ張るなと言ったくせに、自分は油断して憑依され、あげくその対処を見下した本人にさせたなど
「とんだ道化じゃないですか。わたしは……ッ」
あまりの羞恥と屈辱感。頭がおかしくなりそうだ。日本が銃社会だったなら今すぐ拳銃でこの恥さらしな脳髄を吹き飛ばしていたかもしれない。
あの日から自分を鍛えてきたのに。もう何もできなかった弱い自分よりずっと強くなったはずだったのに……この様か。
どうしようもない自分への失望と、無力感に苛まれていく。
ああ……この感じは久しぶりですね……。
そうして暗く沈んでいくヒメナの脳裏に、古い、けれど決して忘れられない記憶が──悲しみと絶望の光景が蘇ってくる。
悲鳴。逃げ惑う人々。崩れるビル。砕かれる道路。まるで玩具のように容易く破壊される、自分が生まれた街。
荒れ狂う風。降り注ぐ瓦礫の雨。炎の海。天高く伸びて、空を覆うほど大きな八つの首。わたしを見る16の赤い目。
大好きな両親。パパとママ。
こわい。こわいよう。にげよう。ねえにげようよパパ、ママ!
……なんで? なんでいっしょにいけないの? ひとりでいきなさいって……そんな、やだよ。にげるならパパとママといっしょじゃなきゃヤダ! いっしょにいるの!
必死に掴むパパとママの手。いやだいやだと言う自分。潤む視界。濡れる頬。
もうパパにわがままいわないから…っ…もうママのごはんをのこしたりしないから…っ…いいこになるから、だからいっしょにいてよぅ!
……たんさくしゃだから。だからダンジョンからみんなを守らなくちゃいけないの? だったらたんさくしゃなんてやめて! やめてよ! それでずっとわたしといっしょにっ――なんで、ぎゅってするの?
顔を見合わせて困ったように笑う二人。抱き締められる。あたたかなぬくもり。囁かれる別れの言葉。ずっと愛してる。そして離れていく、大好きな人たちの腕。
やだ。やめて。わたしもパパとママがだいすきだよ! あいしてるよ! だからいかないで! わたしをっ、ひめなをひとりにしないでよおっ!!
遠ざかる、二人の背中。迫ってくる、八つ首の絶望。ダンジョン。泣き叫ぶ自分の声。
一緒にいたいのに、離れたくなんてないのに。幼かった自分は弱くて、何もできなくて……
「パパ…っ…ママぁ……っ!」
誰もいないシャワー室に独り、冷たい雫の雨に濡れる小さな子供の嗚咽が、誰にも知られることなく響いた。
◇◇◇
そうして、どれくらい経過しただろうか。
ひとりしきり内からこみ上げる激情を吐き出してようやく、ヒメナはシャワーを停めた。
すっきりしたわけではない。ただ、もう疲れてしまっただけだ。
食事はまだとっていないが、別にいいや。今は何もしたくない。もう今日はこのまま寮の部屋に戻ってベッドに入ろう。そのまま寝てしまおう。
そうぼんやりとした頭で考えながら服を着て、トボトボとした力無い足取りで女子シャワー室の入り口を抜けると
「おっ、チビガキじゃねえか。テメエもシャワーか?」
すぐ横からかけられた声に、思わずはっと目を向けるヒメナ。
そこにいたのは、まったく同じタイミングで隣の男子シャワー室から出てきた須賀スサオだった。
自分と同じように、試験終わりにシャワーに直行したのだろう。他の多くの生徒達もまたそうしていたのだから、ここで出会うのはおかしな事ではない。
けど、今は……特にこんな気分では、顔を会わせたくはなかった。
自分の醜態を見せてしまった、そして自分の弱さを分からせられたと言ってもいいこの人には……。
「ええ。まあ……」
だから、「それでは」とつとめて素っ気なく、なるべく彼の顔を見ないように俯いて、ヒメナはこの場を去ろうと歩き出したのに
「? ちょい待てよ」
不意に伸ばされたスサオの右手。ぐいと小さな肩に置かれた掌に、引き止められる。
「……っ!?」
なに? なんで行かせてくれないんですか? あなたの側になんていたくないのに。惨めさをこれ以上感じていたくないのに。
「離してください!」そうその手を振り払おうとしたヒメナは、ぐっと顔を寄せてきたスサオに思わず息を飲んだ。
「んー?」
眉を軽く寄せて、お互いの鼻と鼻が着いてしまうのではないかと思えるほどの至近距離から彼が覗き込んでくる。「ひぅっ」と、自分の喉の奥から変な音がした。
近い。すごく。すごくすごく近いです。
父親以外の異性とここまで近くで顔を会わせるのは試験時の口付けを含めてもまだ二回目で、そのせいか身体が硬直し、胸の鼓動が速まっていく。
訳がわからず戸惑いながらも、どこか頭の隅の部分では「あ、目付きは悪いけど意外と整ってますね」とか思っていた。
「なあチビガキ」
「ひゃいっ!?」
声まで上擦っているヒメナに、スサオは
「何か顔色良くねえけど調子でも悪いのか?」
「え……?」
そう問いかけてきた。
ついさっきまで泣きはらしていたのだし心身の疲労は自覚しているが、それをこの見るからにがさつそうなバカが気付いた事を意外に思いつつ
「べ、別にいつも通りですよ」
「そうか? ちょいと青白くて血の気がねえような感じだぞ」
「気のせいですよ……」
疑問を浮かべる彼の瞳から目線を逸らして、なるべく目が合わないようにしつつ答える。
他人に心配などされたくはない。ましてこいつには弱い姿など見せたくないから、誤魔化す。けど
「気のせいねえ……」
小さく首を傾げたスサオは更に顔を近づけてきて、こつんと、二人の額と額がくっついた。
「っっっ!?」
「おい待て逃げんなよ。つうか動くな。じっとしてろ」
「え?──ひゃっ」
いきなりの事にびくっとして、反射的に離れようとしたが、その前に後頭部を片手で抑えられ動きを封じられる。更にアップになった彼の顔は、もはや吐息どころか、ほんの少し動けば唇にすら触れてしまいそうで
え? なに? なんですかいきなり。こんな、まるで……あの時みたいにっ──
思い出す記憶。そうだ。この唇だ。この唇に、自分は好きにされてしまったのだ。でも、なんでこんな、まさかあの時みたいに、また──っ
「ん……熱は無いみたいだな。単に疲れてるだけか?」
鼓動が跳ね上がり、思わずぎゅっと目を閉じてしまったヒメナだったが、そんなセリフとともにスサオは額をすっと離してしまう。
「あ、あれ……?」
身構えたのに、なにもされなかったヒメナはキョトンとしてその言葉の意味が一瞬理解できず
「今のって……?」
「熱測ったんだよ。体温計ほどじゃねえがこれでも意外と分かるもんだぜ」
「熱を…? ~~~っ」
あらためて理解した瞬間、今度は羞恥で顔全体がかぁぁっとなった。
「え、なに今度は顔真っ青から真っ赤になってんぞ? 怖い怖い。なんでそんな顔面カラー不安定なんだよ?」
「なっ、なんでもありません! 私は大丈夫ですっ!」
「ホントか? 実はダンジョンで変な物でも食ったんじゃねえだろな? 駄目だぜ妙な所で妙な物食ったら大抵死ぬか化け物になるかの二択なんだからよ」
「そんなわけないでしょうあなたみたいなバカじゃあるまいし!」
「おいなんで俺がダンジョンの冷蔵庫に入ってたプリンこっそり食べたの知ってんだよ。あ、さてはテメエも食いたかったんだな? なんだよ言えばチビガキの分もやったのに」
「いりませんっていうかホントに食べてたんですか!?」
「いやだって腹へってたし。まあ今んとこ腹を壊してもいねえから死にはしねえだろ。もし化け物になっても3年の先輩みたく気合いで理性を保ってやるし」
「まったくあなたは……。まあいいです。とにかく私は大丈夫ですので、もう構わないでください」
「おっと、まだ行くなよ――ほれ」
相も変わらず想像の斜め上を行くバカっぷりに疲れたため息をつき、あらためて立ち去ろうとするヒメナ。そんな彼女をだがスサオはなおも呼び止めてから、おもむろに傍にあった飲料の自販機から缶を二本買うと、そのうちの一つをぽんと投げ渡してきた。
「っと……! なんですか、これ?」
「俺おススメのドリンク『カレーソーダ【甘口】』だ」
「いや本当になんですか!?」
「そんな顔すんなよネタっぽいが味はマジだぜ。騙されたと思ってぐいっとやってみろぐいっと」
そう言うスサオの手には『カレーソーダ【辛口】』が。それを蓋を開けてぐいっと美味そうに飲む彼の姿に、ヒメナは疑わしそうにしながらも同じように開けて恐る恐る一口。
「……すごくおいしいです」
「だろ?」
リンゴと蜂蜜の風味が効いた好みドンピシャの味だった。なんだろう。なんか悔しい。
「んくっ……で、なんですかいきなり。あなたに奢られる覚えなんてありませんけど」
「いやあるだろ」
あると言われても思い当たらない。「?」と内心で小首を傾げるヒメナに、スサオは
「ボスモンスターのレイスに俺が憑依されちまった時だよ。正直あの時は自分じゃどうにもできなかったからな」
「あの時、ですか。ですがあれはそもそも私が憑依されたから……」
そうだ。あれは先に自分が油断して憑依されてしまったからこそ起こった事態だ。その尻拭いをさせてしまった彼に、更にとばっちりを受けさせたのは自分の責で……
「いや違うだろ」
「え?」
だから礼をされる資格なんてないのに。
自分の醜態をあらためて思い出して俯くヒメナは、だが否定の言葉にその暗くなっていた顔を上げた。
「俺はチビガキが油断ぶっこいて憑依されたのを見てたのに同じミスをした。だったらそりゃ俺の責任だ」
「…………ッ」
「テメエにはその尻拭いをさせちまったんだから礼はしなきゃならねえだろ?」
「……礼、なんて」
「まあ尻を蹴られたのは流石にムカついたけどな」と苦笑するスサオに、ヒメナの唇から漏れるのは抑え切れぬ激情に震える声。
塞き止めようとしていた思いが、溢れる。
「いらないですよ……っ! なんなんですか!? 慰めてるつもりですか? それとも哀れんでます? あなただって分かってるでしょう!」
ああ、駄目だ。止まらない。止められない。
嫌な気持ちが溢れてくる。自分への怒りが、悔しさが、失望が、痛む胸の奥から汲み上げて視界を潤ませる。
ああ分かってる。分かってるんですよ。
「……試験がクリアできなかったのは、私のせいだって……ッ!」
俯いた目元から雫を散らした叫びが、二人きりの通路に響く。
もうここにいるのは冷徹で不遜な天才少女ではない。自分の弱さを分からされて打ちひしがれる小さな子供が、か細い肩を震わせ拳をぎゅっと握りしめ立ち尽くしていた。
そんな彼女に声をかけられるのは、この場には一人しかいない。
もし彼が心優しい人ならその悲しみを癒すため優しく慰めただろう。
もし彼が賢い者なら、半端な慰めなど逆効果だと悟り叱咤激励したかもしれない。
だが、彼は、須賀スサオはそのどちらでもない。
「え、いや何言ってんの?」
彼はバカだった。なんで目の前の少女が泣き出したか本気で分からないバカだった。
「……ぐすっ。何って……、言った通りですよ。わたしが──」
「いやなんで試験をクリア出来なかった原因がチビガキなんだよ。どう考えても最後に横槍入れてきたあの機動型ダンジョンのせいだろ?」
そうあたりまえの事を口にするかのように言うバカに、ヒメナは言い返す。
「いいえ。もとは私がレイスに憑依などされずに倒せていれば、あのダンジョンに襲撃される前にコアを停止させられたじゃないですか……!」
そう、スムーズにいけば時間は間に合ったのだ。自分が油断しなければ、その慢心こそが──
「? それを言うなら俺が最後にヘタこかなきゃって話になるだろ。それがなんで全部チビガキのせいになってんだよ?」
だが、その自責をバカは全く理解できず首をかしげる。
「それにテメエがいたからその前のダッチワイフを早く倒せたんじゃねえか。ドロップキックは許せねえがあれがなけりゃもっと時間かかってたぞ。てかそもそもチビガキと組んでなきゃボス部屋につくのはもっと遅くなってどのみちあの機動型にコアを食われてたろ」
「……たしかに、そうかもしれませんけど。でも結果はッ──」
「うるせい」
「ぁたっ!?」
淡々と語られるその言葉を、だがなおも認めようとしないヒメナ。その額にいきなりデコピンが叩き込まれた。びしっという地味に強い痛みと衝撃に思わず小さな悲鳴を漏らす彼女に、スサオは呆れたように大きな溜息をつき
「ったく、テメエ頭はいいけど考えすぎて頭こんがらがるタイプだろ」
先ほどと同じように顔を近づけ、真正面から目を合わせた。
向き合う、ヒメナのか弱く濡れた瞳と、スサオのたぶん深い事は考えてないが意志だけは強い瞳。
「なんでそう思ってんだか知らねえがよく聞け。テメエはテメエ自身ががどう思おうが悪くねえ。たしかにヘマはしたし俺にドロップキックぶち込むわ尻を蹴るわ散々やらかしやがったが、それがどうしたってんだよ」
人の唇をいきなり奪うわ尻を叩くわのあなたがそれを言いますか? とヒメナは思ったが、それを口にする前に、彼の言葉がその耳に届く。
「テメエがそれと同じくらい。いやそれ以上に活躍したのは紛れもねえ事実だろ。テメエが認められないなら俺が認めてやる。——チビガキ、テメエはよくやった。テメエに助けられなけりゃ俺はレイスで詰んで試験はもっと無様な結果だった」
そう言って、頭にぽんと置かれる掌。大きな掌から感じるあたたかさと共に、口の片端をニッと上げた笑みが、スサオの偽らざる思いを伝えた。
「助かったぜ櫛田ヒメナ。ありがとよ」
「————………ッ」
それは、慰めではなくただ思ったことを口にしているだけ。
それは、こちらの気持ちなんて全く理解せず、自分の考えを無理やり押し付けてくる、自分勝手でわがままで、そしてどこまでも真っすぐに向けられる、そんなバカの言葉……でも、それが…っ…ああ、なんででしょう?
――なんでこんなにも、私の中に響くんですか……ッ
とくん……と、ぐちゃぐちゃの暗くて重い感情に満たされていた幼い胸の中心が、優しく打たれたような感覚がした。
気が付けば、頬を流れる冷たい雫が、熱いものになっていた。
「ぅ……ぁ………んくぅっ」
震える喉奥から込み上げる物を、唇を噛んで堪え、飲み込む。
だめだ。だめです。これ以上この人に、弱い姿は見せられない。見せたく……ないです。
そう思うのは、けれどさっきまでのような屈辱からではなく、もっと別の……っ
「……あなたは、悔しくないんですか?」
だからそれを誤魔化すために、問いかける。
失敗したのも、ミスをしたのも、あなたも同じなのにと
「あん? そりゃ悔しいぜ決まってんだろ。けどまあここに来る前にトレーニングルームでサンドバッグしこたま殴って、ついでに目の前に通りかかったすねこすりに聖水ぶっかけたら少しはスッキリしたからそれで解決だ」
そうしたら彼は、やはり当然の事だろとばかりに
「後は再試験でリベンジ決めるだけ。もちろんテメエに勝ってな」
「……できると思ってるんですか?」
たぶんいつも通りノリで言っているだけの、そんなバカ丸出しの調子で
「当たり前だろ。俺は伝説になる男だぜ」
と、そう言った。
それを聞いたヒメナの口元で、くすりと、小さく……だがこの場で初めての微笑が生まれる。
「まったく……本当にバカですね、あなたは」
バカな、ほんとうにバカな人です。
私のことなんて何も知らないくせに。私が何を決意して探索者になろうとしているのかも分かっていないのに
「とはいえそんなバカにこうまで言われてしまうなんて、私も相当参っていたようです」
そのうえ何も考えずに私を勝手に認めて、『ありがとう』なんて……。
「……後は試験でリベンジを決めるだけ。言われてみればたしかにその通りですね」
不思議です。何の根拠も無く根本的解決にもなっていないはずなのに、その言葉で、なぜだか本当にそう思えてくるのですから。
おかしい。本当におかしいですね。まるでこいつの馬鹿がうつってしまったかのようです。
きっとまだ疲れているのでしょう。そう、きっとそうです。
だから、いつもなら絶対にやらないようなこともしてしまうのです。
「それと……その、わたしも、ありがとうございました」
ぽつりと、なるべく何でもないように意識して、ヒメナはそう口にした。
何となく、向き合う彼の目を見ないように目線を逸らして。何となく、頬から首筋が熱を持つのを感じながら。
「私が憑依された時に助けてもらったこと、礼を言います」
さりげなく。そうさりげなく言う。
するとスサオは意外そうに片眉を上げて
「お、なんだよチビガキ。憎まれ口ばっかとおもいきや可愛いとこあんじゃねえか」
「かっ、かわ!?」
面白いものを見た。そんな顔でこう言ってきた。
思わぬセリフにヒメナは一気に耳まで赤くして、だが持ち前の自制心でなんとか叫び出しそうになるのを堪える。けど耳から頬までが熱を持つのは止められず、なんだか胸の鼓動まで大きく高鳴ってきたから、それを誤魔化すためにぷいとそっぽを向いて、
「ふ、ふんっ! それに免じてキスやお尻を叩かれたのだって特別に許してあげますよ! 私の寛大さに感謝してくださいよね!」
そう早口でまくし立てたのだった。
それに対して、スサオは
「あん? キスってなんだ?」
「え?」
え、まったくもって覚えがないんだけど。そう頭の上に見えない疑問符を浮かべ困惑する。
思ってもみなかったその反応に、一瞬とぼけているのかとヒメナは思ったが、その目を見るにどうやら本当の本気で分からないようだ。
どういうことですかと思いつつも、気恥ずかしさを堪えながらぼそぼそと教えると
「いや、あの……したじゃないですか? 憑依された時、私に、その……き、キスを」
「ん? ん~……あ、あれか」
ようやく思い至ったのか、スサオはぽんと手を打つというえらく古風なリアクションをした後、——「ぷっ」と噴き出した。
「ぶははははっ! いやおまっアレはキスじゃなくてただの口移しだろ!」
からの爆笑。
「口移し……」
突然の爆笑という思いもよらぬ反応と、なによりその単語に呆然とするヒメナ。そんな彼女に気付くことなく、スサオはついにはひーひーと腹を抱えて
「あんなん人工呼吸と同じだろ。医療行為ってやつだよ。それをおまっ……キスとか……くぅっ、腹痛え~っ!」
心の底から笑い飛ばしていた。
それに対して、ヒメナは
……ふぅん。そうですか。そうですか単なる口移しですか。
ええそうですよね。冷静に考えれば、たしかにあれはやむを得ない処置で一種の医療行為でしかないですよね。ええだから、あなたの言っていることは正しいのでしょう。それは認めます。ええ認めてあげますよ。
「ま~でもやっぱお子様だしな~。キスと口移しの区別なんざつかねえか~」
でも……でもねえ、しかたなかったとはいえ──私の唇を奪っておいて爆笑してるんじゃないですよ!!!!
「ふんッ!」
怒り爆発。ヒメナは全力全開の蹴りを、笑うバカの尻に叩き込んだ。
あぎゃあと豚のような悲鳴をあげて倒れこんだバカの尻に更なる追撃。乙女心の分からんバカを蹴って蹴って蹴りまくる。
まったく、あなたはっ、こっちがどんな気持ちでいたかも知らないで!
すごく恥ずかしかったのにっ……しばらくたっても唇に感触が残ってるような気がして落ち着かなかったのに……ッ。あなたはっあなたという人はっ!
ていうかファーストキスが濃厚塩味ってなんですかこのバカバカバカあああああ!!!!
爆発する乙女の憤怒と羞恥と屈辱を、しなやかな脚に込めて尻に叩き込むヒメナはひたすらバカを蹴り続け、ようやく終わったのはそれから数十分後の事だった。
「ぐおお……っ。ケ、ケツが、ケツが痛えええ」
「自業自得ですよバカ。思い知りなさいバカ」
世にも醜い呻き声を上げて床に突っ伏すスサオと、それをコキュートスばりの冷たい目で見下ろすヒメナ。
その言葉通り自業自得である。
乙女心を弄ぶ輩は何時の世も罰を受けるが世の定め。因果応報勧善懲悪なべて世はこともなし。
が、バカはバカなので何で蹴られたかなど一ミリたりとも理解していなかった。
「ってめっコラっ……なにすんじゃこのチビガキめ!? 尻が四つに割れるかと思ったぞコラ!」
「本当に割りましょうか?」
「ひい!? 脚をスッと上げんじゃねえ!? ……くっそこの人がせっかく褒めてやったってのに突然蹴りかかるとはキレやすい十代通り越したチビッ子サイコパスめ。テメエだけは許せねえ。次の試験で勝ってギャフンと言わせてやるかんな!」
両の掌で痛む尻を擦りながらそう叫ぶバカに、ヒメナは唇の端をフンと小さく上げる。
それは先ほどまでの弱々しかった姿ではなく、冷たく不遜でそして可憐な、いつもの天才少女の生意気な微笑で
「勝つ? バカは冗談のセンスまで馬鹿馬鹿しいですね。勝つのは私です。たしかに先は無様を晒してしまいましたが、だからこそ次は完全完璧に試験をクリアして、そして圧倒的な評価であなたを負かしてやりますから」
「そりゃこっちのセリフだチビガキ! こちとら変態揃いだが頼れる奴らのアドバイスがあるんだぜ! 今度こそテメエに勝ってどっちが上か分からせてやんよ!」
ぶつかり合う戦意。互いの間に見えない火花が散る。
寒々しかった廊下に、二人の熱い宣戦布告が響いた。
◇◇◇
それからバカと別れたヒメナは、寮の自室に帰ってきた。
アカデミーの敷地内に建てられた複数ある学生寮。そのうち自分に割り当てられたこの一室は、本来ならば二人部屋なのだが現在ここで過ごしているのは自分一人だ。元々のルームメイトは自分に組手で完膚なきまでに叩きのめされた当日に自主退学した。そんな事があってか以来新たなルームメイトが来ることもなく、実質的にヒメナの一人部屋となっている。まあ他人と馴れ合う気のない自分としては都合がいい。
「──さて」
制服からルームウェアに着替え、敷地内のコンビニで買った夕食を摂り終えてからようやく一息ついたヒメナは、あらためてこれから己がすべき事を考える。
自分は失敗してしまった。確かにそれは事実だ。
だがそれに嘆き、自分を責めるのはもう十分にやった。だからこれからは、それを繰り返さぬためにどうするかを考えよう。
まずあの試験は、自分の実力ならば苦戦はしても十分にクリアできるものだった。これは今でもそう思うし、客観的データを参考にしても間違ってはいないはずだ。
足りなかったのは──情報だ。
レイス──ゴースト系のモンスターに対する備えをしておらず、それにおいて知識と装備を整えていたスサオに遅れをとってしまった。その挙げ句があの屈辱だ。
ならば必要なのは情報。それも教科書や図書室に載っているようなものではなく、個人の実戦と経験に基づく生の情報だ。
スサオも誰かからアドバイスを受けたというような事を言っていた。だからこそ先の試験で適切な備えができたのだろう。
ならば自分もそうすべきなのだろうが……。
「問題は、アドバイスを聞けるような人がいないことですか」
生憎とアカデミー入学当初から他人と距離を置いてきた自分には、気軽に話が出来る相手などいない。パーティーではなくソロでやっていくつもりである自分には端から他人と馴れ合う必要性など感じなかったからであるが、それが今になって障害となるとは。スサオに言った事ではないが自業自得か。 いや、そもそも……
「そんな情けない姿を、他人になど見せたくはないです」
我ながら強情とは思うが、独りで戦うのだと決意して己を鍛え上げ培ってきたプライドが、どうしても自分を知る者らに弱味を見せて頼る事に抵抗してしまう。
だが、自分の知識と経験だけではそれを超える事態に対処できない事は先で証明されているし、なら、やむを得ないか……ッ──いや、待てよ。
「……そういえば、インターネットには探索者が集まる掲示板があるらしいですね」
とある大型掲示板には、探索者が匿名で問答や実況から単なる雑談など、様々な話題を語り合い駄弁るいくつものスレッドがあるとか。
教室でクラスメイト達が話題にしていたのをふと思い出したヒメナは、さっそくスマートフォンを操作して掲示板『えしゅちゃんねる』にアクセスする。
他人に頼るのは同じだが、顔も名前も知らない相手との匿名のやり取りならば、まだ抵抗感は少ない。
アカデミーは来るもの拒まず、だが厳正だ。もし次の再試験もクリアできなければ、見込み無しとして退学処分となる。そうなれば成人後にあらためて手続きをして探索者ライセンスを取得するしかない。たがそれでは時間がかかりすぎる。
あの日、誓ったのだ。いつまでも帰ってこないパパとママにはもう会えないのだと悟り、泣きながら決意したのだ。
自分から全てを奪った絶望を──あのダンジョンを、この手で必ず攻略すると。
「それに……」
だが、それとは別に絶対に失敗できない。否、負けられない理由がある。
慢心を痛感した。未熟を思い知った。だからこそ、それらを分からされたともいうべきスサオには
「負けたくないです……!」
そう、あえてあのバカの言葉を借りるなら
【分からせたい】ダンジョン攻略試験を圧倒的にクリアしたいんですが【奴がいます】
そして、探索者板に新たなスレが立った。
◇◇◇
「──よって、須賀スサオと櫛田ヒメナの両名は試験不合格とし、後日再試験を行うこととなりました」
東京アカデミーの最深部に、その部屋はあった。
広く、そして独特の空気に満ちた空間だ。
その内装は上品でありながら落ち着いた洋風のものだが、だがその壁や棚に飾られた写真やインテリアは、息を飲むほど美しい美術品もあれば理解しがたい奇怪な物や見るだけで正気を蝕まれるような品さえある。それらが放つオーラが混ざり合い渾然一体となっている、そんなある種の魔境とも言えるこの部屋の入り口には、『理事長室』の文字が掲げられていた。
そこで今、スサオとヒメナの監督役を務めた教官の女性は、上司にその試験の顛末を報告し終えた所だった。
「報告は以上です。理事長」
「……そう。ご苦労様。問題児二人の監督は大変だったでしょう?」
その全てを聞き、そう労ったのは、奥のテーブルの椅子に掛けた白髪の老婦人。
穏やかで品の良い微笑を浮かべた、だが静かな凄みのあるこの老女こそ、このアカデミーの長たる理事長である。
自分の前にテーブルを挟んで直立不動の姿勢をとる教官に、彼女は問いかけた。
「それで、あなたの目から見てあの二人はどうだったかしら? 是非とも聞かせてほしいわね」
「了解しました。まず櫛田ヒメナですが、やはり戦闘力に関しては瞠目すべき物がありますね。現時点ですでに一年のレベルを超えています。才能もありますが、おそらくは入学前から相当な鍛錬を行ってきたのでしょう」
「ふふ……前評判通りと言ったところね。さすがは学年一位。でも、合格は出来なかったのでしょう?」
どこか面白がるようなその言葉に、教官は答える。
「はい。彼女の欠点は他者との協力・連携を頑なに拒むことです。卒業後はソロでの活動を望み、そのための努力を欠かしていませんが、今回のように想定外の事態ではそれが完全に裏目となった結果です」
「なるほど、ねえ。そうまで他者を拒む、いえ、信用できないのは、やっぱり過去の経験からかしらね」
「10年前のあの大災害の生き残り、でしたか」
理事長は頷き、憂いを帯びた声で語った。
「ええ、当時の島根県出雲地方がただ一つの機動型ダンジョンによって壊滅状態に陥った未曾有の大災害。それも彼女はダンジョンに間近まで接近されたらしいわ。そこでどんな地獄を見、体験したのかは想像するしかないけれど、それでもS クラスダンジョンなんて上級ランク探索者ですら精神が破壊されかねないのに、それを幼い子供が……」
「いまだ正気を保っているだけで大したものですよ。……私の最後のパーティーなどはAクラスダンジョンで──あの時空間を漂流する駆逐艦《エルドリッジ》でほぼ全員が正気を失い、唯一生き残った私も精神的外傷で一線を退かざるをえませんでしたから」
「ごめんなさいね。嫌なことを思い出させて」
「お気になさらず。これでも私は十分に運が良い。精神に傷を負ったとはいえ日常生活を送る分にはこうして問題は無く、身体の方も――」
苦笑し、教官はおもむろに服の胸元を開ける。露になった胸元と左肩の境目から先は、本来の肌の色ではなく黒光りする鋼鉄の色に染まっていた。何も知らぬ者たちには義手と思われている自身の機械化した左腕の硬く冷たい表面を、教官は生身の右手でさすりながら
「左腕の融合だけで済みました。艦の甲板や機械類に取り込まれてしまった他の仲間たちに比べれば、十分に幸いです」
「……あなたは強いわね。そしてあの子も」
「はい。精神面で未熟な部分はありますが、それもあの年齢を考えれば致し方ない所があります。それに今回の試験で、他者を拒んでいた彼女にも変化が見られました」
理事長の口元がふっと小さく笑む。
子の成長を喜ぶ親のような微笑で
「ペアの子をドロップキックしてモンスターに激突させたんですってね。他者を利用することを覚えたのなら、それは大きな一歩だわ」
「はい。ダンジョンの中では半端な絆や友情はかえって仇となるケースも多い。ならば自分以外は端から利用する気でかかるというのも立派なスタイルです。このまま他者を受け入れる気が無いなら無いなりに利用し尽くすという方向に行ければ、彼女はいずれAランクにまで上り詰められる人材でしょう」
「あら、最上位のSではないの?」
からかうように言われたその問いに、教官はまるで意地の悪いブラックジョークを聞いたかのように小さく苦い笑みを浮かべた。
「彼女の精神はまだ『ヒト』ですよ。正気のまま人道を行く者では、狂気によって魔道を征く怪物にはなれません」
あれは人にして人に非ず。ダンジョンの狂気をそれ以上の狂気でもって踏破する怪物共。
時空漂流艦《エルドリッジ》から生還できたのは、共に乗り込んだSランク探索者がいたことが大きいという事は自分自身が誰よりも分かっている。
だがそれでも、艦内の空間が歪み時間すらも遅延停止加速を繰り返すあの時空間歪曲の地獄を、まるで春の小道を散歩するかの如く飄々と進み、自分たちが次々と発狂あるいは艦に喰われていっても眉一つ動かさず、ただ立ち塞がる全てを斬り捨てていったあの《恐刃》に抱いた理解を絶する者への恐れと戦慄は、今も己の心に生涯癒えぬだろう刃物そのものへの恐怖として刻まれていた。
「ふっ……そうね。ええ。その方が、彼女にとっては幸いでしょうね」
その呟きに、教官は内心で同意する。
己が人のままで在れるという当たり前の事がいかに幸いであるか、それは上位の探索者であるほど身に染みているのだから。
「それでは、もう一人の彼はあなたから見てどう映ったのかしら?」
話題は、ヒメナとペアを組んだバカの方へと移った。
問われた教官は、その思考・行動・成績を思い出しながら答える。
「須賀スサオについては、戦闘力においてやはり一段劣りますね。体の動かし方で光る物はありますが、かといって天才というほどでもない筋の良いだけの凡人。学年五位という成績も才ではなく努力で得たものでしょう」
「あら、ずいぶんと手厳しいのね」
「客観的事実です」
ですが――苦笑した理事長へ、教官はこう続けた。
「彼の真価はむしろその思考・精神面にあります。たしかに戦闘面こそ上の下程度ですが、授業での生存訓練においては最高評価に近い点数を叩き出しています。総合点こそ櫛田ヒメナに負けましたが、櫛田がサバイバル技術に優れていたのに対し、須賀は即決即断の行動力と判断力が突出していました。今回の試験においても彼のしたことは人道的には決して褒められたものではありませんが的確なものです」
「やらなくてはいけないことをやる。躊躇わず。余計なことは考えず。それが必要ならば倫理や人道を無視して行えるということね。ふふっ。真っ当な人間としては失格ね。それはつまり――」
「はい。実に探索者向きの性格です。将来的にこの生存力を伸ばせばBはもとよりAランクにも至れるポテンシャルがあります」
語られたその評価に、理事長は満足げにその笑みを深める。
「どちらも問題はあれどポテンシャルは共に一年のトップクラス。その二人を組ませ、あえて通常通り最低のEクラスではなくDクラスダンジョンで試験を行う。……賭けだったのだけれど、結果は上手くいったわね」
「不合格でしたが?」
「更なる成長の芽ができたのなら十分な成果よ。それにこの子たちならきっと再試験をクリアして、そしていずれは優秀な探索者として人類をダンジョンの脅威から守ってくれるでしょうね」
そう、期待を込めて言う理事長の表情が、すっと引き締まる。
「2012年に初めて『東京スカイツリー』がダンジョン化して以来、日本はもとより全世界でのダンジョン発生件数は年々増加の一途を辿っているわ。そしてその被害もね」
鋭い眼差しで見つめる先は、壁に埋め込まれた大型モニター。そこに映された世界地図には、数百を超えるダンジョンの名が各地に表示されていた。
「無限増築を続ける《九龍城塞》は香港を半ばまで占拠し、《万里の長城》は伸び続けて中国を物理的に分断しようとしている。《ベルリンの壁》に覆われたベルリン西部は外部と隔絶され住民全員が生死不明。英国と《キャメロット城》の騎士との戦いは未だ終わる気配を見せず、中東《エルサレム》に至っては攻略を巡り各宗教が人間同士で争っている」
そして愁いを帯びたその目は、日本列島へと移り
「自死衝動の高まりによって自ら命を絶たせる《青木ヶ原樹海》。人の欲を叶え欲に溺れ死なせる《伏見稲荷大社》。圧倒的武力によって周囲のダンジョンを次々と陥とし天下を統一せんとする《安土城》。──ダンジョンの脅威は尽きる事無くむしろ増大しているわ。このままでは最悪、ダンジョンが地球を覆い尽くし……人類は滅亡する」
そう、絶望の未来を語る。
だが、その瞳に在るのは諦めではなく、希望の未来を勝ち取らんとする燃えるような決意。
「だからこそ、私達はそれに抗うための探索者を育成しなければならないの。それも、より強く優秀な者達──未だ人類が誰一人として成しえないSクラスダンジョン攻略という偉業を成せる英雄をね」
そこで理事長はモニターを操作し映像を切り替える。
新たに映し出されたのは、このアカデミーに通う全生徒の一覧だった。
アカデミーの長たる老婦人は、若く、未熟で、だが無限の可能性を秘めた数百人の若者達の──櫛田ヒメナと須賀スサオの顔を期待の眼差しで見つめ、願う。
「今期の生徒達はかつてないほど粒揃いね。あなた達には期待し、そして希望しているわよ。今はまだ未熟なあなた達が、いずれ伝説になる探索者となることを」
──これは、人とダンジョン、モンスターと探索者の物語…
お読みくださりありがとうございます。掲示板形式じゃなくて勝手知ったる小説形式ならパパッと書けるやろと余裕ぶっこいてたけど全然そんなことなかった作者です。
あさて第一エピソードのエピローグとなる今回は現実世界を舞台にヒロイン視点でお送りしました。
これまでの物語でヒロインがどう考え感じたかが分かりました。主人公が分からせられなかったと思っていたけど実は……という話ですね。
ちなみにこの後主人公はすぐさまスレで報告した後に飯食って爆睡。ちょうど入れ替わりでヒロインがスレを立てる流れになります。なので二人の次の物語はヒロインがイッチでお送りします。バカヤンキーとツンデレロリの続きはいずれまた
次の舞台は東京から移りまして京都。三つのダンジョンが争う古都の物語をゆるりとお待ちください。
ざっくり解説
《エルドリッジ》
クラス・A
タイプ・移動型
特性・時空間歪曲。時間移動。人体発火。精神崩壊。無機物融合。
アメリカ海軍の駆逐艦。
1943年起工。第二次大戦を生き延び、後にアメリカからギリシャに引き渡され1992年に除籍。まもなくスクラップとして売却されその生涯を終えた艦船である。
そしてこの艦には、一つの都市伝説がある。
それはオカルトマニアの中で今なお語り継がれる、多くの死者と発狂者を出した悪夢のステルス実験──フィラデルフィア計画。その実験が行われたのがこの艦船だというのだ。
それが果たして真実なのか、それとも単なる噂にすぎないのか、真相はもはや闇の中。
だが、スクラップとして処分されたはずのこの艦がダンジョンとなって再び現れた時、エルドリッジはその都市伝説通りの存在となっていた。
エルドリッジは時空間を漂流し、時折空間や時間軸を超えて様々な時や場所に出現する。その内部は空間どころか時間すらも歪み、のみならず人体発火や無機物との融合から精神崩壊など様々な異常現象が侵入者に襲いかかるのだ。
時と空間を超えて多くの人間を呑み込んできたこの艦は、その異常性をも超える狂気を宿した怪物によって攻略された。