Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

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第2話「Progress」③

――セプテム・『セレニウム・シルバ』・イチカラ―城――

 轟音が鳴り響いた。イチカラ―城そのものを揺るがすほどの大震動を引き起こした直接の原因は空より落下してきたバーサーカー、ファヴニールの存在である。

 

 災厄の悪竜へとその身を変えていたファヴニールは、七星側のセイバーとライダーの共闘による攻撃に晒され、絶対的な強度を誇るはずの身体を貫かれた。

 

 そのまま、羽ばたくための翼すらも焼き焦がした身体は地上へと墜落し、城を激しく揺らしながら、イチカラ―城へと落下した。

 その落下の衝撃により正門前から続く城の半分が崩壊を迎えたことは言うまでもないが、それ以上に気にするべきことは、先の攻撃がファヴニールにとって、致命傷であったと言うことだ。

 

「そんな、嘘でしょ、バーサーカー……」

「そうか、俺は……討たれたのか、存外に、早かったな」

 

 災厄の悪竜の姿から、再び人間の頃のファヴニールの姿へと戻ったことで会話は可能となったが、その身体は黄金のエーテルに包まれ、既に修復不可能なダメージを追っていることが明らかであった。

 

 無理もないことである、救世王キュロス二世の放った宝具は、侵略王の援護があったことにより、バーサーカーをして直撃を受ける羽目になった。

 

 いかに強力無比な攻撃以外の総てを無力化する宝具であったとしても、絶対的な攻撃に晒されてしまえば、元の防御力を頼りにするしかない。

 

 竜としてその質量の大きさはそのまま狙いやすさへと直結し、結果としてたった一撃を以てタズミ側陣営にとって切り札の一つであっただろう、バーサーカーは二人目の脱落サーヴァントと相成ってしまった。

 

 だが、存外にもバーサーカーは己が消滅すると言う事実自体に異論を覚える様子はなかった。己は邪竜でありいずれは討たれる存在でしかない、常々ルシアに対してそう語り続けてきた彼にとっては、己が思い描いていた結末があまりにも早かっただけであると言う認識にも捉えることができる。

 

「それで、よかったの……?」

「元より聖杯を本気で獲得できるとは思っていなかった。だから、俺のことはいい。ただ、少しばかりの未練を想うことがあるとすれば、俺の境遇を哀れんだ相手にそのような顔をさせてしまったことか」

 

「当たり前でしょ、パートナーなんだから、悲しい顔もするよ。そりゃぁさ、何にもできないうちにこんなことになってしまって、パートナーも何もあったもんじゃないかもしれないけどさ!」

 

 ルシアの瞳より流れる涙は本物であった。召喚した時から自分に幸福な結末が訪れるはずがないと語っていたサーヴァント、指輪を触媒にして召喚しようとしたサーヴァントは別の相手ではあったけれど、紡がれた縁を無駄にするようなことはしたくなかったから、少しでも彼を理解しようとお節介に触れ回った。

 

 触れて、話して、分かったことがある。彼は自分の運命の総てを受け入れてしまっている。不幸な境遇を変えたかったとかそうした人間が本来持ち得ておかしくないような思いを抱くことなく、此度の現界もやはり己は人間に打倒される存在でしかないと、聖杯戦争を戦うことは認めても、運命からは逃れられないと踏んでいる様子だった。

 

 そんな反応をすることが悔しかった。願いを叶えるために戦うのだから、自分にとっての欲望をもっとはっきりと発露させればいい、それで失敗をしたからって二度目を望んじゃいけないなんて、誰も決めていないのだから。

 

 だから、ルシアは彼の為に聖杯を掴みたいと思っていた。悪竜になるしかなかった運命の持ち主だって、細やかな幸福なら得られることができるんだってことを教えてやりたかったのに、現実はやはり、彼を滅びの運命から逃すことをしてはくれなかった。

 

 彼の運命に対して何も抵抗することが出来なかったことが悔しくてたまらないし、こんな序盤で脱落させる羽目になったことも悔やんでも悔やみきれない。

 

「マスターよ、ルシア・メルクーアよ、こちらに来い」

「何よ……」

 

 バーサーカーは消滅の間際であると言うのに、何か言葉を口にするわけでもなく、こちらに近づけと口にした。

 その言葉に従って、バーサーカーの傍へとよれば、彼は自分の心臓に向けて手を突き刺し、それを引き抜くとその手の中には彼の血が滾っていた。

 バーサーカーは無遠慮にルシアの手を掴むと、その指に嵌めこまれていた触媒として使った黄金の指輪に悪竜の血液を流し込む。

 

「何を……」

 

「俺にはこれしかできない。俺の運命に涙を流してくれたマスターよ、幸福を願ってくれた女よ、俺も同じだ、此処で果てる未練があるとすれば、お前をこの聖杯戦争で残してしまうことだけだ。僅かな時間ではあれど、俺は……、多少はお前に救われたのだから」

 

「………っ!」

 

 黄金の指輪が光り、濡れた黒赤色の血を呑み込んでいく。バーサーカーが何を目論んでそれを実行したのか、ルシアには分からない。

 

 分からないが、これまで常に諦めと悲嘆にくれていたバーサーカーを見る瞳に映る色は、どこか温かみを持った色へと変化を遂げていた。その変化が末期の一瞬に生じたモノであることが悲しくて仕方がない。

 

「マスターよ、悪竜の幸福を願った愚かしき女よ、お前の先行きにこそ幸があることを願う……」

 

 最後に告げた言葉に彼なりの不器用な優しさを滲ませながら、ルシア・メルクーアの契約したサーヴァント:バーサーカーはこの聖杯戦争から脱落を果たした。

 

「ふっ、勝負あったな」

 

 ポツリと呟いたヴィンセントに対して、ルシアは反射的に睨みつけるが、同時にアークの拳が恐るべき速さでヴィンセント目掛けて放たれる。

 

 割って入ったバーサーカーが受け止めるが、もしも、バーサーカーの反応が遅れれば、ヴィンセントの顔は消し飛んでいたかもしれない。

 

「怖いねぇ、仲間がやられたことに怒ってるのか」

 

「それもある。だが……、今は無性にお前さんをぶちのめしたくなった。一言で片づけるんじゃねぇよ。バーサーカーは勇敢だった、勝つために全力を尽くした。そして、それは俺達も同じだ。まだ何もかも終わっちゃいねぇ、いいや、終わらせないさ。

 それを勝手に終わりにされたら、拳の一つもいれたくなるだろうが!」

 

「はは、熱いねぇ。それだけの熱を発揮できるんだから、タズミ卿も随分と優秀な連中を集めて来たんだろうさ。何せ、結局高みの見物をしていた大将二人を引き摺りだしたんだからな」

 

 ヴィンセントからしてもライダーとセイバーがこの戦線に投入されることには少なからずの驚きを覚えている。

 

 灰狼の見立てでは、セレニウム・シルバ攻略は内部に突入した四陣営で片付ける手はずだった。正面のリゼが手こずるのは敵側も最大戦力を投入して来ると分かっていたし、あえての囮でもあった。

 

 本命は散華とアサシン、そしてヴィンセントとバーサーカーがその隙に背後から挟撃を行うはずが、崩れてしまっていることは確かなことだ。

 

(もっとも、この混乱の中でも、散華の嬢ちゃんなら、あと1人か2人は斬り殺しているだろうがな)

 

 ただ、何にしても……、

 

「え……?」

 

 ふと、双槍を握る女戦士が呆けた声を上げる。全身から力が抜けるような感覚、持ち合わせていたはずの力の源泉が抜け落ちるような感覚が浮かんだからだ。

 

「言っただろう、もう終わりだって。結局、どう転んでも、お前らが勝てる可能性は万に一つもなかったってことだ」

 

・・・

 

「外の戦いは勝負がついたか。流石と言うのは癪だけど、あんたの野望もこれで終わりだな、タズミ卿」

 

「ほとほと使えぬ連中だ、あれだけの大金をはたいて方々に根回しをし、ここまで戦力を集めたと言うのに、それがまったく機能しないのでは私の投資はまったくの無駄であったようではないか!」

 

 先ほどまで決起集会が開かれていたパーティー会場、自身のサーヴァントに正門の守護を命じたタズミ・イチカラーはそこに閉じこもることを選択し、目の前に立つ赤髪の騎士、ヨハン・N・シュテルンに追い詰められていた。

 

 彼が前線に出ることなく、この大広間に籠っていたことを判断ミスであるかどうかと捉えるのは難しい。ランサーと共に最前線に出れば、真っ先に狙われたことは間違いなく、さりとてランサーを向かわせなければ、アークとバーサーカーだけでは戦線の維持は無理であったと言わざるを得ない。

 

 ただ、結果的には追い詰められている。判断がどうであったとはいえ、敵対者の騎士と相対し、今にも切りつけられる距離にまで詰め寄られているとあればそれは言い訳の余地もなく生命の危機であろう。

 

「残念だよ、タズミ卿。あんたら土着貴族たちがリゼや国王を嫌っているのは誰でも知っていたことだ。国の歴史が関わることで、僕にそれを糾弾するだけの何かなんてないのかもしれないけれど、一つの国家を育てていく者として、手を取り合える可能性をリゼはずっと模索していたのに」

 

「手を取り合える、か。青いな、護衛騎士。そもそも、そのような考え方をするのが間違っているのだ。我々は侵略を受けたのだ。お前たちが主と煽るあのハーンに連なる者たちによって。

 そしてそれからの千年間、我らの祖は常に屈辱に塗れる日々であった。東方より来たる異民族、暗殺一族ごときに支配される日々、貴様はそれを理解できると思っていたのだがな、貴様とてスラムをあの皇女に焼かれたことに変わりはあるまい」

 

「………」

 

「それとも何か、護衛騎士などと言う大役を与えられたことで飼いならされてしまったか? あるいは抱かれた弱みか? 見目は麗しいものな、あの皇女は。征服した暁には、ジャスティンを通じて高く売れると思っていたのだ」

 

「………もういい。お前と会話をしていても、こちらの心が腐るだけだ。とうにダメになっているとしても、これ以上腐らせたくはない。終わりにしよう、タズミ卿」

 

「そうだな、もっとも、終わりになるのはお前の方だがな!!」

 

 瞬間、四方八方から、タズミの雇った魔術戦に秀でた傭兵たちが一気に姿を見せて、ヨハンへと襲い掛かる。周辺に偽装の魔術を施した上で潜ませていた者たちであり、それこそがタズミがこの大広間から出てこなかったことの何よりの理由であった。

 

「サーヴァントも連れずにここまで飛び込んできたことこそが貴様の運の尽きだ、いかに護衛騎士、七星の血族と言えども、数の暴力の前に勝つことは叶うまい」

 

「相手は20人、いや、30人はいるか……、随分と用意がいいじゃないか。誰かを此処で最初から殺すつもりだったようだ」

 

「さて、どうだろうね、もっともこの城の中には私に忠誠を誓う者たちしかいない。もしも、私が手を下さなければならなかったとすれば、それは忠誠を得ることが出来なかった相手だけではないかな?」

 

 そう、元々タズミは最初からここに傭兵を潜ませていた。此処に集まったマスターたちの中で朔姫のように自分に逆らう相手がいた場合には暴力行為も辞さないと言う覚悟の現れであったが、結果的にそれがタズミにとっての最後の防波堤となった。

 

 無論、ヨハンはそんな事実は知らない。知らないが、タズミの顔を見れば大体の予測を立てることができる。

 

「下衆だな、最後の最後まで清々しいほどに。リゼがここに来なくてよかった。こんな奴の血でリゼの手を穢す必要はない」

 

「その結果として、お前は無駄に死ぬのだがな!」

 

 傭兵たちはようやく自分たちの活躍の時間が来たとばかりに各々が自分の得物である武器を握り、遠近両面からヨハンをハチの巣にするために襲い掛かってくる。

 

 全方位、かつ数の上では絶望的な差がついている。タズミは圧勝を期待した。まずは1人、愚かなマスターを討つ。その空絵図が確かにタズミの中に浮かんだ間際―――

 

「星脈拝領―――憑血接続開始、ここに七星の血を解放する!」

 

 ヨハンは鞘に納められた剣へと手を添えて、自身の魔術を起動するための接続詠唱を口にする。

 それは己の身体の中に流れ込んでいる、受け継がれてきた七星の血を自身の魔術に浸透させるための起動音声―――七星の血と経験と知識を己の身体に憑依させ、絶大な力を得るための、一瞬にして戦闘開始の合図であった。

 

「なっ―――」

 

 言葉を聞いてすぐさまタズミは自分の口から、目の前の状況に対しての驚嘆を、口にする言葉が漏れる。

 

 ヨハンへと飛び込んできた相手の攻撃の悉くをヨハンは紙一重で回避していく。必ず当たると思われていた攻撃がギリギリのところで当たらない。当たると思っていた攻撃だけに歯止めが利かない傭兵たちは、攻撃を外した瞬間に大きく隙を見せてしまう。

 

 返す刃でヨハンは隙を見せた相手の頸動脈を切り裂き、心臓に突き立て、返り血で自身の身体が汚れることを厭わずに次の相手へと刃を向ける。

 

 相手が放ってきた攻撃へと向けるカウンターによる戦い方、膨大な七星の知識に裏打ちされたギリギリのタイミングで攻撃を避けるための最小動作に、必要な知識だけが次々と自分の頭へと過り、身体へと伝達させていく。

 

 脊髄より身体全体に流れていく情報は優に通常時の2倍以上、されど、起動音声によって七星としての戦いの準備を整えたヨハンにそれは一切の苦とはならない。

 脈々と受け継がれてきた血の力が、傭兵たちをもろともせずに切り伏せていく。常人であれば回避することが間に合わないほどまでに近づけた段階での回避は、相手に束の間の決着を想起させ、結果として決定的な隙を呼び起こす。

 

 これがヨハン・N・シュテルンの七星としての力、生命の危機に晒されるほどの極限状態に近づければ近づくほどに光る、尋常ならざる反応速度から発せられる返しの刃である。

 

「なぜだ、攻撃は届くはずなのに、なぜ―――」

「それはお前たちが七星との戦い方を全く理解できていないからだ。七星は魔術師狩りの一族、魔術を断つための武技を磨き上げてきた一族、この血が流れる僕たちは魔術など恐れる必要すらない」

 

 たとえ、研鑽を積み続けてきた恐るべき魔術が己に襲い掛かってきたとしても、それを切り伏せることが可能であれば恐れる必要などない。

 

 圧倒的な武術、あるいは七星の魔術すらも通用しない魔術の応用を可能とするものでなければ、七星が恐れる理由はどこにもない。

 

「雇ってくる傭兵を間違ったな、単純な武技や戦場経験を担っている奴の方が恐ろしい。それでも、止めることはできないけどな」

 

 気づけば、傭兵たちの数は半分にまで少なくなっている。傭兵たちも少しずつ、ヨハンの動きに慣れてきて、手傷を負わせる程度には健闘しているが、なおも恐怖の方が勝っているのは言うまでもない。

 

「待て……」

 

 斬る、斬る、斬り続ける。血に塗れながらも、まるで血を浴びるごとに強くなっていくのではないかと錯覚するほどに、ヨハンは止まらない。その手に握っている剣が、次々と傭兵の命を啜っていく。

 

「おい、待て、待ってくれ。詫びる、降伏する。お前たちに協力するから――――!」

 

「必要ない。最初からお前がそうしていれば、リゼは何も苦しまずに済んだ。命を捧げろ、タズミ・イチカラー、お前の命を以て、反体制派は自分たちの愚かさを痛感するだろうさ!」

 

 遠方から魔術弾を発射していた傭兵たちが一瞬のうちに首を斬られると、その返り血が飛んでくるよりも早く、ヨハンの身体はタズミの背後へと動く。

 

 そして、背後からタズミの背中を袈裟切りに斬りつけ、タズミが声にならない叫びをあげて、痛みに身体を硬直させると、ヨハンはタズミの首を掴み上げて、そのまま地面へと叩き付け、叩き付けた同時に腕を離し、うつぶせになったタズミの首へと真っ直ぐに剣を突き落した。

 

「ごっ、ぼぁぁぁ―――――」

 

 わずかな時間であった。ほんの僅かな時間を経ることによって、ほんの1時間ほど前までこの場で人生の絶頂期に近い思いをしていた男は、彼が思い描いていた未来予想図とは全く真逆のどこまでも惨めな死にざまを示すことになった。

 

「アンタの言う通りだよ、タズミ卿。僕も同じだ、自分の人生も七星も全てを憎んでいた。こんな力を与えた運命を呪っていた。その果てにリゼと出会って、僕は変わったんだ。

 それを捨ててしまったら、「俺」は再びただの野良犬に戻ってしまう。何があろうと縋りつくさ、「俺」に出来ることがこんな殺人でしかないとしてもな」

 

 頸動脈に突き刺さった剣を抜き放ち、ダメ押しとばかりに首を斬り飛ばした。

 

 剣を鞘へと押し込み、いまだに少しばかり生き残っていた傭兵へと視線を向ける。剣を鞘に収めたとしても臨戦態勢を崩しているわけではない。

 

 すぐにでも、手を出して来るのならば迎撃をするとばかりに睨みつければ、傭兵たちはタズミの敵討ちをすることもなく、蜘蛛の子を散らすようにして、四方へと逃げ出してしまう。ヨハンはそれをあえて追うようなことはしなかった。どうせ、逃げ場などないし、逃げ出したところで、彼らに再び戦場へと戻って来るだけの気概など持ち合わせているはずもない。

 

「タズミ・イチカラーは討ち果たした。これで、この城の戦いは俺達の勝利だ」

 

・・・

 

「ヨハン君が仕事を果たしたようね……、さようなら、タズミ卿。貴方と分かり合う事が出来なかったことは私の未熟さ。でも、先の手を出したのはそちらよ。恨まないでね」

 

「くっ、無念だ……主をみすみす見殺しにした上に、結局、対峙する相手を誰一人として倒せていないなどと……」

 

 彼女の身体から急速に魔力が喪われていくのが分かった。契約をしていたマスターからの魔力供給が喪われれば、サーヴァントは長くこの世界に留まっていることができない。

 

 精々が最後に一つ大きな花を咲かせるために大暴れをすることができるかどうかという所だろう。

 

「ほらな、勝負あっただろう。頼みのランサーはタズミを失って戦闘力が極端に落ち、虎の子のバーサーカーは消滅。後はよくわからないお前さんをなんとかすれば、こっちのコールドゲームって訳だ。いいねぇ、前哨戦が一度終わるのならそれに越したことはない。

 サッサと進んでくれればそれだけ実入りも悪くないってことになるからな」

 

「だから、勝手に終わりにしてんじゃねぇよ!」

「我―――最強也!!」

 

 アークの放った拳に放たれた棍棒が叩き付けられる。装甲を纏ったアークの拳が逸らされ、その図体と狂化を受けていながらもバーサーカーは喜色の笑みを浮かべながら、棍棒をアーク目掛けて確実に放ってくる。それら一つ一つが直撃をすれば致命傷は必死であろう攻撃だけに、アークも防御よりも回避を選択する。

 

 フィジカル面で言えば、狂化によるステータス上昇も相まって、ランサーやセイバー、ライダーにも匹敵するほどの力を得ているバーサーカーは、彼自身が口にしているように己こそが最強であると言う自負を証明してやるとばかりに無造作に攻撃を続けていく。

 

 そこに敵と味方の区別はない。振り回される棍棒が唐突に味方の近衛兵に向けられても、狂った英霊は何ら拘泥しない。自分の前に立ったことこそが不幸であったのだから仕方ないとばかりに振り回される棍棒は兵士の頭蓋を砕き、柘榴の華を咲かせる。

 

「やりたい放題かよ……、お前がヘラクレス、か。どうにもそうは見えないな、狂化をさせられているとしても、ギリシアの大英雄様が見境もなく破壊なんてするのか? むしろ、そんなことをするしかできない英霊ならば、ギリシア一の英霊だなんて呼ばれることはないんじゃねぇか?」

 

「ああ、同感だ。敵方であるとはいえ、その言葉には同意しかないな」

 

 瞬間、聞こえてきた言葉と同時にアークは身体を逸らし、先ほどまでアークがいた場所を神速の矢が通り過ぎていく。それが、森の戦いより再びこちら側へと参戦したアーチャーであることはすぐに理解できた。

 

「我が友の名誉を口にしてくれたことには感謝しよう。名前を教えてくれるかな?」

「アーク・ザ・フルドライブ、そう呼んでくれ」

 

「そうか、アーク、残念だよ、君とであれば我が友の武勇を語らいあう事が出来たかもしれないと言うのに。まったく、どうしてそんな贋作が同じ陣営にいて、君がそちら側にいるのか」

 

「手加減してくれるのかい?」

「獲物を前にした狩人に手加減なんて言葉はないさ」

 

「―――だろうな」

 

 いよいよもって戦況は最悪に限りなく近づき始めている。救援はなく、その上で味方ばかりが減っていく。

 撤退を選択するべきだが、その撤退を命令できるだけの指揮系統がない。タズミによって招集された彼らは曲がりなりにも命令系統をタズミしか持ち合わせていなかった。タズミだけに優位性があり、他の全員が対等に近い関係だ。

 

 故に撤退を口にすることを役割とする者がいない。純粋な指揮系統の不足、綿密な作戦行動の欠乏、それこそが七星側とタズミ側の明暗を分けた最大の理由である。

 

 そして――――劣勢なのは正門前だけではない。

 

「ふふっ、八代のお姫様は器用ですね、足手まといになってしまっている方々を守りながらでは、苦労が過ぎるのではないですか?」

 

「しゃーもないこと言うんやないわ。助けに来といて我が身可愛さに見捨てるとか、ダサいにも程があるやろ。お前をブッ飛ばして、こいつら連れ帰る。全部できるんが、うちらの凄いところなんよ」

 

「ふふ、好きですよ、そういう強がりは。叶わないと分かっていますけれど、出来る限りの努力をお願いしますね。このままだとあと何回かで勝負は決まりますから」

 

 七星散華とアサシンを前にして、八代朔姫とエドワードは絶体絶命の状況に晒されていた。ここまで持ちこたえられているのは朔姫が徹底的に防衛に回り、エドワードやアーチャーへの被害を全て受け止めているからだ。

 

 しかし、そんな状況もいつまで続けられるのか、散華もアサシンも徐々に朔姫とキャスターが展開する結界術に順応し始めている。

 

 散華が七星である以上、いかに高度な結界術を朔姫が展開していても、問答無用で切り裂かれれば、詰みかねない。

 

(遊ばれとるわ、七星対策は一通りしてきたつもりやけど、さすがに相性悪すぎんな、こりゃ、ほんまに年貢の納め時かもしれん……、 うち、まだ何も活躍しとらんのやけど)

 

「朔ちゃん……」

 

 声を掛けられ、横へと視線を向ければ、キャスターが不安そうな視線を向けている。朔姫は大きくため息を零してから、改めて前を向く。

 

「何、こっちに縋る面しとんねん! 縋りたいんはこっちだっつーの!気張れや、まだまだこっからやろ!!」

「う、うん……!」

 

 空元気でも気持ちで負けを認めてしまったら、もはや引き摺り上がることは出来なくなってしまう。この場で戦う事が出来るのは、もはや朔姫とキャスターだけだ。

 

 正門前での戦いがどのように転がっているのか朔姫も完全に把握をしているわけではないが、十中八九、碌なことになっていないのだけは間違いないと思っている。

 

(貧乏くじもいいところやわ、やっぱ唯那あたりに任せとくべきやったか? あぁ、でも、それで唯那死んだら、ほんまに遣る瀬無くなるしな、結局、うちが出張るしかないか……)

 

 死地へと飛び込んだ自覚は持ち合わせている。あとは、どのようにここからエドワードたちを連れて逃げるかだが……、目の前の散華とアサシンは余裕からかまったく隙が生まれる余地がない。

 

 何か、彼女たちに変化を生み出せるものが生じなければ、そう、何かこの場にいる七星側の誰もが想像もしていないような変化を引き起こせる何かがこの場面に投入されれば――――、

 

「―――――――」

「へ………?」

 

 ズシンと、何かこの城の中の空気そのものが一変するかのような変化が起こった。

 

 それはさながら、この城だけが全く別の空間に引きずり込まれたような感覚、朔姫やキャスター自身には変化はないが、対峙する散華やアサシンは、先ほどまで臨戦態勢とばかりでいた態勢を崩され、まるで支えきれないほどの重たいものを背負わされているかのように、床に向かって膝を屈しかけている。

 

「痛い、フラウの上に、何か乗っているの!? フラウの身体、とても重たいの!」

「魔術、ですか……」

 

 散華は瞬間的にそれが自分たちへと向けられた広範囲攻撃であることを察し、七星の魔術によって斬り伏せんとするが、対象範囲があまりにも広すぎてしまっているために、何処を起点に斬ればいいのか一瞬では判断がつかなかった。

 

 突如として起こった変化ではあるが、朔姫はそこに生じた変化が自分たちにとっての活路を開く何かであると感じ、次いで自分にとってとても覚えのある感覚が風に乗って自分の肌に触れたことを自覚する。

 

「何や、ほんまもんの遅刻やで、タイミング伺いすぎやろ、ほんまに腹立つわ。やから、遅れてきた分、きっちり働いてツケ払えや―――!」

 

「七星流剣術陰陽崩しが一つ―――『繚乱花吹雪』!!」

 

 空中より生じたそれが引き起こしたことを完璧な形で理解した者がこの戦場の中にどれほどいたか。

 先に来たるであろう攻撃の意味を察知していた朔姫、そして城の外から戦況を観察していた七星側の人間たち、しかし、後者にとっても引き起こされた事態は驚嘆に値する者であった。

 

「来たか……」

 

 ぼそりと、これまで目の前で生じている戦況に眉1つ動かすことなく眺めているだけであったカシム・ナジェムは初めて、興味を持ったように呟く。

 

「清々しいほどの連携じゃのぅ、城全体に即席の重力制御魔術を張り、それで動きを拘束したうえで、城の中のあらゆる箇所へと放たれる斬撃か。逃げ場1つ与えることなく、生じる一撃、狙っていたとなればおぞましいほどの攻撃よな」

 

 キャスターは目の前で起こった絶技に舌を巻く。事前に相手の動きを拘束するために放たれた重力制御の魔術は、敵と味方を明確に識別したうえで放たれ、七星側の戦力の動きを制限した。

 

 それだけでも並の魔術師であれば戦闘不能へと追い込むほどの魔術であるが、そこに飛来してきたのは仕手と無数の式神であった。

 

 空中より放たれた式神たちは一つ一つが独立した魔術を使用するための核の機能を有し、重力制御によって押さえつけられた敵手たちの下へと届いた瞬間、まるで起爆したかのように無数の斬撃を放ってきたのだ。

 それらが同時多発的にこの城の至るところで放たれていき、既にセイバーの攻撃、バーサーカーの落下によって半壊気味であったイチカラー城が完全な崩壊を迎えようとしていた。

 

 しかし、効果は抜群、七星側に流れていた空気は、すべての敵手が動きを止めたことによって、天秤の傾きを限りなくイーブンへと引き戻して見せた。

 

「安心したよ、十年ぶりに再会をして、腕が落ちていたらどうしようかと思っていたけど、その様子だと、むしろパワーアップしているって感じみたいで」

 

「それはこちらも同じだ、今すぐこの場で手合わせをしたいくらいだよ、俺の即興に合わせて放ったとすれば驚異的、磨き抜かれた技であるとすれば順当なる成長、ああ、10年ぶりとは思えないほどに身体が何をするべきかを理解していた」

 

 その崩壊を始めた城の中に新たに立つのは一組の男女、魔術師のロープに身を包んだブラウンヘアの男性と、ジャケットとスカートに身を包んだポニーテールの女性。

 

 待ち望んでいた転機を果たすことができるほどの実力者は、自分たちの出番を知っているとばかりに、ここに駆け付けた。

 

 名をロイ・エーデルフェルトと遠坂桜子、共に10年前の聖杯戦争にて、最後まで残り死闘を繰り広げたかつての好敵手である。

 

「タズミ卿の招集に応じてきてみれば、まさかこのような状態になっているとは。今更かもしれないが、俺の力を信じて招集してくれたものに対しての義理立てだけはさせてもらうとしようか」

 

「朔ちゃん、ごめん、遅くなって!」

「ほんまや! でもよぉ来た。ギリギリ及第点にしたる、巻き返すぞ!!」

 

 朔姫たちがいる場所へと降り立った桜子とロイは今現在の状況を完全に飲み込んだわけではないが、少なくとも自分たちが組するであろう陣営が劣勢に立たされていることだけは十分に理解できた。

 

「随分と追い込まれてるね」

「問題ないだろう。背中を預けることに不満のない相手が今回は隣に立っているからな」

 

「プレッシャーかけてくるなぁ」

「七星桜子は常に俺の予想を上回ってくる。10年経とうとそれは変わらないと、既に理解は及んだからな」

 

 何も狙って二人で出てきたわけではない。偶然にもこの場へと到着するタイミングがほぼ同じであり、両者ともに第六感的な感覚を以て、何かが起こると判断したに過ぎない。

 それを以て、あの即興を生み出すことが出来たのは、ひとえに、この二人が互いの力を何一つ疑いなく信じているからだろう。

 

 10年、決して短くない歳月である。それでも―――

 

 遠坂桜子にとってのロイ・エーデルフェルトは変わらず最強であり、

 

 ロイ・エーデルフェルトにとっての七星桜子は変わらず己に匹敵する。

 

 それを彼らは共に心の底から信じていた。故にこそ、そのコンビネーションは一撃でこの場の空気を変えて見せた。

 

「ロイ、これを―――――!」

 

 桜子が投げ放った小箱をロイが受け取る。

 

「これは……?」

「リーナさんからの届け物! もしも、まだ英霊を召喚していないのなら、それを使えって」

 

「………、まったく10年経っても、心配を掛けさせているのは相変わらずか。いいや、ここはリーナの好意に甘えよう。彼女が選んだ触媒が俺にとって失敗となるはずがないんだからな」

 

 それが何の触媒であるのかすらも、ロイは見ることなく、己の中の魔術回路を起動させる。この戦場の最中での召喚、絶対的な隙を生み出すであろう状況でありながら、天より降り注ぐ、無数の流星が、ロイへと降り注ぐ攻撃を許しはしない。

 

「あいつ、召喚しながら魔術を展開しているのか!?」

 

 ロイの目の前には魔方陣が浮かび上がる。

しかし、ロイが発動しているであろう魔術が途切れる気配はない。サーヴァントの召喚と露払いのための戦闘を同時展開、その光景を見たヨハンは思わず目を見開く。

 

 魔術を使う者であれば、それがどれほどの規格外な行動なのか、サーヴァントと言う圧倒的な存在を呼び出すことに全神経を集中させなければならない筈の状況を、まるで子供だましのように扱っているのだから。

 

「桜子から話しは聞かされておったけど、ほんまに化け物やな、あいつ」

「驚くに値しないよ、そんな出鱈目さこそがロイ・エーデルフェルトの真骨頂だもん」

 

 さながら、その瞬間、時間が止まったような感覚だった。誰もがそのロイの出鱈目な行動に意識を奪われて、その召喚をみすみす許してしまう。

 

 魔方陣より生じた黄金のエーテルが形を成していく。その形は二つ、召喚されるべき最後のクラスはセイバーであり、それはすなわち、二つの個体を以て一つのクラスとして現界することを意味していた。

 

「であれば、景気づけと行こうか」

 

 その黄金色のエーテルが完全に形を成す間際に、空に浮かんだ魔方陣から一瞬にして赤色の光が浮かび上がり、まるで天より放たれる怒りであるように、ロイとその魔方陣に向かって放たれる。

 

「ふん、召喚早々随分とした挨拶だな、無礼を働く者であれば容赦など必要ないな」

「ええ、勿論です、兄様。あれは我らを害する光、導くべき光たるは我ら兄妹だけで十分でしょう」

 

 だが、その赤色の光が、ロイたちを害することはなかった。召喚され形を成したブロンドヘアの二人の男女、少年少女より半ば成長したであろう2人のサーヴァントは神速の早さを以て、その魔方陣と赤色の光を斬り伏せた。

 

「サーヴァント:セイバー、ディオスクロイ・カストロ」

「及びディオスクロイ・ポルクス、ここに現界いたしました」

「貴様が我々二人を呼んだマスターか、その大罪の意味を理解していような」

 

 破壊された魔法陣、それを展開していたキャスターも手傷を負うが、すぐさまその傷はふさがっていく。

 

「くく、油断したわ」

「構わん、奴らの実力を垣間見れただけでも収穫だ。さて――――最後の詰めだ、人造七星部隊を動かすぞ」

 

 カシムの言葉に、背後に詰め寄っていた兵士たちの意識が覚醒する。絶対的なエースの登場によって戦局は変わった。しかし、それで終わりではない。

 

 戦力を立て直し、この場の戦いを終わりへと導くことが出来なければ、やはり問題は解決しないのだから。

 

「へぇ、あれが分家の七星流剣術、なかなかに興味深いですねぇ」

 

 そして、彼女も―――七星散華もまた、己が見つけた獲物にとびきりの笑顔を向けるのであった。

 




桜子とロイが出て来ただけで安心感ヤバいな、ようやく反撃開始だ!

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