Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

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やっぱり、シスコンこじらせて聖杯掴んだ奴は説得力が違う。


第2話「Progress」④

――セプテム・『セレニウム・シルバ』・イチカラ―城――

 『導き星』ディオスクロイ、ギリシア神話に名高き双子神であり、ローマ神話における「ジェミニ」、現在での天に浮かぶふたご座の象徴となる神でもある。

 

 この双子は、元来「足速き馬駆る者たち」として崇拝された古き双神であったという。

 嵐の後に輝き出る星そのものと見做され、崇められていたが、時代が下ってからは、嵐のさなかに船のマストなどで見られる「聖エルモの火」がこの双神の顕現と信じられるようになった。

 

 そのため、航海の守護者、旅の安全を司る神としての顔を持つ。それが故に彼らは自分たちを『導き星』であると語る。人類がその進むべき道に迷った時に、その方向を指し示すための神であると。

 

 ギリシア神話においては、大英雄ヘラクレスや彼の親友であるイアソンらと共にアルゴノーツにおける航海の経験を有しており、決してただのそこに君臨するだけの神ではない。

 

 ただ、そうした神霊としての側面以上に、彼らを扱う上で最も注意しなければならない点は、別にあるだろう。

 

「ふん、貴様が俺とポルクスを召喚した人間か、不遜だな、この場で死を受け入れる覚悟は整っているか?」

「ちょっと兄様、いきなり何を言い出すのですか!?」

 

「何をも何もあるか。俺が人間に従わなければならない。お前を従わせなければならない。これほどの屈辱が何処にある。俺を神より人間の子へと零落した、後世の人間たちに首を垂れるなどと、理屈であろうと納得は出来ん!」

 

 ディオスクロイ兄妹が片割れ、カストロ。誇り高き双子神であると同時に、人間を憎まずにはいられない零落した神霊。本来のディオスクロイ兄妹は人々を導く双子神であるというあり方の下に神話の中へと組みこまれた

 

 しかし、後世における神話体系の解釈の中で、彼らはゼウスの子という立場を与えられ、人間から生まれたものであるというあり方を新しく付与されてしまった。

 

 結果として兄であるカストロは人間の立場に押し込められ、妹であるポルクスは半神であるという解釈こそが罷り通った。

 

 本来の純粋な神であった状況から、片や人間、片や半神へと追い落とされたことを兄であり、誇り高きカストロは我慢できなかった。

何故、導き手である自分たちが人間の解釈によってそのような立場に追い落とされるのか。恨まずにはいられないと言う思いが強く渦巻いたことは想像に難くない。

 

 よって、ディオスクロイ兄妹を召喚し、使役すると言うことはカストロの憎しみを一身に受けることをも意味している。人間によって零落させられた存在であると言う事実は、どのような形での召喚を経たところで変わらない。誰が召喚したとしても、カストロはマスターに対して少なからずの憎しみを覚える。

 

 それでも、彼らに関わる何かしらの縁を持っているモノであれば、その態度も軟化したかもしれないが、生憎とロイはそれを持ち合わせているわけではない、触媒を縁としたにしても、あくまでもリーナが用意したもの、彼らに関わる者として歴史を共に生きてきたわけではないのだ。

 

 故にこそ、カストロは自分たちを召喚したマスターに対してその責を問う。よくも我々を目覚めさせてくれた、その対価として貴様は何を支払うと言うのかと。

 

「確かに俺は君たちとは何一つとして縁を持ち合わせてはいないだろう。触媒による召喚であったことは事実であるし、まだ君たちのことを多く知っているわけではない」

 

「釈明ではなく、我々を知らずとまで口にしたか。その傲慢さをもって、命を捧げる覚悟はあるか。この僅か一瞬に我らを使役することができただけでも、至上の幸福であるというのに」

 

「残念だが、その申し出を受け入れることはできない」

「命乞いか!」

 

「いいや、純粋に君たちとうまくやっていきたいと思っているからだ。君たちは俺の妹が用意してくれた触媒によって召喚された。俺たちと同じ双子であり、兄妹である君たちに俺は一方的なシンパシーを感じているから。理由としてはそんなところだ」

「妹君様から、ですか……」

 

 ロイは手をかざす、その手には10年前の聖杯戦争同様に令呪が刻み込まれており、その一画が光を放ち始める。誰に言うまでもなくそれが、サーヴァントへと強制的な命令を与える令呪の命令であることは言うまでもなかった。

 

「令呪によって、我が身に起こり記憶を彼らに――――」

 

 何かの命令をされると感じたのか、身構える二人の体にも精神にも変化は起こらなかった。ただ一つ、違いが生じたとすれば、目の前に立つ彼らのマスターが経験してきた人生の記録映像のようなものが二人の脳裏に宿ったことだけであろうか。

 

 ロイ・エーデルフェルトとリーナ・エーデルフェルトの半生は決して幸福であったわけではない。何故、彼らが魔術師として頂点を目指すようになったのか、ロイ・エーデルフェルトが求めてきたものとは何であるのか、それを示すためには言葉を尽くすよりも記憶を覗き見てもらった方が手っ取り早いと感じたのだ。

 

「………、よろしかったのですか、令呪は三回しか使うことができません、その貴重な一つをこのような使い方をするなど」

 

「令呪の無駄遣い、言葉を尽くせば叶うことに奇跡のような力を使うことは馬鹿げている。そう思うかもしれないが、俺にとっては戦力的な問題よりも、君たちとの間に溝ができることの方が問題だと考えたまでだよ。

先の一回で君たちの実力は理解できた。君たちと俺が真に連携を図ることができれば、令呪の一つを失ったとしても価値が勝ると考えたまでだ」

 

「随分な自信だな、サーヴァントに対しての絶対命令権を一つ失うことよりも、俺たちに自分を理解させることの方が価値がある。狂っているのか、己を見誤っているのか、どちらにしても度し難いほどの自信だ。人間としての傲慢さは一級品だと理解した」

 

「兄さま、またそのような……」

 

「だがッ、人間が傲慢であることなど百も承知している。いまさらそれで貴様らを糾弾するようなこともない。道化のような貴様の生を見世物としてみることで留飲を下げることもできた。

 一つ問う、人間よ、貴様は我らを望んで召喚したわけではないといった。では、何故、そうした?」

 

「リーナが俺に託したものを疑う理由もない。必ず、俺にとって有益なものがそこにはある。それ以上の理由が必要かどうかは同じ兄としていまさらだと思うが?」

「貴様に言われるまでもない!」

 

 声色こそ、変わらず怒りが込められているが、カストロはロイへと背を向けて、再び戦場へと向かうことを許容した様子だった。

 

彼は決して人間を認めない。己を神から転落させたものを相手に背中を見せられるほど、その怒りは生易しいものではないのだ。

 

「貴様をどう処遇するかは一度保留としておく。まずはサーヴァントとして呼び出された者の役割をはたしてからだ。良いな、我が妹よ」

「……はい、兄様」

 

 カストロの自己完結した様子に妹のポルクスは薄く笑みを零す。兄の態度はいつも通りで困らせられているのもいつも通りではあるが、自分たちを召喚したマスターと兄の相性は、ポルクスが考えているよりも遥かに良好なモノであるのかもしれない。

 

 故に、ここから始まるのは、逆襲劇である。此処まで常に追い込まれ続けてきたタズミ陣営ではあるが、このまま終わらせるわけにはいかないとばかりに、ロイとセイバーが正門へとその身を動かす。

 

「悪いが、あまり誰を狙ってと言う事が出来る状況じゃない。纏めて一切合財、無力化させてもらうぞ」

 

 ロイが魔力噴射による高速移動で一気に正門前へと詰めると、森に待機していた兵士目掛けて魔術を展開し、同時にディオスクロイ兄妹が空中から光速の速さで敵陣の真っただ中へと飛び込んでいく。

 

 示し合わせたわけではない、それぞれが単独で自分たちの最適と思う行動を自律的に果たした。それでありながらも驚くほどに狙う先は外さない。

 

 飛びこむディオスクロイ兄妹が無造作に兵士たちを斬り伏せ、そして天空よりはロイの流星魔術によって、今度こそ森が燃え盛っていく。

 

 その様子たるやこれまでファヴニールと言う絶対的な脅威が存在していたとはいえ、圧倒的に優勢であった立場を忘れさせるほどであった。

 

「まったく、今日は昔馴染みに良く合うな」

 

 光の速さ、まさしく瞬きよりも早く動き続けるカストロは瞬間的に自分に狙いをつけて放たれた矢が紙一重で己の頬を切り裂いたことを自覚した。

 

「兄様……!」

「かすり傷だ。しかし、我らを捉えるか、さすがだな、ヒロクテーテス!」

 

「そこはアーチャーと呼んでほしい所だったんだけどな、ディオスクロイ。聖杯戦争のシステム上、こうなることは予想がついていたが、まさかトロイアだけではなく、アルゴノーツのメンバーとまで敵対することになるとは。ほとほと業が深いな」

 

「貴様を相手に、手加減はできんぞ」

「同じセリフを変えそう。だが、目の前に立つのならばその導き星、必ず撃ち落として見せると誓おう!」

 

 ディオスクロイが口にした名、すなわちピロクテーテス、数多の英雄が乗り合わせたアルゴー船に乗り合わせた英雄の1人、ギリシア一の大英雄ヘラクレスの親友にして、ヒュドラを討ち取った弓を受け継ぎ、トロイア戦争終盤にて、アキレウスの抜けた穴を埋めあわせた弓の名手である。

 

 その来歴から足を速く動かすことが出来ないのは難点ではあるが、ひとたび弓を引けば、その弓捌きは彼の親友に勝るとも劣らないほどの実力を見せる。アーチャーの実力を知っていればこそ、カストロもポルクスも決して楽に勝てる相手ではないことは分かっている。

 

 何せ、この場にはそれに並ぶほどの力を持つ者たちが他に素謡潜んでいることは明らかであったから。

 

「なんていう滅茶苦茶、あれが私達側の最後のマスターとサーヴァント」

「そういうわけだろうな。いいじゃねぇか、ようやく打開の目が見えてきた」

 

「ちっ……潮時と言えば潮時かもな」

 

 ロイとセイバーの到来は正門前で戦い続けていたアークやヴィンセントの戦いにも変化を生じさせようとしていた。このまま圧倒的な力の前に敗れ去るほかないと言う風に認識させていたのが、ロイたちの出現によって大きく変わった。

 

 ヴィンセントの口にする潮時とは、何も自分たちが戦う事が出来なくなるわけではない。欲を掻くのならばここらが潮時かもしれないと言う意味である。

 

 曲がりなりにもヴィンセントの視点で言えば、敵方のアサシンとバーサーカーは消滅に追い込み、様子からしてヨハンがタズミを討ち取ったことも間違いないだろう。

 

 タズミのランサーを含めれば3体の敵方サーヴァントを無力化した。初戦として考えれば十分な戦果である、新しく現れたロイ・エーデルフェルトとセイバーは厄介な相手ではあるが、戦力差で考えれば少なくともこれより先は7対4、欲を掻くことなく撤退をしたとしても何ら問題のない数値である。

 

「よぉ、灰狼。こちらはそろそろ潮時と判断するが、お前の兵隊さんたちはどうする?」

『ああ、カシムからも連絡が来ていたところだ、人造七星の性能テストを兼ねて投入する。リーゼリット皇女とヨハン、散華と共に脱出をしてくれて構わない。敵方の戦力は知れた』

 

「了解っと……、お嬢!」

「ヴィンセントおじ様……!」

 

 声を上げることなく視線を以てヴィンセントはリゼに撤退の合図を差しだす。目的を遂げ、城は全壊に近い惨状、少なくとも拠点としての再利用は絶望的な状況であると言える。

 

 タズミ側のマスターとサーヴァントが一堂に会している状況は決して好ましくはないが、タズミが脱落した以上は烏合の衆、戦力として何一つ欠けていない七星側が敗北する道理は何処にもない。

 

「ランサー、今宵はここまでにしましょう。せっかく戦いを始めて、途中で中断させるのは心苦しいけれども……」

「いいえ、決してそのようなことは。むしろ、ヨハンが戦果を挙げてくれたことが私は嬉しい」

 

「それは勿論、ヨハン君はやるべき時はきっちりと決めてくれる私の騎士ですもの……!」

 

 多くの箇所を瓦礫に埋もらせてしまったイチカラ―城の中でヨハンも脱出を試みているだろうが、すぐに戻ってくることはできないだろう。

最も、もともと、小綺麗な場所で戦うよりも、今のような場所の方が彼にとっては慣れ親しんだ場所であろうと信頼を寄せるだけの理由はある。

 

『リーゼリット皇女、聞こえるかな』

「はい」

 

『私の部隊、後方に展開する人造七星を動かす。君はその混乱に乗じて撤退してくれ。此度の戦闘、見事だった』

「ほとんど何もしていないに等しかったですけれどね」

 

『君と言う存在そのものが士気を高めていることは事実だろう。卑下をすることはないさ』

 

 必要最低限の言葉だけを交わすと、灰狼からの魔術を介した通信は途切れ、いよいよ撤退の時が近づいたことを察する。

 

 そう、その合図は森の奥、音もなく、影を見せることもなく、近衛兵士たちの後ろから次々と姿を現した武装した兵士たち、そして、俊敏性を追求して暗殺者のごとき軽装をした者たちの集団が兵士たちの位置と入れ替わったことで決定的となった。

 

「―――人造七星たちよ、お前たちの晴れ舞台だ。派手にその命を散らせ」

 

 創造主カシム・ナジェムの号令を受けたことによって、それらは一斉に最後の詰めをするために動き出した。その数たるや十や二十では収まらない。それらが一斉に、正門前の戦場へと飛び込んできたのだ。

 

「撤退するわ、ランサー」

「了解した、主よ」

 

「くっ、待ちなさい。まだ、私達の戦いは――――」

 

 マスターからの魔力供給を得ることが出来なくなったことでランサーは十全な対応をすることが出来ずに、膝を屈してしまう。精神的な消耗も大きい。主の命令を守って戦っていた結果として、みすみす主の敵を見逃す羽目になったのだ。

 

 何が正しかったのか等と結果論を求めるようなことをしても意味はない。タズミ・イチカラーが既に亡き者となったことは令呪で繋がっている自分が一番よく分かっている。

 

 先ほどのロイと桜子の参戦によって、城の形も大きく崩れた。既に亡骸さえもどうなっているのかわからないとも言えよう。そうなれば、もはやタズミに義理立てすることができるのは、己の消滅を覚悟してでも目の前の騎士を刺し違えて倒すくらいしか思いつかない。

 

「やめておいた方がいい。本来の貴殿であればまだしも、魔力供給を断たれ、充分な魔力を発揮できない今の貴殿では十全な力を発揮することができない。英霊としての名に汚名を被せるような真似を私もしたくはない」

 

「それこそ侮辱だろう。主を失い、己の役目も果たせないままに消え去る方がよほど武人としては屈辱だ。最後の最後まで戦って散らなければ、主への忠義を果たすことができない」

 

「………、失礼した。ならば、最後の介錯を果たそう。勇敢なる双槍の戦士よ。別の形で会うことがあれば、言葉を交わし、親交を深めることもできたと思うことが悔やまれるが、我らは所詮影法師。これもまた敵わぬ運命か」

 

 騒乱が再び生み出され、撤退を果たさんとするランサーは己の愛馬の手綱を引き、最後の仕事をこなそうとする。リゼに命令されたわけでもなく、役目であった訳でもない。

 

 ただ、主に忠義を尽くす騎士として、己の逸話と武功に誇りを持つ武人として、目の前の衰弱したランサーを放置しておくことは許されないと判断したからに他ならない。

 

 故に―――もはや、双槍のランサーに生き残るすべはない。拮抗していた相手を前に抵抗することもできずに敗北を迎えるだけだろう。

 

「それでいい。これで私は――――」

『いいわけあるか、ボケ!! 何、勝手に納得して消えようとしてんねん、こっちはなぁ、猫の手でも借りたいほどに逼迫しとんの、わからへんのか!!』

 

「―――――!」

 

 突如、その場の全員に聞こえる声で耳に走ってきたのは有無を言わさぬ叫び声だった。通信魔術を使っているのか、それともただ自分の声を拡声させているだけなのかの判別はランサーにはつかないが、それは見知った声であった。

 

「八代、朔姫、ですか……」

『おい、タズミのランサー、一つだけ答えろ、おまえそれでええんか! このままタズミのサーヴァントとして、大した出番もないまま、脇役上がりみたいな終わり方するんでほんまええんか!? 自分が勝ちたい、仇討ちたいくらいいわなくてええんか!』

 

 朔姫の言葉、あるいは檄とも呼べるような声は、もはや風前の灯火となったランサーに向けて放たれる、意思表示をしろという言葉に聞こえた。

 

 タズミというマスターを失ったことによって、ランサーは自分の忠義も継続して戦う力も奪われた、それは確かに英霊としては恥であり、最後の戦いで己を消滅させることも辞さない思いが生まれることは致し方ない話である。

 

 だが、それは本心か、それともやけっぱちか、改めて問うだけの意味があると思ったからこそ、声を上げる。お前はそれでいいのか、何もできずに敗北者のまま消えていくのでいいのかと、憎まれ役だろうと何だろうとかまわないとばかりに挙げた声に、ランサーは自分の中に溜め込んでいた、飲み込み続けてきた思いを吐露する。

 

「そんなこと聞くまでもないでしょう。私だってこのまま終わりたくなどない。何もできないまま、敗残者のように消えていくなど、生前の自分に泥を塗るようなことを認められるはずもない。私はまだこの双槍に相応しい戦いを果たすことができていない!!」

 

『なら―――決まりや、おまえの力、その願い、全部、うちら、神祇省がもらってく』

 

「―――――」

『桜子、遅れてきた分キリキリ働け! 手間は全部こっちら面倒見たるから、ありたっけの魔力回せ!!』

 

 瞬間、もはや後は朽ちていくだけのはずのランサーの足元に魔法陣が浮かび上がる、それは何かが召喚されるわけではなく、ランサー自身に介入するための八代朔姫が回す彼女の陰陽術。

 

「タズミのアホを見た時からこうなるかもしれんと思って、準備しといた甲斐があったわ、取りこぼしてしもうたもんは仕方ないにしても、取りこぼしかけてるもんを捨てるなんて勿体ないことうちにはできんわ。タズミ、お前の令呪頂いていくで!」

 

 朔姫の手が城の床に触れるとがれきにまみれた一か所から光が浮かび、それが正門前にまで足を延ばす桜子に向かって進んでいく。

 

 その光の襲来を間近に感じながらも、桜子は全く臆する様子はない。

 

「何をするつもりかわかりませんが、首を斬ればおしまいでしょう……?」

「それを、させると思うか!」

 

 瞬間、儀式に力を注ぎ始めた朔姫を一撃にて切断せんと散華の刃が通るが、キャスターの結界術とアーチャーが己のマスケット銃を盾にその一撃を受け止める。

 

「驚きです、まだ動けたんですか?」

「彼女の言うとおりだよ、死にぞこないが生き残るくらいなら、生かすべき命は確かにある。最後までやるさ、昔のように自分の選択を後悔したくないんだ」

 

 かつて、悪魔に魂を売り渡し、友を裏切った当然の末路を辿った者は、命の瀬戸際にあったとしても、自分の命よりも己がなすべきことを果たすことに執着する。

 

 散華は受け止められた攻撃を冷静に分析し、次は決して受け止められない攻撃を放とうとして距離を取ろうとするが、そこに銃声が鳴り響く。無機質に鳴り響いた乾いた銃声は完ぺきに反応していたはずの、散華の脇腹へと直撃し、彼女の肉をえぐり、わき腹からの出血は免れない。

 

「どうして……」

「どうしても何もない。撃てば必ず当たる銃弾、それが僕の宝具だ。僕の願いであり、僕の後悔。その意味を打ち消すことなんてできない、それほど生易しいものじゃない」

 

 続いてもう一発の銃弾が放たれる、明後日の方向に向けて放たれたはずの弾丸は跳弾のようにその方向を曲げて、逆方向から朔姫を襲わんとしたアサシンへと直撃する。

 

「痛ぃぃぃぃぃ」

「あと、四発……」

 

 幽鬼のように銃を握りながら佇むアーチャーだが、およそその反応は生気を纏ったものの反応ではない。いずれ朽ちることを前提とした者が必死に抗っているように見える姿、たとえ、散華とアサシンをここで下したとしても、彼がこのまま残り続けることができるようには見えない。

 

 悪魔と契約を果たしたことによって、英霊になりあがったとしても、彼がただの猟師であったことに変わりはない。耐久力も早さも持ち合わせてはいない。一芸特化の英雄では、残念なことに足止め程度が精いっぱいという所だろう。

 

「アーチャー、お前は……」

「悪いね、エド、あんなことを言っておいて、結局、僕もキミが喪ってきた者たちと同じ末路を辿ってしまうらしい」

 

 マスターであるエドワード・ハミルトンは多くの仲間を失ってきた。その都度、たった一人だけ生き残り、此度もまた、彼はパートナーを失う状況に晒されるだろう。

 

(わかっていたことだ、どうせ、一芸特化の僕が最後まで生き残ることができるなんてのは、夢見のいい思い込みに過ぎない。ただ、少しばかり早すぎるとも思ってしまうけれどね)

 

 しかし、そこはどうか赦してほしいとアーチャーは思う。ここで踏ん張ることが出来なければ、エドワードが生き残ったとしても、もっと多くの仲間を失うことになってしまう。自分の身を犠牲にしても他を生かすために戦うのだから。

 

 かつて悪魔に魂を売り渡して、惨めな末路を辿った自分にはこれ以上ないほどに、格好つけることができる。

 

 アーチャーの必死の抵抗とキャスターの結界術が作用している間も朔姫は己の仕事を徹底的にこなしていく。一切、ブレはなく、並の魔術師では決して実行することができないであろう「令呪の遠隔移植」を行っていく。

 

 タズミの肢体に残された令呪はまだ機能としての役割を残している。そこに刻まれた魔術情報を城という構造物で繋がった箇所から情報を拾い上げ、もう片方の腕で接続した送り先へと情報を流すことで情報を移し替えると言う作業を行っている。

 

 無論、そんなものは本来、戦場の最中で行えるようなことではない。令呪の移植手術を現実を見ないままに行っているに等しいのだ。当然に動き回ることなど出来ず、術式に全集中をしているため、もしも、キャスターたちが抜かれてしまったら、朔姫に抵抗するための手札は残されていない。

 

「ねぇ、フラウと手を繋ぎましょう。一緒に踊りましょう。こんな壁があったら、一緒に踊れないわ。ねぇねぇ、ブロンドの貴女、どうか一緒に踊ってくださらない」

 

「絶 対 無 理 !」

「そんなひどいわ、どうしてフラウを拒絶するの……?」

 

「朔ちゃんが必死に頑張っているのに、姫が遊んでいられるわけないじゃん、それに姫はケガレと触れあうつもりはないの。自分で自覚しているでしょ、どうして、そんな渇望を抱くようになったのか。貴女、根本からしてズレているじゃない!」

 

「あはっ、フラウのことをそんなに見てくれているの? なんだか恥ずかしくなってしまうわ!」

 

 キャスターの罵詈雑言の類を受けても、アサシンは全く怯んだ様子も怒りを見せている様子もない。むしろ、自分を直視してくれている彼女に対して親愛の情を向けている風な様子ですらある。

 

「仮想空間、令呪摘出――――準備完了、受け取れ、桜子ォォォォォォォォ!!」

 

 何かが起こる、それだけを察したのか、馬上より、膝を屈する女戦士に向けて騎士が槍を放つ。力を失いかけている彼女がそれを受け止めることができる余地はない。

 

 故にこそ、彼女が割って入る。放たれる槍を受け止めるのは不可視の剣、サーヴァントと言う魔力によって動く存在からの攻撃を真っ向から受け止める、魔術師殺しの刃が此処にその身を露わにした。

 

 そして、膝を屈するランサーへと向き直り、その腕に移植された令呪を示して、桜子は腕を翳し、手を差し伸べる。

 

「まだ戦うと言う思いがあるのなら、その槍を振うに値する武勇を誇るのなら、私は―――貴女のマスターになりたい!!」

 

「不思議だ、私は貴女のことを知らない。信じて良いのかなど分からないし、これ以上は生き恥を晒すことになるのではないかと思う面もある。それでも―――この手を取ることを私は嫌と思うことはない」

 

 その手を取り合う。瞬間、確かに魔力のパスは通り、桜子は自分が彼女のマスターとなったことを理解する。奇しくもロイと桜子、双方ともに十年前の秋津の聖杯戦争にて契約をしてたクラスのサーヴァントとまったく同じクラスと契約をすることになったのは、皮肉であるのか運命の悪戯か。

 

 返す刃で再び迫る槍、それを前にして、桜子が振り返るよりも早く、光速のような勢いを以て、双槍が振われ、勢いのままに騎士の愛馬が揺れる。

 

「ぬっ――――」

「魔力供給想定内通りに稼働中、ええ、確かに縁は結ばれ、ここに契約は為された。

 マスター、貴女の名は?」

 

「桜子、―――遠坂桜子!」

 

「では、桜子、これよりこの身果てるまで共にこの戦場を駆け抜けましょう。私はランサーのサーヴァント、その名を―――アステロパイオス、この双槍に懸けて、貴女の力になりましょう!」

 

 古代における一大戦争、トロイア戦争を描き、ギリシアの大英雄アキレウスの活躍を描いた叙事詩『イリアス』において、アキレウスは多くの目覚ましき活躍を見せた。

 

 多くの強敵との戦いを経験した彼がトロイア戦争の中で最も相対した中で強者であった相手は誰であったのか。

 

 アキレウスの宿敵とも呼ばれたトロイアの宿将ヘクトールか?

 

 ヘクトールの弟にして、アキレウスの死の原因を生み出したパリスか?

 

 あるいは、アキレウスと死闘を繰り広げたアマゾネスの女王、ペンテシレイアか。

 

 否、イリアスにて上述されるアキレウスの言葉はその中の誰一人もさしてはいない。

 

 そして彼は告げる―――純粋な戦いであれば、それはアステロパイオスに他ならないと。

 

「どうやら、すぐに撤退をできる空気でもなくなったようだ」

 

 戦いは間もなく終わりを告げることだろう。しかし、その終わりを前にして、最後の戦いが勃発する。正門前に広がっていく人造七星の軍団、そしてランサー同士の激突、それがセレニウム・シルバにおける最後の戦いとして、この夜は佳境を迎える。

 

 

 ――――否、それだけでは終わらず。この殺戮の夜の幕引きはこれより始まり、これより終わる。

 

 

 セレニウム・シルバの森の奥、既にイチカラ―城より離れ、喧噪の音が遠くになりはじめている場所にて、人造七星の到来による混乱の最中、いち早くイチカラ―城からの撤退を果たしたヴィンセント・N・ステッラはなおも続く戦いの様子に煙草をふかしながら、遠目に眺め笑みを浮かべていた。

 

「リゼお嬢様には悪いことをしたな。ロイ・エーデルフェルトや遠坂桜子が到来したとあれば、早々に引き上げることに是非はない。俺はリゼお嬢様やヨハンと違って、非戦闘員だからな。いつまでも前線に居たら危なっかしくて仕方がない」

 

 仕事は果たした。これより先は旨みのない泥沼の戦いだ、そういう状況は国家に忠誠を誓う軍人や、最初から捨て駒扱いの改造奴隷たちに任せておけばいい。

 別に勝つために戦っているわけではないのだ。見据えているのは聖杯戦争の先に、自分たちの地位をいかに高めることができるかなのだから。

 

「おいおい、そんな不満そうな顔をするなよ、すぐに次の戦いは来るさ。灰狼は人使いが荒いからな。皇女様に花を持たせた以上、次は自分たちがと間違いなく考える。そうしたら、こんどは大暴れさせてやるよ」

 

 自分のサーヴァントの意向など、まったく一顧だにしない。ヴィンセントにとって、サーヴァントなど所詮は使い捨ての駒に過ぎないのだから、そこに慮ってやる理由などない。適当に餌でも与えて、自分に従うようにさせておけば、それ以上に何かを求めるようなことはしない。

 

「俺は別にハーンの覇業を叶えるとか、灰狼の理想をとか、エトワール王家の存続なんて、どれもこれもどうでもいいのさ。七星の血と繋がりは俺達を満たしてくれる。培ってきた歴史が俺達の食い扶持になってくれている。好き放題に出来るのなら、何でもやってやるさ、結局、人間なんてものは生きている間でしか喜びを満たすことはできないんだからな」

 

 先祖の願いを叶えようとする灰狼も国の為に闘うリゼの気持ちも実際の所、ヴィセントは理解できない。理解できないうえで話を合わせているのだからボロが出ないように適当な所で付き合っておくに越したことはない。

 

「精々、この聖杯戦争に関わる連中が俺の幸福のための礎になることを願っているぜ」

「―――――そうか、それがお前の本音か。安心したよ、お前を殺すことに何の躊躇も生まれない」

 

「―――――!」

 

 その瞬間、森の木々を斬り倒すように横薙ぎに振るわれた鞭のような一閃がヴィンセントへと襲い掛かる。隣に居たバーサーカーは相手が放った殺意に反応し、飛び出すと、己の握っている棍棒1つでその攻撃を弾いて見せた。

 

「タズミ側の追手か!」

 

 自分の下に襲撃者が来ることに対して全く予想がなかったわけではないが、あの混乱の中から追手が出てくるのは現実的ではないと思っていた。

 

(下手を打ったが……、まぁ、そこまで最悪って訳でもない。対策はちゃんと打ってあるしな)

 

「出て来いよ、奇襲はもう失敗したんだ。潜んでいるんじゃ、バーサーカーを抜くことはできないぜ」

「言われるまでもない、姿を消したままで終わらせなどするか。お前は必ず俺が殺す。あの時からずっと、ずっと、そう心に誓っていた」

 

 森の中から姿を見せた、全身黒づくめの服装に身を包んだ少年の姿にヴィンセントは瞠目した。それは明らかに異質な空気だった。闇の世界の中で生きているヴィンセントであるからわかる。

 

 同じ闇の世界で生きていたジャスティンよりもなお深く昏い闇、己の人生に一点たりとも光が灯ることを望んでいないその様子は、ヴィンセントをして思わず言葉を失うほどであった。

 

「お前、名前は……?」

「そんなものはない。名前なんてものはお前たちに奪われた。それでも、名前を求めるのならば応えてやる――――俺は、レイジ・オブ・ダスト、七星より生まれ、七星を滅ぼすお前たちの死神だ!!」

 

 さぁ、星屑の復讐劇を始めよう。その第一幕を此処に。

 

 レイジにとっての復讐すべき相手は今、目の前にいるのだから。

 

第2話「Progress」――了

 

 次話予告

「楽しみです、桜子さん。私の七星と貴方の七星、どちらが殺人剣技として上であるのか、次に見えるときには是非とも肌で感じさせてくださいね♪」

 

「悪いな、少年。地獄に落ちる理由なんていくらでも積み重ねて来たんでな。怨みの一つや二つは本気で覚えていないんだ。よければ、俺がお前に何かをしたのか教えてくれないか? 」

 

「名前は捨てた。今の俺は、レイジ・オブ・ダスト、お前たち七星を滅ぼす、星屑の怒りだ!!」

 

「お前をここまでにさせちまった責任さ。あの日に俺がお前に手を出さなければ、ここまでお前が苦しむこともなかっただろう。だから、その責任を取って今度こそは殺してやる。それでツケは終わりにしようぜ」

 

『そうだ、お前はそれでいい。その怒り、その本能こそが七星の原初。目的など些末事だ。お前の憎悪を見せてみろ』

 

「最強などと言う言葉にはまったく興味がない。だが、王であった者としてお前に敗北するわけにはいかぬ。王としての格の違い、味わいながら消えていくがいい、バーサーカーよ」

 

「ああ、だから―――まずはお前が地獄に行け。何人も殺してきたんだろう、その報いを受ける時が来たんだよ!! 俺はお前を踏み越えて、その先を探していく!!」

 

「俺は――――七星を殺す七星、お前たちと言う星から生まれ、お前たちの輝きを喰らう星屑の怒りだ!!」

 

第3話「Rage of Dust」

 




サーヴァントステータス

【CLASS】セイバー

【真名】ディオスクロイ兄妹

【性別】男性/女性

【身長・体重】175cm/65kg 175cm/55kg

【属性】混沌・中庸

【ステータス】

 筋力A 耐久A+ 敏捷B

 魔力C 幸運C 宝具B

 

【クラス別スキル】

 対魔力:A
 魔術への耐性。ランクAでは魔法陣及び瞬間契約を用いた大魔術すら完全に無効化
してしまい、事実上現代の魔術で傷付ける事は不可能なレベル。

騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【固有スキル】

航海の守護者:B
 船にて旅ゆく者たちへの守護をもたらす。双神の存在は、困難を乗り越える希望として周囲の人々を賦活させる。嵐の航海者に似たスキルであり、味方のステータス上昇効果を与える。

魔力放出(光/古):A
 帆船のマストで発火する怪火を「聖エルモの火」と呼ぶがこの双神は、海上にゆらめく光たる「聖エルモの火」そのものであるという。光の形態をとった魔力を放出し、戦闘力を増強する。

【宝具】

『???』
ランク:B 
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