Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

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セレニウム・シルバの戦いもいよいよ佳境へ


第3話「Rage of Dust」①

――セプテム国・『セレニウム・シルバ』・イチカラ―城正門前――

 トロイア戦争を描いた一大叙事詩、ホメロスの描いたギリシャ文学の最高傑作とも語られる『イリアス』、それはギリシャ神話におけるヘラクレスと並ぶ大英雄アキレウスの八面六臂の活躍を描いた英雄叙事詩である。

 

 イリアスの物語の中で、アキレウスは様々な英雄と出会い、死闘を繰り広げ、そして最後は戦いの中で命を落としていく。

 

 彼にとっての宿敵とも呼べる相手であったトロイア軍の守護神ヘクトール

 

 アキレウスのかかとを撃ち抜き、致命傷を与えたパリス

 

 女の身でありながら、アキレウスと死闘を繰り広げたペンテシレイア

 

 その他にもさまざまな英雄たちが時にアキレウスと争い、時にアキレウスと肩を並べて戦いあっていた。では、そんなイリアスの物語の中で、絶対的英雄であった主役アキレウスをして最も熾烈な争いを繰り広げたのは誰であったのか。これまでに上げた者達であろうか。

 

 いいや、違う、その相手は決して高名な存在ではなかった。アキレウスの戦の最中で姿を現し、そしてアキレウスとの戦いの果てに命を落とし、トロイア戦争の趨勢に大きな影響を与えることも全くなかった存在である。

 

 ただ、イリアスの中に置いてアキレウスはその人物をこそ、最も苦戦した相手であると語った。河神の加護を受け、その手に握った双槍は一時は神速のアキレウスの腕を穿ち、彼の命運を断ち切る瀬戸際にまで至った。

 

 結果として敗北することとなったが、その女戦士の勇猛は高く轟き、イリアスの中にすらも、その存在は本来の女性ではなく、男性の英雄として描かれるまでに至った。

 

 その名を―――アステロパイオス、河神スカマンドロスの祝福を受けたパイオニア軍最強の将、アキレウスに勝るとも劣らないほどの神速を以て、かの英雄を一時とはいえ、進軍させずに打ち止めさせたほどの実力者。

 

 そして今、タズミ・イチカラーという己のマスターを失い、新たに契約を果たした遠坂桜子の下に、彼女は崩壊した城の中を縦横無尽に動き回りながら、敵方である馬上にて槍を振うランサーと激突を続けている。

 

 これまでの劣勢が嘘であるかのように、彼女は動き回り、その姿はさながらピンボールのようである。脚を止めることなく攻撃が当たるほどの隙など一切見せない、止まることなくまるでその足は空中に足場があるように四方八方からランサーへとその槍を振っていくのだ。

 

「これは見誤っていたと言わざるを得ないかもしれないか。最初から、君にとっては主を守らなければならないと言う状況こそが握手であったと言うわけだ」

 

「命令をされればそれを実行する。サーヴァントと言う立場である以上、そこに不満を持つ気は全くありませんよ。ただ、私にとっては何も考えずに自由に動き回ることができる方が都合がいいと言うことだけ。もとより、拠点防衛などと言う目的での戦いをしてきたわけではありませんから」

 

 先ほどまでの正門前の戦いとは様相が大きく異なってきている。ここまで正門前にてただ、佇んでいるだけでもこの場に圧倒的な威圧感を放っていたランサー、まさしく人馬一体とばかりに並み居る敵たちを迎撃してきていたが、今では防戦に回らざるを得なくなっている。

 

 ランサーが愛馬と共に攻撃に転じるにしても、アステロパイオスの動きが速すぎて、ランサーの攻撃では捉えきれないのだ。防戦であれば、自分に触れる攻撃、リゼへと向かってくる攻撃だけを捌くと言うのであれば、それは難しいことではない。

 

 彼が先に口にしたように馬上戦闘に置いてランサーは、かの侵略王にも引けを取らない。遊牧民族の長であり、絶対的な戦術を持つ王に対して、己が劣ることはないと自信を以て言えるほどの絶大な自負を持っている。

 

 故にこれもまた千日手ではある。アステロパイオスの攻撃は徹底的にランサーを抑え込むことが出来ているが、それだけでは防衛に回っているランサーに決定打を与えることができない。

 

 ただ、それはあくまでもランサー同士の戦いだけに主眼を置いた場合の話しである。この正門における闘いの趨勢は二人のサーヴァントではなく、飛び込んできた敵手たちとの戦いへとシフトしていた。

 

「魔術師、殺す!」

「我らの敵を滅するべし!!」

 

 うわごとのように相手を破壊することだけを呟きながら、年齢層もバラバラであれば、男女混合のおよそ、正規の兵士集団であるとは思えない者たちが次々と襲い掛かってくる。彼らの放つ攻撃、迂闊に防衛の魔術を使えば、その魔術自体を切り崩され、たちまち目論見が崩れ去っていくことになるだろう。

 

 かつて秋津市で行われた二回の聖杯戦争、その最中で活躍した七星の血族が振う、魔術師殺しの刃こそが、彼ら彼女らの本質と似通っている。

 

 すなわち―――人造七星、星灰狼が組織したいずれ世界を席巻するために世界中から集められ、人体改造によって、後天的に七星の血を与えられ、七星の血によって目の前の敵を滅ぼす事だけを考えている人体兵器に他ならない。

 

 このイチカラ―城での戦いは、どうあれ、七星側の勝利で終わった。七星側としてはこれ以上の深追いをすることなく撤退を果たせばそれで終わりな訳だが、その撤退にも意味を乗せようと、彼らは実戦投入が初めてである人造七星の性能テストとばかりに彼らを解放したのだ。

 

 その数、五十はくだらない、しかし、彼らからすれば捨て駒程度の扱いでしかないのは事実だ。最悪、この場で全滅したとしても、次の人造七星のデータにフィードバックするだけなのだから、まったく気にする必要はない。

 

 しかし、その理屈はあくまでも襲う側の理屈だ、襲われる側としては、たまったものではない。如何に後天的に力を与えられたとしても、身体の中に宿っている七星の因子自体は本物なのだ、戦闘力として決して舐められる相手ではなく、半壊した戦力でそれを受け流すことができる等、容易ならざることである。

 

 ………、そう先ほどまでの状況であれば。

 

「まさか10年が経過して、お前に背中を預けて、七星と対峙する。こんな経験をすることになるなんて、これだから人生は面白いな」

 

「その何でも受け入れる姿勢、まったく変わっていないのも凄いと思うけれどね。私が主攻、ロイは私の援護とみんなの守護、まるっと任せてしまってもイイ?」

 

「構わない、それほどに信頼してくれているのなら、10年間、遊んでいただけではないと言う所を見せるとしよう」

 

「頼んだわ、期待しているから」

 

 互いに向ける軽口は10年も顔を合わせていない間柄であるとは到底思えない。時間だけは誰にとっても残酷に過ぎていくが、少なくとも遠坂桜子とロイ・エーデルフェルトにとっては、この場の戦いは秋津市の聖杯戦争の延長線の先にあるのだろう。

 

 言葉を交わし、約定を手に入れた以上、後は突破をするだけであるとばかりに、桜子は懐から幾つかの護符を手に取ると、それを横に投げ放ち、その護符に桜子の魔力が付与される。

 瞬間、それらの護符は力を与えられたことによって、式神のように桜子と全く同じ姿となり、全員が一斉に刀の構えを取る。

 

「七星流剣術が崩し、奥義が一つ―――乱れ百花繚乱!!」

 

 その一閃、ではなく無数の剣閃が辺り一帯に同時に展開していく。桜子が放つことのできる、七星流剣術、七星真一郎と櫻一郎によって鍛え直された剣技の一つ一つが式神たちを介することによって全て同時に放たれると言う絶技が、ただ相手を潰す事だけを考えて飛び込んでくる人造七星たちへと突き刺さる。

 

 最初に飛び込んできた十五の兵士たちはなすすべもなく桜子に斬り捨てられて、その役目を終えた。いまだに来る人造七星の軍団は途絶えないが、初手の奇襲を逆に切り返したことによって、桜子たち側が迎撃をするための隙間を生み出すことが出来た。

 

「ま、なんだ、拾う事が出来るかもしれない命もあるってことだ、暴れ足りないだろう」

「そうだね、敵討ちなんて私らしくないのは百も承知のことだけど、このまま泣き寝入りなんてできないもの。せいぜい、悪あがきってのをさせてもらうよ」

 

 桜子の攻撃に呼応するようにして、二つの影が人造七星目掛けて躍り出る。一つは流体金属によって攻防一体の対応を可能にしたアーク・ザ・フルドライヴ。彼の身体を守る流体金属のごときその魔術を切り裂かんと七星の刃が放たれるが、それが通用するはずもないとばかりに受け止められ、逆に小手のように腕に装着された状態での拳が敵手の意識を確実に掠め取っていく。

 

「見えるよ、アンタたちの色。自分で考えているわけじゃない、動かされているだけ。だったら、アンタらは所詮、人形でしかないってことだ!」

 

 そしてもう一つの影はルシア・メルクーア、先ほどまでバーサーカーを運用するためにあえて戦線に入ることがなかった彼女は腰に提げた二挺拳銃を取り出すと人造七星たちの群れの中に敢えて飛び込み、その拳銃を武器として彼らの群れに割って入る。

 

 七星の魔術が通用するのはあくまでも展開する魔術に対して、ルシアの両腕に握る拳銃はどちらも魔術的な加護自体は与えられているものの、通常の武器であることに変わりはなく、それらをまるで刀や他の近接武器を握って使うかのように拳銃自体で攻撃を、時には受け止め、時には相手に直接打撃を与えるために使い、そして、通常の使用用途として弾丸を撃ち抜いていく。

 

 無論、桜子やアークのように圧倒的多数を一気に殲滅することができるわけではないが、彼女には彼女だけが持ち得る特殊な相手に対する先読みがある。

 

(いかに操られているとしても、色が全く見えないわけじゃないのなら、ほんのわずかな色彩の動きであっても対応することはできるはずだよ……!)

 

 さながら演武を踊るかのように二挺拳銃から放たれる弾丸と硝煙のベールにその身を委ねながら、ルシアも人造七星たちの軍団を相手に一歩も引かない。

 

 もっとも、多勢に無勢の状況を突破することはできない。人造七星たちが魔力を斬るという利点を活用できなかったとしても、なお、彼らは後天的な戦闘力を与えられた存在だ。

 

「くっ――――」

「シスターッ!!」

 

 元から命などこの先に必要ないとばかりに彼らは、死ぬことを前提にして飛び込んでくる。容赦なく彼らを引き離すために銃弾を放つが、その銃弾が当たっても尚止まらずに彼らはルシアの身体に触れ、その動きを塞がんとし、それに呼応するように背後から、新たなる敵がその手に握った槍を、覆いかぶさった相手ごとルシアへと放つ。

 

 ザクリと肉を割き、貫通する音が木霊する。その音に比例した光景はルシアの身体を穿つ光景であり、他の人造七星の魔術師が魔術を行使する。

 

 すると、覆いかぶさっていた犠牲ありきの男の身体が爆散し、ルシアは至近距離でその爆発に巻き込まれる。魔術を放った男はすぐさま、アークによって殴り飛ばされ意識を失うが、爆発を引き起こしたと言う事実が消えるわけではない。

 

 ルシア・メルクーアは通常の人間である、あれほどの至近距離で爆発に巻き込まれてしまえば―――

 

「あたた、クッソ、ドジを踏んだ。こいつら色が見えないから見境なしか。能力に頼り切っているとこういう時に判断に迷ってしまうんだよね」

「無事、なのか……」

 

「いや、普通は死んでるでしょ。私だって、普通に死んだと思ったよ。ただ、爆発して身体が吹き飛んだと思った瞬間に、この黄金の指輪が光ったんだ。気付いたら、吹き飛んだと思っていた身体が瞬間的に元通り、もしかしたら……ファヴニールの置き土産、貰っちゃったかもね」

 

 あっけらかんと言い放つルシアだったが、起こった事実はそのような楽観的に語れるような状況を逸脱している。彼女自身が認識していることが正しいのならば、彼女は一度身体を吹き飛ばされ、その上で身体を再生したと言う事態が引き起こされたことに他ならない。

 

「悪竜ファヴニールの血を受けた人間は死を超越する。英雄ジークフリートはその血を背中以外に浴びたことで背中が逆説的に弱点になったわけだけど、私も案外同じようになっちゃったのかもね」

「随分と楽観的だな」

 

「楽観的じゃないさ、ただ、目にモノ見せるくらいのカードは手に入れたって感じ!」

 

 二人の会話など知ったことかと、飛び込んでくる新たな敵手に対して弾倉に銃弾を籠めると、自分の変容などまるでなかったように銃弾を放っていく。

 

「はっ、心配はどうやら野暮って訳だ。だったら、気にしないさ、頼れる戦友として扱わせてもらうぜ、ルシア!」

「いいね、そういうさっぱりとした感じは好きだよ、アーク」

 

「俺も負けてはいられないな」

 

 桜子、ルシア、アークの戦闘をつぶさに観察しながら、ロイは自分に対して一層の殺意を向けて迫ってくる人造七星たちをいなしていく。明らかに他の人間たちに対して向けていく感情と自分に向けてくる感情に差異がある。

 

 ロイへと迫ってくる彼らは、まるで自分の家族を奪われたかのような狂乱振りであり、精細さにかけるものの、数の暴力という形を以て、その補てんを行っている状況だった。

 

「キャスターの配下たちを思い出すな。彼らにも随分と憎まれたものだが、生憎とその手の戦いには慣れている」

 

 ロイが脚で床をドンと叩き付けると足元から生成された魔力が間欠泉のように吹き上がり、光のカーテンを形成するかのように、自分に群がってくる人造七星の集団を一網打尽にしていく。

 

「お前たち七星は魔力や魔術と言ったものを断ち切り、魔術師を相手に絶対的な優位に立つことができる。それは事実だ、しかし、魔力を無効化することができるわけじゃない。断ち切ることしかできない。これは同じように見えて大きく違う。

 悪いな、お前たちが数で俺を覆うよりも、俺はずっと七星との戦いに慣れているよ」

 

 一網打尽にされた有象無象に自分の実力を誇示するように告げた言葉こそがこの戦場における絶対的な真実である。

 

 ロイ・エーデルフェルトと言う圧倒的な戦力は七星を倒すために研鑽を積み、この10年間の流浪の旅で困難に立ち向かい続けてきた。数によって潰されかけたことなど枚挙に暇がない。

 

「ほう、あれがお前の宿敵か。確かに人間離れしておる。天然の怪物か」

「故にこそ凌駕する必要がある。己の知識と技術はこの世界が生み出した怪物すらも凌駕すると、証明せねば七星は最強であると自負できまい」

 

 自分たちの手駒を次々と倒されているにもかかわらず、カシム・ナジェムとキャスターはロイの脅威的な戦闘力にこそ注目していた。ここまで万事、何事にも興味を示すことがなかったカシムが、ロイの戦いにだけは目を離せないとばかりに、観察を続ける。

 

 待ち望んでいた相手の到来、自分が打倒をするべき魔術師として最強の一角である男、以前の聖杯戦争の勝者。その力を、その強さを記憶と心に刻み付けていく。

 

「全身機械に置き換えた貴様であっても、心が躍ると言う感覚はあるのか?」

 

「でなくば、非効率的な1人を狙うなどと言うことはしない。これは己に残された最後の人間性であり、それを昇華させることによって、我が七星は絶対最強の領域へと辿り着く。それで、勝てるか、セイバーに?」

 

「………誰にものを語っておる。妾は戦いなど好まんだけだと言うておろう」

 

 キャスターとカシムは戦場の真っただ中にありながらも、あえて手を出すようなことはしない。最初から彼らはここに戦いに来たわけではない。目的の相手を見据えるためにこそ来ているのだから野蛮な戦いをする必要などない。

 

 最強の七星を至高の領域とするカシムにとって、魔術師における最強の象徴ともいえる相手はいずれ乗り越えなければならない相手であるのだから。

 

「だが、存外に粘るな。やはりロイ・エーデルフェルトだけではない、七星の傍流、七星桜子、あの女もまた七星に連なるに相応しきものであるか」

 

 ルシアやアーク、そしてロイが八面六臂の活躍で人造七星たちを迎撃する最中で、桜子とアステロパイオスはあえて、人造七星との戦いに参加することはなかった。それは相手を怖れての事でも、相手を倒すことを怖れたからでもない。

 

 この場において自分たちがやるべきことは人造七星を倒す事には非ずと互いが理解していたからに他ならない。

 

「ランサー、即興だけど行くよ!」

「ええ、マスター!!」

 

 桜子が再び護符を手に取り、それを空中へと投げ放つ。投げ放ったその護符たちは空中でアステロパイオスの軌道を確保するための足場へと転じる。

 いかに彼女が神速の動きを誇り、ここまでランサーを防戦一方にしているとはいえ、空中で急な方向転換を行いながら自由自在に闘えるわけではない。

 

 足場が生まれれば、それだけ次の一撃を放つための戦略の幅が広がる。それはそのまま、次がランサー同士の戦いにおける決着に近い激突が起こることを意味していた。

 

「七星流剣術玖ノ型―――『散桜』!!」

 

 空中からはアステロパイオスの双槍が、そして前方からは遠坂桜子の七星流剣術によって彼女の背後に無数の斬撃が生じ、それらがまるで花が散って行くようにランサーとリゼへと襲い掛かる。

 

 此処で勝負を決める、桜子もアステロパイオスも言葉一つなく、繋がった魔力のパスを通して意思を理解しあって、攻撃へと突入する。

 

 故にここで、危機へと追い込まれたのは言うまでもなくリゼとランサーである。これまでアステロパイオスの攻撃だけであるからこそ受け止められていた。そこに桜子の攻撃までも入るのだとすれば―――

 

「星脈拝領―――憑血接続開始、ここに七星の血を解放する!」

「――――――ッ」

 

 瞬間、起こった出来事をその場で戦いあっている者たちのどれだけが理解できただろうか。ランサーは二人の攻撃を受け止めて見せた。

 

 無論、桜子の放った流星のような魔術斬撃の総てを見切ることが出来たわけではないが、それらが致命傷に至ることもなく、そしてアステロパイオスの上段から振うと見せかけての側面からの攻撃にも槍をふるって受け止めて見せた。

 

 その同時対応、どちらかだけに集中するような戦い方であれば絶対に対応できなかったはずのそれに、何故、ランサーが対応できたのか。

 

「それが、貴女の魔術……」

 

「私は感覚を共有することに特化した七星、例え、ランサーの思考力が追い付かなかったとしても、私と言う存在を通して処理した情報を共有することで、その視野は一気に広がり、思考力は格段に跳ね上がる。ランサーの技量をもってすれば、思考処理さえできれば対応できると考えたに過ぎないわ」

 

 ランサー自身が迎撃することができると言う前提に立ったうえで、英霊としても如何ともしがたい思考の間隙を塗った。

 

 実行したこととすればたったそれだけである。しかし、そのたったそれだけを完璧な形で実践することが土壇場でどれだけに人間に出来ると言うのか。

 

 リーゼリット・N・エトワール、たった一人だけでは七人の七星の中で最弱かもしれない彼女は、誰かと共に戦うことによって相手を、そして己を際限なく高めることができる。

 

 もっとも、ここで論じるべきは単純に攻撃を受け止められたと言うことではないだろう。千載一遇の機会を逃してしまったことによって発生するリスクはチャンスが奪われてしまったことそのものなのだから。

 

 桜子もアステロパイオスもなおも追撃を図らんとするが、そこに来る二つの殺気を前にして、二人は迫る新たな反応に対する迎撃へと身体を動かす。

 

「あら、リゼ様に集中しておられると思っていたのですが、やはり英雄ともなると、何処にでも反応が出来てしまうのですね」

「無事か、ランサー、リゼ!」

 

「ヨハン君、散華さん……!」

 

 まさしく扈風のようにこの戦場へと飛び込んできたヨハンと散華はそのまま桜子とアステロパイオス目掛けて攻撃を繰り出し、リゼとランサーの周囲を固めるように降り立つ。

 

「ヨハン君、タズミ卿は?」

 

「雇っていた傭兵ごと首を斬り飛ばしてやった。だから、正直意味が分からない。なんで、ランサーがそんなに元気に動いていられるんだ。マスターを失った以上、その様子は不自然が過ぎるだろう」

 

「……そう、我が主の命を奪ったのは貴方だったか」

 

 アステロパイオスとヨハンの視線が絡まり合う。互いに睨みつける視線からだけでも、互いが実力者であることははっきりと示された。

 

「敵討ちでもするか? そもそも、僕をあそこまで自由にさせたのはアンタたちが立てていた対策が温かったからだけどな。七星を相手に楽に勝てるなんて思っていたこと自体が誤りだ」

 

「そうですね、それを言われるとこちらとしても何も言えなくなる。ただ、だからといって、称賛をするわけにもいかないでしょう。私は桜子と再契約して、己の恥を注ぐ機会を与えられた。ならば、タズミ・イチカラーが叶えることが出来なかった貴方たちの撃破を願うことは、そうおかしなことではないでしょう」

 

「確かに、そうだ。だけど、こちらももはやここには大した用はない」

 

「ふふ、ここで全てに決着をつけることもできるでしょうけれど、それではあまりにも風情がないと言うもの。ジリジリとまるで真綿が首を絞める様に、少しずつ貴方たちを削っていくことで我々は確実な勝利を手にすることが出来るでしょうから」

 

「貴女……」

 

「七星散華と申します、七星宗家のモノです、お噂はかねがね聞いておりますよ、桜子さん。此度はお手合わせをすることが出来ずに残念ですが、あなたほどの使い手であれば、もう一度お会いするまでに命を落とすことはないと信じております」

 

 ニコリと、告げる言葉の一つ一つに殺気を滲ませていると言うのに不自然に思えるほど散華はにこやかな笑みを崩すことがない。

 

「だから、次に会う時は是非とも殺しあいましょう。七星らしく」

「そんなのお断りよ、今の私は遠坂桜子ですもの」

 

 笑って殺し合いをしようと言う反応、あきらかに常軌を逸したその態度は暗殺一族である七星宗家の生まれと言われても何ら不思議に思うことはない。

 

 桜子自身も神祇省の中で七星宗家の噂自体は耳にしている。かつての権勢は失われ、いまや暗殺一族としての成りたちだけを頑なに守り続けている者たち、血にまみれ、その血を次代へと残し、技術を継承していくための家、それこそが七星宗家であり、自分の母はそうした七星の在り方を拒んでいた。

 

 七星ではなく、自分の生き方で幸福を模索していくことを信条としている桜子にとって、散華という存在はこの聖杯戦争の中で間違いなく見逃すことができる相手ではないのだろう。

 

「楽しみです、桜子さん。私の七星と貴方の七星、どちらが殺人剣技として上であるのか、今日は貴女の剣が以前の聖杯戦争から錆びついていないことが良く分かりましたから、次に見えるときには是非とも肌で感じさせてくださいね♪」

 

「…………」

 

 ニコニコと桜子を称賛し、同時に必ず殺すと言う真逆の反応は周囲から見ても、理解できるものではなく末恐ろしさすらも感じさせる。

 

 それでいて、吐きだす言葉には理性が宿っているのだ。七星散華、七星宗家より送られてきたこの少女は、七星側陣営にとってすらも理解が及ぶのかすらも怪しい劇薬であるのかもしれない。

 

「ヨハンも戻ってきました。此処は退きましょう。ランサー、君との決着はこれより先の聖杯戦争でつけるとしよう。今日は互いに、互いに武技を見せ合ったうえで、生き残ることが出来たことを喜ぼうじゃないか。何せ、互いにまだ宝具も抜きあっていない。これで終わってしまっては些か残念と言うものだろう」

 

「ええ、ランサー、次は必ず、その馬上から地上へと引きずりおろして見せましょう」

 

「期待しておこう。最も、その期待が事実になることはないが」

 

 互いの健闘を称え、そして次は必ずお前たちを倒すと告げあった二人のランサーによる言葉の応酬が終わりを迎えると、ランサーは手綱を引き、凱旋でもするかのようにこの場から去っていく。

 

 同時にリゼ、ヨハン、散華の三人のマスターも一斉にイチカラ―城より撤退を果たしていく。城が崩壊する要因を生み出したのは桜子とロイではあるものの、それほどの惨状を生み出す原因を作ったのは七星と呼ばれる特級戦力の彼らである。

 

 七星――――魔術師狩りを主とする暗殺集団に端を発した魔術師としての特級戦力、それが七人、敵対するマスターたちの全員が七星の血を有すると言う事実、タズミ側に集められた者たちの認識など軽々と凌駕していく力のデモンストレーションであったかのように去っていく。

 

「ちっ、連中、このまま、優雅に去っていくつもりか」

「とはいっても、こっちだって、まだ増援が来ている。あいつらがいなくなってくれるんだったら、それに越したことはないってのが本音でしょ」

 

 人造七星の軍団はルシアやアークの活躍もあって、大きくその数を減らしているが、それでも総てを倒しきれたわけではなく、少数ではあるが、いまだに足止めの役目を担うようにその数を増やしている。

 

 この先を生き残ると言う目的そのものがないような彼らの突貫は、自分の防御と言うものを忘れているだけに致命傷だけを狙って迫ってくる。本丸が撤退したからと言って気を抜けば、半ば不死の状態であるルシアや絶対的防御を持ち合わせているアークと言えども、何をされるのか分かったものではない。

 

とはいえ、このまま終わらせるわけにもいかないのは事実である。

 

「桜子、追えッ!」

「朔ちゃん……!」

 

「連中が襲ってきたのは三人やない、四人や! バーサーカーのマスターが姿を消しとる。連中は襲ってこないかもしれへんけど、1人がここらに潜んでおるんやとしたら、おいおち休んでもおられん。わかっとるやろ、一人なら、お前の方が上や!」

 

「――――了解」

 

 朔姫の言葉は言葉通りの意味を必ずしも持っているわけではない。桜子が単独で散華たちの後を追えば敗北することは間違いない。むしろ、本命は途中で姿を消したヴィンセントの方である。彼の居場所を見つけ、あわよくばそのまま闇討ちを以て脱落させる。

 

 奇襲には奇襲を、やられたのならばやり返せを地で行くように指示を下す朔姫だが、勿論、桜子と言う信頼できる戦力がいればこそ指示できることである。もしも、ヴィンセントとバーサーカーと戦闘になったとしても、彼女とランサーであれば切りぬけることができるであろうと考えている。

 

「であれば、俺とセイバーも」

 

「アホか、ロイ・エーデルフェルト、あんたはウチらと一緒に留守番や。お前はどうあってもパワーバランスを変える。あんたがこっち側にいるから、敵さん連中も退く気になったんやろうが。お前がいなくなったら、連中が引き返してくるかもしれん。待機や、待機!」

 

「そこまでじゃないだろう……」

 

「そこまでや! ボケるならボケるって言うてからにせえや!」

 

 朔姫の強硬な態度に桜子と共に追撃に入ろうとしたロイは足を止められてしまう。もっとも、桜子としても朔姫の判断が間違っているようには思えない。

 

 先ほどの戦いでも撤退を判断した理由としての大きな点はやはり自分よりもロイであることは間違いない。それほどまでにロイ・エーデルフェルトという魔術師が警戒されているのだろう。

 

 そこに嫉妬のような感情は湧かない。この中の誰よりもロイ・エーデルフェルトの圧倒的な強さを桜子は知っているのだから。

 

「朔ちゃん、深追いはしないようにする。行こう、ランサー」

「承知しました、マスター」

 

 桜子とランサーがセレニウム・シルバの森の中へと入っていく。ヴィンセントとバーサーカーが何処に向かったのかを完全に把握しているわけではないが、朔姫があのように言う以上、何らかの痕跡があることは間違いないだろう。

 

(七星の魔術師……、私と同じ魔術師たち、一筋縄ではいかないだろうね……)

 

 先ほどまで戦っていたリゼや散華のことを思い出せば、それは間違いないことだと思える。気を引き締めなければ本当にミイラ取りがミイラになってしまう。

 

 集中力を保ちながら、桜子は森の中を霊体化したランサーと共に駆け抜けていく。

 

 そして、そんな桜子たちが向かっていく森の先、そこに彼らはいた。一足早く城より撤退し、傍観に徹しようとしたヴィンセントの前に立ちはだかった黒づくめの身体全体がすっぽりと入るようなコートと黒づくめの服を着こんだ少年程度の身長の男が立っていたのだ。

 

「何者だ、お前。タズミ卿の追手か? それにしちゃあ随分と貧相に見えるけどな」

「――――もう忘れたのか。あれだけのことをしておいて」

 

「あん?」

 

 その少年の口ぶりは明らかにヴィンセントを知っているものの口ぶりだった。はてさて、もしかしたら、どこかで依頼されて殺した相手の親族であっただろうか。あるいは邪魔だからと潰した同業者に拾われていた鉄砲玉か。

 

 どちらにしても、ヴィンセントには身に覚えがなかった。

 

「悪いな、少年。地獄に落ちる理由なんていくらでも積み重ねて来たんでな。怨みの一つや二つは本気で覚えていないんだ。よければ、俺がお前に何かをしたのか教えてくれないか? 恨まれているのに、何に対してなのかわからないんじゃ、お前も腹の虫がおさまらないだろう?」

 

 ヴィンセントの言葉に、少年は歯ぎしりをした。それは歯が砕けてしまうのではないかと思えるほどに凄絶に、今にも噛み殺しに飛び込んできてしまいそうなほどで、そんな憎悪を見慣れているヴィンセントには何ら驚くことはなかった。

 

「覚えていないのか、みんなを、ターニャを……、村を焼き尽くしたことを!!」

「ターニャ……、村……、ああ、そうか、おまえだったか……!」

 

 それらの言葉を聞くことでようやくヴィンセントは目の前の少年を、レイジ・オブ・ダストの存在を認識した。懐かしい感覚を思い出し、自分の中の滑稽な記憶の中にいる少年に対して笑う。

 

「それで、何をしに来た?」

「七星を――――潰しに来た!!」

 

 レイジの横に立つのはアヴェンジャー、世界を駆け抜けた騎馬の王である男は、その両足で大地を踏みしめながらも威圧感だけは何ら衰えることがない。

 

「くく、やっぱりお前は大層な悪人だよ、灰狼。だが、お前の思惑に乗るつもりはない。俺はまだこの世を謳歌しきれていない。来いよ、ガキ。与えてやった力を仇で返してきやがって、今度こそは殺してやるよ」

 

「いいや、死ぬのはお前だ、あの時の俺と同じだとは思うな」

 

 そう、彼は誓ったのだ。あの日のような無力な自分でいることはもはやないと。今の彼に宿っているのは何処までも何処までも消えることのない復讐の炎であるのだから。

 




【CLASS】ランサー

【マスター】遠坂桜子

【真名】アステロパイオス

【性別】女性

【身長・体重】168cm/58kg

【属性】秩序・善

【ステータス】

 筋力C+ 耐久B 敏捷A

 魔力D 幸運B 宝具A+

【クラス別スキル】

 対魔力:C
 魔術に対する抵抗力。Cランクでは、魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

【固有スキル】

心眼(偽):A
 直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。

河神からの恩寵:A
 河神スカマンドロスからの恩寵。勇猛スキル、直感スキルを付与され、戦場にて行うあらゆる行動に有利な判定を受けることができる。

神性:C
その体に神霊適性を持つかどうか、神性属性があるかないかの判定。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。より肉体的な忍耐力も強くなる。アステロパイオスは河神アクシオスとアケッサメノスの娘ペリボイアの子のペラゴーンの子である。

【宝具】

『???』
ランク:A 対人宝具

『???』
ランク:B 対軍宝具 
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