Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

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第3話「Rage of Dust」④

――セプテム・『セレニウム・シルバ』――

 気付けば、全身をズタズタに引き裂かれている。身体中の血管が悲鳴を上げ、全身をまるで抑えつけられたような倦怠感が溢れ、心臓が早々と高鳴っていく。それが間違いなく、自分の命を奪いかねない状況に晒されていることをコンモドゥスは理解する。

 

 暗殺されたあの時も、自分の身体が自分から離れるのではないかと言う焦燥感を覚えていた。死が間際へと迫った時に存外に、人は自分の身体と自分の魂が離れるのではないかと言う錯覚を覚える。

 

「――――否!!」

 

 けれど、コンモドゥスは、バーサーカーは逃げない。どこまでも果敢に、どこまでも、愚直に、どこまでも彼の望んだ英雄らしさのままに、徐々に先ほどまでコンモドゥスが与えたダメージから回復していくアヴェンジャーへと攻撃を続けていく。

 

「否、否、我こそ最強、我こそヘラクレス。圧倒的だったのだ、誰にも負けなかったのだ、この場では私こそが王だったのだ。負けるはずがない、この場で、私が、私がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「最後に口から零れ出てくるのが未だに己の事か、度し難いな。やはり貴様は自分の事しか見えておらぬ。狂うことが無ければ、より醜いものを見せられていたかもしれぬ」

 

 渾身の一撃で放った棍棒の一撃は、しかし、全身に浴びた痛苦に引きずられて、先ほどまでの圧倒的な破壊力を発揮することはできない。

 

 コンモドゥスの一撃の恐るべき点は破壊力とそれを発するための反応速度、それらを十全に放つための耐久力、それら全てが高水準で纏まっていたところにあったが、今のコンモドゥスは全身から出血し、筋繊維が破られたことも相まって、反応速度が極端に落ち込んでいる。

 

 歴戦の戦士であるティムールであれば、それほどに至った相手ならば、もはや怖れるには足りない。

 

「そなたは王であったのだ、この場でだけ王であったわけではない。ローマと言う国のどこにあったとしても、そなたは王であり、王は民を想い、動くべき存在であった。それを忘れ、空虚な妄想に身を窶し、あまつさえ、この場でだけの王であることを誤認したとなれば、臣民からの信頼を失うことも道理だ!」

 

『儂が戦っていた頃の、ローマの将たちはどいつもこいつも必死だった。負ければ国を奪われる、ローマを壊される、自分たちの生活が脅かされる。だから、戦う。シンプルだな、だがシンプル故に彼らは強かった。驕り高ぶり、何もせずに得られた王冠はかのローマですらも腐らせた』

 

『与えられることを当たり前に考えてしまえば、後は堕落していくだけさ。どの国であろうとも変わらない不変の事実、与えられるばかりだった者たちが決して逃れることができない災禍だ』

 

「否ッ、否ッ、否ッ、我は、我はァァァァァァァァァ!!」

 

 アヴェンジャーたちの口にする言葉が、バーサーカーの身を割いていく。痛苦を与えられているわけでもない、衝撃が起こったわけでもない。されど、告げられる言葉の数々が、皇帝であった男に対して、その身を切り刻むための言葉であることに他ならない。

 

 最初からそのようになりたかったわけではなかった。曲がりなりにも偉大なる父の背中を追いかけたこともあった。されど、世界はコンモドゥスに対して優しくはなかった。世界は彼を忘れようとした。記録を消し去り、記憶からも抹消しようとした。

 

 英雄と言う幻想に縋らなければ、ヘラクレスと言う圧倒的な存在に憧れなければ、己すらも保つことが出来なかったことこそが、彼にとっての最大の罪であり、同時に最大の不幸であったのかもしれない。

 

「我はァァァァァァァァァ!!」

 

 バキンとぶつかりあう音が響いた。バーサーカー、コンモドゥスの腕から彼の身の丈の半分はあるであろう棍棒が吹き飛ばされる。これまで怯むことですらもなかったバーサーカーが全身の痛みと精神的な摩耗によって、ついにアヴェンジャーに己の武器を吹き飛ばされるまでに至ったのだ。

 

「我が、我が負ける……? 我は最強、このコロッセオに置いて不敗の――――」

 

「貴様はコロッセオの戦いに負けたわけではない。むしろ、この場における戦いだけで言えば、貴様は我に圧勝していた。真に恐ろしきはその膂力と圧倒的な武威、時代が違えば、立場が違えば、貴様は己の望むべき人生を得られたかもしれぬ」

 

 アヴェンジャーの矛がバーサーカーの首下へと突きつけられる。武器を失い、己の敗北が半ば確定した状況の中で、バーサーカーは放心してしまったような様子だった。

 

 生前に一度たりとも敗北したことがなかったコンモドゥスにとって、どうして自分が今、このような姿を晒しているのかもわからない。相手が一騎当千の英霊であったからか、あるいは狂いに狂った己が現実を直視することが出来ていなかったからなのか、あるいは、あるいは理由を求め、答えを願ってもその答えを提示してくれる相手は何処にもいない。

 

 そう、何処にもいない筈であった。

 

「我が貴様に勝っていたことは唯一つ、私は国を愛し、民を愛し、王であることを己に課し続けた。我が宝具は己の生を終えた後にも我が国家、民たちを守り続けるための願いによって生まれた宝具、我らは復讐に生きるも、ただ己の為だけに生きたわけではない。

 貴様と我らを違えた物があるとすれば、それは背負うものがあったかどうかだ。それが最後に互いの宝具の命運を分けた」

 

「我は、1人であった。誰も理解できず、誰にも理解されず、我が理想だけを追い求めた。その理想が崩れれば、我がヘラクレスでないのだとすれば、敗北は、道理であった、か」

 

「眠れ、ローマ皇帝よ。もしも再び現界するときがあれば、その時は貴様が目を逸らしてきた世界の姿を、その眼でもう一度見てみるといい」

 

 言葉と同時に戟がバーサーカーの首を飛ばし、その身体が黄金のエーテルに包まれ、同時にアヴェンジャーとバーサーカーの立つコロッセオが崩壊を始めていく。

 

 バーサーカーの消滅に合わせて、コロッセオもまた崩壊の時を迎えたのであろう。崩れゆく絢爛の闘技場は、そのままコンモドゥスと言う泡沫の皇帝の末路を象徴しているかのようであった。どこまでも我欲に塗れて、どこまでも己の妄執の為に闘い続けた。

 

 それが正しかったのか、間違っていたのか、それを同じ時代を生きていたわけではない三人の口から語ることはできない。

 

『強かったな』

 

「これが、あと6体、中々に骨の折れる戦だ。だが、不思議と……悪くはないと言う思いもある。争い続けてきた身であればこそ、強者との戦いに昂りを覚える己もまたいるのだろう」

 

『君たちのような戦闘狂の考えは僕には理解が出来ないな』

 

 黄金のエーテルが完全に消滅をしたその時には、アヴェンジャーたちの姿はセレニウム・シルバの森の中へと戻ってきていた。

 

 それを以て、サーヴァント同士における闘いはレイジ側に軍配が上がったことになる。あとは、マスター同士の戦い、レイジが復讐を果たすことができるのかどうか、総てはそこにかかっていた。

 

 だが、ことさらティムールはそれを疑問に思うことや不安に思うことはなかった。マスターとサーヴァントの魔力のパスそのものは未だに繋がっている。それはそのまま、アヴェンジャーたちが不在の状況の中でも、レイジが未だに戦う事が出来ていることの何よりの証拠であるのだから。

 

「っっ、があああああああ」

 

 振るわれる蛇腹剣は、縦横無尽に、立体的に、ヴィンセントの身体のどこであろうとも喰らいつくとばかりにその牙を七星の魔力によって繋ぎ止めて襲い掛かる。

 

「しゃらくせぇ、舐めやがって、ガキがっ!」

 

「そのガキに、以前は足蹴にしていた奴に追い詰められているのはどちらなのか、いい加減にその認識を改めたらどうだよ。あんたは、あの日に舐めていたガキにここで殺されるんだ!」

 

 極限の集中状態、身体の中に宿っている七星の血、七星の意思を己の復讐心と言う確固たる決意を以て抑えつけるレイジの攻撃はチクリ、チクリとヴィンセントの身体を削り、その削った先から、ヴィンセントの身体に流れる七星の血が減衰していく。

 

 まさしく毒だ、リーチも位置も関係なく、何処までも追い詰めていく、ただそこに存在するだけで七星を汚染するまさしく毒に相応しき所業、七星を殺す事だけに特化した魔術が、その試金石とばかりにヴィンセントの喉元へ食らいつかんと唸りを上げ続けているのだ。

 

 対して、ヴィンセントは間違いなく追い詰められていた。彼の魔術は言うまでもなく七星の血と魔術を自身の身体能力に付与する形で、相手を奇襲し破滅へと追い込むもの。言わば、七星の血と魔術が十全に発揮されることを前提とした戦いが出来なければ、その切り札を活用することはできない。

 

 他の七星の仕手たちであれば、自分たちの本来持ち得る力を使って、この状況を脱却する方法を選ぶことが出来たであろう。しかし、ヴィンセントは元々が戦闘専門ではない。

 

 彼の本分は謀略、あるいは裏社会での駆け引きが主であり、ステッラファミリーも荒事の専門は他にいる。七星の血を受け継ぎながら、七星の本分とはかけ離れた世界の中で生きて来たからこそ、此度の聖杯戦争でお一定以上の必要性を求められた。その在りようをヴィンセントは良しとして受け入れていた。

 

 サーヴァントとて、戦闘による勝利を求めていない自分にとってはあくまでも護衛程度、最悪の場合は使い捨ての駒として使い潰してしまえばいいと言うその程度の発想でしかなかった。

 

「………おい、ちょっと待て。バーサーカー、お前……」

 

 だが、今やそれらの選択こそが、何よりもヴィンセントを追い詰めている。

 

 直接的な一対一の戦闘に持ち込まれたことによって、ヴィンセントの持ち味を殺され、七星の魔術師として歪ではあれど覚醒を果たしたレイジに追い詰められ、虎の子であるサーヴァントは己の戦いを優先し、あまつさえ、マスターとの連携を完全に切ったことで敗北を喫した。それを遅まきに理解したヴィンセントは、己が今度こそ本当の意味で追い詰められたことを理解したのだ。

 

 心の中のどこかで、捨て駒程度にしか考えていなかったサーヴァントの力を頼ると言う選択肢があったことを今更ながらに痛感させられる。

 

「アヴェンジャー、よくやってくれた。お前たちの戦いを見ることが出来なかったのは残念だったが、お前たちに出来て、俺に出来ない筈がない。追い詰めたぞ、ヴィンセント・ステッラ。やはりお前はここで死ね!!」

 

「死ね、だとッ。軽々しく言うんじゃねぇよ、ガキが。テメェに人様の生き死にをどうにかするだけの覚悟があるのか、何人も殺してきた俺だからわかる。

 今のお前は立派な被害者さ、嘆いて怒りをぶつけていれば、それに共感してくれる誰かがお前を慰めてくれるだろうぜ。だが、加害者になれば別だ。人を殺せば地獄行きだ。一生それを背負っていく、死んだ後にだって残っていく。それをテメェは背負えるのか?」

 

 言葉を言い終えるよりも早くヴィンセントが懐から取り出した拳銃を放ち、レイジは蛇腹剣の状態を解除し、大剣へと戻った自分の武器でそれを切り払う。

 

「ああ、わかっているよ。復讐が人道に反することも、こんなことをしても俺が幸福になれないだろうことも、だけどな、それで奪われた俺は総てを諦めなければいけないなんて理屈は許せないんだよ。そんな地獄の先に咲く花を見つけてやらなければ、立ち上がった意味がない」

 

「そんなものはねぇさ、地獄の先には地獄しかねぇ」

 

「ああ、だから―――まずはお前が地獄に行け。何人も殺してきたんだろう、その報いを受ける時が来たんだよ!! 俺はお前を踏み越えて、その先を探していく!!」

 

 三度、仕込杖と大剣が激突する。破竹の勢いをそのままに、身体の中に流れ続けている七星の血がレイジに力を与え、ヴィンセントの仕込杖に軋みが奔り始めていく。

 

 レイジによって与えられてきた無数の傷、七星の魔力を無力化するための力が、遂に元々の戦力では決して覆ることがなかったであろう2人の戦力差を逆転させるところにまで至ろうとしていた。

 

「最後に一つだけ教えろ。何故、俺たちの村を襲った。誰がお前に村を襲うように命令した。あの時にお前は誰かに命令されたような素振りを見せていた! 言え、俺達の平穏を、俺達の幸福を奪えと命じたのは何処の誰だ!!」

 

「それを教えたら、お前はどうするつもりだい?」

 

「決まっている。実行犯を殺せば、次は首謀者にケジメを取らせるのが筋だろう。俺のような人間をこれ以上出さないために、俺の無念に終わりを与えるために、奪われた多くの命の弔いのために、お前たちは全員残らず殺し尽くすと決めているんだから」

 

「はッ――――、全員と来たか、笑わせてくれるぜ、俺にだって、圧勝できないお前が、七星を、我らが血族を全て皆殺しにすると!」

 

「出来ると思っているから、此処に来た!!」

 

「――――――人体実験のためだ!!」

 

 ヴィンセントは口角を釣り上げる。この戦いの結末がどのように終わろうとも、爪痕を残すことができるように、レイジ・オブ・ダストの身に怒った悲劇の根幹を、当事者としてはっきりと口にしていく。

 

「お前の身体に流れている後天的な七星の血、それは俺達が聖杯戦争に勝利を手にした暁には、再び覇道を極めるための重要戦力として見越されていたものだ。

 とはいえ、後天的に力を与えるのだから、俺たち七星の血族では実験が出来ない。俺のファミリーや他の関係者を使うなんて言語道断だろ。成功するのかどうかも分からないような実験に身内を巻き込むなんて間違っている。使うのならば他人だろう。お前たちは都合がよかったんだ」

 

 つまるところ、失敗すれば犠牲が出るかもしれなかったから、名前も知れない、何処の誰ともわからないような相手を使えと命令されたから。

 

 だから、村を襲った。全滅させてしまえば、いい。生きている者も、死んでいる者も、瀕死の者も、生き返らせる者も、あらゆる全てが実験材料として使えるのだから。

 

「この後に待っている世界制覇を狙うのならば、より多くの血が流れる。人造七星はその流れる血を最小限にするためのものだ。連中は後天的に七星の力を与えられ、その確立した技術によって、幾度でも交換の利く使い捨ての駒となる。

 あるいは生き残りつづければ才能が花を開くかもしれない。どちらにしても、俺達の誰も懐が痛まないって訳だ。ほらな、地図のどこにあったかも覚えていないような連中の村一つが消えようとも、そうした方が効率的だろうが!」

 

 ドンッと叩き付けられた剣の衝撃に仕込杖の柄が曲がり、ヴィンセントの身体が後ろに投げ出され、受け身も取れずに地面に叩き付けられる。

 

「つまりお前は、何か特別な理由があるから、俺達を襲った訳でもなく、ただ単純にルーレットの出目で出たから俺達の村を襲った。その程度の理由でしかなかったと言うことか」

 

「げほっ、ごほっ、ああ、お前に対してはその通りだよ。別に殺そうが生かそうがどうでもよかった。ただ、面白そうだから生かしておいただけさ。他の連中だって同じだ。ただ、狙いやすかったからと言うだけ。何の因果もありゃしないよ」

 

 不思議と自分の中で失意のような感情が湧きあがることはなかった。レイジは思う。自分はヴィンセントに何と答えてほしかったのか。

 

 もしも、自分たちに襲われるだけの正当な理由があったならば、それを探す旅が出来ただろうか、あるいは、せめて、選んだ理由に納得が出来たのならば、腑に落ちることは出来たかもしれない。だが、同時に自分の中で湧き上がるこの感情に対して冷水を浴びせられるような気分に浸っていたかもしれない。

 

 だがら、もしかしたら、安堵を覚えているのかもしれない。自分が殺さなければならない相手が、自分の心の中に描いていた通りの救いようのないクソ野郎であることに。

 

 そして、これから出会うであろう、ヴィンセントに命令を行った自分たちにとっての真の仇もまた自分が討たなければならない悪であることを自覚する。

 

 殺すことに変わりはない、どんな理由があろうとも自分が受けた出来事を泣き寝入りで受け入れることなど出来ない。けれど、レイジとて人間だ、そこに同情する余地があるかどうかには十分な意味がある。

 

 だって、そうだろう。もしも、人間らしさを失うような生き方をしてしまったら、その先に待っているであろう幸福の花を見つけるための心を失ってしまうのだから。

 

「疾く、果てろォォォォォォォ!!」

 

「いいや、死ぬのはお前さ、レイジ・オブ・ダスト。人造七星、実に恐ろしい性能だ。だからこそ、お前は負ける!」

 

 何かの結晶の欠片のようなものがヴィンセントの腕の中で砕けた。砕けた瞬間にヴィンセントの周囲総てを取り囲むように黒い境界線のようなものが生まれ、レイジが放つ剣の一撃をヴィンセントの目の前で受け止めた影が生じた。

 

「プロトタイプのお前がそこまでの事が出来るんだ、人造七星のプロジェクトは成功したと言っていいだろう。だからこそ、数を揃えたこっちが勝つ!」

 

 ガチャリと、まるで隊列を組んでいる様にして一瞬にしてその場に展開したのは生気を感じさせない、老若男女関係なく集った虚ろな表情の者たちだった。

 

 もっとも、彼らは虚ろな表情のままに、殺気だけは一か所に、目の前でヴィンセントへとトドメの一撃を放とうとしているレイジへと向けられている。

 

「まさか、こいつらも……」

 

「そうさ、お前と同じ、人造七星だ! 灰狼とカシムに大金はたいて、もしもの時のことを考慮しておいてよかったぜ。まさかこんな序盤で聖杯戦争から脱落させられるなんて考えてもいなかったが、ここを乗り切ればどうとでもなる。

 俺は卑怯だからな、此処で逃がせば、次は俺たち全員でお前を確実に潰してやる!」

 

 七星を喰らう七星、そんな者を放置しておけば、誰の喉元に噛みついてくるかもわからないのだ。確実に殺しておくことに異論を挟む者などいないだろう。

 

(悪いな灰狼、お前が望んでいるような盤面に物事は進まないが、ま、許してくれよ。俺だってこんな所で命を落としたくはないんだ……、まったく、とんだ貧乏くじを引かされたもんだ、お前の頼みなんて聞いちまった結果がこれだ)

 

 次々と人造七星たちが動きだし、レイジを抑え込むために攻撃を開始する。彼ら一人一人はレイジほどの完成度を誇っているわけではない、あくまでも量産型、膨大なデータを平均化して、どのような人間であろうとも後天的に七星の力を与えることができるようにした。

 

 イチカラ―城では、ロイ・エーデルフェルトを始めとした人外の領域に踏み込んでいる者たちを相手にしたことで後塵を拝することになったが、彼らだけでも並の人間たちを相手にすることは可能だ。

 

 兵士を手に入れるために最も苦慮するのは、育成を行う時間であると言われている。人造七星の技術はそうした面倒事の時間を大幅に短縮することによって、後の世界制覇を可能とするだけの戦力を手に入れることが出来た。

 

「邪魔を、するなァ!!」

「はは、無駄だ、無駄ァ! 小僧、テメェがいかに七星を無力化することができるとしても、数で勝っている相手への対処の仕方はまだまだだろう。今のお前じゃ、そいつらを早々に突破することはできないし、下手をすれば、そいつらに討たれちまうかもしれない。

 どちらにしても、俺とお前はここでお別れだ」

 

 レイジが人造七星に討たれなかったとしても、それはそれで、ヴィンセントにとっては構いはしない。自分が逃走するための時間を得ることが出来れば、他の七星たちと合流することができる。

 

 灰狼やカシムは全員で潰しにかかることを望まないかもしれないが、散華やヨハンであれば、交渉次第でこちら側に引き込むことができるだろう。

 

 七星が少なくとも三人いれば、レイジを潰すことは問題なく可能だとヴィンセントは踏んでいる。

 

「この場での戦いは俺の負けを認めてやる。あの時のガキが復讐心だけで随分と強くなったもんだよ、けどな、それでもお前は俺を殺せない。それがこの世界の現実、お前と俺の間に存在する厳然とした力量の差って奴だ」

 

 この世の中は総じて総合力だ、いかにレイジが七星を殺すことに特化したとしても、その殺すことができる状況を整えることが出来なければ十全な力を発揮することはできない。

 

 聖杯戦争と言う舞台の上では、ヴィンセントは敗北したかもしれないが、ヴィンセントはレイジが持ち得ないあらゆるものを持ち合わせている、財力も、繋がりも、知識も、悪知恵も、それらすべてがレイジには持ち得ない力だ。

 

 故に総合力という観点からレイジの負けは決定づけられた。奇襲とは成功するからこそ意味がある。悟られ、種が割れ、失敗をした奇襲はもはや何の意味もなさない愚策でしかなくなるのだから。

 

「まだだ、まだ、まだ終わっていない!!」

 

 咄嗟に蛇腹剣へと武器の形状を変えて、レイジは抗うための刃を放つが、人造七星たちはまさしく命などいらないとばかりに、捨て身の特攻を放っていく。蹴散らすことは可能だろう、時間を掛ければ勝るのはレイジの方だ、しかし、ヴィンセントを追い詰めるための時間が足りない。

 

(アヴェンジャーたちにヴィンセントを討たせる……? いや、ダメだ。これは俺の復讐だ、俺がヴィセントを討たなければ終われない。だから、まだだ、まだ終われない! ここでアイツを逃がしてしまったら、俺は―――)

 

『悔しいか、兄ちゃん?』

 

 ――ああ、そうだ、悔しかったに決まっている。あの時の無力を、あの時の絶望を、もう一度ここで味わうことなどどうして許せる。

 

 必ず討つんだ。あの日で止まってしまった俺の時間をもう一度前に動かすために、吐き気を催すような地獄の中でもがき続けてきたこれまでの時間に報いるために、

 俺は――――勝ち取らなければならない、何もかもを忘れた無欲なバカで終わることなんてできるはずもないんだから。

 

「だから、まだだ!! こいつらを突破して、ヴィンセントに刃を届かせる力をッ!!」

 

「話を全て理解できたわけじゃないけれど、利害が一致しているのなら、その力は私が与えてあげるよ――――君は向かう先だけを見てッ!!」

 

 耳に届いた言葉、まるで助けを呼ぶ声に、天が答えたのではないかと思うようなその一瞬に、レイジは不思議とその言葉に身を任せた。

 

 頼る者などいないこの地獄の中で、あらゆる面でヴィンセントに劣っている自分が喉元に刃を突きつけられる最後の機会を、逃すわけにはいかないから。

 

「七星流剣術―――玖の型『散桜』!!」

 

 森の果てより飛び込んできた影は、レイジの頭上をあっさりと乗り越えて、群がる人造七星の一団へと、まるで流星のごとき剣閃の嵐を放つ。

 

 かつては、七星流剣術の中でも最も再現を困難とさせた剣の型、けれど、詰んできた年月が今ではこれほどの数を相手にしてでも、アドバンテージを取れるだけの力へと昇華させてくれた。

 

 朔姫によって送られた刺客たる七星桜子の存在はこの場において完全なイレギュラーであり、ヴィンセントに対しての意趣返しともいえる様相であった。

 

 一対一の決闘に置いて、増援を呼びこんだヴィンセント、偶然ではありながらも、ヴィンセントを倒すための好機ととらえた桜子、それらどちらもが此処に至るまでに引き寄せてきた数多の積み重ねによって引き起こされた必然、或いはレイジ・オブ・ダストという少年の執念が呼び込んだ最後のピースであったのかもしれない。

 

 人造七星たちへと叩き付けられたのは、桜子の魔術によって編み上げられた剣閃、相手の魔術を無力化し、例え、魔術による防壁を生み出したとしてもその上から一線の下に斬り伏せるソレが、レイジの足止めのために用意された人造七星たちを一撃の下に仕留める。

 

 レイジが対抗しようとして、すぐさま対応できなかった相手を一撃で仕留めたことからもその力量は隔絶としている。

 

 故にレイジは人造七星の追撃を一切考慮する必要はなく、ただ目の前の切り伏せるべき相手にだけ意識を向ければよかった。

 

 もしも、もしもの話しであるが……、ヴィンセントがこの時に、逃走を選択したのではなく、レイジを自身の残った戦闘力によって倒すことを選択していれば、桜子が間に合うよりも早くレイジを倒すことを可能としていたかもしれない。

 

 あくまでも可能性の話しであり、結果が覆るわけではない。もはや、レイジとヴィンセントの間に隔てる何かは存在しないのだから。

 

「ヴィンセントォォォォォォォォ!!」

 

「ちくしょうが、キャスターの野郎、わかっていただろうが。いいや、違うな。ああ、よく分かったぜ、灰狼、お前の目的が。気を付けろだなんて言いやがって、利用しているのはお互い様って事だったわけだ!」

 

 ヴィンセントはこの局面になって疑念を確信へと変えた。何のことはない、最初から自分もまた彼らにとっての捨て駒として使われただけだと言うこと。灰狼が、アベルが此度の聖杯戦争に参戦すると口にした時から、彼はヴィンセントの結末の一つに予想がついていたのだろう。

 

 ああ、そうだ、当たり前のことだ、彼の素性を知っている灰狼からすれば、ヴィンセントが真っ先に狙われるであろうことはわかりきっている。

 

 ヴィンセントが勝てばこれまで通りの聖杯戦争を、レイジが勝てば、彼がアベルの襲名者として十分な力を発揮するであろうことを。

 

 どちらに転がっても灰狼やカシムにとっては利になる展開であった以上、己の運命は決まったに等しい。いずれ来たるであろう凶行に対する報い、死神の足音がついにヴィンセントの背中を捉えた。

 

「これが、お前を喰らう、お前たちを喰らう、星屑の怒りだぁぁぁぁ!!」

「ぎぃっ、があああああああああああああああああ!!」

 

 レイジより逃げることは無理と判断したヴィンセントは反転し、レイジを潰さんと仕込杖を放つが、レイジは最後にヴィンセントが手を出して来ることを予期していたのか、仕込杖へと大剣を叩きつけ、遂に柄の部分から真っ二つに破壊され、剣がヴィンセントの肩口から腹部までを切り裂き、鮮血が、静謐なるセレニウム・シルバの森の中に迸る。

 

「ぎひひ、やるじゃねぇか、小僧………、だが、終わらねぇ、ただじゃ、終われないのさ」

 

 肩から身体を切り裂く刃は、七星殺しの魔術が付与され、ヴィンセントの身体の中に流れている七星の血を源泉とした魔術回路を根こそぎ破壊していく。

 

再生も、ここからの逆転も決して許さないと言う絶対断罪の刃が、ヴィンセントへの不可逆な死への旅路を要求する。

 

「もはやお前に出来ることはない。武器は壊した、魔術は崩した。もう逃がさない。お前に出来ることは何もない」

 

「はは、そういうなよ。俺だって観念しているさ、死ぬときは死ぬもんだってことくらいは分かっているんだよ。だから、最後に、お前に呪いをくれてやる。俺を殺したお前が、決して足を止めることのないように、俺からお前に与える呪詛だ!」

 

 レイジと言う己の命を奪った男も、己を嵌めてこの結末へと導いた灰狼たちにもすべてに呪いよあれと、最後まで何かの主張を持つこともなく己の幸福と利益だけを追い求めてきた男、ヴィンセント・N・ステッラは、あの日に起こった総ての真実を知る者の1人として、目の前の少年に最後の呪いを置いていく。

 

「命乞いなど知ったことか。お前が何を言おうとも、お前の命は此処で終わりだ」

 

「そうつれないことを言うんじゃねぇよ。さっき、言っただろう。誰がお前をこんな地獄に叩き落としたのかと。ああ、そうだ、俺だけじゃない。この聖杯戦争に参加しているマスターの中には、お前を地獄へと引きずりおろした連中がまだいる」

 

「何―――?」

 

「冥土の土産だ、持って行けよ。

 お前の人生を、お前の運命を、地獄に叩き落とした七星が、あと五人!!

 このままお前が聖杯戦争を戦い続けていけば、間違いなく敵手として出会うはずさ。勿論、実行したのは俺だ。だが、俺は只、引き金を引いただけだ。お前の運命を本当の意味で壊した奴が誰なのか、精々、残る五人に問いだして、復讐を果たしてみろよ」

 

「あと、五人、俺達の、故郷を、人生を、ターニャを、総てを奪った連中が、あと五人……、ああ、初めてお前に感謝するよ、ヴィンセント。地獄で先に待っていろ。残る五人も必ずその罪を償わせて、同じ地獄に送ってやる」

 

 ヴィンセントはレイジの口にした言葉に口角を釣り上げ、己の言葉がこれより先へと向かう彼にとっての最悪の呪いとして機能することを願う。

 

「はッ、クソッタレな人生だった。ああ、最高だ、七星の残滓なんかじゃない、俺は最後まで俺で在りつづけたぞ!!」

 

 末期の言葉がセレニウム・シルバの空へと響くと同時に、ヴィンセントの首が胴体から離れ、役目を終えた肉体が鮮血を迸らせながら、力なく地面へと崩れ落ちていく。

 

 その返り血を浴びながら、レイジは肩で息を吐きだし、己が果たさなければならない最初の復讐を果たしたことを実感する。

 

「はぁ……はぁ……はぁ、俺の、勝ちだ……! もうあの頃の無力な俺じゃない!」

 

 既にこと切れた相手に、そして何よりも自分に言い聞かせるように、レイジは声を吐きだした。これより先にまだまだ続くであろう地獄の道を己が進んでいけるように。

 

 残る五人も同じように地獄へと引きずりおろせる悪鬼で在りつづけられる事が出来るように。

 

「終わった、か」

「アヴェンジャー……!」

 

「お前の復讐、この眼で見届けた。脚を踏み出した以上、最後までやり遂げろ。改めて我らはお前と共にこれより先も歩み続けよう」

 

 己の1人でヴィンセントを倒したレイジをアヴェンジャーたちは、真にマスターとして認め、これより先のレイジが歩んでいく復讐の旅路へと足を進めていくことを改めて誓った。

 

「だが、まだ終わりじゃない……」

 

 足音が聞こえる、先ほど己を救う一撃となった相手、しかし、その相手が放つ魔力の意味をレイジは理解している。自分の中に宿っているモノと全く同じ、そして自分が殺し尽くさなければならない相手と同じ魔力を持っている相手、振りむけば、そこには彼女がいた。

 

「お前も――――七星か」

「そういう君も、七星の魔力を持っているね。事情を聞かせてもらえるかな?」

 

 セレニウム・シルバでの聖杯戦争は終わりを迎えた。しかし、いまだこの森の中で行われる闘いの総てに幕が引かれたわけではない。

 

To be continued

 

第3話「Rage of Dust」――了

 

 次話予告

「関係ない、七星である限り、お前は俺の敵だ。俺がお前に欲しているのは一つだけだ、お前も俺の村を焼き、大切な人たちを奪った者の1人であるかと言うだけだ」

 

「悪魔に友を売った僕が、君の仲間たちを守るためにこの魔弾を使ったんだ、これほど誇らしいことはない。どこまでも自己満足であったとしても、それで何かが救われるわけではなかったとしても、僕はこの結末に満足している」

 

「JKから見たアラサーは正真正銘のババアや、ババア。どんだけひらひらのスカート履いて若々しく見せておっても、うちみたいなギャルの肌年齢には勝負にもならんよ~」

 

「素直じゃないねぇ、少年。子供はもっと素直でいた方がいいもんだよ」

 

「結果がどうであれ、私は誇らしいの。彼が並み居るトロイアの軍勢の中で、私との決闘を誰よりも困難であったと口にしてくれたことが。私は彼にとっての並み居る将の中の1人ではなかったのだと、証明してくれたから」

 

「俺は七星を倒したい。あと五人、奴らの中に俺が倒さなければならない奴がいる。それを果たすためなら、俺はどんなものでも使ってやるつもりだ」

 

「お前ら、全員使いつぶしたるからな、覚悟せぇよ!!」

 

「いくら綺麗に花を添えても、地獄の中にある限り、人は簡単にその花を吹き飛ばす。今のセプテムがそうだ、この国は狂っている。だから、花を咲かせる方法を見つけなくちゃいけないんだ」

 

「それでも、花を咲かせるための想いを忘れちゃいけないんだ。地獄の中でも花をさkセル事が出来るんだってそう思う気持ちを忘れたら、人は悪魔と何も変わらなくなってしまうから」

 

第4話「Reason」

 




次回の更新はお休みさせていただきます。

再開は来週の水曜日か土曜日となりますので、ご承知お願いします!

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