Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤―― 作:ソクリ
――セプテム・『セレニウム・シルバ』・イチカラー城――
昼を過ぎるころには、イチカラ―城の中で傷を癒し、休息を得ていた朔姫たちは自分たちが今後、何をするべきかを考えていく段階へと入って来たと言えよう。
タズミ・イチカラーによって招集された者たちとして、七星側に大きな敗北を喫したことに間違いはない。少なくとも、タズミ側としてこれ以上聖杯戦争の継続をしていくことは不可能であろうと言うのは薄々ではあるが誰もが分かっていた。
では、七星側への報復の為に闘うのか、と言うのも残ったメンバーとしては別の話しだ。何せ、タズミがどのように考えていたとしても、聖杯戦争の最中として彼らは戦った。セプテムの兵士、人造七星との戦いも、その枝場の一つに過ぎなかったと言えばそれまでの話しとなってしまう。
だからこそ、朔姫たちがこの先に聖杯戦争を継続していく、あるいは七星と戦っていく中で、どのようにアプローチをしていくのかが重要になる。
極端な話をしてしまえば、この場で集まった面々が解散し、各々が自分のやり方で七星側の陣営と戦っていき、勝利を目指すと言う方向で進めていくのでも何ら問題はないと言う話にもなってしまうのだ。
勿論、それが最善ではないということは誰もが分かっている話である。しかし、異なる生き方、異なる価値観の人間たちが纏まるにはある種の大義がなければならない。それが正しいか間違っているのかは別としても、七星と対峙するに当たって、どのような立場で臨んでいくのか、これが決まらないとなると、これから先には立ち行かない。
下手をすれば、その纏まらない信頼関係を七星側に利用され、最悪の結果へと繋がりかねないのだ。まさしく、昨日のタズミがそれであり、同じ轍を二度も踏むわけにはいかない。
そうした状況で、もう一つ解決をしなければならない問題が持ち上がっていた。言うまでもないことではあるが、目覚めた少年、レイジ・オブ・ダストへの処遇である。
「随分と豪勢だな、お前たちでこの城にいる奴らは全員か?」
「そうだね、私らが記憶している限りはこれで全部で間違いないはずだよ」
レイジの吐き捨てるような言葉に対してルシアが反応する。セレニウム・シルバの森の中で、タズミに集められたマスターたちとは全く関係なく、ヴィンセントとバーサーカーを討ち果たす役目を果たした少年、誰の想定にもなかったエクストラクラスであるアヴェンジャーを従えるレイジをどのように扱うのかは、朔姫たちにとっても大きな問題であった。
レイジが従順な態度、あるいは利己的に彼らを利用しようとする人間であったのならば、話しはよりスムーズであったかもしれない。ギブ&テイクの関係が世の中では最も話が分かりやすいのだから。
しかし、レイジは他人のことを考慮しない。ルシアとアークが聞き及んだ中でも彼は七星に復讐をすると言うことしか自分には目的がないと告げていた。
この場に全員が集まったのはレイジの真贋を判断するためであり、同時に、間違いなく火種になるであろうレイジと桜子、両者の扱いについてを決定するためでもあった。
「そして、お前があの森の中で俺に接触をしてきた七星だな」
「そう、七星桜子、日本人だよ。今は遠坂桜子だけどね」
「なんでもいい、お前が七星であることが問題だ.七星は須らく俺の敵だ」
桜子が何かをしたからなどとそうした理由ではない。むしろ、レイジからすれば理屈ではないのだ。
彼にとってはこの世界の七星のすべてが憎い。ヴィンセントが誰に連なっていたのかはわからないが、少なくとも、七星たちを根絶やしにすれば、レイジの復讐は完遂される。
かつてに暗殺一族として名を馳せ、今もまたセプテムと言う国を使って、世界に混乱を齎そうとしている者たちに肩入れをする理由などない。
総て滅びてしまえばそれで終わりだ、そう思わせるだけの理由は当然にある。
「レイジ、我が主よ。しかし、彼女はお前の危機を救った。そして彼らが七星と対峙していることも間違いない。彼女と争うことは余計な徒労になりかねない」
「だから、諦めろと?」
「そうではない、誰と戦うべきか。自分が何処に力を注ぐべきなのかを良く考えろと言っている。世界全てを敵に回す、口で言うのは簡単だが、実践するとなれば、それは夢物語でしかない。有史以来、世界全てを手中に収めた者などいないのだから」
『かはは、世界全てに手を伸ばそうとした男が言うと説得力が違ってくるな』
『そうだね、いかなる偉人であろうとも総てを手中に収めることはできない。それほどまでに世界の抑止力と言うものは強い。曇った視界は自分の願いを叶えることすらも闇に閉ざしてしまう』
それが今のお前であるとアヴェンジャーはレイジに告げる。憎しみのままに敵意を広げることにとって結果として、レイジ自身の決意を踏みにじることになるのではないかと。
「………俺は、俺の故郷を七星たちに蹂躙された。村を燃やした張本人であるヴィンセントは言った。自分以外にあと五人、この聖杯戦争の中で、俺が復讐をするべき相手がいると。七星桜子、あんたはそのうちの1人か?」
「はい、いいえで答えるのならば限りなくいいえで間違いないと思うよ。私は七星の傍流の人間で、大陸側の七星と関わったことはこれまでに一度もない。今回の聖杯戦争も神祇省側として参加しているだけで、あちら側の七星と関係を持ったことは一度もない。
無意識に、あるいは間接的にレイジ君の故郷に関わっていると言うことがない限りは、関係はないってはっきりと言えると思うよ」
「………そうか」
桜子がはっきりと否定の言葉を口にすると、レイジは先ほどまで浮かべていた明確な敵意のようなものをとりあえずは引っ込める。レイジとて、心のどこかでは実際の所は桜子が関わっているわけではないと言うことに理解は及んでいるのだ。
しかし、怒りや憎悪と言ったものがその正常な判断を鈍らせてしまう。アヴェンジャーの言葉がなかったとしたら、もっとこの僅かな時間で得ることが出来た理解へと至るまでに時間がかかっていたのは間違いないだろう。
「要するに、レイジ言うたか。お前はヴィンセント以外の五人の七星にお礼参りするんが、目的ちゅうわけか?」
「お礼参り?」
「ぶっ殺し行くいう意味や!」
朔姫がお指を立てて首筋に引っ掛けて真横に動かす。それにレイジはコクリと頷く。
「七星のマスターたちを倒していけば、自ずとその五人が誰であるのかもわかるはずだ。連中が聖杯戦争としてサーヴァントを狙ってくるのならば是非もない。総て迎え撃てば、俺が倒さなければならない相手を見つけることもできるはずだ」
サーチ&デストロイ、レイジもアヴェンジャーを抱えている以上、聖杯戦争の参加者としての資格が与えられている。聖杯を獲得するために総てのサーヴァントを排する必要があるのならば、必ずレイジにも手を出して来ることは間違いない。
それを迎え撃てば、誰がレイジの仇であるのかが分かる可能性は高い、理屈としては何一つ間違っていない考え方であると言えよう、ただ一点、レイジが完全に見落としている点を除けば……であるが。
「アホか、お前、実はものすっごい、アホやろ」
「何だと……?」
呆れたような口調で朔姫はレイジに対して罵倒の言葉を口にする。その言葉にレイジは売り言葉に買い言葉とばかりに反応を浮かべ、視線の上で朔姫とレイジは対峙をする。
「あんな、そりゃ、お前を狙ってくる連中全部迎え撃つことができるんなら、そいつら全員ふんじばって拷問でも何でもすればええわ。でもな、連中だってサーヴァント持ち、挙句に七星としての魔術が使える奴らばっかりや。
楽な相手やない、ヴィンセント1人にてこずってるガキに全員楽に倒せる想うておるんなら、それこそ見込み違いもいい所や」
「それでもやるんだよ、奴らは俺から大切なモノを奪った。勝てないからって諦めろと言うのなら、奪われた者は何も手にすることなんてできなくなるだろう」
「ま、ガキの言いたいこともよぉわかるわ。身勝手に人のもん奪っといて、報復することも許されないなんてゆるせんいうんはわかるわ。けどな、勘違いすんなや、うちは別にお前が復讐しようがどうしようが勝手にせぇとおもっとる。
ただ、目的が一致するんなら、互いにできることもあるんやないかって言うとるんや」
レイジの復讐は1人で完遂することは恐らく不可能であろうと朔姫は考えている。ドライに、ただ戦力的な問題を考えるのであれば、残る6人をレイジだけで打倒するなど不可能に近い。
ヴィンセントは策士ではあったが、間違いなく七星の中では下位の戦力であったことは間違いない。それを相手にレイジ1人で勝ったことは評価できても、それより上にいる彼らを倒すことを考えれば、貴重な戦力であるレイジを使い潰すわけにはいかないと朔姫が考えることは決しておかしなことではない。
レイジを心配していると言うよりも、勝つためにレイジを抱き込む方が良いと考えたに過ぎないのだ。現在、朔姫たち側の戦力は明らかに少なくなっている。タズミ、ジャスティン、そして三体のサーヴァント、失った者たちに比べて七星で脱落させることが出来た相手が一陣営だけであることを考えれば、ここでレイジを抱き込むことには相応以上の意味がある。
「うちらは聖杯戦争に勝ちたい。ついでに、調子こいとる七星の連中に一泡吹かせたい。お前は、七星どもんなかにいる、自分の仇を討ち取りたい。別に利害が大きく外れておるわけでもないやろ、レイジ・オブ・ダスト、うちらに手を貸せ。そうなれば、うちらもお前の復讐に手を貸したる」
朔姫とレイジの視線が正面からぶつかり合う。利害の面で決してぶつかり合うことはないだろうと互いに分かっている。もしも、相容れないとすれば、レイジにとっては自分の獲物を彼らに奪われること、朔姫たちからすればレイジに付き合うことによって不用意な殺生に巻き込まれかねないと言うことである。
要するに、レイジをこのまま放逐しておくことは、このセプテムの人間たちに不用意な危害を加えることにもなりかねない。そうした意味では手元に置いておくことは後々に自分たちが対立するかもしれない火種を取り払うと言う意味でも、決して悪くはない。
朔姫はチラリと周囲へと視線を向ける。レイジと会話を挟む前に、既に全員に話は通してある。この場で誰かの意見が分かれるようなことになってしまえば、レイジとの話もまとまらなくなってしまう。
誰にとっても肯定的な意見ばかりだったわけではない。ルシアは明らかにレイジの復讐のための戦いに否定的ではあった。アークもそれが何かを生み出すわけではないと言う反応であったし、桜子とてよい顔をしていたわけではない。
そこにあるのは、レイジのこれからの道行きを案じる気持ちと自分たちが望んでもいない復讐の道に巻き込まれるかもしれないことだ。
「お前たちが俺の復讐に手を貸す理由が何処にある。半端な気持ちで手を出されても邪魔だけだ」
「せやなぁ、うちら、別にお前の両親でもなんでもあらへんし。お前のイエスマンにもならへんわ、ただ、うちらだってこのまま終わらせるわけにはいかへんわなってだけよ。
一杯喰わされたんやから、こっちだって一杯喰わせたる。まだ聖杯戦争に勝つことを諦めたわけでもない、あいつらに一泡吹かせたい。理由なんてさまざまや、ただ、戦う相手が同じゆうだけ」
レイジの復讐は朔姫からすればありふれた話だ。悲劇に見舞われたものであれば、誰もが多かれ少なかれ感じるものだ。多くは泣き寝入りをするしかないが、レイジは自分が望んだかどうかは別にしても力が与えられた。
(アヴェンジャーの話しを聞く限り、レイジ君は大陸側の七星に故郷を滅ぼされて、その時に力を与えられた。戦いに最初から慣れきっているわけじゃないから、昨日も苦戦を強いられた。彼と私たちには協力をするだけの理由はある)
桜子は、昨日に出会った時点ですでにレイジのことを放っておくわけにはいかないだろうと言う結論に至っていた。
何というか、昔の自分を思い出すのだ。向こう見ずに、自分の決めたことをやり遂げるために、周りの制止を振り切って突き進んでしまおうと言う姿は、まだ未熟だったころの自分を思い出させる。
最終的にそれで願いが叶うのであれば、何ら言うべきことはないだろうが、七星たちは一筋縄ではいかない。ヴィンセントが倒されて一夜明けても襲撃が来ないことも気がかりであった。
(もしかしたら、彼らはレイジ君がいることを分かったうえで放置しているのかもしれない。新しいサーヴァントと、自分の仲間たちを倒した正体不明の相手、そんな相手がいたら、先手で手を出してくるはずなのに、その素振りが全くない。私達とレイジ君、どちらを相手にしても負けないと言う自信があるのかもしれない……)
「レイジ、最終的な判断はお前に任せる。しかし、お前が自分の願いを果たしたいと思うのならば、貪欲に総てを使うべきだ。七星たちは決してお前が狙うために動かない標的ではない。噛みついてくる獲物を前にして、余裕を持てるほど、己が絶対的な強者であるわけではないことは、お前が一番よく理解しているはずだ」
「………わかっているさ」
昨日の一戦で自分が対峙する相手に対して、自分が今だ単独での実力は及んでいないであろうことは理解できている。これより先には、ヴィンセントよりもさらに七星として、強者たる者たちと戦うことになれば、レイジ個人の爆発力だけでは及ばない状況、レイジだけでは手が足りない状況は必ず生まれてくるだろう。
朔姫が口にしたように、レイジだけで全てが出来るわけではない以上、協力関係を持つことはむしろ、レイジ側から口にしなければならないことであるとさえいえる。
きっと、復讐と言うただそれだけを生きる糧としているレイジから手を伸ばすことはできない。ただ、伸ばしてきた相手の手を取ることはできるかもしれない。
「俺は七星を倒したい。あと五人、奴らの中に俺が倒さなければならない奴がいる。それを果たすためなら、俺はどんなものでも使ってやるつもりだ。
お前たちが聖杯戦争で何をしようとも構わない。ただ、俺の復讐の力添えになると言うのなら、お前たちと共に行くことも構わない」
「もっと素直に言えばええと思うんやけどな」
しかし、レイジが歩調を合わせることを認めた事もまた事実である。朔姫たちにとっては、思いもよらない新たなサーヴァントとマスターの助力を得ることができるようになったことに他ならない。
「ま、うちらとしても持ちつ持たれつやしな。力を貸す代わりにうちらが七星を倒すための戦力として見込む。団体行動せぇよ!」
「俺は自分の好きにやる」
「あぁ? おい、ガキぃ、言った傍から舐めた口利いてんやないぞ、村で共同作業ん時はみんなで力合わせぇ言われたんやないんか?」
朔姫がレイジのまったく協力する素振りがないとばかりの反応に苛立ちを浮かべて反応する。
しかし、レイジはどこ吹く風だ。あくまでも七星を倒すための協力関係、なれ合いを求めているわけでもなく、ただ最低限の力を借りることができればそれでいいとばかりの反応だった。
「はは、そう天邪鬼になるんじゃねぇよ、レイジ。要は付き合う上で最大効率を出そうって話じゃねぇか。お前がそっぽを向いているよりも俺らと歩調を合わせようとしてくれた方が、俺らとしても付き合いやすい。付き合い安けりゃ、自分が持てる以上の力を発揮できる、守るものがあるときの人間ってのは強いからな」
「俺には守るものなんて、もうなにも――――」
「なかったとしても、これから作っていくことはできるだろう。お前は、地獄のような今を超えて、未来に目を向けようとしているんだろう。だったら、必要なことじゃねぇか。人間は孤独では生き続けることなんてできないんだからな」
アークがレイジに近づき、肩をポンと叩く。その態度にレイジは鬱陶しそうに様子を浮かべるが、朔姫に言われた時ほど拒絶する様子を見せなかった。
(なーんだか、あいつに諭されると頷きたくなっちゃうところがあるんだよね、レイジにしたって、アークが心を開かせたような節もあったし。あいつ、実は天然の人間たらしだったりする?)
聖職者である自分よりもむしろ、人を諭すのがうまいんじゃないかと見えるアークの様子を見ていると、ルシアは自分の存在意義とは?とも思えて来てしまうのだが、そもそもアークはその所属からして謎に包まれており、中身にサーヴァントを宿しているとまで自分で言い始める謎人物だ。どこまでを本当のこととして口にしているのかも実際には怪しいのだ。
「それに、だ。俺たちのリーダー直々の言葉でもある。俺の命令を無視するのは個人の考え方として、構いやしないが、リーダーか言われた言葉を無視というわけにもいかんだろう。
それこそ、規律ってもんに逆らうコトにあるからな」
「リーダー? んな奴決まっておったんか?」
アークの言葉に朔姫が不思議そうな反応を浮かべる。リーダーなどと、いったい誰のことを口にしているのかとばかりの様子だったが、全員の視線が一気に朔姫へと集まっていく。
「いや、何不思議そうな顔してんの、今の、めっちゃ朔ちゃんのことを言っていたに決まってんじゃん、ウケる!」
キャスターが面白そうな様子を見たとばかりに、ぷっと思わず笑いがこみあげてしまう。それから、朔姫はようやく自分がアークにリーダー呼ばわりされたことを理解して、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
思わず、素っ頓狂極まりない声を上げてしまった。
「いや、ちょっと待てや。なんでいきなりうちがリーダーとかそういう話になっとんねん」
「でも、別に悪い話じゃないんじゃない。たぶんだけどさ、ここでお姫様がリーダーであることに反論する人っていないと思うけど?」
ルシアが周りを見渡しながら声を上げる。続いて朔姫も周囲を見渡せば、誰もが納得したように首を縦に振っていた。
「私は朔ちゃんの護衛だから、朔ちゃんの指示に従うよ」
「貴女には、消滅する寸前で命を救われました。桜子のサーヴァントであるからというわけではありませんが、私も異論はありません」
「俺は誰がリーダーでも構わない。指示があるのならば従うし、好きにやれと言われればそうさせてもらう。俺もセイバーもそうした遊撃的な戦い方の方が似合っているからな」
桜子たちに呼応するようにして、ロイも朔姫がリーダーであるということに頷く。セイバー二人は、よいとも悪いとも言わない。最初から興味がないという様子だった。
言うまでもなく、ルシアとアークは何も言うことはない。彼ら二人はタズミと組んでいるときから朔姫のことを見ている。
このさまざまなメンバーたちを率いるリーダーが必要であることはわかっていて、そのためのリーダーとして辣腕をふるうことができるのは、生まれた時から人の上に立つことを定められて生きてきた朔姫だけであろうと思ったのだ。
「好きにしろ、俺は俺のできることをするだけだ」
さらにエドワードも頷く。レイジを除いたこの場の全員が改めて朔姫がこれより先、七星と戦っていく中で、彼らを率いるリーダーとしてふさわしいのだと認めた。
別に朔姫がタズミのように上に立つものであることを求めているわけではない。ただ、彼女が昨日の戦いで判断し、決断した行動はどれも結果として的を射ていた。
昨日の戦いで全滅の憂き目にあわなかった理由の一つは、間違いなく朔姫の行動によるものであることは間違いない。
立場だとか本人のあり方とかそうしたものではなく、実際の貢献度という意味で全員が朔姫を評価すればこその同意であった。
八代朔姫にであれば、これより始まる七星たちとの戦いで、命を預けることができると踏んでいればこそ、誰もがそこに不満を抱かなかったのだ。
「そういうわけだ、リーダー。俺たちとしては八代朔姫に今後の方向性を委ねたい。もちろん、お前さんにすべてを委ねて責任を押し付けるなんて卑怯な真似をするつもりはないさ。だが、誰かが背負わなければならないのなら、あんたが一番相応しいと俺たちの誰もが認めた。どうだい、お姫よ」
「――――ったく、ほんまにしゃーないわな。うちの子分になるっつーことは、こき使われても文句言えないってことやからな」
先ほどまで理解できない、何を馬鹿なという態度を浮かべていた朔姫はため息一つをこぼすと、自分の中での気持ちを固めた様子だった。
「お前ら、全員使いつぶしたるからな、覚悟せぇよ!!」
徹底的に自分を強く見せるための喝破の声に全員が反論を口にすることなく頷く。浮かぶのが笑みであったり苦笑いであったりかはここでは関係がない。全員がそれを受けいれていたことにこそ意味があるのだ。
「俺にはどうでもいいことだな」
「お前なぁ、クソガキ。そこは一致団結しとる空気出しとけや」
「そんなものがあってもなくても、俺がやるべきことに変わりはない。奴らを滅ぼす。そのために俺はすべてを振り絞る。それだけが分かっていれば十分だ」
レイジ・オブ・ダストにとって、総ては七星を倒し、その先にある幸福を掴むことだ。その過程で何があろうとも、そのゴール地点を見つけることだけに腐心をしておけばいい。
もしも、此処にいる他の者たちの命の危機が訪れたとしても、レイジは止まらない。レイジだけは己の目的の為に邁進し続ける。それほどの覚悟がなければ、前人未到の七星崩しを果たすことはできない。
「それで、リーダー、これからはどうするつもりだ」
「ここに長居しておってもええことは何一つない。場所も知れておるし、隠し玉のレイジのことを知られても厄介なだけや。明朝までに全員、出発の準備を。
そこから、うちらは―――王都『ルプス・コローナ』を目指す!」
「それって、タズミがやろうとしていた王都を奇襲するって事?」
「タズミの奴は戦略として大馬鹿やったけど、やろうとしておったこと自体はそこまで的外れだったわけでもない。連中の拠点が王都であることは間違いない。だったら、散発的に寄り道をするよりも一直線に奴らの喉元に喰らいつく。
王都の中なら潜伏する場所もいくらでもあるからな、派手な戦闘をすることができない領域の中で、奴らを噛み潰していく。これがうちの考えるプランや!」
「そう簡単に上手くいくものかね? 連中だって、ここがもぬけの殻になれば、私らが外に出ることは予想がつく。そうしたら、王都に向かっていると分かって、兵を差しだしてくるくらいのことはしてくるんじゃない?」
「ああ、それならそれでええよ。そこで倒せる奴は斃していく。必要なんは目標とゴール地点や。それを設定しなくちゃ、士気を保ち続けることが出来ん。
うちらは共通の信念があるわけでもなく、タズミのような大義があるわけでもない。団結するための心持ちを保ち続けなければいかん。それには全員が共有する目指す先が必要だとうちは思う。王都を目指すことはそういう意味でもやるべきやとおもっとる」
「……いいんじゃないか、確かに、ここに集まった面々はあくまでも聖杯戦争のために集まっている。それぞれが共有した何かを持ち合わせていないのなら、それを無理やりにでも繋ぎ合わせる何かを作る意味はあると思うよ」
ロイの言葉に桜子も頷きかえす。反論がないことを肯定の意味だと捉え、朔姫は改めて声を張る。これからこの面々を指揮し、命を預かる者としてそれを示すように
「うっしゃ、なら、お前ら、覚悟決めろ!! こんだけ虚仮にされたんや、何があろうとこの聖杯戦争、うちらの側が勝つ!! これから王都にカチこんで、七星共に一泡吹かせたろうやないか!!」
タズミと言うこちら側の陣営を取りまとめる存在がいなくなり、陣営として崩壊の可能性すらもあった。そこをレイジと言う新たな要素が繋ぎ止め、朔姫を中心とする形で新生を果たした。まだまだ終わらない。終わることはない。最初の戦いで躓いたとしても、まだ立ち上がれる足がある限り、立ち止まるなんてことはない。
・・・
レイジたちが、改めてこのセレニウム・シルバで自分たちの進むべき方針を決めたように、七星側も少しずつ、新たな方向に向かって動き出そうとしている。
セレニウム・シルバでの戦いが終わった以上、近衛兵士たちを引き連れているリゼやヨハンと言った王国軍は王都へと帰還をしなければならない。
彼女たちよりも序列が上の三人については、この聖杯戦争の為にセプテムへと訪れた者たちであるため、軍というものに左右されないが、リゼとヨハンに付いてはどうしても団体的な行動が必要となり、王都へと戻るための出発の時間が近づいていた。
「まさか、本当に行くつもりなのか? 別にここでそれをしたところで何か変わるわけでもないのに」
「変わるわけでもないからこそやりたいんだよ。ヴィンセントおじ様は……決して良い人ではなかった。私が知らないところで悪事を働いていたことは無数にあったと思うし、私の純粋な味方であった人、と言うわけではないと思うよ。
うん、でもね、それでも昔からずっと私のことを可愛がってくれていた人ではあったんだよ、皇女として一人の人間だけを特別扱いするのは間違っていると分かっているけど、それでも、弔いたいと思うんだよ」
セレニウム・シルバは国境に位置する領地であることから、これまでにも幾度か他国からの侵略を受けた経歴があり、幾度となく戦場と化した場所である。
その外敵を退けるために戦い、散って行った者たちは無数におり、その慰霊碑たるモニュメントが領地端に設置されている。
ヴィンセントの死が告げられてから1日、その報を聞いた時から気落ちを隠せない様子でいたリゼは、翌日になってその慰霊碑へと向かう寄り道をしたいとヨハンに告げた。
軍総てを動かすようなことは当然に出来ないが、リゼとランサーだけであれば少人数の移動が可能となる。あとは、リゼがいないと言うことをごまかすためにヨハンの協力が必要不可欠になると言うだけだった。
「それにしたって、一国の皇女が護衛もなしに向かう所ではないと言っても、ランサーがいるからと言って君は行くんだろうな。まったく、君は一度言い出すと本当に止まらないんだよな」
「ごめんね、こんなことを頼めるのはヨハン君以外にいないからさ」
「しかも、そうやって人の弱みにまでつけ込んでくる」
「皇女様を一日好きに連れまわしていい権利を作ってあげるよ」
「それはあろうがなかろうがあまり変わらないと思うんだが……、ああもういい。分かったよ、必ず無事に戻って来いよ。そうでないと、僕だってさすがに言い訳できなくなる」
「うん、ありがとう、本当に感謝しているよ、ヨハン君」
感謝の気持ちは心から、リーゼリット・N・エトワールにとって、王宮の中で心から自分の本音を口にすることができるのは、たったひとり、ヨハンだけなのだから。
セプテムと言う国自体が、灰狼の悲願を叶えるために生み出された国、いずれはハーンの覇道を叶えるために生み出された国であり、誰もがこの聖杯戦争の行く末を彼らに委ねようとしている。
この国に生きる者として、この国の歩んできた軌跡を知る者として、セプテムとしての歩みを進み続けるべきだと思うリゼは、決して王宮の中で多くの味方を持っているわけではない。王宮街では国民との融和を図るリゼを慕う国民も多いが、同時にスラム鎮圧における虐殺によって不興を買い。決して歓迎されているわけではないと言う状況。
皇女と言う肩書はリゼと言う人間の心持ちよりも遥かに看板を優先してしまう。誰もが思っている以上に、ヨハン自身が想定している以上に、ヴィンセントの喪失にリゼは心を痛めているのだろう。
誰だって親しい人を失うことになれば悲しいのだ。例え、それが戦争の中であり、リゼが奪う側に立っているモノであったとしても。
「行こうか、ランサー」
「ええ、主の身は私が必ず守って見せましょう」
ランサーが己の一部の如く扱っている馬の背に乗り、リゼとランサーが慰霊碑の下へと進んでいく。それが彼女の心にケジメをつけることができるのであれば、ヨハンはそれを拒否することはない。もう自分で決めていて、ヨハンにその後押しをしてもらいたいだけだったのだろうから。
「ただ、やっぱり君は七星としても、戦うにしても優しすぎるよ。スラムで戦っていた頃の方がリゼはきっと七星として強かった」
それが正しいわけではないとヨハンも分かっている。今のリゼの方が絶対的に正しいと分かったうえで、その優しさがこの聖杯戦争の中で、リゼの命運に暗い影を落とすことがないかどうか、それだけが気がかりだった。