Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

23 / 89
第5話「月華‐tukihana‐」②

――セプテム・『オカルティクス・ベリタス』――

 荒廃した街、オカルティクス・ベリタス、その街の中に生じた人の気配、本当に誰かがいるのかもわからないほどに街は荒れ果て、既に見捨てられた都市として記憶からも忘れられているのではないかと思えるような場所である。

 

 三方向に別れた者たちの内、比較的荒廃が薄い、都市中心部の中を、レイジ、アーク、エドワードの三人は探索をしていた。霊体化をしてはいるが、当然のようにアヴェンジャーも控えている。

 

 単純な戦力と言う意味で言えば、アヴェンジャーとサーヴァントに匹敵する戦闘能力を持っているアークがいるこの場が最も安定していると言えるだろう。

数の上でも最も比率が割かれているだけに仮にサーヴァントがいないエドワードがいるとしても、決して見劣りしない戦力である。

 

 この場の数が最も多く集められたのは、朔姫の次にレイジと言う少年が重要な人物であるからだ。襲撃を仕掛けてきた七星のマスターであるヴィンセント・N・ステッラを討ったレイジは、現時点において、もっとも七星側に狙われる可能性が高い存在である。

 

 敵討ち、あるいは未知の存在を排除するため、理由など様々あるだろうが、レイジを排除したいと言う思いだけは変わることなく存在しているだろう。

 

 よって――――、襲撃が起こるとすればここだと思うがためにアークもレイジを優先して守ることを決めた。リーダーである朔姫はロイが守護をすると言う時点で万全だ。彼以上にこの場で、どんな窮地をも脱する可能性がある者はいない。

 

 防衛と言う点において、アークは朔姫&キャスターと共にこちら側では抜きんでている。有事の際には、必ず仲間が来るまでの時間稼ぎができるだろう。

 

「それにしても、酷いもんだな。ここに住んでいる連中はみんな、どこかに避難しちまったってことなのかねぇ?」

 

「国境付近の戦乱が多い地域では決して珍しい話ではない。いつ、自分たちの平和が脅かされるかもわからない、国が何処になろうとも最前線にある限り、必ず戦乱に巻き込まれる。国境付近で生きると言うのはそういうことだ。ある日、突然奪われる。だからこそ、この街は少しずつ緩やかに滅んでいったんだろう。1人、また1人と、ここにいることを厭う者たちによって、な」

 

「随分と見知ったように言うな、ハミルトン」

 

「昔、傭兵をしている時に同じような村に立ち寄ったことがある。その場に残っていたのは故郷を忘れることが出来ずに居残ることを選んだ者たちだった。結局は……、故郷の終わりに付き合うような形になってしまったがな」

 

「………いつだって犠牲になるのは何も持ち合わせていなかった人たちばかりだ。突然災害のように現れて、突然何もかもを奪っていく、あんなものを許す事なんてできないんだから……」

 

 エドワードの話しに自分の故郷のことを思い起こしてしまったのか、レイジは怒りを滲ませながら拳を握る。

 

 国境の近くで戦争に翻弄している者たちと故郷を焼かれたレイジの記憶の中に残っているだけとなった人々、決して同じ境遇であるわけではないが、理不尽によって自分の人生を滅茶苦茶にされてしまったと言う意味では確かに共通する。

 

「まったく、お前らはさっきから随分と辛気臭い顔ばかりしやがって。こういう時だからこそ、気持ちを前向きに持たなくちゃいけないんじゃねぇか? そうでなきゃハッピーエンドにはたどり着けないぜ?」

 

 アークはことさら二人のテンションを上げたいと言う意図で大きな声で元気を出すようにと告げる。しかし、そんなアークの想いに反して、二人はやはり良い表情を浮かべない。

 

「……申し訳ないが、アーク、あんたが思い描いているようなハッピーエンドなんてものを思い描くには俺は少し失いすぎてしまった。仲間たちを、同胞を、そして、今やサーヴァントまで失った身だ、そういう話なら、八代やエーデルフェルトに言うべきだぞ」

 

「そうだな、俺の目的も本質としては復讐だ、地獄の先に花を咲かせることは必要だとしても、もう幸福を手に入れるにはあまりにも多くのものを失いすぎてしまった」

 

 だから、レイジもエドワードもハッピーエンドなんて言う言葉とは自分たちはあまりにも遠く離れたところにいるのだと主張する。

 

 確かに死に場所を求めているだけの傭兵と復讐に人生の総てを捧げたに等しい少年、そのどちらもが決して幸福な結末に向かう事が出来るのかと言われれば、首を縦に降ることは早々できはしないだろう。

 

 常識的な観点で考えるのならば、レイジもエドワードも破滅願望の持ち主だ、己が滅んでもイイから願いを叶えたい、その一瞬に成就する何かがあるのならば、それ以外の何物もいらない。

 

 そうした思想が根底にあるからこそ、彼らはアークが口にするハッピーエンドと言う言葉がいかに自分に相応しくないのかを知っている。

 

 しかし、アークはそんな二人の言葉にあっけらかんとした反応を返す。

 

「ん、別にいいじゃねぇか。それはお前らなりのハッピーエンドと俺のハッピーエンドってものが違うってだけだろ。人間なんて多種多様に無数に存在しているんだ。だったら、ハッピーエンドの定義なんて、人によって違うのは当たり前のことじゃねぇか?」

 

「意外だな、お前は自分の思い描く結末を押し通してくるようなタイプに思っていたが」

 

「そりゃ、俺はハッピーエンド至上主義者だ。けど、それは別に俺の思想を押し付けるためのモノじゃないんだよ、誰だって自分の願いを叶えてほしい、そして自分の満足のいく終わりを迎えてほしい。俺が思い描くハッピーエンドってのはそれだけだ。そこから先の細かいことは個人が解決するべきことで、俺はそこに手を差し伸べるだけだ。

 まだ終わりにしたくないのなら、手を貸すぜ……ってな」

 

 ニヤリと笑みを浮かべるアークはそのまま、馴れ馴れしく二人の肩を抱き寄せる。

 

「だから、お前らだって何も変わらないんだよ。自分のためのハッピーエンドを探せばいい、それがどんな結末であろうとも、自分の満足いく方向に向かってハッピーエンドを探せばいいんだ。その願いがどんなものであったとしても、胸を張れよ。自分で決めた生き方だろ……!」

 

「アーク………」

 

「自分で決めたモノかどうかはさておき、言うことは最もだな。自分でそこへ向かわなければ何も得ることはできないのだから。ああ、それがお前のハッピーエンドの条件なら、確かに俺達はもう少し前向きに進むべきかもしれない。どだい、後ろに向かって歩き続けることで叶うわけではないのだから」

 

 それがどれほど後ろ向きな願いであったとしても、前に進んでいかなければ願いを叶えることはできない。だったら、それはもっと前向きに進んでいくべきだろうと言う言葉は確かに一理あるのかもしれない。

 

 アーク・ザ・フルドライブ、所在不明の男、されど、熱い心を持った男、この人物の存在こそが、朔姫と同じく彼らを一つにまとめるうえで重要な意味を持っているのかもしれない。エドワードにはそんな風に思えたのだった。

 

・・・

 

「そういや、うちらだけで話をするってのも初めてやなぁ。桜子いる前でいうんもあれやから、今のうちに言っておくわ。10年前の聖杯戦争ん時は色々とおおきに。おかげで神祇省の面倒事が生まれんくてよかったわ」

 

「秋津市で行われた聖杯戦争の事か?」

 

「せや、桜子はまぁ、ある程度知っておるから隠すほどのもんでもないけど、あの当時、うちらも秋津におったんよ。キャスター陣営のとこに身内がおってな、本来なら処罰対象もええとこやったんやけど、使える駒に変わりはないし、恩を売っておけば後で役に立つかもしれんと思うてな。裏で色々と手を回したんや。

 ほら、バーサーカー陣営との戦いで、連中が弱体化する決定的な一打を、ライダーのマスターがやったやろ、あれ仕組んだのはうちらや」

 

 秋津市の聖杯戦争8日目の夜、恐怖の蓄積によって圧倒的な力を誇るまでに強化されていたバーサーカーを相手に、ロイたちセイバー陣営と桜子のランサー陣営は終始劣勢に立たされていた。それを救ったのが恐怖の蓄積を無力化したライダー陣営による全国放送だった。

 

 それを裏で手引きしたのは当時にして、既に神祇省の姫としての影響力を持ち始めていた朔姫であった。

 現在のような絶対的な権力ではなく、あくまでも自分の護衛の一団を動かす程度の権力であったとはいえ、方々に根回しをして、たった半日であの大芝居を打つほどの権力を握っていると言えば彼女がいかに力を持った存在であるのかはよくわかる話であろう。

 

「そうだったのか、当時はどうしていきなり、あんなことになったのかと思っていたが、なるほど、君があれを仕組んだのであれば色々と納得だ。君たちがもしも最後までライダー陣営と協調して聖杯を獲得するために動いていたら危なかったかもしれない」

 

「謙遜はよせや、うちらかて、最後まで見ておったけど、あの聖杯戦争での最強はどう見たってお前やったやろ、あの頃の桜子じゃ、どうしたってお前には勝てへんかったわ。

 うちらかて、火中の栗を拾いに行く義理があったわけもない。目的を果たしたんなら、そこではい、さようならの方がリソースの面でも遥かに意味があるわけやしな」

 

 ロイの言う通り、もしも、神祇省がライダー陣営に味方をする状況が生まれていれば、下手をすれば聖杯戦争の結末は大きく変わっていたかもしれない。

 

 それほどに聖杯戦争最終日の戦いはギリギリの戦いであった。ロイ自身だけの力では桜子たちとの決戦も、ライダーとの最終決戦も乗り越えられたとは思えない。であるからに朔姫たちが本格的に参戦していたらと考えると、なかなかに末恐ろしい話である。

 

「ありがとう。そうだな、むしろ、感謝するのはこっちかもしれない。君たちが力をピンポイントに貸してくれたからこそ、あの聖杯戦争は大きな混乱を生むこともなく終わりを迎えることが出来た。10年前と言えば、朔姫もまだまだ子供の時分だっただろう。そのころから、ああした絵図を描くことが出来たのだとすれば、今の君が俺達のリーダーとして十全に機能しているのもうなづけるな」

 

「ばっか、子ども扱いするんか、めっちゃ褒めるんかどっちかにせぇや! つーか、いきなり照れくさくなるようなことを素面で言うなや。反応に困るやろ!」

 

 自分から話題を振った朔姫がロイの歯に衣着せぬ発言に赤面して、取り繕うように声を上げる。まさか、10年前の話しをしていて、今の時分の事に触れられるとは思っていなかったのだろう。

 

「そうか? 俺は当然のことを口にしたまでだし、君のことを正しく評価したつもりで言ったんだが……?」

「あー、もう、調子狂わさせられるわ。お前、桜子の同類やな、お前らが気が合う理由も、よー、わかったわ!」

 

 桜子もあまり身分の違いなどを気にせずにぐいぐいと距離を詰めてくるタイプではあったが、このロイも間違いなく同類であることを朔姫はよく理解する。

 

 敵対する者同士であったにもかかわらず、この二人が上手く歩調を合わせていることができるのは、ひとえに人間として似通っている存在達であるからなのだろう。

 

 まったくもっての貧乏くじである。もっとドライに聖杯戦争上だけの関係であってくれれば楽であったものを。ロイも桜子もわざわざ、こちら側の深い所にまで入り込んでくるのだから、手に負えない。

 

「ほんまに、子守するんやったら、もっと気をかけるべき相手なんて仰山おるやろ。うちにまで気を掛けんでええわ。力だけ貸せ、力だけな」

 

「そうかい、俺からすれば、君こそ本当の意味で気に掛けるべきだとも思うけどな、むしろ、一番無理するタイプだろ」

 

「………ほんまに貧乏くじや、今度からこういう時は絶対桜子連れまわすことにするわ」

 

 なんとも自分にとってのすねの部分を突くような言葉を言われて、朔姫も上手いツッコミが咄嗟に出てこない。ロイが天然キャラであることは何となく察しはついていたのだが、このレベルの天然だと、どうしていいのか分からなくなってしまう。

 

「ふん、騒がしいものだ。いかに契約したマスターと言えども、あれほど騒がしいのではこちらも気分を害するというもの。やはり所詮は人間と言うことだな」

 

「兄様……、この場であまり騒がしくするべきではないと言うことは分かっていますが、交流の程度であれば許容するべきではありませんか?我々としても必要な時に必要な連携が出来ないことは困ってしまうでしょう」

 

「そんなものがなくとも、俺とお前がいれば何ら問題はないではないか、ポルクスよ!」

「また兄様はそうやって……」

 

「あはっ☆ お二人は本当に仲良しだよね、神様でも仲が悪い神様もいるわけだから、本当に仲がいいんだろうね」

 

 カストロとポルクスの会話にキャスターが加わる。特に話しかけなければならない用事があったと言うよりは、朔姫をロイに取られてしまっているために話し相手を求めてという事実の方が強いだろうか。

 

 話しかけづらいカストロに対しても物おじせずに声を掛ける姿は、ある意味での勇気が必要なモノではあるが、カストロも無碍にするような態度を浮かべることはなかった。

 

「ふん、俺とポルクスの相性が十分であることなど、満天の星々総てが理解しておるわ。今更の話しと言う他ないな。とはいえ、巫女よ、貴様、分かっていながら、先ほど、俺達を神と呼んだな」

 

「でも、お二人は神様であることに変わりはないでしょ? いくら信仰する形が変わったとしても、その本質までもが大きく変わるわけじゃない。貴方がたは導きの星として、あたしたち人間を守護する敬うべき神様ですよ☆ あはっ、神様に仕える者としてそこらへんをはき違えるほど、あたしは見る目がないわけではありません」

 

 悪戯気に、軽い口調でキャスターは話すが、セイバーにとってはとても重要なことである。零落した神々として、その地位を追い落とされるような結果になりかけている兄妹神にとっては信仰のあり方こそが最も重要な意味を持っている。

 

 キャスターは極東の英雄、本来であれば自分たちを敬うような神話体系に組み込まれているわけでもないが、兄妹を神として敬う態度は決して軽々しい言葉通りではない。

 

 そこに強いこだわりを持っている兄妹であるからこそ、その真贋をはき違えるようなことはしないのだ。

 

「ふん、良い度胸をしている。ほんの少しでも邪心があれば今すぐ首を切り飛ばしていたところだが、気に入ったのは事実だ。連携、か。少しは考えてやるとしよう」

「もう、兄様は素直ではないのですから」

 

 人間嫌いのカストロではあるが、自分の経緯を持っている相手にまで、敵意をむき出しにするような態度は取らない。

人間を嫌うことは平常の状態ではあるが、それが嫌いではあっても付き合う程度のことをするのか、あるいは憎悪を浮かべるのかは全く別の話しであるのだから。

 

 キャスターの真摯な態度は少なくともカストロの怒りを向けられる前提条件を覆す程度には真摯であったと言うことなのだろう。

 

「キャスターよ、貴様が仕える神とはどんな存在であったのか?」

「うーん、そうですねぇ、まぁ、少なくとも尊敬できるような方ではなかったかもしれませんね♪」

 

 あっけらかんと反応するキャスターではあったが、その笑顔の裏にはある種の苦労かそれとも過去を懐かしむような反応が浮かんでいた。神に仕えた巫女にとって決して神が絶対であると言うわけではない。

 

 八代朔姫によって召喚された彼女は、その出自からして信奉する神があればこその巫女である。ただ、彼女の軽率な態度からはあまり信仰心が見えるようなことはなかった。

 

(そういう風に振る舞っているのか、あるいは本心なのか、不思議な子ですね……)

 

 カストロとは真逆にポルクスはどこか不可解な反応を浮かべていた。

 

・・・

 

「へぇ、じゃあ、ロイとは10年前からの付き合いなんだ」

 

「10年前からの付き合いというか、10年前にしか会っていないってだけだけどね、いつかはまた再会するかもしれないなんて思っていたけれど、まさかこんな所で再開することになるなんて思っていなかったな」

 

「いいじゃん、いいじゃん、そういう縁は大事だと思うよ。日本では一期一会って言葉があると思うけどさ、一度別れた人間ともう一度再会することができることだって、そうそう多いわけじゃないんだからさ。こうして顔を合わせることが出来たのなら、いつ別れたっておかしくないって思って交流を深めておきたいと思っていた方がいいって」

 

「確かにルシアの言う通りですね、桜子は既に身持ちであるとはいえ、彼は誠実な人間であるように見えます。頼れるところは頼り、甘えるのも悪くないのでは? 桜子だって、いつもは甘えることができることも多くはないでしょう」

 

「甘えるって言うか、私も結構いい年なんだけどなぁ、いつまでも妹扱いされるような態度取られるのもそれはそれでどうかなーと思うんだけど」

 

「いいじゃない、甘えていられる内が華よ。どこぞの口悪お姫様みたいに、年上への態度がなっていないような子たちばっかりになったら、何を言われるんだかわからないんだから」

 

「さ、朔ちゃんは、あれで、ちゃんと踏みこんじゃいけないラインは分かっていると思うよ?」

 

「どうかな~、もうそういうキャラだからみたいな感じで一線踏み越えてきそうな所あるように思えるけどな~」

 

 周囲の探索を続けながらも、桜子とランサー、そしてルシアはガールズトークに花を咲かせていた。

 

 もっぱら、ルシアが最初に桜子との交流を深めるために桜子のプライベートな話に踏み込んだのが最初であるが、そこからずっと言葉が途切れることなく何かしらの話題で会話をしているのだから、女も三人集まれば姦しいとはまさにこのことであるが、彼女たちにそれを指摘する者がいない以上、話しは途切れることなく続いていく。

 

「まぁ、でもさ、桜子さんは、きっと幸せな人生を送って来たんだろうなってことは出会った時から分かっていたよ。ああ、語弊があったとしたらごめんね、バカにしているとか恨めしく思っているとかじゃなくて、全体的な話しとしてね」

 

「私が、幸せ?」

 

「そ、私のことを話しちゃって悪いんだけど、私、生まれつき、ちょっとばかり目に特殊な力があってね、私が人を見るとその人の感情の色が見えるんだよ。

 穏やかな感情をしている人は暖色、暗い感情を浮かべている人は濃淡色みたいな感じでさ、コミュニケーションにも使えるし、戦闘の時に相手がどんな様子を浮かべているのかってのにも使えるから、割と重宝しているんだけどさ」

 

「確かに便利そうではありますが、不便さを感じることもありませんか? その知りたくないことも知らなければいけないこともあるでしょう?」

 

「ふふ、優しいねぇランサーは。ま、そういう時もあるよ。子供の頃は自分の身体に何が起こっているのかなんて全く分からなかったし、気味悪がられることなんてしょっちゅうだったよ。

 でも、ま、馬鹿とハサミも使いよう、私の能力も使いようじゃないって当時の神父様とシスターに教えられてね。あれよあれよといううちに、年若い心の弱い少女は聖堂教会の凄腕シスターになってしまいましたとさ」

 

「結構壮絶な人生だったようにも聞こえるけれど」

 

「うーん、私には桜子さんも言うほど変わらないって言うか、生まれた時からの色々を考えるとそっちの方がよほど凄まじいと思うんだけど、そこらへんは個人の考え方の違いかな。私は別に自分の瞳以外には特別なしがらみを何一つもっていなかった。

 だから、最悪でも自分の身体にだけ責任を持てばよかったのよ、今は自立しているし、どこでどう好き勝手に生きようとも死のうとも、全部私の自由って訳」

 

 七星としての家の宿命やそれ以外の神祇省のしがらみなどに雁字搦めにされて色々なことに障害を与えられてきた桜子に比べれば、自分の方が遥かにマシだとルシアは思う。

 

「ま、そんなわけで、私はそういうのには聡いんだけど、桜子さんの色はね、とても強い暖色なんだよ。本当だったら濃淡とか暗い色が浮かび上がっていたっておかしくないほどの話しを聞いているのに、至ってその心は暗いものを持ち合わせているように見えない。

 それはきっと、桜子さんがこれまでの人生の中で、きっと良い人たちに恵まれて来たんじゃないのかなって思う訳さ」

 

 人生なんて、結局は誰と関わったか、どんな出来事に出会って来たのか、そこに帰結するものだとルシアは思っている。桜子の色が本人にとって決して悪くないであろう人生を送ってきたものの配色であると思えるのは、桜子が自分の人生を後悔しているわけではないからなのだろう。

 

 自分だけでは到底変えられない宿命を背負ってでも、自分の人生に悲観的にならないモノは必ず、どこかで当人を支えてくれている存在がいる。

 

 その人数が多ければ多いほどに、当人はその人生を決して不幸であると考えることはないだろう。端的に言えばそういうことだ。

 

 桜子の人生は決して悪いものではなかった、同じような境遇と宿命を背負って生きてきたルシアには近しい存在としてそのように見えたのだ。

 

「……、本当にそうかもしれない。私だけじゃどうしようもできないことも多くの人に助けられて来たし、その助けになるきっかけは意外なことにも私が七星であったからということはよくあることなんだよね。

 人生ってホントに分からないよね、どこでどんな巡りあわせになるのかもわからない。私が今も聖杯戦争のマスターになっているなんて、ここに辿り着くまでは考えてもいなかったもん」

 

「私は、桜子のマスターになれて光栄ですけれどね」

「ランサーはそんな風に見えるよ、タズミと一緒の時は窮屈そうだったもん」

 

「コホン、かつてのマスターのことを悪く言うつもりはありません。であれば、私が無意識にそのように考えてしまっていたのでしょう」

 

「律儀だねぇ。そして桜子さんは悪いように思わない人なんだね、ポジティブってのとは違う、中庸って言うか、どっちにも振りきれていない感じ。ありのままをありのままに受け入れているって言うか、善悪どちらかなんてことを最初から無視しているって言うかね、そんな感じ」

 

「それはあるかもね、私は昔っから、何かあってもそこには良いこともあれば悪いこともあるってスタンスでいたから。

なんていうか、絶対的なモノってないように思うんだよね。許すとか許さないとかそういうことじゃなくて、自分自身に降りかかってきたものとして、後で振り返ってみると、実は意味があったんじゃないかって思えることもたくさんあったから。だから、安易に一つの想いに囚われることはしちゃいけないんじゃないかって。

 甘すぎるとかそういう風に思われちゃうかもしれないんだけどね」

 

 ただ、そうした思考ができるからこそ、聖杯戦争で殺し合いに近い戦いをしたロイともこうして今は肩を並べることができる。七星に対して憎悪を剥き出しにしているレイジを相手に臆することなく言葉を交わすことができるという側面もあるのは事実なのだ。

 

 かつて、桜子は秋津の聖杯戦争でアフラ・マズダが自分は絶対的な善を追い求めていると言ったことを覚えている。

 

 人間が生み出したアフラ・マズダへと託した概念、絶対的な善と言う人間が未だに辿り着いたことがない願いこそが、彼を突き動かす原動力に他ならない。それを見つけるために、彼は今もこのセプテムの中で何かを模索しているのだろう。

 

(でも、本当にそんなものはあるんだろうか……、どんなことにだって良いこともあれば悪いことだってある。それを差し引いた絶対的な正しいことなんて、本当に……)

 

 もしも、そんなものがあるのだとすれば、桜子も見てみたいものだと思ってしまう。価値観総てを超えて、ただ正しいと言えるだけの存在、人類では決して辿りつけなかった絶対的な救済を与える存在。

 

(アフラ・マズダ、貴方は大陸に存在した七星たちを使って何をしようとしているの? この戦乱の果てに貴方が求めている絶対的な善を体現する存在が現れると言うの……?)

 

 桜子にはわからない、戦争と言うカテゴリーに含めてしまった時点で両者にはそれぞれの正しさが生まれてしまう。絶対的な悪と言う概念を想像することは出来たとしても、絶対的な善と言うものをこの戦いの中から想像するなんて言うことはできないのではないだろうかと。

 

 だからこそ、アフラ・マズダが何をしようとしているのかもわからないのだ。あまりにも不穏な胸騒ぎ、でも、それが何処に向かっているのかすらも分からない不快感。

 

 目の前の状況に集中することを是としながらも、その懸念は消えないものとして残りつづけているのだった。

 

・・・

 

「見つからないな、どこかに必ずいるハズなんだが……」

 

「そもそも、本当にこんな場所にまだ人が残っているのかと言う時点で怪しいとも思えるがな。荒廃した街であり、俺達も最初は人間が存在していないと思っていた。人の気配と言うモノ自体が気のせいだったんじゃないのか?」

 

「そういうわけでもなかったと思うんだがな」

 

 エドワードの懐疑的な言葉にアークも頭を唸らせる。何せ、ここまで捜しても人の気配が何処にもない。元々いるかいないかもわからないような状況の中での探索だっただけに、実は本当にいなかったという疑念を隠し通すこともできない状況に陥り始めている。

 

「……、レイジ、どうした?」

「いや、なんでもない。あんたたちはそこにいてくれればいい」

 

 そんな折に、ここまで消極的にただアークとエドワードに付いてきているだけであったレイジが自分から足を動かす。どこかに、誰かの意思に導かれるようにして、一歩、また一歩と足を進めていく様子は、さながら幽鬼のようではあるが、レイジが明確に意識を失ったと言う様子は見えてこない。

 

「ちっ、人の話を聞いていないな。アヴェンジャー、あいつ、何か操られているとかないよな?」

 

『わからんが、操られているのなら相手の思惑が分かるかもしれん。こちらも追うべきじゃないか?』

 

『彼は狙われる立場にいるからね、実の所、本当に操られているかもしれないし』

 

 うちにいる二人のアヴェンジャーも懸念を口にする。勿論、確定したわけではないが、それにしてもレイジの足取りは何かを確信したかのように動いている。

 

 そして、一つの既に放置されてかなりの時間が経過しているとわかる民家の前でレイジは足を止めた。おもむろにその民家の扉を開け、中へと視線を向ける。

 

 暗かった、既に明かりなど通っておらず、いても動物たちの住処になっているであろうと目される場所である。

 

 しかし、そこで何かの物音が聞こえたのをレイジは見逃さなかった。

 

「誰だ、誰かいるのか……?」

 

 誰かがいる、そのよくわからない感覚のままにここまで足を踏み込んだ。その言葉は半ばレイジの中では確信を得るための声であり、

 

「………貴方、レイジなの……?」

「――――――――」

 

 聞こえてきた声とともに姿を見せた少女に、レイジは思わず言葉を奪われる。

 

「ターニャ、なのか?」

 

 その出会いはレイジにとって心の底から望んでいたものであり、あまりにも運命的な、あまりにも仕組まれているとしか思えないような唐突な出会いであった。

 

 




いよいよターニャとの再会、果たして彼女の反応は……?

Twitterやってます。SVのこぼれ話などを載せています
https://twitter.com/kooldeed
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。