Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

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第6話「アゲハ蝶」②

――セプテム・『オカルティクス・ベリタス』――

 四駿四狗―――それこそ、モンゴル帝国初代建国者チンギス・ハーンにとって絶対の信任を置く四人の側近と四体の獣たちの総称である。

 

 セレニウム・シルバに置いて、ファヴニールとして邪竜へと変貌したバーサーカーを相手に真っ向から激突した雪獅子、スフィンクス、グリュプス、麒麟、それらがライダーを守護する神獣として咆哮を上げる。

 

 そして、その傍らに立つ四人の戦士もまた、ただのライダーの兵士と言うわけではない。かつて四駿と呼ばれた側近の将軍たちは、ライダーの宝具を通し、同時に灰狼によって事前に用意された人造七星たちを魔力炉代わりに使うことによって、一人一人がサーヴァント級の実力者として呼び出されるにいたった。

 

「かつては最後まで共に駆け抜けることができませんでしたが、その機会をもう一度戴くことができるとは」

 

 かつてハーンと対立し、彼の騎馬を射抜いたと語られる弓の名手:ジュベ

 

「ハーンが俺を呼びだしたということは、殺す敵がいるということだ。お前たちか、ああ、お前たちだな。殺す、殺す、皆殺しにしてすべて吹き飛ばしてやる」

 

 ハーンと呼ばれる以前から仕え、常に最前線で戦い続けた宿将:クビライ

 

「およしなさいな、クビライ、ハーンの前ではしたないですよ。敵の血を啜るのは、総て壊した後にしなさいな」

 

 ハーンの親衛隊長及び愛妾を務めたハーンに愛されし戦士:ジェルメ

 

「姉上と貴殿らの軽口を再び聞けるようになるとは。中々に感慨深い。存分に闘おう。我らが友、灰狼が生み出してくれたこの機会に今度こそは我らの悲願を」

 

 ハーン亡き後も西側世界を蹂躙し続けたモンゴル帝国最大版図実現者:スブタイ

 

 四匹と四人、合わせて総てがライダーことチンギス・ハーンの宝具によって召喚された絶対的な戦力である。思わず朔姫は息を呑む。

 

ただ単純に宝具によって召喚されただけの存在であるのならば別にいい。逃げるなり時間を稼ぐなりいかにしても対処方法はあるが……、

 

「馬鹿言うなや、あの四人、普通のサーヴァントと魔力反応が何ら変わらん」

 

「それって……、単純にあっちに四体サーヴァントが増えてたって事!?」

「なにそれ、超絶望的じゃん!!」

 

 朔姫たちが驚きを覚え、目の前の状況にどうすればいいのか分からなくなるのも致し方ないことだろう。何せ、聖杯戦争の規定のサーヴァント以外の存在を召喚し、そのまま本来のサーヴァントと同じように現界させるなどと言うことは単純に考えて不可能なことなのだから。

 

 それを可能にさせているのは、灰狼が事前に用意した、人造七星たちを使った人工的な魔力炉である。それを自身へと繋ぎ、魔術回路に外付けのバッテリーを施している様にして、魔力炉が機能している限り、無尽蔵に魔力が灰狼へと供給されていく、

 

 たった一人で賄う事が出来ないのであれば、多くの人間の力を必要とすればいい。単純な足し算と掛け算の問題でしかない。

 

 ただ、その行為自体が人倫に照らして許されるのかどうかは全くの別問題であるが、悲願を前にしてそんなことを気にしている様子はまったくない。

 

 レイジの村を滅ぼした時と同じように、星灰狼にとっては自分の願いを叶えることが第一義であり、そのためにどれだけの人間が嘆きを覚えたとしても、まったく気にする必要もないのだ。最終的には総てが灰狼とハーンの下へとおさまっていくのだ。

 

「人造七星は実に役に立ってくれている、我々の戦力として、そしてこのように魔力炉として、人造七星の技術を確立したことこそが、私が参戦した七星たちの中で最上位に位置している理由ともいえるかもしれない」

 

「貴方は、自分が七星の宿命を背負って、この血がどういう意味を持っているのかもわかっているのに、それでも関係のない人たちを巻き込むの!?」

 

「意味か……、不思議なことを聞くね、七星桜子。むしろ、意味を問うというのであればこれほど名誉なことはないと思うが? 私も、そして君もこの七星の血があればこそ、取るに足らない人間たちとは違った人生を生きていることができる。七星の血は呪いではない、この世界に与えられた祝福だ。私は選ばれた者としてこれを享受し、使命を果たす。

 彼らにとってはむしろ、祝福と捉えてもらった方がいいはずだ、君もそう思うだろう、アベル。その力があればこそ、私達に対抗することができるはずだ」

 

「黙、れよ、欲しくて手に入れたわけじゃない。なければ、戦えなかった。だから受け入れた。それだけなんだよ……」

 

「ならば、もう少し奮闘したまえ、それでは与えられた七星の血に報いることが出来ていないぞ」

 

 槍の穂先が再びレイジへと向けられる。それを黙って見ているつもりは桜子たちにもないが、同様にライダーの配下たちも黙って見ているつもりはない。ほんの少しでも誰かが動けば、この場の全員を巻き込んだ全面的な戦いが始まることは間違いない。

 

「ご助力お願いしたい、大ハーンの忠臣にしてかつての灰狼の同志である貴方がたに、我らが願った世界帝国、聖杯戦争に勝利し、今度こそは我らによる絶対的な帝国を築き上げたいのです」

 

「かははっ、灰狼の奴はイかれた野郎だとは思っていたが、俺達が肉体を失っても尚、記憶を受け継ぎ続けたってのが最高だ、よくぞ、俺達が戻って来るまでその熱を引き継ぎ続けてきた」

 

「あの夢をもう一度見ることができるのならば、全力を振うだけだ」

 

「男どもは血気盛んで嫌になってしまうけれど、ハーン、貴方も同じかしら」

 

「無論、戦場に入れば、後は須らく目の前の相手を蹂躙することができるかどうかだけであろう、ジュベ、スブタイと共に血路を開け」

 

「―――御意に」

 

 ライダーの横に身を置き、戦況を観察していた弓使い、この場にアーチャーのサーヴァントとして呼ばれたジュベが一歩前に進む。同時にその言葉を聞いた第三のランサー、スブタイもまた戦闘態勢に入る為に己の身の丈以上の巨大な槍を握る。

 

「この場に集いし一騎当千の英霊たち、かつては味わえなかった戦の妙、この槍にて体感させてもらおう」

 

 瞬間、スプタイが獣の如く、誰を狙った訳でもなく総てを破壊するために足を動かす。同時に、アステロパイオスとポルクスが反応し、肉食動物のごとき突進を受け止める。

 

「ぬぅぅぅぅぅぅ」

「なんて馬鹿力……」

「我々二人で受け止めてやっと、だなんて……!」

 

 ポルクスの剣とアステロパイオスの槍1つで受け止めているものの、スプタイの槍はその勢いのままに二人の防御すらも突破せんとばかりの膂力でさらに勢いを増していく。

 

「素晴らしい、胴体を共に真っ二つにするつもりで放ったが、存外に受け止めるものだ、女であるからという先入観は今の一撃で何の意味もないと理解した。やはり、聖杯戦争なるもの、心が躍る!!」

 

 上段から振り下ろした槍を引き抜くと、力任せとばかりに側面から振れればそれだけで身体を砕かれるとばかりの攻撃が来襲する。

 

 アステロパイオスへと来た攻撃はもう片方の槍によって受け止められるが、一本の槍だけでは完全に勢いを殺しきれずに、身体が弾かれ浮き上がる。

 

「――――ッ!!」

 

 それを待っていたとばかりに、スプタイはさらに一歩踏み込み、アステロパイオスを串刺しにするための突きを放ち、それをポルクスが援護に入って防ぐが、やはり完全には防げない。

 

 もっとも、その一瞬を稼いだだけでも十分な意味がある。後ろへと仰け反ったままに跳躍し、態勢を建て直したアステロパイオスが、空中から神速の勢いを以て槍を下段へと放ち、スプタイはポルクスが受け止めた槍を引き抜くとそちらを受け止める。

 

 もっとも、受け止められたとしても彼女にはもう一本の槍がある。すかさず防御をすり抜ける形でもう片方の槍が、そちらへと意識を向ければ、もう一本の槍が、足下でも止まることなくスプタイの攻撃へと転じる瞬間など与えないとばかりに、次々と攻撃が迫っていく。

 

「ちぃっ……!」

「このまま、一気に決める!!」

 

 ほんの少しの戦闘しかまだ経験していないが、アステロパイオスもポルクスもスブタイの恐ろしさは十分に理解できた。

 

 自分たちのような神話に名高き存在に対して、スブタイはいかにサーヴァントとして召喚されているとはいえ、本来は生身の人間であったはずの存在だ。それが自分たちを相手に戦闘力、そして戦いの読みに対して完全に飲みこもうとしていた。

 

 もしも、もう一度、彼に主導権を渡してしまったら、次に再び状況をひっくり返すことが出来るかもわからない。よって、ここで一気に攻めきる、その判断自体は何一つとして間違ってはいなかった。

 

「敵はスブタイだけに非ず。美しき戦士たち、勇士であることに変わりなければ、この矢を以てその命脈を打ち砕こう」

 

 もっとも、それはスブタイだけを相手にするのであればの話しである。スブタイの後方、今だ動かぬ他の者たちよりも一歩前に進みでた四駿の1人は矢を番え、スブタイへと止まらぬ連撃を放つアステロパイオスの瞳を狙う。

 

 どんな相手であろうとも、目を潰されれば確実に隙が生まれる。腕や心臓などよりもよほど動きが止まる箇所としては都合がいい。

 

 周囲の音は聞こえない、ただ己が狙う相手の挙動と視線の動きだけに着目し、モンゴル帝国最強の弓手は矢を放った。当たるかどうかを気にする必要はない、己が放った以上、当たることは間違いないと自負し、

 

「させるかッ!!下郎が!」

 

 そこに割って入ったカストロの盾による防御がアステロパイオスへと迫る弓矢を受け止めて見せる。

 

「ふんっ!!」

 

 もっとも、それで防御により体が固まったのは事実だ、スブタイは己の持っている槍を背中側へと反転させ、受け止め僅かな秒数の硬直をしていたカストロへと振り向くことなく、刺突を放つ。

 

「ぐぅぅ!」

 

 カストロはその殺気が来ることを理解し、光速移動による回避を試みるが、完全に避けきることは出来ずに背中を鮮血が迸る。

 

「兄様!」

「構わん、かすり傷だ! それよりも、そやつを何があろうとも抑えつけろ。そいつを自由にさせれば、被害は加速度的に増していくぞ!!」

 

 カストロが叫び、その横を矢が通っていく。狙われているのはスブタイからだけではない、矢を放つジュベもあわよくばとばかりにその命を穿つタイミングを狙っている。

 

「あやつ、ジュベの矢もスプタイの槍捌きも避けるか」

「くく、たまらねぇ、ハーンよ、俺も参戦させてくれよ。連中を叩き潰すために」

 

「いいや、お前たちは此度は待ちだ。何かが起こった時の後詰がいなければならない状況が生まれた時に備えてな、では、行くか灰狼」

 

「よろしいのですか、ハーンもあちら側に参戦せずに」

「くく、そう言ってくれるな。その誘惑に抗うのは中々に難しいことなのだ。しかして、まずは先約を果たさなければならない。お前もそうであろう?」

 

「ええ……」

 

 ライダーと灰狼の視線はそれぞれ、アヴェンジャーとレイジへと向けられている。既に始まった乱戦はほんの少しでも状況が変われば一気にパワーバランスがどちらかへと傾いていくのが分かる状況であった。

 

 それを自分たちの下へと手繰り寄せることができるかどうかも分からない状況、迂闊に動けないのはむしろ、桜子たちの方である。

 

 ディオスクロイ兄妹とアステロパイオス、こちら側の武闘派英霊の二人をして、ギリギリ互角に持ち込んでいる状況が異様としかいいようがない。

 

「あのスブタイって槍使い、とんでもない化け物だね。元は普通の人間の武将でしょ? なんで、あのセイバーとランサーとまともにやり合えているのさ!」

 

「かつてのモンゴル帝国の最強の将軍、チンギス・ハーン亡き後も帝国を拡大し続けた、真の意味での最大版図を獲得した男、誤算やったわ、まさか、あんなもんまで連れてきておるとは。下手な宝具なんぞよりもよほど手に負えんわ……!」

 

「問題ない、結局はマスターと本命のサーヴァントを潰してしまえば、それで終わりだ」

「ちょ、レイジ君!」

 

 手をこまねいている状況を変えるために、これ以上灰狼たちの好き勝手にさせている状況を覆すために、レイジとアヴェンジャーは共に自分たちが狙うべき相手の下へと突貫する。奇しくもそれは両陣営共に同じことを考えていればこそである。

 

 新たなる戦力が追加され、彼ら彼女たちがしのぎを削っている状況でありながら、大将ともいえる者たちが変わらず戦いを実行するという歪な状況の最中、真正面からアヴェンジャーの戟を再びライダーは受け止める。

 

「くっく、血気に逸るな。そうだ、草原の王とはそうでなければならぬ。どれほどこう着した状況であろうとも、不利な状況であろうとも、己の雄たけび1つで状況を変えることが出来ぬのであれば、喰われていくが定めよ」

 

「大ハーンよ、貴方は本気で世界制覇を成し遂げるつもりか?」

「愚問!」

 

 アヴェンジャーの戟とライダーの剣、共に激突しあい、どちらも一歩も引くことなく、互いの武器を破壊するために己の武器を振う。

 

「余が配下たちに見せた世界制覇の夢、もはやその夢を見せることができる兵士たちはおらぬ、友も家族も、そして愛するべき民たちも全ては久遠の彼方に置き去りにしてきた。されど、それでもは余はチンギス・ハーンなのだ。駆け抜け続けることこそが我が覇道」

 

「己が口にしているようにその先には何もない。所詮我らは未来に呼び出され影法師、ならば、今を生きる者たちにのみ力を貸すべきだ。それが終われば消える泡沫の存在、大ハーンよ、その願いはあまりにも分不相応が過ぎる」

 

「余に意見するか!」

 

「我にとっても大ハーンは敬意を表するべき存在、されど、それは肉の身を得ていた時のこと、今は共にサーヴァント、その軛から解き放たれればこそ、こうして言葉を投げている!」

 

「温いな、言葉で人が動くか? 侵略の手は止まるか? 余は余を慕い、余の覇道を共に進める者たちの言葉のみで十分だ、余を従わせたいとすれば、己の武力によって、実現させてみよ、アヴェンジャーよ!!」

 

 ライダーが手綱を引き、馬が一気に速度を上げて、ライダーはすれ違いざまに剣を振り払い、遠心力を咥えた鈍重の一撃をアヴェンジャーへと振り払う。真正面から受け止めはしても、馬による加速力がその衝撃にさらに重い一撃を圧し掛からせてくる。

 

「ぐぅぅぅぅ」

「これでも倒れぬか、しかして――――」

 

 剣が降りぬかれ、アヴェンジャーとライダーの距離が一瞬離れたと思ったのも束の間、一切の無駄なく、最短の動きでターンを決めたライダーの愛馬は再びアヴェンジャーの背中を突くために駆け抜けてくる。

 

 ある意味で馬と言う存在は、速度や高さと言った戦の中で人間一人では決して覆す事の出来ない種としての限界値を突破するために戦力として使用される。

 

故に犠牲にしている部分も当然にあるのが普通の理屈であろう。それは例えば、小回りや機転、人間が刹那の瞬きの中で行う思考作業に身体を付随させる。その行為は人間の神経を伝達させる機能に依る所であり、馬にまで機能させることはできない筈だ。

 

 しかし、草原の覇者たるこの男にそれが出来ない筈がない。手綱を引く。単純に言えばそれこそがハーンの愛馬にとっての神経伝達に他ならないのだから。

 

「疾ッ!!」

 

 背後よりの一刀、反応が遅れたアヴェンジャーは背中からの一撃に斬り伏せられ、そのまま身体ごと、地面を転がる。

 

『馬鹿者が、背中に目くらいつけておけ!!』

『無茶を言うなよ、爺さん。今のは何だ、あんなことはできるのか……』

 

 ハンニバルと青年も思わず瞠目せざるを得ない、先ほどアヴェンジャーへと刃を振い、それを受け止められたことで馬の軌道そのままに背後へと動いたはずのライダーが急速旋回する形で、一瞬のうちに、アヴェンジャーの背中へと刃を切りつけたのだ。

 

 さながら、最初から馬に防御された隙を狙って急速旋回することを教え込んでいたかのように、伝達速度も意思疎通も何もかもが桁違いの速さで実行されたと言えばそれまでかもしれないが、あまりにも馬鹿げた行為は思わず言葉を失う他ない。

 

「ふん、そもそもだ、我ら草原の民でありながらも馬を使わずに戦うという時点で、貴様は我らを舐めている。騎乗もせずに余に勝てると驕ったのであれば、万死に値すると言わずにはおれん」

 

『避けろ、ティムール!』

「ごほぉっ……」

 

 跳躍したライダーの愛馬が躊躇なく、その蹄でティムールを踏みつける。うつ伏せから立ち上がろうとしたティムールの背骨を真っ二つに叩き折るとばかりの強烈な一撃を前にして、反吐を吐いたアヴェンジャーにステップを踏むように、馬が踊り狂う。

 

「くっはははは、どうした、どうしたのだ、余と同じ草原の王を名乗る者よ、貴様はこの程度か? 平地の民の戦いで向かってくるのならば、相応の力を見せなければただの劣化ではないか、愚かしいぞ、アヴェンジャーよ!!」

 

「ごっ、がっ、ぎぃ、ぐぅぅぅ」

 

「自ら破滅を進むか? それもそれで良かろう、余は弱者を弄ぶことを厭うつもりはない。所詮、人間もまた獣よ。己の内に宿っている獣性を理性と言う枷を以て制御するかどうかでしかない。であれば、貴様を蹂躙することを余は求める。それこそが、戦の愉しみ、男を踏み潰し、女を犯す。これに勝る喜びなどこの世のどこにもありはせんわ!!」

 

 馬がほんの少し後方に下がると、そのまま突進し、馬が思い切り、アヴェンジャーの身体を蹴りあげ、荒廃した家屋へとその身体が叩き付けられる。家屋そのものに亀裂が入り、屋根の一部が破壊されたが、問題は家屋ではなく、その一撃を完全にその身に受けてしまったアヴェンジャーだ。

 

 いかに英霊として強化されていたとしても、本来の人間であれば全身がひしゃげて砕けていてもおかしくないほどの威力を受けたのである。項垂れるように崩れていくその姿は、この場における勝者と敗者が誰であるのかを如実に語っている様に見えた。

 

「ふん、つまらぬな。同郷のよしみであると思っていたが……、想像以上につまらぬ戦となったものだ」

 

 ライダーは鼻を鳴らし、再びアヴェンジャーが立ち上がってくることを期待するが、その様子も見えない。ただ時間ばかりが過ぎ去り、荒廃していくばかりの街に溶け込むようにアヴェンジャーは敗北を待つばかりの姿となってしまった。

 

「どうやら、あちらも決着がつきそうだな、時間はかかるが、まずは一体というところかな」

 

 そして、もう一つの戦い、マスター同士の戦いもやはり一方的な様相を見せていた。いかに血気盛ん、全身全霊で灰狼を殺すつもりで飛びかかって言ったとしても、レイジ・オブ・ダストの力と星灰狼の実力、そこには天と地ほどの差があることは言うまでもない。

 

 サーヴァントと同じように地面に倒れ、腕に槍を突き刺された状態のレイジは呻くことしかできずに、灰狼はこんなものかとため息を零す。

 

「ぐぅぅ……、勝手に決めつけてるんじゃねぇよ……!」

 

「ふむ、そうか」

「ごほっ――――」

 

槍を持ち上げ、レイジの身体を起きあがらせると器用に槍を振って、その切っ先を引き抜き、レイジの身体が再び地面に転がった。

 

「立ち上がりたまえよ、アベル」

「がっ……」

 

「まだ終わっていない。そういう風にお前はこの戦況を分析するんだ。だったら、それに見合った結果を自分の身体で出力して見せるがいい。援軍による中座は一度実行したな。こちらも同じ手札を切り、援軍自体の実力は互いにそこまで差があるわけではない。

 ならば、勝敗を分かつとすれば、それは大将であるものたちの実力だ。お前と私、そして大ハーンとアヴェンジャー、片方の戦いには既に決着がついた」

 

 だから、後は自分たちの決着を以てこの場の戦いも終わりを迎えるだろうと灰狼は語るのだ。この場での戦いは聖杯戦争における相手を倒すための戦いと言うよりも、レイジと灰狼の因縁が端緒となって始まった戦いなだけにこの二人がいかに決着をつけることができるのかにかかっているのだから。

 

「くそぉっ!」

 

 レイジがふらつきながらも立ち上がり、灰狼を睨みつけて再び蛇腹剣の攻撃を払う。

 

 しかし、その剣の起点となる中心点を見出した灰狼の槍はその場所を弾き、蛇腹剣の軌道は大きくレイジの想定とは違う場所へと曲がって行ってしまう。

 

 その変化に意識を取られた瞬間、灰狼は一歩でレイジの目の前にまで近づき、槍の柄の部分でレイジの側頭部を殴りつけ、身体のバランスが大きく崩れ、そこに槍による刺突が次々に襲い掛かってくる。

 

「ぐ、が、ぎぃ、ぎゃ、あああああああああ!!」

「正直に言えば、期待外れもいい所というのが本音だな」

 

 ほんの少しの交差しか持たなかった対立状態、それすらもわずかな時間で崩された。圧倒的な力の差はどれほど必死に抗おうとしても、一瞬のうちに、その戦いあう状況すらも許してくれない。

 

 まがい物の人造七星として与えられた力で、純粋なる七星加えてかつて戦乱の時代を生き抜いてきた七星桜雅の記憶と力を継承している灰狼には対抗することはできないのか……

 

「別に簡単に蹂躙することができる相手を求めていたわけじゃない。それであれば、タズミ卿を生かして、最初から真っ当な聖杯戦争をやるだけで済んだんだ、セレニウム・シルバでは上手くしてヴィンセントを討ち取ったんだろう? きっかけを作る手助けくらいはしたつもりだが、倒したのは君だ、こんなものなのか?」

 

「手助け、しただと……? ヴィンセントは、おまえの、仲間だろ……」

 

「仲間だよ、仲間だからこそ勝ってほしかった。しかし、勝ったのはレイジ、君だ。だからこそ、認識を改めはしたのさ。君は俺達の首下に噛みついてくる可能性がある存在であると。どれほどのものなのかとこの眼で見るために来たのだが……」

 

 その上で期待はずれであったと灰狼は語る。自分と矛を交え、少しでも自分を脅かすようなことができる相手であったのならば、この戦はより一層血わき肉躍る戦いになるだろうと考えていた。

 

 しかし、目の前の状況はあくまでも蹂躙戦である。赤子の手を捻るような形で、灰狼はレイジの息の根をこのまま止めることができるだろう。灰狼が待ち望んでいた自分たちに敵対する七星との一気呵成な戦いの火ぶたが落とされることは決してない。

 

「この程度では、この先の展望を見ることもできないだろう。残念だが、アベルとしての覚醒を待つまでもない。俺の願いは聖杯に託すことにするよ。さらばだ、レイジ・オブ・ダスト」

 

 倒れた状態であるレイジの首を跳ね飛ばすことは、灰狼の実力を持ってすれば、まったく何の問題もなく可能だろう。そこらへんの雑兵の首を飛ばす事と何一つとして変わりはない。

 

 故に終わる、何の成果を得ることもなく終わる。ヴィンセントを倒し、ようやく自分の本当の仇を見つけることが出来たというのに、その仇の前で何もすることが出来ずに終わる。それがレイジ・オブ・ダストという名前を襲名したお前の末路であると言わんばかりに……

 

『本当にこれで終わりにするのか?』

 

 けれど、胸の奥で、そんな自分の諦めに対して疑問を呈する声が聞こえる。お前はそれでいいのかと、問う声が聞こえてくる。

 

『己の願いを何一つ叶えることが出来ず、ただ相手に嘲笑されるがままにお前は諦めることができるのか? お前の決意とは、復讐の華とはそれほどか細く尽きてしまう程度であったのか?』

 

 誰だ、お前は……、俺の中の何物だ、その問いに声の相手が反応することはない、ただ言葉だけが空を切り、自分の中へと反芻する。

 

『あれもまた魔術師だ、いかに七星として圧倒的であったとしても、魔術師であることに変わりはない。もう一度言おう、あれは魔術師だ。英霊ではない、神の類でもない、七星が滅ぼすために追い求めてきた存在の一つだ。であれば―――お前に出来ない筈がない』

 

 そこまで言われてようやく気付く。こいつはあのヴィンセントとの戦いでも俺に声を向けてきた相手だ。

 

 無数の七星の意志が俺の精神を呑み込もうとする激流の中でただ1人だけ、俺の復讐と言う絶対的な意思を認めて、その力を与えることを認めた声、その声が、この土壇場で再び俺に立ち上がれと声を上げる。

 

『立ち上がり、地獄へと舞い戻るのか。それとも死と言う安寧を手にするのか、選べ。誰もお前にその強制はしない。お前がどうするのか、だ……』

 

「そんなものは、決まっている……、俺は――――」

 

 力を籠める、身体の末端に、冷たくなろうとしていた身体に熱が灯っていくのが分かる、まだ終われない、まだ終わらない。命が尽きる最後の瞬間まで、このか細い炎を燃やし尽くす。

 

「俺は―――こんな地獄の先に、花を咲かせるんだって決めているんだよォォォォォ!!」

 

 その叫びと共に、もう一度レイジは立ち上がる。勝算なんてものは何処にもない。むしろ、このまま敗北へと持ち込まれることこそが規定的な路線であることを誰よりもレイジ自身が理解しているにもかかわらずである。

 

「まだ、何かやれると自分で思っているのか?」

「そんなものは、知らないんだよ……」

 

「なら、考え無しか。愚策中の愚策だな」

 

「そうかもしれない。だが、最初からこの戦いはそんなものだろ、俺は弱い、まともに闘ってお前たちに勝てるほど、洗練されたものなんて何一つとして持ち合わせてはいない。だから、必死に食らいつくんだよ、この戦いの先に、こんな地獄の先にだって花は咲くんだって証明すると決めているんだから……!」

 

「花、か……」

 

 灰狼はレイジの言葉を興味深そうに聞く。敗者の戯言と聞くにはレイジの眼は据わっている。決して反論は許さない、そんな瞳の強さを感じさせてくるのだ。

 

「ターニャは必ず連れていく。もう、一秒だってお前たちの下になんて置いておくつもりはない。彼女と一緒に探すんだ、お前たちに滅茶苦茶された人生を取り戻すための方法を。お前たちを滅ぼしたその先に、未来があるって信じているんだ、止まれるわけがないだろ!!」

 

「己の幸福のために敵対者を皆殺しにすると?」

「お前たちと何が違う!!」

 

「違わないさ。だからこそ、面白いんじゃないか。結局、お前も私たちと同じ穴のムジナ、七星の宿命から逃れることはできない」

 

 七星を憎むレイジ、しかし、実際の所はレイジも灰狼たち七星と何一つとして変わらないのだ、変わることなく、自分の幸福の為に誰かを犠牲にしようとしている。そうした愚かさを許容し、その先へと進むメンタルを持ち合わせている。

 

「失望したと言ったが、少しばかり訂正しようか、その傲慢さは実に七星らしいよ。己の血塗られた手で、血塗られた結末へと邁進する。そうだ、俺もお前も屍の上に積み上げた結末を以てしか未来を掴めはしないのだから」

 

 灰狼が脚を一歩進める。立ち上がり、再び戦いの意思を明確にしたレイジを倒すために、彼は再びその槍を振うだろう。

 

「後は実力が伴っていれば、というところだったのだが、そこだけは残念だったな」

「まだだ……、まだ俺は、俺の納得する、ハッピーエンドに、ターニャと一緒に花を咲かせることが出来ていないんだから!!」

 

「――――良く言った。その啖呵が切れるのなら、お前はまだまだやっていけるよ、レイジ」

「―――――」

 

 ポンとレイジの肩に触れる手の感覚、その手は大きく、温かく、そして触れられただけでレイジ自身に安心感を生み出すものであった。

 

「アーク……」

 

「お前さんは自分の戦いの邪魔をするんじゃねぇというだろうが、生憎と俺はそこまで非情には成りきれないんだ。お前さんが果たそうとしていること、為そうとしていることが復讐と言う決して褒められないことであるのは重々承知だ。

それに対して、自分がどんな面で向き合うべきなのか、どうにも答えを出しづらかったが、ああ、ようやく腹が決まった」

 

 掌に片方の拳を叩きつけ、アークはレイジの一歩前に進む。

 

「お前がお前のハッピーエンドを求めて進むってのなら、それに手を貸さない理由は何処にもないよなァ、俺はアーク・ザ・フルドライブ、ハッピーエンド至上主義者だ。仲間がそこを目指すと叫んだってのに、伸ばす手がないんじゃ片手落ちだろう!!」

 

「レイジに助力し、君が我々の相手をするということか?」

 

「応さ、アーク・ザ・フルドライブ、俺を倒さない限り、レイジには指一本触れさせやしねぇよ。さっきまではどうにも動くべきか悩んでいたが、覚悟の決まった俺は強いぜ!!」

「―――面白い、貴様、サーヴァントであるか?」

 

 アークの啖呵を聞き、灰狼が何かを言うよりも早くライダーが反応する。既にアヴェンジャーと遊ぶことに飽きたのか、ライダーは新たに自分と遊んでくれる相手が生まれたことにニヤリと笑みを深める。

 

「サーヴァントかと聞かれればそうだともと答えるさ、あんたと同じライダーのサーヴァントだよ」

「その柔腕でどこまで余を楽しませることができるのか、実力を見せてもらおうか」

 

「ああ、勿論、お前さんのような偉大な英霊を相手に、ステゴロ1つで戦えるなんて俺もサラサラ思っていねぇよ、

 だから、さぁ、始めようか―――真体限定降臨」

 

 その言葉が発せられた瞬間、アークの背後に巨大な魔方陣が浮かび上がる、それはその魔方陣を媒介として常にアークの背後にいる水銀のような存在を包み込み、そして、その姿が異様なまでに肥大化していく。

 

「馬鹿な、真体だと……!?」

「それは、オリュンポスの神々だけが持つ―――」

 

 ディオスクロイ兄妹もアークの言葉に耳を疑った、その背中に顕現していく機械の腕のような存在、それは兄妹神にとって、記憶に残る、敬愛するべき神々の腕に似通ったモノであったから。

 

「―――第一宝具顕現『|真体限定降臨・我は総てを踏破する《ネフィリム・アリスフィア・リミットオーバー》』」

 

 顕現したのは巨大な腕、アークの全身をつつむだけでなく、この場の全員を包み込むことができるほどの巨大質量の腕が二つ、アークの守護神であるかのように顕現した。

 

「ステゴロはステゴロでも、これなら面白いだろう?」

「くく、確かにな」

 

 されど、ライダーも臆することはない。目の前の獲物は極上だ、それだけで喰らう価値があると判断できるのだから。

 

 歓喜に獣たちも咆哮を上げる。さぁ、ここからが本番であるとばかりにその息を荒くするのだ。その様子をただ1人、遠くから見守る陰がある。

 

「さて、ライダーよ、その巨大な拳、どのように対処する」

 

 ターニャのサーヴァントであるセイバー、彼は只、その趨勢を見守っている。これより先にどのように動くべきなのかを見極めるために。

 




サーヴァントステータス

【CLASS】ライダー

【真名】スブタイ

【性別】男性

【身長・体重】185cm95kg

【属性】混沌・善

【ステータス】

 筋力A 耐久B 敏捷A++

 魔力C 幸運B 宝具B+

【クラス別スキル】
騎乗:A
 騎乗の才能。獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。
 ただし、竜種は該当しない。

対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

【固有スキル】
故に其の疾きこと風の如く:EX
神速にして、しかも理に適う戦術・戦略を得意としたことにより霊基に刻まれた技能。「軍略」、「カリスマ」も兼ね備えており、戦闘を継続すればするほどに敏捷のステータスが上昇する。

戦闘機動(軍):B
騎乗状態での戦闘に習熟し、騎乗状態での攻撃判定及びダメージにプラスボーナスするスキル。彼が指揮する軍隊にも効果を付与する。

沈着冷静:B
如何なる状況にあっても混乱せず、己の感情を殺して冷静に周囲を観察し、最適の戦術を導いてみせる。精神系の効果への抵抗に対してプラス補正が与えられる。特に混乱や焦燥といった状態に対しては高い耐性を有し、遠征における窮地であってもスブタイは惑わない。


【宝具】
『???』
ランク:B 種別:対軍宝具 
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