Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

3 / 89
UCからの皆さま、1カ月の間、お待たせしました!

新規の方は長くお付き合いしていただけると嬉しいです。

いよいよ連載開始です。


第0話「Philosophyz」①

祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。

 

娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。

 

おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。

 

たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。

 

 一つの時代が終わりを迎えようとしていた。日本という国の流れが大きく変わろうとしていたのだ。

 

 時は源平の血で血を争う内乱の世、戦が終わり、新たなる武家の政権が生まれる前夜、とある者たちが落ちのびるようにして、島国から大陸へと抜け出した。

 

 彼の一族の名は―――『七星』、平家に味方した者も源氏に味方した者も、追われるものは諸行無常の嘆きを帯びて、勝者となった一族の者たちとの決別を果たした。

 

 何も決して珍しい話ではない。敵と味方に分かれ、一族が相争うなどと言うことはこの時代には珍しくない。そうあることこそが一族を存続させると言う意味ではもっとも生存率が高いのだ。

 

 彼ら七星は一言で言えば、暗殺一族である。古来より続く魔術師を討つために生み出された暗殺一族である彼らは、時の権力者に寄り添い、人の手にはありあまる多くの魔術師を闇に葬ってきた。それが彼らの生業であった以上、そこに感情を挟む余地もなく、彼らは常に屠り続けてきた。

 

 故にこそ、源氏と平氏、ともに明日を勝ち取る可能性がある者たちが真っ向からぶつかり合った以上、彼らは双方に分かれ、生き残るための最善を模索した。どちらが勝とうとも、七星という一族が権力の中枢から離れることだけはないように。命を奪う相手を与えられなければ、彼らは野生の獣と何ら変わりなくなってしまう。

 

 それでも、どちらかが勝てば、どちらかは敗北する。彼らにとっての誤算は敗残した一族の者たちの多くが土に還りながらも、生き残った強者たちが存在していたことだ。

 

 生き恥を晒し、勝利を掴んだ一族の下へと戻ることはできない。当たり前だ、七星とはどこまでも主がいなければ意味をなさない一族、敗残者を引き入れれば、七星に余計な火種を持ち込むことになる。さりとて、敗北者を匿ってくれる者などいない。

 

 いや、よりはっきりと言えば、匿われていたのに生き残ったのだ。もはや向かう先はこの日ノ本の中のどこにもない。決断の時は迫っていた。

 

 すべては七星の血を後世へと残すために。遥か古代より連綿と受け継がれてきた血の記憶を途絶えさせぬために、宛もない大陸への旅路へと羽ばたいた。

 

 死地を探すための旅路である。自分たちの死に場所を探すためだけに彼らは、島国を飛び出し、果てなき大陸への旅路へと躍り出た。

 

 そして、辿り着いた中華の地、そこで彼らは―――運命と出会った。暗殺一族にして武芸者である自分たちを必要とし、数多の戦乱へと誘う者との出会いである。

 

 源平争乱より十数年の時が経過し、大陸を放浪しながら戦乱の時代の中を生きながらえてきた七星の一族は、運命的な出会いを果たす。

 

 『侵略王』―――苛烈なる戦いの人生をそう呼ばれた、蒼き狼の化身と呼ばれる男との出会いであった。

 

 後に―――大モンゴル帝国の躍進と言われるかの『侵略王』に見出された暗殺一族は、彼の軍団と共に大陸中を駆け巡り、その道程の中で世界中へと広がっていく。

 

 侵略王は彼らを必要とした。連綿と受け継がれてきた七星の技を、魔術を、知識を大陸征服の為に心から必要とし、彼らを厚遇し続けた。

 

 無論、その結末は歴史に刻まれたとおりに。人が寿命に抗う事が出来ぬように、かの侵略王も総てを駆け抜ける前にその生涯を終えた。

 

 されど、彼らは諦めなかった。血で血を繋いでいく妄執の一族は、大陸へと渡った自分たちを救い、在り方を与えてくれた王に誓う。

 

 必ずや世界を、どれ程の時間が経過しようとも、我らは必ずこの大遠征を完遂させて見せると。

 

 強く強く願った。それから幾星霜の時間が過ぎた。気付けば、千年の時が過ぎようとしていた。もはやかの大帝国は過去の存在へと風化し、世界そのものの在り方が大きく変容を遂げようとしていた。

 

されど……、されどである。その意思は、その妄執は今もなおこの世界に生き続けていた。

 

――東欧・セプテム国――

「――――告げる」

 

 手を翳すその前方に魔方陣が敷かれ、そこから明滅する光が漏れていく。それが儀式としての機能が問題なく魔方陣の中で始まったことを意味し、言葉を発した男性も、その後ろで状況を見守る全身を機械の鎧に包んだ男とフードを被った女、そして同様に白いロープに身を包んだ長髪の男性も、その場の全員が魔方陣の行方を見守っていた。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 その言葉を口にする男は、漢服に身を包み、メガネをかけた黒髪短髪の理知的な様子を伺わせる男性であった。その表情に遊びは何処にもない。何処までも真剣に、この魔方陣より浮かび上がって来るであろう存在を前にして、一切の非礼無きようにと、己の全身全霊を掛けて召喚の口上を口にしていく。

 

「はてさて、運命はあやつに微笑んでくれるのかのう」

「微笑むだろうさ。もはや己には何ら関係のないことではあるが、我ら一族はこの悲願の為に血を次代へと残し続けてきた。ならば叶うだろう。でなくば、ここにまで足を運んだ甲斐がない」

 

 女は笑い、男はただその光景の行き着く先を見据える。ただ、言葉の流れは異なっていても、双方ともに、これより起こるであろう想定通りの出来事が起こってくれる方が面白いと踏んでいることに間違いはない。

 

「誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 魔方陣が一層の明滅を放っていく。この空間の中に溜めこまれていた魔力総てが魔方陣の中に吸い込まれていくかのように、魔方陣の中から黄金のエーテルが浮かび上がっていく。それは急速に形を整えていきながら、人間の姿へと転じていく。

 

「――汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!

 

 その姿が誰のものであるのかは召喚が完全に完了するまでは分からない。召喚をすると目論んでいる相手が生前にしようとしていた「手綱」を召喚の媒体として利用したとしても、本当に目的の相手を召喚できるのかはそれこそ、やってみなければわからないのだから。

 

 しかし、男は――星灰狼(シン・フィーラン)は確信を覚えていた。己は必ず自分の求めているサーヴァントを、王を召喚することができるのだと。

 

 今日という日を迎えることにこそ意味があった。何せ、彼の人生は今日この時を迎えるために用意されていたと言ってもいい。

いいや、彼だけではない。彼の父も、祖父も、そしてもっと以前の先祖たちも誰も彼がこの時の為に生きてきたと言ってもイイだろう。

 

 故に―――その妄執ともいうべき願いに奇跡が応える。たった一度の機会を与えてやろうと。再起の機会がここに舞い降りる。

 

 黄金の光と白煙が周囲一帯を包み込む。召喚を果たした男自身さえも思わず顔を守るように腕を前に出した様子であったが、黄金の光が錬成した人体は、果たして確かにその形を得ていた。召喚は成功したのだ。

 

 そして、灰狼はすぐに、己の膝を地面へと突き合わせ、召喚したマスターであるにもかかわらず、臣下の礼を目の前にサーヴァントへと向けた。

 

「問おう―――貴様が、余を呼び寄せたマスターか」

 

「否―――私はマスターに非ず、偉大なるハーンよ。私は貴方の従者、幾星霜の時が過ぎ、盛者必衰の理が世を変えたとしても、なおも変わらず、我が忠心はただ1人の為に。

 我が名は―――星灰狼、我が主よ、我らは約束を果たしに来たのです」

 

 部屋の中に月光が差しこんでくる。月光がその傅く者と佇む者を分け隔てなく照らし、さながら自然のスポットライトのようにその場を照らし出していく。

 

 その様子だけでも、この儀式における召喚が完全な形で成功したことは間違いないだろう。

 

「灰狼……、異なことを口にする。それは余が我が腹心へと与えた唯一の名、それを貴様は何故名乗り、臣下の礼を取る?」

 

「我らが偉大なるハーンより与えられし名を、どうして我々が捨てられましょうか。我々は誓いました。偉大なるハーンが望みし世界帝国の成就、それを果たすまで我らはこの意思を忘れぬようにと、この血脈だけではなく、その名前をも受け継いできました。

 私は貴方に仕えた初代灰狼から数えて19代目―――貴方の願いを叶えるために中華にて雌伏の時を過ごしてきた灰狼の末裔です」

 

 星灰狼―――その名は目の前に立つ人物の固有の名前を意味するだけではない。かつて、島国より飛び出した暗殺一族を纏め上げた人物は、草原の王である侵略王へと謁見し、その実力を以て信任を得るに至った。

 

 彼らの実力は凄まじいものであった。数を揃え部族を統一するまでの侵略王にとって彼らの戦力がどれ程自分を支えてくれたのかを忘れることはなかった。

 

 故に―――侵略王は彼に名を与えた。灰狼、モンゴルに置いて蒼は時に灰という言葉で言いかえられる。

 蒼き狼と言う異名を持った侵略王にとって、灰狼の名を与えることは暗にもう一人の己であると言う意味を持つ称号であり、彼なりの最大の賛辞を与えたことに他ならなかった。

 

 島国から落ち延び、大陸で死に場所を探し求めるだけであった彼らにとって、その与えられた名前の尊さがどれ程であったのかは未来を生きる人間たちにはわからない。

 

 ただ……、星家は歴代当主たちが、灰狼の名前を襲名し、特殊な方法でその記憶と記録を引き継いでいった。叶えることができるのかもわからない誓い、再び侵略王と共に世界制覇に乗りだし、今度こそ必ずや世界を踏破して見せようと言う誓いを愚直に守り続けてきたことこそが、彼らの誓いがどれ程重いものであったのかを証明することに他ならないのではないだろうか。

 

 召喚されたサーヴァント、ライダーは灰狼の臣下としての姿勢を値踏みするように見つめてから、咳払いを一つして。

 

「その魔力の痕跡、確かに貴様は七星の末裔であることに間違いはなかろう。灰狼の魔力の痕跡は昨日のように覚えている。なればこそ、貴様が奴の末裔であると言う事も理解はできる。ならば、貴様は余が聖杯に願う思いも十分に理解できような」

 

「己の受肉による世界制覇でありましょう。『侵略王』チンギス・ハーン、それとも、初めて出会った時のように、テムジン様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」

 

「くくっ、それは余と彼奴の思い出よ。貴様が名を襲名したところで奴であることはなかろう。であれば、そのような気安さは不要だ。星灰狼、我が主にして我が臣下よ。余は貴様と共に新たなる戦場を駆けぬけることを誓おう!!」

「はっ……ありがたき幸せに」

 

 『侵略王』チンギス・ハーン、説明不要なほどに世界に知れ渡ったその名こそ、世界の歴史の中で陸地における最大版図を獲得した大モンゴル帝国の創始者。

 

 モンゴル系の遊牧民族に生まれ、中華世界、アジア世界だけではなく、イスラム世界、ヨーロッパ世界にまで侵略を続け、多くの文明を滅ぼし、世界を呑み込んでいった恐るべき王こそが、目の前の人物であった。

 

 そもそもが人に傅くような存在ではないのだ。もしも、灰狼が臣下ではなく、尊大な魔術師然として接しようとしていれば、彼は間違いなく牙を剥いたことだろう。

 

 しかし、主との関係はライダーにとって最も理想的な関係であり、魔術師として圧倒的な歴史を誇り、個人としても素晴らしい才覚を持つ灰狼はこれより先に聖杯戦争を戦いぬくうえで重要な要素となる。

 

 侵略王は尊大であり、苛烈であり、冷酷無比な戦い方が出来る存在ではあるが、その牙が敵も味方も全て巻き込んで伸ばされるわけではない。臣下の礼を尽し、利用価値が明確に存在しえる相手に対して、抑えつけるような手法を取るのは愚物の手法。

 

 己をサーヴァントと言う役割に押し込んだのも世界制覇の為の一歩として、許容しなければならない問題であると言うのであれば、敢えて受け入れよう。

 

「ふむふむ、そなたがかの有名なる『侵略王』チンギス・ハーンであるか。その貫禄、肉体、そして身体の中に宿る魂、どれをとっても一級品、そなたほど、天に愛されし人もまた特別であろうて。妾は聖杯戦争の趨勢などにはまったく興味もないが、そなたが果たすであろう世界征服という言葉には酷く興味があるぞ。人が見る夢、俗な欲望こそ、世界を回す源である故な」

 

「――――女、貴様もまた英霊か」

 

 不遜に、敬意など欠片もなく、己の立場を慮ることなど全くない語り口で、フードを纏ったロープに身を包み、その手に地球儀のような球体が特徴的な杖を握った女が話しかけた。

ライダーは灰狼へと語りかけていた時よりも、遥かに低い声音を以て女へと己の所在を問う。

 

「聞かずともわかっておろうに。サーヴァント:キャスター、マスターはこの隣におる唐変木よ。妾もこやつも基本的に己の事にしか興味がないのでな、許せよ、侵略王。不遜な物言いは己に対する絶対の自信ゆえ。英霊などと言う矮小な立場に落し込まれたのだ。それくらいの無作法は許してもらわねば割にあうまい」

 

「故に許せと。面白い女だ。己の事にしか興味がないと言うのならば、我に身を委ねてみるがよい。知りえなかった世界を教えてくれよう」

 

「愉快なことを口走る。天命に背くことも出来んかった人間が妾に世界を語るか、その驕りはもはや傲慢ともいえようが、憤怒を覚えるよりもなお愉快であると告げておこうか。

 そなたの物言いは妾への不敬ではあれど、今の妾は肉の身を得たものであれば、そなたに身を委ねてみるも悪くはないかもしれぬな。努々、そなたに恥をかかせぬようにせねばな」

 

「―――面白い、愉快だな。灰狼の末裔よ」

 

 まるで、褥を共にすれば喰われるのはお前の方であると口にする異様さにその場の全員が思わず口ごもる。『侵略王』の逸話を知っても尚、それを口にすることのできる不遜さに、思わずライダーは口元に笑みを零した。

 

 強い戦士と強かな女は嫌いではない。役に立つし、敵に回れば蹂躙する喜びを得ることができる。

 

「はッ、此度の聖杯戦争は些か特殊であります。召喚される英霊は14、過半数へと減らしたが後に通常の聖杯戦争の如く、最後の1騎を決めるために戦うと言うもの。我々とキャスターは共に相手の7騎を滅ぼし尽くすために動きます」

 

「些か敵方は不憫ではあるがな、他の英霊5騎にどのようなものがおるのか、知らぬが、少なくとも妾と侵略王が敵におると言う事実、大抵の英霊にとっては絶望的なおぞましさであろうよ」

 

「キャスターよ、貴様は聖杯を欲するのか?」

 

「――――否、妾は聖杯など欲しはせぬ。そも、万能の願望機など、妾ならばいかようにも実現は可能よ。妾やこやつは錬金術師。己の力量を以て世界の神秘を覆そうとする者たちであれば、己の手で願いを叶えなければ、初志を貫徹することも出来まい。

 安心せよ、侵略王。どのように聖杯戦争の盤面が転がろうとも、妾は聖杯をお前にくれてやろう。そうでなければ、貴様ほどの英霊の召喚の場に立ちながら手を出さぬと言う愚行を犯しはせぬわ」

 

「あくまでも同盟の形を組むこととなるが、己たち七星は、かつて貴殿に拾われ、世界へと散らばった。その恩義に報いるために此度の聖杯戦争を勝ち抜くと決めた。言うまでもなく、それぞれの思惑があることは間違いないが、少なくとも己とキャスターは灰狼と貴殿に聖杯を渡すことに異論はない」

 

「なるほど、理解した」

「王の意向を聞くこともなく、我々の方針を押しつけるような形になった非礼は詫びさせていただきます」

 

「構わぬ。要は順番の問題だ。灰狼の末裔が口にしたように、まずは敵方の7騎を滅ぼす。後に、同盟相手たちで雌雄を決する。どだい、万能の願望機などというものを手にするのだ。誰もが従順であろうはずもない。貴様らもな、キャスターよ」

 

「くく、そう、戦意を向けるな。むず痒くなってしまうではないか」

 

 ライダーは灰狼たちの望む方向性を否定することはなかった。彼にとっては口にしたように所詮、順番の問題にすぎなかった。己に逆らう者たちは総て滅ぼし尽くす、それをどこから攻めるかどうかの話しでしかないのだから、そこで機嫌を損ねる理由などあるはずもない。

 

 よって、ここにライダー陣営とキャスター陣営の公然とした、あるいは秘密裏の同盟は締結された。彼らが口にしたように他の陣営にとっては、この強大な2体のサーヴァントが手を組んでいる状況は、自分たちの願いを叶えるうえで最悪と言ってもいい展開であるかもしれない。

 

「灰狼の末裔、か。して……つがいはどうした?」

 

「…………、あくまでも私は灰狼の名を継いだものです。初代灰狼そのものではありません。オウカ様は初代灰狼と共に最後まで添い遂げました」

 

「そうか……、時とは幾星霜が連なる我らを以てしても覆せぬもの。時に寄り添い、時に残酷に我らへ世界の意思を伝えるものであればこそ。灰狼の幸福を余は祝福し、そして桜花がおらぬ灰狼であるそなたに些かばかりの落胆を覚える。赦せ、末裔よ」

 

「構いませぬ。我らは限りなく近くありながらも決して初代にはなれぬ身。されど、貴方様の現界を以て、我らは一つの壁を突破しました。ここからは私が、19代目の灰狼が、初代様の覇業を引き継がせていただく所存です。その果てに、必ず我々はその身の限界すらも超えることができると信じております」

 

「良き心胆を耳にした。貴様が灰狼の覇業を継ぐと言うのならば、末裔などと口にするのは些か似つかわしくはなかろう。灰狼よ、余と共に時代を超え、再びこの大地に舞い戻った我が臣下よ。余と共に駆けることを許す。貴様が描いた絵図を以て、再び余の覇道の舞台を整えよ」

 

「―――御意、ありがたきお言葉にございます」

 

 契約は結ばれ、令呪は灰狼の腕に刻まれる。最も、その令呪にどれほどの意味があるだろうかと主従は考える。互いの立場が逆転したとしても、今ある主従の形こそ、彼らはあるがままの是であると捉えている。

 

 大陸に渡り、いつかの覇道を心持ちにして、家を繋げてきた「星家」、かつての名を捨て、世界へと散らばった七の血族たちはまもなく、このセプテムへと集ってくる。

 

 その時こそが―――かつての誓いを果たす時に他ならない。

 

「王よ、ご覧いただきたいものがあります」

 

 灰狼は、立ち上がり、月光が差し込む部屋から足を進め、廊下へと渡り、そして地下へと降りていく。

 その後ろにライダーとキャスター、マスターであるカシム・ナジェムが入る。その地下へと降り立つとキャスターが杖で地面をトンと叩くと、一瞬にして地下総てに光が灯された

 

 そこは先ほどまでの部屋とは異なり、明確な明かりに照らされた部屋であった。大きく開かれた広間、しかし、その部屋の中は異様な光景であった。

 

「ほう、これは……」

 

 無数に並べ立てられた培養漕、その一つ一つに人間が管によって結び付けられており、この場において生命そのものが管理されている様子が見て取れた。

 

「我が星家が培ってきた遺伝子操作の技術、アトラス院とカシムの研究によって実現した人体改造技術、そしてキャスターの錬金術を合わせ、我らが悲願、人造七星は遂に実現の域へと至った。

 王よ、これが私からあなたへと捧げる新たなる兵士たち、そしてこのセプテムより始まる新たな覇道の原動力となりましょう」

 

 人造七星―――本来、七星の血脈に連なる者たちでしか使う事が出来ない七星の血、特殊な血継限界であるその魔術回路を、後天的に移植した人間たち。

 

言わば改造人間であり、同時に、七星と言う特異な力を人種も性別も生まれが違えども、平均的に力を与えることができる技術が確立したことを意味している。

 

 七星と言う魔術師たちの一族がいかに圧倒的であったとしても単一個人に世界を制覇することはできない。必ず世界の抑止力、意思の力の前に屈する。世界とはそう簡単に崩れるほど脆いものではないのだから。

 

 しかし、数を揃えればどうか。七星という圧倒的な力を、軍隊として構成することが出来ればどうだろうか。加えてその指揮官が歴史に偉大な名を残した者であったとすればどうか。

 

 時代は幾星霜の内に流れていくモノ、であれば、かつてと同じように戦った所で勝算はない。勝つに足りるだけの要素を繋ぎ合わせなければならないのだから。

 

「我が眷属たち、スプタイらを呼び出し、そして灰狼らと同じ血を持つ者たちが集えば、それはまさに一騎当千。聖杯を手にし、寿命のくびきから解き放たれれば、今度こそ、我らは世界を踏破することができるだろう。

 胸が躍る、聖杯を手にした先には彼奴らと共に駆けぬける日々が待っているのだと思うとな」

 

「お気に召して戴けてなによりです。では、王よ。今暫しの時間をお与えください。英霊たちが集いし時には、この地より再び戦を、あの草原を駆け抜け、未開の地へと駆け抜けた日々を取り戻しましょう」

 

 灰狼は再び頭を下げる。彼にとっての願いの一つはここに叶えられた。故にさらなる願いを叶えるために動くだけである。

 

 その様子を遅れてやってきた最後の1人、セイヴァ―のサーヴァントは眺め、薄く笑みを零す。

 

「10年、我々からすればほんの瞬きのような時間ではありましたが、ようやく此処にまで来ることが出来ました。我らが主よ、まもなく貴方を降誕させることができる。その暁にはどうか、その光を以て、この世界をお救いだください」

 

 誰もいない中空に語りかけるその姿は余人には何を意味しているのかもわからない。しかし、声を掛けられた相手は確かに理解をしている。

 

 まもなくだ、まもなく、今度こそ、もう一度世界へと降り立つが時が来る。

 

『こちらの準備は間もなく終わる。君も来るのだろう、久方ぶりの再会をしようじゃないか―――――桜子』

 

 




Twitterやってます。SVのこぼれ話などを載せています
https://twitter.com/kooldeed
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。