Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

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第7話「ハルジオン」③

――セプテム・『グロリアス・カストルム』――

「あ、レイジ……! このぬいぐるみとっても可愛いと思わない?」

「相変わらず、そういうのが好きなんだな。村にいた頃から、変な生き物が好きだったよな」

 

「えー、変な生き物じゃないってば! ちょっと形は変かもしれないけれど、そこが可愛いんじゃない!」

「俺にはよくわからん」

 

 グロリアス・カストルムの出店が立ち並ぶ中央通りを歩くレイジとターニャはのどかな時間を過ごしている。お店の中を見て回りたいと言ったターニャに付いていく形でレイジはウインドウショッピングに付き合わされていた。

 

 ターニャはさまざまなものに目移りをして、あれもこれもと次々に店の中に入っていく。レイジもターニャもまともな金銭を持ち合わせていないため、店員からすれば煙たがられる存在であるはずだが、今日は王女の凱旋ムードで町全体がお祭りムードになっているからか、大きく注意をされるようなこともなかった。子供二人が仲良く騒ぎあっているくらいであれば微笑ましいと思われているのかもしれないが。

 

(村の時にも、ターニャがよくわからないぬいぐるみを縫って作っている時があったな、一回か二回ではあったけれど、貰った記憶が残っている。あれはいつのことだったかな)

 

 昔のこと過ぎて上手く思い出すことができない。なんとなく、そんなことがあったという記憶は残っているが、思い返そうとするとどうにももやがかかっている様に思える。

 

 レイジにとって、あの村を焼かれてしまった日から、レイジの脳裏にはあの焼かれた村の記憶が強く強く刻まれてしまっている。他の記憶を思い出そうとすればそれを邪魔するように、あの燃え盛る世界の中で、人々の嘆きと絶望を知らせる声が響き渡る世界が映しだされてしまうのだ。

 

(無理もない。あんな地獄を見せられて、何もかも忘れてなんてそんなのは都合が良すぎるんだ。昔の記憶に縋ろうとするなよ、俺。今、ターニャを守り抜くことができるのは俺しかいないんだから)

 

 村が焼かれ、生き残ったのはレイジとターニャの二人だけ、もしも、ここでレイジまでもが命を喪えば、かつての記憶を共有することができる存在はどこにもいなくなってしまう。

 

 周りに誰かがいたとしても、あの村で日々を過ごしていたターニャ・ズヴィズダーはたった一人の生き残りとなってしまう。

 

 それは許すことはできない。幸せな時間を過ごしているのだと実感していても、同時に自分自身の存在理由を改めて玲人は胸に抱く。

 

『―――平和な世界が生まれ、花が咲き誇る。そうすることが、残された人たちに出来る事ですから』

「………」

 

 セレニウム・シルバの慰霊碑で出会った貴族の少女のことを思いだす。平和になった世界には花が咲き誇ることができるのだと、屈託なく語った少女、されど、同時に人が花を吹き飛ばすことを理解し、そうでない世界を作り上げなければならないと願った彼女の言葉をレイジは思い出す。

 

 いくら綺麗に花を添えても、人は自分の私利私欲のためにまた花を吹き飛ばしてしまう。そうしてすべてが終わった後に呟くのだ。どうして、このような地獄が生まれてしまったのか……と。ふざけるな、ありえない。生き残った者が勝者であったとしても、そんな開き直りは許されない。

 

「アンタの言った言葉は確かに正しい。だけど、綺麗ごとだ。綺麗ごとは守る力があって初めて成立する。守る力も持たない多くの連中には、何も届かないんだよ……」

 

 ここでお祭り騒ぎを楽しんでいる人々だって同じだ。悲劇は突然訪れる。ほんの一瞬先に、もしも戦乱が引き起こされれば、彼らは当たり前に謳歌しているはずの平和をあっさりと破壊される。誰も手を差し伸べてくれない地獄の中で、どうしてこんなことにと声を上げる他ないのだ。

 

 平和なんて綺麗ごとだ、それが一番素晴らしいことであったとしても、人は誰だって自分で自分の求める願いを勝ち取るしかない。

 

「………ん?」

 

 その時であった、レイジは自分の近くにひょろひょろと飛んでくる何だかよくわからない赤い妖精のような生き物の姿を見た。疲れているから見る幻影か何かなのかと思うが、隣で霊体化をしているアヴェンジャーもそのよくわからない存在に気付いた様子だった。

 

『あれって、八代朔姫の式神か何かじゃない? 同じような体系の魔術が使われているように見えるけど?』

 

 アヴェンジャーの中に入っている三人のサーヴァントのうち、若い青年の声のサーヴァントがそのひらひらと飛んできている謎生物に対して反応した。

 

 魔術に対して造詣が深いわけではないレイジは朔姫の魔力だ何だと言われても正直よくわからないというのが本音なのだが、アヴェンジャーがそのように言うのであれば害が少ないのであろうと理解し、式神に触れる。

 

 すると、先ほど、大通りで朔姫たちが遭遇した出来事がレイジの脳裏に一気に広がっていく。

 

「あいつら………!」

 

 イメージの中に広がっていく感覚、凱旋パレートを見守る朔姫たちとそんな彼女たちに話しかける二人の人物、そして、そのうちの1人は……

 

「……っ!」

 

 まるで姫のように扱われている銀髪の少女、その少女の姿が、セレニウム・シルバの慰霊碑の前で出会ったあの時の少女と重なり合う。

 

(どうして気付かなかった……! あんな辺境の地に都合よく貴族なんているはずがない。そもそも、女一人であんな慰霊碑に向かうなんてありえない。だから、もしも、あそこにいたとすれば、それは……)

 

 ヴィンセント同様に、セレニウム・シルバでの戦いに参戦するために姿を見せた七星であるに間違いないではないかと今更ながらに気付き歯噛みをする。

 

「レイジ、ねぇねぇ、見て、これ……どうしたの?」

「悪い、ターニャ。俺行かないと……!」

 

 レイジのただならぬ空気から、自分たちの周囲に聖杯戦争の気配が近づいてきていることをターニャも感じ取ったのか、ごくりと息を呑む。彼女も分かっていたことだ。灰狼の掌から逃れたとしても、完全な安全地帯へと向かう事が出来たわけではない。

 

 レイジたちと共に来れば何れ、七星と再びぶつかり合う時が来るのは間違いなく、その時があっさりと訪れただけのことである。

 

「私も行く!」

「ダメだ、ターニャ、お前にもしものことがあったら―――」

 

「今この街で、レイジの傍にいる以上に安全な場所がある?」

「それは……」

 

 レイジは答えに窮する。七星を倒すために戦場へと向かわなければならないが、同時にターニャを放置するわけにもいかない。何せ、レイジの傍にいることが一番の安全策であることは事実なのだから。

 

『いいんじゃない、いざとなればセイバーが助けに来るでしょ』

『むしろ、あれが参戦する方が面倒ではないか?』

『彼女を気にかけて、後れを取るようなら構わず連れて行け、レイジ』

「………わかった」

 

 逡巡はあるが現実的な答えを見出すほかない。そう自分を納得させてレイジとターニャは足を進ませる。その行動もまた時計の針を進めることになるとは知らずに……

 

・・・

 

「ちょっと急展開が過ぎない? 凱旋式を見ていたら、いきなりお姫様に声を掛けられて、そのままお姫様たちの泊まっている領主の御屋敷に連れて来られるなんてさ」

「予定通りというよりも上手くいきすぎてしもうたな、さすがにあっちからいきなり声をかけてくるんは予想外やったわ」

 

「ま、いいんじゃねぇの? コソコソと策をこねくり回す必要が無くなったと考えようぜ。あちらさんだって問答無用で仕掛けてきていない以上は、穏便に終わらせるための方法があるってことだろ? だったら、それでいいじゃねぇか」

 

「交渉が決裂した時には?」

「そうなったら、セレニウム・シルバでの借りを返すだけとも。なぁ、ルシア」

 

「人のことを戦闘狂みたいに言うんじゃないよ。ま、勿論、借りを返すって言うのなら返すまでだけどね。やられっぱなしは性に合わないし。ただ、その可能性は低いかもよ? あのお姫様の色、戦いを求めているって色合いじゃなかったから」

 

 凱旋パレートの場でリゼとヨハンに呼び出された朔姫たちはリゼたちがこの都市の中で宿として使っていた領主の別荘へと連れて来られていた。

 

 あの場で拒否をすればそのまま群衆の中で戦闘が発生する可能性もあった。リゼの立場を考えればそのような行動に打って出る可能性は低いと考えることもできるが、相手は七星の血を引く者たちであり、聖杯戦争の参加者である。セレニウム・シルバの時同様に血気盛んになれば何をしでかして来るのかわからない。

 

 いかにセプテムという敵国の中に住んでいる人々であったとしても無益な犠牲を好まない朔姫としても、あの場での戦闘発展は本意ではなく、リゼの誘いに応じることになった。

 

(もちろん、こっちかてただ、連中の思い通りにされておるわけやない。連中がわざわざうちらを呼びだした理由を探りあてなならん。ウチらはふつうにかんがえれば敵同士、それ以上でもそれ以下でもないし、あのライダー陣営と組めば、ウチらを制圧することなんて容易いハズや、けど、それをしてこないってことは何頭の理由があるんは間違いない)

 

 朔姫としても、オカルティクス・ベリタスにて対峙したライダー陣営との戦いを通して実感をしたのは、このままでは自分たちは勝てないという実感である。

 

 あの場での戦いはライダー陣営が撤退を選んでくれたからこそ何とか生き残ることが出来たが、もしも、正面から激突していれば、間違いなく敗北していたのは自分たちだ。

 

 戦力差が大きすぎる。その上で他にまだ五体のサーヴァントが控えていると考えれば、勝ち目は薄く、しかし、それでも自分たちが生き残っているのが現状だ。詰将棋で言えば限りなく詰みに近い状況であり、どうして自分たちが未だに生かされているのか不思議でならない。その疑問を暴くためのヒントを得ることができる場がここであると踏んでいた。

 エドもアークもルシアも気持ちとしては同じだろう。

 

(レイジのやつには式神放ったし、あれでターニャを安全な場所に向かわすために動くやろ。そうなれば、空気読めんアイツに邪魔されることもなくなるってわけや、我ながら完璧な作戦やな……!)

 

 実際の状況は全く逆に動いているのだが、朔姫は自身の完璧な思慮の下に状況を動かしていると思っている。まさか、レイジがターニャを連れて、こちらに向かってきているなどとは考えもしない。

 

 ガチャリと外側から扉が開く。入ってきたのは、リーゼリット・N・エトワールと護衛騎士であるヨハン・N・シュテルン、そして華美なジャケットに身を包んだ明らかに堅気であるとは思えない人物の三人であった。リゼとヨハン以外のもう一人の人物は静かな態度で入ってきたものの、明らかに殺気を滲ませており、ほんの少しのきっかけで朔姫たちに襲い掛かってきてもおかしくない空気を滲ませている。

 

 たった一人の男の存在によって剣呑な空気が流れている最中ではあるが、中心人物であるリゼは白の正装に身を包んだ状態で会釈をする。

 

「ようこそ、おいで下さいました、皆さま。先ほどは、衆人環視の中で目立たせるようなことをしてしまい申し訳ありませんでした。皆さまであれば、アレが最も穏便にことを進ませるための手段であると考えましたので、ご容赦いただきたいところです」

 

「はッ、それはつまり、俺達だったら、あんたの真意に気付いて話を合わせてくれると思っていた、と。そういう風に解釈していいのかい?」

「お前、こちらの方を誰だと思っている。セプテム国王女であるリーゼリット様だぞ、挨拶の仕方を考えろ!」

 

「いいのよ、ヨハン君。この人たちは私達の国の臣民ではないわ。あくまでも、私達と対立する聖杯戦争の参加者たち、敵対をしている相手にわざわざ敬意を込める必要もない。王宮の箱入り王女である私にもその程度のことは理解できています。

 ですから、今この場では、言葉の使い方などには気を遣わなくて結構です。状況によっては綺麗な言葉を使う事も出来なくなるかもしれませんし」

 

(このお姫様、ただの夢見がかちってわけでもないか。こっちとの交渉次第では、この場で聖杯戦争に発展することもあるってわかってる)

(タズミを討つためにあれだけの軍を動員して、セレニウム・シルバを襲撃しただけのことはあるか……)

 

 ルシアもエドもリゼの言葉に彼女を侮るべき相手ではないことを理解する。言葉の経緯には気を配らなくても言葉の選択1つでこの場の穏やかな空気はいつでも壊れる可能性があることを理解しなければならない。

 

 リゼを含めた三人も用意された大きなテーブルに備え付けられた椅子に腰かける。一目で会議をするための場所であると分かるその部屋はさながら、講和会議か何かをするための場所のようにも見える。

 

「さて、皆さまをここにお呼びしたのは、こちらから二つほど皆様にお聞かせしていただきたいことがあるからです。勿論、セプテムのことではなく、聖杯戦争のことです」

「ここで全員サーヴァントを消滅させろ言われても、そんな脅迫受け入れることができないくらいのことはわかっておるんやろ?」

 

「ええ、まさか、そんな脅迫じみたことを口にするつもりはありませんよ。私達は勝つつもりでこの聖杯戦争に臨んでいますから。最初から皆さんのサーヴァントを消滅させるつもりなら、こちら側も総出で動いています」

 

 つまるところ、総出で動かない理由があるということ。朔姫の予想通りに何かしら、事態が動くであろうことは予測できた。

 

「まず一つ目の問いです。我々側のマスターであるヴィンセント・N・スティラ、彼はセレニウム・シルバで何者かに命を奪われました。それはこの場の誰かが起こしたことですか?」

「何や、そんなん、逆恨みか? それを言うなら、お前らだってタズミやジャスティンを殺しておるやろ!」

 

 ギロリと、リゼの横に座っている男が朔姫を睨みつける。しかし、朔姫は動じない。どんな理由があろうとも、戦場で命を奪われたのならば、恨まれるのはお門違い。そんなことをするのなら、最初から戦場に立つべきではないのだから。

 

「そちらの仰られることももっともです。セレニウム・シルバは戦場でした。戦場に立つ以上、命の奪い合いはどうしても発生する。ですが、その命の奪い合いにどんな意味を持たせるのかも、それぞれの解釈があるべきだと思っています。

名乗り出ていただけないのであればそれ以上のことは求めません。それが私達と貴方がたの今後に良いか悪いかは別としても」

 

「少なくとも、ウチは知らん。つーか、この場におる連中、全員城の中で必死にあくせくしておって、それ以上の戦いなんてできんかったんはお前らもわかっとるやろ。かまかけるんも大概にせーや」

 

「別にお前たちだけのことを聞いているわけじゃない。お前たちの仲間、ロイ・エーデルフェルトと七星桜子、あの二人も含めてだ」

「エーデルフェルトはわからんけど、桜子はウチが雇い主や。そのウチが知らん以上、桜子やない」

 

「随分と信頼されているんですね」

「そういう腹芸できるような器用な女ちゃうからな、そこはウチも不満に思っとる」

 

「ロイに関しても、合流してからずっと城の中で行動していたし違うんじゃないかな?」

「では、お前たちの誰も兄貴の命を奪っていないと? そんなことがあるはずがないだろうが! 舐めてんのか、ここで死ぬ気か、テメェら!!」

 

「ルチアーノ、静かにしなさい!」

「……すみませんねぇ、王女。どうにも感情が抑えられんのですよ」

 

「知っています。ですから、口を積んでおきなさい。この場に同席を許したことが私の慈悲であると、貴方も理解はしていることでしょう」

(ルチアーノ、そういえば、ステッラファミリーの副頭目の名前がそんな名前だったな。であれば、あの男、ヴィンセントの弟分か)

 

 傭兵をやっていたエドワードは裏社会にもある程度精通している。ステッラファミリーといえばイタリアンマフィアとしては相応に名が知れた者たちであり、その頭目である男の周囲の関係くらいは聞きたくなくても聞こえてくる。

 

 目的は復讐、裏社会における命の軽さなど言うまでもないが。反面、血縁以上の繋がりを求めるのが裏社会の人間たちである。ファミリーのボスであるヴィンセントの命を奪われたことでその復讐相手を求めているというのも理解できない話ではない。

 

 レイジがこの場にいなかったのは幸いした。もしも、いれば、彼は悪びれもせずにヴィンセントを殺したのは自分であると主張しただろう。

 

「一つ目の質問については承知しました、納得が出来るのかどうかは別としてもこれ以上の議論にはならないと判断します。では、次に貴方がたはこの聖杯戦争をどのように捉えていますか?」

 

「どのように? 聖杯戦争である以上勝ったやつが聖杯を獲得するって言う認識でいいんじゃないの?」

 

「その通りです。そして、我々七星側は星灰狼に勝利を捧げることが決まっています。これは我らの先祖が大陸に渡ったその時からの約定、侵略王へと総てを捧げるために、七星の祖先が誓った約束。それを我々が願う限り、ライダー陣営の勝利は揺るがないと考えています」

 

「笑えん話だね、その敵対者である俺達はあんたらの目の前に存在しているのに、もう勝った後の話しかよ?」

「では、勝てると思っていますか? 八代朔姫さん、貴女は聡明な人物であると聞いております。この場を代表して、貴女の見解を聞きたいのです」

 

「まぁ、まずもって無理やろうな、あれはちょっと桁が違う。まともにやりあったらウチら全員で掛かっても厳しいやろうな。そこにお前ら七星が結託しておるんなら、尚更、ウチらの行動は単純に、ウチらの延命措置をしておるだけにすぎんかもな」

「ちょっと、お姫、そんな弱気なこと!」

 

「事実やろ、コテンパンにされたんは本当やしな。こいつらだって分かって言っておる。ウチらだけじゃ、ライダー陣営を倒せない。その認識はお前らにとっても重要なんやろ、お姫様?」

「どういうこと、朔ちゃん?」

 

 ニタリと朔姫が笑う、この話を振られた時点でリゼが何を求めているのか彼女には合点が行った。何せ、自分が同じ立場ならやはり同じことを考えただろうという内容であるからだ。

 

「ライダー陣営が勝つ。これはこの聖杯戦争を始める前から決まっている筋書きや、七星連中が結託しておる限り、絶対に崩れることはない。けどな、気分が悪いわな、お姫様からすれば、他国の血のつながりがあるかどうかも分からん連中が我が物顔で王族出し抜いて、好き勝手に勝つために策を弄している。それで犠牲になるんは自国の民と。クッソ笑えるわ、こんなんどんな暗君だろうと気分がええわけないわな!」

 

 血の約定、かつての誓い、七星の悲願、言葉として口にすればどれもこれもが聴こえの良い言葉に聞こえてくる。しかし、それらはどれもこれもが過去に立脚した言葉だ、この国の現実を見ているわけではない。セプテムにもたらされるモノが何かあるわけでもない。

 

「姫さん、あんたの口から言えんのなら、ウチから言うてやろうか? ライダー陣営を倒すためにウチらと手を結びたい。そのために連中の目を盗んでこの場で会談の場を設けたんやろう、あんたは」

「リゼ、君は本当に……」

 

「………、私はセプテム国王女として、数日後に冠を受け取る身として、国家の為に、そしてこの国の民たちのために必要なことを為したいと思っているだけです。過去の約束は大切でしょう。ですが、そのために国土を蹂躙されるのは違う。私は―――セプテムの為に聖杯を使いたい。そのために何が最適なのかを模索しているだけです」

 

 朔姫の言葉にリゼは肯定の言葉を口にしなかった。だが、リゼの口から出た言葉はほとんど灰狼への造反を匂わせるに等しい意味を持ち合わせていた。

 

 七星側のランサー陣営とアーチャー陣営が対ライダー陣営で味方に付く。朔姫たち側から考えても破格の同盟提案であると言えよう。勝てない状況を覆すには相手側の完璧な布陣を崩すしかない。その崩すための手段が提供された。あとは相乗りするかどうかであるが……、

 

(乗らん理由はない。ウチらにとって最も重要なことは単独勢力の時点でバケモンみたいな勢力に成長することができるライダー陣営にどう対処するかや。ライダー陣営を倒し終わった後にこいつらが敵になるとしても、それは最初か分かっていたこと。むしろ、戦いの展開次第ではこいつらが脱落したうえで、ライダー陣営を葬ることができるやもしれん)

 

 リゼやヨハンが危険を承知でこのような話しを持ちかけてくるのは結局の所、朔姫たちと立場が同じだからだ。ライダー陣営を排除して自分が聖杯戦争の勝者になりたい。けれど、自分たちだけでは、あの陣営を排除することができる可能性は非常に低い。

 

 聖杯戦争をどう思っているのかという問いも、勝ちたいのか下りたいのかという問いと解釈できる。勝ちたいのならば、自分たちと手を結ぶ理由は出来るし、下りたいのであれば安全に下りる見返りをリゼ側が要求すれば、灰狼陣営に自分たちの求める見返りを求めることもできるだろう。

 

 朔姫たちにとっても、魅力的な提案ではあるが、それ以上に協力を強制されているであろうリゼとヨハンにとってのリターンが大きい。

 

(箱入りお姫様、連中の使いッパシリの1人思うてたけど、意外に頭が回るやん。腐っても王族ってことか……)

 

 朔姫は周囲の三人に目配せをする。アイコンタクトをすれば、全員が朔姫の考えに同調する反応を示してくれる。ロイと桜子がいないが、前者は強すぎるが故の柔軟性を持ち合わせているし、後者はこの手の話しを好むことは上司である朔姫には分かっている。

 

 同盟締結、喜んで引き受けた上で、まずはライダー陣営への対処を行う。いずれ決着を付けなければならない相手であれば、情報共有も含めて、彼女たちを仲間に引きずり込むことはやぶさかではない。

 

「分かった、ウチらもその提案に――――」

 

 乗ろうと朔姫が提案を受け入れようと口にする間際、領主別邸にて大きな轟音が鳴り響くのが聞こえたのであった。

 

・・・

 

『では、暫し、旧交を温めようじゃないか。君たちとて、私とセイヴァ―に聞きただしたいことがあるのではないかね?』

 

 魔法陣の中から浮かび上がった一つ目の瞳、あからさまに周囲から見ても見慣れない存在が浮かび上がっているというのに、誰も声を上げる素振りはなく、誰もその存在に気づいていない様子だった。

 

「安心したまえ、我らが神の存在は余人には気付けない。我が神が求める相手にだけこの姿は見える。そうしたことができる存在なのだ。超常の存在とはえてしてそうあるべきだろう」

 

 絶対善神アフラ・マズダを呼びだしたセイヴァーは、それが当たり前のことであるかのように語る。本来であればこの世界に存在するはずのない偶像でしかないはずの神が、瞳だけの姿であるとはいえ干渉していることに何一つとして疑問を持たず、むしろ、当たり前のように考えているのは悍ましいとさえいえよう。

 

「聞きたいことは単刀直入に一つよ、このセプテムで何を目論んでいるの? 秋津市の時のように……」

『聞くまでもないだろう、桜子。私の目的は最初から一つ、絶対善神として、顕現し、この世界に絶対の善を敷き、君たち人類を救済することだ。私はそのために生み出され、そして救いを齎すことを望まれている』

 

「そのために聖杯戦争を利用しようとしているのなら間違っているわ! 例え、あなたが本当に絶対的な善なんてものをこの世界に適用することができるのだとしても、その過程で聖杯戦争にこの国の人たちが巻き込まれるのだとしたら、あなたはその時点で絶対的な善だなんて言えない……!」

 

『それはキミの尺度でしかないよ、桜子。君たち人類では決して見出すことができない絶対的な善という存在、私はそれを体現する。誰にも想像することが出来ないのだから、誰もその存在を明らかにすることはできない。そうではないかな?』

 

「話にならないな。禅問答か何かをするつもりならば、他の所でやるべきだぞアフラ・マズダ。少なくとも、10年前の聖杯戦争と同じだ。俺達側の人間が勝とうとも、七星側の人間が聖杯戦争の勝利者になろうとも、お前が求める絶対的な善性を定義することはできない。俺達にも彼らにも変わることのない自分なりの正しさがあるだけだ」

 

『然りだ、ロイ・エーデルフェルト。かつての聖杯戦争の勝利者、勝利者である君であったとしても、絶対的な善を持ち合わせていたわけではない。むしろ、君の人生は悪性に塗れていた。君は限られた者にとって善であっても、多くのモノにとっては悪性存在であると認識されよう』

 

「君たち二人は、我らが絶対神へと、一つの真理を提示していただけた。人間には絶対的な善性を披露することは不可能であると。さもありなん、私もまた同じ意見だ。人は生まれながらに不完全、己のことしか理解できぬし、他人の正しさを認めることができる器の大きさが限られている。であればこそ、我らが神の如き存在を求めずにはいられない。正しさを知らねば人はあまりにも簡単に堕落するが故に」

 

『七星たちの戦いはあくまでも撒き餌だよ。私は彼らが自分の悲願を叶えるための場所を提供した。彼らは私に聖杯戦争を行うことによって、私が顕現するための土壌を作り上げることを約束した。言わば同盟関係だ。如何に私でも、世界というテスクチャに私を馴染ませるには、聖杯程度の奇跡が無ければ不可能だからね』

 

「侵略王たるハーン、彼はこの世界におけるあまねく邪悪に類する存在、人類史にその名を刻んだ悪辣たる侵略者。絶対善神の復活には絶対悪たる存在がいなければならない。ライダーの聖杯戦争への勝利に引き寄せられる形で我らが神はこの世界に顕現を果たすだろう」

 

『そして、その時には桜子、君に是非、見届けてもらいたい。君の母親である桜が封じた私が見出した答えを。私が世界を救済する様を。私を封じた者の娘である君にだけはそれを見届けてもらいたい。君にはセイヴァーと共に私という神の物語を語り継ぐ代弁者の役割を与えたいのだ。この物語の紡ぎ手、主役であってもらいたい』

 

「笑わせないで。私の物語に貴方が活躍する余地なんてこれっぽちも存在しないわ」

『違うよ、桜子、君の物語ではない私の物語だ。私という神話を君が観測し、君が紡いでいく。その役割を与えられているからこそ、君はここに辿り着いたのだ。それを理解しなければならないんだよ。このセプテムにおける聖杯戦争も全ては前座、私が降誕する前の準備段階に過ぎないのだから』

 

「そう、なら、そこのセイヴァーを倒すことが出来れば話も変わってくるのかしら?」

「確かに、七星側にわざわざお前を復活させようと考えている者はいないだろうし、そこの胡散臭い男を倒すことが出来れば案外、お前のことなど考える必要もなくなるかもしれない」

 

 桜子とロイの前にセイバーとランサーが姿を見せる。セイヴァーという未知の存在、未知のクラスを前にしてではあるが、今後、七星との戦いが本格化していくことを考えれば、ここでセイヴァーを叩いておくことには十分な意味がある。放置したところで間違いなく厄ネタになるのが分かりきっている相手を見逃すほど、桜子もロイも甘くはない。

 

『やれやれ、今日は挨拶だけのつもりだったが、できるかい、セイヴァー? いいや、我が神話の紡ぎ手―――ザラスシュトラよ』

「勿論、総ては我らが神の思うがままに。私は善と悪の戦いを紡ぎましょうぞ」

 

「ザラスシュトラって……!」

「ゾロアスター教の開祖、善と悪の二元論の世界を生み出した者、捻りも何もなく、アフラ・マズダにとって最も信頼を置くべき相手ということか」

 

「然り、私の存在理由は我が神に仕えることである。であれば、我が神の大願を叶えるまで、この身はこの地に繋ぎ止めておかねばならぬ。私の存在こそが、我が神をこの地に繋ぎ止めるための楔となっているのだから」

 

「それはいいことを聞いたな」

「ええ、ならば、お前を倒せばその厄介な気配を持つ神を排除することができるということでしょう?」

「貴殿もサーヴァントである以上、こうして対峙した今、我々は聖杯戦争の寄る辺に従ってしのぎを削るだけです……!」

 

 セイバーとランサーがセイヴァーを倒すことが出来れば二人のマスターにとって、イン炎の存在を排除することができることに方針を固める。

 

 そして、セイヴァーは何もない場所から一冊の本を取り出す。

 

「困ったものだ、私はあくまでも預言者だ、君たちのように武芸を披露して歴史に名を残した者ではないのだが……、神の御前だ、無様な姿を見せることはできない。

 我が善と悪の物語、そしてかの哲学者が語りし、超越者のように精々足掻いて見せるよしようじゃないか。

 ――――宝具開帳『ツァラトゥストラはかく語りき(Also sprach Zarathustra)』」

 

 10年前からの因縁を巡る戦いの火ぶたが切られる。しかし、その戦いは奇妙な様相を呈する戦いとなるのであった。

 




これは同盟締結しない予感がマシマシですねー

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