Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

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第9話「星屑ビーナス」③

――グロリアス・カストルム――

「はぁぁぁぁぁぁ? 皇女様と会ったぁぁ? お前、何、トイレットペーパー買っておいたぞみたいなノリで事後報告しとんねん!めちゃくちゃ重要なことやろうが!」

「別に道を歩いていたらたまたま遭遇しただけだ。逐一自分の行動を報告しろとは言われていない。そもそも、連絡したからなんだ? 話をしただけだぞ」

 

 リゼが既にグロリアス・カストルムから出立したころ、遅れる形でレイジたちも出立の準備を始めていた。たった2日間程度の滞在ではあったが、活気あふれるこの都市自体にはもう少しの間、留まりたかったと後ろ髪を引かれるような思いであった朔姫たちであったが、レイジが自分たちの知らない間にリゼと遭遇していたことを聞かされると、一気に場は紛糾したのだった。

 

「でもさ、良く戦闘に発展しなかったね。昨日の勢いのままだったら、皇女様と顔を合わせてすぐに、戦いに発展してもおかしくないくらいの勢いだったのに」

 

「俺だって見境がないわけじゃない。出会ったのは街中だぞ。あの場で戦っていたら、この年の連中に被害が出ていた。俺もアイツもそういうのは望んでいないから戦わなかっただけだ。昨日のように周りに誰もいない所で戦っていたら、奴を逃がすつもりはなかった」

「ほーん、ほんとは、皇女様に惚れて、手が出せなかったとかやないん?」

 

 朔姫はニヤニヤと笑みを浮かべながら、レイジを挑発するように聞く。あからさまにレイジが睨みつけると、くひひと含み笑いを浮かべる辺り、確信犯である。

 

「どうしてそうなる」

「いやだって、お前、むっつりっぽいしな」

 

「髪の毛だけじゃなく、頭までピンク色だったみたいだな」

「隠さんでええって、皇女様は美人様やもんな~、普通じゃ近づくことも出来ん皇女様から直接お話しをしましょうって誘われたんやろ? 思春期のガキにはちいっとばかし刺激が強かったんとちゃうんか~~?」

 

「レイジ、そうなの……?」

「おい、ターニャまでこいつのノリに付き合わないでくれ。そんなわけがない。アイツは敵だ。アイツ自身が何を想っていたとしても、アイツが七星であることに変わりはない。皇女だろうがなんだろうが、七星である限り、俺の敵だ。それ以上でも以下でもない」

 

 朔姫の横で話を聞いていたターニャまでもが、レイジの顔をジト目で見始め、疑いの眼差しを向けていることにレイジは勘弁してくれとひとりごちる。悪ノリで言ってきているのであればまだマシであるが、もしも、ターニャが本気でそれを信じて言ってきているのだとすれば、さすがに始末に負えない。

 

 少なくとも、レイジにとって最も大切な異性はターニャであり、他の女性が彼女と同じ土俵に立つことはない。ましてや、リゼは皇女であり、容姿端麗の美女であったとしても七星の人間だ。そうでなくても、昨日今日素性を知ったばかりの他人である。一目惚れという言葉がこの世界には存在するらしいが、生憎とレイジにはそんな感情は抱いたことなど一度たりともない。

 

「朔ちゃん、あんまりレイジ君を困らせないの」

「ちょっと茶化しただけやん、いんや、レイジが皇女様に惚れてくれて、皇女様と手を結ぶことに同意してくれるんならそれはそれでアリやなって思っただけや。ま、そんなんにいきなりなるようなタマじゃないんはわかっておったけど」

 

「笑えない冗談だな」

「願望でもあったんやけどな。あの姫さん、星灰狼とは対立軸やろ。上手く使えばうちらだって、旨味はあるやん」

 

「ダメだ……、今のアイツじゃ、結局、星灰狼には太刀打ちできない。心の中で何を思い描いていても行動することができない奴を俺は信用することはできない」

「ふーん」

 

 レイジの言葉に朔姫は気のない反応を返す。常に行動で示してきたレイジからすれば、灰狼を心の底で認められないと思っていても、行動に移すことができないリゼは信用に値しないと言いたいのだろう。

 

(逆に言えば、誰かが最後の一押しをしてくれるのを待っておるんかもしれへんってのに、女心のわからんクソガキやな~~、ま、期待なんか最初からしちょらんし、レイジに対して自分から会いに来たんは姫様自身も罪悪感を覚えとるからやろうな。手を結ぶ可能性も全部消えたってわけでもないんかもな)

 

「私は、レイジのために行動したよ!」

「ターニャは……、そうだな、頑張ったな」

「うん、ありがと。もっと褒めていいんだよレイジ!」

 

 ルチアーノから解放されるために力を使った時のことをターニャが口にしたのは、レイジが口にしたリゼの評価に対して、自分はそうではないとレイジに意識させるためなのか。

 

 微笑ましいと言えば微笑ましいが、レイジへの執着が強く滲んでいるようにも感じられる反応だった。もっとも、ターニャを誰よりも大事にしているレイジはターニャの言葉にもあまり違和感を覚えることなく反応している様子だったし、朔姫や桜子もターニャの反応を、同年代の男の気を引こうとする可愛い悪戯程度に解釈している様子だった。

 

 さして気にする程度のことではない、そう解釈するのが普通であるかのように。

 

「んで、お前さんとしてはあの子の変化をどう思っているんだよ、キュロス」

「サーヴァントの真名を気安く呼ばれるのは気持ちがいいものではないぞ、アーク・ザ・フルドライブ、それとも、こちらもライダーと呼んだ方がいいか?」

 

「別にどちらでも構わねぇよ。色々邪推はされているが、こっちとしては隠しているつもりは毛頭ないからな。んで、話を逸らすなよ。どうなんだ?」

 

 レイジたちが騒いでいるのを遠目に霊体化したセイバーに対してアークが話しかけている。特別友誼を結ぶ何かがあったわけでもない二人だが、自然とアークはセイバーを怖れることなく話しかける。

 

「ルチアーノの野郎に危害を加えられそうになった時にターニャが見せたあの力は、明らかに普通の様子じゃなかった。後付で何かを与えられたから使いこなせたってもんだろ。あんなもんを何度も何度も使っていたら、後付けの力に持っていかれるぞ」

「それは警告として口にしているのか?」

 

「先達としての忠告だよ。関わった奴が不幸になるってのは俺のポリシーに反する。だから、目に見える相手くらいは何とかしてやりたいと思っているのさ。お前さんだって同じじゃないか? あの子を過酷な運命から解放するくらいの気概はあると思っているんだけどな」

 

 七星側のサーヴァントとして召喚されたセイバーではあるが、他の七星側が結託をしている中でセイバーだけは、結託するわけではなく、むしろライダー陣営とは袂を分かっている様子である。

 

 積極的にアークたちと協力する素振りは見せないものの、ターニャを保護している限りは積極的に戦闘に出てくる様子もない。簡単に協力をすると口にするような相手ではないことは分かっているが、セイバーのスタンスは今後も重要な要素になる。

 

 こちら側は七星を倒すというレイジの目的を中心として結束している。そのレイジの闘うモチベーションに大きく貢献しているターニャの変化は下手をすれば、急所になりかねない。ターニャの動向次第でレイジ自身にも致命傷を与えられかねないとすれば、その動向に気を張るのも当たり前のことである。

 

「確かにそなたの言う通り、儂はマスターである彼女の変化を望んではいない。しかし、総てを無かったことにするにはあまりにも遅い。我がマスターの身体に刻み込まれた呪いは簡単に打ち消すことはできない。もしも、力を使い続ければ、後天的な力に呑み込まれよう。されど、誰よりもマスター自身がその力を使うことに躊躇がない」

「レイジに守られるだけの自分は嫌だと思っている、か」

 

 レイジはターニャを守りきると誓っているのだろうが、ターニャ自身は少しでもレイジの力になりたいと思っている。その力になった結果として、自分自身を汚染する力であったとしても、いざとなれば使うことを躊躇わないだろう。おそらく、昨日のように、レイジが制止をしたとしても、それを振り切って使うだけの覚悟を既に彼女は決めている。

 

 互いを想いあう心こそがレイジとターニャの関係性の美しさではある。しかし、既に配置された盤面のおぞましさは、そんな二人の美徳こそを燃料として悲劇へと加速させようとしている。それを腹立たしいとアークは思うのだ。

 

「だが、ゆめゆめ忘れるな、アーク・ザ・フルドライブ。我々はみなすべてサーヴァント、願いを叶えることができるマスターと我々はたった一人だけである。どれだけ手を繋いでいようとも儂らは最終的には滅ぼしあわなければならない。その感傷は自身にとって不要なモノとなるやもしれぬことを」

 

「んなもん言われなくても分かっているっての。それを分かったうえで放っておけないと俺は言っているんだよ。俺はハッピーエンド至上主義者だからな」

 

 誰かの悲劇で終わるような結末など認めるつもりはない、それがアークの信念だ。レイジに力を貸すと決めた時から、彼にとっての幸福な結末を迎えさせるために尽力することに変わりはない。

 

「それに、俺からすればお前さんも肩ひじ張りすぎだ。救世主なんて呼ばれているから、お前さんはいつだって誰かを救わなくちゃいけない。それは決して楽な生き方じゃないだろう。そう言える連中が周りにいなかったのかもしれないが」

 

「構わん、それが儂の生き方だ」

「そうかい。まぁいいじゃねぇか。一人くらいはその苦労を案じてくれている奴がいたってよ」

 

――セプテム王都『ルプス・コローナ』正門砦――

 セプテム国における首都『ルプス・コローナ』、グロリアス・カストルムよりもなお広く、その内部に広大な居住地や工業地区、そして荒廃したスラムをも宿している、まさしくセプテムが誇る巨大都市である。王族が住まい、その周辺に人々が入植したことで生まれたセプテムにおいて、この都市が発展してきたことこそが、連綿と受け継がれてきた歴史を物語っている。

 

 他の都市の発展がルプス・コローナに追いついていないのもひとえに開発が遅れたからに繋がるのだが、この都市さえ機能していれば、セプテムの国としての機能は維持されるとまで言われるほどに他都市との差は大きい。

 

 そして、そんな王都へと入る直前、あるいは他の都市との最前線に位置する場所へと建てられたのが都市へと入るための門、そして門の上に建造された前線基地となる砦である。

 

 イェケ・モンゴル・ウルスの軍勢と共にセプテムの地となった場所を制圧した七星の祖たちにとって周囲の総ては敵国であった。セレニウム・シルバもグロリアス・カストルムもオカルティクス・ベリタスもすべてかつてはセプテムではなく他国の領地を力で支配して見せた場所である。

 

 始まりの地となったルプス・コローナには他国から責められた時に備えての巨大な門が建造されている。前線砦としても機能しているこの門は、門の上に大量の弓兵士を配置することで攻めてくる者たちを迎え撃ち、攻城兵器でも突破するのが難しいほどに堅牢かつ巨大な門が築かれている。どんな大軍であったとしても、この場を突破することに時間をかけてしまい、結果として攻めきることを不可能であると認識させるためである。

 

 グロリアス・カストルムより場所によってこの門までやってきたリーゼリット、ヨハン、そして散華の三人は王都へと入る道すがら、慰問の意味も込めて、前線砦へと足を踏み入れた。いずれ、レイジたちがこの正門へと辿り着くことは間違いない。その時に備えての対策を伝える必要があったからだ。

 

「リーゼリット皇女、お久しぶりです。随分と大きくなられましたな」

「ええ、セルバンテス殿、久しぶりですね。まさか、王宮近衛であった貴方がこの正門守備隊の隊長をされているだなんて知りませんでした」

 

「はは、皇女殿下に知らせることでもないでしょう。そも、私は先のスラム掃討戦で一度は皇女殿下の身を危険にさらした大罪人、こうしていまだに軍属の身として籍を置いて戴けているだけでも国王様のご配慮に感謝しなければなりません」

 

「もしかして、私のせいで……」

「気にすることはありません。正門守備隊は王都守護の要、ここに配置されることもまた近衛同様に国軍兵士としての誉れでありますから」

 

 正門守備隊長セルバンテス、鎧に身を包んだ壮年の男性は、年齢を重ねたことで自然と入り込んだであろう顔の皺をたゆませて、誇らしげに笑みを浮かべる。

 

 セルバンテスとリーゼリットは実の所、初対面ではない。かつてセルバンテスは王宮近衛騎士を務めていた。現在のヨハンに通じる役割であり、それを為し遂げることができるほどに彼は優秀な軍人であり騎士であったのだ。

 

 しかし、そんな彼にとっても、リゼにとっても悲劇が起こった。リゼにとっての初陣ともなるスラム浄化作戦である。本来、このスラム浄化作戦は王族に対して反発するスラム側の反抗勢力を撃破するための作戦であり、事前情報でも大した武装をしていないスラム側の反抗勢力を見せしめの意味合いが大きな形で鎮圧するための作戦であった。

 

 赤子の手を捻り潰す程度の作戦、それが王族側の考えであり、王族側の指揮官には若干14歳のリーゼリットが任命された。勿論、初陣であり、七星の血に目覚めた程度しか軍事的な訓練を受けていないリゼにスラムの鎮圧をすることは不可能であり、セルバンテスを始めとした王族近衛の兵士たちが実質的な指揮をすることが決まっていた。

 

 言うなれば、初陣のリゼに花を持たせるための戦いであり、誰が手柄を上げたとしても最終的にはリゼの手柄となるように筋書きが定められた戦いであった。

 

 最初から勝つことが決定づけられた戦い、リゼにとって何一つとして不安を覚えることのない戦いになるはず……であった。しかし、結果を言えば、スラム浄化作戦は成功したものの、作戦に参加した兵士たちにとって悪夢のような出来事が襲ったのだ。

 

 スラム側の反抗勢力による総大勝であるリーゼリットの拉致が敢行され、あろうことか成功してしまったのだ。スラム内で巧みに配置された反抗勢力を前に兵士たちは鎮圧に手間取り、手薄になった本陣周辺を強襲する形でリゼの拉致に反抗側は成功、結局、兵士たちがリゼを発見するまでには丸一日を要することになった。

 

 幸いなことにリゼはスラム側の協力者を得ることによって、五体満足のまま王宮へと戻ることが出来たが、一歩間違えれば、次期王位継承者がスラムの反抗勢力によってなぶり殺しの憂き目に遭う可能性もあったのだ。

 

 報告を受けた王はその失態に激怒し、セルバンテス達王国近衛の人事を刷新した。元の王族近衛たちは辺境警備に追いやられるモノもいれば、大きく兵士としての階級を落す羽目になった者もいる。王都正門の守備隊長に任じられたセルバンテスはその中ではかなりマシな部類であったと言えよう。

 

「正門守備を任じられてからも、リーゼリット様のご成長の話しは良く耳にしておりました。我々がスラム鎮圧の作戦を行ってから数年後にもう一度行われたスラム鎮圧の戦いでは、今度こそ、ご自身の力でその戦いに勝利して見せたと。ご立派です、あの日に我々が出来なかった無念を見事、リーゼリット様が果たしてくださったこと、遠くこの場で耳にした時には、恥ずかしながらわがことのように喜んだものであります」

「はい、そう言って下さるのであれば、私としても肩の荷が下りる気持ちです」

 

「我々の処遇について、リーゼリット様がお気を煩わせることなどありません。これより、リーゼリット様はこの国の女王となるお方、そのような方の心労になることこそ、我々からすれば恐れ多いのです。どうか、堂々としていてくだされ。リーゼリット皇女がおわすこの王都へと這いよる外敵がこの証文を突破することはありません。

 我々は常に、その戦いを想定して訓練をしておりますから」

「心強いな、まさか、ここにまで人造七星が配置されているとは思っていなかったよ」

 

 ヨハンも感心して声を上げる。この正門砦の守備として配置された人造七星たちは、表情は常に厳しく、気を配っている様子が見て取れる。ある意味で正門警備とは、基本的に外敵が襲来することは稀であり、ほとんど起こることがないのである。国境警備隊であればまだしも王都の正門ともあれば、外的勢力がそこに襲来するまでに無数の戦いを引き起こしてここにまで来る。だが、セプテム国は現在対外的な緊張状態はなく、この地にまで進行するほどの内部勢力も存在しない。

 

 言わば、この正門での戦闘になる可能性は極めて低く、そういった場所は往々にして、兵士たちの士気が下がるものである。人間は誰だって平穏が続けば平穏に慣れ親しんでしまう。戦争の極限状態の中に常に身を置いていれば、研ぎ澄まされていく感覚も、いつか起こるかもしれない戦いの時に備え続ける時間が続けば続くほどに、どうしたって気の緩みは起きてしまうものだ。

 

 だからこそ、灰狼の手引きによって配置された兵士の士気の高さはヨハンにも目を見張るものがあると思い知らせた。これであれば、間抜けな正門守備隊によって敗走しましたなどということになることはないだろう。

 

「おや、リーゼリット皇女様、それに散華様とヨハン様でありますか。こうして顔を合わせるの初めてでありましたな」

「お前、サーヴァントか……?」

 

 ヨハンと散華が目を見張る。セルバンテスの背後から、霊体化を解除して姿を見せたのは、他ならぬサーヴァントであったのだ。しかし、不思議なことはそのサーヴァントが誰であるのか見当がつかない。この聖杯戦争に参戦したほとんどのサーヴァントをリゼもヨハンも知っているはずなのに、新たなサーヴァントの存在はまったく記憶になかったのだ。

 

 困惑する二人、訝しむ表情を変えない散華に、そのサーヴァントは恭しく頭を下げる。

 

「私は大ハーンにより召喚されし、イェケ・モンゴル・ウルスの将が一人、ジュベ。此度はアーチャーのサーヴァントとして現界しております。既に大ハーンより直々に命をいただき、この王都正門にて、来たる聖杯戦争のマスターたちを迎撃及び撃破することを命じられました」

 

「ああ、なるほど。では、貴方が灰狼様たちが仰られていた王都へと向かう彼らへの迎撃戦力なのですね。ええ、確かに聞き及んでいます。ライダーによって召喚された四体のサーヴァントがいると」

 

「然り。この身は大ハーンと七星桜雅……いいえ、星灰狼の勝利の為にこの身を捧げることを誓えばこそ、全身全霊を以て彼らを撃滅することを誓うのみであります」

「なるほど、ようやく合点が行ったよ。ここの兵士たちの士気が高いのは、お前という圧倒的な力を持つ存在がいるからだな、アーチャー」

 

「その通りです、ヨハン殿。ジュベ殿がこの前線砦へと姿を見せるまでは我々も此処に敵が来るなどとは考えておりませんでした。ですが、ジュベ殿の圧倒的な力、そしてこのセプテムにて現在行われている聖杯戦争なる戦いを聞かされれば否応なく信じるほかありません。敵は来る。我々はそのように考えて準備をしているにほかなりません」

 

 圧倒的な一人の存在が全体の底上げをするという話は、軍隊の中ではまれにある話だが、ライダーによって派遣されたジュベという存在が、この正門警備隊の意識を大きく変えた。眉唾物でしかない聖杯戦争の話しを、ジュベの圧倒的な技量を以て、セルバンテスにも信じさせた。

 

「王都へと彼らが突入するとなれば、必ずこの正門を突破しなければならない。王都への直接的な侵入は、キャスターの結界によってすでに対策が立てられております。彼らは必ずこの門を突破する必要がある。であれば、話しは簡単だ。私はただ、ここで彼らを射抜く時を待てばいい。大ハーンが宿将の1人にして、弓使いとして名を馳せた私の矢から逃れることができるモノは誰一人としていない!」

 

 アーチャー、ジュベはおもむろに弓を自らの手に握ると、何もないはずの空に向けて矢を放つ。剛弓、まさしくそういう他ない矢がまるで雷に陽に放たれ、中空にて、何かを射抜き、はるか遠くの地にて爆発が生じる。

 

「今のは……!?」

「敵方の哨戒のためか何かでしょう。僅かな気配ではありましたが、私の勘もまだまだ衰えてはいないということでしょう」

 

「へぇ、驚いたね、あんな微弱な反応、おそらくキャスターの式神かな、それを見抜いて、正確無比な一撃を放てるなんて、同じアーチャーとして君に興味が湧いてきたよ」

 

 通常の弓から放たれる矢では決して届かないほどの射程距離の場所でピタリと止まり正門の状況を観察していた式神は一撃を以て吹き飛ばされた。加えて、爆発の結果として、後方の山が吹き飛んでいる。おそらくは先ほど放った矢によって引き起こされたことであろう。

 

 サーヴァントの身で放たれた攻撃であるから当たり前といえば当たり前なのであるが、その威力は同じアーチャーから見ても舌を巻くほどである。

 

「私はさしたる特殊な力を持つアーチャーではありません。ただ弓の実力を鍛えただけの身。ただ、私にも大ハーンの側近としての誇りがある。その誇りを守り抜くために、大ハーンの命令たる侵入者たちの迎撃は必ずや果たして見せましょう」

 

「リーゼリット様やヨハン殿がそのような戦いをしているとは思ってもいませんでした。これは国家を上げての戦争というわけではありませんが、それでも王からの直命であります。再び国王様より与えられた命令とあれば、私はただその命令に従うのみ。今度こそは、自身の役割を果たして見せましょう」

「しかし、戦争に絶対はありません。もしも、我々が突破された暁には、先を託すほかはありません」

 

「………、わかっています。ですが、それを分かったうえで、私は貴殿らの武運を祈りましょう」

「皇女様直々の武運を祈るとのお言葉、勿体ない限りです」

 

 かつて、王宮近衛として傍にいてくれたセルバンテスにリゼは勝利を願うと口にした。けれど、その相手は言うまでもなく、これより王都に来るであろうレイジたちだ。

 

 この正門を防衛するために闘う者たち、そして、戦いが始めればどちらかの勝利でしか終わりを迎えることはない。

 

 アーチャーは確かに強い。もしかしたら、今度こそレイジたちは危ないかもしれない。正門周辺は外敵からの攻撃に備えて開けている。彼らが如何に霊体化を駆使することが出来たとしても、先ほどのジュベの反応を見る限り、完全に身を潜めて正門を突破することは不可能であろう。

 

(レイジ君、君と私は敵同士。言うまでもなくそんなことは分かっている。私は皇女として王都に君たちが来ることを望んじゃいけないと思っている。でも、どうしてだろうね、私達はまたもう一度顔を合わせることになるんじゃないかってそんな漠然とした予感が私にはある)

 

「さて……、どうなるでしょうね」

「ますたぁ、こんな高い所、フラウ来たことがないわ。もっとここからの景色を眺めていたいの!」

 

「ふふっ、ダメですよ、フラウ。軍人さんたちが頑張るのです。私達が邪魔をしてはいけません」

「そんなぁ」

「大丈夫ですよ、またすぐに踊れる時が来ると来ますから」

 

(圧倒的威力の長距離射程で正門へと向かう相手を狙撃する侵略王が腹心、攻城戦であることを考えれば、彼らにとっては不利な戦いであることは否めないでしょう。ですが、彼ら側もサーヴァントを揃えている。果たして、どちらが勝つのか。楽しみですね……)

 

 願わくば自分の得物だけは自分で狩りたい。願望としてはそれくらいではあるが、人造七星たちを応援しつつ、散華は心の中で、桜子たちが正門を突破してくれることを願うのであった。

 

――グロリアス・カストルム近郊――

「あかんな、これ。完璧に対策されとるわ」

「うーん、姫の式神、朔ちゃんと一緒にガッチガチに偽装して飛ばしたんだけど、それでも見切られちゃうってなると、隠形とかの術を使っても厳しんじゃないかなー」

 

 グロリアス・カストルムより出立してすぐに、朔姫はポツリと頭を抱えるように愚痴を漏らした。朔姫は愚痴をこぼしやすい性格であるのは、ここまでの旅路で分かりきっていることではあるが、逆に益のない愚痴については、割と自分の中で消化することは桜子を始めとして仲間たちも十分に理解している。

 

 よって、この愚痴は今後の自分たちの行動に置いて、面倒なことが起こりかねないことを意味していると理解したのだ。

 

「どうしたの? 朔ちゃん、式神って言っていたけど、それって王都に放っておいた式神の事」

 

「せやな、これから敵の本拠地に向かう以上、うちらだってただ、何も考えずに向かうんは自殺行為もいい所や。だから式神放って遠くから状況を観察するつもりやったが、撃ち落とされた」

「撃ち落とされたって言うのは、サーヴァントの仕業ってこと?」

 

「そうだね、その可能性は極めて大きいと思う。姫が式神と繋いでいた気が切断された瞬間、王都の正門から何かが飛んできた。たぶん、弓矢か何かかな。それが着弾した瞬間に式神の反応が消えた。誰にも特定できないように無数の術をかけて、数キロ以上離れたところに配置をしていたのに、だよ!」

「門番、か」

 

「ああ、しかも、数キロ先にいる隠れた相手を正確に狙撃することができるほどの力を備えた相手、間違いなくサーヴァントだろうな」

 

「想定できる相手は、昨日も戦闘をしたアーチャー、か?」

「ううん、魔力の反応が違う、たぶん、アーチャーではないと思う。でも、弓矢を使うサーヴァントであることは間違いない。だから、考えられるとすれば……」

「あのライダーが召喚した四体のサーヴァントの1人、それが門番か……」

 

 侵略王チンギス・ハーンに従う四体のサーヴァントたち、かつての侵略王を支えた忠臣たちをサーヴァントとして召喚した以上、彼らともいずれは刃を交える必要があることは十分に想定できることであった。ある意味で王都へと突入するレイジたちを防ぐための門番としてこれ以上ない布陣であると言えるだろう。

 

「式神で観測している限り、複数のサーヴァント反応があるかは不明、もしかしたら全員で待ち構えているかもしれないよ」

「うーん、それはどうだろう。全員で攻撃を仕掛けてくるならわざわざ待ち構えているようなことをせずに、姿を見せてきてもおかしくないように思えるけれど」

 

 考えていたとしても答えを出すことはできない。ただ一つだけ確かなこととしては、正門へと向かう自分たちがあの長距離射撃の的として狙われること、そして長距離射撃を突破しなければ、王都へと突入することはできないということである。

 

「姿を隠して、近づくって言うのは?」

「無理だろうね、式神っていう生命反応が限りなく小さい相手にも正確に射撃を打ち込んできた相手だよ。どれだけ姿を完全に隠したとしても人間って言うのは、完全に存在を隠すことはできない。数キロ先まで狙撃できる相手に気付かれずに、その数キロを私ら全員が踏破するなんてのはさすがに夢物語じゃない?」

 

 姿を隠して必死に近づいても一度でも発見されれば、後はいかに速く突破することができるかどうかの強行軍に変わる。サーヴァントはまだいいが、マスターたちで数キロの行程を、超距離狙撃をかいくぐりながら辿りつけるものなど、それこそロイくらいしかいない。そのロイであっても、サーヴァントの攻撃に晒され続ければ消耗は隠せない。もしも、敵方がそのロイの消耗を狙っているのだとすれば、最悪の一手にもなりかねないのだ。

 

「想定できる攻略法としては三つやな、奴ら以上の射程で狙撃手を打ち抜くか、狙撃を喰らっても倒れることなく門まで突っ切るか、あるいは狙撃をものともしない速度で一気に正門まで辿り着くか」

 

「それ、どれもこれも一長一短って感じじゃない?」

「まぁな、だからこその夢物語やろ」

 

 数キロ先の相手を狙撃できるアーチャーは存在しないし、サーヴァントの攻撃に何度も何度も受け止めた上で相手を制圧できる耐久力は厳しい。アークやルシアがそれに該当するが、もしも、他に敵手がいればその消耗した状態で戦えるほど楽ではない。

 

 そして、スピードであるが、それもアーチャーがもしも、スピードを考慮したうえで攻撃が出来るほどの技巧を持っていれば、危険が伴う。最初から無傷で勝利をしようとすれば、どれも困難を伴う。誰かを犠牲にする選択肢を取れば、成功確率は格段に跳ね上がるが、朔姫もそれを出来る限りは良しとはしたくない。

 

 自分の判断で相手の命を奪ってしまうことに責任を持ちたくないというわけではない。まだ王都正門、しかも、本来のサーヴァントたちを相手にする戦いではない状況で、こちら側の戦力を削られるなど、それこそ相手側の思う壺だ。自分たちは協力して何とかここまで切り抜けてくることが出来た。戦力が減れば、もしもの場合に備えることができない可能性は非常に高い。

 

「アヴェンジャーの宝具で一気にワープするって言うのは?」

「できなくはないかもしれんが、魔力が空っぽになるのぉ。もしも、増援があれば役立たずになるのは目に見えておるし、もしも、魔力障壁などが用意されておればそれだけでも罠に引っかかるしのぉ」

 

 ハンニバルのアルプス越えがもっとも、適した宝具ではあるが、消耗が激しい。アヴェンジャー自身の他の宝具は使用できなくなり、なおかつ一度は使っている宝具だ。対策が施されているとすれば、辿り着いた瞬間の回避はほぼ不可能だ。

 

「そもそも、王都の中に入っていない以上、転移は出来んしな。あくまでも一度は通った場所に転移することができるのが我が宝具よ」

 

 となると、難しい。レイジやアヴェンジャーは未だに王都の中には入っていないのだから。作戦方針を決めかねている中で、はぁ、とため息を零した上で、おもむろにルシアが手を挙げた。

 

「いいよ、やってやろうじゃないか。誰かが覚悟を決めなくちゃいけないのなら、私も覚悟を決める時が来たってことだ。バーサーカーから与えられた力、これだってこういう時に使うために与えられたんだろうからね」

 

 悪竜ファヴニールより与えられた不死の呪い、それを使う時が来たのだとルシアは宣言して見せたのであった。

 

第9話「星屑ビーナス」――――了

 

次回―――第10話「ラズライト」

 




次回は、4日後の土曜日更新となります、よろしくお願いします!

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