Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

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第10話「ラズライト」②

――王都『ルプス・コローナ』正門――

「よし、正門に辿り着いたな」

「ここまでして、ようやく第一段階完了だね」

 

「せやな、こっちからも増援送りたいところやけど、まずはアークやルシアとの合流が先や。無事は無事やと思うけど、消耗もしとる。セイバーが正門の上に昇って、人造七星たちの足並みが乱れている。今がチャンスや」

 

 正門突破の為にあえて陽動の役目を買って出てくれた二人の救出がまずは第一優先、その上でセイバーへの増援を送ることを朔姫は決める。

 

「大丈夫だ、セイバーならあの程度の戦力であれば必ず排除してくれる」

 

 正門突破だけを考えるのであれば、勿論、セイバーへの増援を送り込むべきだが、逆に言えば、遠距離から徹底的な攻撃を仕掛ける相手の懐に入ることが出来た。人造七星たちは1人1人の戦力としてはセイバーには全く及ばない。及ぶ可能性があるとすれば、ジュベただ1人であるが弓矢が主体であることから、懐に入られた時点でかなりの不利であることは言うまでもない。

 

 要するにこの戦いは近づけるかどうかの戦いであった。何があろうとも正門に近づけさせないようにしていたジュベ側の戦力と何があろうとも突破して懐に入りたかったセイバーの戦いはセイバーに軍配が上がった。

 

 勿論、そこに至るまでにはアークやルシアの陽動、そしてエドワードの魔弾の助力があればこそではあったが、相手が地の利を利用していることに対してこちらは数の利を使っただけのこと、決して非難されるようなことはない。

 

「いや、懐に入ることが出来た程度で安心できる相手ではない。大ハーンの忠臣が一人、ジュベ。モンゴル高原統一より常に大ハーンに付き従ってきた歴戦の名将、思惑通りの状況を崩されたからといってそれだけで終わるような存在では断じてない」

 

 ただ、アヴェンジャーだけは明確にその希望的観測を否定する。同じ遊牧民族の出身として大モンゴル帝国の後進帝国を作り上げた者として建国の英雄たちのことはよく理解している。ハーンの息子たちやスブタイのような歴史に恐怖を刻んだ者たちには劣れども、ジュベもまた英雄と呼ばれるに相応しき存在であることは言うに及ばず。

 

「なら、保険をかけておくに越したことはないわな」

 

 朔姫が口にした戦場、いまだ何が起こるのか最後まで分からないその場所にて始まった戦いがどのように転がってもいいように最後の一手を踏む準備を始める。

 

「くっ、昇ってこられたか……!」

 

 この正門守備を任されているセルバンテスは思わず言葉を失いかけてしまう。ジュベより話を聞かされていた敵が精強なことは分かっていた。自分たちが生きている世界とは別の世界、魔術師たちの領域で行われている聖杯戦争の参加者たちはまさしく一騎当千、下手をすれば、セルバンテスの目の前で山をも砕いて見せたジュベでさえも及ばない可能性は十分にあるとジュベは語っていた。

 

 しかしながら、セルバンテスもこの戦いを見て初めは、この正門へと辿り着くことなどありえないと考えていた。何せ、人造七星たちは凄まじかった。一糸乱れぬ連携を以って、次々と放たれていく矢、そしてジュベ自身の圧倒的な力を見れば、この軍勢が敗北することなどありえないだろうと考えたのだ。

 

 しかし、今、セルバンテスの目の前には圧倒的な暴力の嵐が吹き荒れている。人造七星、そしてジュベの迎撃を踏み越える形で突入してきたセイバーは突入した。あの迎撃をどのように突破したというのかと言葉を失いかけてしまうが、セルバンテスはすぐに勝機を取り戻した。何にしても敵はこの正門を突破しようとしている。

 

(ここを踏み越えれば、賊をリーゼリット様や国王の下へと向かわせることになる。それだけはダメだ、あの時の様な不甲斐ない結末は絶対に認められない……!)

 

「ジュベ殿、指揮は私が!」

「ああ、任せるぞセルバンテス殿、人造七星たちを頼む。私は――――」

「たぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 掛け声が上がるとともに、セイバーの片割れポルクスが颶風のごとき勢いで、ジュベを破壊するためにその手に握る刃を振るう。対してジュベは腰に下げている剣を抜き放ち、迎撃する。ぶつかりあう刃と刃、英霊同士の激突はただ刃がぶつかり合ったという状況だけでしかないというのに、周囲に大きな余波を生み出す。

 

「侵略王チンギス・ハーンの四駿が一、ジュベだ。此度はアーチャーとして顕現している」

「セイバー、ディオスクロイが片割れポルクス、正規の英霊でもなく、ここまでの実力を発揮すること驚嘆に値しますが、それもここまで。私と兄様がここで貴方を討ちます!」

 

「近づけば、それで勝利をすることができるとでも思ったのか? 片腹痛い。私はただの弓兵にあらず、大ハーンとともに駆け抜けた一人の戦士だ!」

 

 その身を翻し、ポルクスの攻撃をいなすと同時に足を払い、すぐに弓を構えると、矢が放たれる。放たれた矢をポルクスが回避すればそれで、着弾した場所の地形が吹き飛ぶほどの威力が引き出される。

 

「ポルクス!」

「兄様!」

 

 ジュベとポルクスが戦闘を始めたことに気付いたカストロも戦闘へと参加して二対一の状況を作り上げる。双子神として、ふたご座のモチーフにもされたディオスクロイ兄妹はやはり二人での戦いにおいて、もっとも真価を発揮する。剣術に秀でたポルクスと彼女をサポートするカストロ、その双方が交わってこそ、彼らの持ち味が発揮される。

 

「ただの人間風情がここまで随分と暴れまわってくれたものだ。ここで滅びることを受け入れるがいい」

 

「神であろうとなんであろうと、対峙した相手の総てを屠って来たのが我らだ。神など恐れぬ。怖れるのは唯一つ、大ハーンの力にもなれずに、滅びゆく己だけだ」

「そうか。ならば、その怖れを現実にしてくれよう。貴様は何もすることが出来ずに、ここで俺とポルクスによって滅ぼされるのだ!」

 

 声を上げるとともにジュベを滅ぼすという心情を形にしたようにセイバーの猛撃が始まる。先の鍔迫り合いのようにポルクス単体ではなく、そこに光の盾を用いたカストロの援護が入るだけで、ジュベは二人を倒すための手を打つことが極端に難しくなっていく。

 

 ギリシアに名高き双子神であったとしても、戦闘経験、戦場での空気を読む力はジュベに軍配が上がる。生涯を無数の戦場で生きてきたジュベの在り方に追随できる者はそう多くはない。

 

 とはいえである。単純なスペックだけで見れば、神話に名高き導き神の実力は折り紙つきだ。なおかつ、彼らのマスターはロイ・エーデルフェルト、魔力面において、セイバーがどれだけ縦横無尽に動き回ったとしても、魔力不足を心配することがないということ自体が二人にとっての最大のアドバンテージといってもいいだろう。

 

 通常のマスターであればディオスクロイ兄妹が好き放題に暴れまわるようなことになれば、早々に魔力切れを引き起こしてしまい、自滅の道を辿ることになるのは目に見えている。

 

「ふっ、セルバンテス殿に指揮を任せて正解だったな。これは他人に気を回している余裕はない」

 

 果たして、自分が目の前のサーヴァントを倒すことができるのかどうか。一騎当千の英雄であることは間違いなく、彼らを倒すことが出来れば、侵略王にとってこれ以上ないほどの手柄を持ち帰ることができるだろう。

 

(一度目の生を受けた時に、私はウルスへと戻るその道すがら、病で命を落とした。大ハーンと共に戦場を駆け抜け続け、最後までお仕えすることを望んでおきながら、その役目を果たすことは出来なかった。二度目の生を与えられた以上、今度こそは大ハーンに我が忠義の証を残す……!)

 

 何としても突破しなければならないと思っているセイバーに対してジュベもまた何としても負けられないと思っている理由は存在する。それがたとえ、自己満足の領域に過ぎない現代に蘇った影法師の願いに過ぎなかったとしても、譲れない願いであることに変わりはない。

 

「ジュベ殿は心配するな、あともう少しだ、討ち漏らした敵を討て!」

 

 そして、セイバーとジュベの戦いが続く最中で、セイバーの襲撃を生き残った人造七星たちはいまだに、アークとルシアを狙っての攻撃を継続していた。ジュベからセルバンテスに指揮官が変わり、柔軟な指揮を行うことは出来なくなった。

 

いかにセルバンテスがお王族近衛にまで昇進するほどの人物であったとしても、イェケ・モンゴル・ウルスの大将軍格であるジュベと比較してしまえば、その実力が見通りしてしまうことは致し方ない。

 

 セルバンテスもそれは分かっている。自分がジュベに及ぶことはなく、それ故にこそ初志を貫徹することに集中する。

 

「ちっ、セイバーの奴が辿り着いたってのに、まだまだ、攻勢が終わる気配はないな」

「くぅ……はぁ……はぁ……」

 

「ルシア、辛いのなら下がっておけ。セイバーが到達した時点で俺らの役目はほとんど終わりを迎えている。お前がこれ以上身体を張る必要もない」

「ははっ、心配してくれてんの? 優しい所もあるじゃん」

 

「馬鹿野郎、優しい所しかないだろうが。あんな山をも砕くような矢を何度も何度も体に受けて、まともでいられると思う方が馬鹿げているだろうが。人間、一度だって死ぬことをどうしようもなく忌避するんだ。お前はよく頑張ったよ」

「………っ」

 

 身体の再生こそ常に起こり続け、五体満足の状態を維持しているが、その実の所、一撃受けるごとに五体の総てが吹き飛んでいてもおかしくないほどのダメージがその身に降りかかってきていたのだ。

 

 いかに聖堂教会の執行者であったとしても、ルシアがサーヴァントではなく只の人間であることは事実だ。その痛みに何度も何度も耐え抜きながら、自分の役割を懸命にこなそうとしたことを誰が笑う事が出来るのか。

 

 誰よりも間近で彼女の奮闘を見ていたからこそ、アークは笑う事無く彼女の奮闘を労う。その言葉にまだ自分たちの危機が全て過ぎ去ったわけでもないというのに、ルシアの目尻に涙が浮かんでくる。

 

「はは、まったくおかしいの。素性の知れないわけわからない男に優しい言葉掛けられたくらいで、さ。こんなの、バカな女そのままじゃん。聖堂教会の執行者が情けないったらありゃしないよ」

 

 自嘲するようにルシアは自分の弱い所を見事に突かれてしまったことに弱音を口にする。聖杯戦争に参加した者として、自分の弱さを曝け出すことが自分を不利にさせることは重々承知していることではあるが、ルシアとて人間だ、その気持ちを抱くこと自体はありえないわけではない。

 

 ただ、ルシアは涙を呑んで、決意したように前を向く。

 

「うん、決めた。ずっと躊躇していたし、この戦いが始まるまではずっと自分に本当にやれるのかって思っていたけどさ、私もバーサーカーが残してくれたこの指輪の力で戦うよ。運命なんて言葉を使うのはあんまり好きじゃないけれど、きっと、私はそうするために今も此処にいるんだと思うから」

 

「ルシア、お前、本気なのか?」

「本気も、本気だよ。そもそも、命を張っているのは私だけじゃない。あんだけ成りが小さくても、自分の譲れないものの為に戦っているレイジだっている。お姫様だってそう、桜子や他の皆も。だったら、私も私なりに出来ることがしたい。ニーベルングの指輪を持っている私だからこそ、できることが、きっとあるはずだと思うんだ」

 

 擬似的ではあっても、今のルシアは不死身の力を手に入れている。それがいつなくなるのかもわからないが、七星の陣営と戦ううえでまともな攻撃では死なないという力は大きな意味を持ち得る。それこそ、アヴェンジャーの中にいる青年が口にしたようにルシアの存在がジョーカーとしての機能を果たす時が来るかもしれない。

 

「そういうわけだから、あともうちょい頑張ろうか。セイバーはきっと勝ってくれる。その為に私らは最後まで陽動をする。それがベストな流れってもんでしょ」

「だな」

 

 ルシア自身の強さを目の当たりにして、アークは困ったような笑みを浮かべる。さて、まだまだ過酷な時間つぶしになるが、希望がないわけではない。であれば最後まで頑張ることができる。誰もが必死に闘っていることは確かなことなのだから。

 

「話には聞いていたがおぞましいな。これだけの矢を受けてもなお倒れないとは。リーゼリット様やヨハン殿はこのような者たちと戦っておられるのか」

 

 再び行動を開始したアークとルシアに対して、セルバンテスは思わず悪態をついてしまう。まともな人間の戦い方ではない。

 

そもそも、この正門はセプテム国の王門である。此処を突破されれば、王族たちのいる都へと辿り着いてしまう以上、絶対防衛死守線だ。そして、人造七星たちにはその防衛を担うだけの力があることをセルバンテスも理解していた。だからこそ、たった二人、いや、ジュベと戦っている者も含めれば三人、三人程度でこの正門を突破しようとしている者たちがいることに狂気を感じる他ないのだ。

 

 目の前でそれを実行しようとする者たち、こんな者たちを何があろうと王族たちの下に向かわせはしない。その気持ちだけがセルバンテスの胸のうちに宿る未知の存在への恐怖心すらも塗り替えて戦うことを強要していく。

 

 あの時のような無様な結末にはさせない。その想いが―――

 

「セルバンテス殿!」

「――――っ!!」

「七星に連なる者ならば、お前も俺の敵だッ!」

 

 ジュベからの声を受けてセルバンテスは咄嗟に剣を抜き取り、迫ってきた大剣と激突する。しかし激突した瞬間に、大剣の形状が変化し、無数の刃が連結された蛇腹剣の計上へと変わると、セルバンテスの防御をすり抜ける形で鎧に刃たちが叩き付けられ、セルバンテスの身体が仰け反る。

 

「ちっ、鎧の上からじゃ、これだと威力不足か」

「レイジ、あまり時間をかけるなよ。儂の宝具でお前をここまで連れて来たんだ。魔力も随分使っておるからな」

 

「ああ、分かっている」

「新手……、いや、こんな少年までもが」

 

 新たに正門砦の上に出現したのは黒のコートを着込んだ少年とジュベと似たような武装に身を包んだ男であった。セルバンテスに対して戦意を剥き出しにする少年に思わず息を呑む。このような年齢の少年までもが参加しているのかと瞠目する。

 

 まるであのスラム鎮圧戦の時のようだとかつての記憶を掘り返す。生活に困窮し、王族への反抗を企てるしか生きる術を失ってしまったスラムの住人達は老若男女を問わずに戦いに参加していた。無差別に相手を鎮圧しなければならないあの後味の悪さは経験した者でしか理解できないのだろう。

 

 その時の感覚が甦りそうだった。

 

「何故、君のような少年が……」

「ふん、お前たちはいつもそうだな。どうして、お前のようなガキがと聞いてくる。誰だって好きでやっているわけじゃない。戦わなければいけない理由があったから、こうして戦っているんだ!」

 

 何故と問うセルバンテスに対して、お前たちはいつもそうだと告げるレイジの表情にはどこか悲しみさえも浮かんでいるように見える。憎悪は抱いている、されど、それを向ける相手は違うことを分かったうえで、倒さなければならないのだと思うことはきっと悲しいことなのだろう。

 

「俺は、七星たちに村を焼かれた。大切な人たちの命を奪われた。だから、この正門を突破して七星たちをすべて潰す。それを邪魔するのならば、誰であろうとも俺はそれを突破していく!!」

 

 少年のいでたちでありながらも大人であるセルバンテスに伍するように戦うレイジの身体能力は恐るべき力であるが、それ以上にセルバンテスの琴線に触れたのはレイジの戦う理由だった。

 

「故郷を焼かれた、か。なるほど、同情はしよう。だが、それがどうした」

「何をッッ!」

 

「同情はしよう、哀れみもしよう。どんな事情があろうとも、故郷を焼かれた人間の心に去来するのが怒りと無力さ、そして果てに浮かぶのが憎悪であることは私も十分に理解している。だが、それでこの門を突破させることなどできない。そんな個人の事情で国を揺るがすようなことを認めるわけには断じていかないのだ。

 それを許せば、我々軍人の存在価値がなくなる!!」

 

 一個人の国家への反感、或いは自身の不幸を理由にした反逆行為を許すことなど断じてできない。個人的な同情と軍人として国を守るということは全くの別問題だ。

 

「君たちは聖杯戦争なるものを戦っているらしい。答えろ、少年、君はその戦いに勝利を慕うのか、それとも、リーゼリット様たちを害したいと思っているのか、どちらだ!」

 

「聖杯戦争の勝利なんてものはどうでもいい。俺は、俺は只、村を焼いた七星たちを滅ぼすだけだ。七星がこの国の王族であるのなら、俺はそいつらを潰す。でなければ、この国は、何も変わらない!」

「よく言った、ならば、君は敵だ。私は決して君たちを通しはしない!」

 

 聖杯戦争の敵として対峙をするのであれば、セルバンテスにとっては無関係な相手といえたかもしれない。この正門を突破しようとする者たちの多くは決して彼と敵対する理由など本来は存在しえない。

 

 だが、レイジだけは違う。彼が七星を倒すことを目的としているのであれば、それはセプテムという国を転覆させることにもつながりかねない。レイジがそのような反国家的な思想を持っていなかったとしても、レイジという存在が、もしも、国王やリーゼリットの命を奪うようなことになれば、反国王的な勢力は一気に勢いを強め、レイジという存在を祀り上げるかもしれない。

 

 そうでなかったとしても、火種を抱え込んでいるセプテムにとって、レイジという存在は只の少年という名目で討ち捨てるわけにはいかない。

 

「私はあの日に誓ったのだ。もう二度とリーゼリット様や王族の方々を危険に晒すわけにはいかないと。あの日の胸を裂くような痛みをもう二度と経験しまいと。だから、お前をこの先に通すわけにはいかない。この命を賭して、お前はここで倒す!」

「ちぃぃっ! 邪魔だぁぁぁぁ!」

 

 セルバンテスとレイジの戦闘に呼応する形で人造七星たちがレイジへと狙いを定めて攻撃を仕掛けてくる。セルバンテスはそのような命令をしていない、これはかうまでも人造七星たちが、アークやルシアを倒す事よりもレイジを倒すことを優先したのだろう。

 

 レイジは蛇腹剣を周囲に放ち、人造七星たちがその刃に切り裂かれ、魔力を失った所を、アヴェンジャーが首を斬りおとす。同様に、アヴェンジャーの攻撃で怯んだところをレイジの刃が裂き、人造七星の身体が、正門の下へと堕ちていく。落下すればひとたまりもない高さである。

 

『こいつら、レイジを狙っているね』

『どういう理屈かはわからんがな。レイジと戦っているあの指揮官はそのような命令をしておるまい』

『あるいは、最初からここでレイジを倒すために彼らは配置されていたとかかな』

 

 アヴェンジャーはレイジがここに飛び込んできてからすぐに動きを変え始めた人造七星たちに不信感を浮かべる。何か明らかに明確な意思が加わった。

 

 もっとも、その目論みを彼らが話すことはないだろう。彼らは星灰狼によって操られた雑兵だ。雑兵はほとんど意志を持たない。余計なことを考えている暇があれば、この場で全て叩き潰してしまった方が早いし、レイジ自身もセルバンテスの相手で精いっぱいだ。

 

 ヨハンとの戦いでも露わになったが、そもそもレイジは正規の訓練を受けていない。故にこそ、真っ当な訓練を受けて軍人、あるいは騎士としてその身を戦うために最適化した者たちにはどうしても後れを取らざるを得ない。

 

絶対に願いを成就させるという精神力だけでは突破できない壁という者がこの世界には存在している。どうしたって抗えない、そうした壁を突破するには、これまでに積み上げてきた技術や経験値が必要となる。

 

 もしも、そうした積み重ねを持ち合わせていないのだとすればあとは当たり前のように破れ去っていくしかない。

 

「私はこのセプテムという国の平穏を守るために戦っている。脅威を齎す者を排除することこそが私達の責務、リーゼリット様たちの下には辿りつかせはしない。この国はこれまでも、そしてこれからも繁栄と平穏を享受していくのだ。我らの築き上げてきた国をお前の身勝手な恨みで崩そうとするなッッ!!」

「平穏、だと……? 笑わせるなよ、お前たちの偽りの平穏なんて知ったことじゃないんだよッッ!」

 

 そう、当たり前のように敗れ去るしかない。もしも、それを覆すことができるとすれば、それは――――天賦の才能か、あるいはここで終わるわけがないという何らかの意思が介在した時であろう。

 

「くっ、ああああああああああああああ!!」

「ぬっ、がああああああああ」

 

 レイジの絶叫が正門に響く。その絶叫と共に大剣がセルバンテスの剣を押し返し、鎧の上から斬撃を通し、鎧の一部が砕ける。これまで通用しなかった攻撃が通用したのは何らかの変化かあるいは、レイジの身体を覆いこむように浮かび上がったその魔力のオーラが故か。

 

「あの魔力の気配は……」

『うむ、ライダー陣営と戦った時と同じじゃな』

 

 傍で戦い、レイジと契約で繋がっているアヴェンジャーも気づく。レイジの身体をどす黒い魔力のオーラが覆い、本来のレイジであれば持ち得ない何かしらの力を与えている。七星殺しの魔力の爆発、それはどこか、七星が発現する魔力にも近しいものであった。

 

「ッッ……はぁぁぁぁ、星脈、拝領―――憑血接続、開始ィィィィ!!」

「ぬっ、がああああああああ」

 

 レイジが口元から詠唱を口にすると同時に、自身の武器である大剣が再び形を変えて、蛇腹剣の形へと変わると、周囲の敵を払うように放ち、群がってくる人造七星たちの首が一気に切断される。魔力で強化されているはずの精鋭集団であるはずの七星がいとも簡単にであり、セルバンテスの鎧を今度も突き抜け、彼の全身に傷痕を生み出す。

 

「繁栄と平穏が生み出される? お前たちが守り抜いてきたものはなんだ? この門の先にある人間どもの平穏だけか? その裏で、何人もの人間の嘆きを、怨嗟を聞かずに否定して、ただ、七星の願う世界を生み出そうとした結果がこの国だろう!! お前たちは守りぬいてきたんじゃない。ただ目を背けて来ただけだ。本当に戦わなければならない相手と戦わずに、偽りの平穏を、誰もが享受できる平和の証の信じて来ただけだ!!

 わかるはずだ、お前にも!! 戦う力があるのなら、戦う相手から目を逸らすなよ!!」

 

「知ったような口を利くなッ!! 守りたいと願って何が悪い、誰かが幸福を得れば誰かが不幸になる。ああ、その通りだ。この世界は誰もが幸福を勝ち取れるような世界じゃない。平穏の裏で嘆き悲しむ者たちがいることなど重々承知している。

 しかし、だからどうした! 我々はこの国を守る、この国が存在すること自体がこの国の多くの人間を幸福に導くことになると信じている。屋台骨が折れれば今度はより多くの人々を不幸に晒すことになる。お前の主張はただそれだけだ。自分の恨みのためにより多くの人間に不幸になることを強要しているだけだ!」

 

「そんなことはさせないッ!」

「王族の命を奪うということのおぞましさを知らぬ者が何を言うか! 支える者がいるからこそ、統治する者がいるからこそ一つになれるのだ。セプテムという国の総てが清廉潔白ではなかったとしても、国を動かすために受け入れなければならない必要悪は存在する。幸福を得るために誰かを犠牲にする選択を取らざるを得ないことはあるのだ!」

 

「そんなことを許容しているから、お前たちは目を逸らしているというんだ!」

「子供の戯言をいつまでも口にするな!」

 

 形勢が逆転し、レイジがセルバンテスを押し込める状況になる最中で、レイジを否定するセルバンテスは胸の中に痛みを突きつけられる。

 

 レイジの語ることもまた正しいのだ。胸に去来するのはあのスラムを浄化する戦い、王族への怨嗟に塗れ、自分たちの生活から目を逸らし、臭いものに蓋をするように浄化を始めた者たちへの精一杯の怒りを吐きだすための戦い、果たしてあの戦いはどちらに正義があったのだろうか。

 

鎮圧する側として戦うセルバンテスの目に、正義はなかったように思えた。悲しいくらいに、あれは虐殺だった。数年後のリーゼリットが率いる二度目のスラム浄化作戦が引き起こされるきっかけも怨嗟を呼び起こすほどの蹂躙を引き起こしてしまったからに他ならないのだ。

 

(彼の言うことは正しいのだろう。国家を運営する上でどうしても犠牲は出る。多くの人々はその犠牲を許容し、自分が手を汚さないために我々のような存在がいる。怨嗟を口にされるのは慣れている。恨みは少年だろうが老人だろうが変わらない。それをいちいち受け入れていれば国は回らない)

 

 セプテムを守護する者として否定をするべき事実であることは間違いない。それをどうしても否定することが難しいと思うのは、そうした恨みを持ちながらも、それでもリゼの命の恩人となりえた相手を知っているからだろうか。

 

 恨みを覚えて、その為に戦いながら、お前の答えはどうなのだと挑みかかるように声を上げてくる少年に彼の面影を自然と重ねていることに、セルバンテスは戦いの最中でありながら自重する。

 

「俺はお前たちとは違う、俺の行為が許されないとしても、復讐が苦行なのだとしても、俺は絶対に諦めない。俺の戦いの果てに、こんな地獄のような世界に、花を咲かせることができるんだって信じている!」

 

 例えそれが子供の戯言であると否定されるようなことであったとしても、不可能であると笑われたとしても、レイジは絶対に諦めない。そのゴールが何処にあるのかわからないとしても、辿り着くまで疾走を続ける。七星を全て倒すなんて言う奇跡と呼べることができるのだとしたら、きっと、それも叶えることができるはずだと信じて。

 

「花を咲かせる、か……」

 

 ポツリとセルバンテスは声を漏らした。聞くべきでないことは分かっていたけれども、身体の傷が疼き、痛みをこらえて、されど、やはり総てをこらえることが出来ずに漏らした声と共に、レイジの刃がその身体へと向くための瞬間が生まれる。

 

「ああ、私は、もしかしたら……あの日から死に場所を探していたのかもしれないな」

 

 正門守備を命じられて、ここに残ると言った時からずっと、ここで自分が終わることを予見していたのかもしれない。スラムでリーゼリットが攫われたことに責任を覚えていた。王の許しを与えられても、結局は生き汚くなれなかったのは、あの日に総てを置いてきてしまったからなのかもしれない。

 

 レイジの大剣が袈裟切りにセルバンテスの身体を切り裂き、鮮血が血しぶきとなって空に舞い、目の前で切り倒したレイジへと付着する。

 

「きっと、正しいのはアンタだ。俺の言うことなんて、アンタの言う通りにガキの戯言でしかないかもしれない。自分が許されるなんて思っていない。咎は受けるさ、必ずな。だけど、まだ、その時じゃない」

 

 七星以外の人間に手を掛けること、絶対に避けられるなどと思っていなかったし、いつかはそうなると分かっていた。これが罪であったとしても、レイジは立ち止まらない。総ての報いは七星を倒しきった後に受ける。

 

 命を奪ってきた者たちに贖う事が出来るとすれば、それは花を咲かせることしかないのだろうと思うからこそ、レイジはまだ止まれないのだ。

 

「セルバンテス殿、そうか、やられたか」

 

 レイジとセルバンテスとの戦いに決着がついたことを理解したジュベはこの場の防衛の戦いがほぼ失敗を迎えたことを悟った。人造七星たちもレイジとアヴェンジャーの転移によってほぼ全滅状態の憂き目にあい、なおかつ、指揮官であったセルバンテスは戦死、そして自身だけが残ったが、セイバーだけと互角の戦いを繰り広げている時点でたかが知れている。

 

(あとは、私自身がこの場で退くべきかどうかという話だな。勿論、偉大なる大ハーンの下へと戻り、我ら四駿の総てを結集すれば彼らを倒すことも決して不可能なことではないだろうが……)

 

 脳裏に浮かんだ撤退の二文字、されど、ジュベはあえてセイバーへと踏み込み、切っ先をカストロへと叩き付ける。

 

「ぐぅぅ!」

「退かぬ、ただ1人になろうとも、我は大ハーンが信頼せし者、ジュベ。この場の防衛を任された以上、死力を尽くして貴様たちを1人でも多く葬るのみ!!」

 

 その言葉を口にすると同時にジュベはこの第二の生における先を捨てた。己の命は此処で燃やし尽くす。例え、それが回避することのできない死へと向かう旅路であったとしても、この場で逃げることを忠臣である彼は認めることができない。

 

「もはや大勢は決しているというのに」

「いいや、まだだとも。私がいる限り、この場所は未だ不落。お前たちをここで脱落させることこそが、大ハーンへの最後の奉仕と私は定めた!」

 

 あの時のように途中で脱落するようなことは御免こうむりたい、ならばこそ、此度は戦場での死に場所を。

 

「兄様」

「ああ、決めるぞ、ポルクス! この男を排除するには、倒す以外に道はない!」

 

 なおも食らいつこうとするジュベを前に、これ以上の時間をかけるべきではないとカストロとポルクスは判断する。人造七星たちをレイジが鎮圧した以上、速やかにこの場を突破することが寛容。その時にて、背後から狙われることがないように、この場で確実にジュベは消滅させる。

 

 距離を取り、対峙をする二人の英霊、そしてそれを迎え撃つ歴戦の英雄、三人全員が肌で感じている。次の衝突こそが決着の時を迎えるであろうと。

 

「我らは導きの神、進む者たちを照らす導きの星!」

「ならば讃えよ!我らの星を!」

 

 ポルクスとカストロが片手を掲げ、伸ばした先で手が触れあった瞬間に、二人の身体を黄金の魔力が覆う、それは一時的な神格の復活、かつて人の手によって零落させられた神話の復活に他ならない。

 

「来るか、宝具がッッ!」

「畏れよ。」

「崇めよ。」

 

 ジュベも必殺の一撃が来ることを予期し弓を構えんとするが、その瞬間に二人は一歩を踏みこみ、そしてその瞬間に消失した。

 

「天にて輝く者、導きの星!」

「我らはここに降り立たん!」

「疾いっ――――、ぬっ、がああああああああ」

 

 一瞬、瞬きのような一瞬のうち無数の攻撃がジュベを襲う。さながら二人は踊るようにジュベの攻撃をカストロが防御し、防御の一瞬先にはポルクスの斬撃が迫る。ポルクスの攻撃を躱せば、次はカストロの徒手が迫る。どちらにしても変わらない。どちらかの攻撃を避ければ次は別の攻撃が来るだけ。

 

 双子神の絶対的なコンビネーション、どんな場所であろうとも、どんな敵であろうとも、彼らが力を合わせれば、どんな敵であろうとも屠る光速の舞踊がここに完成を果たした。

 

「「『双神賛歌(ディオスクレス・テュンダリダイ)』!!」」

 

 導きの神ディオスクロイ兄妹、彼らには特別な宝具は圧倒的な破壊力を持ち合わせた武器は存在しない。そんな神話の中に出てくるようなものを確かに彼らは持ち合わせていないが、彼らには光の速さを発揮する身体能力と決して刃こぼれすることなく、砕けることもない光の剣と盾が存在する。

 

 それこそが彼らの圧倒的な力、神話の再現、光の速さで動く存在を捕らえきることなど出来ない。そのあまりにも当たり前の事実こそが彼らの真骨頂であるのだから。

 

 その光速のコンビネーションを前にジュベは圧倒される。彼もまた歴戦の戦士ではあるが、光の如き速度を持って攻撃を続ける二人に反応することはやはり出来ず、結果的に仕留めきれなかったことこそが、彼の敗因となったことを理解する。

 

「これで――――」

「終わりだぁぁぁぁぁ!!」

 

 同時にジュベへと突貫してくる二人を感知しながらも、ここまでに無数のダメージを与えられてきたジュベの身体は動かない。それはすなわち、彼にとっての敗北を意味するが、その決着がつく瞬間に不思議なことにジュベは笑みを浮かべた。

 

「大ハーン、此度も御身の傍で逝くことの出来ぬこの身をお許しを。そして同時に、どうか此度の侵略も楽しみ下され。きゃつらは見事、我が屍を踏み越えて、貴方の敵であることを証明した」

 

 正門防衛ならず、それは同時に、彼らが侵略王の敵手になるに相応しい存在であるということの証明でもあることを、争うに足りる存在であると認めて、ジュベの首が胴体から離れて、宙を舞う。

 

 サーヴァントとしての絶命を迎えたジュベの身体と首は魔力を失いながら消失を果たしていく。

 

「ただの人間風情の英霊にしては、中々にやる相手だった。褒めてやろう」

「ええ、実に素晴らしき戦士でした。敵でなかったとすれば、称賛するに相応しい人物であったと」

 

 激戦を終えたセイバーは、対峙する相手として戦ったアーチャー:ジュベの戦いに弔いの言葉を口にする。それに何かの意味があるわけではないが、戦う運命にあった者同士として、強敵であった者に対して向けられるたった一つの贐であるのかもしれない。

 

「正門の制圧は完了した。全員と合流次第、速やかに王都へと突入するべきだろう」

 

正門を守備する人造七星たちは残らず全滅した。見逃した相手がいたとしても、全員を倒していたとしても、遠からず星灰狼の耳に此度の情報は届くだろう。

 

追手を差し向けてくるよりも先に王都の中で潜伏しなければ、敵にとってのホームである王都での不利を隠すことは出来なくなる。

 

「いよいよだなレイジ」

「ああ……、七星たちの本拠地、ようやくここにまで辿り着くことが出来た……!」

 

 先に広がるは王都ルプス・コローナ、この先に残る七星たちが待っている。七星滅殺、それを果たすためにいざ、先へと進もう。流してきた血の先にあるものを見つけるために。

 




いよいよ王都に突入!ここからが本番だ!

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