Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

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1日が投稿遅くなってしまって、申し訳ありませんでした。


第10話「ラズライト」③

――王都ルプス・コローナ・王宮――

「正門の部隊が、全滅……!? そ、れじゃあ、セルバンテス殿も」

「ああ、配備されていた人造七星も、ライダーの配下であったアーチャーも全員が戦死した。八代朔姫たちはこのルプス・コローナの内部に突入したとみていいだろう」

 

「居場所はわかっているの?」

「正門を突破した時点で隠密術式を使って潜伏しているらしい。王宮近衛たちが血眼になって捜しているよ。いずれは見つかるだろうが、あっちだってルプス・コローナに入ればこうなることは分かっていたはずだ。全力で身を隠すだろうね」

 

 王都正門が突破されたことは瞬く間に王宮にも伝えられた。レイジたちが正門にて戦闘を始めた瞬間に、伝令役であった人造七星は正門から王宮へと戻り、状況の仔細を報告し、錬金術によって戦場を観察したキャスターも同様の報告を口にした。

 

 国王を始めとした主要な七星の関係者には情報が伝達され、公務に取り掛かっていたリゼの下にもヨハンを通じて、その状況が報告されたのだ。

 

「セルバンテス……、アレが最後の会話になるなんて、またしても……ヴィンセントおじ様に続いて、また私は何も知らない間に……」

 

「仕方がなかった。セルバンテス殿は自分の職務に殉じられた。もしも、奴らを素通りさせたとしても正門の守備隊長として罰せられただろう。だから――――」

「だから、死んで良かったって言うこと……?」

 

「そういうつもりはない。気を悪くしたのなら謝る。だが、少なくとも、彼が命を賭したことは彼自身の選択だ。君が気に病む必要はない。僕たちは聖杯戦争の参加者として彼らを討つ。それが何よりもセルバンテス殿に対しての手向けとなるはずだ」

 

 こうなることは正門にセルバンテスが残ると口にした時からヨハンにも分かっていた。サーヴァントたちを引き連れた軍勢を相手に魔術師でもないものが戦いを挑めばこうなることは目に見えている。それでも、セルバンテスには譲れない意地があった。

 

(俺だって同じだ。もしも、リゼを守るために自分の命が必要になったらどんなに止められたって、絶対にリゼを守るために戦う)

 

 同じ守る者を持つ身として立派であったと思う。だからこそ今度は自分たちがそれを引き継がなければならないのだ。

 

「リゼ、君は数日後に加冠の儀を控えている。まずはそちらに集中するべきだ。星灰狼たちが動く。連中が本気になれば、アイツらを倒すのは造作もないはずだ。君が気に掛けるべきことじゃない」

「そう、だけど……」

 

「確かに、彼らをうまく使えば、君の願いを叶えるために有利に働いたかもしれないが、それでこのルプス・コローナが災禍に晒されるのは君だって望まないだろう?

 彼らは速やかに倒されるべきだ」

 

 そこに自分自身の私情が入り込んでいるのを自覚したうえでヨハンはそう告げる。どうしたって聖杯戦争は七星側の勝利に終わる。であればリゼが無駄に闘う必要はない。戦った結果として、グロリアス・カストルムのように血迷った行動をされてしまうことがヨハンからすれば一番困ってしまうのだから。

 

(確かにヨハン君の言っていることは正しい、間違っていないことは分かっている。でも、私は本当にそれでいいのだろうか? また私は状況に流されているだけになっているんじゃないか……)

 

 内心でそう思いながらも大きな流れを変えることはできない。皇女として必要な儀式が待っている以上、リゼが大きな行動をとることはできない。またしても、自分の知らないところで状況が動いてしまいそうな感覚に苦い思いを浮かべるが、それを覆す方法をリゼは持ち合わせていない。

 

・・・

 

「ジュベ殿は残念でしたな」

「だが、連中はジュベを破るという証を立てた。認めざるを得まい、鎧袖一触で以前は蹂躙したが、彼奴らは余が侵略し、蹂躙するに相応しき敵であることを」

 

 正門陥落が最初に伝えられた星灰狼は自分たちの手駒の一つであるジュベの敗北を聞きながらも、冷静な様子を保っていた。確かにジュベはライダーへの忠誠心も強く、かつて七星桜雅と桜華の兄妹も世話になった大恩ある人物である。

 

 だが、あくまでも今はサーヴァントの身、ライダーの宝具として召喚された以上、聖杯戦争が終われば改めて再会することもできるであろうし、これはどだい戦争だ。仲間1人1人の死に一喜一憂している場合ではない。

 

 灰狼からすれば、複数サーヴァントを従えた軍勢を少数の人造七星とサーヴァント一騎で足止めするほどの戦果を挙げた時点でジュベは称賛に値するほどの活躍を為したと言えるほどだと考えている。

 

 シニカルに、冷酷に、聖杯戦争を勝ち抜く魔術師としての顔を覗かせながら灰狼は未だ自分の掌を抜け出すことができない者たちの奮闘を心から歓迎する。一歩ずつ、一歩ずつ、確かに流れは灰狼側に傾いてきている。

 

「敵であることは認めよう。血沸き肉躍る戦いを彩ってくれるだろう。だがしかし、それはそれとして、我が配下であるジュベを討ち取ったことの礼を、いいや、報いを与えてやらねばなるまい」

「………、出撃なされるおつもりですか」

 

「不満か、灰狼。余は聖杯戦争を実行する。お前がそれを拒否する理由は何処にもないと思うが? それとも、腹の中に収めている思惑として困るのか?」

「ご冗談を。私はあくまでも王の臣下です。王の邪魔をするつもりなど毛頭ありませぬ」

 

 少しばかり予想外ではあった。ジュベが討ち取られる可能性は十二分に理解をしていたはずだ、もしも、本気で敵を潰したいと考えているのならば、それこそ四駿を全て動員することも出来たというのに、ライダーはあえてしなかった。

 

 その上でジュベを討ち取られたことへの報復をするという発想、まともに考えれば矛盾していると考えるのが当たり前ではあるが、モンゴル民族の硬い絆で結ばれてきたライダーとその配下たちには合理性など消し飛ばした先の絆というものがあるのだろう。

 

(勿論、私の中の桜雅は侵略王の願いを叶えることを望んでいる。それを違えるつもりはない。ただ、灰狼には灰狼の願いがある。アベルと彼女の覚醒を促す意味でも、侵略王の出陣に対してうまく立ち回らなければな)

 

 ライダーが出陣を口にした以上、その思惑を翻すことは難しい。であれば、そこから身を取るほかない。

 

「ジェルメに管理をさせている例の実験体も出撃させることのお許しを戴きたい」

「任せる。あれはお前の管轄だ。ジェルメには奴の扱いを含めてお前の好きにさせるように伝えてある」

 

「ありがたきお言葉、では、出陣の準備をさせていただきます。今、しばらくのお時間を」

 

 そう口にして、灰狼はライダーの下を離れ、王宮の別室へと足を運ぶ。扉を開けば、まるで獣のように灰狼を睨みつける四肢を拘束された少年の姿があった。

 

「貴様ァァァァ」

「喜べ実験体402号、お前に仇を討たせてやる。お前から彼女を奪った男が許せないだろう?」

 

「お前も、お前も……、ぎぃああああああああ」

「逆らうな、お前は私に生かされている。私の為に働け。私の為に命を捧げろ。それだけがお前が今も生かされている理由なのだから」

 

 拘束が無ければ今にも灰狼に飛びかかりそうな少年の様子を見ながら灰狼は冷酷に笑う。お前に自由などない。それが灰狼の結論であり、彼が決して自由にならない理由なのだ。

 

――王都ルプス・コローナ・スラム街――

「なんだ、あいつらは?」

「わからん、昨日からは言ってきたよそ者だ。近づくなよ、反体制派の連中が既にノサれたらしい」

 

「おいおい、今の反対派だって数年前とほとんど変わらないくらいに勢力を盛り返しているはずだろ? その連中を倒したってのか、あの連中が……?」

「いいじゃないか、上手く使えば、王族共に一泡吹かせてやれるかもしれない。まもなくあのイケすかない皇女が国王の冠を受け継ぐって言うじゃねぇか。上手くいきゃぁ」

 

「ああ、あの皇女様を俺らの好きに出来るかもしれねぇ」

「裏切り者のヨハンの目の前でな、へへ」

 

 王都ルプス・コローナ、セプテムの中でもっとも繁栄した都市、その都市は王都と呼ばれるだけあって、セプテムという国の中でもっとも繁栄している都市であると言えよう。しかし、どんな都市にも、暗部は存在する。栄光とは切り離された場所、発展を享受するためにあえて存在する必要悪、それこそがこのスラム街、ルプス・コローナの中でドロップアウトした者たちが住まう、あるいは生きていけないような輩が集う場所である。

 

 スラムの中は常に喧騒に包まれている。此処にいる者たちの多くは自分たちがこのような場所にいる理由が分からないと思っている者たちばかりだ。

 

いつか這いあがる、王族を恨みに思っている。世界そのものを壊したいと思っている。それぞれの主張は様々ではあるが、彼らは皆、現状に不満を持ち、たびたび、セプテムの王族たちはこのスラムの浄化作戦を行ってきた。数年前にリーゼリット皇女による第二次スラム鎮圧作戦によって、一度は鳴りを潜めた反抗勢力は再びその勢いを取り戻しつつあったのだ。

 

 何せ、数日後にはリゼが正式に国王としての戴冠をする。それは祝福されて然るべきであるが、彼らにとっては全く別の意味を持っている。国王就任を機に三回目のスラム討伐が行われる可能性だ。

 

 リゼを良く知る者であれば、むやみやたらな浄化作戦が行われる可能性が低いことを理解できるかもしれないが、彼らは皇族への恨みを募らせている。たとえ、リゼが否定をしたとしても穿った反応をするのは目に見えていると言えるだろう。

 

 そんなスラムの中に、正門を突破したレイジたち一同は入り込んでいた。本来であればそのまま王宮へと突撃するのが最も手っ取り早いだろうが、おそらく既に正門が突破されたことは王宮に伝わっている。厳重警備体制の中で七星側の全員と戦うようなことになれば、命が幾つあっても足りない。

 

 数日に開かれるリゼの加冠の儀が行われた時こそが、警備が厳重なように見えて、最も動きやすいタイミングであると言える。それまでは出来る限り息を潜めるつもりでいるが……、

 

「はヵ、しょうもな。あんな連中と一緒にされてると思うと、いますぐここ飛びだしたくなるわ」

「朔ちゃんも口の悪さは変わんなくない★?」

 

「はー? うちのツッコミは上品かつキレがあるって定評なんやぞ!」

「それ、神祇省の忖度込の評判なんじゃないの~?」

 

「腐れシスターにはウチの素晴らしさがわからんみたいやな~」

「朔ちゃん、上品さもキレもなにもないよー」

 

 などと軽口を叩きあっているが、実際の所、目の前の光景は彼女たちにとってもあまり気持ちのいいものではない。彼らスラムの人間たちの総てが悪逆の心を持っているわけではない。むしろ、そうならざるを得なかった者たちなのだろう。

 

 ここはまさしく王都の闇、絢爛豪華な王都の横に吐き捨てられた汚濁だ。

 

「酷い色だね、みんな、にごりきっている。最初からそんな色はしていなかったんだと思うよ。元々はもっと綺麗な色をした心だったのに、この土地の中にいることで淀み切ってしまっている」

 

 人の感情を色で見極めることができるルシアはこのスラムの中にいる人々の心の穢れを見抜く。ただ、生まれついての穢れというわけではなく、ここに流れ着いた、あるいはここに来たきっかけによって汚れてしまったのではないかと付け足した上でである。

 

「私達は此処までセプテムの街をいくつか見てきた。オカルティクス・ベリタスのように誰もいなくなってしまった街はまだしも、セレニウム・シルバもグロリアス・カストルムもとても活気があった。この国そのものが陰惨な空気を吸っているわけじゃきっとないと思う。でも、だからこそ不思議なんだよね。どうしてこのスラムをそのままにしているんだろうって」

 

「ま、こんなもんを王都の中に残しておいてもいいことないわな。話しを聞いている感じ、このスラムの中で何度か反乱も起こっているみたいやし、敢えてここをそのまま残しておくってのも意味わからんわな」

 

 目の上でのたんこぶであるスラムは本来放置するのではなく、総てを解体してしまうような判断を下せば、問題が解決できる可能性は非常に高い。エトワール王朝はあえてそれをしようとしていないようにうかがえる。

 

 わざとスラムを放置して、王国の民たちに優越感を抱かせる政策を取っているのであればまだ納得が出来るが、このスラムの人間たちを見る限り、彼らの怒りの矛先はむしろ王族だ。自分たちの生活が良くならないのは意図的にスラムを冷遇している王族にあると考えるのであれば分断政策をしている意味も薄い。

 

「ま、そこらの事情をウチらが考察しても仕方ないんやよ。ウチらは国家転覆を狙っておるわけでもなし、余計な事情に首突っ込むんはクソガキ一人の事情で十分や」

 

「ですね、朔姫殿の考えでよろしいと思います。私達は聖杯戦争を戦っております。それは魔術師同士の争いであり、国家間の争いではありません。わざわざ火種を生み出すようなことをする必要もないと思います」

 

 朔姫の言葉にアステロパイオスも追従する。かつて国家間戦争に駆り出された彼女であるからこそ分かる空気というものもある。レイジを含めてここに集っている者たちは国家を相手取って戦うということができる様子はない。

 

 それができるのは策謀に長けた朔姫か、あるいは圧倒的な力を持っているロイだけだ。他はどれだけの特殊な力を持っていたとしても、数の理屈で磨り潰されるのが関の山だろう。相手取っているのはセプテム国そのものではなく、敵対している七星の血族たち。そこをはき違えないように戦っていくほかないのだ。

 

(あるいはこんな掃き溜めをあえて作っておく意味でもあるんかってことやけどな。ま、七星なんて胡散臭い連中や。闇の深いことの一つや二つしておったとしても不思議やない。そもそも、王族相手にまともな戦が出来るなんて、スラムの連中ってのはたいそうな奴がおるんやな、ま、知らんけど)

 

 鼻につく事実ではあるが、朔姫はそれ以上追及すること早めた。抱え込んだところで碌なことにならないのは分かっている。

 

「ま、私らは別にいいけどさ、レイジとかターニャにとってはこの環境決していいものではないよね」

「あの復讐クソガキマンは別にええやろ。ターニャはまぁ、そうやな。ここの連中に感化されて悪い影響を覚えるんは困るわな」

 

「そういう意味でも本当は別に拠点を手に入れたいところだよね。いつまでこの王都にいることになるかもわからないけど」

「聖杯戦争に勝ち残るには結局の所、他の陣営を倒すしかない。七星側も時間をかけてくることはないように思えますが……」

 

 1カ月も2か月も滞在するようなことはないだろうとは全員が思っている。早ければ数日、長くても数週間の間に総てに決着はつく。その時に果たしてどれだけの仲間が残っているのかは知れない。ここまでは七星側も威力偵察的な面が多かった。しかし、王都という彼らにとっても本拠地といえる場所にまで突入した以上、ここからは彼らの攻撃もより激しさを増すであろうことは容易に想像できる。

 

 誰もが無事に最後まで切り抜けることができるなんてことはきっと夢物語だ。それは過酷な結末よりも皆で幸せを掴むことができることを望む桜子であっても、難しいと思わずにはいられないことなのだ。

 

「………」

「ロイ、どうしたの?」

 

「いや、何か気配を感じると思ってね。誰かから見られているような」

「まぁ、周りからは確かに色者扱いで見られているような感じはするけれど」

 

「確かにそれはそうなんだが、そういう感じじゃなくて、もっと高い所から―――」

「あっ痛ぁぁぁぁ!」

 

 ロイが何かの視線に勘付くような反応を浮かべていると、のしのしとスラムの中を歩いていた朔姫に対して何かがぶつかる。どうやらそれは投げつけられた石のようであった。

 

「よそ者は出て行けぇぇぇ!!」

「ちょ、待―――痛ぁぁぁ、おらぁぁぁぁ、このクソガキ共、お前ら、誰に向かって石投げとんじゃ、国際問題にすんぞぉぉぉぉ!! あぁん!?」

 

「ちょ、朔ちゃん抑えて抑えて!!」

「離せ桜子ぉぉ、こりゃ立派な国際問題や!!」

 

「ちょっとあんたたち、尻もしない相手にいきなり石なんて投げつけちゃダメでしょ!!」

「うるさい、お前ら余所者どもだろ! 何をしにきやがった!」

 

「また俺達から居場所を奪うために来たんだ!」

「どうせ、お前らも王国の回し者なんだろ!」

 

 石を投げつけた少年の下にわらわらと同じくらいの年齢の少年たちが姿を見せる。彼らは一目見るだけでもみずぼらしい姿をしており、子供たちがまっとうな成長を促すことができるような場所ではないことは明らかであった。

 

「あー、私達は王国側の人間じゃないよ。そうだねぇ、旅の者って感じ。だから、あんたたちを傷つけようとかそういう気持ちはないんだよ」

 

「嘘をつけ、ここに来る連中はみんな、そういうんだ」

「俺は前に王国の連中に家を壊された。やめてくれって言ったのに、聞いてくれなくて、あいつらは信用できない。あんたたちだって、同じことをしないってどうやったら保証できるんだよ!」

 

 少年たちの心には強い猜疑心が渦巻いている。その根幹に存在しているのは、どうしようもなく拭うことのできない王国への不信感なのであろう。

 

「知るか、お前たちみたいなよそ者の言うことなんて聞かない!」

「そうさ、余所者はいつも俺たちのことをないがしろにする。お前らが七星と関係なくたって、何かしてくれるわけじゃない」

「俺たちのことに文句をつけるのなら、俺たちの生活をもっとよくしてみろよ。スラムの人間たちの生活をよくしろよ、できないんだろ!」

 

「あのねぇ、あんたたち……」

 

 朔姫がけんかを吹っ掛けそうであったこともあり、仲裁に入ったルシアであるが、そんなルシアに対しても、彼らはまさしく牙を突き立てるように声を上げる。彼らの感情の色は疑心暗鬼だ。手を差し伸べてくれる大人に何度も何度も騙されて、このスラムの中で必死に生きている彼らにとって通り一辺倒の道徳などを語ったところで何の影響も与えない。

 

 むしろ、より頑なな態度を呼び起こすだけかもしれない。王国の暗部、臭い物に蓋をするようにして閉ざされたこのスラムの中で人を信じるだけの心を向けるには誰かの暖かな言葉と行動が必要なのだろう。

 

 けれど、本来、それを成し遂げるべき王族たちに牙をむけられている彼らはどのようにして救われればいいのか。難しい問題だ。彼らもこの国の人間ではないルシアたちも知らないが、当然、王族側も手をこまねいているわけではなく、救済のための手立ては向けている。スラムへの援助は国家としても一つの課題ではあるが、あくまでも課題の一つでしかない。本気で取り組んでいないことに人々の心は動かされない。

 

ここに来るまでに向けられた人々の視線にすべての答えがある。まさしくここは掃きだめだ。掃きだめに捨てられた者たちに手を差し伸べるには、この場を訪れた彼らは、綺麗な世界で生きすぎている。

 

 どれだけ逆立ちしても神祇省の姫である朔姫や現代日本で普通の学生として生きてきた桜子、名家であるエーデルフェルトに生まれてきたロイには、彼らの痛みを分かち合うことは難しいだろう。

 

「―――お前たちの痛みに上げる声は正しい。だが、自分たちの不満を違う誰かにぶつけるのはやめろ。それはお前たちと同じお前たちを作るだけのことになる」

 

 そんな折である、疑心暗鬼の目に駆られていた少年たちにレイジが声を掛けたのは

有無を言わさない言葉、同時に彼らにとってはどうしてか反論をしづらい空気を醸し出しながらレイジは諭すように告げる。

 

「お前たちが誰も信じたくない、信じられない気持ちは理解できる。お前たちは見捨てられ、泥をすするような生活を送って、その生活に誰も手を差し伸べてくれない。怒って当然だ、声を上げて当然だ。だが、見境なく声を上げるのは違う。お前たちが本当に怒りの声を上げなければならないのはこの国の王族やその体制だろ?」

 

「そんなこと言ったって、誰も何もしてくれなかったんだ。助けてって声を上げたところで、どいつもこいつも綺麗ごとを言うだけだ」

 

「当たり前だ、それが世界だ。いつだって、この世界が助けてくれるのは一握りの人間だけだ。それ以外の人間はどれだけ声を上げても嘆いても、誰も手を差し伸べてなんてくれない。

 この世界は不平等だ。誰に対しても優しくなんてない。だからこそ、勝ち取るために行動しなくちゃいけないんだ」

 

 レイジは茶化すこともなく、彼らを子ども扱いするわけでもなく、腰を下げて、彼らの目線に立って彼らにアドバイスを送る。レイジの言葉だって彼らにとってはどうしようもなく耳煩わしい言葉だろう。

 

結局のところは不満のはけ口が欲しいだけなのだ。自分の境遇を呪って、こんな世界が間違っていると声を上げることが自分たちにとって、もっとも楽な憂さ晴らしであると彼らは知っている。

 

 だから、本当は答えなど求めていないのかもしれない。どんな言葉を並べたてられたところで耳障りなだけの不必要な言葉なのかもしれない。そうして必死に諭そうとしている大人たちを嘲ることこそが彼らの目的であるかもしれないというのに、レイジは真摯に現状を変えるために行動しろと告げる。

 

「世界を呪っているだけじゃ何も変わらない。変わるには、変えるには行動しなければ変わらない。勝ち取りたいものがあるのなら、それを勝ち取るために何するべきなのかを考えろ。それがお前たちを進ませる原動力になる」

「でも、そんなことをしたって、本当に叶うかどうかなんてわからないじゃないか」

 

「ああ、そうだ、わからない。だが、進み続ければ何かが変わる。それは世界かもしれない、あるいは自分かもしれない。あるいは自分にとっては何の意味もなかったとしても、誰かにとって意味のある行動だったかもしれない」

「そんなの無責任だ!」

 

「当然だ、いつだって自分の人生に責任を持てるのは自分だけだ。だからこそ、許せないと思うのなら自分の人生を他人の好きにさせるな。俺から言えることはただそれだけだ」

 

 決して怯むことなく彼らを諭したレイジに、途中ではレイジを非難する言葉を向けていた彼らも互いに互いを見合わせて、レイジに対して何といえばいいのかわからない様子だった。

 

 彼らとさして年齢は変わらないはずのレイジにそこまで言われてしまって、彼らが全く反論をしないというのも不思議な話かもしれないが、復讐のために自分のすべてを費やしているレイジの言葉には、余人が語る以上の熱が含まれているのかもしれない。その熱を前にして、半人前の覚悟しかないものであれば、二の句を継ぐのが難しくなるのも致し方ないことではあるだろう。

 

「俺の言葉を聞いて、お前たちがどうするのかはお前らの勝手だ。好きにすればいい」

 

 結局最後に選ぶのは自分だ。レイジがどれだけ自分の信念に基づいて戦っても最後に得ることができるものがあるかどうかわからないのと同じように、彼らもまた自分の意志で叶うかどうかもわからない問いかけに進んでいくしかない。

 

 それが選び、進むということ。血塗られた運命でもそれを良しとして進み続けるレイジだからこそ言えたことなのかもしれない。

 

「すごいね、レイジは。あの子たちにもきっと届いたよ」

 

 子供たちから離れ、速足でその場を離れていこうとするレイジにターニャが声をかける。レイジの根幹に存在しているのが優しさであることをターニャは理解している。優しすぎるからこそ、レイジはかつてのことを忘れることができない。自分たちの平和を踏みにじった七星たちの横暴を許すことができないのだ。

 

「別に届いてほしくて言ったわけじゃない。ただ、俺だってあんなふうになっていたかもしれない。俺は自分の人生を肯定するつもりはないけれど、ただ吠えてばかりの負け犬のような生き方をする姿を見るのが嫌だっただけさ」

 

「その気持ちはレイジだからこそ抱けるものなんだと思うよ。レイジが一生懸命頑張っているから、レイジの気持ちが伝わっているから、みんなも頑張れるの。それはもちろん、私だって同じ」

 

「ターニャが頑張る必要はない」

「私からすればレイジが頑張る必要だってないよ。それでもレイジは頑張る。だから、私も頑張る。私にだってあの七星っていう力があるのなら、レイジの隣で一緒に戦いたいって思うよ……!」

「それは……」

 

「悲しい過去を振り払いたいと思っているのはレイジだけじゃないよ。私も。だから、レイジ、もっと頼って。レイジがいるからこそ、私は自分の中の力を使えるの。レイジがいなかったら、きっと私、この自分の中にあるよくわからない力が怖くて、きっと何もできなかったと思うから」

 

 レイジはターニャが力を使うことを望まない。けれど、彼女の体の中に七星の力が宿っていることもまた事実なのだ。彼女を兵器のように扱おうと思う気持ちは一遍もない。

 

 けれど、自分の中に存在する力と向き合って共存していこうとする気持ちをないがしろにすることもまたいかがなものかとは思う。

 

(もちろん、ターニャが戦うことを認めることはしたくない。でも、これから先、戦いはより激化していく。その時に、ターニャが自分自身を守ることができるかどうかは大きく状況を変わらせる要素になりえる……)

 

 七星たちは狡猾だ、ルチアーノの時のようにターニャというウィークポイントを突いた戦い方をしてくる可能性は十二分に考えられる。そうなったときにターニャがわずかでも七星の力を使いこなすことができれば、届かない手を届かせることができるきっかけにんるかもしれない。

 

「俺は……、ターニャに戦ってほしくはないと思う。ターニャは本当はあの村で平和に生きていることが正しいことだって今でも思っているから」

「レイジ……」

 

「だけど、ターニャが自分で自分の道を切り開こうとする気持ちを否定もしたくない。ここから先も俺たちが一緒にいる中で、ターニャが自分自身の力と向き合っていくことは必要なこと、なのかもしれない……」

 

 認めたくはないけれどと、最後に付け足しながら、レイジは少しばかりだけ、自分の考えを修正する言葉を口にする。

 

「レイジ……!」

「だからって、ターニャに頼るようなことはしない。お前を守ることも俺の果たすべき役割だから」

 

 ターニャが嬉し気に笑う表情に、レイジは逆に照れ隠しをするように早々に話を切り上げていく。レイジにとっては決して望ましい決断ではないが、理想だけを語っていても、願いを叶えることができないことを知っている。

 

 仲睦まじく自分たちの未来を夢見る少年と少女、その果てに何が待っているとしても、きっと二人であれば、乗り越えていけるだろうと信じている二人。

 

『かくしてすべては予定調和のままに、やはりこの世界にはいまなお救世が必要であるということか』

 

 彼ら二人の未来を暗示するかのような言葉をつぶやいた。

 

 そうした面々の様子とは裏腹に、エドワードはどこか天を見上げるように他削がれているような様子であった。この場で誰よりもこうした場所に縁があるのはエドワードだ。何度も何度も傭兵として戦いに参加して、そのたびに生き残ってきた。多くの仲間が命を落とす戦場の中は極限状態、このスラムですらも可愛いものであるとさえ思える。

 

 このスラムは住む場所が存在する。明日に突然弾丸が飛んでくるようなこともない。そう考えれば、充分にマシな場所である。

 

 ただ、ここには死の匂いが漂っている。身近な死を誰もが感じ取っている場所であるとも取れるその臭いは、否応なくエドワードにかつての戦場を想起させた。

 

「そんなものを感じ取るようになるようでは、いよいよ俺もヤキが回って来たか」

 

 などと自嘲げに言葉を漏らすのだが、そう言って、いつもいつも生き残ってきたのがエドワードである。これまでの戦場も、そして此度の聖杯戦争も結局のところは此処まで生き延びてきた。

 

(だが、果たしてここからはどうだろうか……魔弾はあと2発か)

 

 自分のサーヴァントであったアーチャー:カスパールより託された銃弾、既に2発は使っており、あと2発の内、1発は発射をすればどのようなことが引き起こされるかもわからない。

 

 そう考えれば実質的にはあと一発ということになる。それをどこで使うのか、どのような使い方をするべきなのか、エドワードにも答えは出ないし、本当に最後の一発が魔弾としての意味を成すのかもわからない。

 

(魔弾の射手の逸話は最後の魔弾は標的を狙う事無く、自身の身体を貫いたという。俺に与えられたこの分不相応な力、もしも、これが本当の意味で魔弾であるというのならば、遠からず、今度こそは俺の足を死神が掴むことになるだろう)

 

 死の匂いを身近に感じるからこそ、過る者がある。死相とでもいえばいいだろうか。これまで生き残って来たからこそ、今回の経路の違いを感じ取ってしまう。

 

(今更、自分だけが死ぬことを怖れるような気持ちはない。俺が怖れているとすれば、それは……)

 

 チラリと仲間たちを見る。顔を合わせて、まだ1月も経たない者たち、視線を潜り抜けてきたとはいえ、仲間意識が芽生えるほどに付き合ってきたのかといわれれば、怪しい所ではあるが、

 

(俺を残してこいつらがいなくなることの方が恐ろしい。ああ、そうだ、結局、俺はまた取り残されることを怖れているんだろう)

 

 何度も何度も経験してきた死神のような自分の在り方、それを今度もまた自分は起こしてしまうのではないか。それだけがエドワード・ハミルトンにとっての怖れであった。

 

『くっく、さてさておるわおるわ。飛んで火にいる夏の虫とはまさにこのこと。王都に入りながら気を伺っておるのかもしれんが、この都市の総ては妾の掌の上、お前たちが逃れる術などありはせぬ』

 

 そんな彼らの動向を見守り続ける者がいる。水晶玉に映された彼らの行動を眺めながら、序列第2位カシム・ナジェムのサーヴァントであるキャスターはほくそ笑む。

 

『侵略王には悪いが、一番槍は妾が戴くぞ? なぁに、妾の遊びも耐えられぬような脆弱さでは、どちらにしても、侵略王の楽しみとはならんじゃろうて』

 

 いまだその全容すらも明かされない、七星陣営側のキャスターはその笑みを深くし、まもなく来たる決戦の時の訪れを感じさせるのであった。

 

 

第10話「ラズライト」――――了

 

次回―――第11話「Colors of the Heart」

 




次回は5月31日予定です、いよいよ中盤も山場に突入です!

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