Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

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第11話「Colors of the Heart」②

――ヘルメス・トリスメギストス、錬金術の母、あらゆる錬金術師の始まりを生み出した者、ギリシア神話におけるヘルメス神、エジプト神話におけるトート神、そして錬金術師の祖であるヘルメスと呼ばれた女、その三つを重ねあわせたが故のトリスメギストス。

 

 その女には類まれなる才能があった。世界の神秘をひけらかし、暴き、遍くすべての事象を人間の手で再現することを彼女は願った。例えそれが、神の摂理に反する行為であったとしても、例えそれが人倫に背く行為であったとしても、彼女はその知的探究心を放棄することはなかった。

 

 あらゆる錬金の術を生み出し、多くの弟子を抱え、そして、遂には黄金錬成を果たし、賢者の石という集大成までもを積み上げてきた恐るべき人外、人の子として生まれてきたこと自体が間違いであるとさえいえるほどの才覚者。

 

 あらゆる錬金術師たちの祖であり、あらゆる錬金術師たちが乗り越えることの出来なかった始まりにして至高の錬金術師こそが彼女である。

 

 彼女の偉業を記した無数の書物、そしてエメラルド・タブレットと呼ばれる石版は後の錬金術師たちに大きな影響を与え、彼女が存在しなければ、錬金術師の隆盛は有り得なかったと言われるほどの存在ですらある。

 

 そのような存在が何を紡ぐというのか、聖杯戦争という戦いに何を願うのか。

 

『ふむ、そうであるのう。真理の探究とでも言えば、お主らは満足するのかえ? しかし、生憎と妾は既に探求を終えておる。故にこそ妾は石板を記すことが出来たのだ。この時代の技術がどうであれ、妾は根源へと至った。故に、もはやさしたる望みはない。生前に望む願いは叶えてしまったのでな』

 

 伝承にヘルメスは長い時間を生き、そしてあらゆる書物を書き記したという。それは後世の人間に何かを残したかったからではなく、己が見つけ出したこの世界の真理の一端を証明するために書き記していた。そのように解釈する者たちもいる。

 

 どんな思惑があったにしても、彼女は聖杯戦争にさしたる興味はない。召喚された以上は最低限の仕事をこなすが、身を焼くほどの願いがあるかといわれれば、それはない。

 

 適当に遊んで、飽きればマスターの命を奪ってでも、退去すればいい。召喚された直後の彼女は間違いなくそのように考えていた。

 

『手を貸せキャスター。己は只最強の七星であることを求めている。貴様と同じだ、聖杯戦争の結果はどうでもいい。己の我欲を叶えろ。己の願いはただそれだけだ』

 

 しかして、彼女は自分のマスターのおぞましい狂気に魅入られた。ほれ込んだというよりも特級の愚か者であると断じたのだ。

 

 カシム・ナジェムの狂気に比べれば星灰狼の悲願はまだ理解が出来る。その悲願に行き着くまでの行動には狂気が伴っていても、行きつく先はありふれた人間の感情の向かう先だ。ある意味、その願いを知れば可愛いものであると思う事も出来よう。

 

 しかし、カシムは狂信的だ。最強の七星であることを目指す、生まれ持った時に才能は凡庸、肉体も七星としては平均的な素地であり、天才的な頭脳だけが彼の特徴であった。

 

 星灰狼にも、七星散華にもリーゼリットにも、ヨハンにも及ばない程度の才覚でしかなかった男は、それでも七星であることに誇りを抱いていた。

 

 凡庸であることを憎むのならば、己を改革すればいい。己を改造すればいい。伸び代がないのであれば作ればいい。七星に誇りを抱くのであれば当然に最強を目指さなければならない。多くの者であれば自分の限界を見知った途端に諦めてしまうであろう思考の頂点を目指す道を男は愚直に歩むことを決めた。

 

 その愚かしさ、自身が最強になることができるという自負、それを達成するために実際に自分の身体を鋼鉄へと改造したその執念、ああ、実に面白い、錬金術とは世界の法則を人間の手中に収めるための法理、であれば、カシム・ナジェムが行っていることもまた錬金術であると言えよう。

 

 この男の結末を見届けるためにその力を貸そうではないか。退屈しのぎに過ぎなかった聖杯戦争もそうとなれば面白い。最終的な勝者、世界の行く末など侵略王と灰狼の好きにすればいい。キャスターは、錬金の母はただ、己の愚かしきマスターの結末を見届けるためにこの戦いへと参戦することを決めた。

 

 そして、これまで決して自らが表舞台に立つことのなかった七星陣営側でライダーに唯一伍するであろうと誰もが認めずにはいられない、至高の錬金術師の魔術がスラム街の空を覆う。

 

「――――黒化(ニグレド)

 

 空に浮かび上がった魔方陣の色が変化する。魔方陣の輪郭に色が結ばれていき、真っ黒に染まりあげられた魔方陣が明滅し、その表面に凄まじいほどのエネルギーが蓄えられていくことを朔姫とキャスターは理解する。

 

「朔ちゃん、まずいよ、あれ、地上に堕ちたら、ここだけじゃなくて、スラム街一帯が吹き飛ぶよ」

「本当か……!?」

 

「敵方のキャスターか……、随分派手なことやってくれるやんけ…… こんだけの騒ぎになっても起きへん役立たずどもに期待をするだけ無駄か。わざわざ起こしに行ってる間に放たれたらひとたまりもあらへん」

 

 今、動くことができるのは朔姫とキャスター、そしてエドワードだけだ。宿屋に仕掛けられた罠によって、他の仲間たちは寝静まっており、これだけの光の明滅、空気の変化を伴っても起きる気配がないとなれば、都合よく向かってきてくれることを期待するだけ無駄だろう。

 

(ロイの魔術なら、あの魔方陣を消し去ることもできるかと思ったが、まぁ、そんな上手くいかんか、あるいは意図的に最初から除外しようとしておったか……)

 

「どうするの、朔ちゃん……!? 今からでも宿屋周辺だけでも結界を張って、何とかしのぎ切る!?」

「アホッ! そんなんしたらスラム一帯が吹き飛ぶやろ。ウチらに石投げてきたクソガキ共には腹は立っておっても、ここで死ななきゃいかん理由なんて欠片もない。逃げるんも耐えるんもダメや。あれを迎撃する他ない……!」

「そんなぁぁ、無茶だよ!!」

 

 キャスターは敵方のキャスターが生み出した力にすっかり腰が引けてしまったのか、わなわなと震えはじめる。インパクトという点で言えば、確かにあの巨大魔方陣は恐るべき力だ。並のサーヴァントであれば戦意喪失をしたとしてもおかしくない。それほどまでの悍ましい力……

 

「八代朔姫――――、あの魔方陣の魔力の流れは把握できるか?」

「あん? そんなもん知ってどうす――――そうか、魔弾なら……!」

 

「そうだ、魔弾であれば、あの魔方陣の魔力結合点を打ち抜くことによって、魔方陣の機能を破壊することができるかもしれない。成功するかどうかは不明だが、やってみるだけの価値はあるだろう」

 

「よっしゃ、おらぁ、姫、きびきび働かんかい!」

「うぅ……、わ、わかった。朔ちゃん、解析合わせるよ!」

 

 パンと朔姫とキャスターが手を合わせると二人の足元に陰陽の太極印が浮かび上がり、二人は目を伏せて、頭上に浮かぶ巨大魔方陣へと魔力を集中させる。時間がない、しかし、ほんの少しでも精度を落せば失敗する。何としても解析しなければならない土壇場であるが、神祇省の姫はこの程度の局面でしくじるほど、柔な存在ではない。

 

(この術式、普通の魔方陣やない。錬金術、か……、これだけの錬金術をあっさりと行使できる存在、ヘルメスとかは勘弁してほしいんやけどな)

 

 内心で漏らした予想がキッチリと当たっている辺りが実に朔姫らしい勘の良さではあるが、魔方陣を解析して舌を巻く。まるで一筆書きのように中心に描かれた魔方陣の始点から総ての場所へとエネルギーが供給されている。中心点であるその箇所を破壊しない限り、どれだけ魔方陣の周囲を破壊したとしても、あの魔方陣はすぐさま復活を果たす。要するにある一定の箇所を破壊しなければ幾度となく再生を果たすのだ。

 

(あんなん魔弾でなけりゃ、破壊できんぞ、ふざけんな!)

「朔ちゃん!」

「ああ、解析は概ね出来た。送るぞ朴念仁!」

 

 キャスターと朔姫が目配せをすると、エドの身体が光り、朔姫の感知した打ち抜くべき場所が彼の頭の中へと共有される。同時に明滅をしていた黒色の魔方陣の光が中央へと押し集められ、発射態勢に入ったことを察したエドはすぐさま魔弾の銃口を天へと向ける。

 

「くっ、間にあえ!!」

 

 黒色の光が放たれるのとほぼ同刻、放たれた魔弾が発射される直前の魔方陣へと放たれ、黒色の光の根元に直撃。大きな光を発するとともに、地上へと放たれるはずであった黒色の光は消失を果たしたのだ。

 

「………、いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「やったぁぁぁぁぁ!! 防ぎ切った!!」

「ふっ……、間一髪だったな」

 

 朔姫とキャスターは大声を上げて、魔方陣からの攻撃を防ぎ切ったことを喜び、エドワードも自分が彼女たちの求めに応えることが出来たことに喜びを覚える。

 

(虎の子の一発だったんだが、まぁ、仕方ないか。あれ以外の方法で魔方陣からの攻撃を防ぐための手段は何もなかった)

 

 ほんの少しでも躊躇をしていれば、破滅の攻撃は間違いなく三人を含めたスラム総てを吹き飛ばしていただろう。巨大魔方陣は機能を停止し、そのまま空中で止まったままではあるが、あれほどの攻撃を防いだのだ。自分たちを誇ってもいいだろう。

 

「とはいえ、喜んでいられるのも今の内だけや。ウチらがここにいることがバレておる以上はすぐさま、新しい敵の攻撃が来るのは間違いない。それよりも早く桜子たちを起こして万全の態勢を作らなければならないのは間違いないわ」

 

 キャスターもエドワードもそこの基本的な方針には何の異論もない。だからこそ、すぐにもで宿に戻ろうとしたその瞬間―――

 

『―――白化(アルベド)

「―――――――」

「嘘、やろ……」

 

 絶句、まさしく三人はその様子を浮かべた。空中にて静止したはずの巨大魔方陣、しかし、その魔方陣が消えることはなく、むしろ、先ほどまで黒色一色であった魔方陣の淵の色が白色へと変わりながら再び明滅を始めたのだ。

 

『なんじゃ、まさか一撃を防いだだけで全てが終わるとでも思っていたのか? まさかまさか、妾はそこまで性格の良い、お行儀の良い女ではなかろうて』

 

 空中から声が聞こえてくる。その聞き慣れない女の声こそがこの魔方陣を使っている相手の声であることは三人ともすぐに理解できた。

 

「お前がキャスター、ヘルメス・トリスメギストスか……!?」

『ほお、妾の真名を言い当てるとは感心じゃのぉ、神祇省の娘よ』

「当たってほしくないのに、言ったら当たっていた時の絶望感ったらないわな……」

 

 最も正解であると言われて欲しくない相手の真名が口から出て、正解だと言われて朔姫は気分が最悪に向かおうとしていた。チンギス・ハーンに続いて、ヘルメス・トリスメギストス? なんだそれは。地獄チャレンジでもしているのかと思わせられる。

 

「はぁ、嫌になるわ。お前ら、ちょっと戦力過剰過ぎやろ」

『そういうな、妾は戯れをしておるだけよ。何せ、我らが皆で飛びかかってはお前たちに勝ち目などあるまい? だからこそ、こうして1人で戯れに来てやったのじゃ。失望などさせてくれるなよ、人の子らよ』

 

 白色魔方陣に先程よりも早く光が灯っていく。間違いなく、再び大地へと放たれることが目に見えている技、朔姫はチラリとエドワードを見るが、彼は魔弾を使うことに躊躇している。その理由は朔姫も分かっているからこそ、懐から無数の陰陽符を取り出す。

 

「朔ちゃん……!?」

「舐めんなや、ウチは神祇省最大派閥『京都大陰陽連』筆頭家八代の次期当主、こんなところで意味もなく無駄死になんて結末認められるわけがないやろ!!

 布瑠部 由良由良止 布瑠部!!式神大連結、擬似神格降臨!!」

 

 パラパラパラと朔姫が祝詞を口にするとともに、放たれた式神が折り重なり合いながら、一つの形へと変わっていく。まるで折り紙を何個も敷き詰めて一つの形へと変えていくかのように朔姫の魔力が与えられながら、それは巨大な獣の形へと変わっていく。

 

「式神破軍:大狸猫!!」

 

 朔姫の詠唱が完了すると、式神たちは巨大なパンダの姿を生じさせて、天に君臨する巨大な魔方陣へとその爪を突きたてる。白色の魔方陣は白色の光を大きく明滅させながら、先ほどと同様に地上へとその圧倒的な光を放出する。

 

 光が放出されたのとほぼ同タイミングで魔方陣へと叩き付けられた爪であるが、完全に魔方陣を破壊することはできない。先ほどの黒色魔方陣同様に核を寸分たがわずに破壊することが出来なければ、完全に魔方陣を止めることはできない。

 

 よって、放たれた光によって巨大式神は呆気なく破壊される。

 

「まだや、ここからが二段構えよ!!」

 

 巨大パンダが白色の光によって呑み込まれると思われた瞬間、式神たちが一気に分離をして、白色の光を受け止めるための周囲一体を覆うバリアのように展開していく。直撃、しかして、白色魔方陣の攻撃が地上に届くことはなく、式神によって生み出されたセーフティバリアがその白色魔術砲弾を完全に受け止めていた。

 

「ウチのことを、舐めんなや!! 姫!」

「任せて!!」

 

 キャスターが印を結ぶと、式神たちに光が灯り、白色魔法砲弾の力が式神へと徐々に奪われていく。同時に、白色一色に覆われているはずの世界に夜空が取り戻されていき、どんどんと巨大魔方陣を中心として生み出されたはずの結界状態が崩壊を始めていく。

 

「天候操作はお手の物、夜空に瞬く星々に働きかけることが出来れば、ここを覆う結界なんて簡単に無力化することができるんだから★」

『ほほう、これはまた……』

 

 面白いことをしてくれるとヘルメスは笑う。結界維持を果たせなくなった魔方陣より生じていた白色魔力砲弾は、その力を失っていき、遂には式神の傍でバリンとまるでガラスが砕けるかのような音を鳴らしながら消失した。

 

 二度目の攻撃、今度は朔姫とキャスターの機転によって再び攻撃は失敗に終わった。スラムの中は静寂に包まれている。まさか、自分たちが何も知らないところでこのような激闘が起こっているなどと、キャスターの術式によって眠りを与えられている者たちは気付かないだろう。

 

「かはっ……あっ、ぐぅ……」

「おい、大丈夫か……!?」

「へ、平気や、とっさやったからな、とりあえず持てる力振り絞ってなんとか防いで見せたけど、普通にサーヴァントの攻撃を、人間が防ぐもんやないわな……ガス欠引き起こしてもうた」

 

 いつも常に余裕の態度を崩さない朔姫にしては珍しいくらいに弱々しく膝をついて荒々しく呼吸を吐く。先の攻撃を防ぐために持てる力を振り絞ったという言葉は決して誇張ではなかったのだろう。そもそも、朔姫が自分で口にしている様にサーヴァントの攻撃をマスターである人間が防ぐという時点で荒唐無稽もいい所なのだ。

 

 魔弾はサーヴァントの力を使っているし、今の式神がキャスターの助力ありであったとはいえ、実際のところはほとんど朔姫の力で防いだに等しい。相も変わらず恐ろしいほどの潜在能力を持って彼女はこの状況をクリアして見せた。

 

『――――赤化(ルべド)

 

 故にこそダメ押しとばかりに聞こえてきた三発目の攻撃準備は、まさしく絶望を意味するに相応しい声であった。呈していたはずの魔方陣の淵が赤く染まっていき、そして魔方陣が崩れながら、巨大な火球へとその姿を変えようとしていた。

 

『何を予想外であったかのような顔をしておる、キャスターのマスターよ。お主は既に気づいておっただろう? 黄金錬成の各工程を辿るように我が術式は発動した。黒から白へ、白から赤へ、それを理解しておったお主がこの攻撃が来ることがない等と考えるわけが無かろう!』

 

「んなもん、また口に出したらほんまもんになってまうから黙ってたにきまっとるやろ。勘弁しろや、クソババア!!」

 

 実際の所、朔姫は分かっていた。敵の使う術式が錬金術のモノであり、黒から白へと色が変わった時点でもう一段回起こってもおかしくはないと。本来であればもう一発を防ぐだけの余力を残しておくつもりであったが、思った以上にガス欠が激しい。

 

(何せ、これで終わりな訳ない。これはあくまでもキャスター単独での行動、要するに、本隊が来たら、遊んでいられなくなるからその前に抜け駆けして遊びに来たって話しやろ? ふざけんな、これを突破したら、そこでようやく本番なんて、人をバカにするのも大概にせぇや……)

 

 死力を尽くした先に真の絶望が待っている。これがまだ地獄の始まりであることを知らない者たちを嘲笑うかのような態度、まったくもって度し難い。ヘルメスの性格の悪さが滲み出ている。

 

(………姫の全力を出させれば、なんとかできるかもしれん。けど、それはあかん、今、ここで手の内を晒せば、それを分かったうえで連中は攻撃を仕掛けてくる。キャスターの遊びであると同時にこれは戦力視察や、連中は此処まであえて手の内を温存してきたウチらを力が発揮されるのを待っとる……!)

 

 頭ではそう分かっている。しかし、実際の所、それを躊躇していれば、目の前に迫ってくる破滅の火球を避けることすらも出来なくなる。

 

 真に知恵高い策略とは相手が隠している手の内を開けざるを得ない状況に持っていくこと。このスラムに誘い出され、この状況を生み出された時点で朔姫たちはキャスターの掌の上で踊らされる以外の選択肢は存在していなかったのだ。

 

(手は…・・ある、けど、それは……)

「そうか……、ここが正念場ということか」

 

 ポツリと隣に立つエドワードが言葉を紡ぎ、自らの武器である魔弾を発射する銃へと目を向けた。最後の一発、魔弾の七発目、それが残されている。

 

「おい、おまえ、わかっとるんか、それは……!?」

「ああ、分かっている。七発目だ。これを放てば、代償が俺達を襲ってくる。外そうが外さまいが、悪魔ザミエルは俺達から何かしらの代償を奪っていくだろう。だが、使うしかない。本当は、お前もそれは分かっているはずだろ?」

 

「それは……」

「さっき、何かを思いついて、すぐにそれを忘れようとしたな。冷徹に勝つための方法を模索するお前はすぐにでも、魔弾を使って三発目を防ぐことが最適解であることに気付いたはずだ。しかし、それをあえて棚に上げた。それ以外の方法を模索しようとした。違うか?」

 

「勝手にウチの心の中、見透かそうとすんな、キショいわ……!」

 

 本当に何をするべきなのかを考えれば答えは一つしかなかった。しかし、朔姫がそれを言い淀んだのは、その指示をすることがエドワードの命そのものを脅かす選択になりかねないことが分かっていたからだ。

 

 仲間を失うかもしれない決断と、現実的にその非情な決断をしなければならないと口にしてくる理性、その狭間の中で浮かべた苦渋の表情をエドワードは確かに理解していた。

 

 いつもであれば、すぐさま判断を下すことができる朔姫であるからこそ、その判断の意味を理解できてしまったのだ。

 

「優しい人間だよ、お前は。神祇省の姫なんて呼ばれるのに相応しくないと思えるほどに」

「おい、お前分かっておるんか。自分がやろうとしていることは――――」

「俺の命でお前たちを救うことができるのなら、そんなものは安いものだ」

 

 上空に展開する燃え盛る赤色魔法陣は輪郭を奪われながら巨大な火球へと変化をしていく。いつそれが地上に落下してきてもおかしくないという状況、だからこそ、悩んでいる暇はない。一刻の猶予もない。

 

「先ほどのように再び中心を教えてくれ。俺が撃ち抜く!」

「朔ちゃん!」

「ああ、わかっとる、わかっとるわ!!」

 

 エドワードの宣言にいつもであれば朔姫の判断に自分の行動を委ねているキャスターが先に反応して、先を促す。その声に、朔姫も仕方がないとばかりに反応して、再び解析を始める。

 

『ふふっ、あくまでも逃げることはせずに迎撃することを選ぶか。良いの良いの。その決死の覚悟は嫌いではないぞ。もっとも、妾とて、一度は許した攻撃を再び許すなどということはせぬぞ?』

「なっ、何をしてくれているんや、あのクソババア!!」

 

 解析を行っている朔姫がそこで大声を上げる。火球を破壊するための中心点、さきほどは魔法陣の中心にあったはずの目まぐるしく動き回り、どこを撃ち抜けばいいのかを判然とさせない。

 

 加えて、最後の魔弾は必ず当たる弾丸ではない。呪いを振り払うためには自分自身でその銃弾を狙う場所に向けて直撃させる必要がある。

 

 先ほどのように何も考えずに銃弾を放てば直撃するなどという生易しい状況ではない。外せば一発で終わってしまうかもしれない状況の中で、一秒ごとに動き回っている中心点に直撃させるなど不可能に近い。

 

「くっ……」

 

 そして意識を共有したからこそ理解できてしまう。その難易度、その絶望的な状況に自分が巻き込まれていることをエドワードは理解してしまったのだ。

 

 体が震える、手が震える、自分のこの指先に仲間の命が、スラムの未来がかかっている状況であるというのに、もはや自分の命など惜しくもなんともないと思っていたはずなのに、今、この瞬間に点へと向ける銃口を握る手の震えが止まらないのだ。

 

外せば終わり、代償がどうであれ、仲間たちはここで吹き飛ぶ。自分も命を落とす。ここまで生き残ってきたことのすべてが無駄になる。何度も何度も仲間を失いながらも自分だけが生き残ってきたからこそ、自分の行動が齎す未来が実像を結んでしまいそうで恐ろしくなる。

 

『やぁ、力を貸してあげよウカ、エドワード』

 

 その瞬間、ふと自分の耳元に声が聞こえてきた。その声の主は言うまでもない、エドワードの夢の中で彼に囁きかけてきた悪魔ザミエルに他ならなかった。

 

『エドワード、君にチャンスを与えよう。悪魔ザミエルの名において、君が放つ魔弾にもう一度、必中の呪いを授けヨウ』

 

 悪魔の囁きが聞こえる。弱き心の人間を誑かし、破滅の道へと辿らせる悪魔の囁きがもう一度エドワードの耳に囁かれる。

 

『なぁに、そう難しい話じゃない。代償を支払ってくれればいい。さすれば、七発目の魔弾は必ず狙うべきところに向かい、対象を破壊するだろう』

 

 代償とは何だ? 何を自分から奪おうとしているとエドワードは心の中でザミエルに問いを投げる。顔も見えない筈の声だけが聞こえる悪魔は、しかし、まるで顔が見えているかのように笑うように声を上げた。

 

『簡単な代償だよ、そこの小娘、八代朔姫の命を差しだせば魔弾を放つための力を貸ソウ』

「な、に……」

 

『彼女一人の犠牲で、ここにいる人間たちも君の仲間たちも守りきることができるンダ。安い代償じゃないか。これまでに何度も何度も、仲間の命をくべて生き残ってきた君にとって悩む必要もない代償じゃなイカ?』

 

 ああ、悪魔とは何処までも心を弄ぶ存在なのだろうか。エドワードが代償を支払うことがないようにと必死に策を巡らせようとしてくれていた朔姫の命を代償に差しだすのならこの状況を救ってやろうなどとどうすればそのような発想が出てくるのか、思わず怒りをぶつけたい。

 

『言っておくけれど、君の命なんてものは代償にならないんダヨ。どうしてかって? それは君が死にたがりだからダヨ。君はカスパールの魔弾を手に入れた時に思ったはずさ。死ぬための方便が出来タト。魔弾を使い尽くして代償を支払う時が来たとしても、自分であれば大した問題に等ならないと思ったはずだ。君は死にたがりだからネ、自分の命を差しだす代償は命に執念がある者でなければ意味がナイ』

 

 死にたがりの命など奪ったところで何も面白くはない。だったら、悪魔の力など借りずに勝手に死ねばいいと悪魔ザミエルは徹底してエドワードの命に興味を持たない。

 

ザミエルは待ち続けてきた。最後の一発を放つ時に彼がどんな表情を浮かべるのか、これまでに何人もの戦友の命を食べつくしながら生きながらえてきた男が代償を支払う瞬間に、どんな表情を浮かべはじめるのか。

 

当たり前のように撃つのか、あるいは躊躇をして撃つことができないのか。結果としてどうやら後者になりそうであることが分かり、ザミエルは余計に嬉しそうに反応する。

 

「………逃げろ」

「あん?」

 

「今すぐここから離れろ、少しでもほんの少しでも遠くに。あいつらの下に向かえ。上手くすれば、逆転の手立てを見つけることができるかもしれない……! 俺には無理だ、俺にはあの火球を打ち抜ける自信が持てない……」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!? お前、ここまで来て何を言ってんねん!」

「外せば、全員が命を落とす。俺のような死神に命を賭けるなんて間違っている。臆病者だというのなら甘んじて受けるさ。それでお前たちが生き残るのならそれがいいに決まっている。俺ではダメだ……俺には、仲間を救うことができるような未来は見通せない。

 この手にそんな光は見いだせない……」

 

 彼の手は常に血に汚れていた。戦友の命が流れた手にはいつだって戦禍の匂いがこびりついていて、彼の人生に後悔ばかりを与えてきた。

 

人間は成功体験を積み重ねることによって自信を身に着けていくが、エドワードはそうした自信を身に着けることが出来ずにいた。何度も何度も失ってきた経験はそれだけで彼から誰かを助けることの出来ず自分の像を見失わせたのだ。

 

 悪魔の誘いなど振り切って自分が魔弾を当てることができるという自負を抱くことが出来ればどれだけ幸せであっただろうか。現実はそのようには進まない。最高難易度の照準合せ、それを実行しても本当に倒せるのかすらも分からず、外せば代償を支払う。悪魔に願っても代償で失う。ならば、もはや逃げてもらうしかない。

 

 一抹の望みに総てを賭けて、生き残ってもらうことを願うしかない。安い自分の命くらいくれてやる。だから、頼む、逃げてくれ。こんな臆病者を頼りにしないでくれ、自分は、自分は――――

 

「うああああああ、あったま来たぁぁぁぁぁ!!」

 

 思考の迷宮の中へと飛び込みかけていた意識が朔姫のヤケクソ気味に叫ぶ声で現実に引き戻される。すると、朔姫はドカンとエドワードの背後で腰を落ち着かせて、まるで観戦するかのように座り込んだのだ。

 

「おい、待て、何をしている……!?」

「何をしている……? じゃないわ、ドアホォォォ! あったま来たわ、カッコよくやる気を出したと思ったらヘタレおって。挙句の果てに逃げろとか! 舐めたこと言ってるんやないわ! ウチは逃げん、ここでお前があれを迎撃して吹き飛ばすとこ、特等席で見せてもらうわ!」

 

「馬鹿を言え。今ならまだ間に合う。他の連中を連れてくるかさっさと逃げろ。第一、俺のことなど信用できるはずもないだろう。これまでに俺が何人の仲間を見殺しに―――」

 

「信用するに決まってるやろ、ウチらはもう仲間なんやから!」

「………!?」

 

「過去がどうとかそんなことはどうでもええ、ウチにはまったく関係のないことや。ウチが知っておるお前は、大事なもんを奪われる代償を支払うことになっても覚悟を決めて、その銃口を、引き金を弾くことを決めたんやろ、だったら、それを貫けや! 逃げてどうなる? あのクソババアが今更ちょいと逃げたところで何とかなるような甘い状況を作っておるわけがないやろ。誰かが何とかしなくちゃ結局は全員終わりなんよ!」

 

 他人任せにすればすべてが解決するなんてことはない。そんな考えは甘い幻想でしかない。だからこそ、朔姫は逃げない。逃げて救われるわけではないと分かっているから。それは淡い希望を抱かせて死ぬかもしれないエドワードに対しても不義理でしかないから。

 

「だが、俺が本当に成功するのかどうかも分からない。もしも、俺が失敗したら―――」

「その時は、その時はウチがなんとかしたる。神祇省の姫の名に懸けて、絶対にウチがなんとかしたる。おまえがいようがいまいが、絶対に解決させて、どんなもんやって笑ってやるわ。だから、後先のことなんて考えるなや、ただキャスターの奴に吠え面かかせるための一撃をくれてやることだけに集中すればいいんや。ほれ、簡単やろ?」

 

 例え何があったとしても、お前を恨まない。責任は自分が取る、だから、何一つとして怖れることなく銃弾を放てと朔姫はエドワードの背中を後押しする言葉を口にする。

 

 自分のせいで誰かが命を落とすかもしれない恐ろしさに手が震える男に対して向けた言葉にエドワードは……、

 

「ああ、そうだな」

 

 改めて天の火球に向かって銃口を突きつけた・今度の銃口を向ける手には震えがなかった。怖れを抱いていたとしても背中を押して、その後を任せられる人間がいるだけでこんなにも気持ちが楽になる。

 

今までずっと失いたくないと思いながらも、多くの仲間に心を開くことをいつしか忘れてしまっていた男にとって、その声援は想像以上に意味があったのだ。

 

(悪魔ザミエルよ、聞こえているか?)

『彼女を生贄に捧げることの決心がついたのカイ?』

 

(お前が先程口にした魔弾を使うための取引がしたい。ただし、代償として捧げる者だけは変更してもらいたい。アイツの命ではなく、俺の命を代償としてほしい)

 

『はぁ、何を話して来るのかと思えば、さっきから何度も何度も言ってきているだろう? 君のような死にたがりの命なんて貰っても仕方がないんだ。捧げられて当たり前だと思っている供え物をもらって喜ぶ奴なんていないんダヨ?』

 

 ああ、まったくもってその通りだと思う。悪魔とは人間の人生を嘲笑う者、悪魔に魂を売り渡したのならばその代償は喪失の痛みを覚えるものだけだ。

 

(ああ、それは分かっている。だからこそだよ、悪魔ザミエル。今の俺の魂であれば代価としては十分な筈だ。だって、俺は今、初めてこれより先も生きていたいと思っているのだから)

 

 これまでずっと死に場所だけを求めて生きてきた。多くを犠牲にして、自分もいずれは罰を受けなければならない存在なのだと思い込み、そうして何度も何度も生き残ってきた自分自身を惨めに思い始めてきてしまっていた。

 

 世界の色は灰色だ。とっくに終わってしまった夢が未だに生きているに等しく、世界に彩りなんてあるはずもない。もうダメだと一人孤独を抱き続けてきた心に今、この瞬間にようやく彩りを見つけることが出来たように思う。

 

 もはや忘れ去ってしまうほどの過去に覚えたこれより先の明日を見たいと思う心が甦った。朔姫やレイジたちとまだ旅を続けたい、彼らと共に最後まで駆け抜けたい。その未練が、ようやく抱いた生きる希望こそが――――悪魔に捧げる代償に相応しいだろうと告げたのだ。

 

『いいね、君は実に面白い男だエドワード。いいのかい? 生きたいと願うのなら、生きればいい。彼女や仲間たちを捧げれば君はこれからも―――』

(ああ、そうだ、分かっている。だが、生きたいと思うと同時に罰は受けなければならないと思っている)

 

 これまで生き残り続けてきたことに、ようやく生きたいと思ったからこそ、帳尻合わせの時間が来たのだろうと。この未練こそが、自分にとって大切な、まだまだ共にいたいと思う者たちを救うための一助になるのであれば。

 

「この一発が、友の命を救うのならば、それ以上の報酬はない」

 

 代償は確かに存在している。これより先の未来の総てを捧げて仲間たちの命を救う。それはとても英雄的な自慰行為なのかもしれない。そんなことをすれば仲間たちが自分と同じ気持ちを抱くだけのことは分かっている。

 

 けれども、その指先は止まらない。自分の命の使いどころを知った彼は引き金に手を掛ける。

『いいだロウ、エドワード・ハミルトン。君の代償は確かに受け取った。放つといい、君の――――最後の魔弾ヲ』

 

 死にたがりの男が見せる最後の命の輝きを持って、悪魔ザミエルは代償として認めた。カスパールが託した男は自分にとって何の面白味もない相手であると思っていたが、ザミエルはもしかしたら、こうなることがわかっていたのかもしれない。

 

 天より落下してくる巨大な火球を前にして、エドワード・ハミルトンの指先が引き金を弾く。絶滅へと進むはずの絶望を振り切るための切り札を託された光の指先が引き金を弾いた瞬間、カスパールより与えられたマスケット銃より最後の銃弾が放たれる。

 

「ああ、問題ない……」

 

 その銃弾は、キャスターによって施された術式通りに複雑に動き回る中心点を正確に打ち抜く。悪魔に代償を支払ったことによって得られた筆誅の魔弾はその逸話に何ら遜色がない形で天より迫りくる脅威を完全に払うための切り札となりえたのだ。

 

「これでいい……これでいいが、ああ……まったく、惜しいことをしたな」

 

 魔弾と落下してくる火球が激突した瞬間に生じた周囲一帯を覆うほどの巨大な閃光、その真っ只中におり、光にその身体を呑み込まれていくエドワードは自分がやり遂げたという満足感と同時に一抹の寂しさを持ち合わせる。

 

もしも、代償なんてものが存在しなければ、自分はもっと長く生きて彼女たちと一緒にいることが出来たのか。その時間はきっと夢のようであっただろうと思いつつも、それを叶えることができないことこそが代償であり、自分の運命であると受け入れる。

 

「どうか、君たちの旅路に幸あれ……」

 

 光が全てを呑み込んでいく最中で、聖杯戦争へと参加した死神と呼ばれる男は、これより先も戦いを続けていく者たちへとエールを送りながら、その姿を消失させていった。

 

「………ほらな、言うたやん、絶対に上手くいくって。あんだけできんできん言うてた癖に、立派にウチら助けていきおって……、何が死神や、恰好ええやん」

 

 その一部始終を後ろで見届けた朔姫は、今度こそ、最早なにも存在しない星空を見上げてポツリとつぶやく。絶望的な状況だった。例え、あそこで朔姫が手を講じたとしても、あれほど複雑怪奇な動きをしていた火球を完全に防ぎきることが出来たのかは怪しい。それを為し遂げることが出来たのは、自らの命を顧みずに、仲間たちを救う決断をした男がいたからこそだ。

 

 彼は最後の最後に満足して逝くことができたのだろうか。自己満足でも、自己解釈であったとしても、これまでの苦しみに見合うだけの報酬を得て逝くことができたのであれば良いと朔姫は思う。結局の所、朔姫の行動こそが、彼に引き金を弾かせることになった。それを忘れてはならないと思うからこそ。朔姫はゆっくりと立ちあがる。

 

「約束したからな、この後のことは任せておけって。焚き付けた以上、ウチもウチで約束守らなあかんのは事実やと思うんよ。だから―――――精々気張るとしようか!!」

 

『さて、場は温めておいたぞ、侵略王。妾にとっては不満のある結果だったが、存分に盛り上げてくるがよい』

「―――出陣!!」

 

 その瞬間、天を震わせるような方向が轟き、先ほどまで巨大な魔方陣によって覆われていたはずのスラムの空に、巨大な獣たちが姿を見せる。

 

 朔姫はその存在を一度目にしている。オカルティクス・ベリタスにて見た存在、圧倒的な破壊の権化、世界に破滅を齎しかけた圧倒的な武力の象徴、七星陣営最大戦力、ライダー:チンギス・ハーンが駆る四駿四狗の獣たちに他ならなかった。

 

 四体の幻獣によって動くライダーの駆るチャリオット、キャスターの大規模魔術を凌いだことなど前戯に過ぎなかったと言わんばかりの第二陣に朔姫は、自分が今だ死地から逃れていないことを理解する。

 

「当たり前やわな、ここは敵の腹ん中、ウチらを喰い尽くすまで戦力が飛んでくるくらいのことは織り込み済みやわ、こっちだって……ええわ、今度はウチにとっての正念場や、ここで本気を出すんは不本意やけど、誓った約束を果たさん不義理はもっと許せん、やろぞ、姫!!」

「そうだね、朔ちゃん……怖いけど、姫も戦うよ、全力で!!」

 

 瞬間、空の星々が光り輝く。そして、周囲の空気が洗練されていき、スラムの中へと飛び込んだライダーですらも感じ取れるほど周辺の感覚が変わっていく。

 

「ほう、迎撃準備は既に整っているか」

 

 自分たちが既に敵陣の中に放り込まれた状態であることをライダーは理解するが、それがどうした? 自分は侵略王、数多の敵地へと土足で入りこみ、総てを蹂躙してきた存在、今更、敵の土俵で戦うことに何の恐れがあろうか。

 

「総て踏み潰し、捩じり潰すだけのことだ。止められると思っているのならば、止めて見せろ!!」

「止めて見せるよ、姫は―――私はその為にいるんだから。侵略王チンギス・ハーン、貴方はこの私が、倭姫命が止めて見せる!!」

 

 宣言を口にするとともに、金髪だったキャスターの髪の色が、擬装が解けるように黒髪へと転じていく。それは真名判明を避けるために行っていた擬態を解き、真なる力を発揮するための解放に他ならない。

 

「京都大陰陽連筆頭、八代が娘、八代朔姫! 歴史の再現や、ここで神風吹かせてやろうやないか!」

 

『くくく、ふははははは、面白い、実に面白いな。ライダー、妾も加勢しようと思うたが、このような面白い見世物、観劇せねば気が済まぬよ』

「構わん、余だけで十分だ。余計な手を出さずに、干渉でも何でもしていろ、キャスター」

『では、お言葉に甘えるとしようかの』

 

 これまで決して力を見せることのなかったキャスターと圧倒的な暴威を晒してきたライダー、共に全力を出すことのなかった者たちの未知の戦いこそが、このスラムにおける第二ラウンドとなった。

 

 その火ぶたを切るように、幻獣たちがキャスターと朔姫へと飛び込んでいくのであった。

 




次回、遂に本気を出すキャスターとライダーの決戦、果たして突破口はあるのか

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