Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤―― 作:ソクリ
キャスター:倭姫命、天照大神の巫女にして、おそらく日本神話に連なる巫女の中でも最高峰と目される巫女である。八咫鏡を自在に操り、神話の中ではあのオロチを討滅するために使用された草薙剣さえも扱った巫女、そして、天岩戸伝説にも大きな関係を持つ英霊といえば、日本神話における集大成といえる英霊であろう。
神祇省が此度の聖杯戦争を勝ち抜くために英霊召喚は厳選に厳選を重ねた。何せ、そこらの魔術師が自分の実力を確かめるために参加するのとはわけが違う。これまで何度か行われてきた極東聖杯戦争の存在を感知しながらも、あえて距離を取り続けてきた神祇省がみずから聖杯戦争に参加する。その意味は余人が考えているよりも遥かに大きい。
神祇省の次期トップとも目されている八代朔姫をマスターとしてあえて投入したことも神祇省がこの聖杯戦争にどれだけ本気であるのかを指し示す一つの指標となっているだろう。厳選を重ね、倭姫命を召喚するための触媒を準備し、朔姫によって行われた召喚の儀―狙い通りに、キャスターは召喚され、神祇省側は自分たちが此度の聖杯戦争の勝利に限りなく近づいたことを実感した。しかし、そこで召喚された彼女はその思惑通りに行くわけではなかった。
「はええええ、無理です無理です、戦いなんて無理です! 私、ただの巫女なんですよ! 天照様の代わりに戦うなんて、私には無理です! 退去させてくださいぃぃぃ」
「ふっざけんなぁぁぁ、お前を召喚するためにウチらがどんだけ労力と金を費やしたと思ってんねん、お前、日本でも最高峰の巫女なんやろ、その自覚を持てや!」
「そんなの知りません、ていうか、そんなの後の時代の人が勝手に描いただけじゃないですか! なんですか、草薙剣を扱っていたとか、そんなの私、たまたま持っていて預けただけですよ! こんなの捏造ですぅぅ!!」
「おい……、どうすんやこれぇぇぇぇぇ!!」
神祇省の思惑が大きく外れたのは、召喚された倭姫命が、戦闘を拒絶するほどの臆病な性格であったこと、戦う力はある、ステータスを見ても、決して聖杯戦争を勝ち抜けないほど弱いわけではない。むしろ、宝具の性能など考えれば、これ以上の当たりはない。タズミ側の戦力がどのような様相になっているにしても、彼女が本気を出せば朔姫の力と合わさって、決して見劣りするものではない。
紛れもなくスペックだけを考えるのであれば、問題はないが、本人の性格までもを召喚するまでは見極めることができない。何せ、アステロパイオスのように本来は女性であっても伝承の中で男性として扱われているようなケースもあるのだ。
神話に名を残した英霊のすべてが聖杯戦争に向いた存在であるかどうかなど、それこそ召喚してみるまではわからないのだ。よって、倭姫が戦闘に限りなく向かない臆病な性格であったとしても、ありえないという話ではないのだ。彼女はあくまでも天照大神の巫女、戦を生業にしてきた戦士や騎士、あるいは兵士ではないのだから。
「わ、私なんかよりも、もっと適任の英霊がいるはずですよ、もっと、その人を召喚するべきだと思います……」
「何言うとるんねん、お前のような奴をもう一体召喚するような余裕があるわけないやろ、どんだけリソース割いて召喚したと思ってんねん!」
もっとも、そんな怯えているような様子は朔姫にとって、看過できるような状況ではない。神祇省にとっても此度の聖杯戦争は絶対に負けることができない戦い、そのためにこの10年間、準備を続けてきたのだ。
「よぉし、いい案が思いついたで~~」
「ひぃぃ、なんだか、すっごく悪い顔をしているよ、この娘、私よりもちっちゃいのに!」
「黙れェェェェ、ちっちゃい関係ないやろ! おい、ビビり、お前の考えはよぉ、わかった。ウチも鬼やない、戦いたくない言うてるやつを無理やり令呪で縛るようなことはしたくあらへん。これでも、ウチは理解あるマスターやからなぁ」
「じ、じゃあ、戦わずに――――」
「イメチェンや」
「は……?」
「だから、イメチェン! 地味娘が突然、大学デビューして、ギャルになってまうように! 芋くさい女が突然、彼氏ができた瞬間に垢抜けるように、ビビり地味巫女、お前もイメチェンして性格を変えればええんや!!」
「………、え、この人何言ってるの? 頭おかしいんじゃないの?」
サーヴァントや英霊とかそんな超常的な話をしているわけではなく、まともな言動をしていない朔姫の言葉に、キャスターは恐れ戦いたような様子を浮かべる。
「かまへんかまへん、ウチが暗示をかけて、ちょいと性格弄繰り回してやるから大丈夫や。気づいたころにはウチの命令を忠実に聞くワンコになっとるんやよ~」
「そんなの絶対に嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
それが二人の初めての出会い、それからもキャスターに徹底的に抵抗されながらも、正体を隠すために有用であること、どれだけ逃げようとしても朔姫が逃がしてくれないことに観念をしたキャスターは、朔姫の暗示を受け入れ、金髪陽気キャラになることを受け入れ、今ではその暗示を受けている状態が当たり前のように接している。
朔姫の目論見が成功したのか、あるいは気休めに過ぎなかったのかは正直なところはわからない。何せ、結局のところ、サーヴァントはいずれ戦わざるを得ない運命にあるのだから。
これまでは多くのサーヴァントが戦いながら、なんとか戦わずに乗り切ることができた。しかし、今、目の前に現れたのは七星陣営側最強のサーヴァントといえるライダー、四体の幻獣を従える巨大チャリオットに乗りこんだ侵略王は先ほどのキャスターと同格あるいはそれ以上の脅威である。
それを相手に、臆病なだけのサーヴァントが戦うことができるのかといわれれば、それは無理であるというべきことだろう。
しかし――――
「顕現、八咫鏡!!」
ライダーが問答無用で攻撃をしてきた瞬間、キャスターの胸元に鏡が姿を見せ、周囲に次々と同形状の鏡が展開していく。さながら彼女を守る自立型機動兵器のように展開したそれらに、朔姫が印を結ぶと、次々と青色の光が灯っていく。
「我が陰陽道、遠く古くは天照の導きによって編み出した者であれば、その加護を受けし、八咫鏡、それすなわち、我らを守護する大結界とならん!! いいぞ、姫、かましたれぇぇ!!」
『ほう、侵略王、気を付けた方が良いぞ、あれらの鏡、げに恐ろしき魔力を持ち合わせておる。なんじゃ、なんじゃ、あのような輩を隠し持っておったとは。性根が悪いのぉ、神祇省の小娘、お主、戦力で見ればセイバーどもに伍するではないか』
「どうでもいい。総て破壊するだけのことだ」
キャスター:ヘルメスは展開顕現した八咫鏡の効力に気付いたからなのか、ライダーへと忠告を口にするが、ライダーは聞いたうえで関係ないと断言する。
英雄として、侵略王として相手の土俵に飛びこんだ以上、彼の事象に存在するのは破壊し、屈服させるだけのこと。
「遠き倭の神官どもよ、生前に出会うことのなかったそなたらの実力、この侵略王に示すがいいッッ!!」
「GAOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
四体の幻獣たちが一斉に咆哮を上げて、展開された八咫鏡へと突貫する。激突と同時に鏡はバリンと割れる。あまりにもあっけなく、日本の三種の神器とも呼ばれたその鏡は侵略王の猛追に屈服するように破壊されるが――――
「GYAAAAAAAAAA!!」
「ぬっ、ぐぅぅ」
「逃がさべんで」
「ライダー、もう貴女は姫と朔ちゃんの術中の中だよ!!」
バリンと鏡が割れた瞬間に、その割れた鏡の破片がライダーと四体の幻獣の身体を突き刺さる。されど、そんなものはただの鏡、ライダーがさして痛みを感じるようなものではない。例え、それが何十枚と一気に割れて全身に突き刺さったとしても、さして気にかけるような痛みでは到底ない……と思われていた。
『なるほど、やはり性根が悪いではないか。あの鏡、破壊力をそのまま相手に返しておるのか。相手の実力が高ければ高いほどにその破壊力も増していく。一騎当千の英霊どもを破壊するにはうってつけの武器という訳だ』
八咫鏡の効力は恐らくはカウンター宝具だ。相手が鏡を破壊した瞬間に、その鏡を破壊した威力がそのまま相手に返される。先の一撃、ライダーはその突進力のまま、複数の鏡を一気に破壊した。ライダーだけではなく幻獣にまでダメージが帰っているのは彼らが破壊した一体として認識されているからだろう。
キャスター自身に攻撃力があるのかどうかは定かではないが、聖杯戦闘というカテゴリーの中で考えた場合、八咫鏡は決して不利になる宝具ではない。何せ、聖杯戦争は時間制限があるわけではない。必ず他の総ての陣営を潰さなければならない以上、モグラを決め込めば相手から動いてくるしかない。そこに対しての迎撃と考えれば、これほどいやらしい宝具もないだろう。
『無論、それはここまで手の内を見せてこなかったキャスター陣営であるからこそできる芸当ではある。これまでもアサシンやランサーどもと戦う時に披露する気になればいくらでも披露することは出来ただろうに。それをあえてせずに、あえてここ一番で自分たちの切り札を切る。くく、良いな、良いぞ良いぞ、そうでなくてはならぬ、そうでなくては敵役としてはつまらなさすぎるからのぅ』
おそらくキャスター本人の提案ではなく、あのマスター、八代朔姫の提案だろう。徹底的に自分たちの情報を遮断し、必要な時にその手札を切る。
(とはいえ、これだけの戦力を出し惜しみしていた理由も気になりはするのよのぉ、自分の戦力を隠しておきたかったといえばそれまでかもしれぬが、それはそれとして、これまでも連中はかたくなに自分の力を見せてこなかった。果たして、そこに理由はあるのか、あるとすれば、何を目論んでそのようなことをしたのか……)
ヘルメスは侵略王に伍する戦い方をするキャスター陣営に舌を巻きながらも、彼女たちがあえてここまで手の内を隠し続けてきた理由について模索する。聖杯戦争がいかに情報を隠しあったうえでの戦いであったとしても、ここまで病的に情報を隠さざるを得ない状況が存在するのか、はたまた、それは自分たちが想定していない何らかの思惑があって、隠そうとしていたのか……
『まぁ、それも戦いを通した中で読み取れるかもしれんのぉ、何せ、そう簡単なものではないぞ? その男を、侵略王をせき止め続けるなどということは』
「くっく、やるではないかキャスターよ。そうでなくては面白くもない!!」
「この状況を面白がっているようなキショい奴に何を言われても響かんわ。オラぁ、これで終わりだと思うんやないわ!!」
「八咫鏡、反転!!」
キャスターが無数に浮かんでいる鏡たちへと行動の指示を与えた瞬間、鏡が赤色の色へと変わり、次々とレーザーを放つようにライダーへと攻撃を仕掛けてきた。ここまでに展開された全方位に存在している鏡の一つ一つが、まるで鏡面兵器とでも言わんばかりに攻撃を仕掛けてくるのだ。
それこそ、敵陣の真っただ中に放り込まれたような様相である。一斉に全方位から攻撃に晒されているに等しい状況ではあるが、それでも侵略王はニヤリと笑みを浮かべる。
「温いわッ、この程度で余を抑え得られると思うなッ!」
「ああ、抑えられるなんて思っとらんわ! この優位な状況、徹底的に利用してお前を追い込んでやるだけや」
「姫は、貴方のように強い存在ではないけれど、それでも、戦い方次第では、戦いようはあるんだよ!!」
攻撃に使う鏡とカウンターに使う鏡、それらが複雑に絡み合いながら、変化していく。ライダーとしては全てを破壊してしまえば攻撃をしてくる存在もまったく気にしなくて問題ないのだが、その攻撃によって自分が傷つき、躊躇をすれば、鏡側から攻撃がやってくる。その攻撃の主導権を握っているのがキャスターである以上、ライダーにとってはそれを凌ぐための方法は何一つとして残されていない。
以前のオカルティクス・ベリタスでは数の暴力とばかりに全員でライダー陣営にかかっても、ライダーの軍勢に太刀打ちできなかったが、それが嘘であるかのように、キャスター陣営はマスターと二人でライダーを相手に立ち回っている。ライダーが軍勢を召喚することなく、自分自身の戦力だけで戦っているという点を考慮してでも、快挙といえることだろう。
もっとも、それがいつまで続くのかなどと。このまま最後まで進むと考えているのならば、些かそれは安易な妄想という他ないだろう。
「素晴らしい」
ポツリと一言、ライダーは声を漏らした。
「我が右腕であるジュベを討ち倒し、そして今、余と四狗たちをたった一人で追い詰めようとしている。何たる剛毅、何たる英雄、ああ、素晴らしい。聖杯戦争という場に呼ばれても結局のところは然したる満足を得ることなど出来ぬと思っていた。総ては灰狼の思うがままであると思っていたが、そうでなくてはならない。
貴様たちは余が踏み越えるに相応しい、余が侵略するに相応しい英傑でなければならぬのだからな」
「うっ……なんだか圧が強まって……」
「褒めて遣わそうキャスター。そなたは余が喰らうに足りる女であろうと認めよう。蹂躙した暁にはその身、マスター共々、余のものとして楽しませてもらうぞ」
「はぁぁぁぁ? ウチも一緒とかどんな神経しとんねん、ロリコンか何かとちゃうん!? やるなら、こっちの中身ババアだけにせぇや!」
「ちょっと、朔ちゃん、中身ババアってどういうこと!? 姫は全盛期で呼び出されているから、普通に乙女なんですけどぉ!」
「見た目と中身が釣り合ってないやろ、今、西暦何年だと思ってんねん!」
などと二人は騒ぎ立てるが、ライダーを前に命知らずな行動をしていると判断するだろうか。実際の所は違う。ライダーの注意を少しでも引きつけようとしている。
キャスターが口にしたように空気の圧が変わった。八咫鏡による迎撃は完璧に機能している。攻撃と防御、二種類の攻勢防壁を機能させることによって、ライダーの機動力も破壊力も、キャスター陣営は完璧な形で封じ込めに成功したのだ。
しかし、敵はかの侵略王チンギス・ハーン、どれだけこちらが備えていたとしても、総てを吹き飛ばして、台無しにして、この状況をひっくり返してくる可能性は十分に考えられる。
であればこそ、注意を少しでも引きつけて逆転の策を実行に移すような状況を許さないようにする。先ほどまで追い詰めていたのは明らかにキャスター陣営であったはずなのに、その纏う空気の違いだけで、危機的状況を感じさせる。それこそが圧倒的な暴力の王として君臨した者の力なのか。
「四狗たちよ――――食いちぎれ、構うな、最強を誇る貴様たちに食い破れぬ場所ではない!」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「GOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
「SHAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「VOOOOOOOOOO!!」
四体の幻獣が一気に咆哮を上げると、幻獣たちの身体とライダーに乗り上げているチャリオットへと魔力が一気に収斂されていく。
(まさか、無理矢理ぶっ壊すつもりか!? そんなん無理やろ、先に身体がぶっ壊れるぞ!?)
八咫鏡による迎撃が成功する以上、より力を高めて攻撃をするのは、ライダーの寿命を縮めるだけの結果になるのは明白、そのはずであるというのに、朔姫は焦りを止めることができない。万が一が起きてしまったら、万が一、本当に八咫鏡を破壊されるようなことになれば、もはや手の内は無くなる。これこそが最も、ライダーを効率よく破壊することができる戦闘方法だというのに、
「―――やれ」
その瞬間、何が起こったのかを掲揚することができる人間がどれほどいるだろうか。ライダーが誇る四匹の幻獣たちが一斉に咆哮を上げて空間に噛みついた。その噛みついたことによってなのか、ここまで八咫鏡によって支配されているはずの世界が突然パリンと割れるようにして、空間が変容したのだ。
「きゃあああああああああああああああ」
「がっ、あああああああああああ」
そして、悲鳴を上げたのはライダーではなく、朔姫とキャスターである。彼女たちは呪詛返しでもされたかのように全身から血しぶきを上げ、その血しぶきを上げた箇所が服もところどこり破れ、実際に裂傷によるダメージを受けているのか、ぜぇぜぇと肩で荒い息を吐き始め、膝をついてしまう。
「な、なに……? 何が起こって、なんで、八咫鏡による反射結界が破られちゃうの!? 朔ちゃんと私の自信作だったのに……!?」
「破壊、侵略、それらこそが我らの在り方、例え、どれほどの強固な世界であろうとも、そこが我らに逆らい破壊するべき対象である限り、余の進軍を止めることはできぬ? 忘れたか? このセプテムは七星の末裔が建国した国、ゆえに、我らの侵略はこの国を生み出す一助であったのだ。恐怖であろうとも礼賛であろうとも、倭の島国とは比較にならぬほどに、余の名は轟いておるわ」
「ちっ、サーヴァントの知名度補正、ああ、そうやな、初歩の初歩すぎて忘れておったわ。この国が舞台である限り、建国伝説に関わっておるお前は、どれだけ弱体化させようとも、なお、最高峰の英霊やもんな……」
セプテムという場所が舞台である限り、建国の祖を従えた世界帝国を生み出したチンギス・ハーンの存在は、常に圧倒的な存在だ。どれだけ小手先の技を使ったところで、その勢いを止めることはできない。
防衛手段に打って出た時点で、ライダーの勢いを止めることはできない。イェケ・モンゴル・ウルス、世界の歴史の中で最も多くの大地を侵略してきた帝国にとって、防衛をするという時点で敗北は決まったに等しいのだから。
荒ぶる勢いのままに、ライダーを滅ぼすほどの戦いをすることができる存在だけが、ライダーを討ち滅ぼすことができる。
『ふむ、中々に面白い状況ではあったが、やはり恐るべき強さよのぉ、ライダーよ。妾ですらもこの地で戦えば、不利を隠すことはできぬわ。いかに人の運命を弄ぶ妾であっても、同情を禁じえぬよ、あのような英霊と、これほどの実力の差を抱かされながらも戦わざるを得ないお主たちの運命の残酷さに……』
戦いを観戦していたキャスターからしても限りなく詰みの状況である。キャスターと朔姫の基本的な武力はライダーには決して及ばない。あくまでも八咫鏡によるカウンター攻撃によって、ライダー自身の力を転用させることで戦うことができていた。
ここまでにライダーに相応の手傷を負わせることはできたが、それでも致命傷には至っていない。幻獣たちはまだまだ動き回ることができるし、ライダー自身も戦闘継続に何ら問題はない。
この場にキャスターと朔姫を救うものがいなければ終わりだ。先ほどのエドワードの後を繋いだ二人ではあるが、この後を繋ぐ者たちがいない時点で終わりを迎えるし、その気配をキャスターは感知することができない。
『まぁ、仕方がないだろうな。それに、キャスターはここで倒しておいた方が良かろう。あれほどの力を使う者たちだ、この後にどんなことをしでかすのかもわからん。面倒な相手は面倒がないうちに滅ぼしておくのが筋だ。くっく、我が主であれば別の意見を言うかもしれんがな』
「筋は悪くなかった。しかし、一芸にすべてを求めすぎたな。貴様たちがそれでもなお歯向かうほどの膂力を持ち合わせている者たちであったならば、余の傷口に食らいつくことができたかもしれんが」
「っっ、バカいっとるんじゃないわ、こちらとか弱い女の子だってわかるやろうが、お前らみたいな筋肉モリモリのリアルバーサーカーと一緒にされたら敵わんわ」
「この状況でもなお、減らず口を叩くことができるのならば、十分だ。その反抗心を胸に、散るがいい。異国の神官たちよ、そなたらのことを余は記憶に――――」
「むかぁし、むかぁし、めちゃんこ強い蒙古の軍勢は、うちら日本の地を侵略しにきおった。降伏を勧告して来たんやけど、うちらの祖先はお前らなんかに従いたくないわって首切り飛ばして帰らせてやったんや」
突然、朔姫が末後の状況に近い中で声を上げる。その様子にライダーの手が止まった。
「そんで、お前ら、蒙古は怒りに狂った。クソ島国が世界最強に逆らうなんてどういうこっちゃってな。そんでお前らはすさまじい数の軍勢を率いて、うちらの国に攻め込んだ。
世に言う元寇の始まりってな」
朔姫が突然語りだしたのは、時代も経ること鎌倉の時代、ユーラシア大陸をモンゴル帝国が席巻し、ついには島国日本にも彼らが攻め寄せてきた時代の話し、チンギス・ハーンにとっては彼の子孫たちが日本に攻め込んだ時の話しである。
「辺境の島国であると調子こいたお前らは、ウチらのご先祖様たちの意外な抵抗に驚かされた。そして、結局はウチらの国を支配することもできずに逃げ帰る始末、滑稽やって言うのはこういうことを言うんやろうな。どうや? 子孫共が不甲斐ないお陰で島国に一生、お前らの帝国を撃退した神の国言われる立場になっておるんは」
「笑止、まさか、そのような言葉で余が止まるとでも? 子孫たちが貴様たちの国に不覚を取った? なるほど、確かにそういうこともあろう。余の血を継いでいたとしても余でないのならば、そうしたこともあろう。ならば、なおさら、余がその謝礼をしなければなるまい」
「ちっ、動揺誘うんも無理か」
「そも、敗北などこの身ですらも幾度も幾度も重ねてきた。モンゴル高原で幾度となく行ってきた部族同士の覇権争い、信じていた友の裏切り、狡猾な国家間の騙しあい、どれもこれも余の首を狙うばかり、命の終わりを感じたことなど、一度や二度に非ず。
それでも、余は歴史に名を刻んだ。敗北など、次に勝利をするための糧に過ぎん。恥を覚える必要など欠片もないのだ。勝利の道筋の一つに拘る必要があるか?」
「はぁ……、いや、ほんま、もう少しテンプレ的悪の親玉ムーブしてくれてもええやん。ポジションがそれで、性根が根っからの英雄とか、いやもう、手に負えんわ、こいつ」
侵略王にしてモンゴルの絶対的英雄であるチンギス・ハーン、彼は確かに侵略される世界の者たちからすれば、誰よりも憎悪すべき災厄を齎す侵略王であったことは間違いない。
しかし、同時に己を慕う者たちの為に常に進撃を続けてきた草原の王でもある。自身の強さだけではあの大帝国を築き上げることはできない。最高峰のカリスマ性と武力、そして彼の力にならんとする者たちの協力がなければあれほどの帝国を築き上げることは出来なかった。例え、世界に破滅を齎すほどの悪魔であったとしても、その原初にあるものは、まがうこと無き英霊としての矜持なのだ。
故に小手先の技も術も通用はしない。ただ、敵として認め、敵として滅ぼしていくだけのこと。その絶対的な終末の刃が朔姫とキャスターへと振り下ろされるその瞬間に、
「ま、止まるなんざ想っておらんわ。でも、存外、話しを聞いてくれたんは嬉しい誤算やったわ。おかげで姫の準備もとど乗ったしな」
その時に、ライダーとキャスターの戦闘が繰り広げられている、スラムの上空、先ほどまで巨大魔方陣が浮かび上がっていた空に暗雲が立ち込める。そして、不穏なほどに吹きすさぶ強風が立ち込め、ライダーと幻獣たちの身体を揺らす。
「ウチの姫の本領発揮は天候操作、巫女とはあらゆる吉兆を占う者、当然に天候を占い、天候を操作するんも巫女であればお手のものよ」
「なるほど、それが時間稼ぎの答えか? 別にどうとでもなる。今更、天候の一つ――――いや、まさか」
ライダーは何かに気づき、そして朔姫はニヤリと笑みを浮かべる。そう、何も時間稼ぎのための無駄話をしていたわけではない。言うなれば印象付け、言霊の力とは決して馬鹿にすることはできない。その力を以て、ウソを真実にすることもできることを彼女は理解している。
「知名度補正でウチらの思惑潰されたんなら、当然、ウチらは意趣返しさせてもらうで、そっちが知名度で勝負するんだったら、ウチらは歴史再現で勝負や! 遥か鎌倉に蒙古を吹き飛ばした神風―――それを、今ここに再現する!!」
「八咫鏡より空へ――――天照の威光をここに示し、護国の御風と相成らん!!
宝具『伊勢ノ神風』!!」
それは言うなれば暴風と雷である。かつて、蒙古によって派遣されてきた世界帝国の兵士たちを破った鎌倉武士たちに味方をした奇跡の暴風雨、伊勢におわす天照へと捧げられた祈りによって顕現されたその護国の神風は神の島国へと迫る外敵を排除するための力として、圧倒的な威力を発揮した。
キャスターの発動した宝具はその再現、吹きすさぶ暴風と雷を以て、敵軍に人外な被害を与えるという宝具ではある。しかして、ライダーの軍勢は一騎当千、如何に圧倒的な宝具であったとしても、大群宝具で堰き止められるほど甘いものではない。
しかし――――
「ぐっ、があああああああああああああああああああ!!」
「GYAOOOOOOOOOOOOOOO!!」
絶叫が木霊する。悲鳴がこのスラム総てに響き渡るかのようであった。四体の幻獣、そして戦車に乗るライダー、それらすべてが暴風によって全身を刻まれ、空より落下してくる雷によって全身を焼かれる。その威力たるや先ほどの八咫鏡とは比較にならない。
キャスター陣営を滅ぼすための絶好の機会であるはずなのに、彼らは一歩も前に進むことが出来ず、逆に痛みに耐えることしかできない。
「ああ、そうや、そら当然聞くやろうな、ウチらの国は世界最強のお前らを退けた国や!その時の歴史再現をお前が自覚したうえで攻撃を受ける。知名度補正や歴史再現が通じるんなら、そこには絶大な意味合いがあるに決まっとるわ!」
先ほど、ライダーに自分たちの絶対的な反射結界を破壊された時に、朔姫はすぐさまこの方法による起死回生の一手を思いついた。勿論、その宝具発動にかかるまでの時間稼ぎをしていたことは事実ではあるが、それ以上にライダーへと自分たちの立場を理解させることが必要だった。
蒙古と日本の関係性や世界でもまれな例である。常に対峙してきた国家を滅ぼしてきた、あるいは従属させてきたモンゴル帝国にとって、勝利することが出来なかった稀有な例の一つ、その歴史再現という力を利用してのライダー打倒、使わない理由など存在しない。
その機転を僅か一瞬の間に考え付き、実行に移した朔姫とキャスターのコンビネーションは圧巻の一言であろう。命を奪われる危険性がある状況の中で簡単にできるようなことではない。
「ま、おかげでこっちもこっちでスッカラカンやけどな……ここまでのことを本当はするつもりやなかったけど、戦わなきゃ生き残ることもできへんし、ウチらもここで脱落するわけにはいかん」
「そうだね、ライダーを倒したからって、それで聖杯戦争が終わるわけじゃないもんね」
ここまで徹底的に力を隠してきたのはキャスター陣営なりに想う所があったからこそである。この場で力を使ったのは、自分たちを生かすために、命すらも懸けたエドワードに手向ける為である。ライダーの蹂躙を許せば、彼が命を懸けた意味が無くなってしまうからこそ、力を振り絞って戦った。
「――――見事だ、まさか、余がここまで追い詰められるとは思ってもいなかった。先の一撃、凄まじいの一言だった。もしも、余が灰狼に召喚されたわけではない通常のサーヴァントであったのなら、先の一撃、致命傷になりえたかもしれん」
だが、だがしかし、これほどの策を講じたとしても、それでも生き残るからこその侵略王、雷と暴風による周囲への影響が消え去ったそこには、全身に傷を負いながらも魔力によって回復していくライダーの姿があり、その横には、これまで姿を見せなかった星灰狼の姿があった。
「さすがに、肝を冷やしましたよ、王よ。人造七星たち10人の生命力総てを転換した一時的な魔力増幅が無ければ、貴方を消滅させられていたかもしれない」
「雑兵たちの命を犠牲にしなければ生き残られなかったとは、余の不覚だな。しかして、余は生き残った。ならば、この敗北を次の糧とすればいい」
何故、星灰狼が七星の中で序列第一なのか、それは彼が抱えている人造七星たちがそのまま、ライダーの魔力タンクとして機能しているからである。灰狼が本来であれば抱えなければならない魔力という負担を抱えて、その上でライダーに危機が陥った際には魔力を消費して回復をさせる。その過程でタンクとして使用された人造七星の命は失われるかもしれないが、そんなものは彼にとって気に掛けるほどのことでもない。
いなくなればまた補充をすればいい。天然モノではないのだから、そうしたことができることこそ、人造七星の利点であると言えよう。
「とはいえ、まさか四狗たちをすべて失うことになるとは思っていなかった。我がチャリオットも破壊されてしまったな、灰狼よ」
「何を、であれば王には愛馬がありましょう。武器の一つを失ったとしてもまだ戦うことは出来ます。御身が存在する限り、我らが望んだ大帝国に終わりなどありませぬ」
これまでライダーを運び、戦いをサポートしてきた四匹の幻獣たちの姿が黄金色の光に呑まれていきながら消失する。ライダーを生かすことには成功したが、さしもの幻獣たちまでもを生かすことが出来なかったことが、キャスターの放った神風がいかに凄まじい威力であったのかを物語っているだろう。
絶好の機会だった、今この瞬間こそ、ライダー陣営を完全に消滅させる最初で最後のチャンスであったかもしれない。しかし、それも灰狼によって無に帰した。最初から灰狼にはライダーが脱落した時に備えての準備があったのだから、失敗をすることは言うまでもないことであったかもしれない。
「では、もう一度と行こうか。八代朔姫。ここまで私達を追い込んだのだ。最後まで侵略王の敵として奮戦を期待したいところだが――――、余計なことをされても困る。王よ、申し訳ないですが、聖杯戦争のマスターとして彼女たちに引導を渡します」
「良い、単騎で駆け、その結果としてそなたがいなくば、危うく討たれていたところだ。此度は命令に従う」
「では――――散華」
「ええ、お任せください、灰狼殿」
その瞬間、迫って来る殺意に朔姫は死を覚悟した。混ざりけのない殺意、ただ殺すことにだけ集中した最高峰の暗殺者をどうして防ぐことができるだろうか。
(あかん、いつもだったら式神使ってとか、術で防いでとか思いつくけど、ガス欠している状態じゃそれも展開できへん……もうちょいやったんやけどな……)
最後の想定が身を踏み越えることが出来なかった。聖杯戦争に勝つために策を講じてきた灰狼との差が出た。手の内を先に出したのはまさに失敗であったと言えよう。
本当であればもう少し、仲間たちの中で潜伏するつもりでいたというのに、姿を見せてしまった自分の甘さを恨むほかないかと朔姫は諦め、散華の刃が届かんとした時に―――、
「朔ちゃん!!」
「―――――ッッ!」
バシンと、何もない空間に散華の刃を阻む者が出現し、散華は七星の血に従って、朔姫への追撃を諦めて、一度距離を取る。
その判断が正解であったことはすぐに理解する。散華と相対するように立ちはだかった彼女にとっての本当のターゲットが目の前に現れたのだから。
「ああ、桜子さん。嬉しいですね、会う前に消え去ってしまっているかもしれないと思っていましたよ」
姿を見せたのは桜子、だけではない。レイジやロイ、そしてルシアとアークもこの場に姿を見せる。キャスターによって暗示をかけられ、意識を失っていた者たちは、先ほどの神風の影響でついに目を覚ましたのだ。
「ごめん、朔ちゃん。私達全然気づくことが出来なくって……!」
「はッ、最初から期待しておらんわ。ま、でも……ちょいガス欠や。悪い、あと、任せてええ、か?」
「―――勿論!」
桜子の腕の中で朔姫は意識を失う。キャスターと二人でライダーを押し留め、その前には巨大魔方陣の消滅にまで寄与していた。意識を失うのも無理はない。
「星灰狼ッッッ!!」
「ほう、アベル、君も出て来たか。ターニャ・ズヴィズダーも健在そうでなによりだよ」
「貴方に心配される必要なんてありません!」
「お前はここで殺す。お前を殺して、みんなの無念を晴らすんだ……!!」
ようやく見つけた仇敵、滅ぼさなければならない存在を前にして、レイジは怒りをあらわにする。その熱こそが彼を突き動かしているのだから。
「残念だが、私と君のステージはまだここではない。君にはより相応しい戦うべき相手がいるだろう」
そういうと同時に、魔方陣が浮かび上がり、その中からキャスターとマスターであるカシム・ナジェム、そしてオカルティクス・ベリタスで姿を見せたあの少年が姿を現す。
「お前は……っ」
「さて、実験体420号、私の為に戦え」
「ロイ・エーデルフェルト、先の戦では世話になったな。此度は以前のようにはいかぬ」
「また厄介な奴が戻って来たな」
「くく、では、第三ラウンドと行こうか。なぁに、逃げ場などないと思え。お主らは此処で朽ちるまで戦うのだからな」
七星序列一位から三位までもがそろい踏みになった戦場、ここまでの激戦ですらも前哨戦に過ぎなかったかのように戦いが本格化する。決して逃げ場など与えない。どちらかが消えるまで、終わりはないと告げる戦場に――――
『さて、キャスターもカードを切ったのなら、僕もいい加減手札の切りどころかな?』
アヴェンジャーの中にいる青年はいよいよ、自分の番が回ってきたことを実感するのであった。
第11話「Colors of the Heart」――――了
次回―――第12話「ジョーカーに宜しく」
次回は6月10日(土)更新です!
【CLASS】キャスター
【マスター】八代朔姫
【真名】倭姫命
【性別】女性
【身長・体重】142cm/35kg
【属性】秩序・善
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷D
魔力A+ 幸運A 宝具A+
【クラス別スキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“神宮”を形成する事が可能。伊勢神宮を創建した。
道具作成:D
魔術的な道具を作成する技能。
【固有スキル】
鬼道:A
天照大神の御杖代として鬼道を取得している。周囲に存在する霊的存在に対し、依頼という形で働きかけることにより、様々な奇跡を行使できる。行使される奇跡の規模に関わらず、消費する魔力は霊的存在への干渉に要するもののみである。あくまで依頼であるため、霊的存在が働きかけに応じない場合もあるが、倭姫命は天照大神の御杖代に選ばれているため、成功率は非常に高い。
神性:B
天照大神の直系にあたり、本人も信仰を集めている。
神々の加護:A+
天照大神を始めとした伊勢神宮に祀られる神々の加護。
危機に瀕した際に神霊レベルの支援行使が行われる。
神託:A
神の託宣により、その状況での適切な判断ができるようになる。Aランクならば常に天照大神の判断を得ることが出来る。
【宝具】
第一宝具『伊勢の神風』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:0~60 最大捕捉:1000人
倭姫命が天照大神から神託され、後の元寇によって神として風宮に祀られるようになった奇跡の神風。真名解放を行うことで激しい風雨を起こし、レンジ内の対軍宝具の発動を停止させ重大な被害を与える。
第二宝具『八咫鏡』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
日本国三種の神器の一つ。石凝姥命が作り、倭姫命によって伊勢神宮に奉納された天照大神の化身鏡。
魔術や光・熱属性の攻撃を受けた際に『八咫鏡』に写すことで、魔術特性はそのままにAランクの攻撃として、そのまま反射・拡散させることが出来る。常備型の利器としての宝具である。
第三宝具『???』
ランク:A+ 種別:対界宝具