Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

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第13話「セブンティーン」③

――王都ルプス・コローナ・王宮――

「以上が私の辿ってきた時間です。戦争が身近に存在しているリーゼリット様やヨハン様からすれば、安穏とした世界の中の話しに聞こえるかもしれませんけれど」

 

「………、その、散華さんは自分の家族も」

 

「ええ、殺しました。七星宗家は私の代を以て終わりです。それが私なりの復讐です。何の生産性もありませんけれど、私は私の人生を台無しにされたんですから、私も同じことをして然るべきです。もっとも、私の中に宿っている七星の血がそれを許してくれるかはわかりませんけれど、リーゼリット様や灰狼様がいるのであれば、それでいいじゃないですか。最初の始まりが滅んだとしても、枝分かれした皆様が七星を継ぐのであれば、私の血が残る必要はありません」

 

「あんたは、この聖杯戦争で死ぬ気なのか?」

「さぁ、どうでしょう。それは七星桜子を、私の目的を達成してから考えますよ。言ったでしょう、何の生産性もない復讐だって。意味なんてないんです、道を踏み外してしまった者がするどうしようもない八つ当たり、それでも、その復讐だけが今の私を支えてくれている。私にはよく理解できますよ、アヴェンジャーのマスターのことが」

 

 自分と同じく復讐のために生きているレイジ、復讐という行為が正しくないと理解していても尚、突き進まずにはいられない精神性は散華もよく理解できる。

 

「悪意を向けられたまま、泣き寝入りなんてできません。それが自分を縛る運命のようなモノであったとしても、立ち向かわなければ救われない。そこから一歩も進めない。

 リーゼリット様、七星とはそういうものです、私は貴女を嘲笑うつもりはありません。かつての私も貴女と同じでしたから」

「…………」

 

「だからこそ、貴女の末路も想像できる。貴女は七星から逃げられない。灰狼様の計画は問題なく進行している。いずれ、すべてが彼の思う通りになるでしょう。リーゼリット様、貴女の向かう先はこの国の女王として灰狼様に従うか、灰狼様に逆らって命を対価に自分の矜持を貫くか。そのどちらかです」

 

「そんなことにはさせない、俺がいる限り、リゼは――――」

「できますか? 灰狼様は自分がこの聖杯戦争という物語の主役であると信じて疑っていない。ヨハン様、貴方は自分がこの世界の、この物語の主人公であると思う事が出来ますか?」

 

「それは……」

「それほどの覚悟がなければ、あの方を排除することはできませんよ。もっとも、リーゼリット様、貴女が本気でこの聖杯戦争を勝ち抜くつもりになるのであれば話は別かもしれませんが」

 

「何が言いたいの?」

「いいえ、勝手な予想ですよ。灰狼様の目論みを止めることができるとすれば、それは他の誰でもなくリーゼリット様、貴女だけだと私は思います。灰狼様の物語の敵役には、やはり貴女が相応しいと。ふふっ、夢破れた者だからこそ他人に夢を託してしまうのかもしれませんね」

 

 もしも、この聖杯戦争で灰狼を阻むことができるとすれば、それはリゼを置いて他にはいないだろうと散華は思う。そこには何かしらの根拠があるわけではない。女の勘、あるいは直感めいたものだ。

 

 同じような境遇であったからこそ、散華はリゼが灰狼と対峙する道を最終的に選ぶだろうと半ば確信を持って考えている。結果としてどちらが勝つのかは別としても、えてして物語とは主役と敵役が存在するからこそ盛り上がるもの。

 

 後は単純にどちらが主役なのかという話でしかないわけだが……

 

「くっく、盛り上がっているところで済まぬが、朗報だぞ。散華。連中の認識阻害を突破するための術式が仕上がった」

 

 その瞬間、いつから部屋にいたのか、キャスターが散華やリゼたちへと声をかける。一同は驚くが、キャスターは何ら悪びれる様子もなく笑みを深める。

 

「そう驚くこともあるまい。お主らが話していた内容など、妾にとっては些末事よ。既にこの世界より消え去った影法師が生きる者共の謀り事に興味など持ち合わせたところで面白みなどあるまい。好きにせよ、妾はただ、事実を伝えに来ただけじゃ」

 

「それを私に伝えに来たということは、灰狼様やカシム様と同時に私も向かうということでよろしいですか?」

 

「ふむ、それがのう、我が主は再びのメンテナンス中、侵略王たちは消耗が激しいということでな、加えて、アヴェンジャーの世界改変の術式は強固じゃ、世界が認識をしようとすればするほどに、認識を誤認させる。要するに1人か2人程度の認識が正しければ誤差であるが、大軍を率いるようなことになれば、逆に誤認を引き起こすことになりかねんということじゃ。よってじゃ、散華、此度の討伐は同行者を認めるが、基本的にはお主とアサシンの単独で向かってもらうことになろう」

 

 錬金術師の最高峰ともいわれるキャスターですらも完全に術式を解除することができないほどの力、さながら世界に刻み込まれた呪いのようなものですらある。

 

「時間を掛ければ、完全な解除をすることも出来ようが、勇み足をするのであれば、ということじゃ。どうする散華? 皇女殿下とそこな騎士も、戴冠が近いとあれば出向くことも厳しかろうが」

 

「聞くまでもありませんね、キャスター、こんなにも早く決着をつけるための機会を与えてくださりありがとうございます。これでようやく私は七星桜子を殺すことができる」

 

 散華としても異論をはさむ余地などない。ライダーやキャスターが邪魔をしなければ今度こそ、桜子と決着をつけることができる。敵の方が数の面では多いのは事実であるが、昨日の戦いで消耗しているのはあちら側も同じ。むしろ、総合的な面では彼女たちの方が遥かに消耗していると言えるだろう。

 

「先ほど同行者と言いましたが、誰か来るのですか?」

「ああ、入るがいい」

 

「へっへ、悪いな、七星の嬢ちゃんよぉ、あんたが殺したい奴がいるように俺にもどうしても殺してやりたくて仕方ない奴がいるんでね」

「ルチアーノ・ステッラ!」

 

「皇女様たちもご健勝そうで何よりだ。ま、今回は抜け駆けさせてもらうことになりますがねぇ」

 

 協力者として姿を見せたのは、バーサーカーのマスターであったヴィンセント・N・ステッラの弟分であったルチアーノ・ステッラ、イタリアンマフィア『ステッラファミリー』の一員であった男、グロリアス・カストルムでは、ヴィンセントを殺したレイジに復讐するために動いたが、結果として返り討ちにされることとなった。

 

「灰狼にしつこく食い下がっておったのでな、妾が取り計らってやったのだ。獲物は違う、邪魔立てする相手を振り払う程度のことはできるじゃろうて。どうじゃ、散華よ」

 

「構いませんよ、私は私の目的を果たすだけです。七星桜子を殺した後は、七星宗家の人間として他のマスターたちを排除するつもりですし、あの少年と私は大した因縁があるわけでもありません。ルチアーノさまも譲りますよ。事実がどうであれ、奪われた者が許せないと抱く激情は私もよく存じ上げていますから」

 

「くく、ありがたいねぇ。そうさ、理屈なんてどうでもいい。俺自身が、あいつをレイジ・オブ・ダストを殺してやりたいと思っているんだ。それだけで十分だ。こんどはしくじらねぇ」

 

「だが、あいつには、レイジ・オフ・ダストにはサーヴァントがいる。お前が無策で飛び込んだところで、サーヴァントを封じることが出来なければ一瞬で殺されて終わるぞ」

「くく、それなら問題はねぇよ。俺だって無策で飛び込むわけじゃねぇさ、なぁ、クビライの旦那ぁ」

 

「ちっ、何だって俺がこんな奴の面倒を見てやらなきゃいけないんだか。ハーンの命令でなければ、今すぐ縊り殺している所だぞ、小僧」

 

 ルチアーノの隣に姿を見せたのは、ライダーの配下であり、ジュベやジュルメと肩を並べる四駿が一人、クビライであった。バーサーカーのサーヴァントとして召喚されていながらも、クビライはまともな意思疎通を可能としている。

 

 もっとも、その身体からは絶えず殺気が放たれており、言葉通りの対話が出来るのかどうかは全く別問題かもしれない。

 

 本来であれば侵略王以外の命令を聞くつもりなどクビライには存在しない。あくまでもライダーより、ルチアーノと協力して敵戦力を削れと命令されているからこそ、同行するのだ。

 

「私はクビライ様、貴女の行動を縛るつもりはありません。好きに闘ってください。ただ、私の戦いにも介入は不要です。互いにやりたいようにやりましょう」

 

「いいぜ、そういう話だと楽だ。聞けばアヴェンジャーは俺らの後継だそうじゃねぇか。ハーンと共に大帝国を築き上げてきた俺達に、どれほど肉薄することができるのか、一度は試してみたいと思っていたんだ」

 

 ティムールとの戦いが出来ることにクビライは上機嫌な様子を浮かべていた。四駿として、ジュベを含めた四人は誰も彼もが戦で活躍をしてきた者たち、サーヴァントとしての独立行動権が与えられた現状、好き放題に戦うことが許されているのだとすれば、やりたいようにするというのが本音だろう。

 

 散華はその邪魔をしない。自分もアサシンもクビライもその全員が好きにやることが一番目的達成の上で余計な障害を生み出さずに済む。

 

「決まりだな、では、散華よ、準備が出来たら、妾の下に来るがいい。妾の術式が無ければ、王都を血眼になって探しても連中を見つけることは出来んじゃろうからな」

「恩に着ます。では、後程」

 

 キャスターとルチアーノ、そしてクビライの姿が消失する。準備ができしだいの出撃である以上、散華としても望むところである。ようやく桜子との決着をつける時が来る。

 

「そういうわけでリーゼリット様、これより私は出陣となります。リーゼリット様に私の過去を話したのは、私の気紛れです。別に貴方を苦しめたいとか、そういう意図ではありません」

 

「本当に、ただの気紛れ? 本当は、私に話したかったんじゃないの? 自分の境遇を、散華さん、貴女はきっと、自分が思っているよりも心が壊れているわけじゃない。貴女は、辛すぎるから、心を閉ざしているだけでしょう」

 

「……そうかもしれませんね、でも、どうにもならない話です。だって、起こった事実は変えられない。私は愛する人の命も、愛して然るべき家族の命も平然と奪った女です。必要であれば誰であろうとも殺します。そういう血にまみれた生き方をしてきた女です。

七星桜子のように、日の当たる場所を生きてきたわけではありません。そういう人間なのですから……同情などされたところでどうにもなりません。大切な人はもう誰もいませんから」

 

「そんな言い方……、なら……、なら、私が貴方の友人になります!」

「リゼ……!?」

 

「藪から棒に、いきなり何を言っているんですか?」

 

「いや、その、散華さんがどうせ帰るところがないというのであれば、少なくとも、私の傍であれば居場所を作ることもできるというか。散華さん、そもそも、私よりも年下でしょう! そんな娘が、役目を果たしたから命を捨てますなんて言われて、わかりましたなんて言えるわけないわ!

 だから、友人というか、臣下というか、ああ、もうなんでもいいけれど、散華さんの周りがだれ一人いなくなってしまった訳じゃないわ。同じ七星ではあるけれども、私もいる、ヨハン君もいる。何もかもを諦めるのはまだ早いんじゃないかしら?」

「いや、勝手に僕の名前まで出さないでもらえるか……」

 

 リゼの言葉に散華は思わず呆気にとられる。まさか、そのようなことを言われるとは思ってもいなかったのだろう。呆気にとられて、動きを止め、そして訥々に笑い始めた。

 

「ふふ、あっはははははははは、ぷくく、面白いことを言うんですねリーゼリット様って。もっと冗談の通じない方なんだと思っていました」

「こ、こっちは本気で言っているのに、いきなり笑うって酷くない!?」

 

「いえいえ、純粋な好意で言ってくださったことは理解していますよ。ええ、ただ、なんというか、唐突過ぎて。他人から、混じりけのない行為を向けられることなんて、ここ最近全くありませんでしたから。少し面喰ってしまって……」

 

 七星の暗殺者としての人生を受け入れてからは常に復讐のことばかりを考えてきていた。家族も信用せず、ただ機械的に殺しを続けてきた散華にとって、自分に向けられる純粋な好意など縁遠いものであったし、もうそんなものを受け入れることはないだろうと思っていた。だからこそ、あまりにも意外だったのだ。自分がそのような感情を向けられることが。

 

「縁とはとても不思議なものであると私は思っています。散華さんと私は本来、このように出会うことは絶対にありません。ヨハン君と私だって、本来であれば出会うことはなかったはずです。それでも、私達はこうして出会う事が出来た。それが互いにとって忌まわし呪いとさえ思える七星の血が発端であったとしても、出会えたこと自体を否定するべきではないと私は思うんです」

 

「こんな私に未来に目を向けろと、リーゼリット様はそう口にされるのですか」

 

「私には過去を変えることはできません、きっと誰であっても同じです。ですが、未来は少なからずでも変えることが出来ます。散華さんがそれを望むなら、私はそれに全力で寄り添います。私達はお互いの気持ちに寄り添う事が出来る立場同士であると思っていますし」

 

 七星という数奇な運命の下に生まれてきた者同士、互いの気持ちを理解しあえるとすればそれは自分たちだけだろうとリゼは言うのだ。

 

「………甘い理想論ですね、リーゼリット様と私では、境遇は違うというのに」

「それはそうだけど、でも……」

 

「私の直感も捨てたものではありません、やはり灰狼様の勝利を阻むとすれば、それはリーゼリット様を置いて他にはいないでしょう。ふふっ、もしも、そんな軌跡を引き起こすことができるのだとしたら、その時はリーゼリット様のお話し、考えてもいいですよ?」

 

 意味深な笑みを散華は浮かべる。これまでの感情を凍結させた氷の笑みではなく、彼女本来の人格、本当の彼女の笑みを浮かべて……

 

「では、この話の続きは戻ってきた後にでもしましょうか。ただ、忘れないでくださいよ、リーゼリット様、運命とはとても残酷なもの、どれだけ願った所で、甘い幻想が包んでくれるような世界なんてありません」

 

「それは、わかっているつもり……!」

「そうですか、貴女がそれでも理想を貫けるのかどうか、できることなら、それは見届けて見たいものですね」

 

 かつて夢破れてしまったものだからこそ、心の中でそう願うのかもしれない。彼女と自分は違う。確かにそう、彼女は穢れていない。七星であったとしても、彼女はまだ最後の一閃を踏み越えていない。だからこそ、出来ることもあるのかもしれないと思えば、

 

(私は……願いを託したいのかもしれませんね、リーゼリット様に。私が出来なかったことを)

 

 心の中でそのように自嘲しながら、散華はキャスターの下へと向かう。

 

――王都ルプス・コローナ・居住エリア――

「始めるぞ、桜子」

「ええ、お願い、ロイ」

 

「なんや、浮気現場を目撃しておる気分やなぁ、年頃の男と女が二人で密会とか洒落にならんで、これ」

 

「ちょっと、朔ちゃん、集中を乱すようなこと言わないでよ!」

「修行が足りん証拠やな~」

 

 七星側が次なる戦いに向けて動き始めた頃、桜子たちも次の戦いのための準備に入っていた。桜子の中に眠っている七星の血を目覚めさせる。ロイによって封じられた七星の血を覚醒させ、我がものとすることが出来れば、桜子自身の戦闘能力は飛躍的に増大する。

 

 同時に、桜子自身の中でこれまで抑え込まれていた七星の血が一気に活性化することも意味している。下手をすれば、桜子自身も七星の暗殺者としてのさがに目覚めてしまう可能性は決して否定できない。

 

 相応の実力を持ち合わせている今の桜子であれば、無理矢理、七星の血を蘇らせる必要もないだろうとロイは考えたが、七星散華と何度か対峙をしてきた中で彼女も自分の力不足というものを実感している。此処から先に勝利するためには、更なる力が必要となる。

 

(私は七星の生き方に染まるつもりはない。この戦いが終わった後には蓮司君と一緒に七星の血と決別して生きていきたいと思っている、でも、生き残ることが出来なければ何もなせない。レイジ君が勝利するためにあらゆる無茶を働くのと同じように、私も覚悟を決めないといけない)

 

 日常に戻ってくるという鋼の意志と、自分の身体に宿っている七星の力を使いこなすための胆力、そのどちらもが求められる最中で、ロイが桜子の手に触れる。

 

「んっ……」

「動くな、精神を集中させろ。少しでも淀みが生まれれば魔術回路がズタズタになるかもしれないぞ」

 

「わ、かってる……」

 

 ロイの手が桜のこの手に触れると彼女の令呪と腕に刻まれている魔術回路が一気に作動し、腕から光が放たれる。同時に桜子の中で全身の感覚が鋭敏になっていくのが分かる。まるで、これまで鈍って使い物になっていなかった全身に力が漲るような感覚、これまで自覚というほどの自覚を覚えたことはなかったが、桜子自身もこの感覚を与えられた瞬間に、これまで自分の中でいかに七星の魔術回路が封じられていたのかということを痛感する。

 

「あっ……ぐぅ……」

 

(桜子自身の才能は母親のもんを受け継いでかなりのもんがある。それを支えておるんが、連綿と受け継がれてきた七星の魔術回路のハズや。ウチらも最初に桜子に出会った時には、その才能と魔術回路がかみ合っていないことに疑問を覚えた。封じられておるんは、桜子がその才能に溺れて暴走しないため。ウチらもその危険性を知っていたからこそ、あえて桜子には魔術回路を封じられた状態でも十全に闘えるように仕込みを行った)

 

 七星桜子が神祇省に所属していたとしても、危険度の高い七星の魔術師であることに変わりはない。もしも、桜子の魔力が解放されて、暴走するようなことになれば、神祇省は味方の討伐を行わなければならなくなることからも彼女の力の解放にはかなり消極的であった。

 

 そんな神祇省の思惑とは裏腹の行動をとることになった理由は言うまでもなく、戦いの激化だ。やむを得ない理由があったとはいえ、朔姫にとってもあの場でキャスターの真名までもを明らかにしてライダーとの死闘を繰り広げるのは想定外だった。

 

 正直なことを言えば、キャスターの手の内を明かすにはあまりも早かったし、感情的な面を抜きにすれば失敗をしたと思う所はある。もっとも、エドワードの気持ちに応える形で行った戦いである以上、朔姫自身には後悔があるわけではない。あの場で力を温存して上手く立ち回るようなことをすれば、命がけで自分たちを守ってくれたエドワードの顔に泥を塗ることになりかねないのだから。

 

 そうしたアクシデントも含めて、更なる力を求める必要があった。勿論、心配はあるが、誰よりも桜子を信じているのは朔姫だ。本当に桜子に危険があると考えていれば、このような状況にすることもなく止めている。それだけの権力を朔姫は持ち合わせているが、自分が立会人になることでロイを納得させたことからしても、朔姫は桜子が間違いなく七星の血を受け入れることができると考えている。

 

「あっ、ぐぅぅ、があああああああああああ!!」

「マスター!」

 

「わ、わ! 桜子ちゃん、大丈夫かな!?」

「騒ぐな、桜子だって集中しとるんや、ウチらが信用してやらんかったら話が進まんやろ!」

 

 身悶えながらも、桜子は未だに意識を手放すようなことはしていない。心の中で葛藤と拒絶、そして迎合が続いているのだろう。自分の身体の中に、そして心の中に異物を挟みこむのに近しい行為である以上、それが楽なモノであるはずがない。

 

 身の毛のよだつような体験をしても、それでも精神を保っていられるのかどうかであり、呻き声を上げながらも桜子自身も戦っている。自分たちに出来ることは残念ながらない。

 

 信じて待つ、一番つらく苦しい時間を共有しなければならないのだ。

 

(凄い、自分の身体の主導権が奪われそうになる。本当に集中を乱したら、意識ごと持っていかれそうなほど……あの時、10年前に私が意識を奪われた時みたいに、無理矢理私の身体の支配権を奪おうとしている……でも、そんなことはさせない。私の人生は私だけのモノじゃない。私の身体の中に流れている記憶なんかに、私は……絶対に、負け、ないッ!)

 

 身体を寄越せ、お前の力を解放しろという囁きが身体の中から溢れてくる、一気に覚醒を果たさんとする魔術回路に身体が悲鳴を上げているが、それでも桜子は歯を食いしばってその痛みに耐える。

 

 もしも、敗北して命を失うことになればこんなものの比ではない痛みを覚えることになる。それは絶対に許し難いと思うからこそ身を裂くような痛みに耐え続け、その力が自分の身体の中に押し込められていく感覚を覚えていく。

 

 魔術回路が自分の身体に馴染んでいき、痛みが徐々に引き上げていく。適応するための抵抗反応が収まるということは身体の拒絶反応が無くなったということのはずだ。同時に痛みを覚えることを認識しているのであれば、意識自体も保っているということだろう。

 

「終わったんか?」

「んっ……ふぅ、たぶん、ね。まだ身体中、なんていうかヒリヒリするって言うか、いつ痛み出すのか分かんない感覚はあるけれど、一応は落ち着いたかな。昔、意識を持っていかれたみたいな感覚もないしね」

 

「あとは、実際に戦闘の中で、魔術回路を活性化させてどうなるかという所だろうな。そこで桜子自身が魔力を制御することが出来ていれば、心配はないだろうが……」

「せやな、七星の連中は暗殺の時にこそ真価を発揮するっていうわけやし、今は安心してもってのはあるかもしれんわな」

 

 それを制御することができるのかどうかは桜子次第、何とも難しい判断を迫られるモノになるが、解放した以上は後戻りはできない。

 

「再度の封印を施すこともできるが、そうなれば桜子の魔術回路にどんな影響を及ぼすのかもわからない。解放してしまった以上は、その力を使いこなすしかないぞ、桜子」

 

「うん、分かってるよ、そこは覚悟の上。大丈夫だよ、七星の血だって元々は私の中に存在した力なんだから。使いこなして見せるよ」

「マスター」

 

「ランサーもそんなに心配しないで、これは私が生き残るため、私の幸せを掴むために必要なことだから。蓮司君だって分かってくれている。私は七星の運命から逃げるつもりはない。逃げたら、その時こそ後戻りはできなくなると思うから」

 

 どれだけ苦難が待ち受けていようとも、常に桜子は前に進み続けてきた。桜子は決してこの世界に七星の人間として生まれてきたことを後悔したことはない。

 

 もしも、ほんの少し、紙一重でも桜子の人生で出会ってきた人たちが違っていたら、そのように考えていたかもしれない。けれど、結果的に桜子は多くの者に守られ、多くの者に助けられてきた。自分はきっと幸運で、悪意に染まることなく生きてくることが出来た。だからこそ今の自分がいる。そんな自分が最後まで七星の運命に負けずに生き抜くことこそが求められてきたことであると思っているからこそ、桜子は逃げるつもりはない。

 

 進んだ先にこそ待っている成果があると信じて……

 

「相変わらず反吐が出るようなことを言うんですね貴女は。ううん、それでこそ、七星桜子らしいと言えるかもしれませんね」

「―――――ッ!」

「ちっ、もう来たか!」

 

 声が聞こえた瞬間にロイと朔姫は瞬時に戦闘態勢へと思考を切り替える。ユダの宝具があったとしても、敵側にヘルメスがいる以上、すべてを欺くことができるわけもないことは分かっていた。

 

 見つけられるのは時間の問題であるとも。

 

「ここで闘ったら余計な被害が出るからな、そんなことはさせへんわ! 姫ぇぇ!」

「任せて、式神顕現、結界発動ッッ!!」

 

 朔姫はすぐさまキャスターと共に式神を周囲にばらまき、キャスターの術が発動するとその式神たちを媒介として、朔姫たちが居住しているエリア周辺が術の力に包まれて、次の瞬間、桜子たちは本来の居住エリアとは全く風景の場所へと移動していた。

 

 そこはさながらゴーストタウン、ルプス・コローナの内部でありながらも全く人の気配を感じることができない死の街と形容するのが相応しい有り様の世界が広がっていた。

 

「……考えましたね、固有結界のようなもの、位相を別位相に移すことによって、王都の人間に被害が出ることを避けることもできるし、私達が周囲の人間たちに被害が出るような戦い方で優位性を取ることを潰しましたか」

 

「他国だろうと無差別テロかまされんのは気持ちが良くないやろ。つーか、むしろなりふり構わずか? 七星宗家の後継者が随分と余裕がないやないか、七星散華」

 

「余裕……? そんなもの最初からないですよ。どれだけ気持ちで抑えつけたところで、私はそこの女を殺したくて殺したくて仕方がないんです。私の人生を歪めた元凶、私がなれなかった存在、貴女を斬らなくちゃ私は、もうこれ以上前には進めませんから」

 

 キャスターの術によって散華は桜子たちの居場所を突き止めることが出来た。しかし、同時にそれは彼女たちの居場所を突き止めることも許してしまった。逃げ場がない状況の中で、時間稼ぎをしていたのだ。朔姫もその程度の悪知恵は働かせる。

 

「あのうるさい鋼鉄男はいないのか?」

「ええ、今回は私とフラウだけです。手負いの貴方たち相手であれば、私だけで十分ですから」

 

「はッ、随分とウチらに邪魔されたことが祟っておるみたいやないか!」

「さて、それはどうでしょうか。灰狼様もカシム様もあの程度で黙っている御仁ではありませんよ」

 

 クスリと散華は微笑を浮かべる。朔姫もロイも考えていることは同じだろう。ライダー、そしてキャスターが不在であるということは大きな意味を持つ。散華が嘘をついている可能性も考慮するだろうが、あの戦好きの侵略王が姿を見せない時点で少なくともライダー陣営については本当に同行していないであろうことは理解できた。

 

「朔ちゃんもロイも前の戦いの傷がまだ完全に癒えていないでしょ? ここは私が受け持つよ。最初からその予定だったわけだしね」

 

「いいんですか? あなた一人では私には勝てない。二度も教え込んであげたのに、本当に学習しないんですね。別にかまいませんけれど、私は貴女を殺すことが出来れば、他はどうでもいいので」

 

「どうして、私のことをそこまで憎むの?」

「貴女が自分の人生を幸福であると思っているから」

 

「――――――!?」

「貴女は私が辿っていたかもしれない可能性、私が辿ることが出来なかった可能性、そんなものが目の前にいるなんて吐き気がするでしょう? だから殺すんです。ほら、とってもシンプルでしょう?」

 

 もしものことなんて考えても何の意味もないけれども、散華だって桜子のように自分の夢を追いかけて、自分の愛を追いかける人生を生きたかった。それが叶わなかったことがそのまま憎悪に繋がっていることは分かっている。桜子自身が何かを目論んだわけではないことも分かっている。分かっているが、それで抑え込めるほど、この激情は安いものではない。

 

「そうだね、シンプルだね。じゃあ、私もいろいろあるけど、シンプルに行くよ。私は私の幸せの為にまだ死ねないの。貴女が私の命を奪うつもりなら、私は全力で抵抗して、貴女を倒すわ、七星散華」

 

「そこで私を殺すと言わないところが、余計にイラつかせるんですよ……! フラウ!」

「ええ出番なのね、マスター」

 

「そうです、加減をする必要はありませんよ、この場の全員と踊り狂いましょう、フラウ。今日は中座はありません。踊りつかれて眠ってしまうまで、貴女の舞踏を見せてください」

 

「勿論よ、さぁ、お姉様がた、踊りましょう。ねぇ、あの時のお姉様も踊ってくださるのでしょう?」

「ちっ、気付かれていたか……」

 

 宙を舞い、桜子とランサーの横にルシアが辿り着き、二挺拳銃を構える。

 

「桜子、ペスト・ユングフラウは私とランサーに任せな。あんたは七星散華と決着をつけて。あの子と決着をつけることができるのはあんただけだよ」

 

「うん、分かっている……ルシアこそ、いいの?」

「ええ、きっと、他の誰よりもあいつと相性がいいのは私だしね。それだけってわけじゃないけれど……」

 

 含みがあることを口にするルシアだったが、躊躇がある様子ではなかった。アサシンを倒す気持ちが本気であることさえわかれば二人に任せられる。

 

(私も、なんて言えないことは十分わかっている。七星散華に集中しなければ、私が返り討ちにあう。これまではサーヴァントとの連携で戦ってきたけれど、無差別に毒を撒き散らすアサシンを近づかせないことを徹底しなくちゃ、余計なことを考えなくちゃいけなくなる。その上で、私が地力で彼女を倒すしかない……)

 

 身体の中で未だに七星の血が疼く。戦闘モードへと入ったことによって、これまで封じられていた七星の血が好戦的に桜子の中で主張をするのだ。早く殺させろ。目の前の血を啜れと、避けることができない衝動を自分自身の理性で抑えつける。その上で力だけを抽出する。この解放した力を使いこなすことができるかどうかで散華を倒すことができるかが決まる。

 

(大丈夫、10年前とは違う。今の私だったら、絶対に制御できる……蓮司君、私に力を貸して)

 

 最愛の相手を思い出し、自分が生きるべき世界を改めて思い描き、そこへと戻るために力を使うことを強くイメージする。

 

「策がないというわけではなさそうですね。いいですよ、何でも使ってきてください。それでも、貴女は私には勝てない。それを教えてあげますから」

「私こそ教えてあげるよ。七星に縛られ続ける貴女と私、どちらが勝っているのか、この一戦で決着を付けようじゃない、七星散華!」

 

 そして時を同じくして、もう一つの因縁も決着のための加速を始める。

 

「ひひ、ひひひひひひ、いいねぇ、ちょうどいいじゃねぇか。他の連中はあの女を警戒して出払っているのか、ここに残っているのはお前たちだけか、レイジ、ターニャ」

「お前……、ルチアーノか!」

 

「そうだぜ、覚えていていてくれてうれしいぜ、レイジ。お前を殺すためにはまだまだ死ねない。お前を殺すためだけに今の俺は生き続けているんだ。だからよぉ、サッサと殺されちまってくれよ。お前を殺さないと、俺は兄貴の墓参りにも行くことが出来ないんだ」

 

「やってみろよ、できるのなら……」

「手負いの癖に良く吼えるな。前回はテメェらに一本食わさせられることになったが、今回はイーブンだぜ、何せ……サーヴァントもいるからなぁ!」

 

「お前が調子に乗るなよ、俺様はテメェの子守はしてもテメェに仕えたつもりはないんだからよ」

 

「あれは、ライダーの配下の……」

「クビライ、四駿の1人か……」

 

「よぉ、後輩。ハーンに代わって面を尾上に来てやったぜ。シケタ面を見せるんじゃねぇぞ? そんなことしやがったら、そのまま殺しちまうだろうからなァァ!!」

 

 獰猛な瞳と牙を隠すこともなくバーサーカー:クビライはティムールを潰すことに終始するつもりでいる様子だった。あのジュベと同じ立場の敵というだけでもおぞましさは伝わってくる。その上で、レイジもまた手負い、ルチアーノ自身が七星ではなく戦闘力で劣るとしても、このままでは……マズイ、そう思われた時に、ターニャがレイジの前へと躍り出る。

 

「大丈夫だよ、レイジ、君は私が守るから」

「ターニャ……」

 

「ぎゃっはははははははは、おいおい、お嬢ちゃん。前回の不意打ちで味を締めちまったかぁ? 悪いが、二回も三回も同じことができると思うなよ? 俺に痛い目を合わせたんだ。相応のつけは払ってもらうぜ」

 

「黙りなさい」

「あ――――?」

 

 一言、たった一言でルチアーノの舐めた態度での笑いを止めた。ターニャ・ズヴィズダーになど油断をしなければ負けることはない。ルチアーノはそう考えていた。しかし、既に彼女は、ルチアーノの知っている彼女ではない。

 

「レイジには指一本触れさせないわ。レイジのためにも貴方は私が倒すわ」

「邪魔すんなよ、復讐の邪魔だ」

「いいえ、邪魔なのはあなたよ。私とレイジの復讐の邪魔をしないで!」

 

第13話「セブンティーン」――――了

 

――これは誰のものでもない君の人生、呪い呪われた未来は君がその手で変えていくんだ

次回―――第14話「祝福」

 




次回、対アサシン陣営決戦回です、更新は30日(金)となります!


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