Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

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第15話「嘘」②

――王都ルプス・コローナ・戴冠式会場周辺――

 レイジたちが四手に分かれて、戴冠式の会場を襲撃する動きを見せる中で、正面入り口は桜子と朔姫、もっとも会場へと入り込んだ裏口にはレイジが向かう最中で、非常出入り口として用意された二つの入り口のうち、戴冠式の搬入路として利用されている大きな荷物を運ぶ業者が入り込むための入り口が存在していた。

 

 こちらも本来であれば警備が厳重に敷かれているはずであったが、今日ここに襲撃を仕掛けてくる者たちを考えれば、迎撃の準備など意味がないと考えたのかまったく警備の目は行き届いていない。

 

 むしろ、会場へと突入するための大きな広間が用意されているようであり、不気味な静けさすらも感じさせる様子であった。

 

 そこに足を踏み入れたのはロイ・エーデルフェルトとセイバー、そしてルシアの四人であった。ある意味でこの場所が正面入り口の次に警備、迎撃をするとなれば人手を割かなければならない場所であると言えよう。レイジとヨハンが戦闘を行っている場所は狭い。人間が二人分も並べばそれだけで詰まってしまう通路であるのに対してこの場所はそうした問題を孕まずに軍隊を展開することもできる程度の広さがある。

 

 その場所に対しての静けさ、どこかうすら寒いものを感じる中で、

 

「くく、さすがは我が主の積年の敵よな。妾が望んでおる場所に足を踏み入れてくれるその剛毅さ、嫌いではないぞ?」

 

「セイバー」

「はっ――――!」

 

 声が聞こえた場所に向かって、文字通り光速の動きで刃を放つポルクス、放たれた刃はあっさりとヒトガタを破壊し、その憎らしいほどに記憶している相手が粘土のように蕩け落ちて消滅する。

 

「くく、随分な挨拶ではないか、ロイ・エーデルフェルト。妾のラブコールへの返答にしては些か乱暴が過ぎぬか?」

 

「まさか、この程度で消滅するような生易しい相手ではないと思っているさ、キャスター。予定通りに君が出てきてくれたことには感謝するよ」

「ほう、ここには妾がいると?」

 

「どちらかといえば、君の主の鋼鉄男なら、ここにいるだろうと思ったのさ。此処は広い。この場所が奴の全力を出すのに最も適している。逆に星灰狼が人造七星、あるいはライダーの軍勢を召喚するにしても此処が適している。そう考えれば、この場所に配置されているのは誰であろうとも絶対的な強者だ。ほら、ここに向かうべきは俺だろう?」

 

「そして、取り返しがつくという何とも言えない理由で連行されてきた私って訳ね」

 

 ルシアはため息を零す。正面入り口が戦力的な意味合いで桜子と朔姫のコンビが選ばれたとすれば、こちらに彼女が選ばれたのはとにかく頑丈であるからという理由だ。

 

 前回のアサシンとの決戦でも見せた再生能力を利用した突貫戦法を演じられるのは彼女だけであり、キャスターやライダーといった何を出して来るのかもわからないような敵を相手にするには彼女のような戦力こそが輝きを放つ、

 

本人からすればはた迷惑なことこの上ない選択ではあるが、朔姫の提案した配置として間違ったことを言われているわけではない。

 

 実際にこの場にはキャスターがいる。七星陣営側の中でも最も油断ならない相手、これまでも様々な手段で干渉してきたサーヴァントを直視すれば、色々と見えてくるモノがある。ルシアの瞳は相手の感情の色を見ることができる。それで相手がどんな人物であるのかを判断することができるわけだが、キャスターは様々な色を内包している存在であった。

 

(欲深い、それもとびきりの。でも、それは下品な意味での欲深さじゃない。節操無しと一言で言ってしまえばそれまでだけど、様々なモノに興味を持っている。ロイだけじゃない、私にも、あらゆることに……)

 

「あぁ、主についてはな、いまだ調整中よ。何せ、前回お主に見事、勇み足を指摘されてしまったからな、調整が完了するまでは顔を出すつもりはなかろう。妾が出向いたのはあくまでも興味本位じゃよ。主がおるとお主と遊ぶことが出来まい?」

 

「光栄だね、人類史最高峰の錬金術師に興味を持ってもらえるなんて」

 

「謙遜するな、お主は今代最高峰の魔術師であろう。七星の魔術師たちが束になって掛かってもソナタには敵わぬ。圧倒的な才覚と技量、そして磨き上げてきた魂の形、妾がもしも、英霊ではなく只人であったのならば主同様に嫉妬もしておろうに」

 

 キャスターはロイと世間話でもするような気安さで会話を繰り広げる。興味本位で顔を出してきたと口にしていたが本当に興味本位であるかのような態度である。

 

「警戒しなくてもいいよ、ルシア。彼女は本気で俺を倒す気はないのさ。俺を倒すのは主であるあの鋼鉄男の役割だ。自分が遊び半分で倒すようなことになってしまったら、主に合わせる顔がない。そんなところだろう、君が考えているのは」

「然り、然り、これでもお忍びなのでな」

 

「だが、俺達はお前の道理に付き合う理由はない」

「ほう?」

 

 冷ややかな空気がその場を支配する。一触即発の空気、キャスターがお遊びの会話をしている所に突如として爆弾を投げ入れた、そのような空気感が生じた。

「お前は遊びで出向いているのかもしれないが、こちらとしては此処でお前を倒すことが出来れば、充分な成果ともいえる。俺にはライダーよりもお前の方が恐ろしい。重要な所で横槍を入れてくるのはいつだってお前のような奴だ。だから、ここで倒す。倒せなかったとしてもお前の手の内は曝け出してもらう」

 

「くく、出来ると思うているのか?」

「出来る自信がないのならば、わざわざここを選ぶ理由はない。セイバー、ルシア、そういう訳だ。付き合ってくれ」

 

「いや、そういう訳だでいきなり付き合わせるの酷くない? もっとも、反対はしないけどね。コイツを倒せばホントの意味で大金星だし」

 

 スラムでの戦いでキャスターが何をしてきたのかはロイもルシアも良く知っている。彼女を野放しにしておけば、アサシン以上の被害を出させるのは間違いない。まだ戦、戦士同士の戦いを重んじているライダーの方がマシだ。彼女は何でもできるし、何でもやりかねない。

 

「くっく、そんなに睨みつけるでないわ。熱くなってきてしまうじゃろう。ほれほれ、時間がないのはお主たちの方じゃるて。さっさと始めるがよい。お主らは全力で来るがいいさ、妾はそれでも遊びであることに変わりはないがな」

 

 お前たちがどれだけ必死になって戦った所で、遊び気分の自分ですらも倒すことはできないだろうとキャスターは言い放ち、自分の周囲に次々と魔法陣を展開していく。

 

 ロイも自身の魔力を解放し、流体魔術を展開。そして、セイバーも戦闘態勢へと入る。

 

「最初から全力で行くぞ、セイバー。ルシアも援護を頼む」

「OK,やれるだけのことはやってみようじゃん!」

 

 同時多発的に続く戦い、ここでもまた戦いが始まる。戴冠式が行われている最中、誰にも気づかれる事無く戦う者たちの戦いはより激化の一途をたどっていくのである。

 

・・・

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

「ふん、やはり、どこまでいっても素人の刃だな、そんなものでは俺には届かない」

 

 大剣と王国騎士専用の剣が激突し合い、剣に動きをいなされた大剣がその質量にもかかわらず弾かれて後退する。武器を握るレイジは苦々しい表情を浮かべながら、ヨハンを睨みつけるが、そんなことはお構いなしにヨハンがレイジへと踏み込む。

 

 近距離へと迫って来るヨハンに対して大剣を蛇腹剣の形状へと変化させて、ヨハンの進撃を阻止するつもりであったレイジだが、ヨハンはその刃の動きを見極めながら、身体を刻まれることがあったとしても、構わずに突っ込む。

 

「お前……ッ!」

「この刃に切り裂かれると七星の力が十全に働かないんだろう? 知っているよ、それで?  だからどうした?」

 

「がっ、くぅ、があああああああ!」

 

 レイジが握っているアドバンテージなど自分にとっては欠片ほども気にする要素ではないとばかりに、踏込み、レイジへと刃を振う。蛇腹剣を再び大剣へと変える暇もなく、レイジは身体を切り裂かれ、無様に床を転がり、地に倒れ伏した。

 

「どんな策を弄してここに再び立ったのかと思ったが、大して変わっていないな。前の戦いでも言ったはずだぞ? 騎士としての戦いを身に着けた僕とただの自己流で戦っているだけのお前、戦えばその差は如実に表れる。此処までに積み重ねてきた時間がそのまま、お前と僕の勝敗を分けることになる」

 

「知った、ことか……、そんなお行儀のいい問答をされたところで、はい、そうですかと引き下がるようなことが……できるわけがないだろう」

 

 両腕に力を込めて、膝を震わせながらレイジはもう一度立ち上がる。大剣を杖代わりに立ちあがり、まだ戦意は欠片も消えていない。しかし、ヨハンからすればその立ち上がったという行為自体が恐ろしいほどにナンセンスだ。勝敗などとっくの昔に決まっている。逆立ちしてもレイジは勝てない、例え、七星の力を封じたとしよう。その最大のアドバンテージを掴んだとしても、ヨハンの騎士としての技量が喪われるわけではない。

 

 前回、レイジと桜子が死闘を繰り広げた散華は、自分の力量よりも七星の血によって、最適解を与えられて闘うタイプであった。そうした七星の血に頼って戦ってきた者を相手にするのであれば、レイジの戦闘は有利に働くことだろうが、ヨハンにはさして変わりはない。

 

(七星の魔術を扱う者たちにとっては、コイツの能力は鬼門ともいえる力を持っているんだろう。七星の血が濃ければ濃いほど、その地の力で戦闘を優位に運ばせることができる。だが、こいつの能力はその根底を覆す。だが、生憎と俺には通じない)

 

 ヨハンの身体に流れる七星の血は決して濃いとは言えない。そもそもがどんな経緯で生まれてきたのかもわからずにスラムに生きてきた孤児である。そんな少年が偶然、七星の血を引いていたというだけのことであり、おそらくは王族か何かが駆け落ちでもして、その結果として生まれたのが自分なのかもしれない。

 

 出自について今更気にするつもりはない。あのスラムに転がっているような子供たちとは大体がそのような境遇だ。ヨハンは七星の力を肯定も否定もしない。大した恩恵に縋っていない彼からすれば、あくまでも自分の戦いの手札の一つでしかない。手札を一つ奪われたところで、何をそこまでこだわる必要があるか。厳然たる実力を以て臨むのであれば、何も怖れることはない。

 

「引き下がることができないというのならば、僕はお前を斬るほかない。ここはリーゼリット・N・エトワールの戴冠式会場、リゼの騎士である僕には彼女の外敵総てを排除する義務がある。お前は必ずリゼを不幸にさせる。お前の存在はリゼに余計な感情を生み出しかねない。だからこそ、ここで排除する」

 

「黙れよ……星灰狼を傍に置いておきながら、何も手を出そうともしない腰抜けのお前なら、あいつに良い影響を与えられるのか?」

 

「何をいきなり」

「何も与えることが出来ていないから、あいつは何もできていないんだろう。お前だって自覚しているんだろう。自分たちが本当に戦わなければならない相手から目を逸らしていることを。お前たちは奴らとどうざ――――があああああああああああああ!」

 

「黙れ、お前に何が分かる。鳴り物入りで突然、この聖杯戦争に首を突っ込み、殺す事しかできないお前に、俺とリゼの何が分かる……!!」

 

 立ち上がろうとしたレイジの首根っこを掴み上げ、そのまま窒息させてやるとばかりに首を締め上げる。レイジは苦悶の声を上げるが、ヨハンは努めて冷静に、されど、心の中では決して沈下することのできない憎しみの炎をレイジに向けながら首を握りしめる力を強める。

 

「そもそも、どうでもいいんだよ、俺にとっては。灰狼が何をしようと、お前が何に復讐しようとも、聖杯戦争の勝利者が誰になろうとも、俺にとっては全てどうでもいい。俺にとって大切なのはリゼだけだ。リゼが無事でいてくれるのならそれだけでいい。お前がどれだけ道理を口にしたところでそんな者は無意味なんだよ、俺からすれば、それはどうでもいいことなんだから」

 

「ぐっ、がはっ、ぐぅぅ……思った、とおりの、器の小さな、や、つ、だな……」

「何を!」

 

「大事だと思う、奴がいるのなら、守るために動けよ……、お前は大切だ、大切だって口にするだけで……ただ、傍に置いておきたいだけ、だろ。透けて見えているんだよ、お前はあいつのことを、大事に思っているんじゃない。自分が用済み、扱いされるのが怖いだけ、だろ、があああああああああああああああああああ!!」

「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 レイジの負けん気を込めた言葉に対して、ヨハンは怒りを剥き出しにする。その怒りが剥き出しになった理由は図星を当てられたからなのか、それとも単純に耳障りであったからなのか、それは当人にしかわからない。だが、レイジが間違いなく、ヨハンの心の奥底にある、隠そうとしても隠しきれない何か、それが表出してしまっているということだろうか。

 

「落ち付きなよ、マスター。君がそこまで声を荒げるようなことじゃない。このまま普通に闘っていれば君が負けることは絶対にありえない。狩りをする中で最初に脱落するのは平常心を失った者だ。確実に勝てると思った時も、焦りが生まれた時も、平常心を心掛ける。それが生き残る者の極意だよ」

 

 レイジの言葉に怒りをあらわにしているヨハンに対して、アーチャーは落ち着きを取り戻すようにと進言する。ヨハンとレイジの実力差についてはこの場の誰もが、ヨハンに軍配が上がっていることを認めている。まともに闘えば間違いなくヨハンが勝利することだろう。

 

 だからこそ、焦る必要などないと告げるのだ。淡々と戦えばいい、淡々と排除すればいい。日々の営みの中でできることを当たり前のようにやれば一定以上の成果を出すことができる。そこに綻びが生まれるとすれば、それこそ、余計な雑念や妄執に囚われてしまうからこそであると言えよう。

 

 そのアーチャーの意図が通じないヨハンではない。彼は狩人としてヨハンよりも遥かに優秀な英霊なのだ。彼が口にするアドバイスは決して多くはない。多くはないが的確だ、受け取っておくに越したことはない。

 

「分かった、済まない、アーチャー。冷静さを欠いていたのは事実だ」

「いいよ、そこで踏みとどまってくれるのならば君は合格だ。マスター同士の戦いは淡々と終わらせればいい。こちらも、サーヴァント同士の戦いにはしっかりと勝ち星を掴んで見せるとも」

 

 アーチャーが再び弓を構える。このような遮蔽物もなく、一対一の戦闘を強制されているにもかかわらず、アーチャーは至極冷静なままアヴェンジャーに対処している。そこに焦りや怖れのような感情は全く見えてこない。

 

 英霊ピロクテーテス、かの大英雄ヘラクレスの友にして、ディオスクロイ兄妹が乗船していたアルゴーの船員でもあった人物、紛れもないギリシアの大英雄の1人にして、沈黙の狩人ともいうべき男は得物を刈り取るために冷静に冷徹に攻撃を続けていく。

 

 ここまでにアヴェンジャーは幾度となくアーチャーへと攻撃を続けてきた。武器である偃月刀の刃が何度も何度もアーチャーを捉えてきたが、時に躱され、時に受け止められて、いまだに致命傷を与えることが出来ていない。

 

『おいおい、ちょっと待ってくれよ。あの正門で戦ったジュベってアーチャーは此処まで耐久力が高かったわけじゃなかったよね? 明らかにあいつよりも勝っていない?』

『左様だな、弓兵であるからといって、距離を詰められればなすすべもない。そんな先入観の下に我々は戦っていたが……』

 

「君たちの考えていることは分かるよ。弓を扱う英霊のくせに耐え続けるじゃないか。自分たちは何か思い違いをしているんじゃないか?大方、君たちが考えていることはそんなところじゃないのかな? まぁ、ランサーに戦いを任せて後方支援に徹していたからね、そのように思われても仕方がない。見た目の上でも動きが鈍いからね、僕は」

 

 そう、これまでのアーチャーは常にランサーとセットで戦ってきた。絶対的な白兵戦能力を持ち合わせているウィリアム・マーシャルを援護するように後方からの支援に徹していたアーチャーに対して、アヴェンジャーでさえも、ランサーがいない単独戦闘であれば、アーチャーを御するのは容易いとそのように考えてしまっていたのだ。

 

「違うよ、神代に生きる狩人は自分で全てが出来なければ、獣たちを狩ることなんてできない。遠くから弓を射るから、自分が強くなくても問題ない? 馬鹿を言っちゃいけない。怪物を倒すのに放つ矢の勢いがそんな柔い身体で放てるわけがない。ギリシアの狩人たちは誰も彼もが精強だよ。強くなければ生き残ることができない。神によって運命を左右される時代に怪物たちを討ち果たすことを役目とする者たちが弱いはずがないんだから」

 

「……正論だな、言われてみれば納得する他ない」

「まぁ、それでも、正面から戦えば、流石に僕もランサーを相手取るのは厳しい。彼は純粋な実力勝負で言えば、こちら側のサーヴァントの中でも最強格だ。だからこそ、僕は後方支援に徹することが出来た。

 けれど、今はそれが出来ない。1人で戦わなければならないのならば、僕だって自分の持てる力の総てを振り絞る。これはそれだけの話しに過ぎないんだよ」

 

 実力を隠していたことを悪びれるわけでもなく、その実力をひけらかすわけでもなく、ただありのままに、生前の頃と同じように、アーチャーはアヴェンジャーという獲物を刈り取るための戦いを続ける。それこそが自分にとっての当たり前の戦いであるのだと言わんばかりに。

 

「厄介だな」

『ああ、思った以上に厄介だな。自信家でいてくれたのならば、まだ戦いようもあったが、あやつ、どれほど挑発したところで、儂らに隙を見せるようなことはせんぞ?』

『そういう奴と戦うのってぶっちゃけ面白くないよねぇ。ま、そういう奴こそが、戦場では一番厄介で強いんだろうけれど』

 

大英雄ピロクテーテス、かつてヒュドラの毒に己の身体を侵されながらも、それでも、耐え続け、トロイア戦争を終結させるために大きな役割を背負った英雄である。

 

 耐久力だけで言えば、腐食の化身ともいえたあのアサシンとも並ぶほどの堅牢さであり、草原の覇者として数多の敵を屠ってきたアヴェンジャーを相手に、戦えているという事実が何よりも彼を英雄たらしめている。

 

(アヴェンジャーは単純に実力があるだけの英霊じゃない。英霊ハンニバルと英霊ユダ、二体の英霊と意識を共有させることによって、この二人の宝具を使用することができる英霊だ。単純に実力で倒すことができるとしても、油断をするべきじゃない。最後まで淡々と撃破するだけだ)

 

 ハンニバルの高速離脱宝具、ユダの事象改変宝具、そのどちらもが使われてしまえば、この場から彼らを逃がすことになりかねない。追い詰められればなりふり構わず使うとしても、使う暇を与えさえしなければ問題ない。相手に技を使う暇を与えないほどに攻撃をし続ければ、それで技を使う余裕は失われる。

 

『ふぅむ、雲行きが怪しいのぉ、こういう地味に強いというやつが一番厄介なんじゃよな』

『君の宝具で何とかできないのかい?』

 

『それを言うならお主の宝具じゃろうが』

『冗談、こんなところで使うにはもったいないよ。これからレイジが戦っていく中で使う必要は必ず出てくるだろうからさ』

 

『それを言うならば、儂の宝具もまだ使いどころではない。奴が手の内をすべて出し尽くして、こちらを倒せると思った時でなければ意味がないわ』

 

 頭の中で議論を交わしている二人の英霊の声は雑音のようなものであるが、それで動きが鈍るほどアヴェンジャーもやわな鍛え方をしていない。

 

 視界のすべてを敵に埋め尽くされたとしても、草原の世界の中で戦い、一代で世界の覇者へと上り詰めた男は決して気を緩めない。神話の狩人が相手であったとしても、その撃破をするための突破口を見出すために攻撃を捌き続ける。

 

(全く戦うことができないわけではない。我らが主も必死に食らいつこうとしている。相手が神話に名高き英霊であったとしても、勝てない等と思う道理はない)

 

 アヴェンジャー、ティムールが求める先は侵略王との決着、血脈一つで草原の覇者であるハーンの名を名乗ることができなかったからこそ、実力で己がハーンに相応しい存在であることを認めさせなければならない。

レイジにとっても自分にとってもこれはあくまでも通過点に過ぎない。遠くギリシアの地の大英雄であったとしても、負けるわけにはいかないのだ。

 

「疾っっ!!」

 

「おっと、さすがはあの侵略王に肩を並べるほどの偉業を一代で打ち立てた英霊だね、こちらが隙など生み出すはずもない矢を放っているってのに、それでも、強引に刃を通そうとしてくるんだから」

 

「その余裕もいつまでも浮かべていられると思うなよ、アーチャー」

 

「いいや、僕は最後までこのままさ。ヒュドラの毒に身体を汚染されて、幾星霜の時間を経ても、僕は耐え抜いた。強い衝動なんて必要ないさ。ただ淡々と自分の仕事を果たせばいい。どれだけ人事を尽くしたとしても、失う時には失うんだから。その感情の爆発という燃料はいらない。ただできることを確実にやり通す。それが僕のポリシーであり求められた役割だ」

 

 侵略王やキャスターのように感情をむき出しにして戦う存在が強さを持つこととは別だが、そのポリシーこそが弓兵としての彼の強さを裏付けている。

 

「サーヴァント同士の戦いも、アヴェンジャーではアーチャーには勝てない。彼は決して目立つつもりはないが、それでも大英雄と呼ばれるに相応しい存在だ。お前たちのような聖杯戦争に横やりを入れてきたような連中が敵う英霊ではない」

 

「強さにも勝敗にも、前も後も横もないだろう。お前自身がそう思いたいんだろう。俺のような奴が聖杯戦争を荒らすようなことは許さないってな」

 

「否定はしないさ。僕たちの聖杯戦争は僕たちだけのものであった。それをお前が横から介入して、ヴィンセントも散華も命を奪った。お前ひとりだけでは大したことはないかもしれないが、他の仲間と手を結んで、抵抗することは十分に考えられる。

 お前は死神だ、俺たち七星を喰らうために顕現した死神だ。そのくらいに思っておいて損はない。お前とリゼを引き合わせることになればお前は必ずリゼを死地に向かわせる。それだけは絶対に許せない」

 

「リゼ、リゼ、リゼって、結局、あの女が大事なだけだろ。だったら、どうして聖杯戦争になんて参加させた。どうして、七星として戦いに出るようなことをした。矛盾しているんだよお前は、自分ができないことを他人に押し付け――――ッッ!」

 

「ああそうだよ、その通りだ。俺にはリゼを止めることはできない。俺は騎士で彼女は皇女で、俺の言葉じゃ彼女は止められない。

聖杯戦争にだって参加なんてしてほしくなかった。そんなものに触れることさえ嫌だった。それでも、あの子はあの子なりにこの国を思っている、世界を変えようと思っている。始末が悪いんだよ! だったら、こっちが余計なものに触れないようにしてやるしかないだろ!

「ああ、そうか。あいつが自分自身で何かをしようとしないのは、お前のような奴がそれを邪魔しているからでもあるのか……ふざけるなよ、そんなものはどこまでいっても、お前のエゴでしかないじゃないか!!」

 

 瞬間的に魔力が発現し、レイジの握っている大剣が一人でに動き、蛇原剣の形状へと変わると、レイジの首根っこを掴んでいるヨハンの身体を切り裂き、その握る腕の力が弱まる。

 

 その隙を穿つようにレイジがヨハンの腹へと蹴りを繰り出し、ヨハンの身体がくの字に曲がる。魔力を体中から放ち、その余波でヨハンと無理やりに体を引きはがすと、首を先ほどまで締め上げられていたことから、咳き込むものの、レイジの瞳は死んでいない。

 

 むしろ、ヨハンという相手をこれまで以上に、倒すための戦意をむき出しにする。

 

「別に、俺はあいつのことを肯定するつもりはない。七星としての自分を否定しても、何もしないあいつのことなんて俺は信用する気はない。それでも、お前が、お前のエゴであいつを籠の鳥にし続けるのならば、お前はこの国にとって邪魔だ。灰狼たちのように直接的ではなかったとしても、お前も害悪にしかなりかねない」

「だったら、やってみろよ。お前にできるというのなら」

 

 どれだけ気勢を放ったところで、レイジではヨハンを倒すことはできない。力の差が歴然としている以上、どれだけ気合を吐いたところでどうなるともいえないのは間違いないのである。

 

 さぁ、どうする……? 復讐を果たすにはヨハンを乗り越えなければこれより先に進むことはできない。

 

・・・

 

 レイジとヨハンの戦いが激化の一途をたどるのと同刻、正面入り口、搬入路、最後の一つである非常口からも侵入するための人影が動いていた。

 

 四つの場所の中でももっとも、静かに移動を続けていたのはアーク・ザ・フルドライブとターニャ・ズヴィズダーである。レイジが単独で出撃をする所にターニャも動向を願い出たが、レイジを狙って敵が出てくる可能性を考慮し、レイジ自らアークにターニャを守ってほしいと願い出たのだ。

 

 危険な戦場へと踏み出すロイに警護を頼むことができない以上、必然的に守りを考えればアークが適任という話になり、アークもレイジの願いにそのまま応える形で了承をした。

 

「先行するのはこっちに任せておきな。嬢ちゃんは後からついてきてくれればいい」

「すいません、出来る限り、足手まといにはならないようにさせてもらいます」

 

「気にすんなよ、こういう時に身体を張るのは大人の特権であり義務だ。嬢ちゃんを子ども扱いするつもりはないが、どう考えたって俺の方が年上だからな。こういう時は矢面に立つものだって相場が決まっているんだ」

 

 アークはニカリと笑みを浮かべて、ターニャの気分を落ち着かせようとする。レイジと離れての独自行動を強いられているターニャは緊張しているのか足取りがいつもよりもかなり危うい。もしも、遭遇戦になるようなことがあればあっさりと敵に見破られてしまうのではないかという様子であった。

 

 それを理解したアークはターニャを自分の後ろに下げて、自分が先行する形で彼女の気分を落ち着かせることとした。後ろからの襲撃に気を向ける必要はあるが、幸い、ターニャにはセイバーがいる。アークを守る義理は無くてもターニャを守る義務は当然にある。

 

 セイバー:キュロス二世が並大抵の英霊ではないことはアークもよく理解している。彼に任せることができるのであればアークがとやかく考えるよりもあっさりと仕事はしてくれるだろうと。

 

「ねぇ、アークさん、前から疑問に思っていたことを聞いてもいい?」

「ん~、何だ? 答えられることであれば何でも聞いてくれて構わないぜ」

 

「貴方はどうして、サーヴァントでもない筈なのに、サーヴァントのような力を使うことができるの?」

「…………」

 

 ターニャが口にした問いはこれまでに何度も何度もアークがぶつけられてきた問いだった。元を辿れば、セレニウム・シルバにおけるタズミの居城で朔姫たちと顔を合わせた時から、サーヴァントは何処にいるのかと問われ、そこから戦いを続けるたびにどこにもサーヴァントはおらず、そのマスターが戦闘を続けているという異常事態の中で戦ってきた。

 

 その様子を知る者であれば、アーク・ザ・フルドライブという存在が何者であるのかを問いただすばかりとなるだろう。聖杯戦争におけるマスターには必ずサーヴァントが存在する。アヴェンジャーという例外が存在していたとしても、基本の7陣営が召喚されなかったという話は何処でも聞かない。カスパールやファヴニールのように既に消滅しているわけでもないというのであれば、アークが召喚したはずであるライダーは一体どこに消えてしまったのか……。

 

 いつもであればアークはその話をはぐらかすように話を逸らす。敵手に対してその手の話をしたところで、相手に情報を与えるだけで意味がないからだ。

 

 しかして、アークはターニャという存在を信用していた。少なくとも、レイジが自分にターニャを託してくれたことに喜びを覚える程度には彼は此処まで共に旅をしてきた彼女のことを信用していた。

 

「サーヴァントにもいろんな種類がいる。例えば、セイバーやランサーのように神話の中の登場人物が形を成した者もいれば、連中側のアサシンのように逸話そのものが具現化したような英霊も存在する。元よりただの人間じゃない英霊ってのも数多くいるわけだが、俺が召喚したライダーも実はその類でね」

 

 その話はアークをして、味方の誰にも話をしたことがあるものではなかった。

 

 今の味方側の彼らは朔姫を始めとして誰もがアークの自分から口にしないことにはある種の秘密を守る立場を尊重してくれていた。アークが自分の口から語るその時までは待つ必要があるだろうと。秘密を受け入れ、それでもアークを信用してくれている仲間たちのことを彼は心底信頼しているし、あくまでもここでターニャに対して口を開いたのは、その場の気分によるところが大きい。

 

「俺の召喚したライダーは少しばかり特殊な英霊でね。召喚をしたマスターと融合することによって、真価を発揮をするタイプの英霊だった。だから、他の奴らに話はしていないが、俺は別にライダーのことを隠しているわけじゃない。俺はマスターであり、同時にサーヴァントでもあるのさ。俺達は召喚を実行し、契約をしたその瞬間からずっと一心同体の関係でいる。だから、何処にも俺のサーヴァントは姿を見せない。それだけなのさ」

「そんな英霊が……で、でも、それ、私に言ってしまってよかったの?」

 

「ん? ああ、いずれは話さなければいけないと思っていたしな。この作戦が終わったらアイツらにも話すさ。特別ってのはあまりよくないからな。

それに隠すほどのことでもないんだよ。実際にそのからくりを知っていたとしても、それで何かが出来るわけでもない。俺の正体を知られたとしても、俺は有名すぎて、逆に隠すほどのことでもないとなりかねないしな」

 

 有名であるというのはアーク自身のことというよりも、サーヴァントがということであろう。ユダがあまりにも自分の名が世界中に知れ渡っていることから、自分の真名を口にすることを憚られたのと同様に、アークが召喚したライダーもまた、少しでも情報を与えてしまえば、それが誰であるのかを悟られてしまうようなサーヴァントなのかもしれない。

 

「なぁに、真名を隠しているとしてもレイジや嬢ちゃんに対して手を出すようなことはしないから安心してくれよ。そこらへんの道理ってのは弁えている。俺はレイジの行く末には興味があるし、最後まで突き進んでほしいとも思っているからな。そのレイジの頼みである以上、嬢ちゃんをキッチリと守り通すぜ」

「……ありがとうございます」

 

 ターニャは控えめに感謝の言葉を口にする。いつもの彼女よりもほんの少しだけ反応が遅れていたが、アークはさして気にも留めなかった。

 

「おや、やはり私は運がいいな。いいや、むしろ、運命に愛されていると言ってもいいかもしれない。アベルが不在の中で君と再会することができるとはね」

 

 気にも留めなかった、その理由は自分たちの目の前に現れた存在がいたからであった。そして、その声にターニャは身体をビクンと反応させる。出会いたいなど欠片も思っていない相手の声であったからに他ならない。

 

「あらあら、怯えられているじゃない。可哀相な灰狼」

「まったくだ、私ほど、君を想っている人間もいないというのにな、ターニャ・ズヴィズダー」

 

 姿を見せたのは星灰狼と四駿が一人ジュルメ、実験体402号は姿を見せておらず、ライダーもいない。此度はこの二人だけがここにいるという様子だった。

 

「ついこの前まで攫っていた奴がどの口で言うんだよ!」

 

「語弊があるね、アーク・ザ・フルドライブ。私は彼女を保護していた。連れ出したのは君たちだよ。それでも、最後には必ず戻ってくると信じていた。運命とはそういうものを言うのではないかな?」

 

 運命などと何をキザッたらしいことを口にしているのかとアークは思う。この男はレイジとターニャの人生を台無しにし、今でも弄んでいる。

 

圧倒的なサーヴァントと自分自身の力を持っている自信家ではあるが、世の中にはやっていいことと悪いことがある。灰狼がやってきたことは紛れもなく、後者だ。よって、アークはそれを断じるためにもここで灰狼と戦わなければならない。

 

(ま、セイバーもここにいてくれるのならば、戦いにもなるだろう。最悪、あっちの女だけでも倒すことが出来れば十分だ。ライダーの戦力を減らすことができる)

 

「もっとも、君には特に用はない。私が用があるのは君だよ、ターニャ、こちらに来るといい」

 

「おいおい、そんなことを言ってくるはずが―――――」

「―――――――ええ、わかったわ」

 

 灰狼の言葉になど従うはずがない、そうアークが言い放つ横でターニャはその言葉に頷き、足を進めていく。まるで催眠にでもかかった様子にアークは思わず手を伸ばすが、しかし、ターニャとアークの間に挟まるようにして、その腕に凶器がぶつけられ、鋼鉄を纏った腕が受け止める。

 

「テメェ、何をしやがる、セイバー!!」

 

「悪いが、これも命令だ」

「命令、だとっ……!?」

 

 ターニャの腕に刻まれた令呪、その二画目が光り輝き、セイバーへと命令を与えていた。その命令は言うまでもなく、ターニャと灰狼の状況を邪魔させないようにという指示に他ならなかった。

 

「ほう、随分と熱烈なラブコールだね」

「ええ、レイジの手を煩わせたりはしない。貴方は此処で私が倒すわ……!」

「それでいい、来るがいい、ターニャ・ズヴィズダー。君の総てを解放するといい」

 

「おい、セイバー、分かっているのか、テメェは、自分が何をやっているのか!」

「無論、これも全ては我らが神のため……!」

 

 アークの言葉など今更聞くまでもないという態度を浮かべるセイバー、その様子にこの場でセイバーとの戦いを演じなければならないという予想外にアークは立たせられる。

 

 その総てが灰狼の思う通りになるのだとしても、セイバーは純粋な殺意を以て、アークへと攻撃を始めるのであった。

 

 四つ目の戦場にて突如として巻き起こった想定外の戦闘、そこに何の意味があるのか、救世王とまで呼ばれた男が何故自分に牙を剥けてくるのかを、アークも理解することはできない。闇の中で蠢くそれぞれの思惑は、戦いを演じる者たちの気持ちなどあっさりと裏切りながら、また一つ状況を動かしてくのであった。

 




ターニャ、フラグたて過ぎていて怖い

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