Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤―― 作:ソクリ
問おう―――進む先に待っているのが地獄であったとしても、先へと進むことだけが立ち上がるための活力になるのだとすれば。膝を折らぬ限り、何度でも己の身体を突き動かす原動力へと変えることができると言うのならば。
それが、復讐や殺戮と言う愚かしいほどの間違いの先にしか、見出すことができないモノは一体どうすればいいのだろうか。
願いを叶えるために、笑顔へ辿り着くためには何があろうとも殺さねばならない奴がいる。そいつの願いを踏みにじり、噛み砕き、完膚なきまでに叩き潰さねばならない相手がいるとして……、そんな願いに端を発した行為に手を染めた者は、果たして幸福になれるのだろうか?
そう、月並みな言葉ではあるが、復讐は何も生み出さない。幸福になる資格を与えてくれるような免罪符では決してない。
大切な誰かを失った悲しみに端を発した復讐によって為した行為が生み出すのは幸福な結末ではなく、むしろ、新たな復讐の連鎖に他ならないのだから。
ましてや、それが一国の闇に巣食う者たちを相手取るのであれば、単一個人による闇討ちなどで果たせる可能性は限りなく低い。
多くの人間を巻き込み、多くの涙を流させなければ、叶えることはできないと当たり前に分かってしまう。そんなことは誰が考えたとしても間違っているだろう、道徳に反する。到底許されることではない。
だから、多くの人間は我慢をする。必死に仕方がないことだったのだと。より多くの平和と幸福を願うのなら、それが一番正しい選択であるのだと。
けれど……、ああいや、だからこそ。それならば、逆に問おう。いいや、こう問わねばならないだろう。
一度でも何かを失った者は、涙を呑んで総てを忘れるしかないのか?
故郷を、家族を、あの幸福を……笑顔に溢れていた日々を。残らず闇に葬り去られた不条理を、寛大な心を以て、俺は許さなければならないのか?
お前は正しい、賢いのだと称賛されて。これで良かったなどと慰めるなどと、そんなこと―――ふざけるな、認められるか。そんなお題目は糞喰らえだ。
だからこそ、見つけなければならないだろう。地獄の先に花を咲かせることができる方法を。闇の果てへと踏み入りながら、それでも再び追い求めた陽だまりへと辿り着ける道筋を。
ああ、そうだ。忘れてはならないことがある。あの日の記憶を、総てを失ったあの日。
――覚えているのは火の景色、何もかもが燃え盛り、何もかもが消えていく破滅の記憶。
――覚えているのは故郷の景色、炎に包まれる前に確かにあった懐かしい故郷の記憶。
「急げ、逃げろ……!」
「待って、待ってよ■■■■■■、まだ、お父様とお母様がいるの! 一緒に来てもらわないと……!」
「そんな時間はない。お前だけだ、お前だけを連れていくので精一杯なんだ、ターニャ!」
走る、走る、必死に走る、わき目も振らずに、燃え盛る故郷に目をくれることもなく走っていく。
一度でも足を止めてしまったら、もう身体を動かすことが出来なくなるほどの現実が実感を伴ってしまう前に、あまりにも衝撃的な出来事に心がマヒしてしまっている間に、傍らの少女の手を取って必死に足を進めていく。
突然の出来事だった、あまりにも唐突だった。奴らは突然村へと現れて、無差別に村を襲った。
泣き叫んだ人の首が飛んだ、立ち向かおうとした大人の顔が吹き飛んだ。そのうちに火の手が上がり、ほんの少し前まで、長閑で日々の変化なんてほんの少しあるかどうかも分からないような場所であった故郷は一瞬にして、その光景を様変わりさせていくこととなった。
「嫌だよ、みんな大変なんだよ、私達だけなんて――――」
「我慢しろ、我慢するしかないんだ。だって――――」
だって、俺じゃ勝てないから。ターニャを守るために立ち上がって、おとぎ話の英雄のように襲撃者たちを蹂躙することが出来たとしたら、どれほど気持ちがいいだろうか。
けれど、そんなことは起こりえない。ただ、俺の命が無為に失われてしまうだけ。
そんなことは認められなかった。自分の命が失われるのは怖くない。だけど、俺の腕を掴み、必死に足を動かす幼馴染の少女が危険に晒されるのならば、俺は何があろうとも守らなければならない。
『ターニャを、頼む……、もう、君しか――――』
先ほど耳にした声が脳内で再生される。身体が半分に砕けたターニャの父より託された言葉がリフレインし、今にも折れそうな足を必死に立たせて足を進ませていく。
ターニャがその残酷な真実を知れば、きっと泣き崩れて、もう動けなくなってしまうだろう。だから、振り向かせるわけにはいかない。総てを振り切って、彼らが諦めるほど遠くにまで逃げなければならない。
逃げた後はどうするのかなど考えている場合ではない、そんなものは後から考えればいい。
「大丈夫だ、絶対に。きっと、全部上手くいく……!!」
彼女に言い聞かせる。むしろ、自分に言い聞かせるように告げた言葉に握る手の力が一層強まっていく。それが言外に彼女の想いを告げているように思えて、崩れ落ちそうだった足にもう一度力が入る。
「あーあ、捜したぜ。まったく、これだから無差別に暴れるなんてのはナンセンスなんだ。獲物が怯えて逃げて行っちまう。取り逃していたら、俺らが責任を取る羽目になっていたんだ。そろそろ鬼ごっこは終わりにしようぜ、少年?」
パンと乾いた音が鳴ると、握っていたはずの腕の力が一気に抜けた。何故かと視界をそちらに向ければ、自分の腕から血が流れている。そして程なくして鈍い痛み、自分が打たれたのだと理解し、足を踏み外したことによって、俺は遂に膝を屈して地面に倒れてしまった。
「がっ――――」
「苦労したぜ、嬢ちゃんの姿が見えない時にはてっきり、うちの連中が殺しちまったんじゃないかと思ったぜ。勘弁してくれよな、クライアントに殺されちまうぜ。
ま、時間はかかったが、嬢ちゃんは確保」
「嫌、嫌、あなたたち誰なの、どうして、こんなことを!」
「そりゃ、嬢ちゃんが七星に連なる人間の1人だからさ。いずれ、嬢ちゃんの力が必要になる。だから、これは運命なんだ、そんな運命を生み出してくれた神様って奴を呪ってやってくれ」
こともなさげに襲撃してきた男たちの頭目であろう人物は、自分たちの目的がターニャにあったことを明かす。
彼女1人を確保するためにこの現状を生み出した。彼女がもしも早く見つかっていれば、こんなことにはならなかった? ありえないだろう、この連中がそんな半端なことをするはずがない。
「村の連中は皆殺しにしろ、証拠一つ残すなよ」
「待、て……、ターニャを、放、せ――――ごっ!」
「元気がいいねぇ、兄ちゃん。俺は結構、お前のことを評価しているんだぜ? あの状況で形振り構わずに必死になって逃げるなんてことができるなんて、随分と勇気がある。ただの無謀だなんていう奴もいるかもしれないが、むしろ俺は歓迎したいね」
腹を蹴りつけられ、口から唾液混じりの唾が噴き出す。苦みと甘みが混ざり合って不愉快な匂いが口の中に広がり、それが自分の惨めさを一層引き立てる。
「嫌だ、助けて、どうしてお父様とお母様は来てくれないの!? 嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ」
泣き叫ぶ彼女の声だけが、耳に響く。こんなことにしたくなかった、あんな慟哭を聞かないようにするために必死になったっていうのに、ほんの少しの暴力が襲い掛かって来ただけでそんな決意は踏みにじられていく。
こうなると分かっていたから、必死に逃げていたのに。見つかってしまえば、この様だ。見逃してもらえる理屈をいくら吐きだそうとしても、決まりきった結果へと向かっていくだけの悪鬼どもは、どんな言い訳を並べ立てたところで変わりはしない。
「悔しいか、兄ちゃん?」
「――――――――」
「おい、コイツも連れて行け」
「いいんですか。先ほど村の人間は皆殺しにしろって」
「いいんだよ、『星家』からは何人か素体になりそうなやつは連れて来いって指示を受けていただろ。めぼしい奴は全員攫ったが、活きがいい眼をしているんだ、ここで殺しちまうには勿体ない」
「なにを、話して、いる――――」
「うん? そうだなぁ、運が良ければ、お前は姫様の騎士になることもできるって話しだ。守りたかったんだろ、助けたかったんだろ? だったら、必死になって生き延びてみろよ、そうすりゃ、細やかな幸福くらいは取り戻すことができるかもしれないぜ?」
それは悪意に塗れた言葉だ。甘い言葉で誘惑して、自分自身の心を諦めさせるために与えられる悪魔のささやきだ。
でも、それに抵抗するためには、俺はあまりにも無力すぎた。ターニャが攫われたことで、此処まで必死に繋ぎとめていた心の支えが崩壊してしまった。
意識が途切れていく。動かさなければいけない身体はまるで全身に鉛が据え付けられたかのように、ぴくりとも動かない。かすれていく視界の中で、最後まで燃え盛る村の光景が目に焼きつくように浮かび続けていた。
何が正しい選択だったのだろうか。俺はどうすればターニャを守ることが出来たのだろうか。いいや、むしろ、選択の余地などなかったのだろうか。
奴らが、この村を襲撃に来た時点で、俺達の運命は決していて、逃げ出したたったの数分間だけが俺達に与えられたほんの僅かな猶予だったのだとすれば、それはあまりにも儚い抵抗だ。命を磨り潰す事態を気紛れ程度の間隔で改められたのだとすれば、果たしてそこで命を失っていた方が幸福だったのだろうか。
わからない……、わからないが、こうも考えることはできないだろうか。
生きていることが出来なければ、何も為すことはできないのだと。燃え盛る炎を見ていることしかできなかった、守りたかった相手の手を掴むことが出来なかった、逃げることしか選択することが出来なかった自分、何もかもが自分自身を汚泥の中に引きずりこんでいく。
許せない、認められない。なんだこれは……俺達が何をした? どうしてこんな結末を認めなければならない。
「然り、総てはキミの無力がために。立ち向かう力を得ることなく、ただ逃げることしかできなかった獲物に狩人へと抗う術が与えられるはずもない。
故にこそ、キミの怒りは真っ当だ。奪われたのであれば奪い返さなければ帳尻が合わない。善悪の概念で言えば紛れもなく彼らこそが悪だ。君の義憤はむしろ善の怒りであると断じることに過言はなかろう」
かつての記憶に心が煮えたぎる。この数年間、一瞬たりとも忘れたことはない。多くの記憶をなくし、身体中を好き勝手に弄られて、もはやどこまでが元の自分であったのかなど分からないけれど、自分が自分であるという認識だけは間違いなく持っている。
あの燃え盛る村の光景を忘れたことはない。彼女の慟哭は今でも耳に残っている。
何よりも―――ああ、許せないのは立ち向かえなかった自分であると思っているから。
「問おう――――力を欲するかね?」
それは悪魔の囁きだ、あの時のように甘い夢を与えて破滅へと誘うための言葉だ。
何せ、その与えられた力は誰かを守るための力ではない。そんな誰もが憧れるおとぎ話の勇者になれる資格を既に自分は喪失している。大切な人の手はもう自分の掌からすり抜けてしまったのだから。
だから、与えられた力が発揮されるのは何処までも、誰かを害するための力に他ならない。奪われた者を奪い返すためだけに与えられる悪逆の力。
そんなことはわかっている。わかっているけれども――――
「ああ、俺はそれを欲する。俺から総てを奪った奴らへの復讐を果たすために。俺に残ったたった一つの憎悪を形へと変えるために」
「委細承知―――では、キミはこれよりレイジ・オブ・ダストと名乗るが良い」
まるで洗礼を与える聖職者のごとき男は物知り顔の態度を崩すことなく、聞き慣れない言葉を口にする。
「レイジ、オブ、ダスト……?」
「然り。単にアベルと呼ぶのでも構わんのだがね。やはり、名前と言うものは侮れない。与えられた名前こそが君に力を与えると私は思っている。
であれば、キミは七つの星より分かたれた星屑、地へと落下するその間際に放たれる一瞬の閃光―――そのような在り方こそが望ましい」
「総てを燃やし尽くすのであろう、己の総てを奪った者へと裁断を下す復讐者へと成り下がるのであろう? それは悪鬼の所業だ、およそ人の為すべきことではない。
故に―――人の名前など必要あるまい。君はただ、七星に復讐を果たすためだけの存在、それをまずはカタチにしてみようと言うことだよ」
「ああ――――構わない」
元より、俺の人生の総てはあの日に奪われ尽くした。例え、たった一人で全てが消え去った荒野の中に立たされて、生き残ったのだから、これからは前を向いて違う人生を生きて行けなどと、そんな器用なことができるほどの立ち回りなんてできるはずもない。
だから、これでいい。そうだ、俺は復讐者となろう。奴らが奴らの事情で俺の人生を、大切な人たちの人生を、踏み潰したように、俺は俺の事情で奴らの願いと人生を踏みにじろう。
もはや二度と戻れぬかつてに未練はない。それは懐かしいほどに輝かしく記憶に刻まれているから。だから……、宝物には蓋をして、俺は前を向いて行こう。
今度は嘆くことがないように、あの日の無力を倍返しで叩き付けてやるために。
「では―――君に彼らを授けよう。どのように扱うのか、どんな立場で参戦するのか、それは君の好きにすればいい。選択肢は多くはないだろうが、キミが狙う者たちもまた己の願いを叶えるために全身全霊を以て聖杯戦争に臨む。
何を選ぶべきなのか、何を為すべきなのか、ゆめゆめよく考えたまえ。彼らは決して狩られるだけの弱き動物ではないのだから」
目の前に魔方陣が浮かび上がる。そこから生じる黄金色のエーテルが実像を結んでいく。
何が起こっているのかわからない。そもそも、目の前で得意げに話をしている相手のことだってよく分かっていない。
俺が分かっていることは、この男が俺に復讐の機会を与えてくれると言うことだけ。もはやボロ雑巾のように打ち捨てられた自分の人生にもう一度意味を与えてやると告げられたに等しい。だから、その手を掴んだ。悪魔を滅ぼすには悪魔に魂を捧げるしかないのだから。
聖杯戦争―――七星の連中が自分の願いを叶えるために始める儀式、一つの国を巻き込んで、自分たちの願いの為に再び開かれる殺戮の宴。
魔術のことなど分からない、他の参加者のことなど何一つとして知らない。
ただ、聖杯戦争に参加することで七星の連中と対峙することができると言うのであれば、他に何も言うことはない。
それがどれ程困難であろうとも、どれほどの死地であろうとも、七星を滅ぼすと言うこの意思に僅かばかりの変化も考えられないのだから。
収束していく黄金色のエーテルがやがて、三つの実像を結んでいく。それらは三つの人の形を保ちながら、やがて影が重なるようにして一つの人間の姿へと変わっていく。
「少しばかり手心を加えさせてもらった。いかに君の憎悪が激しかろうとも、いかに君の英霊が強かろうとも、彼ら総てを相手取るとなれば些か不利であることは否めないだろう。
君が彼らをどのように扱うのかは腕の見せ所だ。是非とも、我が神への捧げる供物たる物語を期待しているよ」
まるですべてが自分の思い通りに進んでいるとでも言わんばかりの態度を浮かべながら、その男は姿を消した。誰であるのかもわからない。何故、俺に手を貸したのかもわからない。気付けば奴はそこにいて、俺には知りもしない知識が与えられていた。
利用されているのだろうと言うことは分かる。奴には奴の目的があって、そのために俺を七星へとぶつけようとしている。勝手にしろ、最初から勝算のない戦いに飛び込むのならば、使えるものはすべて使うしかない。
俺に与えられた力、そして今、俺の目の前に立つ者たちの力、その総てを結集しなければ奴らを―――七星を滅ぼすことはできない。
「小僧――――貴様が、余の、いいや、我らのマスターであるか?」
「………知らない。俺は聖杯戦争のマスターなんてものになったつもりはない。俺はただ、俺の復讐を果たすだけだ。そのためにアンタたちの力を借りたい。それ以外に俺から言う言葉はない」
目の前に立つ鎧を着こんだ偉丈夫に対して一切怖れを為すことなく言ってのける。怖がってなどいられない。恐怖なんて感情は捨て去らなければ到底前に進めない。
『くはは、愉快、愉快だなァ、これは。聖杯戦争のサーヴァントとして召喚しておきながら、主であるのかも知らない。自分は復讐することしか考えていないなどと口走る。英霊への態度を何一つ弁えていない生意気な小僧だ』
まるで影のように偉丈夫の横にうっすらと姿を見せるのは、白髭で口周りを覆った老人であった。しかし、その眼光は偉丈夫と変わらず鋭く、年齢とその凶暴さがまるでそぐわない。
「悪いのか」
『いいや、悪くない。むしろ、貴様のようなクズでもなければワシらを召喚することなど出来んだろうさ。儂は怨敵との戦に生涯のほとんどを費やした。目を見ればわかる、小僧よ、貴様も儂の同類だ。怨敵を滅ぼすことができるのならば己の人生など知ったことではないと言い切れる狂人よ』
『勝手に君たちの理屈で話を進めないでもらえるか。僕は正直うんざりしている。こんな場に呼び出されて、狂ったマスターのサーヴァントにされるだなんて、罰を与えられるにはあまりにも救いがない』
老人の態度とは対照的に、俺に対して露骨に拒絶する態度を浮かべたのは青年の影だった。何処か病的に何かに怯えるような様子を浮かべているその少年は、神聖であるように見えて、されど、どこまでも退廃的な様子を浮かべている。その二律背反、矛盾した様子こそが、その青年の本質であるかのように。
『何じゃ、お前さんは随分と消極的ではないか。一つの身体に押し込められたとわけだが、我らは共にアヴェンジャー。故にお前さんもそうした英霊であろうに』
『復讐者……か。悪い冗談だね、僕はどちらかと言えば、復讐される側だ。許されざる罪を犯した。その罪に対して復讐をされると言うのならば分かるけれども、僕が復讐をする側だなんてそれこそ、悪い冗談にも程がある。
だから、僕らのマスター、キミにも言っておこう。君が進む先に幸福なんて訪れない。あるのはただ滅びだけだよ』
「そんなものは分かっている。だが、ならば、奪われてきた俺に全て諦めろと? 何もかもを忘れて、記憶に蓋をしなければ幸せになることができないなどと、そんなものは糞喰らえだろう」
ああ、そうだ、復讐は何も生まないなんて……お呼びじゃないんだよ、そんな苔の生えた古臭い慣用句は。憎しみは捨てない。奴らは決して許さない。
怒りを燃やして殺し尽くそう。ただの1人も逃がしはしない。
そして、知らしめてやらなければならない。復讐と言う血によって舗装された道の先にあるものが地獄でしかないとしても、そこにだって花は咲くんだっていうことを。
その先にこそ―――彼女の笑顔を取り戻すことができるんだと俺は信じているから。
「………少年よ、名を聞こう。これよりは長い付き合いになるだろう」
「レイジ、レイジ・オブ・ダスト。奴らを、七星を喰らい尽くす星屑の怒りだ」
人である己の名前など忘れた。そんなものにこだわっていたら、俺は奴らを殺し尽くせない。真実、七星を喰らい尽くす存在へと変貌するために、与えられたその名前を己の名として背負う覚悟を示す。
『随分とへんてこな名前じゃのう』
『偽名でしょ、その名前こそが、彼にとっての洗礼。生まれた時に与えられた名前よりもなお、重要な意味を持つ名前なんだろうさ』
「……理解した。レイジ・オブ・ダスト、我らが主よ。そなたの復讐に力を貸すことはやぶさかではない。何せ、我らは復讐者。その胸に宿している怒りの炎、その意味を理解できぬわけではない。我らはそなたの理解者となろう。地獄の果てに堕ちていくそなたに寄り添い続けよう」
「最後まで付き合うと?」
「それがサーヴァントと言うものの責務であればこそ」
メインの人格である偉丈夫はこの中でもっとも落ち着き払ったうえで、俺の目的を歓迎してくれている。
ああ、そういう態度を出してくれるのはありがたい。余計なことに時間を使っている暇なんてない。弄繰り回された体はいつ、ダメになるのかもわからないのだから、奴らを殺し尽くすためには駆け抜けなければならないことは自分でも嫌と言うほどに理解している。
「改めて、我らはアヴェンジャ-、そして我が真名は『ティムール』、復讐という大義を掲げ、大陸を駆け抜けた王である」
「ティムール……」
その言葉に勝手に自分の中に知識が湧きあがっていく。かつて、広大なる領土を生み出した遊牧民族たちの末裔として産み落とされ、己の手によって再び大帝国を創り上げた男、後にティムール帝国と言う名で中央アジアからイランまでを征服し尽くした蒼き狼を継いだ者たちの1人。
「少年よ、為すと決めたのならば最後まで戦い続けよ。途中で諦めることこそ、最大の悪であると知れ」
そう、これが出会い。俺とアヴェンジャー、復讐を標榜する者たちはこうして出会い、そしてセプテムへと足を進める。
総てを壊すために。奪い返すために。そして花を咲かせるために。
誰かの願いなどどうでもいい。俺はただ……、総てを壊すことでしか何かを変えることはできないのだから。
これは――――七つの星より堕ちた星屑の復讐譚である。
第0話「Philosophyz」―――終了
次話予告
「物騒なことを言うものではないぞ、ジャスティン・ドミルコフ。我々はただ返還してもらうだけだ。薄汚い暗殺一族に奪われた我らが国土をこの地に住まう者たちの手に取り戻す。奪いたいのはむしろお前の方だろう」
「総てに勝利して、私と我が王は聖杯を掴む。故に……、キミが自分の願いを通したいと思うのならば、勝って見せるしかない。我々は七星―――戦でこそ、その在り方を証明できるのだから」
「軽薄な男はあまり好みませんね。千の言葉で飾り立てるよりも一つの武勲で、己の気品を示してみてはいかがですか? 戦士としても殿方としても、私はそちらのほうが信頼できます」
「あいつ、ほんまにウチのこと舐めとるわ。誰のおかげで聖杯戦争に呼んでもろうたと思うとるんや、マジで。権力使って、秋津市囲い込んだろうか、うちは姫やぞ、姫!!」
「これより開かれる決起集会は我らの心を一つにするための一幕であり、諸君らには不退転の決意を抱いてもらいたい。この決起集会が終わった後に、我々は―――七星討伐の為に、王都へと打ってでる!!」
「さて、兵は揃えた、舞台は整えた。ならば、ここからは汝らの出番だな、皇女よ。名折れなどと言わせぬようにしてくれよ。この戦は、この地における『侵略王』の初陣であるのだからな」
「こりゃ、腹を括らんとマジでいかんかもしれんな」
第1話「Stardust Dreams」
各話サブタイトルは、この話を作る上で参考にした楽曲からとっています。歌詞を見ていくと徐々に話の骨格が見えてくるかも?
Twitterやってます。SVのこぼれ話などを載せています
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