Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

65 / 89
第18話「儚くも永久のカナシ」②

――王都ルプス・コローナ・王宮――

「そろそろ始まっている頃かな」

 

 王宮に用意された星家当主のための部屋、そこの椅子に腰かけながら星灰狼は用意された紅茶に口を付けながら、1人呟いた。

 

「失礼する」

 

 その静寂が支配する部屋の中に、新たな人物が入ってくる。入室した瞬間にガシャリとした音が鳴り響き、誰がやって来たのかを一瞬で理解させる。

 

「やぁ、戴冠式で顔を合わせた時以来だね、カシム。君から来たということは準備は完了したということかな?」

 

「そのように解釈してもらって構わない。戴冠式ではキャスターに任せるばかりであったが、おかげで根本的な問題への対処に当たる時間を得ることが出来た。次にロイ・エーデルフェルトと交えるときには、今度こそ、奴が己の前に屈する時であろう」

 

「幕引きは近い、次も失敗して準備を整えるなんて言っている余裕はないぞ?」

「誰にモノをいっている。己は言ったぞ。完了したと。スラムの時のような応急処置ではない」

 

「そうか、では、君の言葉を信じよう、同志よ。この聖杯戦争に多くの七星が集ったが、俺の同士は最初から君だけだ。出来れば君とは勝利の美酒を共に分かち合いたいと思っている」

 

「薄情なものだな、共犯者であるというのであればヴィンセントも同じだっただろうに」

 

「ああ、だが、ヴィンセントは心から俺達と同じ方向を向いていたわけではないだろう。彼からすれば俺達は自分の夢に邁進することしか考えていない狂信者に映っていただろうさ。命令されていたから従っていただけ、その程度のビジョンしか持ち得なかったからこそ、彼は早々に脱落することになった。今思えば、アベルを誘導するために最も使えるコマだったんだがね、彼を失ったのは痛かった」

 

 最初から使い捨ての駒にしか過ぎなかったヴィンセントだが、灰狼からすればレイジが最も殺意を持つ相手は間違いなくヴィンセントであると確信を持っていた。彼を撒き餌に使うだけでも、思い通りに事を進めることができる確信を持っていただけに、ヴィンセントが早々に脱落してしまったのは惜しいと思うばかりだった。

 

 もっとも、その惜しいという感情に彼を悼む心は微塵もない。彼との付き合いはビジネスライクであったし、だからこそ、ヴィンセントも今わの際に灰狼に自分が騙されていたことを痛感したのだろう。

 

「ヴィンセントはアベルに対して言ったらしいよ。彼を今の境遇に貶めた人物が自分の外に五人いると」

 

「ほう……?」

 

「俺と君、そして彼女、そこまでは簡単に推測することができる。はてさて、残りの二人は誰なのだろうか。少なくとも俺は他の関係者を知らない」

「己も知らんな」

 

「俺も最初はどうして、ヴィンセントがそのようなことを言ったのか理解することができなかった。死に際に言い放つにしては復讐するべき相手を教えてやるなんて、悪辣な性格をしている彼にしては少し行儀が良すぎるとね」

 

「確かにそうだ。あの男もまた己のことしか考えていない。仮に今も生き残っていたとしても、己たちの寝首をかき、自分だけが益を得ることができるように行動していたことだろう」

 

「その通りだ、だからこそ、何故という疑問がわいた。そこで、国王に尋ねたのさ。我々が知らないヴィンセントに依頼をした汚れ仕事はないかとね。そうすると、一つ興味深い内容を聞くことができた」

「ほう、それは?」

 

「前国王曰くリーゼリット女王は、かつてスラムの浄化作戦を率いていた時に一度、スラム側に捕縛をされていたらしい。その時の詳しい経緯までをすべて聞くことはできなかったが、どうやら、その時に我々と同じ七星の血を引いている少年に彼女は助けられたらしい。もっとも、国王からすればそのような報告は恥以外の何物でもなかった。自分たちが追いやったかつての王族たちの生き残りに、自分たちの娘が助けられるなど看過できるものではなかった」

「ああ、なるほど、合点がいった」

 

「リーゼリット女王とヨハン、我々が知らぬところでアベルと彼女たちは関係を持っていたわけだ。それをすべて知っていたのはヴィンセントだけだろう。五人の七星とは言い得て妙だな、確かに見方によってはヴィンセント以外の五人こそが、今の彼を、レイジ・オブ・ダストなるものを生み出したともいえる」

 

 その解釈の仕方によって変化をするということが肝である。そこには、やむを得ない理由もあっただろう。レイジにとっては誤解としか言いようのない事態もあっただろう。しかし、ヴィンセントはそれを伏して、あえて五人の七星と言い放った。それらすべてにレイジが牙をむくことを望んでいたかのように。

 

「まぁ、半分くらいは我々に対しての意趣返しもあったのではないかと思っているがね。実際、我々がアベルのためにヴィンセントを捨て駒扱いしたのは事実であるしな。彼からすればアベルが我々を葬るのならそれはそれでいいと思ったのだろう。

 どうせ、アベルが我々を全員を倒せるなどとは、誰も思ってはいないのだからね」

 

「薄情な男だ、こうなるように仕向けたのはお前だろうに」

「既に俺だけの思惑で進んではいないとも。ヴィンセントの思惑、ヨハンの思惑、そして、セイヴァーの思惑、それらが複雑に絡み合った結果としてこの瞬間がある」

 

 ヨハンは自分自身の意地にかけて戦ったのだろう。しかし、結果的にそれがリゼの為になったのかは怪しい所だ。

 

彼は必死にリゼが戦いの表舞台に昇ることを避けようとしてきた。どんな結末になったとしてもリゼだけは生かすという気持ちだったのだろうが、その果てに、今、行われている戦いがあるというのであれば、結局彼の願いは叶わなかったということになる。無駄死になどと言ってしまうのは悲しいことだが、灰狼からすれば、気に留める必要もない程度の変化しか与えられなかった。

 

「その大きな流れがいよいよ結実しようとしている。果たして、目論みを叶えることができるのは俺かあるいはセイヴァーか、アベルとリーゼリット女王の結末を以て、この聖杯戦争もいよいよ終幕へと向かうだろう」

 

 そこまで言うと灰狼は立ち上がる。そして、カシムへと笑みを浮かべ、

 

「収穫の時だ、アベルに与えていた総てを回収しに行くとしよう。勿論、君も来てくれるだろう、カシム。その為に此処を訪れたのだろうから」

「そうだな、己が生み出した種だ。であれば、その結末は見届けなければならんだろう。それがたとえ、己にとって欠片も興味がないものであったとしても」

 

 レイジとリゼの闘う場所へと灰狼とカシムは足を進めていく。カシムが部屋を訪れたその時からそうすることが決まっていたかのように、その流れは決まりきっていたもののように見える。すべては収まるべきところへと収まっていく。

 

 多くの思惑があった。多くの伏せられた事実があった。しかし、それらはいよいよ白日の下へと曝け出されようとしていた。その最後の鍵を握る二人の人物が戦場へと足を進めていく。この聖杯戦争が誰のために存在しているのかを知らしめるために。

 

 七星序列第一位と第二位、自分たちが仕掛けた種が芽吹く時であることを確信して、彼らは王宮の部屋から出ていくのであった。

 

――王都ルプス・コローナ、空き地――

 リーゼリット・N・エトワール、七星における序列は第四位、これは聖杯戦争において有利か不利であるかという観点によって判断が為されている。リーゼリットの戦闘能力は第三位である散華には及ばず、ましてや第五位であるヨハンにも及ばない。それでも、彼女の序列が第四位であるのは、彼女には類まれな七星の魔術が備わっているからである。

 

 すなわち――――個の実力ではなく、複数を揃えることによってはじめて発揮される真価、集団戦闘こそが彼女の本領発揮である。

 

「憑血接続開始―――ここに七星の血を解放する!!」

 

 リゼの瞳が蒼く光り、そして彼女と共にこの場所へと馳せ参じた人造七星たちの身体が光りはじめる。そして、彼らは一斉にレイジと桜子へと襲い掛かり、二人はその迎撃を行う。そして、複数人が一気に攻撃を仕掛け、それを何とかいなしていく中で桜子もレイジもすぐに気付く。

 

 連携による攻撃、しかし、その連携が一糸乱れぬ行動なのだ、まるで全員が自分の隣に立つ戦士が次にどのように動くのかを理解しているかのような動きに、本来であればあっさりと一蹴しているはずの人造七星たちの攻撃を桜子もレイジも捌き切れない。

 

「これ、ちょっとマズイ……!」

「アイツの能力、か!」

 

 リーゼリットの七星としての能力は感覚共有、彼女と言う基地局を通して周辺の兵士たち総てに自分と感覚を共有し、あらゆる視点の情報を与えていくことができる。人造七星たち一人一人の実力は大したものではない。まともに闘えば桜子どころか、レイジにすらも叶わない程度の実力でしかないが、それがリゼの能力によって大幅に強化されている。

 

 勿論、勝てないというほどの相手ではない。集団で戦闘を仕掛けて来たとしても、選択を誤ることが無ければ問題なく対応することができるだろう。

 

 もっとも、そこでレイジへと降り注ぐのは発動した魔力による弾丸、リゼが掌をかざし、そこから出現した魔方陣によって生み出された、無数の魔力による矢であった。

 

「ヨハン君がいなくなった以上、私自身の手で君を倒さなくちゃいけない。私は王族で戦場に立つのだってお飾りだったことは認めるよ。でもね、だからといって全く戦う事が出来ないなんて思わないで!」

 

 王族であろうともリゼもまた七星の魔術師である。なおかつ、王族として連綿と受け継がれてきた七星の血は、七星宗家であった散華と比較しても決して見劣りするものではない。リゼの魔弾が着弾すると同時に、人造七星たちが次々とレイジに向けて攻撃をしてくる。まるでレイジを殺せば自分の運命が変わるとでも思っているかのような執拗な攻撃である。

 

「くっ、七星流剣術――――『桜雨』!! ああ、もういいところで避けてくれて!」

 

 しかし、恐るべきはあの散華にも勝ちきった桜子の剣技を前にしても、一定の時間稼ぎとしての戦いを実行することが出来ているという所だろうか。

 

 散華のような凄まじい反応速度を持ち合わせていない彼らはどうしても桜子の攻撃に完全に反応することが出来ているわけではない。全員が魔術刃による斬撃を避けきることが出来ずに、手傷を負っているが、すぐに他の者がカバーをして、魔力によるごり押しで身体を再生するとすぐに戦線へと復帰する

 

 リソースを全て闘うことだけに費やしており、この後にどのように戦い、生き残るなどということは考えていない、良くも悪くも鉄砲玉以上の扱いを求めているようには思えない。

 

(マズイな、想定外だった。リーゼリット皇女……じゃなくて今は女王なんだっけ? とにかくリーゼリット様がこんな戦い方をしてくるとは思っていなかった。皆からの話しを聞いている感じ、人道的な方だと思っていたのに、これじゃ、他のマスターたちと変わらないじゃない!?)

 

 これまでも時の巡りあわせか、桜子とリゼが出会ったことはなかった。他の仲間たちから聞いているリゼの評判を聞く限り、人道的観点から他者に無碍に犠牲を求めるような人物ではなく、どちらかといえば戦いを忌避するような人物ではなかったと聞く。

 

 それだけにこの戦い方は厄介だ、リゼの七星の魔術師としての特性を聞く限り、戦いようによっては、散華に匹敵するほどの厄介な戦い方をされかねない。動員された人造七星の増援でも呼び出されてしまえば、余計にこの状況は悪化すると言えるだろう。

 

(リーゼリット様の表情、明らかに無理をしている。戦うことが楽しいって様子には見えない。どちらかといえば自分の感情を殺してでも、レイジ君を倒すことに執着しているみたい。彼女にそうするだけの理由を作らせてしまったのもまた事実なんだね……)

 

 先の戴冠式を巡る戦いでレイジはリゼの騎士であるヨハンを討った。死ぬ瞬間までは確認していないが、リゼの反応を見る限り、レイジとの戦いでヨハンが命を失ったことは想像に難くない。

 

 その悲しみが彼女を変貌させてしまった。ある種の危惧通りに、復讐の為に邁進し続けてきたレイジの戦いが、リゼと言う新たな敵を呼びこんでしまったともいえるのではないだろうか。復讐で塗り固められた道を歩き続けてきたレイジは、以前もルチアーノという復讐のためにレイジを付け狙った男と戦うことになった。そして、今度はリゼがレイジに対してその復讐心を露わにした。

 

(レイジ君、君の七星を倒したいって気持ちが間違いではないことは良く分かっている。君の怒りに正統性があることも。だけど、彼女の気持ちにもまた正しさが生まれてしまっている。君はこんな悲しみの果てに、本当に救いを見出すことができるの……?)

 

 ルチアーノは人倫に基づけば許されざる行動をとった。しかし、リゼはあくまでも激情を胸の中に抱え込みながらも、あくまでも、聖杯戦争の範疇の中でレイジを打倒しようとしている。

 

 桜子もこの場にいて戦っているからこそ相手をしているが、リゼの瞳にはレイジしか映っていない。彼を倒すために、自分を鼓舞し、自分の感情をコントロールし、そして彼を倒そうとしている。

 

「答えて! ヨハン君はキミの故郷とは全く無関係だったはずだよ! なのに、どうして命を奪うようなことをしたの!」

「あいつが七星である以上、俺は全員倒すと決めている。それはお前だって例外じゃない」

 

「私はキミの闘う理由は理解できるものだと思っていたよ! 王族として、故郷を失った君に同情したし、何とかしたいとも思った。ヴィンセントおじ様や他の故郷を奪うことに加担した者たちへと復讐をするのなら、それが許されないことであっても一定の理解は示せた。でも、ヨハン君は関係ない。そんなことには加担していない。そんなヨハン君の命を奪ってしまったら、もう君は君の道理だけで説明は出来ないでしょ! 君は只、七星であるというだけで人を殺すだけの殺人鬼と何ら変わりがないよ!」

 

「………否定はしないとも」

 

「否定してよ! 君は自分の口で言ったじゃん、復讐の先に救いを見出すんだって! だったら、私にも救いを示して見せてよ。大切な人を奪われても、その先に幸福を見出す方法を! それが出来ないのなら、君の理想を叶えることなんて絶対に出来ない!!」

 

 リゼの悲痛な叫びが木霊する。それにこれまで多くの敵との問答の中で常に反論を口にしてきたレイジが此度は言葉に詰まってしまう。何せ、リゼの口にしている指摘はもっともな話だ。レイジの復讐の旅路の中でヨハンを殺さなければならない理由はどこにもない。

 

 散華との戦いは、散華自身が死を望んだという側面があるが、ヨハンとの戦いは互いに互いの命を奪うことを望んでいたが、レイジ側にヨハンの命を奪う理由は確かに存在しなかった。復讐を大義とするのであれば、復讐を果たすべき相手だけを殺せばいい。それを外れてしまえば、そこには道理も何も存在しなくなる。

 

「………っ!」

 

「ねぇ、答えてよ! ヴィンセントおじ様の命を奪ったのは復讐のためだったんでしょ! それを私は受け入れた。間違ったことをした相手に罰が下った。その気持ちは理解できた。だけど、君は戦いを続けていく中で、復讐からレールが外れている! 君が倒さなければならない相手ではない人にまで手を出している。

高尚な理想を語ったところで、君自身がそれを遂行できないのなら、何の説得力もないじゃない!」

「お前たちだって、聖杯戦争と言う理由で戦っているだろう」

 

「都合のいい時だけ聖杯戦争を持ち込まないでよ! 君にとって、この戦いは復讐のための戦いだったんでしょ! 聖杯戦争はその復讐を遂行するために利用しているんでしょ! だったら、都合のいい時だけそれを戦いの理由に使わないで! そんなの奪われた側は納得できない!!」

「………っ!」

 

 ああ、全くその通りだと思わずレイジも納得してしまう。加害者の口にした言葉など、被害者からすれば何の意味もない。ルチアーノはヴィンセントが悪であることを自覚していた。命を奪われても仕方がない理由を自覚していたからこそ、レイジもある程度の反論を口にすることが出来たが……リゼが弾劾するその姿はかつてのレイジと同じだ。

 

 どうして、命を奪ったのか、その問いにレイジは真っ向から答えを見いだせない。

 

(考え直してみれば、俺自身も不思議に思ってしまう。俺は俺の総てを奪った七星を倒すために戦ってきたはずだ。そこには五人の七星がいて、あいつも、いや、そもそも、あいつはどうして俺と関わっている? 自分自身でもわかっていたはずだ。アイツと俺はこれまでの人生の中で何一つとしてかかわりを持つことがなかったことに……)

 

 だからこそ、ヨハンが何かを口にした時も、レイジをどこかの誰かと思い込んで弾劾した時もレイジは理解することが出来なかった。他人の空似、あるいは独り言、だから、俺には理解することができない。そう言って、ヨハンの叫びを無視したはずではなかったか。

頭を抱えそうになる。何か、知らず知らずのうちに自分の中で、自分の考え方に整合性が追い付かなくなってきている。

 

 いつからそのような発想に至っていたのかと言われれば、やはりヴィンセントだ。ヴィンセントを殺すまでは、レイジはあくまでも村を燃やし、自分たちの日常を奪い去った相手にだけ復讐をすることが出来れば、それで自分の目的は完遂されると思っていた。

 

 しかし、ヴィンセントに自分が五人の七星によって運命を歪められたと聞かされた時から、その五人の七星を見つけることに躍起になり、そして七星総てを殺すことを宿命づけられていると考えるようになっていた。

 

 その最中でヨハンを倒した。互いに互いが敗北した時に端を迎えることすらも理解した中で戦っていたとはいえ、そんなことは残されたリゼには関係ない。

 

「あいつは、俺の運命を歪めたものの1人だ」

「どうして、そんなことが分かるの!? 貴方はヨハン君とかつて出会ったことがあるの? ヨハン君はスラムの出身よ、貴方が暮らしていた村に出向いたことなんて無かったはずよ!」

 

「それは……」

「出まかせを言ったの? 信じられない……! 君の行動を容認することはできないと思っていたけれど、それでも、嘘をつくような人ではないと思っていた。自分の言葉を絶対に曲げない人だと思っていたのに……!」

 

 リゼの目元から薄く涙が流れる。信じていた、この戦場に立っても尚、どこかで信じたいと思っていたレイジへの想いを裏切られたようにリゼは思った。

 

 もしかしたら、何かしらの理由があったのかもしれない。信じたくはないけれど、ヨハンが責めに帰するような何かをしていたのかもしれない。そんな覚悟を背負って聞いた内容が嘘であるとしか思えないような言葉であったなどと、どうして容認することができるだろうか。

 

 絶対に逃がさない。絶対に此処で倒す。その気持ちを余計にリゼは強くする。対してレイジは何処か眩暈のようなものを覚えている。自分であって自分ではないような感覚、あのヨハンとの戦いで突如として七星の血が覚醒した時と同じような感覚がレイジの中で膨れ上がっていく。

 

 まるで身体の主導権を無理やりに奪われかけているような感覚だ。状況を観測しているにもかかわらず、まるで自分の行動とは思えないような疎外感、それこそがレイジの身に起きている違和感のようなモノの正体なのだろうか。

 

 分からないが、戦いが待ってくれるわけではない。意識を何とか眼前のリゼと人造七星たちへと戻していく。気を抜けばヨハンの時同様に命が危うい。だからこそ、集中しなければならないのだが……

 

『ふぅむ、レイジの奴、やはり切れ味が悪いな』

『あの不思議な力がまた発動する前兆とも取れなくもないけれどね。毎回毎回追い込まれてから出ないと発動しない力だし』

「いや、あれはそういう意味での追い詰められ方ではない。我らがマスターにしては珍しい。戦うことに動揺が見られている」

 

 リゼの非難に対してどうにもいつものように戦う事が出来ないレイジの様子にはアヴェンジャーも少なからずの危機感を覚えていた。

 

 善悪の是非がどうであれ、これまでのレイジは決して敵に対して屈することなく、牙を突きたてることを諦めなかった。どんな敵が相手でも、徹底してである。

 

 しかし、初めて、そう初めてレイジは自分の中の歯車がかみ合っていないかのように、戦いの中で躊躇を見せているのだ。その変貌はアヴェンジャーにとっても不信感を抱かせるには十分すぎる変化であった。

 

 あるいはそれを覚醒前の助走であると評価することもできる。常にレイジが敵対者を圧倒してきたのは自分が不利な立場になってきてからであった。先日のヨハンとの戦いでも絶対に逆転することができないであろうと思われたところからの逆転劇、今回もそれが期待できるようにも思えるが、どちらに転ぶのかは半々といった所か。

 

『これ、展開次第では、レイジの救援に向かうべきかもしれないね』

『ああ、だが、そのためには――――』

 

 周囲を囲んでいる人造七星たちの排除、そして何よりも、今、アヴェンジャーの目の前でランサー、アステロパイオスと激戦を繰り広げている彼の男を出し抜く必要がある。

 

「アヴェンジャー、レイジ・オブ・ダストを倒すことはマイロードの願いであります。故に私は手を出さない。貴殿がその流れを断ち切ろうとするのであれば、私は全力でそれを討ち果たそう。これは主君へと捧げる騎士の誓いに他ならず。

 我が新たな女王へと捧げる忠義の具現であると知れ!」

 

 ランサー:ウィリアム・マーシャル、栄光のアンジュ―帝国に仕えた騎士の中の騎士、彼の宝具はかつて仕えた五人の王と、その王に仕えた彼の在り方に由来するものが形を変えて五つの宝具として供えられている。

 

 最も有名なモノと言えば、グロリアス・カストルムでもランサー自信が発動した獅子心王リチャードの力を模倣した聖剣を発動することであるが、今、この瞬間にもランサーは二つの宝具を常時使用している。

 

我は王を守り、道を修むる騎士なり(ナイツ・テンブラー)』、ランサーが仕えた最後の王である幼き王ヘンリー三世に捧げた生涯の忠誠。

ランサー自身が心から主であると認める王の為に戦うことを誓った時に発動されるその宝具は、ランサーのステータスへと更なる上方修正を与え、人馬一体の鉄壁の守備能力をさらに隙のないものへと仕上げていく。

 

 そして、もう一つ――『我が騎士道に敗北はなく(アン・シュヴァリエ・インヴィンシブル)』、ヘンリー2世に仕えたウィリアムが誓った最高峰の騎士へと至るための誓い。

これより三つの王に仕え、戦場に置いて無類の強さを発揮したウィリアムの馬上試合における腐敗の象徴たるこの宝具は、ウィリアムが握っている馬上槍を起点として発動する。この宝具を基点としたレンジ内にいる全ての存在の、魔術、宝具などの効果を全て無効化する。これによって、自身の身体能力や技術以外では攻撃することができなくなる。

 

 言わば強制的な白兵戦闘の強制であり、ウィリアム自身にもこの能力は跳ね返って来るが、そもそも、自分自身の武技だけを頼りに戦っている彼にはそれが全くデメリットになることはない。

 

 強制的な騎士同士の戦いの再現に加えて、騎士道の証を立てることによる自身の強制的なステータスの底上げ、この14のサーヴァントを召喚しての聖杯戦争の中でもここまで純粋な白兵戦闘に総てを費やしたサーヴァントも存在しないだろうと思わせる。

 

 純粋な武力による戦いであれば、彼はたとえ、侵略王であろうとも一筋縄では倒せない。リーゼリットの最強にして至高の騎士こそが彼であり、彼がサーヴァントであることこそが、彼女の最大の強みであると言ってもいいだろう。

 

「くっ……やはり、強い……!」

 

「その言葉はそのまま返そう、ギリシアのランサー、このウィリアム・マーシャル、多くの騎士、多くの戦士と戦ってきたが、貴殿ほどの実力を持つ者はそう多くはいない。女性の身であり、神の加護さえ届かない我が眼前においても尚立ち回れるその実力、戦士としてなんら恥じることのない姿である」

 

「そうですね、私も貴方の宝具を使用されたことによって、初心に立ち返った気分ですよ。いかに神の加護を受けていようとも最後に必要とされるのは己の力、己の強さが無ければ頂へと届くことはない」

 

 河神スカマンドロスの祝福を受け、アサシンとの一連の戦いでは、その加護を以て勝利を掴んだアステロパイオスだが、ランサーが発動した『我が騎士道に敗北はなく』の効力によって、強制的な宝具による特殊能力を用いた戦いを封じられてしまった。

 

 その手に握っている双槍だけが彼女にとっての信頼することができる武器、手負いのアヴェンジャーを後ろに下がらせることを決めた以上、彼女にも戦士としての意地がある。

 

「因果なものですね、初めて貴殿と会い、槍を交した時から私の聖杯戦争は始まった。あの時はまだタズミ殿が私のマスターでしたが、私が貴方に勝つことが出来なかったが故に、タズミ殿は命を落とした。マスターを失った時点で、私は貴方ともう一度戦うことはできないと思っていましたが…数奇な運命がもう一度私達を引きあわせてくれた」

 

「私としてもその数奇な運命には感謝している。どんな形であれ、中座になったままでは、どうにも腑に落ちない。ハンデを背負ったままの戦いで勝ったなどと言えるほど耄碌したつもりはない。同じ槍兵のサーヴァントとして召喚された以上、どちらが勝っているのかを決めることもないまま、この二度と訪れるかもわからない機会を逃すのはあまりにも面白くない」

 

 聖杯戦争と言う機会でなければ、異なる時代、異なる戦場で戦ってきた者が決着をつける機会など永久に訪れることはない。ウィリアム自身は戦闘狂であるつもりはないが、アステロパイオスという自身が強さを認める存在との武技を示し合せるこの舞台をみすみす逃す理由はない。

 

 周囲を人造七星たちに囲まれながらもそれを寄せ付けない形で二人の戦いは続く。宝具を封じられる形になったアステロパイオスは懸命にウィリアムへと攻撃を続けていくが、やはり単純な白兵戦であればウィリアムが勝る。

 

 鬼神の如き、高速戦闘によって、次々と双槍による攻撃を加えていくアステロパイオスの攻撃をウィリアムは凌いでいく。時に馬を使い、時に掻い潜る。これまで同様にウィリアムとその愛馬はまさしく一心同体、どんな攻撃に晒されようとも、双方がまさに一つの生き物のように動くことで完璧に攻撃を回避し、ウィリアムの馬上槍によって防御を成立させている。

 

 息を切らせぬままに何度も連撃を放ってきたアステロパイオスだが、一度後ろへと下がり、ウィリアムとの距離を取る。遅れて疲れが生まれたかのように息を荒く吐きだし、決して余裕の態度を崩さない敵手に対して、呆れとも尊敬とも取れるような反応を浮かべてしまう。

 

「まったく流石ですね。以前に戦った時よりもなお強くなっている。味方として隣に立てればどれ程心強かったか」

 

「それは謙遜が過ぎるだろう、ランサー。一度戦った相手であり、こちらは宝具を使用している。それでもいまだに貴殿を討つことが出来ずに、膠着状態を生み出しているのはこちらにとっても想定外だ」

 

 アステロパイオスの賛辞に対してウィリアムも真っ向からの賛辞を口にする。そもそも、宝具を使用し、自身のステータスの向上とタイマンによる戦いを強制している時点でこの場の戦いは言うまでもなくウィリアムの有利である。

 

 並の戦士、あるいは騎士が戦っていれば、抵抗することもできずにウィリアムによって討たれているであろうことは間違いない。そんな状況でも以前のセレニウム・シルバの時同様に互角の戦いを演じることが出来ているアステロパイオスの姿を素直にウィリアムが称賛するのも無理はないことだろう。

 

 だが、いくら称賛を受けたとしても最後には勝利を飾ることが出来なければ如何に称賛を受けたとしても戦士としての役割を果たすことはできない。アステロパイオスは状況を打開するための思考を巡らせる。

 

(アヴェンジャーと二人がかりで戦ったとしてもランサーを討ち果たすことは厳しいでしょうね。彼の宝具がどれ程の効力を持っているにしても真っ向からの白兵戦闘を行う限り、ウィリアム・マーシャルを越えることはできない。騎士としての正々堂々とした戦いをすることこそが、かのサーヴァントの勝利のための絶対的な流れ、言わばそこを崩さなければ打倒は難しい)

 

 アヴェンジャーの宝具は真っ向勝負を崩すということを考えれば実に有用な力であるが、問題はウィリアムの宝具の効果範囲がどの程度のモノであるかだ。彼の周囲だけということにはならないだろう。十分に距離を取った状況でも宝具を使用する気概を以ても使用することができない。

 

(だけど、これだけの効力を発揮している以上、一方的に私達だけに制約を課すものではないはず。おそらく、ランサー自身にもこの制約は及んでいる。ならば、グロリアス・カストルムでランサーが皆に対して発動させた聖剣の一撃も恐らく使う事が出来ないはず……)

 

 強制的な白兵戦の実行、それ自体も世界にルールを課す世界浸食の法理だ。宝具として勿論、人知の及ばない状況を生み出すこと自体は理解できるが、それにしても、制約という意味合いで言えばかなり強い部類であり、自分だけが一方的に有利になるとなれば、規格外が過ぎる。

 

 よって、ランサーも使えない筈という推測は恐らく間違ってはいない。その上でここからどのようにあの鉄壁の守りを崩すかという所だが……、

 

(騎士としての決闘、それを実行されている限り、私に勝ち筋は見えない。早々機会は多いとは言えないでしょう。おそらくチャンスは一度あるかないか、鉄壁の守りを崩すことが出来ないのだとすれば、逆にこちらからその城壁が開くように誘導するのみ)

 

 チラリとアステロパイオスはアヴェンジャーへと視線を向けた。何か言葉を交わすわけではないがアイコンタクトで両者はその目的を共有した。その一瞬の視線の交差を受けるとすぐにアステロパイオスは再びウィリアムへと立ち向かう。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「来いッ!!」

 

 再び双槍と馬上槍が激突し合う、受け止められればすぐにでも帰しの一撃を放ち、それを避け、受け止めて、息を継ぐ暇もないほどの高速連撃が再び両者の間で成立していく。

 

 通常の聖杯戦争であれば恐らく実現することはないであろう槍兵同士の戦い、異なる時代に生きた同じ武器を使う者同士の戦いは互いに互いの強さを理解しあっているからこそ、一歩も後には引かない。両者ともに考えていることは究極的には同じだ。

 

 自分の遣えるマスターに勝利を捧げたい。そして同時にこの偉大なる戦士を乗り越えて勝利の誉れを手にしたい。その想いが二人の武器を振わせ、戦意を激突させていく。

 

 マスター同士の戦いがどうしようもないすれ違いから起きた戦いであるにもかかわらず、そのマスター同士の戦いを代理して行う立場にいるサーヴァント同士の戦いは何処までも純粋に武芸の競い合いである。

 

 技を通して、言葉よりもなお雄弁に二人は互いを理解し合うための対話を続ける。その上で相手を越えるための方策を練り上げながら一撃一撃に想いを馳せていく。

 

 純粋である、そして同時に残酷でもある。これほどまでに互いを認めあいながらもサーヴァントである限り、彼らはどちらかが戦い、敗北し、消滅しなければならないのだから。

 

『いやはや、眩しいというかなんというか。ああいう戦いは僕たちにはできないね。奇襲とか闇討ち特化なところあるし』

『そりゃ、お前さんだけじゃろうが、儂もティムールも元をただせば真っ当な戦士よ。それであっても、あれはちと眩しすぎるがな』

 

「しかし、だからこそ、あの二人は互角に戦いあう事が出来ている。このようなことを認めるのは恥であるかもしれないが、あれを相手取るには我らよりもランサーの方が適任だしかし、だからといって、手をこまねいているわけにはいかない」

『ああ、勿論だとも。ランサーもそのために儂らに助力を願った訳じゃからな』

 

 どれだけ互いに認め合っていたとしても、どだいこれは聖杯戦争、勝利しなければ何も得ることができない。そのための機会を逃さないためにアステロパイオスは苛烈な攻撃の中でその機を伺い続けていく

 

 戦いの趨勢未だ決まらず、先に状況を崩すのはどちらとなるのか。

 




【CLASS】ランサー

【マスター】リーゼリット・N・エトワール

【真名】ウィリアム・マーシャル

【性別】男性

【身長・体重】182cm・78kg

【属性】秩序・善

【ステータス】

 筋力B 耐久B 敏捷A

 魔力E 幸運B 宝具A+

【クラス別スキル】

 対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

【固有スキル】

 無窮の武練:A
 ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。

守護騎士:B
 騎士道における理想の騎士として、今もなお讃えられるランサーに与えられた希少スキル。他者を守る純粋な使命感によって、その防御力は短時間ではあるが、凄まじい上昇を見せる。

騎乗:C+
 騎乗の才能。幻想種や野獣を除き、大抵の乗り物を人並み以上に乗りこなせる。更に騎馬を乗りこなす際、有利な補正が掛かる
【宝具】

『五王の忠臣(アール・マーシャル)』
ランク:E~A- 種別:- レンジ:- 最大補足:-
5人の王に仕え、信頼を勝ち取ったランサーに与えられた恩恵。王の威光たる宝具を借り受け、一時的に使用することが可能となる。
○永久に輝く勝利の剣(エクスカリバー・ライオンハート)/対軍宝具
 アーサー王を信仰したリチャード獅子心王は剣を初めとした道具に「エクスカリバー」と名付けたという逸話に由来する宝具。手に持った武器を聖剣に見立て光の斬撃を放つ。ただし、その武器が衝撃に耐えられるかは別。威力は本来の聖剣には劣るが、加護のない通常の防御では一撃のもとに斬り落とされるだろう。
○我は王を守り、道を修むる騎士なり(ナイツ・テンプラー)
ランサーが仕えた最後の王である幼き王ヘンリー三世に捧げた生涯の忠誠。
ランサー自身が心から主であると認める王の為に戦うことを誓った時に発動されるその宝具は、ランサーの筋力、耐久力、敏捷性にワンランク上昇を与え、人馬一体の鉄壁の守備能力をさらに隙のないものへと仕上げていく。

○我が騎士道に敗北はなく(アン・シュヴァリエ・インヴィンシブル)
ヘンリー2世に仕えたウィリアムが誓った最高峰の騎士へと至るための誓い。
戦場に置いて無類の強さを発揮したウィリアムの馬上試合における腐敗の象徴たるこの宝具を基点としたレンジ内にいる全ての存在の、魔術、宝具などの効果を全て無効化する。これによって、自身の身体能力や技術以外では攻撃することができなくなる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。