Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

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第18話「儚くも永久のカナシ」③

――王都ルプス・コローナ――

「そこ、押し込みなさいッ!」

「「「了解!!」」」

「くっ、まだ、そう簡単に……!」

 

 襲い掛かってくる波状攻撃、いくつもいくつも迫ってくる人造七星の肉の壁ともいえる攻撃に大剣と蛇腹剣を活用してレイジは立ち回ろうとするも、どうにもうまく立ち回れない。レイジ自身は気付いていないが、彼の武器はそのどちらもが範囲攻撃を実行することができる武器であるが、ある程度のリーチが無ければ集団戦では十全な機能を発揮することができない。大剣であればその重さと威力だけで凌ぐこともできるが、蛇腹剣については、それを振り回すだけの余力がなければ、攻撃の出先を潰されてしまう。

 

 人造七星たちは明確にレイジの弱点を突く戦い方を実行する。レイジの攻撃が出るところを潰す。古今東西、どんな相手であったとしても、攻撃をされる前に攻撃をすれば潰されることはない。加えて、後方で指揮をしているリゼからの魔術攻撃までもがレイジへと襲い掛かってくる。

 

 ヨハンとの戦いのように個人の武力頼みの戦い方ではなく、集団的な追い込み、ヨハンとの戦いを辛くも凌ぎ切ったレイジだが、こと集団戦闘に関してはセルバンテスとの戦いで垣間見せただけであり、ほとんど経験を持ち得ていない。

 

 人造七星たちの戦力そのものは散華やヨハンに比べれば全く見劣りする。あの実験体402号の方がまだ苦戦をさせられる程度でしかないことは明らかであるが、それを集団戦闘、そしてリーゼリットの感覚共有によって全く無駄がない動きによってカバーされている。

 

 一人をいなしたとしても、すぐに次の攻撃が迫ってくる。邪魔な相手を倒そうと攻撃を加えれば、他の仲間が防御を受け持ち、倒すことができない。

 

 単純な苛立ち、ストレスを拭いきれないこともまた慣れていないがための弊害であると言えるのかもしれない。

 

「くっ、そぉ……」

 

 だが、その苛立ちはレイジにとっては毒だ。刃が届くはずなのに届かせることができない。ヨハンのように実力があるからこそ届かないというわけではない。灰狼のように、分かりやすい理由を提示されて届かないわけでもない。届かせることができるはずなのに、届かせることができない。それが何よりも彼を苛立たせる。

 

「自分は後ろに下がって、命令をしているだけで復讐気分か、随分とお前の復讐は安いんだな……!」

 

「その手の挑発には乗らないよ。適材適所って言葉があるでしょ? 私はセプテムの女王、兵を指揮して、勝利を手にする。君たちのような戦士とはそもそも土俵が違うのよ。君の挑発に乗って、慣れないフィールドで戦うことの方がよっぽど馬鹿げているわ」

 

「良く言う、自分のフィールドで戦う? お前がこれまでそんなことをしてきたか? 持っている力をただ悪戯に持て余してきただけだろ。何もしてこなかった癖に、自分がその使い手みたいな顔をしているのは滑稽だぞ」

 

「本当に君は、私を苛立たせるのだけは上手いよね……! 波状攻撃、余計な言葉を口に刺せるような暇を与えないで!」

 

 リゼの命令を受けて、人造七星たちは一斉攻撃から、畳みかける波状攻撃へとその戦い方を変えていく。リゼが命令し、その命令を兵士たちが着実に実行する。

 

一糸乱れぬ統率力でそれを実行することが出来れば何一つとして怖れることはない。レイジ自身の戦闘力は個人単体として隔絶した実力があるわけではない。数で圧す、ある意味で戦場における定石だ。古代よりありとあらゆる場所で行われてきた勝つために費やされる最も分かりやすい勝ち方だ。リゼはそれを徹底的に実践する。

 

 リゼたちの戦場、ウィリアムたちの戦場、どちらも魔力を使った感覚感知の中で共有しながら、自分たちが今鉄壁の布陣を敷いていることを改めて理解する。

 

(ランサーが宝具を使っている限り、相手のランサーもアヴェンジャーも大規模な宝具を使う事が出来ない。ランサーは行動の起こりを決して見逃さない。グロリアス・カストルムの時のようにアヴェンジャーが予想しえない行動をしたとしても、行動の起こりを潰してしまえば、ランサーは必ず対処してくれる)

 

 自分のサーヴァントへの絶対の自信を持ち合わせている。誰もが七星側のサーヴァントの最強は侵略王であると思っているかもしれないが、リゼからすれば最強はランサーだ。あらゆる面から見ても彼には弱点と言ったものが存在しない。見劣りする面をスキルと技量で補い、マスターに絶対の忠誠を捧げる彼ほど、聖杯戦争のパートナーとして信頼できる存在はいないのだから。

 

(後はそれを私が確実に運用することができるかどうか。この戦いに勝つことができるかは私が勝利できるかどうかにかかっている)

 

 だからこそ、畳みかけて一気に勝負をつけることをリゼも望む。レイジの言葉はいつだってリゼの心をかき乱す。初めて出会った時もグロリアス・カストルムでも、そして今も、リゼの心の奥深くに隠している触れられたくない一面に土足で踏み込んでくる。

 

 ヨハンや多くの仲間たちの命を奪われて憤っているこの最中でも、その言葉に心をかき乱されるのはリゼ自身が未熟である証拠なのだろうか。

 

 それともあるいは……、自分の中に刻まれたレイジに面影を寄せているあの少年の言葉があったからなのだろうか。

 

(馬鹿馬鹿しい、レイジ君は彼じゃない。彼であるはずがない。そもそも、あの事件からもう何年が経過していると思っているの? 私だってヨハン君だって大人になった。彼だって生きていれば大人になっているに決まっている。どれだけ姿が似ていても、面影があろうとも、レイジ・オブ・ダストは彼じゃない……!)

 

 自分の心の中に浮かんでいる好意的に解釈をする理由となりえる存在のことを忘れようと首を振る。集中しろ、気を許すな。自分は仇を討つために戦うと決めたのだから、甘い心など持つべきではない。その抱いた甘い心が原因で敗北をするようなことになれば、自分は自分を一生許すことが出来なくなる。

 

「くそっ、近づくことができない……邪魔だッ!!」

 

 対してレイジも先ほどから抱いている苛立ちを発散することができない状況に置かれている。どれだけ言葉で攻めたところで刃を届かせることが出来ていないのは事実、肩透かしを食らっているにも等しい状況はどこか、やりきれない思いを抱かせる。

 

(決意が鈍っているわけじゃないだろう……!)

 

 だが、そもそもレイジの根幹の中でどうにも、これまでの敵との戦いの時のように煮えたぎるような戦意が発露していないのも事実なのである。どこか、後ろ向き、リゼを殺す事への躊躇のようなものが自分の中に浮かんでいるような。

 

(先ほどのアイツの言葉に動揺でもしているのか?馬鹿馬鹿しい……総ての七星を倒すことが俺の目的だったはずだ。七星は存在しているだけでこの世界に災いを齎す。だから、俺は総ての七星を滅ぼすことを目的としたんじゃないか……!)

 

『本当に、そうか……?』

「―――――――!」

 

 自分の心の中で誰かが囁いた。本当にそれがお前の本当の目的であったのかと問いかけるような声が響いたように思えた。それが自分の心を反映したような幻聴なのか、あるいは、ヨハンとの戦いの時のように本当に自分の中に浮かんだ何かの声なのか、答えは分からないが……、迷えばそれで足を止めてしまうことだけは分かっている。

 

(例え、間違っていたとしても、悪でしかなかったとしても、俺は俺の復讐を、俺のここまで進んできた道を信じる。それしかできない、それだけが俺の強さだ。何も持ち得なかった俺がここまで戦ってこれたのはブレずに自分の道を信じて来たからこそだ。だったら、やるべきことは決まっている……!)

 

 自分の復讐を果たす、そしてターニャを日の当たる世界へと連れていく。彼女に真っ当な幸福を与えたいと思っている。その為に戦うと誓ったのだから。それ以外の何かを望むこと自体が間違っているということだろう。

 

 盲信する、自分の正義を信じる。それだけが自分に出来るたった一つの正答であろう。

 

 何よりも、レイジはたった一人で戦っているわけではない。此処にはもうひとり、レイジと共に戦っている仲間がいるのだから。

 

「レイジ君も、結構キツそうだな……」

 

 人造七星たちによる波状攻撃、その攻撃手法へと移ったのは何もレイジ側だけではない、桜子へと攻撃を仕掛ける側の人造七星たちも一気呵成の攻め方から時間をかけて、桜子に攻撃をする余裕を与えないまま磨り潰す作戦へと変更をしたことがうかがえる。

 

(ただ、気持ち程度ではあるけれど、レイジ君よりも私への攻撃の方が雑に感じるな。リーゼリット皇女……じゃなくて今は女王様だっけか。女王様と私は面識がない。だから、私に対しての警戒心が強いって訳じゃないのかな。ここにきたのもレイジ君を狙ってのことだろうし……)

 

 これまでに七星側と幾度となく戦闘を続けてきた桜子であるが、考えてみれば。リゼと顔を合わせるのは初めてである。朔姫を通して話を聞いてはいたが、改めて顔を合わせると、これまでに闘ってきた七星のマスターたちとは少しばかり毛色が違うように見える。

 

(うーん、めっちゃ綺麗な人だなぁ、戦っているのがもったいないって思うくらいに。たぶん、七星としての生き方に染まっていないからなんだろうな、育ちがいいっていうか、心が荒んでいないって言うか……レイジ君と殺しあわせるようなことにさせたくないなぁ)

 

 リゼの経歴を桜子も深く知っているわけではないが、彼女は間違いなくレイジの故郷を滅ぼす戦いに関与してはいない筈だ。そもそも、皇女であった彼女に、レイジの村を滅ぼす理由はない。七星であるからこそ狙われているのだとすれば、彼女がレイジを非難したように少しばかり乱暴が過ぎるというのは桜子も納得だ。

 

 ただ、問題なのはリゼ側の心境だ。レイジは彼女の護衛騎士であるヨハンを討った。レイジが村を焼かれたのが事実であるように、レイジがヨハンを討ったこともまた事実だ。レイジが七星を憎んで復讐をするのであれば、当然にリゼにもレイジを憎んで復讐をする権利が与えられる。あの二人にとっての関係性で言えば当たり前のことだろう。そこに異論を唱えることは互いに許されないことであると理解してしまっている。

 

 けれど、そんな関係性を桜子は悲しいものであると考える。憎しみは憎しみを生み出す、だからこそ復讐は許されないなんてお題目は両者ともに理解しているのだ。それでも許せないと思ってしまうからこそ、戦いあうしかない。

 

(できれば同じにはしたくない。私と散華さんだって、本当はもっと別の結末があったはずなんだ。それを私達は見つけることが出来ずに殺しあうことしかできなかった。過去を無かったことにはできない。でも、同じことを繰り返すわけにもいかない……!)

 

 それはもしかしたら桜子自身のエゴなのかもしれない。二人の行く末は決着をつけるしかないと思っている二人に対して割って入って、余計な茶々を入れているだけの傍迷惑なのかもしれないが……、それでもどちらかの命を奪う事無く、戦いを終わりにすることができるのであれば、それがきっと最善であると信じることは果たして許されないことなのだろうか……?

 

 決着をつけることだけが救いであると桜子はそうは思わない。だからこそ、ここで自分が何かしなければその未来を掴むことはできないと奮起する。

 

「そうだ、こんな程度……、全然絶望するほどじゃない……ッ!」

 

 秋津の聖杯戦争の頃を思い出せ、もっと多くの敵に囲まれることだってあった。その最中でも輝きを放ち続けた英霊たちの姿を桜子は覚えている。それに比べれば何も怖れることなどない。

 

 ふと、視線がアステロパイオスと重なる。彼女の瞳も死んでいない。絶対に打開するという思いがこもっていることを理解できるから。

 

「そうだ、私が、この状況を変えて見せる! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「なに――――ッ!?

 

 人造七星たちと感覚を共有しているリゼはすぐにその変化に気付いた。変化の勢いが出ているのはレイジたちの扇情ではなく、桜子を囲んでいる人造七星たち側である。

 

 波状攻撃を仕掛けて、休む暇を与えない形で桜子を攻撃し続けてきた人造七星たちが近づくことが出来なくなった。より詳細に言えば攻撃を与える素振りをすることが出来なくなったのだ。

 

「嘘っ、だってあれだけの人数で囲んでいるのに、息をする間もなくずっと動き続けているってこと!?」

 

 状況を正確に把握できるリゼは思わず目を見張った。桜子が攻勢に出たのは理解できるし、当たり前のことだ。敵手としては防戦をし続ける限り、数の優位を覆すことは出来ずに擦り切れていくだけなのだから。

 

 しかして、今の桜子は違う。ただ攻撃をしているのではない。一度たりとも止まることなく、息継ぎすらしていないのではないかと思わせるほどに、常に攻撃を続けている。

 

 自分が握っている魔力刃だけではなく、何もない場所に存在する不可視の魔力刃までもを活用させて集団で襲い掛かってくる敵の誰かを常に攻撃し続けている。その攻撃する相手を選択することも決してあてずっぽうで行っているわけじゃない。

 

 もっとも自分に危害を加える可能性がある相手に対して攻撃を仕掛ける、それを最速最短で判断し、適切な場所へと攻撃を仕掛ける。リゼがあらゆる視点、あらゆる行動を統括して適切な判断を脳で下しているのだとすれば、桜子は視覚と感覚で判断をして、反射神経そのものが判断を下しているかのようである。

 

 頭で判断をするなどしていては間に合わない。今、この瞬間にも七星の魔力を最大限に励起させて、自分のステータス値の底上げと判断基準の鋭敏化を促している。たとえ、桜子の意識がかい離したとしても戦えるのではないかと思わせるほどのトランス状態、それこそが七星宗家の最高傑作とさえも謳われるほどの七星散華を負かした桜子の実力なのである。

 

「馬鹿げている、ただの人間であんなことができるなんて……」

 

 リゼ自身は軍を運用するという面においては、七星の力を最大限に活用することができるが、こと直接的な戦闘と言う面で見れば他の七星の後塵を配することになるのは分かりきっている話だ。

 

 それはジャンルが違うという一言で片づけられる話ではあるが……、時にはそのジャンル違いを力技で解決してしまう相手もいる。言うまでもなく桜子もまたそういう存在である。レイジではこじ開けられない扉も桜子であればこじ開けられる。

 

 才能の差であるのか、積んできた修練の差なのか、何にしてもリゼにとって絶対有利であったはずの戦場では遠坂桜子と言うリゼにとっての想定外によって難なくその目算が崩されようとしていた。

 

「大丈夫、それでもまだ突破されていない。層を厚くして。連携方法を変えるわ。全員の一斉攻撃に、レイジ君の方は波状攻撃のまま、何としてもその二人の合流だけは防いで!」

 

 リゼも焦りを覚えながらもなんとか命令をこなしていく。このままでは、突破されるかもしれないという恐怖心、そしてまた自分が何もできずに負けてしまうのではないかという焦りと戦いながらなんとか声を上げる。

 

 そのリゼの焦りはその場を包む空気感として伝染していく。その変化はマスター同士の戦いだけではなく、サーヴァント同士の扇情にも伝播していく。

 

(空気が変わり始めてきた……!)

 

 桜子の順応、そしてレイジ自身のリゼへの挑発、それらが絡み合い、雑兵たちを押しのけるためのエネルギーが戦場の中へと蓄えられようとしていた。その空気をアステロパイオスは瞬間的に感じ取り、されど、表情に出すことなく、変わることなくウィリアムとの槍と槍のぶつけ合いに興じていく。

 

 ここまでにもう何度、ぶつかりあったのかわからない。これほどの激戦、生前のアキレウスとの一戦以来ではないかとさえ思える戦場の中で、アステロパイオスは一分一秒、絶対的な集中力を切らすことなく戦い続けてきた。

 

 けれど、彼女とて体力が無限に存在しているわけではない。当たり前のように疲労は感じているし、サーヴァントでありながらも武器を握る手の握力が弱まってきているように思う。あくまでも感覚の話、霊的存在であるサーヴァントには本来、疲労という概念は存在しない。あるとすれば、それは魔力の枯渇という状況に自分が直面しているということになるのだが、桜子は今なお猛々しく戦いを続けている。

 

(生前の自分に引っ張られている。それだけ、自分自身が死と隣り合わせの戦いをしているという実感を覚えているのかもしれませんね……)

 

「さすがにここまで戦いが長引くとは思っていなかったな」

「同感ですね、まったく揃いも揃って、負けることを認めることができないと見える」

 

「それは仕方がない。個人の誉れだけでも相手に勝利を譲ることを認められないのが戦士というもの。加えて、今の我々は勝利を誓い合っている者がいる」

 

「その通りですね、その相手に勝利を献上することができないのであれば、我々はサーヴァントとしても戦士としても負けを認めざるを得なくなる」

 

 疲労は隠せない、このまま戦い続ければ、目の前に君臨する白亜の騎士に飲み込まれるかもしれない。戦場に君臨する騎士の中の騎士たる男は、疲労を覚えていると口にしながらも悠然とアステロパイオスの攻撃を待ち構えている。

 

(流れが変わり始めている今こそが好機。葛藤はある。戦士として敬意を払って戦ってくれている彼には申し訳ないと思いますが、それでも私はよく知っている。敗北したものには何も残されないことを。負けてしまえばどれだけ高潔な戦いであったとしても何もその後に残すことができないことを……!)

 

 かつてのトロイア戦争でアキレウスに敗北したアステロパイオスに押し付けられたのは敗軍の将という汚名である。アマゾネスたちを率いて、参戦した誉れや恩など、何一つとして考慮されない。最終的な勝利を手にしたアキレウスは最後まで戦い抜くことができなかったとしても英雄として祭り上げられた。

 

 それが現実、それが世の真理、結果を出さなければ過程が評価されることはない。

 

 故にこそ、誰もがどん欲に勝利を欲する。自分の正しさを世界に刻みつけるために!

 

「桜子!!」

 

 叫ぶとともにアステロパイオスは後ろへと宙返りをして、一気にウィリアムと距離を取る。その距離は本来のアステロパイオスの戦闘スタイルの距離ではない。明らかに何かをするための距離鳥であるが、しかして、ウィリアムはそれに怪訝な表情を浮かべる。

 

 ウィリアムの宝具が発動している限り、アステロパイオスは白兵戦以外の何かを仕掛けることはできない。それこそがこの戦場に仕掛けた絶対的なルール、ウィリアムへと向かってくる特殊な攻撃、何かしらの加護によって発動する力はその悉くが無力化されるのだから。

 

 そう、ウィリアムに対しては……

 

「令呪をもって命じる。ランサーよ、勝利のためにあえて汚名をかぶる危害を私に示して!! ここで決着をつけるための刃を放て!!」

 

 桜子の腕に刻まれた二つ目の絶対命令権が光を放つ。先の桜子が動きを変化させた時点でアステロパイオスとの意思疎通は取れている。状況を変えなければ、レイジはリゼに討ち取られる。そしてその状況を変えるのは、この場で同時に戦っている自分たちを置いてほかにはいないと、二人は理解しているからこそ、勝つための手段を実行する。

 

 令呪によって、アステロパイオスは天へと跳躍し、二つの槍が魔力によって光を放つ。放たれるのは紛れもなく河神スカマンドロスの祝福を受けた神速の双槍、しかし、同時にそれはウィリアムの宝具によって放つことができない状況へと追い込まれていたはずであった。

 

 桜子とアステロパイオスが求めたのは二つ、一つはウィリアムの宝具効果の無力化すらも跳ね飛ばすほどの圧倒的な対魔力の発動、いかにルールを敷く宝具であったとしても、固有結界のように世界すらも塗り替えてしまうような力でないのだとすれば、対魔力の判定次第でその力を無力化することができる。

 

 そしてもう一つは、たとえそれが戦士にとっての禁忌を犯す行為であったとしても実行しうるだけの強制力をアステロパイオスへと与える為である。本来であれば決して取らない手段、彼女の誇りすらも謗る行為であるともいえるそれを確実に実行するために、令呪はその力を輝かせるのである。

 

「穿て―――『絶えし穿つ飛翔する疾霆(グリゴロス・アクシオン)!!』」

 

 かくして必滅の槍が放たれる。その放たれた相手はアステロパイオスがここまで戦闘を続けてきたウィリアムではなく、あろうことかマスターであるリゼに向けて放たれたのである。

 

「――――――」

「馬鹿な、それが貴殿の戦い方か、ランサー!!」

 

 突如として向けられた純粋な殺意、サーヴァントという規格外の存在に命を狙われる状況になったことにリゼは一瞬で理解をするも、それで彼女に何かが出来るわけではない。

 

 その攻撃を後から無力化することができるのは、言うまでもなくウィリアム・マーシャルを置いて他になく、かくして、彼は自らをも封じる騎士道の戦いの制約を解き、馬上槍に輝きが灯っていく。

 

(今から動いたとしても間に合わない。マイロードの命を守るために私に出来ることは、あの槍を撃ち落とす事だけだ……!)

 

 逡巡をしている暇もない。何故という疑問としてやられたという理解、それを本能レベルで理解したウィリアムは、ただ、自分の主を守るために、騎士として何よりも為し遂げなければならないたった一つの誓いの為に、己が仕えた最強にして至高の王が振った聖剣の力を解き放つ。

 

「焼き尽くせ――『永久に遠き勝利の剣《エクスカリバー・ライオンハート》』!!」

 

 そこから生み出されたのは黄金の光、総てを焼きつくし、同時に人々にとっての希望の光となりえる圧倒的な黄金色の極光が己の主を穿つための槍、そして放ったアステロパイオスを呑み込んでいく。迎撃による破壊、それを実行したと思わせた瞬間にそれは引き起こされた。

 

「我がアクシオンの切っ先は防がれる、あるいは躱された時からこそが本領を発揮します。ええ、宝具を解放してくれて感謝しますよ、これでようやく貴方に我が槍が届く!!」

「まさか、本当の狙いは――――んがあああっっ!!」

 

 まさしく直角軌道を描くように、空中にて二振りの槍がその軌道を変える。リゼに向かって放たれたはずの槍、そして、黄金の光に呑み込まれるはずだったもう一つの槍はその総ての障害を乗り越えるように、直角軌道で無理矢理にウィリアム側へと動きを変えて、彼の纏っている鎧など関係ないとばかりに二つの槍が同時にウィリアムへと突き刺さり、これまで鉄壁の堅牢さを誇ってきたウィリアムはそこで初めて血反吐を吐いた。

 

「がはっ、ごほっっ!! はは、まさか、まさか、そういうことか。してやられた、これはしてやられたぞ……!!」

 

 崩れ落ちそうな体を愛馬へとまたがる足に渾身の力を込めることで何とか落馬することだけは防ぐが、ここまで傷一つなく圧倒し続けてきたウィリアムにとって、初めて受けた攻撃がアステロパイオスにとっての必殺の一撃であったことは存外、彼にとって無視できない結果を呼び寄せたと言ってもいいだろう。

 

 身体から槍を抜くと、おもむろにその槍を投げ捨てる。すると、槍は当然のようにアステロパイオスの下へとひとりでに戻り、ウィリアムも再び双槍を握ったアステロパイオスへと痛みをこらえながら視線を向ける。

 

「令呪を使ったのも、我が主を狙ったのも全ては私に宝具を使わせるためだったか」

「ええ、その通りです。私が貴方に宝具を届かせるには貴方の宝具の力を解除させるしかない。ですが、何を挑発したところで貴方は宝具を解除するようなことは絶対にしない。それが騎士の中の騎士である貴方の信条でしょうから。ですから、このような手を使わせてもらった」

 

 聖剣の光によって焼き尽くされるはずだったアステロパイオスはアヴェンジャーの宝具による瞬間移動を引き起こし、なんとか黄金の奔流から逃れることに成功した。

 

 桜子とアヴェンジャー、そのどちらがいなかったとしても、成功しなかった作戦、そんな完璧な奇襲であったとしてもウィリアムの命を奪うには至らなかったことこそが、騎士の圧倒的な強さを意味している。

 

「活路を開くために己の誇りすらも薪にくべる覚悟を持ったと……」

 

「誇りに殉じた敗北よりも、誇りも恥も捨てた勝利を求めるのは未練を持つ者であれば当然のことです。ウィリアム・マーシャル、貴方は素晴らしい人物です、高潔であり、忠義に溢れ、誰もが羨むほどの強さを持っている。同じ武人として、心からの敬意を私は抱きます。

ですが、それゆえに貴方には渇望が足りない! 己の誇りを優先してしまうことこそが、貴方の唯一の弱点だ」

 

 それを弱点と言うことがアステロパイオスは心苦しい。本来であればそれは誇るべき美点である。誰もが彼のような騎士を目指しながらも現実の重さに敗北して、その道を閉ざしてしまう。生まれ持っての才覚、そしてたゆまぬ努力と捧げた忠義、人間としての格が高いという表現がここまであっさりと肯定することができる存在もなかなかいないだろう。

 

 それを弱点と口にすることの心苦しさは誰よりもアステロパイオスは知っている。性格も在り方も違えども、1人の英雄を愛した女として、栄光に泥を塗るようなことはしたくなかった。それでも勝つためにはそれを実行する。それが出来る存在こそがサーヴァントとして勝ち抜くことができるのだと彼女も信じている。

 

「なるほど……、言われてみればその通りかもしれない。私は何処までも己の誇りに殉じている。その誇りの範疇へと貴殿らを巻き込もうとしている。であれば、自分の領域を破壊されてしまえば、私が傷を負うこともまた道理だ。この胸に刻まれた痛みはその教訓であると考えよう」

 

 肩と胸を貫いた双槍、鎧など何の意味もないと刻まれた傷から血が零れ、白亜の騎士の鎧を血に染め、口元にも喀血の後が浮かぶ。誰が見ても重傷であることは言うに及ばず、アステロパイオスの必殺の宝具を受けても尚、倒れることなく馬上に君臨していることこそが異常であるという他ないだろう。

 

「あれでもまだ倒れぬか」

「ええ、それこそが彼です。戦の中で負けるとしても彼は最後まで騎士として戦い続けるでしょう。私達が相手をしているのはそういう英霊です」

 

 例え、言葉で非難をしたとしても、ウィリアム・マーシャルと言う英霊への敬意が変わるわけではない。

 

「だが、その奇襲が通じるのは一度きりだ、もはや同じ手は二度と喰わない」

「でしょうね。ですから、ここからは力押しで行かせてもらいますよ、アヴェンジャー、よろしいですね」

「ああ、我もお前たちの戦いを見て、血が湧きたっていたところだ」

 

 再び敷かれる宝具による特殊効力を完全に無効化する騎士の戦場、戦えば先程と同様の結果を迎えるであろうことはアステロパイオスをしても想像に難くない。

 

 よって、新たな手札を投入するべき時である。アヴェンジャーと二人がかりで鉄壁にして最高峰の騎士を突破する。手負いであろうとも油断など出来ない。少しの油断によってあっさりと状況を覆される程度にはこの騎士は強いのだから。

 

『あの力を使われていると僕たちは手の出しようがないね』

『お前さんの宝具であれを無力化は出来んのか?』

 

『できるよ、できるけど、やめておいた方がいいかな』

『何故じゃ?』

 

『なんとなくかな。これはあくまでも僕の直感って言うか、悪い予感と言うかだけど、彼は何かしらをまだ隠し持っている気がする。もしも、本当に自分の信条が立ち行かなくなった時に総てを裏返すことができるようなものをね』

 

 もしも、そんなものを使われて、こちらの手札を封じられてしまうのは馬鹿らしいとユダは思うが故の言葉であった。レイジの闘うべき相手の終着点はあの騎士ではない。いずれ闘う侵略王との決戦こそが本番である以上、そこに辿り着くまでに無駄な消耗は避けるべきであるとユダは考える。彼は戦士ではない、英雄のような戦いに夢を馳せるような存在ではないからこそ、この手の空気には決して乗せられない。

 

『ここはアステロパイオスとティムールを信じようじゃないか』

『儂も先ほど宝具を使ってちと疲れたからなぁ、仕方がないのう』

 

 サーヴァント戦は拮抗状態から徐々に変化を見せ始めてきている。それはマスター同士の戦いも同じだ、人造七星を使って、桜子とレイジを分断して各個に撃破する陣形を整えていたリゼだが、桜子の無理矢理な突破力によってその思惑が崩れ始めてきてしまった。

 

「もう少しで、レイジ君に合流できる。はぁぁぁぁぁぁぁ!」

「まさか、令呪まで使われて、あんなことをされるなんて、遠坂桜子、私達と同じ七星の血族、もっと警戒するべきだった……!」

 

 リゼは思わず舌打ちをする。集団戦闘であれば自分に絶対的な有利があると信じ込んでいたが、相手はあの散華を打ち負かした相手、なおかつ今の自分にはヨハンがいない。単独戦力による理不尽な突破を図られてしまえば、不利になるのは言うまでもないことだ。

 

(それでも、このチャンスを無駄にはしない……ッ! せめて、ヨハン君の仇だけでも取らなくちゃ、私は自分自身が許せない……!)

 

 いつだってかやの外で、気付いた時には何もかもが終わっている。そんな自分の立場に嫌気を覚えているからこそ、このケジメだけは付けなければならない。それが間違っていることだとしても、誰も望んでいないことだとしても、奪われた者は辛いのだ、苦しいのだ。かつて、セレニウム・シルバでレイジが口にしたように、復讐を忘れて明日に生きるなんてことができるほど、人間は強くない。

 

 レイジを殺せば今度はレイジと懇意にしていた者たちが自分を恨むだろう。わかっている、そんな当たり前のことは分かっているが、感情がそれを許してくれない。

 

 だから闘う。総てを使って勝ちたいと願う心が咆哮を上げるのだ。

 

 それは当然、彼もまた同じである。

 

「―――星脈拝領、憑血接続開始、ここに七星の血を解放する……!!」

 

 歯を食いしばり、自分自身の限界すら知ったことかと咆哮を上げ、ヨハンとの戦い同様にレイジは自分自身の深奥に眠っている力を発現させる。

 

 その力の発動が何を待っているのかに危惧を覚え、桜子に相談をした。本来であれば使うべきではない力であることも分かっているが、それでも勝つためには躊躇しない。

 

「もうレイジは堪え性がないね、ダメじゃない、そんなに力を使ったら、ただでさえ、もう時間がないって言うのに……」

 

 深まっていくレイジとリゼの戦い、それを遠目で見つめる少女は静かに声を上げる。その結末が向かう先がどう転ぶことになったとしても、きっと、自分たちにとって良き方向に向かっていくだろうという確信があるからこそ、彼女は観客であることに徹している。

 

 これまでずっとレイジの良き理解者として、レイジの守るべき存在として常にレイジに寄り添い続けてきたはずのターニャ・ズヴィズダーはレイジを助けに行くような素振りを全く見せずにレイジとリゼの戦いを観察し続けている。むしろレイジの身を心配するのではなく、憎しみから戦いあう二人へと笑みすらも零しながら。

 

「大丈夫だよ、レイジ。レイジが勝とうとも負けようとも、全部、私が終わりにしてあげるから。だって、私はね、本当にレイジに感謝しているんだから。そのお返しをしてあげなくちゃね?」

 

 本来の彼女が見せないような笑みを浮かべ、どんな結末へと至るのかへの期待を隠すことができない様子を見せる。その姿は、これまでレイジたちと行動を共にしてきたターニャ・ズヴィズダーのモノと同じには見えない。全く違う誰かが彼女を演じているかのようにさえ見える。

 

 その変貌もまた、風雲急を告げる事態の向かう先の結末であるのだろうか。レイジとリゼ、いまだすれ違いを続ける二人の戦いはこのまま悲劇へと繋がっていくのか……。

 

 一つだけ確かなことがあるとすれば、セレニウム・シルバより始まったこの聖杯戦争の物語も終幕が近いという個と。終わりへの加速は確かに始まっているのであった。

 

第18話「儚くも永久のカナシ」――――了

 

 ――この刹那さは 砕けた幻のアナタを この手に触れることが 叶わないから

 

次回―――第19話「Active Pain」

 




次回、19話はいよいよこれまで謎にされてきたレイジの出自についても明らかになります。投稿は4日後の22日です、よろしくお願いします。

感想などあれば気軽に書いていただけると嬉しいです!


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