Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤―― 作:ソクリ
『おそらくだが、俺は今回の戦い、カシム・ナジェムに敗北することになるだろう』
戦いが始まる前に、ロイ・エーデルフェルトはルシアとセイバーに向けて、自分の胸に宿っている思いを吐露した。
不安を覚えているわけではなく、それは漠然とした予感である。あの恐るべき執念深さを持ち合わせている男が、ただで此度の戦いに臨んでくるはずがないこと、あちらがこの場を戦いに選んできた以上必勝の罠か何かが張り巡らされているであろうことは間違いないと踏んだからである。
『おい、人間、以前にも言ったはずだ、あまり舐めたことを口にするな。貴様が我らのマスターであるのならば戦う前から敗北をするなどと言うのはやめろと言ったはずだ』
『それとも、カシム・ナジェムがマスターに敗北することとなれば、自分の望みを達成することが出来て、結果的にキャスターを消滅させる手立てになるということに繋がると言いたいのでしょうか?』
『いや、その考えは流石に浅慮が過ぎるだろうと俺自身も考えを改めたよ。俺を倒したくらいで、キャスターが満足するはずがない。ああいう輩には欲望の終わりというのがない。一つをクリアすればその次を目指していく。際限なく、一つまた一つと目指していくモノが増えていくのは容易に想像できる』
『そこまで分かっていても、ロイ、あんたはカシムに負けると思っているの?』
『ああ、そうなるように仕向けている。言わばアイツは、俺に勝つために調整をしてきている。だから、ある意味で俺が敗北するのは、予定調和なんだ』
これまでの二度の戦いとて本来であれば、カシムにとって容易に勝ってもおかしくない戦いであったはずだ。それをロイの規格外の強さが上回り、敗北の時を先延ばしにしてきた。
しかし、三度目の正直、という話ではないが、昨日のカシムの様子から見ても今回こそは確実に勝てる何かを引っ提げてくるのはロイにとっても想像に難くない。
『だからこそ、俺はあえて捨て石になることを選ぶ。あいつが俺に勝利をして、自分こそがこの世界の最強であると思いこんだその時にこそ、アイツを倒すための最大の好機が訪れる。アイツを倒すべきなのは俺じゃない。一方的に闘うことを運命づけられた俺ではなく、カシム・ナジェムを倒すに相応しい戦士は他にいる』
『それって……』
『セイバー、ルシア、君たちは変わらずキャスター撃破を目指してくれ。だが、全力を出すとすれば、それは俺が倒された後だ。その時に総ての状況がひっくり返る。その兆しは目に見えた変化として起こるはずだ。その時が、総てを出し尽くして戦う時だと覚悟してくれ』
思えば、ロイはこの状況へと至ることを予感していたのかもしれない。カシムを倒すのは自分に非ず、身体を弄繰り回され、人生そのものを奪われたレイジの復讐の刃こそが鋼鉄の身体を打ち破るのに相応しいと。
「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
その叫びと共に、戦場の空気が一変する。ナノマシンによって生み出された己の真体を纏ったアークは、まさしく鋼鉄の肉体を振りかざして、自身の肉体強化に総てのリソースを仕込んだキャスターと拳と拳の激突が生じる。
ジェルメによって霊核に損傷を与えられているアークの顕現できる時間はそう長くない。英霊ノアとしての異次元の単独行動スキルによって、いまだにしぶとくこの世界に残っているが、本来であればいつ強制退去をしてもおかしくない状況にある。
だが、そんな状況であるにもかかわらず、叩き付けられたキャスターの拳は骨から粉砕される。当然に自己修復の魔術を掛けるが、畳みかけるようにアークの拳の連撃が降り注ぎ、キャスターの肉体を破壊していく。そのたびにアークの装甲も破壊されていくが、構いはしない。消える瞬間が短くなったところでそれがどうした?
命を懸けるに相応しい場所なのだ、命を惜しむ理由が欠片もない。
「くく、ふはははははは、なんじゃその有り様は、貴様、その有り様で何故、そこまで戦える。これが冠位を背負う英霊か? 妾の宝具と真っ向からぶつかり合って、小癪ではないか!」
「へっ、バカを言え。キャスターでありながら宝具を使って肉弾戦とか、ちょいとばかり反則が過ぎるんだよ。そういう奴を相手取るんだ。最後の出がらしになるまで出し尽くす。俺は俺が認めた連中のためなら、最後の一瞬まで戦える!! 冠位がどうとかじゃねぇ、これは今日まで旅を続けてきた俺達の絆があるからだ!!」
「その通りです、我らは今や一つ」
「貴様たちの笑う結末など認めてなるものか!!」
一瞬にして通り過ぎる鎌鼬のようにディオスクロイ兄妹の攻撃がキャスターを切り裂く。アークの攻撃と連動するようにして放たれる光速斬撃は意識を向ける相手が存在するというその変化だけでも必殺の力を発揮する。
「ぐぅ、がああああ」
「ッッ! ポルクスっ!」
「大丈夫です、兄様、この程度、なんてことはありません!」
しかし、流石と言うべきかキャスターも負けてはいない。自分の身体を切り裂かれるのを自己修復で補うことを前提にセイバーの身体から血が吹きすさぶ。出し惜しみ無しの激突である以上、相手を砕くのはどちらが早いかでしかない。
拳が砕けることも、肉体を切り刻まれることも受け入れた上でキャスターは相手を先に破壊することに尽力する。
「良い、良いぞ。それでこそだ、命の奪い合いの中でしか輝けない命がある。あらゆる段階を通り過ぎてしまった者に与えられる刺激など、それこそ命の奪い合いだけよ。主の悲願が達成された今、もはや何らこだわる必要はない。この死闘に総てを出し尽くそうぞ!」
「ああ、そうかい、だったら、出し尽くした上で消えて行け。此処から先の戦いに、遊び半分のアンタの存在は必要な、ぐああああああああああ!!」
「くく、そうかもしれぬが、消えたくはないな。自殺趣味はないのでね、そうしたいのならば妾を砕け」
二体のサーヴァントの間隙を拭うように銃弾を放つルシアへとカウンターの一撃を見舞うが、そこにアークの拳とセイバーの斬撃が入り、キャスターの身体から血飛沫と骨が砕ける音がする。
(囮でも何でもいい。いまだ、この瞬間こそが命を懸ける時だ。燃やし尽くせ、この指輪が与えられた意味を果たす時が来たんだ)
ビシリと指輪に軋みとひびが入る。この戦いが始まってから、いいや、そもそも、この度が始まってから幾度となく行使されてきた不死の力、与えられた力にはいつか終わりが来るように、ついに限界が来てしまったのかもしれない。
だが、ルシアはその変化に気付いておきながらも、あえて、その変化を無視する。
(私が死ぬかもしれない? 知ったことか、セイバーもアークも限界を超えて力を振り絞っている。置いていかれるわけにはいかないのよ、私だってここまで一緒に戦ってきた。最後の最後で命惜しさに後ろに退くなんてできるわけがないでしょうが……!!)
ロイがレイジに戦いの行方を託した気持ちがルシアには良く分かる。この旅の最中でしかない関係であったとしても、レイジの閃光のような生き方にほんの少しでも報われた何かを与えてあげたい。地獄の先に花を咲かせると何度も口にして、今、こうして舞い戻ってきた少年に、ほんの少しの餞が出来るのならば、ここまで生き抜いてきた自分にも意味を見出すことができると思っている。
「聖杯戦争に参戦した時から死ぬかもしれないなんて織り込み済み、ようやくその時が来たってね、そうさ、今日は死ぬにいい日だ!!」
魔力によって編みこまれた銃弾を、自分への攻撃など気にかけることもなく何発も何発も打ち込んでいく。至近距離からの攻撃はそれだけキャスターからの反撃も十分に考えられるが、構わない。キャスターと我慢比べをするように、砕かれればそのまま修復、キャスターを好きにさせずに、アークとセイバーの攻撃を討たせ続けることに終始する。
脳内には絶えずアドレナリンが分泌しており、おかしくなってしまいそうな勢いだ。痛みを痛みとして身体が認識しているのかすらも怪しい。キャスターを倒すという思考が脳内の総てを支配しており、一分一秒が通常よりも遥かに濃厚な時間であるように思えてくる。
「まったく、これだけの数を揃えて、妾を落とそうとするなど、人気者は罪なことだな、よかろう、ならば。妾も限界を振り切っていかなければなるまい」
瞬間、キャスターの背後から、無数の魔方陣が浮かび上がり、キャスターへと攻撃を続けている全員に攻撃が降り注ぐ。
「がああああああああああ!」
「なっ、なんでよ、あんた、宝具を発動させている時はそういうの使えないって」
「無論、その通りよ。だから、無理をしている。貴様らと同じだ。己の主が宿願を果たしたのだ。その勝利の美酒を味わうのに、妾が邪魔をしてはなるまい!」
キャスターの口元から血が零れる。攻撃を受けながらも叩きこまれたアークの拳によって骨が粉砕し、やはり自己回復が発動するが、動きが鈍っている。
「兄様、これは……」
「ああ、我々への攻撃に力を割くあまりに、自身の回復力すらも擲っている!ならばっ、ポルクス!」
「ええ、兄様、覚悟は出来ています……!」
ディオスクロイ兄妹は互いに何かを受け入れた様子を浮かべると、これまでの最短最速の動きによる攻撃から、わざとキャスターの魔方陣による支援砲撃に晒される箇所へと飛び込みながらの攻撃へと移行する。
「アーク・ザ・フルドライブ!」
「応ともッッ!!」
支援砲撃の数々がセイバーへと放たれ、アークとルシアへと届く前に防がれる。カストロは防御に総てを費やし、ポルクスはそれでも防げぬ攻撃に晒される。
その自己犠牲が功を奏してか、真正面から激突し合うアークへの攻撃が一気に軽減されていく。単独行動スキルによってしぶとく戦線を維持し続けているアークにとってこれ以上ないほどの援護であると言えよう。
キャスターの消耗度合が目に見えてきている。ここからが我慢比べであるというのであれば、消耗をいかに抑えるのかに視点を向けなければならない。ディオスクロイの光速戦闘は既にキャスターによって破られている。アークというアタッカーが来た以上、役割として決して間違っているとは言えない。
人間嫌いのカストロではあるが、ここでキャスターに負けることの方が我慢ならないという思いだけは間違いなく持ち合わせている。キャスターを倒すという目的を遂げることができるのならば、ここでその身を縦にすることすら許容している。
「気持ちは一つだぜ、俺達は今、お前を倒すために団結している!!」
「数を揃えなければ、妾を倒す事も出来ぬというだけの癖に、生意気であるぞ、人の子らよ!」
ここまでキャスターが追い込まれているのも初めてのことだ。後はマスター同士の戦い、そちらがどうなるのかであるが、そちらはキャスターとの戦い以上に予想外の状況が生まれていた。
「うおおおおおおおおおおお!!星脈拝領、憑血接続開始、ここに七星の血を解放する!!」
「愚かしい。貴様の七星の血はただ受け入れるだけのもの。七星の血への適合率が高いだけの肉体など怖れるに足らない。己は最強を打倒したのだからな!」
鋼鉄に身を包んだ男へとレイジは大剣を振りかぶって激突する。七星の魔力が発動しているため、レイジの身体機能も強化されており、決して力負けはしないが、やはり基本的な力の差はカシムに大きく譲ることとなる。
激突激突激突、拳と剣が激突し、どちらも一歩も引かない。レイジはカシムと言う存在が己の肉体をこのような有り様に変えた憎き仇敵であり、カシムは己の勝利に泥を縫った相手として、何があろうともレイジを破壊する気でいる。
何処まで行こうとも、彼らの間に和解はない。どちらかの命を落とすまで続けられることは間違いなく、そうなればやはり不利なのはレイジだ。
何せ、地力が違う、馬力が違う、膂力が違う。あらゆる面で鋼鉄へと変貌しているカシムによって、レイジの攻撃などそれこそ子供遊び程度にしかカシムには感じられない。
「この程度で己に挑んだのか? 最強である己に?度し難い、度し難いぞ、レイジ・オブ・ダスト、貴様はやはり愚か者だ。夢しか見れぬ愚か者だ。己に勝てる道理など欠片もな――――」
「随分饒舌になったな、それとも、それがお前の本性か? いつまでも自分語りばかりをして、そんなに自分が好きなんだったら、鏡の前で喋りかけていろよ、そんな身体になってまで、どこまで女々しいんだ、お前は……!」
「女々しい、バカを言うな。己はお前のような醜悪な無理解者に現実を教えているだけに過ぎない。無駄な激突を何度も何度も行って、貴様のバカの一つ覚えにいつまでも付き合ってはいられないのだ」
「ああ、そうだ、俺も同じ意見だ。お前を倒した先に奴が、星灰狼がいる。お前のような奴は、俺にとっては通過点に過ぎない。悪いがサッサと上がらせてもらうぞ」
「何度も言わせるな。貴様のようなモルモット風情が、己を値踏みするようなことを言うなァァァ!!」
スラスターが噴射し、カシムの鋼鉄の身体が勢いをつけてレイジの下へと飛び込み、拳の一撃がレイジの身体に叩き付けられ、地面にクレーターを生み出すほどの衝撃で、地面に背中から叩き付けられる。
「んがあああああああああああ!!」
背骨がギシギシと音を上げる。内臓に骨が突き刺さったのか、あるいは全身の骨が砕かれたのか、定かではないが、レイジは痛みに咽び泣きそうになるが必死にこらえる。
泣き叫ぶ暇などない、この身がどうなろうとも戦うと決めたのだ。この怒りが、燃え尽きるその瞬間まで怒りを伝えることもできなかった誰かの為に戦うと決めて来たのだから。
(まだ動ける……いや、いつもよりも身体の修復が早い。さっきのスラムの時よりもずっと)
そして、力が湧きあがって来るかのような感覚を覚えている。何がどうなってなのかはわからないが、七星の魔術回路が過去最大の励起を始め、全身に力が漲ってくるような感覚を覚える。
(わからない。何が起こっているのか、また俺の知らない何かが勝手に身体の中で起こっているのかもしれない。何もかもが分からない。だが、それでも……!)
それでも、目の前の憎き相手を倒すことができるのならばそれでいい。今のレイジは後先など考えない。ただ、カシムを倒す事だけを考える。
「馬鹿の一つ覚えのように立ち上がって。愚かしいことこの上ないぞ、ぬぐぅぅぅぅ」
「馬鹿の一つ覚えだからなんだ! 馬鹿でもなけりゃ、お前ら全員を倒すなんてこと考えられないんだよ!!」
カシムの鋼鉄の腕がひしゃげる。大剣が叩き付けられ、咄嗟に腕で防御をしたというのに、その防いだ腕が逆に押し負けたのだ。
「馬鹿な……ぬぐぅぅぅぅ!!」
「どうした、ご自慢の鋼鉄の身体はここまでかッッ!!」
勢いに乗る形でレイジは更なる攻撃を放つ、蛇腹剣の状態へと変わった武器がカシムの鋼鉄の肉体の表面を切り裂き、容易に防御できるはずの鉄が軋みを上げて火花を散らしていく。表面を破壊される、しかも、レイジのような失敗作にカシムからすれば信じがたいことの連続だ。
(何故だ、何故、このような失敗作に己が、最強の己が押される。意味が不明だ、理解できない、何か、何かカラクリがあるはずだ。この決戦場は己の戦場、どんな相手であっても、己が放った七星の魔力を充満させるこの空間の中では―――――――まさか)
「気付いたようだな、カシム・ナジェム、お前が求めた最強の正体が」
地面に這いつくばりながらもロイが、カシムの陥った罠を言及する。カシム自身ですらも気づいていなかった、いいや、気付いていたとしても意図的に気付かぬふりをしていたであろう事実をロイを突きつける。
「お前は確かに俺に勝利をした。それを以てお前の求める最強に至ったのならば、そうだろうさ。だが、それはあくまでも、俺を倒すために果たした最適化だ。
最強になったんじゃない、お前はただ単純にロイ・エーデルフェルトを倒すための研究と実験を続けて来ただけだ。だから、お前は俺を倒せる。だが、それは普遍的な最強を意味しない」
装備も対策も何もかもが、ロイと戦うために用意された代物であり、こうしてレイジと激突をしている最中には、先ほどのロイを圧倒した時ほどの凄まじさが見れない。
これこそが、ロイが思い描いていた絵図だ。高確率で自分が敗北する未来をロイは予見していた。カシムの執念であれば自分を打ち破る時が来ることは遠くないと思っていたからだ。
勿論、ロイとてタダで敗北するつもりはない。カシムが何処までもロイを倒すことに固執すれば、ロイを倒すための最強を目指していく。それはロイを倒すという認識だけで行っているのであれば正解かもしれないが、彼が目指しているのは最強と言う己だ。
誰に対しても等しく強くあれる存在ではあることこそが最強であり、ロイ・エーデルフェルトはまさしくそうした存在だ。流体魔術、魔術回路の数、そして才覚、あらゆるものが彼を最強へと押し上げた。不遇な幼少時代の経験から生まれた聖杯戦争に勝たなければならない義務感も彼を押し上げたと言えるだろう。
しかし、カシムにはそのどれもがない。徹底的な研究と対策を施した結果として、彼はロイに勝利するために、七星の魔力を散布し、全身を七星の魔力でコーティングした。それはロイを相手に、そして多くの魔術師を相手にする分には非常に有効な手立てであったことは間違いない。
ただ1人、七星の魔力を切り裂き、他人の七星の力すらも自分と調和させるその特異体質の持ち主である彼を除けば。
「があああああああああ!! ありえぬ、ありえぬ、何故だ、何故、切り裂ける。己の肉体は魔術の総てを弾く。如何に七星の魔術であろうともそれは例外、己の理論は完璧だ……いや、まさか、まさか、貴様は……喰らっているのか、この周囲に流れる七星の魔力、己が内より放つこの魔力を喰らい、その力で己の魔力による防壁を切り裂いていると!」
「知ったことか!! お前が作った身体だろう!!」
最強であるはずの己が押し込まれていることを理解できないカシムはその理由を求めようとする。総じて彼の推論は正鵠を射ていた。レイジは七星の魔術を破壊することができる七星殺しであり、同時に他人の力や記憶と同化することに類まれなる才覚を持ち合わせている。一つの覚悟を決め、自分自身の人格すらも七星を倒すための道具であると定義したレイジは己の身体を器であると口にした。
その精神性の変化か、周囲に漂うロイの魔術を無力化するために放たれた七星の魔力粒子、それすらも自分の中へと取り込んでいく。
加速度的に溜めこまれていく七星の魔力はカシムの鋼鉄の身体すらも砕くほどの力を魔力ブーストしてレイジに与えてくれている。鋼鉄の肉体に魔力コーティングをしたカシムを相手に流体魔術を自分自身にかけることによって、肉体強化を行ったロイと理論としてはさして変わりはない。
己が施した絶対に問題がないと思われていた状況に陰りが生じる。その陰りを与えているのが、誰でもない自分にとっては路傍の石以下の実験動物風情であったことがカシムの精神を逆なでしていく。
「策に溺れたな、カシム・ナジェム。俺を倒すことにだけ固執し、それ以外の強さを何一つとして追い求めなかったお前の視野の狭さが生み出した結末だよ」
荒ましすぎる執念は時としてその人間の視野を狭くする。もしも、カシムがロイに勝利するのではなく、その鋼鉄の肉体を使って、どんな相手にも太刀打ちできるような武装を備える形での進化を求めていれば、レイジが太刀打ちする隙間すらも与えなかっただろう。
しかし、違う、カシムの進化の方向性はそちらへと向くことが出来なかった。手の届きやすい最強を求めたが故にここで足を掬われる。
「そこだぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐっ、があああああああああああ!!」
レイジの大剣がついに、カシムの身体を捉え、袈裟切りの刃がカシムの肉体を切り裂く。バチバチと火花を散らしながら、自分の肉体が破壊される様にカシムは怒りと同時に困惑、そして自分に迫ってくる確かな死の臭いを覚えてくる。
何故だ、なぜこうなっている。己は最強ではないのか。己こそがこの場の絶対的な覇者ではないのか。どうして、このようなゴミクズの相手をして追い込まれている。
カシムの脳裏に過ってくる疑問符の数々を拭い去れないままに戦闘は続き、その迷いと困惑によって動きが鈍り、モノアイの動きはがむしゃらに、しかし、何一つとして迷いなくカシムを倒す事だけに動いていくレイジを捉える。迷いなど、402との戦いで全て置いてきた。今のレイジに迷いの感情は欠片も存在しない。
「おいおい、何をやっているのだ、我が主よ。貴様は今や願いを叶えた。ここからであろう、これからであろう。なのに、何をてこずっておる。そんな輩はそなたにとっては敵ですらないだろう……!」
「はっ、違ぇよ、キャスター。お前は大きな勘違いをしている。人間の可能性を信奉しているお前らしくもない言葉だ。取るに足らない奴だなんて発想が間違いだ。今のレイジは間違いなく、七星の魔術師たちを倒すために鍛え上げられた刃だ。必ず奴らの首下に喰らいつく。そうした存在に自分を進化させた。分かるだろう、神の頂に手を伸ばし続けたお前ならば!」
「知った風な口を利くでないわ、救世主!!」
「がはぁぁぁぁぁぁ!!」
声を荒げるキャスターの手刀がアークの装甲を破壊し胸板を貫く。既に死に体であるアークにとっては致命傷にも近い状況であるが、アークは口から血を吐きだしながらも、未だに鋼鉄を纏っている左拳でキャスターの顔面へと拳を叩きこむ。
「ぬごおおお!!」
「今ですッ!!」
アークの拳が叩き付けられると、アークの身体が遂に後ろに倒れ、同時に鋼鉄の鎧ともいうべき真体が砕ける。だが、キャスターに完全にトドメを刺したわけではない。
トドメの一撃を放つためにポルクスとカストロが両側面から攻撃を仕掛ける。だが、そこに無数の魔方陣が現れ、彼らの身体に攻撃が直撃し、サーヴァントとしての霊核に致命傷を与えるほどの大砲撃によって全身が血飛沫が飛ぶ。
神霊サーヴァントであったとしても、錬金術師の頂点にまで行きついたキャスターの攻撃が全身に直撃し、防ぎきることはできるわけではない。此処までにもキャスターの攻撃からアークを守るためにその身を盾にし続けてきた二人にとっても、これは致命傷である。
致命傷ではあるが、それでも彼らは攻撃を止めない。怯まない。肉体が全て砕け散ってでも、キャスターへの攻撃を成功させるという覚悟を以て攻撃を叩きつけ、キャスターの身体にX字状の傷が刻み込まれる。
互いに互いを葬り去るために自分の防御すらも忘れて攻撃をし続ける様は、ある種の狂気である。しかし、キャスターは楽しい、この命の奪い合いの一瞬一瞬がとても楽しいのだ。
(傷の痛みが、相手を破壊することこそが、妾に生の実感を与えてくれる。望みなどない、願いなどない。ただ、妾は人としての喜びを覚えたいと思っているのだ。何もかもが出来てしまうからこそ、自分の思い通りにならないことをこそ愛するのだ)
スマートに勝利する方法など幾らでもあった。キャスターの持ちうる力の総てを合理的に扱えば、レイジたち一行は王都につくよりも先にキャスターに敗北していたかもしれない。
だが、それではつまらない。つまらないのだ。せっかく闘うのであれば面白い戦いにしたい。一方通行の強者面をしたところで、わざわざ二度目の生を受けてまで遊ぶようなことではないのだ。
そうした意味で、ここまで何度も何度もキャスターの戯れを乗り越えてきた敵手たちをこそ、キャスターは認め、こうして死と隣り合わせの命のやり取りを嬉々として行っている。ああ、楽しい、この痛みが、この衝撃が、この興奮が、その総てがキャスターに生の実感を与えてくれる。
無痛症のように、相手を砲撃して倒すだけでは何も得られない。何の楽しみも分からない。こうして直接的に肉を切り裂き、骨を砕くからこそ楽しみが得られるのだ。傷つけられても、それを求め続けているからこそ、キャスターは止まらない。合理的な結末など要らない。
「我らは導きの神、進む者たちを照らす導きの星!」
「ならば讃えよ!我らの星を!」
その身に重篤なダメージを与えられながらも、ディオスクロイ兄妹は宝具の使用を敢行する。互いの肉体を破壊し合う愉悦に塗れるキャスターを睨みつけ、既に戦闘能力すらも失ったアークに代わって、トドメの一撃となる攻撃を繰り出す。
「天にて輝く者、導きの星!」
「我らはここに降り立たん!」
一瞬、瞬きのような一瞬のうち無数の攻撃がキャスターを襲う。さながら二人は踊るようにカストロが防御し、防御の一瞬先にはポルクスの斬撃が迫る。ポルクスの攻撃を躱せば、次はカストロの徒手が迫る。どちらにしても変わらない。どちらかの攻撃を避ければ次は別の攻撃が来るだけ。ここまで肉体を削られ、霊核にすらも重篤なダメージを与えられているはずなのに、それでも攻撃が止まらない。
二人を突き動かしているのはマスターへの忠誠心かあるいは神霊としてのプライドか、それともあるいは目の前の対峙している相手にだけは負けたくないという意志の表れなのか。
双子神の絶対的なコンビネーション、どんな場所であろうとも、どんな敵であろうとも、彼らが力を合わせれば、どんな敵であろうとも屠る光速の舞踊がここに完成を果たした。
「「『
決死の連撃、キャスターの肉体を完全に粉砕するために放たれた宝具による閃光の如き攻撃であるが、キャスターはこの期に及んだ自身の目の前に魔力障壁を展開して、その決死の連撃によるダメージをほんの少しでも無力化する。
この攻撃によって完全に勝負を極めたかったディオスクロイ兄妹からすれば、想定外である。
「ここで障壁などと、どこまで我々を虚仮にしおって」
「ダメっ、最後の最後で届かない……ッッ!!」
「くく、ははははははは、見事、見事であったぞ、セイバーよ。お主らの決死の攻撃、あと一歩が足りなかったが、それでも、妾をここまで追い詰めることに成功した。誇るがよい、お主らは錬金の母である妾を相手に此処まで戦う事が出来たのだとな」
「そんな中途半端な称号、誰もいらないんだよ。くれるんだったら最後まで、アンタの敗北まで置き土産にしていきな……」
チャキリと鉄の音がする。ここまでのあらゆる攻撃を乗り越えてきたキャスターを相手に向けられる銃口はそれこそキャスターにとっては予想外の攻撃であった。なんだ、まだ抵抗できたのかと言わんばかりに、十字の傷を受けられ、深手を負った胸元へと銃を突きつけるルシアに対してキャスターは笑って告げる。
「お主が引き金を引く瞬間にお主を殺し尽くすぞ。怖れるのであればそこで寝ておけ」
「馬鹿言え、誰が寝ているか。最後の引き金を引くのは私だ」
引き金が弾かれ、銃口から火花が散らす。同時にルシアの不死身を司っている黄金の指輪が腕ごと粉々に破壊される。
「げほっっっ……がはぁぁぁ!!」
プツリと何か自分の身体の中で大事なものの糸が切れる感覚を覚えた。絶対に手放してはいけない何か、それがプツリときれて、これまではギリギリで保ってきた感覚が喪われる。
(あぁ……そっか、ファブニールがくれた指輪、壊されちゃった……はは、まったく、最後の最後でドジを踏んだな、私、ほんとに冗談抜きで今度こそは死から逃げ出すことができない状況になっちゃった……、
でも、仕方ないか。あそこまで感情をむき出しにしている奴を相手にただ死んだふりをしているだなんてこと出来なかったもん、うん、仕方ないよ……)
キャスターの感情の色は爆発するようにめまぐるしく変化しており、本当の意味で追い詰められていることを理解させる感情の色を放っていた。
攻撃を受ければ受けるほどに極まっていく色、歓喜の表情すらも隠し通す事の出来ない愉悦に染まっていく様子に、これを突破すれば倒すことができると思っていたのだが、現実は早々甘くはない。どんな時にだってヒーローが勝つことができるのであればそれこそ、この世界はもっとましなモノになっているのだろうか、答えは分からない。見えてこないが……、
「残念だが、妾の粘り勝ちと言った所か。貴様らの奮戦、しかとこの胸に刻んだぞ。だが、妾の命を奪うまでには至らなかったな」
身体をふらつかせながら、これまでの余裕の表情など見せることもできずに、ボロボロの姿ではあれども、最後まで立ち上がり続けていた者こそが勝者であるのだとすれば、彼女こそが勝者であることに間違いはない。
セイバー、ライダー、ルシア、その四人を相手取っても最後まで決して崩れることはなかった有り様は、まさしく強者と言わざるを得ないだろう。
彼女は強かった。あまりにも強く、ここまでやっても、倒すことが出来なかった。
「――――いいや、終わりや。そこまで追い込まれたんだが、お前の敗因や、キャスター」
だが、それでも、ここまでに負わされてきた無数のダメージが最後の最後に彼女の判断力を鈍らせた。彼女の思考外から放たれた神風の如き一撃がアウトレンジから彼女を襲った。
「ぬごおおおおおおおおおおおおおお、ふふ、ふははははは、そうか、そうか、貴様のことをすっかり忘れて、おったわ。ああ、口惜しい、悔しいなぁ、まったく、妾は結局、貴様に阻まれるわけか、いや、しかし、それもまた一興――――くく、ふははははははは、それでこそ楽しき人生であると言えるか!!」
全身を風で切り刻まれ、キャスターのうちから生じた炎によって彼女はその身を焼かれていく。此処までに負わされたダメージによって霊核が今度こそ完全に破壊され、キャスターは笑いながらその身を黄金の光の中に呑み込まれていく。
そのあまりにもあっけない結末は、既に彼女自身もルシアたちとの戦いで限界を迎えていたことの証左であるのかもしれない。彼女の闘争心がギリギリで保たせていた最後の糸を断ち切った浄化の炎によって、キャスターの姿は消え去っていく。
「口惜しいのぉ、もっともっと、戦っていたかったぞ。まぁ、だが……まことに貴様ら人間は面白い。こうでなくてはならん、次に呼び出される時はより楽しめるように妾も研鑽を積まねば、な……じゃが、良かろう。満足よ、聖杯ごとき、あとは貴様らの好きにするがいい」
満足し、聖杯のことなど好きにすればいいと言い残して、七星側陣営における最強戦力の一角であったキャスターは遂にその身を消滅させる。しかし、キャスターを消滅させるために求められた犠牲はあまりにも大きかった。
完全勝利などとは決して言えない状況、キャスターと戦った者たちが誰一人として最後まで立ち上がっていることが出来ずに、結末を見届けることが出来なかったことこそが、どれほどキャスターを倒すことが困難であったのかを示していると言ってもいいだろう。
だが、それでも倒した。倒すことが出来た。その意味は大きい。総力戦を以てキャスターを撃破したことで、いよいよもって、七星側陣営のサーヴァントはライダーだけとなる。
「キャスター、バカな、ふざけるな、そんなことがありえるか。貴様が、貴様が敗北するなどと……何をやっている!!」
キャスターの消滅は、カシムにとっても予想外であったのか、声を上げてその事実を受け入れられない様子を浮かべる。身体のあちらこちらを切り裂かれ、バチバチと音を上げる。七星の魔力を散布したことによって、レイジの肉体を爆発的にまで強化させてしまい、その上、自分自身の肉体を守っている七星の魔力はレイジによって寸断され、鋼鉄の肉体としての機能しか果たせない。
それでも備え付けられた武装でなんとか抵抗を試みるが、一秒ごとに七星の魔力を吸収し、反応速度と対応力を高めているレイジに対して、カシムの動きは追いつかなくなってきていた。そこに加えてキャスターの消滅、カシムにとって想定外のことばかりが起こっている。
「自分の目的の為に使っていただけのサーヴァントが消えたことにそこまで拘泥するなよ、俺もお前も自分の目的を遂げられれば聖杯戦争なんてどうでもよかったんだろ。だったら、最後までそれを貫けよ」
「知ったような口を利くなッッ!! 己はあの女に敬意を表していた。身一つで頂点に立った女だ、己の目指すべき到達点であった。それが灰狼との約定の上での撤退ではなく、敗北などと、これでは目指した己が愚かであるようではないか。最強には程遠い!」
「そうか、ここまで付き合ってきたサーヴァントにその程度のことしか言えないことが、お前の器を良く表している。どこまでいっても自分のことばかり、吐き気がするなッ!」
「当然だ、己には七星最強を手にする使命があるのだからッッ!! 邪魔をするな、失敗作!!自分が何をしているのか分かっているのか、許容量以上の過剰摂取、貴様の身体は耐えられない。そのような強化は施していない。貴様の身体は遠からず限界を迎える、無駄死だ、何も残せはしない!」
「ああ――――それがどうした?」
「ぬぐぅぅぅぅぅ」
カシムの言葉など一言で吐き捨てて、レイジの大剣が遂にカシムの鋼鉄の腕を斬り飛ばす。
「星灰狼を倒す、その時間さえ残されていればいい。これは清算だ、お前たちに歪められた俺の人生は、俺の手で取り戻す!! それとも、言葉で動揺させることが最強の戦い方なのかよ?」
「貴様ァァァァァァ!!」
その挑発にカシムは怒り狂い、レイジへとまだ吹き飛ばされていないもう片方の腕で攻撃してくる。
「醜いな、それがお前の本性か」
冷静沈着な知的を装っていたが、結局蓋を開けてみれば、獣のような獰猛さを剥き出しにするカシム、ある意味で言えば彼も憐れな存在であることは言うまでもない。
自らの願いを叶えた矢先に、自分がクズ星であると嘲笑っていた存在に自分の努力の総てを踏みにじられる。最強であると自覚していたことは、ただの研究と対策に過ぎなかった、クズ星相手に全く役に立たず、むしろ、相手を強化して追い込まれるまでの始末になってしまうなどと、これほどの残酷な現実が待っていれば誰であろうとも、怒り狂うことは間違いない。
レイジは大剣を再び構える。身体の中の七星の魔力が振うべき刃の軌道を教えてくれる。何かの知らせがあったわけではないが、決着の一撃を後押しされたように思う。この身体の中に宿っている何かが行けと背中を押してくれたように思えた。
「己は最強だ、才能などなくとも、魔術回路が弱くとも、それでも己は最強であると、それを、それを証明するのだ!!」
「そうか、どうでもいい。お前の所業の報いを受けろッッ!!」
スラスターによって勢いをつけた拳が飛び、レイジはその拳を紙一重で避けて、大剣の刃がカシムの鋼鉄の身体に深々と突き刺さり、その身体を真っ二つに切り裂く。
それは七星の魔力によって与えられた最適な行動と反応速度によって生み出された芸当、鋼鉄の肉体を求めてまで、カシムが欲してもやまなかった、七星の才覚ある魔術師たちが持ち得ていた力に他ならなかった。
七星でありながら、七星の魔術に寄らない強さを追い求めた男はその最後で、自分が挫折した力に屈した。それが、彼にとっては視界に入れる必要もなかった、名前を記憶することすら意味がなかったクズ星相手に為されたということ、それはあまりにも彼にとって残酷な結末であったのかもしれない。
「己は……、己こそが、最強……己は――――誰にも――――負けぬ、負けぬのだ、負ける、わけがな―――――」
最後まで自分自身の強さを口にしながら、敗北すらも受け入れることが出来ずに、モノアイの輝きが喪われていく。愚直に最強を追い求め、しかし、最強の称号を手にすることが出来なかった男は、ロイに討ち取られるのであればそれでも彼は幸福だっただろう。追い求めた夢の半ばで朽ち果てるのだから。
しかし、カシムに与えられたのは、自分が敵ともみなしていない存在に、幸福の絶頂から叩き落されるという仕打ちであった。この瞬間に命を落せたことは、彼にとっては幸福であったのかもしれない。もしも、生き残ってしまったならば、それは彼にとっての地獄の始まりだったのかもしれないのだから。
「終わった……これで、残るのはあと1人……!」
星灰狼を倒すことが出来れば、レイジの復讐は終わりを迎える。ここまでに手に掛けてきた総ての存在に報いるためにもそれをやめるわけにはいかない。
心の中で、誰かが良くやったと囁いたように感じられた。すぐにその気配は無くなるが、レイジには、なんとなくそれが誰だったのかが分かったように思えた。
「当然、だ……俺は、その為に戦っている、んだから……」
脱力感が凄まじい、力を使いすぎたのだろうか、レイジはその場で膝から崩れ落ちる。だが、今はそれが許される。彼はやるべきことをやり遂げたのだから。
――王都ルプス・コローナ――
愛馬は倒れ、地に叩き付けられた。共に戦う愛馬を失い、その強みすらも失ったランサーに此処から逆転するための方法は存在しないといっても過言ではない。
「ランサー……、撤退しよう。ここから、そうすれば、もう一度戦うことだって」
「はは、残念ながら、そのような展開を侵略王が許してくれるはずがないでしょう。我々は敗北した。まずはそれを受け入れなければなりません。此処まで死力を尽くして敗北した以上、もう一度、再起を図ったところで勝利できる可能性はたかが知れていることでしょうし」
ランサー自身もこうして刃を交えて理解できた。侵略王はやはり恐るべき敵だ、この敵を打倒するには、自分では少しばかり力が足らなかった。いいや、サーヴァント同士の実力であれば勝ったかもしれないが、灰狼が用意した人造七星という力は、圧倒的だった。これを用意することが出来た時点で、灰狼の勝利はゆるぎないと言っても過言ではなかったかもしれない。
(私自身の敗北は免れない。しかし、それですべてを諦めるわけにはいかない。私にはまだ、この身体が残っている。消える寸前であったとしても、私にはまだできることが残っている。であれば、最後まで足掻かなければ……)
ヨハンが死の間際でも、リゼの心を救うための言葉を口にしたように、自分も同じように次に繋げなければならない。たとえ、命を失ったとしても、主を守り通すことが出来たのであれば、騎士として最低限の仕事を果たせる。
(ヨハン、君の気持ちが今であればわかる。誰かに託すことの意味も、だから、私も希望を残そう。次へと繋がるための布石を。我が主の勝利を手繰り寄せるために、私は喜んで捨石となろう)
立ち上がるランサーの様子に覇気は見られない。明らかな死に体、このまま放っておいたとしても彼はそのうちに命を落とす事だろう。しかし、その瞳だけは死んでいなかった。何かをする、それが分かるほどに……
「侵略王、貴方は、私の宝具の総てを打ち破って見せると言った。であれば、これより見せる、我が最後の宝具、どうか拝んでもらいたい」
「くっく、ここから戦局を巻き返せるとでも?」
「まさか……、私は既に敗北した身だ、そのようなことができるなどと夢にも思っていない。ただ、主のために最後まで戦うのが騎士だ。故にこそ、どうか、私の最後の宝具に私の総てを費やそう。
どうか、私に力をお貸しください、親愛なるジョン王よ、貴方が残した功績、我らが国の偉大なる礎―――我が第五の宝具『
宝具が発動する。その力が何を意味しているのかを、この場の全員がすぐに理解することになる。そして、その力こそが、この日における聖杯戦争の終わりを意味するものとなった。
キャスター、マジで強かったな。良く倒せたわ。
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