Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤――   作:ソクリ

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最終章『地獄の先に花束を』
第23話「アトラクトライト」①


 微睡む、どこまでもどこまでも心の中、自分と言う存在の奥底の中へと意識が微睡んでいく。しかし、不思議なモノである。そもそも、自分と言う存在は微睡んだ時に果たして誰の意識を共有するのだろうか。

 

 自分自身と言う存在の記憶すらも存在しないというのに、それとも、レイジ・オブ・ダストという存在の短い時間が微睡の中で思い出されるのだろうか……?

 

 そんな愚かしいことを考えながら意識が微睡んでいく中で、レイジはその光景を見た。まるで夢を見ているかのように、他人の記憶を自分が疑似体験しているかのように、とある少年と少女の出会いを追体験していた。

 

 場所はスラムであり、騒乱の中で出会った二人、短い時間でありながら、共に同じ時間を過ごしながら少しずつではあるが、深まっていく二人の絆、それを胸に二人は叶うかどうかも分からない再会を誓い合っていく。

 

 結局、その後に二人は出会う事無く終わってしまう。そこまで記憶が続いていくわけではなかったが、レイジにはそれが本能的に理解できてしまった。

 

 少年が自分の身体の持ち主であり、共にいた少女がリーゼリットであったことはさすがに、彼でもわかる。

 

「あぁ……そういうことか」

 

 これはきっと、この身体の持ち主の記憶、この肉体に残った彼の残滓であるのだと理解した。402号のようにレイジ・オブ・ダストと言う存在を構成する一部として残り続けている彼の残滓が見せている記憶に他ならない。

 

「地獄の先に花を咲かせる……か」

 

 その追体験する記憶の中で、リゼが口にした言葉、それこそが地獄の先に花を咲かせるという言葉だった。

 

 何度も何度もレイジが口にしてきた言葉、402号……アレクセイが口にすることはなかったその言葉は、おそらく他の誰かが口にしていた言葉を借り物のように使っていたであろうことは、レイジも自分の出自を知ったうえで察していたが、その根底にあったものは、リゼの言葉にあり、そしてこの肉体の持ち主がずっと記憶してきたものなのだ。

 

 漠然と認識し続けてきていた自分を取り巻く世界が変わらないことへのいら立ちと変えなければならないという意識、足掻き続ける中で言語化できなかった抽象的な救いの言葉こそが、地獄の先に花を咲かせるという言葉だったのではないだろうか。

 

 魂を失い、何処かの誰かの記憶が放り込まれたとしても、それでもこの身体が覚え続けていた言葉、残滓でしかない心が未だに覚えている光景、それこそがこの肉体の持ち主の源泉、この日の出会いが彼を破滅に導いたのだとしても、彼にとってこの日の出会いは自分の人生の中でかけがえのないものであったことは間違いない。

 

「なぁ、そうだろう。別に俺はあんたにはなれない。俺はレイジ・オブ・ダストだから。この怒りをアイツにぶつけてやることしかできない。ただ、アンタの無念は叩き付けるよ、だってさ、本当は、もう一度、会いたかったんだろ?」

 

 心の中で答えてくれるのかもわからない相手に対してレイジは問いを投げる。この肉体の中に放り込まれた存在であるからこそ分かる。彼はリゼともう一度再会したかった。

 

 彼女と共に手を取り合って、地獄の先に花を咲かせることこそが彼にとっての目標であったはずだから。

 

「あの時、俺がアイツの命を奪うことを躊躇ったのもアンタが、俺を止めたからだろ。俺の意志よりもこの身体が拒絶した、だから、あの時に俺の身体は動かなかった」

 

 自分の中に溶け込んでいるのか、それとも、いまだに自我として残っているのか、この身体の本当の持ち主の意志は時折、レイジの行動によって表面化してきた。

 

 時に自分自身の怒りを発露するためにレイジを助け、時にレイジを諌め、時にレイジの背を押してきた。レイジが力を求める時に与えられてきた七星の力は、人造七星とは思えないほどの出力を発揮した。それも全ては七星の血族であり、忌血としてスラムに捨てられていた彼の根底にある力があればこそであった。

 

「アンタはずっと俺の戦いをこの身体の中から見ていたんだろう? どんな思惑があったにしても、俺はアンタに救われてきた。アンタの存在が俺が道を踏み外すことを防いでいてくれた。だから、誓うよ。アンタの無念も背負っていく。必ずアイツに、星灰狼に怒りと復讐の刃を届かせる。俺たち全員の人生を歪めた代償は必ず奴に支払わせるから……」

 

 だから、どうか、そこで見守っていてほしいとレイジは告げる。顔も形も知らない、どんな奴だったのかも正確には把握していない、だけど、誰よりも身近に存在していた402号とは違う、もう一人の自分に対して。

 

 今更、それで彼が救われるわけではない。402号同様に彼もまた、基本的には手遅れだ。聖杯の奇跡が起こったとしても、今更この身体で彼が復活して総てがなかったことになるなどと言う都合のいいハッピーエンドが起こるとも思えない。所詮は自己満足の世界の話しだ。自分に出来ることはその怒りを叩きつけることだけなのだから。

 

 自分は彼にはなれない。彼を失ったリゼの心を癒すことはできない。彼の代わりにリゼと未来を繋げるなんてこともできない。何よりも、それまで、自分の身体が持つ保証なんてどこにもない。

 

「あともう少しでいい、あと少しだけ持ってくれればいい」

 

 カシムとの戦いでレイジの肉体は既に限界を迎えている。七星の魔力を喰らい、肉体の限界すらも無視して戦ったことによって、肉体の限界は想像以上に速くレイジの身を襲っている。

 

 元から他人の肉体の中に別の人間の魂を入れこむことや人造七星を生み出すためのモルモットとして使われたことで、レイジの肉体自体が限界に近かった。これまではそれでも、なんとか変調が表に出ることもなかったが、総てが明るみに出て、時限爆弾の導火線に火がつけられたように、身体と精神のバランスが狂ってきている。

 

 遠からずにレイジ・オブ・ダストの命の灯は消え去るだろうとレイジ自身も理解しているが、そこに彼は何か未練を覚えるようなことはない。未練を覚えるほどの何かをその身に抱えているわけでもない。ただ燃やし尽くすだけでいい。ここまで共に戦ってきてくれた仲間たちへと自分が捧げることができるのは、この復讐を完遂することだけだ。この復讐を完遂することによって、自分はこの世界に生きた証を残すことができる。

 

 総てを叩きつけ、その果てに役目を終えることができるのならば、七星殺しを完遂するために生み出された存在として十分すぎる。

 

 ――――彼女を頼む。

 

 ふと、耳元にそのような声が聞こえたようにレイジには思えた。それが誰であるのかは聞くまでもない。そして発した言葉の意味を問うまでもない。

 

「ああ、最後まで付き合うさ。他ならぬあんたの頼みだ。無碍にするつもりなんてないよ」

 

 ここまで付き合わせてしまったし、同時に何度も助けられてきた。そんな相手が今だから口にしてきた願いを聞き入れないわけがない。その思いも同時に連れていくのだ。

 

 間もなく訪れるであろう最後の時を迎えるために、いまは目覚めの時を待ち続けていく。

 

――王都ルプス・コローナ・拠点――

「情報を正確に伝えるで、レイジの身体は七星の魔力を無理やりに使い続けたこと、そして、おそらく度重なる肉体改造と魂の剥離化といった人体への悪影響を考慮しない行為によって、細胞の崩壊が始まっとる。このままいけば、あと数日もしないうちに、レイジは目を覚まさなくなるやろうな」

「そ、んな……」

 

 キャスター陣営との戦いを終え、アークとセイバーという頼れる仲間たちが消失した朔姫たちはサーヴァントを失ったリーゼリットを自分たちの仲間に迎え入れた。

 

 残す敵は星灰狼率いるライダー陣営のみであり、ランサーの尽力もあり、人造七星による無限にも等しい回復量は失われている。

 

 自分たちが勝利するための土壌が生まれつつあることは事実であったが、カシムを討ち果たし、自分自身の復讐をまた一つ果たした矢先に、レイジは倒れ、昏睡状態に陥ってしまったのだ。

 

 以前にもスラムにおける戦いで、レイジは深手を負い、意識を失っている状況が生じたが、それはあくまでも回復のために一時的に意識が途切れた状況であった。

 

 しかし、今回のレイジの変化は明らかに違う、魘され、全身の魔術回路が励起し、息を吐き出すたびに、まるで魂そのものを吐き出してしまっているかのような様子である。

 

 誰よりもショックを受けているのは、意外なことにリゼであった。レイジとは敵対していた彼女ではあるが、元々の肉体の持ち主は彼女が自分の生き方を変えるきっかけになったスラムの少年である。

 

 例え、その記憶と意識を失い、レイジ・オブ・ダストという限りなく別人であったとしても、彼にはこの戦いが終わりを迎えた後には静かな余生を過ごしてほしいと思っていた。しかし、それすらも叶わない。たった数日などと、彼に残された時間はあまりにも少なすぎる。

 

「どうして、今までだってずっと苦しんできたじゃん、何の罪もなく、罰を与えられる必要もないのに捕らえられて、戦うことを勝手に決めつけられて、復讐の戦いをさせられて、どうして、レイジ君にはいつだって安らぎがないの? いつもいつも戦って、傷ついて、そのたびに苦しんで……、そんなの酷いよ。本来なら、七星の戦いに巻き込まれる必要もないはずだったのに……」

 

 その残酷な現実に心を痛めているのは桜子も同じだ。思えば桜子はここまでずっとレイジと一緒に歩んできた。あのセレニウム・シルバの戦いで初めてレイジと出会ったのも桜子だったし、これまでに何度も何度も共に戦い、助け合ってきた。

 

 自分は七星の血筋の人間であり、自分でこの聖杯戦争に参加する意思を表明した。しかし、レイジは違う。七星の血を引いていたとしても巻き込まれただけであるし、人格となった少年はまったくの無関係だった。それなのに、残酷な運命を背負わされて、その結果として命を失う状況にあるなんて、あまりにも救いがなさすぎる。

 

『一つだけ、彼の命を救う方法があるよ』

 

 そこで口を開いたのはレイジのサーヴァントであるアヴェンジャーの一人、ユダであった。彼はこの辛気臭い空気を変えるように自身の考えを紡いでいく。

 

『レイジがこのまま命の灯火が消えかかっているのは、僕たちサーヴァントも自覚している。彼と僕たちは繋がりあっているからね。マスターの生命力はそのまま魔力に直結している。これまでのように魔力を使い続ければレイジが命を落とすことは間違いない。

 ただ、その運命は僕の宝具を使えば反転させることができるだろうね』

 

「そっか、因果律逆転宝具のユダの宝具だったら、レイジの命を救うこともできるってことね」

 

『もっとも、まったく代償が存在しないわけじゃないよ。レイジの肉体を今現在蝕んでいるのは、精神と肉体の状況が限りなく剥離しているからだ。僕の宝具を使えば、彼がどんな変化を引き起こすのかもわからないし、危うい状況で戦うことができるようにセッティングされている彼の状況は破綻する。おそらく、星灰狼と戦うこともできなくなるだろうね』

 

『おいおい、貴様本気か。ここまで戦ってきて、あと一歩で奴らの喉元にたどり着く。そんな状況で、小僧の復讐を儂らが諦めさせるというのか!?』

 

 同じくアヴェンジャーの一体であるハンニバルは、ユダの言葉に否定の反応を浮かべる。かつて、古代ローマを追い詰めておきながら、あと一歩のところで、祖国カルタゴの決定によって撤退をするほかなくなってしまったハンニバルにとって、今のレイジが戦う力を失って、復讐を止めることはかつての自分を重ねるに等しいことなのであろう。

 

 命を失ってでも、果たさなければならない誓いというものがある。復讐のためにその人生を費やしたハンニバルと、裏切りの結果として大いなる後悔を覚えて、それが宝具にまで昇華したユダでは物事の受け取り方も大きく変わってくる。

 

『僕は、レイジの末路を見たいと言った。それは彼自身が何を思って、復讐という血塗られた道の先に幸福を求めることができるのかと思ったからだ。その歪な精神構造がどこに行きつくのかという期待からだった。けれど、それは彼自身が歪められたことによって生まれたものだ、その末路に地獄しかないのだとすれば、僕は何も彼に十字架を背負った丘へと昇る道を作るつもりはない』

 

 かつての裏切りの結果、己の主の命を奪う羽目になったユダにとって、このままレイジが戦い続けることは、かつてと同じ愚行を繰り返すことになる。かつてを悔いるのであれば、己の宝具を使うべき時は今を置いてほかにはないだろうと、ユダは考えているのだ。

 

 不思議な沈黙の時間が流れた。レイジのこれまでの駆け抜けるような日々を知っている者たちからすれば、ハンニバルの貫くべきであるという意見も、ユダの目的を失ってでも、ここが退き時であるという言葉もどちらも納得できる言葉であった。

 

 だからこそ、アヴェンジャーとしてレイジのパートナーであり続けたもう一人、ティムールの意見が待たれた。

 

『ティムールよ、貴様はどう思うのだ?』

『これまで、ともに歩んできた君だからこそ、思うところもあるんじゃないかな?』

 

 同じ道を歩んできても、同じ体を共有しても、彼らは常に自分の意志で自分の言葉を紡いでいた。誰が上に立つわけでもなく、それぞれの全力を振るうことで、レイジを支えてきた三人であるからこそ、最後の男の言葉が待たれ、

 

「我は――――レイジの言葉こそがすべてであると思っている」

 

 口にした言葉とともに、ティムールはレイジへと視線を向け、視線を向けた先で、レイジの瞼が動き、彼の意識が戻ってくる。

 

「そう、だ……勝手なこと、をするな。俺の人生は、俺が、決める。どんな末路であろうとも、これは俺が選び続けたことだ、そこに間違いなんてあるはずがない……」

『レイジ……』

 

「レイジ・オブ・ダスト、我らが主よ、我らは最後までその決定に従う。最後まで復讐を貫き通すというのであれば、我らはその力を使うことを惜しみはしない」

 

 アヴェンジャー陣営としての道筋は決まった。たとえ、その先に待ち受けているのが終わりでしかなかったとしても、それこそが自分たちの生き方であると信じている。

 

『まったく、愚かしい判断をするものだね、君たちは、いいよ、最後まで付き合うとも、僕の目的は君の末路を見ることだったんだから』

 

 その初志を貫徹する。そう決め込んだ。ユダも迷いを向けるつもりはない。たとえ、その果てに待ち受けているのが確定した破滅であったとしても、掴むことのできる幸福なんてものがなかったとしても、レイジは最後まで戦い続ける。

 

 それこそが何も持ち合わせていない自分に出来る事であり、為し遂げなければならない本当の使命なのだから。

 

「だが、俺だけでは、あいつら全員を倒すことはできない。俺の倒すべき相手は星灰狼だ。そして、アヴェンジャー、お前たちの倒すべき相手もライダーだ」

 

「無論、草原の覇者であった身として、ハーンを名乗り、侵略王であったあの男を乗り越えることが出来なければここまで戦ってきた意味がない。以前は倒しきることが出来なかったが、此度も同じようにはいかない」

 

「そうだ、俺達は奴らを倒すことに集中する。だから、桜子、ターニャの身体を奪ったあの女の相手は任せたい、頼めるか?」

 

「……うん、任せて。最初からそのつもり」

「スブタイは、必ずこの双槍にかけて、私が打倒します」

 

 桜子はレイジが、素直に自分に助力を向けてきたことに驚きを覚える。これまでのレイジであれば共に戦うことを勝手にしろとかなし崩しの状況の中で共に戦うことを認めるような展開ばかりだったが、今のレイジは自分の弱さと限界を知ったうえで、役割を果たすために桜子へと助力を求めた。

 

 成長だろうか、あるいは、自分の終わりを知っているからこそ、確実に使命を果たすためなのだろうか。どちらなのかはわからないが、その頼られること自体は嬉しかった。レイジの良く末を知っているうえで素直に喜んでいいのかはわからないが、それでも桜子にとってまるで年の離れた弟のように、ずっとここまで旅をしてきたレイジの頼みを断る理由はない。

 

「いいの? ターニャだって、あんたにとっては大事な―――」

「あいつはターニャじゃない。その姿をしているだけだ。ターニャは……、アイツと一緒にもう旅立った。今更、あの女と俺が関わる意味はない。俺の復讐にあの女は最初から無関係だ」

 

 七星桜華は灰狼の妹であったとしても、レイジの身の上に関わったわけではない。ターニャの身体を素体に選ばれて、灰狼に呼び戻されただけの存在。彼女自身が灰狼に突き従っていたとしても、彼女自身には、レイジに対しての悪意を感じ取ることはなかった。

 

 むしろ、ターニャと言う存在を出汁に使うまでもなく、あくまでも七星桜華として生きようとしている以上、もはやレイジとは何の関係もない。

 

 倒すべき相手以外の存在にまで刃を向けるほど、今のレイジは耄碌していない。この怒りを向けるべき相手を間違えてはならないのだ。ターニャとの別れは済ませている。アークがあの場にいてくれたからこそ、あの二人は迷うことなく行き着く場所へと辿り着けるだろう。

 

 正真正銘、レイジが果たすべき復讐はあと1人で幕を終える。

 

「星灰狼は俺が必ず葬る。奴に聖杯を握らせることだけは絶対にさせない。俺は俺の復讐を完遂させる。だから、それ以外のことは、任せるぞ、リーダー」

 

「キッショ、いきなり素直さ発揮すんなや、お前、ウチのことをチビとかガキとかしかいってこなかったやろ」

 

「いまでもチビでガキとは思っている」

「あぁっ!?」

 

「自分のことが全部分かって、ようやく分かってきたこともある。星灰狼を倒すだけではダメだ、本当は俺自身の手で全てに決着をつけたいが、おそらくそれはできない。だから、お前に託す。最後まで見届けるのがリーダーの役割だろ」

 

「いっちょまえの口を聞きおって。お前に言われんでもそのつもりや、他のことなんざ考えられるほど気が利くやつでもなかったやろ、安心して、自分のことにだけ集中しとけや」

 

 レイジ自身も口で説明できることではなかった。しかし、漠然とこの戦いを裏から操っている存在の影を感知することは出来ていた。

 

 自分にアヴェンジャーを与えた存在、星灰狼と同様にこの聖杯戦争を裏から操り、ここに至るまでの総てを生み出し続けてきた存在、セイヴァーとアフラ・マズダを打倒しない限り、この聖杯戦争に終わりは来ない。

 

「おそらくやけど、もうこの聖杯戦争が続くのも早々長くはないと思う。星灰狼にとっても王手のかかった状況でいつまでもウチらを放置しときたくはないやろうし、時間をかければロイが復帰することにもなる。連中にとってもロイがいるかいないかで大きく状況は変わるやろうしな」

 

「すまないな、本当は桜子やレイジの援護をしたいところだが、さすがに深手を負いすぎた。すぐに復帰するのは難しい」

「無理しない方がいいよ、私だってそうなんだ。少し判断を誤ったら命を落とすかもしれないんだから、今は大人しくしておくべきだよ」

 

 同じくキャスター陣営との戦いで指輪を失ったルシアも次の戦いに参加することは難しい。サーヴァントもおらず不死の力を失ってしまったとなれば、戦線復帰は難しいと言えるだろう。

 

「だから、おそらく明日や、明日に総ての決着がつく」

 

 灰狼が宣言をしたわけでもない。こちらがその条件を突きつけたわけでもない。だが、ある種の予感めいたものとして、明日が決戦であることをこの場の誰もが予感していた。

 

「ごめんなさい、皆さん。少しだけでいいです……彼と、レイジ君と二人きりで話をさせてください」

 

 ポツリとリゼがお願いとして口を開いた。ユダの申し出を断った以上、レイジは最後まで突き進んでいくであろうことは間違いない。それがどれ程の末路であったとしても、最後まで苦しみながらも突き進んでいくだろうし、それをリゼが止めることはできない。

 

 ここまで共にレイジと戦い続けてきた仲間たちが止めることができないことを、どうして、リゼが止めることが出来ようか。受け入れた上で、話がしたいというリゼの申し出に桜子は頷き、朔姫へと視線を向ける。

 

「ま、しゃーないか。今更、どうこうする話でもないしな」

 

 リゼの提案を受け入れて、朔姫たちがこの場から離れていく。リゼにとってレイジはヨハンやセルバンテス、散華たち多くの者の仇でもある。しかし、それでも今の二人が憎しみ合って殺しあうような関係ではないことを朔姫や桜子は十分に理解している。

 

 仲間たちが出ていき、二人きりになった部屋の中で、リゼは改めて口を開く。

 

「私は、君に戦ってほしくない。君には生きてほしいと思ってる」

「おかしなことをいうな、アイツを殺した俺をアンタは殺したいと思っていたはずだ」

 

「うん、そうだね、ヨハン君の命を奪ったことは事実だよ。でも……、君の運命を狂わせたのも私だから……、帳消しにはできない。でも、その運命から離すことは必要だって思ってる」

 

 ヨハンは命を奪われる結果になっても、レイジとリゼの和解を求めていた。二人が争いあう結末に救いは絶対に訪れることはないとヨハンは理解していたからこそである。

 

 そのヨハンの言葉にリゼは救われ、ランサーを失う結果になったとしても、こうしてレイジともう一度言葉を交わしあう時を得ることが出来た。

 

「俺が戦わなければ、星灰狼を止める奴はいなくなる。桜子だけでは勝てない」

「うん、分かってるよ。だから、これは私のエゴ……、君の力になりたかったのに、結局何もできなかった私が縋ってしまっている、自分なりの救いだし、それを君が受け取らないことは分かっている。

 だから、せめてお願い――――私も連れて行って。私もこの手でこの国を守りたい。七星による世界の支配なんて間違っていると思うから」

 

 カシムとの戦いを終えた後にも、リゼが口にした共に戦うという言葉を改めて聞かされる。レイジからすれば、戦うのは自分だけでもいい、リゼを守りながら戦うことは間違いなく悪手だ。灰狼相手にそれが出来るとは思えない。

 

 一方で、リゼの能力を考えれば、単純な肉体強化しかできないレイジにとっては感知できる情報が一気に増えることをも意味している。間違いなくレイジにとっては意味がある。

 

 メリットとデメリット、どちらに目を向けるべきなのかと言う問題にはなってくるが、断るほどの理由ではない。

 

 むしろ、レイジがそれを懸念するのは、全く別の理由であった。

 

「わかった。今更、アンタを止めておく理由は俺にはない。アンタを焚き付けたのは俺だからな」

「そうだね、レイジ君に説教されていなければ、星灰狼と戦うことを選ぶことはなかったかもしれないね」

 

「だが、選んだのはアンタだ。アンタが俺の選択を尊重するのなら、俺もアンタの決断を否定はしない。だが、一つだけ約束しろ……、絶対に生き残れ」

「レイジ君……」

 

「あんたはこの国に必要だ。星灰狼の世界征服の野望を否定して、七星としてではなくこの国を導くつもりなら、あんたが死ぬわけにはいかない。この戦いを生き残って、世界を変えていく必要がある」

 

 レイジにそれは出来ない。何処まで行っても彼は所詮、誰でもない、名前すらも存在しない空虚な存在である。

 

 けれど、リゼは違う。この国の女王として世界に働きかけることができる存在だ。レイジとは文字通り命の価値が違う。命の重さに違いはないなんて理想家は口にするかもしれないが、レイジは命の重みに違いがあることを知っている。それを認めた上で、ちっぽけな存在が滅びを受け入れるだけではないことを、これまでも、何度も何度も証明してきた。

 

「この戦いを経験して、闘う決意を固めたのなら、アンタは生き残ってこれからも戦いつづけろ。それが俺が果たす事の出来なかった地獄の先に花を咲かせることに繋がっていくはずなんだ」

 

 何者にもなれない自分では、自分すらも救うことができない。けれど、リゼならば、きっと救うことができる人々が数多くいるハズなのだ。

 

 生き残らなければならないし、生き残らせなければならない。この夜にレイジはそれを誓う。灰狼を倒すだけではいけない。リゼを生き残らせて、復讐を果たす。それまで果たしてこそ、彼の役割は終わりを迎える。

 

「ありがとう、レイジ君。君の覚悟は伝わった。だから、必ず勝とう。私達で絶対に星灰狼とライダーを倒そう」

「ああ……」

 

 語るべきことはもっと山ほどあったのかもしれない。レイジは自分の身体の持ち主がリゼを救った人物であることも理解していたのだから、もっと彼女に語れることはあったはずだ。けれど、あえてレイジはしなかった。

 

 ターニャの身体を使っている七星桜華がターニャでないように、自分もまた彼ではないのだ。命を落とした彼の身体を使っているだけの別人、誰にもなれない器でしかないのだから。

 

 悲しむ必要はない。それを認めた上で、402号の悔恨すらも背負って戦うと決めた時から、レイジは自分の総てを認めている。

 

 そんな二人の会話を扉越しに桜子と朔姫は聞いていた。

 

「みんながみんな、幸せになれるハッピーエンドがあればいいのに」

「現実はそんな甘くないわ。最初から手遅れの奴もおる。それでも、レイジは姫さんだけは救おうとしておる。立派やないか、もう、あいつのことクソガキとは言えんわな」

 

「朔ちゃん………」

「ウチは真逆や、全部、レイジや桜子たちに押し付けとる。自分の目的のために、ずっと誰かを利用し続けとる。ホンマもんのクズがいるのなら、それはきっとウチのことや。姫だってよう付き合ってくれとるわ」

 

 窓の外に見える星空を見つめながら、朔姫は彼女らしからぬ愚痴を吐きだす。黄昏るように、視線の先にある星空へと吸い込まれそうなほど、彼女の横顔はどこか遠くを見ている。

 

「逆だよ、朔ちゃんが一番闘ってる。いつだって必死に、いつだって私達の中の誰よりも、私達の為に戦ってる。ずっと見て来たもん、誰が何を言ったって、私は知っている。今回だって、結局、朔ちゃんに一番大変なことを押しつけてる。だから、朔ちゃんは自分を責めないで、きっと、皆が分かってる。朔ちゃんが誰よりも頑張っていることを」

 

 手を握り、桜子はきっと、他の誰かがいれば絶対に見せないであろう弱い自分にエールを送る。彼女はそんなありふれた慰めなんて求めてはいないかもしれないけれど、今の朔姫にはきっと必要なことだと思うから。

 

 誰だって一生懸命なのだ。必死に頑張って、必死に抗って、それでも現実は辛くて、それでも、それでも、足掻いて足掻いて、そして善きものを見つけようとしている。

 

 それが正しいことであると願って……

 

「ああ、そっか、そういうことなんだね」

「どうした、桜子?」

 

「うん、なんだか、やっと、見つけた気がする。お母さんが、私に託してくれたこと、伝えなくちゃいけないこと……、当たり前だけど、当たり前じゃなかったこと、うん、今ならきっと伝えることができる」

 

「そうか、なら、お前も生き残らなあかんな。お前が本当に闘うべき相手は、七星桜華なんて小物じゃあらへんからな」

「歴代でも最強の七星なんだけど」

 

「埃被った過去の遺物に過ぎんわ。現代の七星の凄さってのを教えたれや! お前はウチが見込んだ七星や。日本からどさくさまぎれで逃げてった奴らなんぞに負けるわけがあらへんわ」

 

 明日、このセプテムで行われる戦いの総てが終わりを迎えるだろう。そして、それは同時に善神アフラ・マズダとの10年越しの決着を意味する。

 

 セイヴァーは言った。桜子には見届け人になってもらわなければならないと。七星桜の娘である桜子こそが、自分の再誕を見届けるに相応しいのだと。

 

「――――望むところだよ、私達の因縁に、私達の物語に答えあわせをしに行こう」

 

――王都ルプス・コローナ・正門前――

 そして夜が明ける。そして、朝日が昇り、今日という日が始まろうとする頃、昨日、キャスター陣営との死闘が行われた王都正門前、そこに揃うべき役者たちは集っていた。

 

「嬉しいわ、遠坂桜子、兄様と我らが王の宿願が果たされる今日という日に貴女という相手と戦うことができるなんて、本当はね、七星散華も私が倒したかったのよ?

なのに、あの娘、あっさりと貴女に倒されてしまうんだもの。だから、あの娘と二人分、私達の悲願を叶えるための前座として、踊ってほしいわ」

 

「そうだね、私にとっても見据えるべき先がある。貴女は私を見つけて数日? それとももっとかな? だけどね、私には10年前からの、ううん、もっと昔からの約束があるの。だから、ここで消えるのは貴方の方。ターニャちゃんの身体は返してもらうわ」

 

「ふふ、素晴らしいわね。ねぇ、スブタイ?」

「ええ、二度も刃を結びあってなお生き残った相手と決着をつけるのだ、昂らないという方が嘘になる」

 

「でしょうね、私もですよ。今日こそは決着を付けましょう、スブタイ」

「望むところだ、アステロパイオス」

 

 遠坂桜子とランサー、七星桜華とスブタイ、七星の女性魔術師として最高峰の実力を持つ者同士として、決着のための戦いを始める。まさしく運命の巡りあわせのように揃った者たちはその行く末を決めるための決着をつけるために武器を握る。

 

 そしてもう一つ、宿命よりもなお濃い因縁によって至った決戦を迎える者たちがいる。

 

「総ては行き着く場所に行き着く。その言葉通りになったな、レイジ・オブ・ダスト、そしてリーゼリット女王」

「ああ、そうだな、そしてお前の行き着く場所は地獄だけだ、星灰狼。カシムの後を追わせてやる」

 

「おや、面白いことを言うね、君にとっては今この場所こそが地獄ではないのかい?」

「そうだ、だが、現実と言う地獄すらもお前には生ぬるい。地獄の最下層まで引き摺り落してやるよ!」

 

「結構、では、我が王よ、最後の戦いを始めるとしましょう。我らの夢の続きを見るために」

 

「然り――――さぁ、アヴェンジャーよ、覚悟は良いな、ハーンを背負うことが出来なかった王よ、我らが草原の民の意思を継いだ男よ、その力を余に見せよ。世界制覇のための最後の障害が同じ草原の民であること、実に素晴らしきかな!!」

「ああ、素晴らしいな。ハーンよ、今、その玉座から引きずりおろしてくれよう」

 

 さぁ、役者は揃った。最後の決戦を始めよう。

 




いよいよ最終決戦ですね、果たしてレイジたちは勝利することができるのか!

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