Fate/Stardust Vendetta―星屑の復讐僤―― 作:ソクリ
「秋津にて行われた聖杯戦争、此度もまた、かの神の復活は阻止された。いや、神自身が復活を拒んだと言ってもいいかもしれない」
「そんな大層な言い方せんでもええやろ、単純に復活するだけの魔力が足りなかったって話しやん?」
「その通りだ。だからこそ、おぞましいのだ。かの善神は復活するだけの魔力さえ存在していれば、いつでもその姿をこの世界に顕現させることができる。これがどれほどおぞましいことであるのかは、朔姫、未熟なお前でもわかるだろう」
10年前、秋津市にて聖杯戦争が執り行われた。勝利したのはエーデルフェルト家の当主、その裏で暗躍していた絶対善神アフラ・マズダのことは魔術世界の中では一部のモノに騒がれるような状態ではあったが、聖杯戦争が開催されたという情報が大きく流れたことによって、まことしなやかに騒がれる程度の所で落ち着いてくれた。
いいや、落ち着かせたと言ってもいいだろう。そのように仕向けたのは、ウチら神祇省であったのだから。
「甦った神は、我ら人の手ではどうしようとも太刀打ちすることはできない。甦る前に何としても対処しなければならないだろう」
人では神に太刀打ちできない。真なる神と呼ばれる存在達はまさしく、人知の及ぶ領域を超えている。どれだけウチらが必死に戦力を揃えたところで、ほんのわずかな行動で全てが灰燼と帰す。サーヴァントに対して聖杯戦争と言うものが機能しているのは、聖杯戦争の領域へと英霊たちを押し込んでいるからである。無数のセーフティーネットを作りこんだうえで戦っているからこそ、儀式としての体を為している所が大きい。それらを失ってしまえば、決して人間は神に対抗することはできない。
たとえ、神が全能ではなかったとしても、限りなく全能に近い神を相手取ることは人間には不可能なのであるから。
「既に、東欧のセプテムにて、かの善神の反応が検知され、高密度の魔力反応も感知した。おそらくは、神の使徒とでもいうべき存在を呼び起こしたのだろう。秋津の聖杯戦争でかの善神が甦ることはなかったが、大きく力を取り戻したであろうことは誰も口が揃えて認めるところであるからな」
「なぁ、そもそも想うんやが、そんな状況やったら、そもそも、ウチらがどんだけ必死になったところで意味がないんとちゃうか? ウチら神祇省がどれだけ必死に戦ったとしても所詮、人間は人間や、神に太刀打ちできないんなら、必死になったところで結果は変わらんわ」
「左様、しかし、我らは神祇省、この日の本で己の復活を目論んでいたような異国の神をそのまま放逐することなど認められはしない。この日の本の魔術師たちを統括する立場である我ら神祇省の沽券に関わる」
結局は沽券とかそういう話になるのかと朔姫はウンザリとする。この10年間、神祇省は徹底的に絶対善神アフラ・マズダの行方を追っていた。秋津の聖杯戦争が終わった後、聖杯の消失と共に、アフラ・マズダそのものであろう強大な魔力反応は消失した。神が消滅したなどと楽観的に考えることができるのであれば、楽な話ではあったが、そう簡単な話しではない。
神は復活のためのステージを変えた、それが神祇省の最終的に下した結論であった。聖杯戦争に置いて、神は復活する可能性の兆しを見せた。しかし、単純に魔力が足りない。「たった七騎」程度の魔力では、アフラ・マズダ復活の燃料としては足りなかったのだ。
その新たなステージとして選ばれたのがセプテム王国、裏では、日本出身の暗殺一族である七星の血を引く者たちと繋がりがあるのではないかと噂されている国家である。
きな臭さで言えば、調べた時点で漂ってくるほどの臭いを感じさせるが、問題は、対処可能な話しであるのかどうかという所である。
正直に言えば手に余る。朔姫は自分が神祇省の中で一番の天才であるという自負があるが、それも結局は人間の範疇の世界であればである。神を調伏しろなどと言われたところで出来る自信はないし、そも、日本から出ていったのなら、それはもう自分たちの範疇を離れた話という認識になるのではないだろうか。
「朔姫―――神祇省の長として命じる。セプテムで開かれる聖杯戦争に参戦し、アフラ・マズダの復活阻止を為し遂げろ」
「言うと思ったわ。せやかて、それはむ――――」
「世界は絶対善神の復活など望んではいない。かつての聖杯戦争に呼び出された存在であるとはいえ、それが未だに復活を為し遂げることが出来ないのは、神の顕現と言う世界そのものへの干渉を、世界自身が拒絶している何よりの証拠であろう。であれば、世界は必ず抑止力を生み出す。神を顕現させることを封じる存在、そのような規格外の存在を呼びだすことができる土壌があるとすれば、それは聖杯戦争を置いて他にはないだろう」
「おい、待てや、本気で言っとるんか? 本気で抑止力の力そのものを、サーヴァントとして呼び出そうとしておるんか!?」
「左様、それこそが我ら神祇省がセプテムの聖杯戦争に参戦する理由だ。抑止力が聖杯戦争に呼び出されたとしても、アフラ・マズダの使徒たちが邪魔をすれば、復活を阻止できなくなる可能性は高い。かの神がただ手をこまねいて、何も準備をしていないなどということは万に一つもないだろう。
導くべきものが必要なのだ、朔姫。聖杯戦争が終わるまで決して顔を覗かせることのない黒幕を追い詰めるための存在が」
なるほどと朔姫は大きくため息をつく。言うなれば監視役であり、黒幕だ。聖杯戦争の参加者として抑止力によって呼び出された対善神用の存在が最後まで聖杯戦争を生き残るように状況をコントロールするための存在、勝利条件は言うなれば最後まで生き残ったうえで、なおかつ善神の復活を阻止すること。
まともに考えれば聖杯戦争に勝利することに加えて、なおかつ最も困難な条件を突きつけられているに等しい。並の魔術師であったとしても勝ち残ることができるのかは不明な聖杯戦争に、更なる追加ルールを加えるなどと正気の沙汰とは思えないが、長の命令である以上、朔姫に拒否権は実質的には存在しえない。
「ウチに死ねと言ってるようなもんやぞ」
「神祇省の次期当主に最もふさわしいお前であれば乗り越えることができるという確信を持っているからこそだ。我々も全力でバックアップをする」
「死ねや、クソジジイ。こんなに褒められて嬉しくなかったんは初めてや!」
自ら死地に飛びこませようとする奴の言う言葉ではないと朔姫は怒りをあらわにするが、やらないとは言わない。言えないと言い換えた方がいいのかもしれないが、命じられた時点で逃げ場はない。
それを拒絶するのならば、朔姫は神祇省の姫として与えられてきた権威や立場の総てを捨てるしかない。名誉も権力も、相応の義務を背負うからこそ与えられる権利なのだ。朔姫にとってもそれを果たさなければならない時がやってきたということである。
「ひとつ条件がある」
「言ってみなさい」
「護衛として、七星……いや、遠坂桜子を同行させたい」
「構わないが、神祇省の中には姫であるお前の護衛としてであれば自ら志願する者ですらいるだろう。それでも、彼女を選ぶ理由は何だね?」
「敵には七星の関係者が間違いなくおる。そういう時に、同じ七星である桜子がいてくれるだけで対応方法は大きく変わってくる。加えて、あいつは魔術師としても一流で、なおかつかつての聖杯戦争の参加者や、下手な神祇省の連中を護衛につけられるくらいなら、桜子一人おる方がよほど安心感があるわ」
「確かに、それは理解できる内容ではあるな、一考しておこう」
実際の所、朔姫としては護衛など誰でもいいと思っていた。別に護衛の質で自分の戦いが変わるわけではない。神祇省が求めているのは、朔姫の陣営が最後まで生き残ること、全員を倒して聖杯戦争を制するという話であれば戦力については、厳選に厳選を重ねなければならないだろうが、こと、最後まで生き残るということだけであれば、そこまで大きな心配をする必要はないと思っていた。
生き残るための術であれば幾らでも思いつく。それが外道の方法であったとしても、命令であればそれを遂行するのが組織と言うものだ。
だから、桜子を選んだのは朔姫なりの私情である、桜子とは10年前の聖杯戦争を終えてから、彼女が神祇省に入って、修行をしていたことでも親交があるし、彼女が聖杯戦争で七星の血をこの世から消し去ることを望んでいたことも知っている。
ある意味で此度の聖杯戦争はその最後の機会ともいえるかもしれない。奇跡へと手を伸ばすことができるかもしれない最後の機会ではあるが、セプテムで行われる以上、彼女には参加の余地がない。その切符を渡すくらいのことは、この嫌な任務を遂行するためのモチベーションとして持ち込んでも良いのではないかと朔姫は考えたのだ。
「んで? ウチは誰を召喚すればええんや? そこまで青写真を描いておるんやから、当然にそこも考えてあるんやろ?」
此処までお膳立てをしているのだから、朔姫自身に英霊を選ばせるようなことはしないだろう。抑止力に選ばれるほどに強力な英霊、それをこちら側から呼び寄せて強制的に縁を確保する。神祇省の老人たちの考えそうなことであり、朔姫としても受け入れることを前提に問いを投げ、老人はあっけらかんと答えた。
「左様、我らが呼び出すは神州における最高峰の英霊、人では神に勝つことができない。ならば、神には神をぶつけるほかあるまい」
神へと仕える者たちによって生み出された組織の長が口にするのはあまりにも不遜が過ぎる言葉ではある、しかし、組織などそんなものだ、人間が運営する組織である以上、絶対に人間が主体になる。アフラ・マズダを擁していたゾロアスターの教えとて同じはずだ。彼らは神の存在など求めていない。神は神であってくれればいい。利己的であるし、信じる者からすれば冒涜的であるが、実際の所はそれ以上のことを求める必要はない。
だが、真に人の手に負えない事態が起きた時には結局のところはこうなる。神に縋らなければ、人では世界を救えない。
そうして、神祇省は英霊召喚の儀式を行った。しかし、それはただの英霊召喚の儀式ではない。前代未聞の神を落し込むための憑代を召喚し、そこに神を封じる。その上で、アフラ・マズダに察知されることを逃れるため、憑代だけの人格を残した上で、神を術式と令呪をもって封じたのだ。
それはすなわち、神霊サーヴァントを召喚しておきながら、その力を封じて憑代だけで戦うことを強制するに等しい。いかに憑代が高名な英霊であったとしても、まともな聖杯戦争の戦い方ではない。召喚された倭姫命は、神祇省のイカれているとしか思えない聖杯戦争の指針を聞かされて、思わず泣き言を口にした。
何せ彼女には、文字通り、神の代わりに戦えという命令が下されたに等しいのだから。
「はええええ、無理です無理です、戦いなんて無理です! 私、ただの巫女なんですよ! 天照様の代わりに戦うなんて、私には無理です! 退去させてくださいぃぃぃ」
「ふっざけんなぁぁぁ、お前を召喚するためにウチらがどんだけ労力と金を費やしたと思ってんねん、お前、日本でも最高峰の巫女なんやろ、その自覚を持てや!」
「そんなの知りません、ていうか、そんなの後の時代の人が勝手に描いただけじゃないですか! なんですか、草薙剣を扱っていたとか、そんなの私、たまたま持っていて預けただけですよ! こんなの捏造ですぅぅ!!」
「おい……、どうすんやこれぇぇぇぇぇ!!」
神祇省の思惑が大きく外れたのは、召喚された倭姫命が、戦闘を拒絶するほどの臆病な性格であったこと、戦う力はある、ステータスを見ても、決して聖杯戦争を勝ち抜けないほど弱いわけではない。むしろ、宝具の性能など考えれば、これ以上の当たりはない。タズミ側の戦力がどのような様相になっているにしても、彼女が本気を出せば朔姫の力と合わさって、決して見劣りするものではない。
紛れもなくスペックだけを考えるのであれば、問題はないが、本人の性格までもを召喚するまでは見極めることができない。何せ、アステロパイオスのように本来は女性であっても伝承の中で男性として扱われているようなケースもあるのだ。
神話に名を残した英霊のすべてが聖杯戦争に向いた存在であるかどうかなど、それこそ召喚してみるまではわからないのだ。よって、倭姫が戦闘に限りなく向かない臆病な性格であったとしても、ありえないという話ではないのだ。彼女はあくまでも天照大神の巫女、戦を生業にしてきた戦士や騎士、あるいは兵士ではないのだから。
「わ、私なんかよりも、もっと適任の英霊がいるはずですよ、もっと、その人を召喚するべきだと思います……」
「何言うとるんねん、お前のような奴をもう一体召喚するような余裕があるわけないやろ、どんだけリソース割いて召喚したと思ってんねん!」
もっとも、そんな怯えているような様子は朔姫にとって、看過できるような状況ではない。神祇省にとっても此度の聖杯戦争は絶対に負けることができない戦い、そのためにこの10年間、準備を続けてきたのだ。
「よぉし、いい案が思いついたで~~」
「ひぃぃ、なんだか、すっごく悪い顔をしているよ、この娘、私よりもちっちゃいのに!」
「黙れェェェェ、ちっちゃい関係ないやろ! おい、ビビり、お前の考えはよぉ、わかった。ウチも鬼やない、戦いたくない言うてるやつを無理やり令呪で縛るようなことはしたくあらへん。これでも、ウチは理解あるマスターやからなぁ」
「じ、じゃあ、戦わずに――――」
「イメチェンや」
「は……?」
「だから、イメチェン! 地味娘が突然、大学デビューして、ギャルになってまうように! 芋くさい女が突然、彼氏ができた瞬間に垢抜けるように、ビビり地味巫女、お前もイメチェンして性格を変えればええんや!!」
「………、え、この人何言ってるの? 頭おかしいんじゃないの?」
サーヴァントや英霊とかそんな超常的な話をしているわけではなく、まともな言動をしていない朔姫の言葉に、キャスターは恐れ戦いたような様子を浮かべる。
「かまへんかまへん、ウチが暗示をかけて、ちょいと性格弄繰り回してやるから大丈夫や。気づいたころにはウチの命令を忠実に聞くワンコになっとるんやよ~」
「そんなの絶対に嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そう、命じられた以上、戦いを放棄するという選択肢は朔姫にはない。参加すると決めた以上、負けたくないし、勝ち残らなければ意味がない。
この臆病な姫巫女を連れて、最後まで聖杯戦争を生き残る。それが自分にとっての役割、誰を騙しても、利用しても最後まで勝ち残らなければならない理由に他ならなかった。
サーヴァントの性格そのものに改編を加えるなんてそれこそ、神も英霊も恐れぬ所業と言われればそれまでだが、必要な行為であったことは言うまでもない。
朔姫が何よりも優先しなければならなかったことは、秘匿、アフラ・マズダに自分のサーヴァントがアフラ・マズダを倒すために呼び出した英霊であるということを知られてしまえば、間違いなく自分たちがターゲットに指定されることだろう。
セプテムが七星の国であったとしても、ここで完全なる復活を目論んでいるアフラ・マズダがどれほどの影響力を握っているのかは相続することも難しい。まったく影響がないということだけはあり得ないということであり、備えておいて損はない。
かくして、朔姫とキャスターは桜子を伴って、聖杯戦争開催の地であるセプテムへと向かった。14体のサーヴァントを召喚しての大規模な聖杯戦争、聞けば聞くほどにアフラ・マズダを復活させるために大規模な聖杯戦争を引き起こしているとしか思えない内容であった。七穂陣営側とそれ以外の陣営、桜子を擁しているとはいえ、桜子は七星一族との関係が良好であるとは言えない。
特に七星宗家は、宗家を差し置いて、聖杯戦争の主役のようにふるまっていた桜子に対して敵対的な感情すらも抱いていることを朔姫も知っていた。
選択肢としては、七星陣営側とは逆の陣営を選ぶことは必然的な選択肢として生じた。朔姫からすれば、別に他のマスターがどうなろうとも構いはしなかった。自分たちが最後まで生き残ることができればいい朔姫にとっては、間違いなく最後まで生き残ることができないであろうタズミが自分たちの頭であったことは渡りに舟である。
ある程度の関係性を残しておいた上で、タズミが脱落したところで、こちら側の陣営を掌握してしまえばいい。可能であれば脱落した陣営のサーヴァントを奪い取って、桜子も聖杯戦争に参加させる。
桜子にとってははた迷惑な話かもしれないが、結果的にそうすることで桜子の生存確率も高めることができる。何もかもを犠牲にしてでも自分たちは生き残らなければならない。聖杯戦争が終わった後にこそ、自分たちの本当の戦いが待っているのだから。
しかし、セレニウム・シルバでの戦いで大きく予定が狂った。リゼが率いる七星側の軍全によって、タズミとジャスティンはあっさりと死亡、そして、アーチャーとバーサーカーもマスターこそ生き残っているものの、消滅する始末。
最初の激突で完膚なきまでに朔姫たち側の陣営は敗北を喫し、立て直しが難しいところにまで追い込まれてしまった。朔姫の予定していたタズミに対して寄生虫のように取り入って、後からというスタンスも、これでは意味をなさない。
そして、七星を強く憎しんでいるレイジ・オブ・ダストの出現が予定変更の決定打となった。レイジの復讐を手助けする形で、七星との戦いへと臨んでいく。誰がそうしようと言ったわけでもないが、結果的に方向性は変わり、朔姫はその一行のリーダーとして選ばれた。ある意味で予定通り、しかし、同時にリーダーとして采配を振るうには朔姫は少しばかり周りに気を遣いすぎた。
言葉尻はどうであれ、彼女はレイジを始めとした仲間のために知恵を絞ることを惜しまなかった。仲間たちも大いに助けられ、キャスターの戦闘回数を最小限にしながらも、なんとか切り抜けることができたのである。
しかし、同時にそれは、仲間たちが朔姫を信頼するという結果に繋がる。朔姫からすれば、もっとドライな関係を求めて生きたいところではあったが、割り切れるようにするには、彼女にとっては深くかかわりすぎた面がある。
その最中で、朔姫にとっては最大の誤算が生じる。スラムにおける戦い、そこでエドワードと朔姫が直面することになったキャスターからの魔法陣攻撃である、
共に居合わせたエドワードとの約束を果たすために朔姫は、これまで決して全力を出すことのなかったキャスターの力をこの時、一回限りとはいえ、侵略王ことライダーへと向けることになった。
本来の冠位にも等しい英霊としての力を封じ、憑代の英霊である倭姫命の力だけで窮地を脱するというある種の賭けは成功したと言えた。ライダーと自分たちの神話、そして歴史的背景を用いた相性による撃退、おそらく、二度目はないであろうという運の良さと仲間たちが駆け付けたことによって辛くもこの危機を乗り越えることが出来た。
自分たちの使命を考えれば、あの時の合理的な回答は仲間たちの無事を確認し、あくまでも後方支援に徹することであったのは言うまでもない。侵略王の宝具を破壊し、撃退に成功する事態を生み出したことは、キャスターがこれまでに召喚された14体の英霊の中でも相当な猛者であることを内外に示す結果となってしまったのだから。
唯一、喜ぶべき誤算があったとすれば、あまりにも相性の上で良好であったことから、侵略王に勝利することが出来たのは、キャスター自身の力と言うよりも、相性の問題であるという認識が強く抱かれたという点であろうか。
もしも、あの時に襲撃をしてきたのが侵略王以外の軍勢であったとすれば、キャスター陣営は勝利することが出来なかった。侵略王にとって、キャスター陣営が手ずから葬らなければならない宿敵の一つ、そのように認識させたこと自体が、アフラ・マズダとの戦いのために召喚された英霊であるという認識を取り下げさせるために有効ではあった。
自分たちの舵取りの方向性に悩む朔姫とキャスターに対して、もう一つ大きな変化が起こる。冠位―――世界によって呼び出された抑止力は決して一つには非ず、朔姫にとっての想定外、それは自分たちの外にもう一体、世界の抑止力によって召喚された英霊がいたということであった。
アーク・ザ・フルドライヴ:英霊ノア、ノアの方舟伝説に代表された人類の救世主とも呼ぶべき存在、この聖杯戦争によって引き起こされる未曽有の災害から人類を救済するために呼び出されたおよそ真なる救世主とも呼べる存在であった。
「俺達が互いに呼び出された目的は明白だろ。お前たちがセイヴァーとアフラ・マズダの復活を阻むために世界に呼び出されたのなら、俺は侵略王という世界そのものを滅ぼしてしまうかもしれない存在へのカウンターだ。アフラ・マズダがどれだけ世界を改変しようとしても、世界そのものを滅ぼそうとしているわけじゃないのなら、災害から人類を救うための存在である俺が召喚されるってのは筋違いだからな」
「確かにそりゃそうかもしれんが……、おそらくやけど、連中、みんな、ウチらの立場を逆やと思っているんやないか? まともに考えれば、ウチらが侵略王の対策のために呼び出されて、お前がアフラ・マズダの対策のために呼び出されたって考える方が分かりやすいやろ」
「おまけに一度は、ライダー陣営を撃退しちゃっているしね、ライダーを撃退するために呼び出されたサーヴァントなんて言われても、姫、あれじゃ、否定できないよ……」
「いいんじゃねぇか、別に。利用できるってのなら、それこそ徹底的に利用してやれば」
その提案をしてきたのは他ならぬアークからであった。
「俺がセイヴァーとアフラ・マズダを止めるために呼び出された冠位の英霊、そしてお前さんたちは侵略王を倒すために呼び出された英霊、そういう風に認識させておきゃ、連中のどちらかの度肝を抜くことが出来るかもしれねぇ。
俺達の正体はいずれは連中に勘付かれる。その時に自分たちを倒しうる可能性がある存在がまだ残っていると思わせることができるかどうかってのは最後の最後で連中にとって思いもよらない想定外になるじゃねぇか」
ライダー陣営もセイヴァ―陣営も最終的に聖杯戦争を利用して自分たちの陣営の願いを叶えることを画策している。その最大の障害はキャスターとアークだ。どちらの陣営が先に動き出すにしても、願いを叶えるために邪魔者を排除しようとするのは理解できる範疇である。しかし、そこでもしも、自分たちが本来排除しなければならない存在ではない相手を排除することによって、天敵がいなくなったと認識させることこそが、相手の喉元に刃を突きつけるうえで一番必要なことではないかと提案したのだ。
「本気か? セイヴァ―陣営は間違いなくお前がアフラ・マズダを倒すために呼び出された英霊だとおもっとる。抑止力が自分たちへの対策のために英霊を呼びだすであろうことくらいは連中にとっては最初から織り込み済みやろうからな、自分でウチらを倒すことにご執心の侵略王に比べりゃ、あいつらは何をしてくるかわからんぞ」
「だろうな、下手をすりゃ、ライダー陣営とも一時的に協力をして、潰しにかかってくるかもしれんが……それならそれでいいじゃねぇか。一網打尽にするいい機会だ。どうせ最後にはやり合わなければいけないのなら、時間の問題だし……共倒れになるよりはどちらかが犠牲になる方がイイだろ!」
最も遵守しなければならないことは世界そのものを守り抜くこと、そのためには侵略王にもアフラ・マズダにも世界を好きにさせてはならず、アークとキャスター、そのどちらもが戦いの半ばで消滅してしまうことこそが、最大の悪手である。
冠位であることが知られているというのであれば、その立場を最大限に利用してやればいい。結果的にその方法が、最後の最後で喉元に刃を突きつけることになる。
どちらが真っ先に狙われるのかを分かったうえで口にした提案に朔姫は歯噛みする。
「立場が逆でこの提案をするんなら理解できるけど、お前、ほんとにそれでええんか?お前にとってのメリット大してないやん? やらなくてええことまで背負う羽目になるぞ?」
「今更だろ、背負わなくていいことまで背負ってるのはお前だって同じだ。俺はな、お前と違って、もう既にやりきった身だ。世界を救うためという名目で呼び出されたから、その為に戦っているが、充分にかつての人生で満足をしている。後の総てはお前たちを含めた、俺の子供たちの為に捧げて然るべきだと思っているんだよ。
だから、細かいことは気にすんな、上手く行きゃ、俺が一人で全部解決してやるよ。それでもやっぱり、無理だったってなれば、その時はお前さんに任せるさ。託す奴がいるからこそ、無茶が出来る。かつてのように自分が一人で人類なんてデカいもんを背負わなくちゃならないわけじゃないってのなら、十分やり切れるさ……」
かつて英霊ノアと呼ばれた存在は、たった一人で神の試練から人々を救い、その後の何もかもが喪われた世界で人類を導く役割を与えられた。
何世代も何世代にも渡って、人々を救い導き、そうして人類がやっと自分たちの足で立ち上がることができると見届けて眠りについた。孤独な闘いの日々であった。多くの怒りをその身に受け、多くの祈りを捧げられた。
その総てが双肩にあたえられた重圧であったとすれば、その重さは想像するのも難しい。その重荷を共に背負うことができる、あるいは、託すことができる存在がいるのであれば、それだけでも十分にアークにとっては救いとなりえる。
「お前たちがいてくれることこそが、俺にとってこの聖杯戦争で一番の救いなんだよ」
アークはそう言って、朔姫とキャスターの正体。そして本来の目的を秘匿するための囮となることを選んだ。
その結果は言うまでもないだろう。セイヴァ―はライダー陣営と共謀して、英霊ノアの排除にかかり、セイバーとジュルメ、そしてキャスターという大きな犠牲を強いても英霊ノアの排除に成功した。
後になって朔姫は思う。もしかしたら、ライダー陣営、いいや、星灰狼は自分たちの正体に勘付いていたのではないだろうか。勘付いていたうえで、自分たちにとっての排除するべき抑止力の遣わした相手であるノアを排除するためにセイヴァーを焚き付けたのではないかと。
ライダー陣営にとって、確かにキャスターが明確な脅威であったことに変わりはないが、灰狼は今日に至るまで明確に手を出してくるようなことはなかった。此処まで常に自分にとって都合の悪い存在を裏で謀殺することを決して厭わなかったあの灰狼がである。そこに何らかの意図が含まれていたとすれば、あえて、ノアを脱落させるための道化を演じていたようにしか思えない。
あるいは侵略王のリベンジしたいという気持ちを汲んだのかもしれないが、こればかりは、灰狼当人にしかわからないし、今更確認のしようもない。星灰狼はレイジ・オブ・ダストによって討ち滅ぼされ、いまや、残るサーヴァントはアステロパイオスとセイヴァー、そして自分たちだけであるのだから。
ようやくここまで来ることが出来た。リーダーとして総てを見届け、そしてここまで来た。到達不可能であると思われるほどの戦力差、それでも、朔姫の仲間たちは死力を尽くしてここに至るまでの道を作り上げてくれた。その結果、朔姫が与えられた命令通りの結果が訪れた。
誰もがきっと朔姫を信頼していたことだろう、自分自身だけが生き残るために采配を振るっていたとしても、きっと、それを恨むようなことを彼らはしないであろうことも容易に想像できる。
「だからこそ、ウチが最後にしくじるわけにはいかんやろ、ゴールまであと一つ、エドワード、ロイ、ルシア、アーク、桜子、レイジ、よぉ、ここまでやってくれた。
安心しろ、お前らの頑張りは無駄にはせん、ウチらの最初で最後の全力で黒幕気取りのクソ神に吼え面かかせたるから……!!」
朔姫の令呪が光を灯す、ルプス・コローナの王宮を中心として世界を侵食しようとする世界法則、聖杯の魔力を無理やりに使うことによって生じる善悪二元論への世界法則書き換えは、セイヴァーの宝具によって発動している以上、セイヴァーを討伐しない限り止まらない。
ならば、問題はない。神は神でなければ打倒できない。セイヴァーが人である限り、何をしようとも最後には神に及ばない。これより振うのは、圧倒的な神の力、ここまで封じて来たからこそ、この一瞬に総てを出すことができる。
「世界法則に干渉することができるのは、同じく神話に足を踏み入れた者、くく、まったく、ああ、してやられたとも。しかし、何故想像できる。冠位に相応しき存在が二人もいるなどと……あぁ、そうか、これが試練か。君たちを乗り越えなければ、我が理想の善たる世界は生み出されないと」
『さすがだね、神祇省、伊達に私が秋津で封印をされてから、長らく私を追い続けて来ただけのことはある。ザラスシュトラ、やれるね?』
「無論、この身は神と人の物語を紡いだものなればこそ。異なる神話体系の神であろうとも、必ずや」
流れ出す世界法則を押し留めるように展開した、セプテムを覆う闇夜、それはかつて、日本神話における無明の闇を思い出させる。太陽神が岩戸に隠れたことによって、世界に無明の闇を齎し、その岩戸が開くことによって、世界は再び光の世界を取り戻すことが出来た。
これが善神という光を甦らせるための戦いであるとすれば、相応しき戦いであると言えよう。この覆われた病みを晴らして、世界に神の世界を流れ出す事こそがこの聖杯戦争最後の締めくくりとなろう。
「神よ、至らぬ我が身に力をお貸しください」
『ああ、侵略王が相手でなかったことは意外だが、相手にとって不足はないだろう』
セイヴァー、そして復活を目の前としたアフラ・マズダは自分たちを阻む最後の関門を越えるためにその力を顕現させる。侵略王と言う闘うべき相手が消え去ったが、その代わりと言ってもいいであろう相手、いや、ある意味ではそれ以上か。何せ、これこそが日ノ本神話体系における頂点、神州を生み出せし太陽神に他ならぬのだから。
「神祇省封印術式解放―――――我がサーヴァント、倭姫命改めて―――太陽神天照をここに降臨させん!!」
抑止力のバックアップを受ける形によって、召喚された最後の決戦存在、神祇省によって意図的に封じられた存在は、今やその力を全開放させて、セイヴァーの前に降臨する。
金髪の擬態を解き、束ねていた黒髪が解けると、倭姫命の瞳に灯が宿る。そして、その身に黄金色の装束を纏った巫女服へと転じた彼女は天へと浮かび、闇夜の中でただ一つ世界を照らす光のように存在していた。
太陽神天照―――日本神話における最高神、召喚をしているだけでも魔力が奪われていき、この決戦に備えてセプテムへと入り込んでいた神祇省の精鋭たち数十人が魔力のバックアップを行わなければ、即座に魔力切れを引き起こすほどの存在が憑代の中へと移しこまれて、ここに顕現を果たした。
「八代朔姫、この身体の中で事情は既に理解しています。我が巫女が世話になりました。この身はほんの一時だけ、この世界に存在することを許された仮初の存在、されど、貴方の願いを叶えましょう。この広がりゆく混沌の世界を押し留める役目を、果たします」
「応、頼むで、神様だろうとなんだろうと、今はウチのサーヴァント、ウチらは此処まで来るために多くの代償を支払ってきた。それに見合うだけの活躍はしてもらうで!」
神に対しても不遜な態度は崩さない。此処まで犠牲にしてきた総てに報いるために絶対に勝利をもぎ取らなければならない。そのためにこれまで総てを見届けて来たのだから。
その手に式神の符を握り、朔姫はあのスラムでの戦いの時以来、決して見せてこなかった面持ちを浮かべる。彼女にとっての戦闘態勢、勝利を掴まんとする心の動きと身体を重ねる。
セプテムにおける聖杯戦争、その実質的な最終戦、神と神、世界を懸けた戦い、その雌雄を決する時が来た。
【CLASS】セイヴァー
【マスター】
【真名】ザラスシュトラ
【性別】男性
【身長・体重】190cm/70kg
【属性】混沌・善
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷C
魔力A 幸運A+ 宝具A
【クラス別スキル】
救世者B
数多の人を救った事を表すスキル。
セイヴァーはこの世全ての善と悪の闘争を語り、人々を導いた。
【固有スキル】
対神性B
神性を持つ者を相手にした際、そのパラメータをダウンさせる。
Bランクの場合、英雄であれば2ランク、反英雄であれば1ランク低下する。
神の選別者:EX
数多に存在した神を選別し、ただ一人の神を最高の存在に値すると定めた、一神教
の原典となる開祖の力。
神の如き存在にも己の力が効力を発揮する。
無辜の怪物:C
人々の認識によって付与された後天的なスキル。ニーチェの著書によって刻まれた
本来の彼とは異なる超人としての彼を定義するスキルである。
【宝具】
第一宝具
『ツァラトゥストラはかく語りき』
ランク:B+ 対人宝具
哲学者フリードリヒ・ニーチェ著作におけるザラスシュトラの同一存在、ツァラトゥストラの存在、そしてニーチェが記した超人思想と永劫回帰に端を発した宝具。
古代ギリシア以降に全世界に蔓延っていた"神"という思想の後ろ盾を破壊し、人の思考のパラダイムシフトを引き起こしたともいえる宝具であり、ザラスシュトラの周囲に存在する者たちに際限のない同一行動を強制する。
効果自体はザラスシュトラの魔力に応じた領域のみに限定されるが、神性を持ち得る者には通常以上の効力を発揮する。これを破るには確固たる自我を持ち絵、己の法理で世界を塗りつぶすほどの強烈な意志力が必要となる。
第二宝具
『『万物流転――善悪二元論(アヴェスター)』
ランク:EX 対界宝具
神話であり、神の賞讃であり、呪文書である長大な経典。
大きく5つに分けられ、さらに無数の章に分けられる。これらは個別でも宝具として十分すぎる機能を持つ。
「儀式によって神を呼び出し偉大な奇跡を巻き起こす」「あらゆる厄を清め回復させる」といった、無数の使い道がある。
ただ基本的には、ゾロアスター教とそれに影響された宗教等の根底である本書に記された祈祷文を通し、様々な魔術行使をより強力にするために使用される。
作中では、聖杯のバックアップを受ける形で、アヴェスターの神話世界を再現し、その中に存在する神話的存在の力を行使することができるようになっている。