パッシブスキル『スーパーアーマー』を手に入れた我氏、いつの間にか龍騎士団の長になってました   作:サンサソー

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惨劇の悪夢

「ふざけるな!もう一度言ってみろ!!」

 

 怒鳴り声が立派な屋敷の中に響く。それを発したのは豪華な服や装飾に身を包んだ肥えた男。

 

 アライワ・オーダム。マヌカンドラ帝国の男爵位を持つ、数多くの中級魔法を操る貴族である。

 

 その声を浴びる部下は震えながらも、再び事の次第を報告した。

 

「雇いました殺し屋、そして他の貴族様たちお抱えの暗殺者が……全滅いたしました…!」

「そんな…バカなことがあるか!!あの、殺しのプロフェッショナルたちが、なぜ全滅などするのだ!」

「それが、報告によりますと運悪く強大かつ凶暴な魔物にでくわし、そのまま殺されてしまったと……」

「誰だ!そんなデタラメを言うやつは!?あの森にはウルフホーンのネームド『シリュー』しか危惧すべき魔物はいないはずだ!だが、ウルフホーンなどヤツらであれば対処できるはずだろう!!」

「しかし、現場に残されたものは明らかにウルフホーンとは全く別だと判断されており、その……熊型の魔物であるとの指摘を受けました」

「く…熊型だと!?」

 

 アライワは酷く驚いた様子で椅子に腰掛けた。それもそうだ、熊型は子供でも下級上段の実力を持つ。大抵の種は中級中段から上段に位置し、好戦的で凶暴という危険な種なのだ。

 

「……………」

「ひとまず、これは陛下に報告しましょう。騎士団が出るべき案件です!」

「いや、そんなことをすると我々の行動が明るみに出てしまう。いかに小貴族とはいえ、エンドリー家が陛下に訴えてしまっては面倒なことになる」

「で…では……」

「……私自らが行く」

「なっ!?なりません!男爵様が直々に行くなど、危険すぎます!」

「うるさい!早く私兵を用意しろ!上手く行けば武勲が手に入るぞ!」

「は…ははぁ!」

 

 部下が部屋を出ていく。アライワはため息をつき、窓の外を見やった。

 

「魔物はまだどうでもいい。だが、ドラングル・エンドリーよ、貴様のせいで我が息子が騎士団に捕まったのだ。その落とし前はキッチリとつけさせてもらうぞ!」

 

 アライワが執拗にドラングルを狙う理由、それは彼が【スーパーアーマー】を手に入れることになった事件、それを起こした子供の1人が男爵の一人息子だったのだ。

 

 つまりは逆恨み。彼からしてみれば、自分のために健気にも動いてくれた可愛い息子が、エンドリー家の''なりそこない''ごときのせいで騎士団に捕まり、外聞も何もかもを落とされたことに納得がいかない。

 

 息子は悪くない、全てはドラングルが悪いのだと、彼は信じて疑っていなかった。

 

「覚悟しておけよ…!」

 

 決行は夜。ニヤリと笑いながら、アライワは椅子から立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━月がだいぶ昇ったころ。

 

 森の前には数十人の雇われ兵と僅かな騎士、そして十数人の殺し屋が揃っていた。

 

 実は他にも暗殺者と偵察兵がいたのだが、先に森へと入り調査を始めている。熊型の魔物とドラングルの居場所を先に割り出しておくためだ。

 

「いいか!兵どもは魔物の討伐に当たれ!騎士と殺し屋どもは私とともに、にっくき''なりそこない''めを討つ!よいな!?」

『ははっ!』

 

 やがて偵察兵と暗殺者が帰還した。アライワは先に暗殺者を派遣し、その後を追うように進んで行った。

 

 本来であれば、アライワは森を歩き先頭ができるほどの体力は持ち合わせていない。そもそもアライワは貴族だ。進軍するならば中心に位置し、騎士や配下に守られながら進むべきだというのに、アライワは先頭に立ち、ズンズンと森の中を進んでいく。息切れも起こさず、ただ私怨と武勲のために歩き続ける。

 

 そうして歩くこと約1時間、アライワたちは異変を感じ始めた。先程までうるさく鳴いていた虫の音が聞こえない。しんと静まり返った森の中、自分たちの歩く音だけが響いている。

 

 虫たちが音を出すのをやめただけなら、そういったこともあるだろうと…虫の気まぐれだろうと思うことも出来た。しかし、異変はそれだけでは終わらなかったなかった。

 

「……何か臭うな?」

「なんでしょう…かなりキツい……」

 

 異臭は進むたびに強くなり、ついには鼻をつまむ者まで出てきた。片手が塞がっては、とっさのことに反応できないとアライワと騎士たちは必死に耐えていた。

 

 顔をしかめ、しかし注意は欠かさずに進む。と、殺し屋の1人が何かを踏んだ。

 

「あ?……っ!!!???」

「ん…?おい、どうし……っ!?」

 

 隣にいた同業者が声をかけ、目を見開いている殺し屋の目線の先を見てみると、そこにはちぎれた腕が転がっていた。

 

「だ、だっ男爵様!ここに腕が!」

「なんだと!?」

 

 すぐさま1人の騎士が確認しに駆け寄ってくる。腕には黒い布と刺青があった。騎士は目を見開くと、すぐさまアライワの元へと戻った。

 

「男爵様、あの腕はさきほど送り込んだ暗殺者たちのものかと」

「なにぃ!?魔物にでもやられたのか……いや、あのものたちはホーンウルフ程度に不覚をとっても腕を取られるような傷は負わん。まさか……あの''なりそこない''がやったとでも!?」

 

 まだ成人もしていない少年にそんなことが出来るはずはない。だが、噂に聞いた中級魔法の直撃を受けてなんでもないかのように出てきたヤツだ。もしかすると……アライワがそう考えていた時、突如茂みが揺れる。

 

「っ!?」

「戦闘態勢!男爵様を守れ!」

 

 騎士たちがアライワを囲み、殺し屋たちが茂みへと1歩1歩と近づいていく。先頭の男があと数歩の所まで足を踏み出して━━━━

 

 

 

 

 

 

「最近はよく獲物が来るなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 強風が吹き荒れる。アライワと騎士たちは何とか踏みとどまったが、至近距離で浴びた殺し屋たちは宙に舞い、次の瞬間にはバラバラに引き裂かれていた。

 

「な……いったい何が起こって…」

「男爵様、今すぐお逃げください!ここは我リャッ!!」

 

 アライワへ進言していた騎士が弾かれたように吹き飛ぶ。次々と騎士たちが何かに吹き飛ばされ、鎧ごとその身をひしゃげ絶命した。

 

「あ…ああ……」

 

 アライワは腰がぬけ、その場に座り込んでしまう。あまりの衝撃に全身を震わせ、涙をも流していた。

 

 ふと月の光が遮られる。この惨状を生み出した怪物は、恐怖に顔を歪めるアライワへと笑みを浮かべた。

 

「他のヤツらとは違って上質な魔法力だな……決めた。お前はオレのオモチャにしてやる」

「ヒ…ヒィイイッ!」

 

 紫の短い髪から赤い目がアライワを射抜く。アライワはとうとう失禁し、口から泡を出しながら意識を失った。

 


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