パッシブスキル『スーパーアーマー』を手に入れた我氏、いつの間にか龍騎士団の長になってました   作:サンサソー

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控え室の騒動

 ギアルトリア魔闘会当日。

 

 俺は『帝国闘技場』と呼ばれる、居住区の中心にある施設に来ていた。

 

 両親と使用人たち、そしてクロエとカムイは特別区専用の部屋にいる。

 俺は魔闘会に参加しているため選手控え室にて武器の手入れをしている。

 

 ゲントから渡された三本の特大剣。それぞれが重さや大きさ、斬れ味が違った。

 

 三本の中で一番大きく重い一振りは、斬れ味はほとんど無い。

 

 二番目に大きい一振りが、一番軽く斬れ味は程々。

 

 一番小さい一振りは斬れ味が鋭く、しかし少々太いため重さは中々。

 

 俺はスキルも使いながら、あらゆる体勢で、あらゆる角度で振ってみたり鍛錬用の藁を切りつけてみた。

 

 その結果、一番重い一振りを選んだ。敵を斬るのではなく叩き潰し、吹き飛ばすことにしたのだ。スキルの効果を合わせれば、しっかりと斬れるし刺さる。欠点をカバーできる俺ならば、この剣は十分に活用できた。

 

 控え室の扉がノックされ、開かれた。係員が顔を出すと、俺へ予定を話し始める。

 

「おはようございます。そろそろ開会式を行いますので参加者共通控え室へと移ってください」

「……わかりました」

 

 腰を上げ、手入れを終わらせた剣をゲントから買った特大剣用取り付け器具に付ける。鉄製のすね当てや肩当てを付けると、参加者共通控え室へと歩き出した。

 

 優勝を奪い合う、ライバルとも言える参加者たち、その顔ぶれを見るために。

 

 

 

 

 

 

 参加者共通控え室。そこには百を超える参加者が集まっていた。

 

「この魔法は……」

「こういう場面は……」

 

 彼らは同じく優勝を狙う者たち。しかし、互いに睨み合い騒ぎを起こす……ことはなく、情報や意見を交わしている。勝つために相手の情報を集めるのはもちろん、戦術や魔法の応用術など学べることが多いのだ。

 

 しかし何事にも例外はあるもの。

 

「おい、見てみろよアレ」

「ん?……おいおい、前年度優勝者と魔闘会覇者が向かい合ってやがる」

 

 魔闘会覇者と呼ばれるのは、立派な魔法のローブを纏った、冷たく鋭い目をした男、ロウ。その二つ名の通り、これまでの魔闘会では幾度も優勝した経験を持つ。

 

 そんな男と向かい合っているのは、前年度魔闘会にてロウを下した、にこやかに笑っている男、ハイ。

 

 この二人はそれぞれ違う表情で互いの顔を見ているが、その目には同じく炎が灯っていた。

 

「ロウさん、今回もよろしくね!」

「よろしくするつもりなどない。そして、貴様に後れを取るつもりもない」

「いいじゃないか〜…今ぐらいは気楽でいようよ。ずっと気を張ってると肝心な時にミスしちゃうからね!」

「………………」

 

 ロウの眼光が鋭くなる。ハイはやれやれと言わんばかりに肩をすくめて見せ、まさに一触即発の空気が漂っていた。

 

「さすがに止めた方が……」

「俺はあの中に入るのはごめんだ」

 

 ロウがローブの中へ、ハイが腰に付けている杖へ手を伸ばしたその時、両者の肩に手が置かれた。

 

「ほ?」

「…?」

 

 ロウとハイが振り向くと、そこには巨大な剣を背負う少年がいた。

 

「え、馬鹿かアイツ!?あの二人に…」

「割って入りやがった!」

 

 周囲が騒然とする中、中心にいる三人は静かだった。少年は肩から手を離すと、ロウとハイへ口を開いた。

 

「……そういったいがみ合いはよそでやれ。邪魔だ」

『!?』

 

 少年から放たれたのは、緊張した空気をものともしない罵倒だった。無論、これには二人も黙っていない。

 

「ちょっとちょっと、勝手に話に割り込んできたと思ったら邪魔だって?」

「邪魔はこちらのセリフだ。貴様が失せろ」

「……なるほど、これが魔闘会覇者と前年度優勝者か。意外と大したことはない」

「「っ!!」」

 

 ロウとハイが杖に手を伸ばすが、杖を取るよりも早く、少年はロウの足を払い転ばせ、ハイの腹に拳を叩き込んだ。

 

 受け身も取れず身体を床に打ち付けたロウと、そこそこの力で殴られたハイはその場で蹲った。

 

 魔法は杖を取り放つまでに時間がかかる。ならば、少年の攻撃が先に両者を打ち据えるのは当然の事だった。

 

 覇者と優勝者が瞬く間に倒された事に、場は静まり返った。

 

「……これに懲りたら、こんな事はやめるんだな」

 

 少年はそう言うと、部屋の隅に座り目を閉じる。何事もなかったかのように瞑想を始めた少年を見て、今回の魔闘会は相当荒れると、参加者たちは悟ったという。

 

 

 

 

 

 

 

(……やらかした)

 

 本人はというと、心の中で猛省していた。

 


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