パッシブスキル『スーパーアーマー』を手に入れた我氏、いつの間にか龍騎士団の長になってました   作:サンサソー

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魔闘会大混乱

 決勝まで上がると言っていたロウが、初戦で敗退。それが堪えたのか、騒然とする控え室の端っこにロウは座っていた。

 

「………………」

「……ロウ、機嫌を治してよ。そろそろ僕の試合があるんだからさ」

「………放っておいてくれ」

「……そのままでいると、貴公の対戦相手が素直に喜べんだろう」

「…あれはいわゆる二重人格。試合後の姿を見ればどのように勝利したのかもわかっていない。そんな者に、私は負けたのだ」

 

 ここまでの落ち込みようは見たことがないと、残っていたトーナメント参加者たちがやいのやいのと騒ぐ。そんな騒々しさを意に介さずロウはどんよりとした空気を纏っている。

 

「……そんなに悔しいか」

「無論だ……」

「……では歯を食いしばることだな」

「…?何を……!?」

 

 俺はロウを掴むと、思い切り投げ飛ばした。飛んでいったロウが何かを吹き飛ばした気もするが、気にしないでおく。

 

「……屈辱だったことはわかる。だが、次の手すら考えず惰性に過ごすならば出て行け。ここに残るメンバーは、早くも己の成長のために試合に集中し試行錯誤しているというのに、なんだその体たらくは」

「………………」

「……ロウ、貴公は確かに魔闘会覇者と呼ばれている。そしてそれだけの実力もある。だが優勝のみを見過ぎだ。目の前の相手を見れん奴が勝ち進めるものか」

「…ああ、そう…だな……」

 

 ロウの言葉を確認した俺は、ロウと衝突してしまった者の元へと行く。ローブで身を包んだ俺よりも小さい少年、『ダークホース』と呼ばれていた子だ。

 

 頭を切ったのか少し血が出ている。俺は懐からハンカチを取り出すと、優しく血を拭った。

 

「……すまない。巻き込んでしまった」

「あ、いえ…大丈夫です……」

 

 少年が立ち上がろうとした時、係員が部屋の中へ入ってきた。

 

「第4試合出場者は速やかに大扉へと集合してください!」

 

「それじゃあ行ってくるよ」

「ああ」

「……油断はしないようにな」

「もちろん」

 

 緊張など感じさせない様子でハイが控え室から出ていく。少年もまた少しふらつきながらも退室して行った。

 

「フンッ、芝居は終わりか?」

「……ああ。これで材料は手に入った」

 

 俺の手には少年の血が付着しているハンカチ。それを懐にしまうと、退室するべく扉へと向かう。

 

「……後はこちらでやる。貴公はもしもの時のために備えておいてくれ」

「さっきは痛かったぞ」

「……この案で行くと賛同したのは貴公だ。その痛みは覚悟の上だろう?」

「釣り合わん。だが……ふむ、その似合わぬ『貴公』という呼び方を変えれば許してやらんでもない」

「……礼を尽くしていたのだがな。協力者をそう呼ぶのも変か。ならばロウと呼ぶことにしよう」

「ああ。気色悪さはこれで無くなった」

「……随分というじゃあないか」

 

 互いに笑ったあと、俺は部屋の外へと足を運ぶ。向かうは特別区観戦席、俺の家族たちの元へ。

 

 

 

 

 

『それでは、第1回戦トーナメント第4試合両名をご紹介させていただきます!大扉側におりますは、前大会にて魔闘会覇者を下し優勝の美を飾った魔術師、ハイ!』

 

 軽く笑みを浮かべながら、身体の節々を伸ばしリラックスするハイ。短杖を取り出し、クルクルと回し始めた。

 

『司会席側におりますは、バトルロワイヤルにて正体不明の炎魔法で参加者たちを薙ぎ払ったダークホース、ルカ!』

 

 少年、ルカはやはり体調が悪そうだ。頭痛がするのか頭を押さえている。

 

『ルカ選手、試合に出るコンディションとはとても思えません!しかし棄権はせず!ハイ選手を下してみせるとリングに上がりました!』

 

「ふ〜ん…」

「う…ぐ……」

 

『それではお待たせしました!トーナメント第4試合、開始!』

 

「まずは小手調べだね。スキル【詠唱短縮】!」

「うっ!?」

 

 魔法名のみで魔法を放てるスキル【詠唱短縮】。それを発動したハイは次々と下級魔法を放つ。少年はバトルロワイヤルに見せた炎魔法を使うでもなく、ただ転げ回ってなんとか避けていった。

 

『ハイ選手の連続攻撃に、ルカ選手反撃できません!魔法を使う様子もない、いったいどうしたのでしょうか!』

 

 その時、下級炎魔法『フレイム』がルカに直撃した。受け身も取れず、ゴロゴロとリング端まで転がって行った。その様子を見て、ハイはとあることに気がついた。

 

「君、スキルを使ってないね?魔法障壁もスキル『魔法防御壁』も、他の防御手段すら使用していない。戦い慣れてないのに、なんで魔闘会に出場してるのさ」

「う…うう……」

 

 ルカは答えず、ゆっくりと立ち上がる。ハイは杖を構えながらもさらに質問を重ねた。

 

「何か出ないといけない理由があるのかな?賞金が目当て?」

「…………」

「それとも、誰かに命令された?」

「っ!?うああああ!!」

 

 何かが導火線に火をつけたのか、バトルロワイヤルの時と同じようにルカが頭を押さえると同時に炎がルカを囲う。

 

『おおーっと、これは!?バトルロワイヤルにて見せたあの大魔法!ルカ選手、奥の手を早くも切りだしたー!』

 

「それそれ。待ってたよ」

 

 ハイもまた魔法力を高めていき、風の属性へと変換していく。やがて風は突風となり、バトルロワイヤルにて猛威を振るった竜巻を形成していく。

 

「さあ、真正面からぶつかり合おうじゃないか!」

 

 上級風魔法『トルネード』

 

 炎がルカへと収束され、爆発が起こる。そのリングを抉る破壊力へ、ハイは巨大な竜巻で対応した。

 

 爆発はそのほとんどが炎の飛び散りと少しの衝撃波。勢いのある炎は風で巻き上げ、衝撃波は突風の勢いに負けた。ルカの決死の一撃は竜巻に取り込まれる結果となった。

 

『正面突破!ルカ選手の炎魔法は、ハイ選手の風魔法の前に敗れましたー!』

 

「あ…そんな……」

「……今ので終わり?他の戦う術がないなら、君はここで終わりだ。対戦ありがとうございました」

 

 ハイが短杖を前にかざすと、竜巻はゆっくりとルカへと迫り……飲み込んだ。防御手段を持たないルカならばすぐに身代わりの札で転移することになるだろう。

 

「もーちょっと手応えがあるかと思ったんだけど……思い違いかな?」

 

 竜巻から目を離し周囲を見渡すハイ。何かしらの妨害があるかという警戒の行動だったが、それがいけなかった。

 

 何かが砕ける音。次いで竜巻の周囲に3つの炎の輪が現れ、順に中心へと収束していく。悪寒を感じたハイはすぐさま魔法障壁を展開しスキル『魔法防御壁』を発動した。

 

 次の瞬間、凄まじい炎の爆発が竜巻を吹き飛ばした。爆発の衝撃による剛風の中、ハイは宙に浮かぶソレを見た。

 

 炎を纏い火を吹いている。黒い岩肌から絶えず溶岩のような液体が流れ出ており、明らかに人のものではない。その翼といい顔といい、まさに凶悪そのものといった風貌だ。

 

「オォォオオオッッ!!」

 

 怪物が咆哮すると同時に赤い波動を放つ。それは瞬く間に帝国闘技場を覆った。

 

「ぐっ、今のは…!?」

 

 ハイが灼熱の熱気に堪えながら立ち上がると、その耳で異音を拾った。出処はなんだと空を見上げたハイは、そこに広がる光景に絶句することになる。

 

「バリアがっ!?」

 

 観客席を守っていたバリアに亀裂が入っていた。割れ目は絶え間なく広がり続け……砕け散る。

 

 少しばかり理解するのに時間を要した観客たちは、次の瞬間には大声を上げ逃げ始めた。バリアが割れたいま、すでに安全は保証されていないのだから。

 

「オオォォォオオオオッッ!!」

 

 怪物の咆哮が恐怖を煽る。闘技場は混乱に包まれたのだった。

 


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