ガンダムSEEDーBF 白い魔王と呼ばれた少年。 作:suryu-
──これは、とある物語の前日譚。
「出たァァァァ! 第六世界大会。やはりこの戦いは、見逃す訳には行かないでしょう!」
鳴り響く歓声。それは、齢も小学生にしか見えない男子一人と、その傍らに立つ少女。そして、対戦相手の、熱き魂を持ちながら、髪をかきあげる高校生に近い少年の二人だけに向けられていた。
「ねぇ、タツヤさん。俺たち、こうして向かい合って戦うのは何回目ですかね?」
「さぁ、分からないね。でも、私たちのガンプラバトルをやる。ということに変わりはないんじゃないか?」
事実、二人はこの大会で見知った顔。と言っても過言ではない。そんな二人は、それぞれガンプラをセットした。そう、戦いの時は来たのだ。
「ユウキ・タツヤ。ザクアメイジング。出る!」
「ヒビキ・レイ。デュアルHi-νガンダム。行くぞ!」
そう、その時間は夢想のように過ぎていく。かつて彼が経験したそれは、遠い記憶の中で──。
■■■
「……朝、か」
朝日が射す時間にていつもの様に起床。いつもの様に机の上を見る。そこに置いてあるのは一つのガンプラ。
手入れは、しっかり昨夜のうちに終えていたようだ。ケースに入れると、紅茶を淹れに行く。それが、いつものルーティンだから。
「おはよう……って言ったって誰も居ないけど」
東京都にかなり近い千葉県。そこに彼は住んでいる。両親は共働きで、お偉いの研究職だ。海外にもよく出向いていることから、顔を合わせる事はあまりない。
愛情がない訳では無いが、仕事も忙しすぎる為、というのと。彼自身のとある理由から、彼だけが日本に住んでいた。
「さて、朝ご飯も食べたことだし、少しばかり動かしに行くかな」
手にしたケースの中に入れた、ガンプラをチラ見。ガンダムSEEDのムラサメをベースに、至る所がデルタプラスを混ぜられた愛機が、きらりと光る。変形機という共通点はあるが、プラモの時代の違いもあり、ミキシングではあまり見ない組み合わせなのは確かだろう。
カラーリングはグレーで、シンプルな見た目に反して作り込まれている。具体的には、変形機構に若干の変更すら見られた。
そんな彼の機体と共に、友人の模型店へと向かうため、靴を履いて外に出る。いつもと同じ、駅への道は様々な事象で有り触れていた。
「さて、今日も行こうかなっと。……SEED見直す時間、今度作ろうかな」
携帯で友人に連絡を終えた彼が、手にしているケースには、ヒビキ・レイと名前が書いてある。彼は、どうやら名前を書いておくスタイルの人間らしい。
デッキケース曰く、十二歳なのだが、身長は百六十四と大きく、グレーのアホ毛付き天然パーマに伊達メガネで隠した思いの外美形である良い顔に、ワイシャツにチノパンにスニーカー。これだけなら普通なのだが、ガンプラケースを持っていると、何故だか風格が溢れてくる。
「あ、ガイアガンダム再販されてる。仕入れようかな。……ん?」
再販の確認をしながら、駅へ着く頃。ヒビキは、必ず出会う少女がいる。その少女は白髪。ツインテール。美少女の三点セットだが、彼はそれを意識したことはない。
幼馴染み。ということもあるが、周りには美少女等も多く、大体感覚麻痺しているということが原因の一つだ。
「おはようございます。レイ君」
「おはよう、ルリ」
少女の名前は、テンカワ・ルリ。当たり前の様にヒビキの隣に来ては共に歩き、駅の中を歩く。
会話はそんなにない。ルリは普段は無口なのだ。だが、ヒビキと二人きりの時はもう少し話すのだが、ともあれその故か周りから高嶺の花ともされている十一歳。そんな彼女がいつも隣にいることに、違和感を覚えたこともまたない。
”三番線。品川行の電車が参ります。黄色い線の内側に立ってお待ち下さい”
東京に向かう、電車のアナウンス。千葉から東京はお金がかかるのではと思うかもしれないが、彼彼女は定期を持っている。二人の両親が渡したのだ。
二人は以前東京の小学校に通っていたが、ルリの父母とヒビキの両親は仲が良く、揃って千葉に夢のマイホームを建てたが為に、二人は転校を余儀なくされた。
が、そのまま友達と会えないのも嫌だろうということから二人は定期を渡されるに至る。親バカがなせる技なのだが、二人はこれに感謝している。
「今日はどんなガンプラなんですか?」
「そうだな。ムラサメをベースにデルタプラスを混ぜ込んだものだよ」
「……なるほど」
ルリとそこから少しばかりガンプラの話をすると着いたのは東京。前までは東京や品川に直通は無かったのだが今となっては当たり前。
そして駅の改札を通り過ぎれば少年がそこに居た。
「待ってたよ! ヒビキ。ルリちゃん」
「どうもセイさん。おはよう」
「おはようございます。セイさん」
彼の名前はイオリ・セイ。イオリ模型店の一人息子でガンプラにおけるビルダーという存在である。
ビルダーとは、ガンプラを組み上げる人……というよりかは、プラモデルを組み上げる人の事を言うのだが、この世界においては、ガンプラ専門に対しての言葉とされている。
そして、セイはそのビルダーにおいてはかなりのものを持っていて、世界に通じるものがあるのだが、本人に自覚はない。
「そういえば、セイさんは地区大会出る事にしたんですよね?」
「うん。ちょっと自分のガンプラでファイトしてくれる人が出来て」
「私、聞きました。レイジさんでしたっけ」
挨拶もたけなわ。歩きながら、彼らの話はガンプラファイトへとシフトする。
ガンプラファイトとは、文字通りガンプラをファイターと呼ばれる存在が戦わせる競技で、ビルダーとファイターの腕が試されるものだ。
完成度が高いガンプラ程に強力な機体となると共に扱いも難しくなる。また、そのガンプラを動かす特別な粒子の扱いを知ればガンダム原作のようなIフィールドを展開することも出来るという裏技があるのは、今は触れない。
さて。そんなこんな話をしながらもイオリ模型店には到着した。イオリ模型店は小規模ながらも様々なガンプラを取り揃え、旧キットすらも扱う良い店とその筋には評判が良い。
また、小さなファイトフィールドも置かれている事から組んだガンプラをすぐに戦わせることも出来るのだ。
「いらっしゃい、ヒビキ君。ルリちゃん!」
「どうも、リン子さん。また来ました」
「今日もレイ君の付き添いです」
イオリ・リン子。イオリ模型店を今現在一人で切り盛りするセイの母親で、美人でもあり性格も良し。それ故にリン子目当てに来る人も多いのだが、彼女は旦那であるイオリ・タケシにゾッコンというのも有名な話。
そのイオリ・タケシは訳あって家にはほとんど居ないのだが、その理由を知るのはとある常連客くらいだろう。
「それじゃあレイ君。早速ガンプラを見せてよ!」
「了解。セイさん。今日はこれさ」
ヒビキの持っているケースから取り出されたガンプラ。冒頭にも紹介したが、再び細かく説明するとしよう。
ヒビキ・レイ。彼はSEEDを基本好んでいる。その為か、ベースはムラサメという量産機。しかし、至る所に改造が見受けられた。
具体的に言うと頭部や至るところががガンダムUCのデルタプラスという先行試作量産機の物になっており、ムラサメながらにデルタプラスのような装備と見た目。さらに可変機構まで搭載されている事から様々な戦況にも対応する事が出来そうだ。
(前)
(後ろ)
十分な戦闘力を持つそのガンプラを見ればセイが疼くのは当然の事。
「おおお……やっぱりすごい。そのガンプラ、動いてる所を見せてよ!」
「勿論。で、そのバトルの相手は?」
「俺が受けるぜ」
セイにちょっとした質問をした所、突如後ろから聞こえた声にヒビキは振り向く。そこには赤い髪をした少年が、拳と掌を合わせて待っていた。
「貴方がレイジさん?」
「おうよ、セイの相棒さ」
レイジという少年の言葉は、なんとなくまだ軽さを感じるが、ヒビキはニヤリと笑う。なんとなく、この人。何かある。
「ならば、見せてもらおうか。レイジくんとセイさんのモビルスーツの性能とやらを」
「へっ、やってやる!」
敢えて声を、似せてまで一言。だが、本来自分の使う言葉ではないな。と脳内で呟いた後には、バトルスペースへと向かう。
「それでは、今回は私は観戦しますね」
「うん、分かったよ。ルリ」
どうやらセイはレイジの方にセコンドに着くようだ。どう攻めようか。頭の中で対策を考えていると、ルリの観戦の意思を聞いた。
幼なじみであるルリは自分のファイトを見ている。その事を胸に秘めつつ彼は笑う。なら、久しぶりにやろうか。と。
”Please setting your GP base!”
機械的な声が響く。セットされたお互いのガンプラのアイが光るとバトルフィールドは宇宙と変わった。
「イオリ・セイ!」
「レイジ。ビルドストライク。行くぜ!」
ビルドストライク。恐らくだがガンダムSEEDのストライクをベースに作られた機体なのだろうと察しつつも彼も口上を述べる事にする。セットされた機体。その名は……
「ムラサメΔ。ヒビキ・レイ。出る!」
勢いよく射出された機体。ムラサメΔは変形機構を生かして戦闘機のような形態となるとその機動力で空を飛びながらビルドストライクを探す。
その左斜め下。およそ三十五度程からビームライフルからビームが放たれるのだが、彼は振り向きもせずにそれを、必要最小限の動きで躱した。虚をつかれた。なんてことはない、日常の一幕だ。
「外したッ!?」
「……思い切りは良し」
驚くレイジに一言。それだけを呟けば、そのままインマンメルターンという航空機道。つまりは、戦闘機の可変状態のまま反転すれば、ビルドストライク相手に突っ込む。
当然ビルドストライクは、回避運動を取る。普通ならばここですれ違うはずだが、ムラサメΔを操るレイは冷静なままだった。
「それではまだまだだ! 行くぞ!」
「はぁ!?」
瞬間。一瞬だけ変形の一部を解除して、また変形し直すという、アニメさながらの無茶苦茶な機動変化をさせる。驚くレイジに、目論見が通じたと思えば、回避した方向へと機首を向けた。
スイッチを切り替え、押し込む。機首の下にあるビーム砲と、翼についているムラサメ特有のミサイルは放たれ、次々とビルドストライクには降り注いだ。
勿論レイジとてタダではやられず幾らかはシールドで守る。それでも、レイはそのまま追随する。これが決め時。と言わんばかりに。
「こいつ、ユウキ・タツヤ並なのか!?」
「気を付けて、レイジ!」
レイジとセイは、それこそ似た実力の人間をつい最近に見た。そのうえで、姿を重ねてしまう。その中で、レイは一つ一つ、イメージを研ぎ澄ませる。その先にあるものは──。
「見えた!」
見えた。その一言は感覚的なものなのだが、レイがそれを使うと特別な意味がある。そうルリは理解しているからこそ、観戦傍目に呟いた。「勝負、ありましたね」と。
「なッ!」
「嘘でしょ!?」
レイジはこの時、ビーム砲で撃たれる事はなく、ビームサーベルで斬られると確信していた。だから、腰のサーベルに手をつけて、居合の要領で振り抜くつもりでいた。が。
だが。レイは、それを見計らっていたかのように寸前で変形を解除して、バーニアで一瞬下がってレイジの居合をふり抜かせる。その後に、自分の腕の横にあるビームサーベルで、一瞬の隙をついて切り裂いた。
「本来俺が使う言葉じゃないけど、あえて言わせてもらおう。モビルスーツの性能の差が、決定的な戦力ではないと」
”Battle end!”
機械音声の一声は、バトルの終わりを告げる。レイジとセイは驚きにより呆けている。
一方でルリは、さも当然と言った様子で目を閉じ微笑んだ。
「当たり前、ですけどね」
ルリの言葉が聞こえたかは分からないが、レイジは負けたにも関わらず、汗を滲ませつつも、不敵な笑みを浮かべている。
対してレイは、自分のガンプラであるムラサメΔを回収すればにこやかに。先程までの冷静な表情を一変させた。
「見事だな、ヒビキ君」
不意に。である。老練な雰囲気を持つ声を聞いてヒビキがそちらを見ると、どこからどう見てもガンダムのとあるキャラを思い出させる人物がそこにはいた。
その、人物とは。
「ラル大尉……」
「ラルさん!?」